tag:blogger.com,1999:blog-50887694674046568382024-03-18T12:02:28.300+09:00営業秘密ラボ知財活動としては特許出願等の権利化のみではなく技術の営業秘密化(秘匿化)も意識しなければなりません。
このブログでは知財として営業秘密を理解するための情報や、特許と知財戦略について考えていきます。弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comBlogger395125tag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-12813612863720400982024-03-17T23:37:00.000+09:002024-03-17T23:37:02.452+09:00転職者による営業秘密の不正流出・流入まとめ<span style="font-size: large;">転職者による営業秘密の不正流出・流入を簡単にまとめます。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgTUUtgkkwSicEOGGHx3bfhSfmHLhkdJS3Pl51NHB20XE-FE2TZaro6LU7Lsee0zIvh5HdD2n1BkONtivy-jkY3hhFrMDCARFANZauf8P2BaVtLh7eMN77OkDm_WPgYL0BkgaLC_ZTRi-bgYOsZzQfuIOAl2PLKxhVkcf1zeu-hfc2baJXJjqCq9U7tcX3e/s2393/%E8%BB%A2%E8%81%B7%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="1362" data-original-width="2393" height="364" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgTUUtgkkwSicEOGGHx3bfhSfmHLhkdJS3Pl51NHB20XE-FE2TZaro6LU7Lsee0zIvh5HdD2n1BkONtivy-jkY3hhFrMDCARFANZauf8P2BaVtLh7eMN77OkDm_WPgYL0BkgaLC_ZTRi-bgYOsZzQfuIOAl2PLKxhVkcf1zeu-hfc2baJXJjqCq9U7tcX3e/w640-h364/%E8%BB%A2%E8%81%B7%E3%81%BE%E3%81%A8%E3%82%81.jpg" width="640" /></span></a></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">上記図の(A)のように転職者(転出者)は転職時に前職企業から営業秘密を不正に持ち出すことがあります。</span></div><div><span style="font-size: large;">転出者によって不正に持ち出される営業秘密には、在職中に仕事で使用するために前職企業から正当に開示された営業秘密だけに限らず、転出者自身にはアクセス権限がないものの何らかの方法で取得した営業秘密も含まれます。</span></div><div><span style="font-size: large;">このような営業秘密の不正な持ち出しは、サーバ等に保存されているデータに対して行われるアクセスログのチェックによって発覚することが多々あります。このため、近年ではアクセスログ管理を行っている企業は多く、自社の従業員等が退職を申し出た際や退職後等にアクセスログをチェックすることが広く行われているようです。また、アクセスログのチェックに付随してUSB等への外部記憶媒体にデータを保存する行為や、メールによってデータを送信する行為も転職者に対して行う企業は多いと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように、営業秘密の不正な持ち出しは、近年ではデジタルデータの持ち出しとなる場合が多いため、コンピュータシステムによってこれを検知することが可能な場合が多いでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">一方で、自社への転職者(転入者)による前職企業の営業秘密の不正な持ち込みをコンピュータシステムによって検出することは難しいように思います。このため、転入者による不正な持ち込みは段階ごとに防止できる体制又は従業員の認識が必要となると考えます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">まず、図のB1のパターンです。このパターンは、転入者は前職企業の営業秘密を不正に持ち出しています。このため、転入者が前職企業の営業秘密を自社に持ち込むことを防止しなければなりません。この対策としては、転入者に対して、入社時に他社営業秘密の持ち込みを禁ずる誓約書を求めたり、他社営業秘密の不正な持ち出しは犯罪行為であること、仮に自社内でそのような行為が見つかった場合には警察に通報すること等の説明を行います。</span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、転入者による営業秘密の不正な持ち込みを防止できれば、仮に転入者が営業秘密侵害で前職企業から刑事告訴等を受けたとしても、自社は転入者による営業秘密の不正な持ち出しの事実さえ知らないこととなるので、民事的責任や刑事的責任を負うことはないでしょう。しかしながら、転入者が刑事告訴を受けた場合には、自社が家宅捜索を受ける可能性もあるかもしれませんが、そうなったとしても、自社が不正行為を行っていないことが証明されることになるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このような対策を行っても、転入者が自社内で前職企業の営業秘密を開示するかもしれません。この場合がパターンB2です。このような事態となり、仮に当該営業秘密を自社でさらに開示したり、使用したとすると、自社は営業秘密を侵害したこととなります。</span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、転入者による営業秘密の開示先は、自社における既存の従業員であり、転入者が営業秘密を自社で開示したとすると、その事実を知る者は既存の従業員となります。そして、自社が侵害者とならないためには、当該従業員自身が転入者による更なる開示等を防ぐ必要があります。すなわち、当該従業員が当該営業秘密の出所を転入者から確認し、他の従業員へさらに開示しないように転入者に伝えると共に、上長や担当部署に報告する必要があるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">このためには、各従業員に対して営業秘密の不正使用は犯罪であることや、転入者が営業秘密を持ち込んだ場合における報告先を予め周知しておくことが必要です。報告先となる部署は例えば法務部や知的財産部等になるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">これにより、仮に転入者が不正に持ち込んだ他社の営業秘密が自社で開示されたとしても、当該営業秘密が自社内でさらに開示されたり、使用されることを防止できます。従って。パターンB2の場合は、自社で営業秘密が開示されたものの、自社でさらに開示や使用等をしていないので民事的責任や刑事的責任を負う可能性は低いと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">パターンB3は、転入者が不正に持ち込んだ営業秘密を自社内で使用等した場合です。この場合は、自社が他社営業秘密を不正に使用しているので、民事的責任又は刑事的責任を負うことになります。</span></div><div><span style="font-size: large;">パターンB3が自社にとって最悪な状況であるものの、例えば不正に持ち込まれた営業秘密が技術情報である場合には、知的財産部が侵害の拡大を抑制できる立場にあると思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">このためには、技術開発部等で新規に開発された技術を、知的財産部が特許化の有無にかかわらず吸い上げ、管理する体制が必要です。このような体制は、特段新しいものでもなく、知的財産部の役割からすると当然とも考えられます。</span></div><div><span style="font-size: large;">そして、新規開発の技術の発明者が誰であるのか、その開発経緯を知的財産部が確認することで、新規な技術が他社営業秘密を用いているか否かを判断できるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">例えば、発明者が転職間もない従業員であった場合には、前職企業の営業秘密を使用していないかを確認する動機づけとなります。また、その開発経緯に不自然な点があれば、これも不正に持ち込まれた他社営業秘密を使用していないかを確認する動機づけとなります。</span></div><div><span style="font-size: large;">仮に、知的財産部で不正に持ち込まれた他社営業秘密の使用が確認された場合には、当然、この新規技術を用いた製品等の製造販売を停止させることになります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このように、営業秘密の不正流入にはいくつかの段階(パターン)があると考えます。このため、夫々のパターンを想定した対応が可能となる体制(従業員教育)が必要でしょう。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-32083044309483902232024-02-28T00:14:00.002+09:002024-02-28T00:14:35.016+09:00回転寿司チェーン店事件のはま寿司及び元部長に対する刑事事件判決<span style="font-size: large;">かっぱ寿司の前社長が前職であるはま寿司の営業秘密を不正に持ち出した事件について、カッパ社及びその社員(元商品部長)も刑事告訴されていましたが、これに対して地裁判決が先日ありました。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div>
<span style="font-size: large;"><b><a _blank="" href="https://www.yomiuri.co.jp/national/20240226-OYT1T50046/" target="_blank">・かっぱ寿司のカッパ・クリエイトに罰金3000万 はま寿司のデータを不正使用(読売新聞)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE21AV50R20C24A2000000/" target="_blank">・「かっぱ寿司」法人に有罪判決 はま寿司の営業秘密侵害(日本経済新聞)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.jiji.com/jc/article?k=2024022600115&g=soc" target="_blank">・かっぱ寿司運営会社に罰金刑 競合社の営業秘密取得―東京地裁(JIJI.COM)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.47news.jp/10573176.html" target="_blank">・かっぱ寿司運営に罰金3千万円 はま寿司の営業秘密不正取得(47NEWS)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.asahi.com/articles/ASS2V4SDYS2VUTIL008.html" target="_blank">・かっぱ寿司運営会社に罰金3千万円、東京地裁 営業秘密持ち出し事件(朝日新聞)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE2224H0S4A220C2000000/" target="_blank">・営業秘密の受け入れ側に警鐘 かっぱ寿司、法人へ罰金刑(日本経済新聞)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://mainichi.jp/articles/20240226/k00/00m/040/158000c" target="_blank">・かっぱ寿司運営に罰金3000万円 はま寿司の営業秘密不正取得(毎日新聞)</a></b><br /></span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><div><span style="font-size: large;">カッパ社に対しては罰金3000万円、元商品部長に対しては懲役2年6月(執行猶予4年)、罰金100万円という判決となっています。前社長に対しては、既に判決が出ており、懲役3年(執行猶予4年)、罰金200万円です。前社長の刑事罰は確定しているようですが、カッパ社と元商品部長に関しては控訴するかもしれません。</span></div></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">なお、転職者の前職企業の営業秘密が持ち込まれて使用等した企業(被告企業)に刑事罰が適用された事件は過去にもありました(自動包装機械事件)。この自動包装機械事件では、被告企業は1400万円の罰金刑となっています。</span></div><div><span style="font-size: large;">参考:<a href="https://www.xn--zdkzaz18wncfj5sshx.com/p/blog-page_29.html#id2015-3" target="_blank">過去の営業秘密流出事件(自動包装機械事件)</a></span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjwmvQe3FZh3z8SvFAlgDPKCkH6UVRA0B0qJIRxepMo4LKCzjfz7QLBbnPKbO8t1IR0KuFZBqGlmdyHaB10PSkoBVZvhdYMdjMmlTxUVSrROaNI1rvKugW_TTkuU67dR0YZsKM9XbPSEYD6m9NvgxIOH3C-5-CDBqarKEejLW5Bgi20yvTWbUrcJuQKVJoo/s4080/PXL_20240212_052147482.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjwmvQe3FZh3z8SvFAlgDPKCkH6UVRA0B0qJIRxepMo4LKCzjfz7QLBbnPKbO8t1IR0KuFZBqGlmdyHaB10PSkoBVZvhdYMdjMmlTxUVSrROaNI1rvKugW_TTkuU67dR0YZsKM9XbPSEYD6m9NvgxIOH3C-5-CDBqarKEejLW5Bgi20yvTWbUrcJuQKVJoo/w400-h301/PXL_20240212_052147482.jpg" width="400" /></span></a></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">一方で、転職者の前職企業の営業秘密が持ち込まれた被告企業の社員が刑事罰を受けた事件は、私が知る限り初めての事件です。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件では、元商品部長が被告となっており、この元商品部長は、はま寿司から転職してきた前社長の指示に従い、はま寿司の営業秘密を使用等したとのことです。</span></div><div><span style="font-size: large;">確かに、元商品部長は、はま寿司の営業秘密であることを知って不正使用したのでしょうから刑事罰の対象となるでしょう。しかしながら、元商品部長は前社長の指示で不正使用を行っており、これを拒むと社内での立場が悪くなることは想像に難くはありません。そうすると、元商品部長による営業秘密の不正使用の是非について考えさせられます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そもそも社員がこのような事態に陥ることは、企業として絶対に防がないといけないことだと思います。その意味でも、元商品部長が営業秘密の不正使用を行うという選択をしたことに対して、カッパ社にも責任があると思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">今後、転職はより一般的になり、他社の営業秘密が自社へ不正に持ち込まれる可能性は益々高くなります。</span></div><div><span style="font-size: large;">そして、転職者が上司となる可能性もあり、本事件のように上司が前職企業の営業秘密を持ち込む可能性もあるでしょう。また、転職してきた部下や同僚となった者が前職企業の営業秘密を不正に持ち込む可能性もあるでしょう。