2018年6月28日木曜日

ー判例紹介ー 営業秘密を裁判で開示する場合に留意すること

営業秘密に関する訴訟において、その訴訟の過程で営業秘密を開示する可能性が高いかと思います。その場合に留意すべきことがあります。
それは「閲覧制限」です。
裁判の判決文は公にされますので、敢えて言うまでもなく当然かと思いますが。

参考過去ブログ:-判例紹介- 被告の営業秘密を裁判の証拠資料に用いること

では、営業秘密に関する訴訟において当該営業秘密に対して閲覧制限を行わなかったらどのような弊害があるのでしょうか?
そのようなことを示した判例が存在します。
それは、東京地裁平成27年8月27日判決の二重打刻鍵事件です。


本判決では、裁判所は原告が主張する鍵情報の秘密管理性を下記のような理由で認めませんでした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
原告が,平成26年7月30日に本件訴訟を提起した後,口頭弁論の終結日(平成27年5月28日)に至るまで,本件鍵情報と同一内容が記載された訴状別紙「営業秘密目録」記載1につき,民事訴訟法92条1項2号に基づく閲覧等制限の申立てさえせず,その結果,約10か月間にわたって,本件鍵情報が何人も自由に閲覧できる状態に置かれていたこと(同法91条1項参照)も併せ考慮すれば,本件鍵情報に営業秘密性(非公知性,秘密管理性)があると認めることはできない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――

このように、裁判において原告が主張する営業秘密に対して閲覧制限を行わないと、それをもって裁判所が当該営業秘密の秘密管理性や非公知性を認めない可能性があります。
すなわち、原告の裁判手続き如何によっては、原告が営業秘密であると主張する情報の秘密管理性等が認められなくなる場合を示しており、そういった意味で本判決は重要な判決とも思われます。

しかし、営業秘密にこ対して閲覧制限を行うことは、説明するまでもなく当然のことだと思うのですが、なぜこの原告は閲覧制限を行わなかったのでしょうか?
少々不思議です。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月22日金曜日

AI・データの利用に関する契約ガイドライン

先日、経済産業省から「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」が発表されました。

掲載産業省ホームページ:
 「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を策定しました

今国会で成立した不競法改正をも意識したものであると思われますが、長い。
関連資料の「概要資料(PDF形式:697KB)」に目を通して後に、全体版をざっくりと読んだ方がいいのかな?

そして、これをどのように仕事に生かすべきか?
そもそも、弁理士としてそのような機会があるのか?
とはいっても、弁理士法が改正され、弁理士がデータの利活用や規格(JIS 等)の 案の作成に関する相談に応ずる業務を行えることが明文化されますので、ざっくりとでも知識を得た方が当然いいのでしょう。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月20日水曜日

グーグルで「営業秘密」と検索すると・・・

グーグルで「営業秘密」と検索すると、良い時は1ページ目の最後尾あたりにこのブログが現れることに気が付きました。ヤフーでも1ページ目の最後尾あたりに現れる場合があるようです。
「営業秘密」で検索してもこのブログが現れない場合もありますが・・・。そんなときは、ブラウザの更新ボタンを押すと現れたりします。



以前は、グーグル検索で3ページ目に現れる感じでしたが、かなり検索上位に上がってきました。特にSEO対策はしていませんが、時間はかかりますが地道にブログに記事をアップし続けると検索上位になるんですね。

全体のアクセス数が増えている感じはしませんが、グーグルやヤフーの検索からこのブログにたどり着く人が増えてきているようです。
「営業秘密」で検索すると、トップは経済産業省のホームページなので、これを超えるように頑張りますか。

そして、このブログをどう使うか?使えるか?

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月18日月曜日

日産 営業秘密流出で取引先の元従業員を書類送検

先日、日産リーフのフルモデルチェンジ車両を発表前に取引会社元社員が日産工場内で検査中の当該車両を写真撮影し、ツィッターに投稿したとして当該社員が書類送検されたとの報道がありました。

発表前の車両そのものが営業秘密であり、これにより日産の業務を妨害したとの判断の様です。具体的には、営業秘密の保有者である日産に損害を加える目的で、管理侵害行為により営業秘密を取得したとして、不正競争防止法21条1項一号違反でしょうか。

しかし、当然良くは無いものの、いわゆる隠し撮りをツィッターにアップすることで、書類送検になるとは少々驚きです。刑事罰が適用されるためには図利加害目的が要件として必要であるため、ツィッターへのアップが「損害を加える目的」に該当するとの判断のように思えますが、果たしてこの元社員はそこまでの意図があったのでしょうか?


