2019年5月21日火曜日

終身雇用の崩壊

先日、自動車会社に勤めるモリゾウではなくて、トヨタ自動車の豊田章夫社長が「終身雇用 の継続は難しい」と発言して話題となりました。

言わずと知れた世界レベルの企業であり大きな利益を上げている日本企業の社長が、終身雇用は難しいと発言したことによって、終身雇用の継続に対する企業の心理的ハードルは下がったのではないでしょうか。その一方で、就労者における転職に対する心理的ハードルも下がり、雇用の流動化はこれまで以上に進むと思われます。

当然、能力のある人材は転職がしやすいでしょうし、そのような人材は勤務している企業の秘密情報、すなわち営業秘密も知る立場にあるでしょう。さらに、技術系の人材であれば自身で営業秘密となる技術情報を創出しているでしょう。

このため、自社の社員が転職する際に秘密保持契約の締結を要求する企業も増加すると考えれらます。しかしながら、秘密保持契約を締結するか否かは個々の転職者の判断に委ねられるものであり、これを拒む人も多いでしょう。秘密保持契約の締結を拒まれたとしても企業は強制することはできません。
ちなみに、私は転職時に秘密保持契約を要求されたことはありませんが、もし要求されたとしても特段の理由がない限りそれにサインはしません。


ここで、重要なことは秘密保持契約を締結しなかったとしても、在職時に自身が知った営業秘密は転職後であっても公開してはいけないということです。
営業秘密は不正競争防止法で定義され、秘密管理性、有用性、非公知性を満たしたものですが、秘密保持契約を締結しなかったからと言ってその秘密管理性が失われるものではありません。
例えば、パスワード等によってアクセス制限されることで秘密管理されている営業秘密は、転職者が秘密保持契約を拒んだとしてもその秘密管理性は失われません。

そこで、転職希望者に秘密保持契約の締結を拒まれた企業は、このことを十分に説明し、法の不理解により営業秘密を外部に漏えいされることを防止するべきかと思います。
また、企業は転職希望者が知っている営業秘密を把握し、それらの営業秘密を開示してはいけないことを説明するべきでしょう。

とは言っても、営業秘密が転職者から漏えいすることを100%防げるとは限りませんし、転職先企業での営業秘密の不正使用が疑われたとしてもその事実を立証することは難しい場合も多々あるでしょう。

このような場合の対策として、営業秘密が技術情報であれば公開リスクがあるものの特許出願することも検討するべきかと思います。
すなわち営業秘密化した技術情報が進歩性を有する場合に、当該技術情報を詳しく知る人物が転職するタイミングでの当該技術情報の特許出願です。
これにより、営業秘密が転職先企業で不正使用されたとしても(特許出願公開の時点で公知となるのでその時点で営業秘密ではなくなります。)、特許権侵害の主張が可能となるでしょう。
このような判断は、主として知的財産部で行われることになるでしょうから、知財部は人事についてもある程度把握する必要があるかもしれません。

このように、日本企業は人材の流動化が益々活発となることを想定して、自社の営業秘密をどのようにして守るべきかを十分に検討する必要があります。

ところで、豊田章夫社長がモリゾウを名乗ってレース活動を行っていることはよく知られているのでしょうか?
もうすぐでル・マン24時間レースですね。トヨタは2年連続優勝できるでしょうか?
今シーズンは去年のル・マンに引き続いてLMP1クラスのワークスがトヨタだけなので、優勝に最も近いことには変わりません。しかし、どうなるか分からないのもル・マン。

弁理士による営業秘密関連情報の発信