仮に、転職者によって開示された営業秘密を社員がそれと知って不正使用すると、本事件のようにこの社員が刑事責任を負うこととなります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このような事態を防ぐためにも、企業は転職者を介した他社の営業秘密の流入を食い止め、仮に他社の営業秘密が流入したとしても社員がそれを使用しないようにしなければなりません。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-86738004525213217622024-02-20T00:15:00.001+09:002024-02-20T00:15:44.928+09:00判例紹介:原告が被告を特許侵害で提訴、被告は原告が被告の営業秘密を特許化したとして反訴<div><span style="font-size: large;">今回紹介する裁判例(東京地裁令和5年3月7日 事件番号:令3(ワ)26762号)は、今後も起こりそうな事件です。</span></div><div><span style="font-size: large;">この裁判の概要としては、まず、原告(個人)が被告(三菱ケミカル株式会社、三菱ケミカルインフラテック株式会社)に対して特許権侵害(特許第6350985号)で提訴(本訴)したものの、被告が本件特許は原告の冒認出願によりされたとして反訴しました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件の原告(特許権者(出願人)と発明者は同一の個人)は、昭和39年から平成12年1月15日まで、被告企業である三菱ケミカル(社名変更前の三菱レイヨン時に日東化学を承継)において勤務しており、中央研究所の研究部長を務めていたとのことです。そして原告は、退職から14年後の平成26年7月2日に本件特許の出願を行い、平成30年6月15日に設定登録を受けています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件において被告は、以下のように、本件特許発明は日東化学の従業員が完成させた本件硬化剤発明とが同一であるとして、本件特許発明は特許を受ける権利を有しない者による出願であるとして反訴を行っています。</span></div><div><div></div></div><blockquote><div><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">ア 本件特許発明は、日東化学の従業員であったBⅰ及びCⅰが平成3年10月に完成させたものである。</span></div><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">すなわち、Bⅰ及びCⅰは、GS硬化剤の開発に関し、平成3年10月度月報において、「エヌタイトGS」という銘柄の処方(以下、同処方により特定される硬化剤に係る発明を「本件硬化剤発明」という。)を完成させた。本件特許発明と本件硬化剤発明とは、一部の構成要件において形式的な相違があるものの、これらは、以下のとおり、いずれも実質的な相違点ではなく、両発明の同一性を損なうものではない。</span></div></div><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">・・・</span></div><div><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">イ <u>原告は、日東化学の研究所において、Bⅰ及びCⅰの上司に当たる地位にあり、両名が完成させた本件特許発明を同人らから直接又はその他の日東化学の書類や従業員を介して知得したにすぎず、本件特許発明の発明者ではない。</u>そして、Bⅰ及びCⅰが完成させた本件特許発明に関する特許を受ける権利は、本件職務発明取扱規程に従って日東化学に承継されたのであり、原告がこれを譲り受けたことはない。</span></div><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">ウ 仮に本件特許発明と本件硬化剤発明が同一でないとしても、本件硬化剤発明をその範囲に含む本件特許発明は、本件硬化剤発明に関する日東化学の営業秘密(●(省略)●)を利用した発明であることは明らかである。これに対し、<u>原告は、日東化学従業員として、就業規則及び本件誓約書に基づき、日東化学及び三菱レイヨンの営業秘密を退職後も自己の目的に利用したり第三者に開示したりしてはならない義務を負っていた。そのような原告が、被告らに権利を行使する目的で本件特許発明について特許出願をし、本件特許権を取得したことは、就業規則及び本件誓約書において禁じられた「自己の目的」への利用そのものである上、特許出願に伴う公開を通じた第三者への開示にも該当する。</u></span></div><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">このように、本件特許発明が本件硬化剤発明に関する日東化学の営業秘密を利用してされたものである以上、原告は、本件特許発明について、特許を受ける権利を有しない。また、原告の秘密保持義務違反によってされた利用発明である本件特許発明についての特許を受ける権利は、条理上、本件硬化剤発明に関する営業秘密の保有者であった日東化学、ひいてはその権利義務を承継した被告三菱ケミカルに帰属するというべきである。</span></div></div></blockquote><div><div></div></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><div></div></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjhSWyPE5vEGpfiBhf3taTIbX1n5BYxUxYmsSAG_ucV50RczuaPXGtz_MoyL5qCbhmEI4KNJ5rTBzXM420acWBg91QSPHRXawtWIPZ1pUO3cBqhTO4r0piCeFmOSQ7rmsO-O3w1Q2NSXjR9K_C1Y2lAlPtLfPMvERbVMrx9vvDEYchF4q9_MBr27w-SV6Dt/s4080/PXL_20240114_070236557.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjhSWyPE5vEGpfiBhf3taTIbX1n5BYxUxYmsSAG_ucV50RczuaPXGtz_MoyL5qCbhmEI4KNJ5rTBzXM420acWBg91QSPHRXawtWIPZ1pUO3cBqhTO4r0piCeFmOSQ7rmsO-O3w1Q2NSXjR9K_C1Y2lAlPtLfPMvERbVMrx9vvDEYchF4q9_MBr27w-SV6Dt/w400-h301/PXL_20240114_070236557.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">しかしながら裁判所は、原告の本件特許発明と被告の営業秘密(本件硬化剤発明)とを対比してこれらが同一でないとしたうえで、本件特許は冒認出願ではない、として被告の主張を認めませんでした。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">なお、被告は、原告が日東化学の研究所において、本件硬化剤発明を完成させたBⅰ及びCⅰの上司に当たる地位にあり、両名が完成させた本件硬化剤発明と同一の本件特許発明を知得したにすぎないと主張したものの、裁判所は、これも下記のように認めませんでした。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">・・・原告は、遅くとも平成3年初め頃以降、日東化学の中央研究所の研究部長を務めており(前提事実(1)ア)、平成3年4月度月報及び同年10月度月報には、原告の姓を示す「Aⅰ」との印が押されていることが認められる(乙12、22)。そうすると、<u>原告は、平成3年当時、Bⅰらによる本件硬化剤発明に係る報告内容を把握し得る立場にあったとはいえるが、本件硬化剤発明は、複数の含有物を異なる割合で混合するというものであるから、上記各月報を一瞥しただけでその内容を完全に記憶することは必ずしも容易ではないと考えられる。そして、本件証拠上、原告が、上記各月報を具体的にどのような態様で閲読したのかは明らかでなく、Bⅰらによる研究内容をどの程度具体的に把握していたのかも明らかではない。</u></span></div><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">したがって、原告が本件特許発明をBⅰらから知得したと認めることはできない。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">また、被告は、本件特許発明は本件硬化剤発明に関する日東化学の営業秘密を利用した発明であるから、原告は本件特許発明について特許を受ける権利を有しないとも主張しました。しかしながら、裁判所はこの主張も以下のように認めませんでした。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;"><span style="background-color: #eeeeee;">・・・</span><span style="background-color: #eeeeee;">原告は、従前、日東化学及び三菱レイヨンにおいて、地盤安定化剤、床用石膏プラスター組成物の研究開発に携わっており、その過程で、自らが発明者又は研究従事者として、①珪酸ソーダ水溶液からなるA液と、石灰、Ⅱ型無水石膏及び界面活性剤の混合物の水性スラリーからなるB液とを混合した薬液を地盤中に注入して硬化させる地盤安定化法(甲17)、②フッ酸副生無水石膏に、苛性カリ(水酸化カリウム)、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、消石灰、炭酸カルシウム等のアルカリ性物質を添加して中和すること(乙48、49)、③●(省略)●といった、本件特許発明を構成する具体的な技術事項を把握するに至っていたと認められる。</span></span><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">しかし、上記①及び②に係る技術事項は、特許公報等により公開されているものであるし、本件証拠上、本件特許発明を構成するその余の技術事項が日東化学及び三菱レイヨンの営業秘密に属するものと認めることができないから、原告が、三菱レイヨンを退職した後に、公知の刊行物等を参照しつつ、日東化学及び三菱レイヨンの営業秘密に属しない技術事項を組み合わせるなどして本件特許発明を着想し、それを具体化して本件特許発明を完成することができたとしても、直ちに不自然であるとはいえない。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">なお、原告による特許権侵害という主張は、被告の製品(GS硬化剤等)は本件特許の技術的範囲に属さないとして認められませんでした。このように、原告による本訴、被告による反訴は共に棄却されました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このように、前職企業を退職した従業員が、転職先等で前職企業における職務内容と同様の発明を行うことは当然あり得ることだと思います(本事件では特許権の権利者と発明者とが同一の個人であるため、原告が他企業に転職していないのかもしれませんが)。</span></div><div><span style="font-size: large;">そうすると、本事件のように前職企業は、転職した発明者が自社の営業秘密を持ち出して転職先で特許出願をしたのではないかという疑念が生じさせる可能性あるでしょう。特に特許出願の発明者は明確であるため、自社の元従業員が転職先企業で特許出願をしたか否かが容易に判断でき、かつ特許出願に係る技術内容が元従業員の職務内容と同様であるかも容易に判断できます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、転職先企業は、転職してきた者(転入者)が前職企業の営業秘密に基づいて特許出願をしたのではないかと疑念を持たれる立場となります。万が一、前職企業の営業秘密に基づいて特許出願をしたとなれば、転職先企業による営業秘密侵害であり、民事的、刑事的責任を負う可能性が生じます。</span></div><div><span style="font-size: large;">転職先企業では、このような事態に陥ることは避けなければなりません。このため、転職先企業(の知財部)は、発明がどのようにしてなされたかの確認が必要となるでしょう。例えば、発明の着想から具体化までに至る資料(研究ノート)を確認し、当該発明が自社においてなされたことを確認することが必要です。特に、転入間もない従業員に対しては、前職企業の営業秘密が混在していないことを十分に確認するべきでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">また、万が一、本事件のように前職企業から発明の成立過程について疑念を持たれた場合に反論できるように研究ノート等や各種データを保存する必要があるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">なお、不正競争防止法第6条では具体的態様の明示義務として、以下のように規定されています。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">第六条 不正競争による営業上の利益の侵害に係る訴訟において、不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあると主張する者が侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を否認するときは、相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない。ただし、相手方において明らかにすることができない相当の理由があるときは、この限りでない。</span></div></blockquote><div></div><div><span style="font-size: large;">この規定によると、例えば、営業秘密の不正使用が疑われる製品や物の製造方法等において、営業秘密保有者は当該製品や製造方法等の具体的態様を明らかにすることを求めることができます。これにより、当該製品や製造方法等に自社の営業秘密が使用されているか否かが明確になることが期待されます。一方で、この規定は物や方法を対象としており、特許に係る発明の成立過程等を明らかにすることを求めることはできないと解されます。</span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、上記のように、自社からの転職者が転職先等で自社の営業秘密を使用して特許出願等を行う可能性があることを鑑みると、特許に係る発明の成立過程を明らかにすることを求める規定が設けられても良いのではないかと思います。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-20610809981418168492024-02-13T00:02:00.004+09:002024-02-13T00:04:34.511+09:00判例紹介:高裁で無罪判決となった営業秘密侵害事件(刑事事件)その2<span style="font-size: large;"><a href="https://www.xn--zdkzaz18wncfj5sshx.com/2024/01/blog-post_28.html" target="_blank">前回のブログ記事</a>で紹介した高裁で無罪判決となった事件(札幌地裁令和5年3月17日判決 事件番号:令3(わ)915号)、札幌高裁令和5年7月6日判決(事件番号:令5(う)74号))の続きです。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">この事件では、地裁において肯定したものの高裁では否定された秘密管理措置が複数あります。前回のブログでは、本件情報(販売先、販売商品、販売金額等の履歴が記録された得意先電子元)を管理する△△システムのIDやパスワードを、地裁では本件情報に対する秘密管理措置として認めたものの、高裁ではそれを認めなかったということを解説しました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">上記の他にも△△システムの画面には「出力データの取扱注意事項」と題する警告画面が表示されており、本事件ではこの警告画面の表示も秘密管理措置となり得るのかが争点となっています。なお、警告画面の表示は以下のようなものであり、「同意します」と記載されたボタンを押下しなければ、情報を出力できない仕組みになっていたようです。</span></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">株式会社eが提供するデータの利用範囲は、データ入手元から使用を認められている範囲に制限され、貴社内における経営分析等、通常業務の範囲内に制限されます。したがって、第三者へのデータ提供等は『契約違反』に該当します。</span></div><div><span style="font-size: large;">以下の制約事項を遵守することに同意しますか。 </span></div><div><span style="font-size: large;">1.貴社内における通常業務の範囲を超えて利用しないものとします。 </span></div><div><span style="font-size: large;">2.第三者に開示しないのはもちろんのこと、目的を果たすために必要最低限の役員及び従業員以外には開示しないものとします。</span></div></blockquote><div></div><div><span style="font-size: large;">「警告画面」の表示に対して被告の弁護人は以下のようにa社(被害企業)とe社(△△システムのメーカー)との秘密保持契約を示していると主張しました。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">前記警告画面の文言と、a社とe社の間で締結された秘密保持等確認書の文言において、第三者へのデータ提供等は「契約違反」に該当するとされており、a社とe社の間の契約を念頭に置いていると考えられること、テキスト形式で出力され、データの加工が可能になる場合に限って前記警告画面が表示される仕組みになっていることなどを理由として、<u>e社がa社の従業員に対して、e社の「秘密情報」の不正使用等を禁止したものと解釈すべきという。</u></span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">一方で、「警告画面」の表示に対して地裁は以下のように判断し、弁護人の主張を認めませんでした。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">得意先電子元帳の情報を出力する際の仕組みについて検討すると、前記前提事実のとおり、出力する際には警告画面が表示され、「制約事項」に同意するかどうかの確認が求められていた。このことは、<u>アクセスする従業員に対し、△△システムの情報の中でも、本件情報を含む得意先電子元帳の情報が、特に厳重に管理されるべき秘密であることを認識させるものであったといえる。</u></span></blockquote></div><div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgqSjQ87j4NSRJXhsShusVBCDZ5C1-KgXcAHxCdRoBxUzIRrYEyniRxQkkcyTwLe9YIFAbuuVzbBeA0a8kg_8HYZD4Z2xmjNGvafPaWRI7ZfIXhiMqTu9ycSmpJziyFEcDJU5HpN8q4wGMkDafSfsTJDNBVeJz7rRf-0PLHvi-_frXzV0osnJfnOms28-rI/s4080/PXL_20240203_090524288.NIGHT.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgqSjQ87j4NSRJXhsShusVBCDZ5C1-KgXcAHxCdRoBxUzIRrYEyniRxQkkcyTwLe9YIFAbuuVzbBeA0a8kg_8HYZD4Z2xmjNGvafPaWRI7ZfIXhiMqTu9ycSmpJziyFEcDJU5HpN8q4wGMkDafSfsTJDNBVeJz7rRf-0PLHvi-_frXzV0osnJfnOms28-rI/w400-h301/PXL_20240203_090524288.NIGHT.jpg" width="400" /></a></div><br /></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら高裁はこのような地裁の判断を否定し、以下のように警告画面を秘密管理措置として認めませんでした。この高裁の判断は、弁護人の主張と同様であると思われます。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">・・・警告文の主語は、「株式会社eが提供するデータの利用範囲は」となっており、第三者への情報提供等の制限の対象は、△△システムを提供するe社が提供するファイルレイアウト等の秘密情報と解するのが文面上自然であるし、文末が「第三者へのデータ提供等は『契約違反』に該当します。」となっており、<u>ここでいう「契約」は、e社とa社との間の契約を指すとみるのが自然である</u>上、警告画面末尾には、「※詳細については、締結致しました『秘密保持等確認書』をご確認ください。」と付記されていることから、a社からe社に提出された「秘密保持等確認書」(原審甲31添付資料4)をみてみると、その1条2項1号において、第三者への情報提供等が制限される秘密情報の範囲から、a社が△△システムの使用を通じて自ら入力・作成・登録等した純粋な同社固有のデータを明確に除外しており、これに該当する同社固有のデータであると解される本件情報は、前記警告画面が第三者への情報提供等を制限する対象とはなっていないものと認められる。したがって、前記警告画面の趣旨は、所論がいうようにe社のファイルレイアウトなどの秘密情報を保持するところにあるものと解されるから、これをもって、a社自身の秘密管理意思の現れとみることはできないといわざるを得ない。前記警告画面の趣旨がこのように解される以上、<u>確かに、原判決のいうように、同警告画面を見たa社従業員が、本件情報を含め得意先電子元帳機能から出力しようとしている情報を社外の者に漏洩することが禁じられている旨の警告と誤解する場合があることは想像するに難くないところではあるが、そうだかからといって、上記結論を左右するものではない。</u></span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">このように高裁は「誤解」が生じる可能性があることを認めつつも、警告画面の内容を文字通りに解釈し、本件情報に対する秘密管理措置とは認めませんでした。このような高裁の判断は、秘密保持の対象となる情報が何であるかを厳密に判断した結果であり、妥当なものであると思われます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">なお、本事件において高裁は、被害企業であるa社が各従業員の入社時に誓約書を提出させていることも秘密管理意思の根拠として考え得る、とのように指摘しています。この誓約書について地裁では指摘していないものの、高裁では以下のように誓約書に基づく秘密管理性も否定しています。また、就業規則における秘密管理の規定についても、高裁は下記のように秘密管理措置とは認めていません。</span></div><div><blockquote><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">・・・現に被告人Y1がa社に対し提出した平成24年6月6日付誓約書には「貴社の諸規則や命令を必ず遵守します。」「貴社の利害に関する機密、取引先の内情等は一切他言いたしません。」(原審甲21)、被告人Y2がa社に対し提出した平成5年3月21日付誓約書にも「貴社の諸規則や命令を必ず遵守致します。」「貴社の利害に関する機密、取引先の内情等は一切他言致しません。」(原審甲23)との記載が認められる。しかしながら、<u>これらによっても本件情報が上記誓約書における守秘義務の対象か否かその範囲は客観的に明らかになってはおらず、これらをもってa社が、本件情報について秘密として管理する意思を表示していたと認めることは困難である。</u></span></div><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">さらに、a社の就業規則においては、その9条において、「(27) 会社内外を問わず、在籍中又は退職後においても、会社、取引先等の秘密、機密性のある情報、顧客情報、企画案、ノウハウ、データ、ID、パスワードおよび会社の不利益となる事項を第三者に開示、漏洩、提供しないこと。また、コピー等をして社外に持ち出さない事。」(原審甲4)との規定があり、<u>この点に照らすと、本件情報が社外への持ち出しを禁止されるいずれかの情報に当たると解されるところであるが、a社の従業員に対する就業規則の周知等の手続が適正になされていたかについては疑義が残るところであるし、その他、a社において、営業秘密の取扱いについて、従業員に注意喚起をしていたような事情もうかがえないことにも照らせば、この点をもって秘密管理措置が十分であったということもできない。</u></span></div></blockquote><div><span style="font-size: large;"><u></u></span></div></div><div><span style="font-size: large;">以上のように、本事件は、本件情報の有用性及び非公知性、被告人による本件情報も持ち出しも認められているものの、本件情報の秘密管理性は認められず、高裁において被告人は無罪となっています。</span></div><div><span style="font-size: large;">一方で、本件情報に対して適切な秘密管理措置さえ行われていれば、被告人は有罪となった事件であると思われます。適切な秘密管理措置とは、決して難しいことではなく、例えば、△△システムを用いて本件情報を表示する際に、本件情報が営業秘密であることを明確に認識させる表示を行う、とのようなことで足り得るものだったと考えます。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-34337866948204108742024-01-28T18:45:00.005+09:002024-02-13T00:03:48.024+09:00判例紹介:高裁で無罪判決となった営業秘密侵害事件(刑事事件)<span style="font-size: large;">営業秘密侵害の刑事事件でも、まれに裁判において無罪判決となる場合があります。</span><div><span style="font-size: large;">今回紹介する事件は、地裁判決(札幌地裁令和5年3月17日判決 事件番号:令3(わ)915号))において有罪であったにもかかわらず、高裁判決(札幌高裁令和 5年7月6日判決(事件番号:令5(う)74号))において無罪となった事件です。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件の概要は高裁判決文において以下のように記されています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">本件は、自動車部品の仕入れ及び販売等を業とするa社(以下、略称等は原判決のそれに従う。)の従業員として、同社から同社の営業秘密である同社の販売先、販売商品、販売金額等の履歴が記録された得意先電子元帳を示されていた被告人Y1が、(1)Aと共謀の上、不正の利益を得る目的で、令和2年10月27日、被告人Y1が同社の前記得意先電子元帳を管理する同社サーバコンピュータにアクセスし、同得意先電子元帳の、得意先b社及び仕入先c社に係る本件情報①を記録したファイルをa社から貸与されていたパーソナルコンピュータに保存し、その複製を作成する方法で同社の営業秘密を領得し(原判示第1)、(2)被告人Y2と共謀の上、不正の利益を得る目的で、同月28日、被告人Y1が同社の前記サーバコンピュータにアクセスし、同得意先電子元帳の、得意先d社に係る本件情報②を表示し、SNSアプリケーションソフトLINEの画像キャプチャ機能を利用して本件情報②を画像ファイルとして記録してその複製を作成する方法でa社の営業秘密を領得した(原判示第2)という事案である。原判決は、いずれの事実についても有罪と認め、被告人両名をいずれも罰金30万円に処した。</span></blockquote><div><span style="font-size: large;">このように、被告人Y1,Y2は、被害企業であるa社の販売先、販売商品、販売金額等の履歴が記録された得意先電子元帳のb社、c社、d社の情報(本件情報)を持ち出しています。このように企業の得意先の情報の履歴は一般的には公知とされず、秘密として扱う企業も多いかと思います。</span></div><span style="font-size: large;">なお、被告人Y2はa社の元従業員であり、その後にf社を設立しています。また、上記で登場するAもa社の元従業員であり、その後にf社に入社して営業を担当していました。そして、被告人Y1,Y2及びAは「f社」という名のLINEトークグループを作成し、データのやり取りをしていたようです。<br /></span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、地裁、高裁共にa社の本件情報に対する有用性、非公知性を認めているものの、地裁と高裁とでは本件情報に対する秘密管理性の判断が異なるものとなりました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">まず、地裁による秘密管理性の判断は以下のようなものでした。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">△△システムへのアクセス方法について検討する。<u>本件情報は△△システムで保管されていて、本件情報にアクセスするためには、a社共通のアカウントに加え、個々の従業員のログインID及びパスワードの入力が求められる仕組みとなっていた。</u>△△システム起動のためのUSBキーは従業員用パーソナルコンピュータに事実上挿したままの状態であったとはいえ、<u>アカウント等の管理により本件情報にアクセスできる者を従業員に限定していたといえる。</u>実際には、a社のアルバイトや委託業務者も△△システムを使用していたが、△△システムを立ち上げる際には従業員がIDやパスワードを入力しており、アカウント等を用いた本件情報へのアクセス制限の実効性が失われていたとはいえない。また、アルバイトらが△△システムを使用し本件情報にアクセスすることができる状態にあったとしても、これらの者はa社の指揮監督に従って同社の業務に従事している点では従業員と同様の立場であり</span><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">、また、これらの者が△△システムを使用するのは伝票再発行等の業務上必要な場合であった。</span></div><div><u><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">以上のような△△システムへのアクセス方法は、△△システムで保管されている本件情報が秘密であることを十分認識させるものであったといえる。</span></u></div></blockquote><div><span style="font-size: large;"><u></u></span></div></div></div><div><span style="font-size: large;">地裁では、本件情報へアクセスするためには△△システムにIDとパスワードを入力しなければならず、それを持って本件情報の秘密管理性を認めたようです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiN8fTfudsXtgNCxH9Cq1Ai7XeQ7-vqJklyL6oA6oNMwxZEZG0DohPx2_C8m259KOy9kewAigWy4BrP-pfQwfJBYb_H9kBcw0LFqqSg7Vd0WUYGRWLReWsfUDqoZlt7e128QqPyvhRZPr4GMb4AJww_LVYzDkmtuDT33Nc5IUTqfrHtuMqew_FxmygxrasH/s4080/PXL_20240114_042511728.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiN8fTfudsXtgNCxH9Cq1Ai7XeQ7-vqJklyL6oA6oNMwxZEZG0DohPx2_C8m259KOy9kewAigWy4BrP-pfQwfJBYb_H9kBcw0LFqqSg7Vd0WUYGRWLReWsfUDqoZlt7e128QqPyvhRZPr4GMb4AJww_LVYzDkmtuDT33Nc5IUTqfrHtuMqew_FxmygxrasH/w400-h301/PXL_20240114_042511728.jpg" width="400" /></a></div><br /></div><div><span style="font-size: large;">一方で、高裁による秘密管理性の判断は以下のようなものです。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">まず、本件情報は△△システム内の得意先電子元帳内に保管されていた情報であるところ、△△システムにアクセスする際には、原判決が適切に認定しているとおり、USBアクセスキーを挿入し、企業認証ログイン画面において、a社共通の企業認証アカウントを入力し、更に従業員ログイン画面において、各従業員に付与されたIDとパスワードを入力するといった手順が要求されている。もっとも、<u>△△システムには、本件情報のような営業秘密にかかわるものに限らず、在庫数や日報といった機能も搭載されており、上記の手順は、本件情報を含む営業秘密に属する情報へのアクセスのみならず、△△システムに搭載された諸機能を利用するために要求される手順にすぎないとも考えられる。