また、日産は営業秘密関連での刑事告訴は私の知る限り3件目です。
日産は2014年と2015年に元社員を刑事告訴しています。
このうち、2014年の事件に関しては東京高裁判決で懲役1年、執行猶予3年となっています。

参考:過去の営業秘密流出事件

私の知る限り、営業秘密に関して一社で複数の刑事告訴を行った企業は日産だけであり、さらにそれが3件というのは、いかに日産が営業秘密の流出に厳しい態度を取っているかの表れかと思います。

しかしながら、裏を返すと過去に2件もの刑事告訴を行っている日産に対して、その取引会社の社員が営業秘密の漏えいをさらに行ったということは、いかに営業秘密の漏えい対策が難しいか、また、営業秘密の漏えい行為が犯罪であるかの浸透が不十分であるかの証でもあるかとも思います。

特に今回の事件は、取引先元従業員が隠し撮りによりツィッターにアップしたものであり、サーバーから営業秘密に関するデータを取得したという事例とは異なります。すなわち、取引先元従業員による内部犯行であるもののアクセス管理等により営業秘密の漏えいを検知できるものではありません。
さらに、今回の事件は、取引先元従業員がツィッターにアップしたことから発覚したのですが、もしこれが他社への情報提供を目的としたものであればおそらく発覚しなかったと思われます。

では、どのようにして隠し撮りのような行為による営業秘密の漏えいをを防止するのか?一つは荷物管理等により、携帯電話等を持ち込ませないというものがあるかと思います
。しかしながら、これは自己申告に頼らざる負えず、隠し撮りを実行しようとしている者は見つからないように携帯電話等を持ち込むでしょう。すなわち自己申告による荷物管理は悪意のある者にとっては意味をなさない可能性があります。

そうであるならば、どうするのか?
私はやはり教育により、営業秘密の漏えいが刑事罰もあり得る相当に高いリスクを有するものであることを周知させることが必要かと思います。
従業員に対しては常日頃の社員教育によりそれを徹底させることができるでしょうが、取引先に対してはこのような社員教育を行うことを条件に取引することや、秘密保持義務を課す場合に書面だけのやり取りではなく、簡単でも良いのでリスクの説明を行うべきではないでしょうか。特に今回のような事例はリスク説明としてはインパクトの強い事例になるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月14日木曜日

営業秘密侵害事犯の警察窓口

営業秘密の漏えいは刑事事件にもなっており、実際に報道等されているだけでも年に何件も逮捕や書類送検されている人がいます。
事件の中には報道されないものもあるでしょうから、刑事事件化されているものは皆さんが思っているよりも多いかと思います。営業秘密のセミナーでは警察関係者が講演する場合もあるのですが、そこではうる覚えですが年20件前後逮捕者が出ているとの説明もありました。

ここで、経済産業省が発行している「秘密情報の保護ハンドブック」の「参考資料3 各種窓口一覧」には、 営業秘密に関する相談窓口等が記載されています。
このなかには、営業秘密の漏えいが生じた場合における各都道府県警の相談先の一覧も含まれています。
この一覧からわかるように、各都道府県警の相談先は「生活安全」、「生活環境」、「生活経済」といった部署になっているようです。


また、IPAが主催した「平成27年7月14日 第3回技術情報防衛シンポジウム」では、「警察における営業秘密侵害事犯捜査」 と題して警察庁の方が講演をされています。
この講演資料がIPAのホームページで開示されています。警察による営業秘密侵害の捜査に関する資料等はあまりなく、参考になるかと思います。

この講演には私も参加したのですが、平成27年改正において営業秘密侵害が非親告罪になったことを受けて説明されていたことは、非親告罪になったからといって、警察が被害企業の意向を無視して独自に捜査することはないとのことです。
営業秘密侵害事件はその捜査に被害企業の協力が不可欠であり、被害企業が事件化を望んでいないにもかかわらず、警察が勝手に捜査することはできないためです。