また、△△システムは、上記のように多岐にわたる機能が搭載されているため、a社の従業員であれば、自己に付与されたID及びパスワードを用いてアクセスすることができ、得意先電子元帳自体にアクセスする際に新たにパスワード等の入力を求めるなどといった制限は設けられていなかった。そうすると、本件情報を含む得意先電子元帳に記録されている情報に接する従業員において、a社が当該情報をその他の秘密とはされない情報と区別し、特に秘密として管理しようとする意思を有していることを明確に認識できるほど、客観的な徴表があると認めることはできず、△△システムにアクセスする際に、IDやパスワード等を入力するなどの手順を要するということのみでは、a社が十分な秘密管理措置を講じていたと認めることはできないというべきである。</u></span></blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;"><u></u></span></div><div><span style="font-size: large;">このように高裁では、△△システムにアクセスするためにはIDとパスワードの入力が必要であることを認めているものの、△△システムは本件情報だけでなく在庫数や日報といった機能も搭載されていることをもって、本件情報の秘密管理性を認めませんでした。</span></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、△△システムを用いて従業員がアクセスできる情報には、本件情報だけでなく様々な情報が含まれるため、△△システムのIDとパスワードは本件情報に対する秘密管理措置とは認められないと判断したようです。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように、営業秘密と主張する情報とその他の情報が混在して管理されていたために、営業秘密とする情報に対する秘密管理性を従業員等が認識できないとして、当該情報の営業秘密性が認められなかった例は他にもあります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">例えば、民事事件である接触角計算プログラム事件 (知財高裁平成28年4月27日、事件番号:平成26年(ネ)10059等、東京地裁平成26年4月24日判決等)です。</span></div><div><span style="font-size: large;">この事件は、被控訴人(一審原告)が営業秘密と主張する原告アルゴリズムが表紙中央部に「CONFIDENTIAL」と大きく印字され,各ページの上部欄外に「【社外秘】」と小さく印字された本件ハンドブックに記載されていました。このような措置は一見、原告アルゴリズムに対する秘密管理措置とも思われます。</span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、本件ハンドブックは、公知の他の情報も記載されており、また、本件ハンドブックを顧客にも見せていたため、従業員は本件ハンドブックのどの部分の記載内容が秘密であるかを認識することが困難であった、として本件アルゴリズムの秘密管理性が否定されました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">今回の刑事事件は、まさに接触角計算プログラム事件と同様の判断であり、過去の判例に基づくと、無罪判決とした高裁の判断は妥当であるとも思われます。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように、営業秘密とする情報は、それが秘密であることを従業員が認識できるように直接的な秘密管理措置を行う必要があります。本事件の例では、△△システムで営業秘密とする本件情報を管理するのであれば、△△システムを介して本件情報にアクセスして場合にはに、本件情報が秘密であることを認識させるためのアラート等を発したり、画面の分かり易い位置に秘密であることを示す表示を行う等の措置が必要であったと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">なお、地裁において被告人の弁護人は、下記のように高裁の判断と同様の主張を行っていました。しかしながら、地裁は弁護人の主張を認めなかったという経緯もあります。すなわち、高裁は、地裁のこのような判断を真っ向から否定したものとなります。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">弁護人は、各従業員に割り当てられていたIDとパスワードは、在庫数や日報といった機能を含めた△△システムのシステムを使用するためのものにすぎず、得意先電子元帳にアクセスするためのものではないから、本件情報を秘密として管理しているとはいえないと主張する。しかし、△△システムへのアクセスを制限することは、本件情報も含めて△△システムで管理されている情報についてアクセスを制限していることにほかならない。弁護人の主張が、本件情報のみに限定して管理する措置が必要という趣旨であるとすれば、そのように限定する理由はないというべきであり、前記のとおりの本件情報の性質や後記の警告画面等の事情と相まって、本件情報の秘密管理性を十分根拠付けるものというべきである。</span></blockquote></div><div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-16637356980611764862024-01-18T23:22:00.007+09:002024-01-18T23:23:43.822+09:00判例紹介:従業員が会社に秘密保持誓約書を提出しなくても秘密管理性が認められた事例<span style="font-size: large;">所属している会社から秘密保持誓約書の提出を求められる場合があるかと思いますが、秘密保持誓約書を提出しなければ、会社の営業秘密を持ち出しても大丈夫なのでしょうか。</span><div><span style="font-size: large;">東京地裁平成14年12月26日中間判決(事件番号:平12(ワ)22457号)はこのような事例について争った裁判例です。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件は、人材派遣事業等を行う原告会社の元従業員であった被告A及びBが人材派遣事業等を行う被告会社を設立し、被告A及びBが原告の営業秘密である派遣スタッフ及び派遣先事業所に関する情報を被告会社に不正に開示したというものです。なお,被告A及びBは各々、原告会社の取締役営業副部長、原告会社の取締役営業部長でした。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">まず、裁判所は、派遣スタッフ及び派遣先事業所に関する情報が原告会社においてコンピュータとスタッフカード(帳簿)によって管理されており,その両方において下記のように秘密管理性を認めました。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">本件においては,上記ア(ア)~(ウ)に認定のとおり,派遣スタッフ及び派遣先の事業所の情報が様々な形態で存在するが,このうち,上記情報のコンピュータにおける管理状況は,ア(ア)に認定したように,秘密であることの認識及びアクセス制限のいずれの点でも,秘密管理性の要件を満たすものと認められる。・・・</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">これらのスタッフカードについては,利用の必要のある都度,コーディネータあるいは営業課員により複写機でコピーが作成されて,営業課員がこれを持ち歩くこともあったというのであるが,これらのコピーの作成とその利用は,スタッフカードのうちの数名分について一時的に行うものであって,・・・,業務の必要上やむを得ない利用形態と認めることができる。また,営業課員が自分の手帳等に自己の担当する派遣スタッフや派遣先事業所に関する情報を転記して携帯していたことも認められるが,・・・,その必要上やむを得ない利用形態と認められる。他方,前記ア(エ)において認定したとおり,原告会社では,派遣スタッフや派遣先事業所の情報の重要性やこれらを漏洩してはならないことを研修等を通じて従業員に周知させていたうえ,該当部署の従業員一般との間に秘密保持契約を締結して秘密の保持に留意していたものである。</span></div></blockquote><div></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi6An0k-v-bG7ZP0Uf-Y9nDvZT0tQ0xTOAUulLaWSIADUwX0_SFiZ94FgqJ1pBDtYvOOIdMnZ3Uc3f_-s3nNIi5mfxudXIBqyHK_jujfilDuMvNxWZcvab2lJubWo6O3ajA4_nOvpwlMC4lewER_D5ts_F5O3E8LB7q8NhVV3eumnAK6TObfatK0MBzTGKg/s4080/PXL_20240107_052747824.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEi6An0k-v-bG7ZP0Uf-Y9nDvZT0tQ0xTOAUulLaWSIADUwX0_SFiZ94FgqJ1pBDtYvOOIdMnZ3Uc3f_-s3nNIi5mfxudXIBqyHK_jujfilDuMvNxWZcvab2lJubWo6O3ajA4_nOvpwlMC4lewER_D5ts_F5O3E8LB7q8NhVV3eumnAK6TObfatK0MBzTGKg/w400-h301/PXL_20240107_052747824.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">一方で被告A及びBは、原告会社から求められた秘密保持誓約書を提出していませんでした。このため、被告A及びBは、原告会社が一部の従業員から秘密保持誓約書を徴していたとしても、派遣スタッフ及び派遣先事業所に関する情報を秘密と認識できた根拠とはならない、とのように主張しました。被告A及びBが秘密保持誓約書を提出しなかった点に関して、裁判所は下記のように判断しました。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">なお,被告B及び被告Aは,誓約書を差し入れていないが,他の従業員との間に秘密保持契約を締結した当時,被告Bら両名は既に取締役であったためにたまたま誓約書を差し入れていないというにすぎず,上記情報の重要さについては一般の従業員以上に知悉していたというべきであるから,このことをもって秘密として管理されていないとはいえない。</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">そして裁判所は、原告会社が保有する営業秘密を被告A及びBが使用して被告会社に開示した行為、及び被告会社が被告A及びBから各情報の開示を受け、これを取得して使用した行為はいずれも不正競争行為に該当すると判断しました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件では、被告A及びBが秘密保持誓約書を提出していなかったものの、原告会社に所属していたときの被告A及びBの役職(取締役営業副部長又は取締役営業部長)も考慮にいれて、被告A及びBは原告会社が保有する派遣スタッフ等に関する情報が秘密であると認識できたと裁判所は判断しています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このように,営業秘密とする情報に対する秘密管理措置が適切であれば,秘密保持誓約書を提出しなかったことをもって秘密の認識が否定されることはないと考えられます。一方で、下記のブログ記事で紹介したように、秘密保持誓約書の提出を拒否しても、会社が情報の秘密管理をしていなければ、当然、当該情報は営業秘密とは認められません。すなわち、情報の秘密管理性は、当該情報に対する秘密管理措置の実態に基づいて判断され、秘密保持誓約書のみをもって秘密管理性が認められる可能性は低いでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ブログ記事:<a href="https://www.xn--zdkzaz18wncfj5sshx.com/2023/06/blog-post_25.html" target="_blank">判例紹介:退職時の秘密保持誓約(合意の拒否)</a></span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-29693013780257685192024-01-08T23:54:00.003+09:002024-01-08T23:54:50.883+09:00昨年末に報じられた営業秘密侵害事件(刑事事件)<div><span style="font-size: large;">昨年末には、下記のように営業秘密侵害事件(刑事事件)に関連する報道がいくつかありました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><h3 style="text-align: left;"><span style="font-size: large;">・回転寿司チェーン店事件</span></h3><div><span style="font-size: large;">かっぱ寿司の前社長が前職であるはま寿司の営業秘密を不正に持ち出した事件について、カッパ社及びその従業員も刑事告訴されていましたが、これに対して検察側の求刑が12月22日にありました。なお、前社長の有罪は既に確定しています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><b><a _blank="" href="https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE226JI0S3A221C2000000/" target="_blank">・「かっぱ寿司」に罰金3000万円求刑 営業秘密の取得(日本経済新聞)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.47news.jp/10299367.html" target="_blank">・カッパ社に罰金3000万円求刑 はま寿司の営業秘密を不正取得(47NEWS)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.sankei.com/article/20231222-BENZUMSAVBPHXAZM2NZL2GJJFU/" target="_blank">・カッパ社に罰金3千万求刑 はま寿司営業秘密不正取得(産経新聞)</a></b></span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そして、求刑から5日後の27日にはま寿司は、カッパ社や前社長に対して5億円の損害賠償等を求める民事訴訟を行いました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><b><a _blank="" href="https://www.jiji.com/jc/article?k=2023122700659&g=eco" target="_blank">・ゼンショーHD、「かっぱ寿司」前社長らに賠償請求 営業秘密の持ち出しで(JIJI.COM)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.47news.jp/10320842.html" target="_blank">・はま寿司、カッパ社を提訴 営業秘密取得、5億円請求(47NEWS)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE277X70X21C23A2000000/" target="_blank">・はま寿司、カッパ社を提訴 営業秘密取得で5億円請求(日経新聞)</a></b></span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">これは、刑事告訴によりカッパ社が有罪となる可能性が高いと見通したタイミングで民事訴訟を提起したのだと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">カッパ社が有罪となると、持ち出された営業秘密をカッパ社が不正使用したことが認められたということになります。そうすると、民事訴訟では、実質的に損害論のみとなり、はま寿司にとって民事訴訟の負担は小さくなり、かつ民事訴訟でも勝訴する可能性は高くなります。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように、刑事告訴を行い、その後に民事訴訟という流れは営業秘密の侵害事件においてよく用いられる手法のようです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><h3 style="text-align: left;"><span style="font-size: large;">・航空保安情報事件</span></h3><div><span style="font-size: large;">この事件は、航空会社であるオリエンタルブリッジ(ORC)の元管理職がトキエアに転職する際に、ORCの保安対策に関する情報を持ち出したというものです。この元従業員は、昨年の8月に書類送検されたものの、「起訴するに足りる証拠がないため」として不起訴となりました。</span></div><div><b><a _blank="" href="https://www.yomiuri.co.jp/national/20230827-OYT1T50182/" target="_blank"><span style="font-size: large;">・オリエンタルエアの航空保安情報を持ち出しか、元管理職を書類送検…新規参入トキエアに入社(読売新聞)</span></a></b></div><div><span style="font-size: large;"><b><a _blank="" href="https://mainichi.jp/articles/20231229/ddl/k42/040/267000c" target="_blank">・ORC元管理職、地検が不起訴に/長崎(毎日新聞)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.ktn.co.jp/news/detail.php?id=20231229001" target="_blank">・航空保安情報持ち出し… 元ORC社員の男性を不起訴処分 【長崎】(KTNテレビ長崎)</a></b></span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">「起訴するに足りる証拠がない」とは具体的にどのようなことなのか報道からは分かりません。しかしながら、書類送検されたときに元管理職は「次の会社の業務に役立つかもしれないと思い、持ち出した」と証言していることから、当該情報の持ち出しはあったのでしょう。また、上記読売新聞の報道によると、「こうした秘匿性の高い情報を閲覧できる社員は限られていたが、男は立場上、閲覧に必要なパスワードを知っていたという。」とあることから、当該情報は秘密管理性を満たしていた可能性があります。</span></div><div><span style="font-size: large;">それにも関わらず、「起訴するに足りる証拠がない」ということは、当該情報は非公知性を満たしていなかった、すなわち誰にでも容易に入手できる情報であったのかもしれません。</span></div><div><span style="font-size: large;">仮にそうであったとすると、非公知の情報と公知の情報とが混在して秘密管理されていることとなり、営業秘密管理として問題のある管理方法であった可能性があります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhtOoVi20eF8sdvjxPNNBPxMu6kKPzrYoCWKPpl4tqJcPBFLqcKIOmBhLTITd0lt1Gt_2XQavoS29XShwNDu_9Yivvf5s1p4_JcQwS6BFJviS7HfX46zCAWBOFwkO0Efz2y83HqzXKnJf9g1qVKtyEWoqtZANzFrw1edYgZOBmF08oMZlm50dc6t5FWpq_O/s4080/PXL_20240101_043801529.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhtOoVi20eF8sdvjxPNNBPxMu6kKPzrYoCWKPpl4tqJcPBFLqcKIOmBhLTITd0lt1Gt_2XQavoS29XShwNDu_9Yivvf5s1p4_JcQwS6BFJviS7HfX46zCAWBOFwkO0Efz2y83HqzXKnJf9g1qVKtyEWoqtZANzFrw1edYgZOBmF08oMZlm50dc6t5FWpq_O/w400-h301/PXL_20240101_043801529.jpg" width="400" /></span></a></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">また、上記読売新聞の報道によると、トキエアは転職者は管理職扱いであったものの、降格処分とし、さらに、トキエア内での当該情報の開示がなかったものの、転職者が作成に関与したトキエアの安全管理規定を作り直したとのことです。</span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、トキエアによるこのような対応は正しかったのでしょうか。そもそも、トキエア内での当該情報の開示がなかったのであれば、安全管理規定の作り直しは過剰な対応であったと思えます。さらにトキエアは、この転職者を降格処分としていますが、書類送検の段階でそのような処分を行うことは果たして適切だったのでしょうか。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">実際、営業秘密侵害の刑事事件は、逮捕や書類送検されても不起訴となる場合が多々あります。不起訴となる理由は公開されませんのでわかりませんが、持ち出したとされる情報がそもそも営業秘密ではない可能性もありますし、持ち出し又は使用そのものが不法行為でない場合もあります。また、転職者も営業秘密に対する理解が不十分であることが多々あるため、「営業秘密を不正に持ち出した」とのような証言を行う可能性があります。しかし、このような証言を行ったとしても、不起訴となる可能性もあります。</span></div><div><span style="font-size: large;">このため、逮捕や書類送検の段階で転職者に対する処分を行うことについては、相当の熟慮が必要であると思います。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><h3 style="text-align: left;"><span style="font-size: large;">・車載電装機器事件</span></h3><div><span style="font-size: large;">この事件は、アルプスアルパインの元従業員であって、ホンダに転職して中国籍の会社員がアルプスアルパインの車載電装機器に関する営業秘密を不正に持ち出したというものです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><b><a _blank="" href="https://www.alpsalpine.com/cms.media/20231206_PR_1f894a1571.pdf" target="_blank">・退職した元従業員の逮捕について(アルプスアルパイン株式会社)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.jiji.com/jc/article?k=2023120500786&g=soc#" target="_blank">・営業秘密の設計データ持ち出し容疑 元社員の中国籍男逮捕―自動車関連先端技術・警視庁(JIJI.COM)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.sankei.com/article/20231205-3CNFIOVGCFKCLCRSN5SJRDEVKA/" target="_blank">・中国籍の男、営業秘密の設計データ持ち出し 警視庁公安部が容疑で逮捕(産経新聞)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.asahi.com/articles/ASRD55JM7RD5UTIL01T.html" target="_blank">・アルプスアルパイン元社員を逮捕 データ不正持ち出し容疑で公安部(朝日新聞)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.yomiuri.co.jp/national/20231205-OYT1T50160/" target="_blank">・営業秘密の設計データ持ち出した疑い、中国籍の男を逮捕…転職先の大手自動車メーカーで利用か(読売新聞)</a></b></span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件の捜査は警視庁公安部が行っています。</span></div><div><span style="font-size: large;">営業秘密侵害事件において警視庁公安部が捜査する場合とは、おそらく中国、ロシア、北朝鮮等の外国政府が関与している事件であると思われます。</span></div><div><span style="font-size: large;">警視庁公安部が捜査した事件としては、中国籍の研究員が産総研から営業秘密を漏洩させた事件や、ソフトバンクの5G基地局に関する情報をロシア外交官に漏洩させた事件があります。</span></div><div><b style="background-color: white; color: #333333; font-family: Arial, Tahoma, Helvetica, FreeSans, sans-serif;"><a _blank="" href="https://www.yomiuri.co.jp/national/20230616-OYT1T50046/" style="color: #336699; text-decoration-line: none;" target="_blank"><span style="font-size: large;">・中国企業に「フッ素化合物」情報漏えいか、逮捕の産総研研究員は「国防7校」兼任時期も(読売新聞)</span></a></b></div><div><b><b><b><a href="https://dot.asahi.com/wa/2020012600013.html" target="_blank"><span style="font-size: large;">・ロシアスパイがソフトバンク社員から機密を盗んだ理由(AERA.dot)</span></a></b></b></b></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このような事件を捜査している警視庁公安部が、アルプスアルパインからの情報漏洩に関する本事件も捜査しているということは、本事件も単なる転職者が前職企業の営業秘密を持ち出したという事件ではないのかもしれません。すなわち、ホンダも被害企業の立場であり、アルプスアルパインだけでなくホンダの営業秘密も持ち出され、海外に流出しているのかもしれません。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-43106121646641205342023-12-26T18:49:00.002+09:002023-12-26T18:49:13.421+09:00判例紹介:元勤務先企業の立場で秘密管理の認識が異なる?<div><span style="font-size: large;">所属している会社が従業員に秘密保持誓約書の提出を求める場合は少なからずあると思います。今回紹介する裁判例(東京地裁平成14年12月26日中間判決 東京地裁平成15年11月13日判決 事件番号:平12(ワ)22457号)は、そのような誓約書を提出しなかったことを持って被告が秘密管理性を否定する主張を行った事件です。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件は、原告会社及び被告会社共に一般労働者(人材)派遣事業等を主たる営業目的として設立された株式会社です。被告会社は、原告の取締役営業副本部長の地位にあった被告Bが設立して設立と同時に代表取締役に就任し、原告の取締役営業部長であった被告Aは被告会社営業部長に就任しています。</span></div><div><span style="font-size: large;">そして、原告会社は、原告の営業秘密である派遣労働者の雇用契約に関する情報及び派遣先の事業所に関する情報を、被告B及び被告Aが不正の目的で使用あるいは被告会社に開示したと主張しました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件において、原告は被告は原告の各種情報の秘密管理性に対する否定において、原告が従業員に求めていた秘密保持の誓約書について下記のように主張しています。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">エ 誓約書について</span></div><div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;"> 原告会社は、従業員全員から誓約書を徴していたことをもって、秘密として管理していたことの根拠の一つとしているようであるが、甲61の誓約書の束に被告小野及び被告大湊のものがないことから、少なくとも被告小野ら両名が誓約書を提出していなかったことは明らかである。このように、従業員全員が誓約書を提出していたわけでないから、一部の従業員から誓約書を徴していたとしても、被告小野ら両名が当該情報を秘密と認識できた根拠とはならない。</span></div></div></blockquote><div><div></div></div><div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhkdCQlvy4Upo3CeT26t6lREM4fnqGTwCqxhGDfJc74ibkbt7pUFUyu_H65yahQWchr562wtr9xSBJ9DtaG6hE_QVte0MyTYtysowK936nzq3bRzYc9T_NfKcZNc8gW-JUUbLpoZA3__noPBxWpMrP9DhPwHatjCETH56O4b3idWR_KwbrzUK0L54vXkor6/s4080/PXL_20231203_035537862.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhkdCQlvy4Upo3CeT26t6lREM4fnqGTwCqxhGDfJc74ibkbt7pUFUyu_H65yahQWchr562wtr9xSBJ9DtaG6hE_QVte0MyTYtysowK936nzq3bRzYc9T_NfKcZNc8gW-JUUbLpoZA3__noPBxWpMrP9DhPwHatjCETH56O4b3idWR_KwbrzUK0L54vXkor6/w400-h301/PXL_20231203_035537862.jpg" width="400" /></a></div></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そして、裁判所は原告会社の派遣スタッフ名簿と被告会社の派遣スタッフ名簿との記載内容について以下のように認めています。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">これらを比較すると、まず、被告会社の別紙「日本人材サービス株式会社登録派遣スタッフ名簿」は、4頁からなり、被告会社への登録順に第1頁~第3頁に各頁62名、第4頁に34名の合計220名の派遣スタッフの氏名等が記載されているところ、このうち原告会社の名簿にも登録されていた者は、第1頁に47名、第2頁に22名、第3頁に5名(第4頁は0名)の合計74名である。このように、始めに近い頁ほど重複者が多い、すなわち被告会社に初期に登録した者ほど重複が多いのは、被告会社が設立当初は、原告会社に登録していた派遣スタッフを移籍ないし重複登録させることで自己の派遣スタッフを集め、その後事業の進展とともに、徐々に原告会社と関わりのない新たな派遣スタッフを募集したためと認められる。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">また、上記によれば、被告会社の派遣先の事業所は全部で26社であるところ、うち原告会社の派遣先と重複しているものは23社に及んでいる。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">さらに、裁判所は、原告による「派遣スタッフ及び派遣先の事業所の情報」の秘密管理性について、コンピュータによる管理とスタッフカード(帳簿)による管理の両方に対して、その秘密管理性を認め、被告が主張する誓約書については以下のように判断しました。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">なお、被告B及び被告Aは、誓約書を差し入れていないが、他の従業員との間に秘密保持契約を締結した当時、被告Bら両名は既に取締役であったためにたまたま誓約書を差し入れていないというにすぎず、上記情報の重要さについては一般の従業員以上に知悉していたというべきであるから、このことをもって秘密として管理されていないとはいえない。</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">このように、営業秘密とする情報に対する秘密管理措置が適切であれば、秘密保持の誓約書等を提出しなかったからといって、非提出者に対する秘密の認識が否定されることはありません。さらに、本事件では、原告会社に所属していたときの被告A,Bの役職も考慮にいれて裁判所は判断しているようです。