まあ、当然ですよね。
非親告罪化については、警察権力が云々とのように否定的な意見を述べる人も少なからずいるので、そういった意見に対応したものだと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月11日月曜日

ー判例紹介ー 被告の営業秘密を裁判の証拠資料に用いること

被告の営業秘密を裁判の証拠資料に用いることの是非が裁判所で判断された件がいくつかあります。 過去にもこのブログでそのような判例を紹介したことがあります。 

参考過去ブログ:営業秘密を裁判の証拠資料とすることは”使用”にあたるのか? 

ここで、このような判断がされた別の裁判例を紹介します。
これは、東京地裁平成26年6月20日判決の職務発明対価請求事件です。 事件名のように、「被告の従業員であった原告が,被告に在籍中,被告の業務範囲に属し,かつ原告の職務に属する「選択信号方式の設定方式」に関する発明をし,これの特許を受ける権利を被告に承継させたとして,被告に対し,平成16年法律第79号による改正前の特許法(以下,単に「法」という。)35条3項に基づく相当の対価の一部として,5億円及びこれに対する催告の日の翌日である平成22年5月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める」という事案です。

本事件において被告は、下記のように主張しています(下線は筆者が付したものです。)。
―――――――――――――――――――――――――――
(1)原告が提出した書証のうち,甲6の1ないし3(中略)は,いずれも違法収集証拠であるから,証拠の排除を求める。
(2)上記各書証はいずれも,被告が社内でその原本を秘密情報として管理している文書(以下「本件社内文書」という。)の写しであり,原告が被告在職中に入手したものである。原告は,被告の就業規則(31条:退職者の責任,33条:機密漏洩の禁止)及び企業秘密管理規定(22条:退職・退任時の文書の取付け)などに基づき,被告が秘密裡に管理する文書についての社外への持出し,記載内容の開示,漏洩を禁じられていた。また,原告は,退職に当たり秘密保持誓約書に署名押印し,かつ,業務上作成した文書等を会社に返還した旨の退職者チェックリストを提出した。したがって,原告は,本件社内文書の記載内容について法律上秘密保持義務を負っており,かつ本件社内文書の写しを在職中社外に持ち出すことができず,退職時には被告に対し返還する法律上の義務を負担しているのである。
 よって,上記各書証は,原告がそれを所持し提出することが適法であって,上記義務に反しないことを証明しない限り,違法に所持し又は収集された証拠に当たるから,証拠能力を有しないというべきである。
(3)また,被告は営業秘密を厳重に管理し,従業員に対して秘密保持義務を何重にもわたって課し,退職時にも書類を返還済みであるとの誓約書を提出させて,営業秘密管理の実効性を担保しているにもかかわらず,原告は,書類を全て返還済みであるとの誓約書を提出するという詐術により被告を錯誤に陥れてこれらの書類の返還を免れて社外に持ち出したのであり,このような行為は不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項4号にいう不正競争に該当し,また,証拠収集の方法として社会的に見て相当性を欠くことは明らかである。原告がこのような不当な行為により社外に持ち出した営業秘密に係る文書を,職務発明対価請求のためという大義名分の下,自己の利益を図るために使用する行為は違法であり,不競法において営業秘密の保護が規定されている趣旨を没却する。
―――――――――――――――――――――――――――


これに対して裁判所は、「原告が被告の社内規則や自らの被告に対する書面による明示的な誓約に反して,本件社内文書を被告から持ち出し,あるいは被告に返還せずに,退職後も所持していることは,原告が,被告の従業員として労働契約又は信義則によって負担する,被告に対する法律上及び契約上の義務に違反するものであることは明らかというべきである。」とのように、原告による本件社内文書の所持は被告に対する法律上及び契約上の義務に違反することを認めています。