</span></div><div><span style="font-size: large;">なお、本事件では、被告らは各自6269万円の損害金を原告に支払え、という判決となっています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件からわかることは、秘密保持の誓約書等の提出の有無にかかわらず、営業秘密とする情報の秘密管理措置の実態を鑑みて、当該情報の秘密管理性が判断されるということです。</span></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、会社が従業員に対して秘密保持の誓約書等を提出させていたとしても、秘密管理措置が適切でなければ当該情報の秘密管理性は認められません。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-40649485849934345182023-12-20T18:44:00.001+09:002023-12-20T23:12:18.739+09:00営業秘密の不正使用の範囲<div><span style="font-size: large;">営業秘密とする技術情報の不正使用として、例えば営業秘密が図面である場合に、当該図面に基づいて製品を製造するというような直接的な使用(直接使用)は分かり易いと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">また、営業秘密を参考として、当該営業秘密とされる技術情報の下位概念となるような製品を製造するような行為や当該技術情報を改良して使用する行為も不正使用(参考使用)と言えるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、参考使用の例として、大阪地裁令和2年10月1日判決(事件番号:平28(ワ)4029号)があります(リフォーム事業情報事件)。本事件は、家電小売り業のエディオン(原告)の元従業員(被告P1)がリフォーム事業に係る営業秘密を転職先である上新電機(被告会社)へ持ち出した事件の民事訴訟です。この事件は刑事事件にもなっており、この元従業員は有罪判決となっています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件では、リフォーム事業に係る複数の営業秘密が不正使用されたと判断されています。その中で、リフォーム事業に用いるシステムの情報も営業秘密(資料3-1~3-9)とされており、裁判所は、当該営業秘密を被告P1が不正に持ち出し、下記のようにして上新電機による不正使用もあったと判断しました。なお、HORPシステムはエディオンのリフォーム事業に関するシステムであり、JUMPシステムは上新電機のシステムです。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">JUMPシステム開発の打合せの過程で被告会社からファンテックに対しHORP関連情報その他原告のHORPシステムに関する具体的な資料ないし情報が提供されたことがないこと,JUMPシステムの開発がそれ以前の被告会社のリフォーム事業の業務フローをおおむね踏襲しつつ,一元的な業務管理及び作業手順の標準化等の観点からリフォーム事業に特化した案件管理システムの開発として進められたものと見られること,作業の組織化,情報共有,進捗管理,顧客情報管理といったシステム導入効果は,市販のリフォーム事業向け案件管理システムでもうたわれていたこと,具体的な入力項目や操作方法といった詳細な事項は,既存のシステムとの連携や,社内の関連部署やメーカー,工事業者等の取引先との連携に関する従前の運用方法からの連続性等を考慮しなければならず,事業者ごとに異なり得ることなどに鑑みると,<u>P4等被告会社の関係者が参考としたのは,資料3-1~3-9の各情報のうち,家電量販店としてリフォーム事業を展開するための案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分が中心であったものと推察される。</u></span></blockquote><span style="font-size: large;"><u></u></span></div><div><span style="font-size: large;">上記下線部のように裁判所は、上新電機はエディオンのシステムに関する営業秘密を直接使用したのではなく、参考使用したと判断しているのだと思います。しかも、「案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分」、すなわち当該営業秘密の上位概念にあたる部分を参考にした、という裁判所の判断と解されます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgyi4vDcQ-1xkdsRCAopACNSQ2rvUHu4BOX75y3Ht2XQync0GZw5PfEme-UVH_KKAQQt3kk4pzbq2zMdCa_hFuOckeZH6kqyRYdLHAxYflXf6sLTrMHJ5EkvRHu6shunER-0cBXEcBLyjumh9TNe0P5J7BtDaNopFW09qbikTfTJdPpGzY-GtgbOg2n8i68/s4080/PXL_20231205_230536220.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgyi4vDcQ-1xkdsRCAopACNSQ2rvUHu4BOX75y3Ht2XQync0GZw5PfEme-UVH_KKAQQt3kk4pzbq2zMdCa_hFuOckeZH6kqyRYdLHAxYflXf6sLTrMHJ5EkvRHu6shunER-0cBXEcBLyjumh9TNe0P5J7BtDaNopFW09qbikTfTJdPpGzY-GtgbOg2n8i68/w400-h301/PXL_20231205_230536220.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">一方で、大阪地裁平成25年7月16日判決(事件番号:平成23年(ワ)第8221号)であるFull Function事件では、リフォーム事業情報事件における不正使用とは異なる判断が裁判所によって行われているようにも思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件は、ソースコード(原告ソフトウェア)が営業秘密とされ、被告が原告ソフトウェアを原告退職後も所持していたとのことです。そして、被告による原告ソフトウェアの不正使用について、裁判所は以下のようにして認めませんでした。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(1)原告は,本件争点につき,主張によると,被告は,本件ソースコードそのものを「使用」したものではなく,ソースコードに表現されるロジック(データベース上の情報の選択,処理,出力の各手順)を,被告らにおいて解釈し,被告ソフトウェアの開発にあたって参照したことをもって,「使用」に当たるとし,このような使用行為を可能ならしめるものとして,被告P1及び被告P2による,「ロジック」の開示があったものと主張する。</span></div><div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(2)しかし、上記2に説示したとおり,本件において営業秘密として保護されるのは,本件ソースコードそれ自体であるから,例えば,これをそのまま複製した場合や,異なる環境に移植する場合に逐一翻訳したような場合などが「使用」に該当するものというべきである。<u>原告が主張する使用とは,ソースコードの記述そのものとは異なる抽象化,一般化された情報の使用をいうものにすぎず,不正競争防止法2条1項7号にいう「使用」には該当しない</u>と言わざるを得ない。</span></div></div></blockquote><div><div></div></div><div><span style="font-size: large;">上記のように裁判所は、営業秘密であるソースコードを「そのまま複製した場合や,異なる環境に移植する場合に逐一翻訳したような場合などが「使用」に該当する」とのように述べ、「ソースコードの記述そのものとは異なる抽象化,一般化された情報の使用」は不正使用ではないと判断しているようです。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように、「ソースコードの記述そのものとは異なる抽象化,一般化された情報の使用」は不正使用ではないとする判断は、リフォーム事業情報事件とは真逆の判断のようにも思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、営業秘密を「抽象化、一般化」した情報は、凡そ公知の情報であり、そもそもが営業秘密とはなり得ない情報であるとも思われます。このため、リフォーム事業情報事件において被告が不正使用したされる「リフォーム事業を展開するための案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分」がどのような情報であるかは不明ですが、仮に公知の情報と言える内容であれば、リフォーム事業情報事件における裁判所の判断は、誤りであるようにも思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように、営業秘密の上位概念を参考にする場合には、参考にする内容が公知の情報となっている可能性が高いと思われ、そのような使用をも不正使用とすることは適切でないと考えます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">なお、Full Function事件において裁判所は、下記のようにも判断しています。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(3)原告は,原告ソフトウェアがdbMagic,被告ソフトウェアがVB2008と,全く異なる開発環境で開発されていることから,本件ソースコード自体の複製や機械的翻訳については主張せず,本件仕様書(乙1)に,本件ソースコードの内容と一致する部分が多いことから,被告P2らにおいて,本件ソースコード自体を参照し,原告ソフトウェアにおけるプログラムの処理方法等を読み取って,これに基づいて被告ソフトウェアを開発した事実が認められる旨を主張する。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">しかしながら,前述のとおり,企業の販売,生産等を管理する業務用ソフトウェアにおいて,機能や処理手順において共通する面は多いと考えられるし,原告ソフトウェアの前提となるエコー・システムや原告ソフトウェアの実行環境における操作画面は公にされている。また,<u>被告P2は,長年原告ソフトウェアの開発に従事しており,その過程で得られた企業の販売等を管理するソフトウェアの内部構造に関する知識や経験自体を,被告ソフトウェアの開発に利用することが禁じられていると解すべき理由は,本件では認められない。</u></span></div></blockquote><div><span style="font-size: large;"><u></u></span></div><div><span style="font-size: large;">このような裁判所の判断は非常に重要でしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">仮に、従業員等が業務の過程で得た一般的な知識や経験自体も営業秘密であり、これらを転職先等で使用することを営業秘密の不正使用であるとすると、従業員にとって転職を躊躇させる一因となります。このため、営業秘密の不正使用の範囲を必要以上に拡大して解釈されることは抑制されるべきと考えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">また、他社との共同研究開発等において他社から営業秘密を開示された場合に、当該営業秘密から知り得た技術情報を「一般化、抽象化」した情報(参考情報)を使用することが営業秘密の使用とされると、例えば共同研究開発終了後に自社で参考情報を使用した研究・開発を行うことを躊躇する事態になりかねません。</span></div><div><span style="font-size: large;">これらの点からも、リフォーム事業情報事件における裁判所の判断よりも、Full Function事件における裁判所の判断の方が適切ではないかと思います。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-18370344706287271702023-12-10T23:34:00.001+09:002023-12-10T23:34:15.368+09:00秘密管理性の判断基準が低い情報(ソースコード)<span style="font-size: large;"><a href="https://www.xn--zdkzaz18wncfj5sshx.com/2023/11/blog-post_27.html" target="_blank">前回のブログ</a>では、営業秘密における秘密管理性の判断基準を緩和してもよいのではという個人的な意見を述べました。とはいえ、実際には秘密管理性の判断が緩いと思える裁判例も存在します。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">・Full Function事件</span><div><span style="font-size: large;">(大阪地裁平成25年7月16日判決 平成23年(ワ)第8221号)</span></div><div><span style="font-size: large;">この事件は、原告の元従業員であった被告P1及び被告P2が原告の営業秘密である本件ソースコード等を被告会社に対し開示し、被告会社が製造するソフトウェアの開発に使用等したと原告が主張しました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そして、本件ソースコードに対する原告主張の秘密管理措置は以下のようなものです。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(ア)保管場所</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">本件ソースコードの保管場所である原告の開発用サーバには,開発担当者のみがアクセスできるようになっており,従業員ごとにID,パスワードが設定されていた。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(イ)従業員の秘密保持義務</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">原告の就業規則には秘密保持条項が設けられ(甲2),同就業規則は従業員に周知されていた。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(ウ)原告の情報管理体制</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">原告は,従業員個人所有のパソコンへのデータコピー禁止,電子メールの監視,ファイルサーバでのデータの一元管理などの措置を執っていた。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(エ)秘密であることの表示について</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">本件ソースコード自体に秘密であることの表示はされていなかったが,ソフトウェア開発に携わる者であれば,ソースコードを秘密にすることは常識である。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(オ)顧客に対する関係について</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">原告ソフトウェアの顧客の環境にdbMagicの開発環境及び本件ソースコードが保存されることはあるが,その場合,顧客には開示されないパスワード設定がされていた。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;"> なお,原告ソフトウェアの以前のバージョン(V8)で,パスワードが設定されないものもあったが,その場合も,大多数の顧客が閲覧可能な状態であったことはない。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">上記(エ)で原告自ら主張しているように、本件ソースコード自体に秘密であることの表示はされていませんでした。(オ)に関しては、原告と顧客との関係なので、これが原告と従業員との間における本件ソースコードに対する秘密管理措置となりえるかは微妙なところです。このため、原告は(ア)~(オ)のような秘密管理措置を主張していますが、(ア)と(イ)が本件ソースコードに対する実質的な秘密管理措置とも思われ、そうであれば本件ソースコードに対する秘密管理措置の程度は低いと考えられます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiYUn8J5Zw8QTkwZzIgIekI2aBB4M5F6bzL5a_DG2XaSMmoQhhOXT1l7mMu70GQLc9riXHP42VcdiPYa4PLZJJw-l4TT0XIepCSj8CAFw6ZmNYu8kds2pde4SYEhMsCwl2nM4_o8v6MCoWvRkGSMiQtMa22Bln7v0WUO_cxj5DiW_BW8-KkQUF03w8-Vvki/s4080/PXL_20231113_060719890.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiYUn8J5Zw8QTkwZzIgIekI2aBB4M5F6bzL5a_DG2XaSMmoQhhOXT1l7mMu70GQLc9riXHP42VcdiPYa4PLZJJw-l4TT0XIepCSj8CAFw6ZmNYu8kds2pde4SYEhMsCwl2nM4_o8v6MCoWvRkGSMiQtMa22Bln7v0WUO_cxj5DiW_BW8-KkQUF03w8-Vvki/w400-h301/PXL_20231113_060719890.jpg" width="400" /></a></div><br /></div><div><span style="font-size: large;">このような原告主張の秘密管理措置に対して裁判所は、下記のようにソースコードの一般的な認識を示したうえで、ソースコードに対する秘密管理措置を認めました。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">一般に,商用ソフトウェアにおいては,コンパイルした実行形式のみを配布したり,ソースコードを顧客の稼働環境に納品しても,これを開示しない措置をとったりすることが多く,原告も,少なくとも原告ソフトウェアのバージョン9以降について,このような措置をとっていたものと認められる。そうして,このような販売形態を取っているソフトウェアの開発においては,通常,開発者にとって,ソースコードは営業秘密に該当すると認識されていると考えられる。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">前記1に認定したところによれば,本件ソースコードの管理は必ずしも厳密であったとはいえないが,このようなソフトウェア開発に携わる者の一般的理解として,本件ソースコードを正当な理由なく第三者に開示してはならないことは当然に認識していたものと考えられるから,本件ソースコードについて,その秘密管理性を一応肯定することができる</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">このように、本事件では、ソースコードは一般的に営業秘密に該当するという原告の主張を認める形で、裁判所は、本件ソースコードの管理は必ずしも厳密ではないとしつつも、本件ソースコードの秘密管理性を認めました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">一方で、本事件は顧客情報についても争われています。顧客情報の秘密管理措置に対して原告は下記のように主張しています。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(ア)保管場所</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">本件顧客情報は,原告のサーバの販売管理システム上の情報であり,従業員ごとにID及びパスワードを設定していた。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(イ)従業員の秘密保持義務</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">原告の就業規則には秘密保持条項が設けられ(甲2),同就業規則は従業員に周知されていた。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(ウ)原告の情報管理体制</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">原告は,従業員個人所有のパソコンへのデータコピー禁止,電子メールの監視,ファイルサーバでのデータの一元管理などの措置を執っていた。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">上記(ア)~(ウ)は、本件ソースコードの秘密管理措置と同じであり、本件顧客情報と本件ソースコードの秘密管理措置との違いは、本件ソースコードの(エ)、(オ)がないことです。これに対して<span style="background-color: white;">、裁判所は、下記のようにして本件顧客情報の秘密管理性を認めませんでした。</span></span></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">本件全証拠をみても,原告主張にかかる原告の販売管理システムについて,秘密の管理に関する具体的機能,内容,運用方法(どの職種の従業員にいかなる権限を付与しているのか等)を明らかにする的確な証拠はなく,結局,具体的な秘密管理の方法は不明であったといわざるを得ない。</span></div></blockquote><div></div><div><span style="font-size: large;">このように、同じような秘密管理措置を行っていても、ソースコードの秘密管理性は認められる一方で、顧客情報の秘密管理性は認められないという裁判所の判断となっています。この理由は、❝開発者にとって,ソースコードは営業秘密に該当すると認識されていると考えられる。❞からのようです。一方で、顧客情報に対しては、営業秘密に該当すると認識はされていないとの裁判所の判断なのでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">なお、本事件では、本件ソースコードの営業秘密性は裁判所において認められたものの、被告による使用は認められず、被告らが本件ソースコードを開示,使用して不正競争行為を行ったとは認定されませんでした。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">また、本事件と同様に、ソースコードの一般的な認識として❝ソフトウェアのソースコードは,一般に非公開とされているもの。❞と認定した裁判例として、大阪地裁平成28年11月22日判決(事件番号:平成25年(ワ)第11642号)もあります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このように、ソースコードに対しては、❝ソースコードである❞という理由によりその秘密管理性を認めた裁判例があります。これは例外とも思え、Full Function事件では、ソースコードと同様の秘密管理を行っていた顧客情報の秘密管理性は認められていません。</span></div><div><span style="font-size: large;">個人的には、積極的に公開しない限り、顧客情報も一般的には秘密とされる情報であると思うのですが、顧客情報の秘密管理措置が認められない理由は判然としません。しかしながら、ソースコードのように❝一般的❞な認識によって秘密管理措置が認められる情報が存在するのであれば、ソースコードと同様に秘密管理措置が認められる情報(例えば顧客情報や非公知の技術情報等)の幅が広げられてもよいのでは無いかと思います。</span></div><div><br /></div><div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-28864885949695614622023-11-27T19:17:00.001+09:002023-11-27T19:17:28.763+09:00秘密管理性の判断基準を低くしてもよいのでは?<div><span style="font-size: large;">今回は個人的な意見なので、営業秘密を理解するうえであまり参考にはなりません。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><span style="font-size: large;">営業秘密は、秘密管理性、有用性、非公知性の三要件を満たした情報です(不正競争防止法第2条第6項)。訴訟となった場合には営業秘密であると主張した情報であっても、その秘密管理性が認められないとして、裁判所によって当該情報の営業秘密性が認められない場合が多々あります。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">この秘密管理性の程度としては、例えば、<a href="https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31ts.pdf" target="_blank">営業秘密管理指針</a>では下記のように説明されています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">秘密管理性要件が満たされるためには、営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、営業秘密とする情報に対しては、㊙マークを付したり、パスワード管理等を行うことにより、当該情報が秘密であることを従業員等に明確に示す必要があるとされています。そして、裁判所における秘密管理性の判断もこれと同様となっています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、秘密管理性に対するこのような判断基準は妥当なのでしょうか。</span></div><div><span style="font-size: large;">例えば、一般的に企業の顧客情報等は秘密とされる情報であると多くの人は認識しているかと思います。特に、顧客情報として管理されている個人情報はなおさらのことでしょう。また、自社サービス等の料金表も公にしていない情報であれば一般的に秘密とされる情報と認識されるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">ところが、このような情報であっても上記のような秘密管理措置がなされていない情報は営業秘密として認められません。このため、秘密管理措置が認められない情報を持ち出して転職等したとしても、不正競争防止法で定められた責任を負うことはありません。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">例えば、サロン顧客名簿事件(知財高裁令和元年8月7日判決 平成31年(ネ)10016号)では、裁判所は「前記前提事実のとおり,被控訴人は,退職後,控訴人従業員から,顧客2名の顧客カルテの施術履歴が記載された裏面部分を撮影した写真を送信させた(施術履歴の入手)」とのように、まつげエクステサロンを営む控訴人(一審原告)から被控訴人(一審被告)が顧客カルテの施術履歴を持ち出したことを裁判所は認めながらも、当該顧客カルテの秘密管理性を認めなかったため、控訴人の損害賠償請求も差し止め請求も認められませんでした。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">一方で、上記のような施術履歴も個人情報であり、自由に持ち出してよいものではなく、「一般的に秘密とされる情報」とのように考える人が多いかと思います。また、被控訴人は退職後に当該施術履歴を入手したわけですから、ビジネス的に重要な情報であると認識していたとも考えられます。</span></div><div><span style="font-size: large;">また、同様に例えば取引先から提出された見積もりや料金表等も一般的には秘密とされる情報と考えられ、このような情報を他の取引先に開示等することは妥当ではないと考える人も多いでしょう。また、自社開発した化学製品の組成等も、企業が自ら公知にしていなければ一般的には秘密とされる情報でしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、現在の不正競争防止法では、上記のように営業秘密としての秘密管理性を満たすためには「営業秘密保有企業の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示される」必要があり、仮にこのような秘密管理措置が取られていなければ、当該企業に許可なく持ち出したり、開示しても不正競争防止法違反とはなりません。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ところが、多くの企業、特に規模の大きい企業は無数の情報が常に発生し、そのような情報の全てを精査して「秘密管理措置」を行うことは難しいでしょう。また、作成途中の情報に関しては、秘密管理の対象にならず、秘密管理措置も行われていない場合も多いかと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">その結果、本来は営業秘密とするべき情報が秘密管理の対象から漏れ、退職者等によって許可なく外部に持ち出されている可能性があります。そして、退職者等によって許可なく外部に持ち出されれた情報の存在を検知しても、秘密管理措置がなされていないために、何ら対応できないということもあるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdQ7jpOPkPUSqQNtUOaet_xu9Cr9KPRPp2gIa81bpin9Z0If1Z0B9bmd_34X8KNtYskovZs0Tj4D1mxelFEQHY9DQ7FGZBQ0vCvC8ulu8voU7UeLMwBDB6xO54Q-CNwtw8lyHftiJXV8ac7gRezGwZ646pshoaxhyphenhyphen4UY3ybYHwlC2JvmvITby3Kjwf_oZz/s1479/1699854799936.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="1109" data-original-width="1479" height="300" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjdQ7jpOPkPUSqQNtUOaet_xu9Cr9KPRPp2gIa81bpin9Z0If1Z0B9bmd_34X8KNtYskovZs0Tj4D1mxelFEQHY9DQ7FGZBQ0vCvC8ulu8voU7UeLMwBDB6xO54Q-CNwtw8lyHftiJXV8ac7gRezGwZ646pshoaxhyphenhyphen4UY3ybYHwlC2JvmvITby3Kjwf_oZz/w400-h300/1699854799936.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">ここで、上記のように秘密管理措置が比較的厳密に判断される理由として、営業秘密の不正な持ち出し等は民事的責任だけでなく、刑事的責任も負う可能性が考慮されているからだと思います。すなわち、民事的責任は主に損害賠償や差し止めであるものの、刑事的責任は禁固刑となり得る可能性もあり、また、メディア等によって不正に持ち出し等した者の個人名が明らかにされることで社会的制裁を受ける可能性があり、刑事的責任は民事的責任よりも重いものとなり得ます。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように、営業秘密の不正な持ち出し等は刑事的責任も負う可能性があるため、営業秘密とする情報は従業員等が明確に認識できなければならない、ということです。</span></div><div><span style="font-size: large;">一方で、企業にとっては、不正取得等した者に対して刑事罰が与えられるよりも、当該営業秘密の使用差し止めや当該営業秘密の不正使用による損害賠償等の方が重要とも考えられます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そこで、上記のことを鑑みると、民事的責任を負う場合における営業秘密の秘密管理性の判断基準を緩和してする一方で、刑事的責任を負う場合における営業秘密の秘密管理性の判断基準を現在のとしてもよいのではないかと思います。もっというと、不正競争防止法において、民事的責任を負う営業秘密と刑事的責任を負う営業秘密とを区別する規定を設けてもよいのではないかと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">これにより、秘密管理措置が甘いものの「一般的には秘密とされる情報」を許可なく持ち出し等した者は民事的責任を負う一方で、刑事的責任は負わないこととなります。その結果、企業にとって自社が秘密としたい情報が守られる範囲も広くなります。</span></div><div><span style="font-size: large;">一方で、不正な持ち出し等が行われた場合により重い責任である刑事罰の適用をも視野に入れた営業秘密に関しては、従業員等に対して明確な秘密管理措置を行う、ということになります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">仮に営業秘密の秘密管理性を上記のような判断基準とすると、営業秘密性の判断において非公知性が相対的に重要になるかと思います。