しかしながら、さらに裁判所は以下のように判断し、被告による証拠排除の申し立てを認めませんでした。
―――――――――――――――――――――――――――
(3)しかしながら,民事訴訟においては,証拠能力の制限に関する一般的な規定は存在せず,訴訟手続を通じた実体的真実の発見及びそれに基づく私権の実現も民事訴訟の重要な目的というべきであるから,訴訟において当事者が提出する証拠が,当事者間の訴訟外の権利義務関係の下で法律上,契約上若しくは信義則上の義務に違反して入手されたものといい得るとしても,それゆえにその訴訟上の証拠能力が直ちに否定されるべきものであるとはいえず,当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて採取されたものであるなど,それを民事訴訟において証拠として用いることが民事訴訟の目的や訴訟上の信義則(民訴法2条参照)に照らして許容し得ないような事情がある場合に限って,当該証拠の証拠能力が否定されると解するのが相当である。
 本件においては,上記のとおり,原告が本件社内文書を持ち出して,退職後も所持していることは,法律上及び契約上の義務に違反するものであって,被告に対する背信行為というべきものであるが,他方で,本件社内文書は,いずれも原告が被告における自己の業務に関連して接することができ,その業務の過程で入手し得たものと考えられること,それら本件社内文書が不競法2条6項に規定する「営業秘密」の成立要件を充たす文書であるか否かは必ずしも明らかでなく,また,原告は上記社内文書を法律上正当な権利の行使である職務発明対価請求訴訟の書証として利用しているにすぎないこと,本件社内文書のような使用者側の保有する特許権のライセンス契約等に関する社内文書は,職務発明対価請求訴訟において,一般的に請求の基礎となる事実関係の解明に重要な書類であり,職務発明対価請求訴訟は,本来企業と従業員若しくは元従業員との間の訴訟であるから,上記のような社内文書においても,閲覧制限の申し立てをし,当事者間で秘密保持契約を締結したりするなどすれば,上記社内文書が不用意に外部に流出することはないにもかかわらず,本件において,被告は上記社内文書等を書証として提出することを拒んでいること,以上の事情をも考慮すると,原告が被告在職中に入手した本件社内文書を本件訴訟において自己の有利な証拠として用いることは,いまだ著しく反社会的なものであるとまで断じることはできず,民事訴訟の目的や訴訟上の信義則に照らしても全く許容し得ないものとまでいうことはできない。
 よって,原告が提出した本件社内文書に係る書証につき証拠能力がないと断ずることはできず,したがって,被告の証拠排除の申立ては理由がない。
―――――――――――――――――――――――――――

このように本判例からは、被告の営業秘密であってとしても、原告が法律上正当な権利の行使である訴訟の書証として利用しするにすぎない場合には、当該書証は証拠能力を有しており、たとえ被告が証拠排除の申し立てをしても認められないと考えられます。
また、自社の営業秘密が訴訟の書証とされる被告側は、必ず当該営業秘密に対して閲覧制限の申し立てを行う必要があります。もし、閲覧制限の申し立てを行わないと当該営業秘密は裁判の証拠として開示されたことをもって、非公知性を失っていると判断される可能性が高いと考えられます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月7日木曜日

ノウハウと特許との関係を図案化

以前のブログにおいてノウハウとノウハウではない情報とを図案化しましたが、今回はこれに特許の要素を加えてみました。

参考過去ブログ記事:どの様な情報が秘匿化できるノウハウとなり得るのか?


上記図のように、公開済みの特許(特許公報、公開特許公報)は、誰でも見ることができるため、企業が有する“ノウハウ”ではなく一般知識であるとも考えられます。(特許権をノウハウと考えることもできるかと思いますが、ここではノウハウとは考えません。)
特許出願された技術は公報によって公知化されますが権利化されれば、当該特許権の権利者は独占排他権を有するため、たとえ公開されたとしても権利者以外は実施できませんし、もし権利者以外が実施した場合には損害賠償請求や差止等の民事的責任を負わせることができます。

ところが、特許権は、基本的に出願から20年が経過するとその権利は消滅します。また、国への年金の支払いを止めた場合も特許権は消滅します。
特許権が消滅すると、当該技術は誰でも自由に実施できる技術(自由技術)となります。

一方で、ノウハウは独占排他権はありません。
従って、同じノウハウを他者が実施していても、基本的にはそれを止めさせたり、損害賠償を請求することはできません。
例外的に、自社のノウハウを秘密保持契約を締結して他者に開示した場合に、当該他社が秘密保持契約に反する行為を行った場合に、契約不履行による損害賠償等の民事的責任を請求できます。さらに、営業秘密であれば、その開示や使用が不法行為であると不正競争防止法に基づいて民事的責任や刑事的責任を負わせることができます。

ところが、ノウハウを秘匿化し続けると、当該ノウハウを他者が真似することはできないため、実質的に当該技術の独占状態を保つことができます。当然、期限の縛りはありません。これがノウハウの秘匿化の最大のメリットです。

しかしながら、ノウハウを秘匿化しても、当該ノウハウが他者の特許権の技術的範囲内のものであれば当然、当該他者の特許権を侵害していることになります。
基本的に、秘匿化されたノウハウは他者に知られることはないので、例えそれが他者の特許権を侵害していたとしてもそれを追及されることはありません。
とは言っても、どこで当該ノウハウが漏れるか分かりません。そのため、秘匿化したノウハウについて先使用権主張の準備を行う企業が近年多くなってきています。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年6月4日月曜日

平成27年不競法改正における経済産業委員会での共産党の誤った意見

先日、本年度不正競争防止法等の改正案が参議院も通過したのですが、共産党等が反対したとこのことを聞いたので、どのような理由で反対したのか調べました。
まあ、参考になるようなことは言ってませんでしたね。

調べている過程で、前回の改正における「平成二十七年七月二日の第189回国会 経済産業委員会 第21号」において、日本共産党の倉林明子議員が以下のような意見を述べているのを見つけました。

「営業秘密流出の背景には、電機産業に代表されるような大規模リストラや、下請事業者の知的財産を親事業者が奪い取るような下請いじめを改めることこそ抑止効果を高めることにつながることを指摘し、反対討論といたします。」

 国会会議録検索システム:経済産業委員会 第21号 平成27年7月2日

この意見から鑑みるに、この議員は「リストラに合われた方や下請けいじめを受けた事業者が営業秘密を流出させる」と考えているようですね。


この意見に私は非常に驚きました。
私は、営業秘密流出の背景は「大規模リストラや、下請事業者の知的財産を親事業者が奪い取るような下請いじめ」ではないと思っています。

営業秘密流出は、企業における内部犯罪が主であり、その動機の一つに会社への不満もあります。しかしながら、会社に対して不満を持っている人は多くおり、営業秘密流出の原因を「リストラ」や「下請けいじめ」と考えることは非常に危険であり、間違っています。
このように営業秘密流出の原因をその人や企業の境遇に求める考えは、リストラに合われた方や下請けいじめを受けた事業者にあらぬ疑いをかけるだけであり、また非常に差別的な考えではないでしょうか。

その理由に、営業秘密の流出については従業員だけでなく役員等が行うものも多く、また、その動機としては情報の転売、転職先での使用や独立して使用することが主です。さらに、営業秘密に関する様々なセミナーや営業秘密に携わる人との会話の中でも、このような意見は一度たりとも聞いたことはありません。

この議員は、このような考えをどこで仕入れたのでしょうか?共産党内部でこのような誤った考えが蔓延しているのでしょうか?リストラや下請けいじめにあったことを理由とする営業秘密の漏えいがどれだけあるのでしょうか?逆に教えて頂きたい。

営業秘密の流出が起きた企業において、下手をすればこの議員のように確固たる証拠もなく、一部の人を疑う人間も出てくるかもしれません。また、企業がこれから営業秘密の流出対策を策定する場合においても、何の根拠もないこのような考えに立脚することがあれば、営業秘密の流出対策を誤ったものにする可能性が非常に高いと思います。

私は、営業秘密流出の根本的な原因は「法律を知らない」ことにあると思っています。
営業秘密流出が不正競争防止法で民事的責任が規定されたのは、平成2年であり、刑事的責任に至っては平成15年と近年です。
しかも、通常の生活では、このような法律は誰も教えてくれませんし、自主的に学ぶようなものでもありません。

このため、企業が営業秘密流出を防止するためにやるべきことは、このような法律があり、現に民事的責任、刑事的責任を負わされている人が多数存在することを従業員等に教えることだと思います。これは企業の責任であるとも思います。


弁理士による営業秘密関連情報の発信