すなわち従業員等にとっては、非公知の自社情報等を許可なく持ち出したり使用等してはいけない、という一般的に秘密とされる情報の考え方がそのまま不正競争防止法における営業秘密の概念となり得ます。このような考え方は、現在のように秘密管理性を重視した営業秘密の概念よりも、理解しやすい概念のようにも思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">上記のように、「一般的には秘密とされる情報」まで営業秘密の概念を広げると、「一般的」の解釈が議論となるでしょう。また、営業秘密の開示が先従業員の場合と取引先の場合とでは「一般的」の解釈が異なるかもしれません。仮に取引先に開示した情報であり、かつ非公知の情報のほとんど営業秘密になり得るとしたら、情報の開示先企業は取引先等から開示された情報に対して必要以上に神経を尖らせる必要が生じるかもしれません。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように「一般的には秘密とされる情報」まで営業秘密の概念を広げることで、その解釈が争点となり得ますが、現在の不正競争防止法における営業秘密に対する秘密管理性の判断基準が未だ厳しい一方で、情報の持ち出しが容易である現状を考慮すると、「営業秘密」の概念を広げる必要があると考えます。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-12713510506910145862023-11-20T23:18:00.000+09:002023-11-20T23:18:08.683+09:00判例紹介:クレープミックス液の配合比率の有用性<div><span style="font-size: large;">顧客情報や取引先情報、経営情報等の営業情報は、一般的に何らかの雑誌等に記載されるものではなく非公知の場合が多いため、有用性も認められ易い情報です。</span></div><div><span style="font-size: large;">一方、営業秘密とする技術情報の有用性判断は、個人的には難しいところもあると思っています。様々な技術情報は、技術雑誌、特許文献、インターネットの情報等にも記載されており、それとの対比によって判断されるものであるためです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">今回紹介する東京地判平成14年10月1日判決(事件番号:平成13(ワ)7445)では、クレープミックス液の配合等の有用性について争われています。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件において原告は、原告が使用するマニュアルの部分に記載されたクレープミックス液の材料及び配合比率は原告の「営業秘密」に該当するところ、被告Aが原告会社在職当時に原告から示された上記営業秘密を、不正の利益を得る目的で被告ライトクロスの主宰するフランチャイズチェーンにおいてマニュアルに記載して使用していると主張しています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そして、原告は営業秘密とする情報の内容を下記のように主張しています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">クレープミックス液の材料及びその配合割合(すなわち原告配合)そのものが原告の営業秘密であり、とりわけ粉10グラムに対する水分(牛乳及び水)の量が16ないし17ccである点、牛乳と水を1対1の割合で配合した点、及び、調味料としてリキュールを配合した点などが他に見られない特徴である</span></blockquote><p><span style="font-size: large;">なお、この配合による効果として「独自の質感、食感、味わいを出しつつ、焼き上がったクレープが冷めても美味しさが失われることなく、また、冷めてから折り曲げてもクレープパテが切れることなく中に具を包むことを可能にしている」 を原告は主張しています。</span></p></div><div><span style="font-size: large;">これに対して裁判所は、上記情報の営業秘密性について以下のように判断しています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">原告提出の証拠(甲3ないし25)によっても、クレープミックス液の主たる材料として、ミックス粉、卵、牛乳ないし水(あるいはその両方)を用いることは公知であると認められる上に、原告が原告配合の特徴であると主張する上記の諸点も、同配合が営業秘密であることを根拠付けるものと認めるには足りない。すなわち、〈1〉粉10グラムに対する水分(牛乳及び水)の量が16ないし17ccである点、〈2〉牛乳と水の配合割合が1対1である点、及び、〈3〉調味料としてリキュールを配合した点については、本件で提出された全証拠によっても、これらの点がクレープの品質を有意に向上させることの個別の立証がされていないばかりか、これら諸点を兼ね備えることで、クレープの品質が有意に向上することの立証もされていない。</span></blockquote></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-1O3jC2FuGvNyznkC2qpcQzfDfSYodCcFGcEzIAB441dBXppc3SR_j_hKEdxruPUqbapgwyfrNsfOYx7cpn3JE-Rwd3pba83R4axAb_KckNX6IDbpKuM-HwPGSLKZ-aXLjOnUWFpCQ6BBfSz0zvueIY6nOyGQHKiMKeNci2SApfs-f-K1OIVzTFcjL1zt/s4080/PXL_20231022_034923676.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-1O3jC2FuGvNyznkC2qpcQzfDfSYodCcFGcEzIAB441dBXppc3SR_j_hKEdxruPUqbapgwyfrNsfOYx7cpn3JE-Rwd3pba83R4axAb_KckNX6IDbpKuM-HwPGSLKZ-aXLjOnUWFpCQ6BBfSz0zvueIY6nOyGQHKiMKeNci2SApfs-f-K1OIVzTFcjL1zt/w400-h301/PXL_20231022_034923676.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">より具体的には、裁判所は下記のように判断しています。</span></div><div><span style="font-size: large;">〈1〉の点について:このような配合割合は、一般にホットケーキより薄目で、食感がクレープに比較的近いと思われるパンケーキにおいては珍しくない。</span></div><div><span style="font-size: large;">〈2〉の点について:原告は、この配合割合が製造コストを一定の線に保ちつつ、冷めても味の落ちない食感の良いクレープを製造するために最適な配合である旨主張するものの、牛乳と水を1対1の割合で混ぜたからといって、それがクレープの品質にとって、どのように、どの程度有用であるのかは、証拠上一切明らかでない。</span></div><div><span style="font-size: large;">〈3〉の点について:ケーキ等の焼き菓子類の原料に香料としてリキュール類を加えることがあることは、料理法として広く知られたものである。リキュールを特定の種類のものに限定しておらず、1キログラムの粉に対してキャップ1/2程度の量のリキュールを加えるとすることについては、これが原告配合における独創であり、また、当該配合比率をとることによって、できあがったクレープの食感ないし風味にどのような効果を生ずるものかは、証拠上全く明らかではない。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">さらに、〈1〉、〈2〉については、下記のようにも判断されています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">上記〈1〉、〈2〉の点については、むしろ証拠(乙9、乙16の2、乙17の2、乙22、乙23及び乙28)に照らせば、被告が主張するとおり、焼き上がったクレープの品質は、主としてミックス粉自体の成分・配合によって決定されるものであって、粉に対する水分(牛乳及び水)の量や、牛乳と水の配合割合も、個別の粉の成分との関係を離れて一般的に成立するような普遍的なレシピが存在し得るものではないと認められる。すなわち、乙17(日清製粉(株)首都圏営業部作成の平成13年6月20日付け比較検査結果報告書)によれば、異なる4種類の粉(ミックス粉3種類、小麦粉1種類)を用いて、いずれも原告配合に従ってクレープを製造したところ、粘度を示すcps値(水をゼロとして、数値が高いほど、粘度が強いことを示す。)がすべて異なり、食感、風味、焼色もすべて異なったことが認められる。</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">本事件では、原告が営業秘密であると主張している情報について、主として、その効果が明らかでないとしてその有用性が認められていないと考えられます。確かに、原告が主張している情報は、一般的なレシピの範囲を超えるものでは無いように思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">さらに、営業秘密とする情報の特定も十分ではないようにも思えます。例えば、ミックス粉の種類、リキュールの種類が特定されていません。もしかすると、ミックス粉やリキュールの種類を適切に特定すると、原告の主張する効果が表れて営業秘密として認められたのかもしれません。</span></div><div><span style="font-size: large;">このように、技術情報を営業秘密として管理するのであれば、その効果が発揮される程度に技術情報を特定する必要があります。そうしないと、営業秘密としての有用性が認められル可能性は低いと思われますし、公知の情報との差異も認められ難いでしょう。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-89387131719862290292023-11-09T00:08:00.002+09:002023-11-18T12:18:28.289+09:00判例紹介:「営業秘密の不正使用」という虚偽の流布<span style="font-size: large;">今回紹介する裁判例(東京地裁令和5年3月23日判決 事件番号:令3(ワ)7624号)は、被告が取引先等に対して原告会社が被告の製品を模倣した製品を販売するという虚偽の事実を流布したとして、原告が被告に謝罪広告文の掲載や損害賠償を請求したものです。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">原告会社は、被告の取締役であった原告Bが代表取締役を務め、硬度計等の工業用試験機の開発、販売等をおこなっており、被告とは競争関係にあります。そして、原告会社は、自社製品のラインナップの一部として台湾企業であるKYF社から同社製品の硬度計を輸入販売しようとしていたところ、被告が原告に対して警告文を送りました。</span></div><div><span style="font-size: large;">警告文の内容は、KYF社が違法にコピーした被告の硬度計と酷似の硬度計の輸入販売を行うことは不正競争防止法に違反するとのようなものです。</span></div><div><span style="font-size: large;">さらに、被告は、1000社を下らない取引先に対して「上記の様な事情・経緯をご賢察の上、今後Bより取引の依頼等ございましたら、何卒適切にご対処頂きますよう、切にお願いする次第です。」とのような文章を電子メールに添付して送付しました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そして、被告は、本裁判において下記のように主張しましたが、被告の主張を裁判所は認めることなく原告が勝訴し、被告に対して原告会社への770万円の支払い等を命じています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc;"><span style="font-size: large;">KYF社製の硬度計は、被告がKYF社に示した営業秘密である被告製品情報を使用して製造された物であるから、不正の利益を得る目的等によりこれを使用したKYF社による製造行為は不競法2条1項7号の不正競争に当たり、原告会社がKYF社製の硬度計を輸入する行為は同項10号の不正競争に当たる。本件文書はこの事実を摘示したものであり、虚偽の事実の流布には当たらない。</span></span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">なお、裁判所は「原告会社が輸入販売しようとしたKYF社の製品が被告製品情報を使用して製造された物であると認めるに足りる証拠はない。」とのように不法行為が確認されなかったことを明確に述べています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-qil7PfABmVlVUEmB1XcW_HtYX7G852gYpjjLvy02GfUmvpXBt9mWjVi1ngqlo6M9Gul1auyVTpYh5XFla7p0yf03Ibw5N9xFisIewZXzlmlLJup1G0fYq6xFewkk5U63gt-uP3szSTSRVlTFWikxb8y6sUd82afaQJMYb-RLzxUvCu9AsS_Fp-l7ElGg/s4080/PXL_20230924_050842533.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh-qil7PfABmVlVUEmB1XcW_HtYX7G852gYpjjLvy02GfUmvpXBt9mWjVi1ngqlo6M9Gul1auyVTpYh5XFla7p0yf03Ibw5N9xFisIewZXzlmlLJup1G0fYq6xFewkk5U63gt-uP3szSTSRVlTFWikxb8y6sUd82afaQJMYb-RLzxUvCu9AsS_Fp-l7ElGg/w400-h301/PXL_20230924_050842533.jpg" width="400" /></span></a></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そもそも他社が自社の営業秘密を不正に使用しているとの文章を取引先に送付することに意味があるのか疑問に思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">このような文章が送付された取引先は、本当に営業秘密が不正使用されたことを確認することはできません。どのような技術情報が営業秘密であるかを知る術がないからです。また、仮に営業秘密とする技術情報を取引先が知った時点で、当該技術情報は公知となり営業秘密ではなくなります。そのような事態は営業秘密の保有企業が最も望まない事態でしょう。そして、本事件のように、虚偽の流布となれば自社が大きな損害を負うこととなります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">また、本事件では、被告が主張する被告製品情報の秘密管理性も認められていません。被告は、被告製品の秘密管理性について複数の主張を行っていますが、その全てが裁判所によって否定されています。</span></div><div><span style="font-size: large;">そのなかで、被告が定めた秘密区分規定に基づく主張があります。それに基づく被告の主張は以下のようなものです。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc;"><span style="font-size: large;">被告は、社内文書に関する秘密区分規定(以下「被告規定」という。)において、技術的ノウハウを具体的に示したものは社長の許可なく社外に提示してはならない秘密に当たると定めている。被告製品情報1は、成文化こそされていないが、技術的ノウハウに相当する情報であるから、被告規定に照らし、被告製品情報1が秘密として管理されていることは被告従業員にとって明らかであった。</span></span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">これに対して、裁判所は「被告が被告規定を従業員に周知していたことを示す的確な証拠は見当たらない。」と認定したうえで、下記のようにも述べています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc;"><span style="font-size: large;">仮に被告が被告規定を従業員に周知していたとしても、証拠(乙14)によれば、被告規定の適用範囲が「当社で発行および受領する文書」に限られること(1項)、社外秘扱いの対象となる情報は「技術的ノウハウを具体的に示したもの」であること(2項2)が明記されている。そうすると、成文化されていない調整方法である被告製品情報1は、これに当たらないこととなる。そのため、被告製品情報1については、これに接した被告従業員が被告規定に照らして秘密として管理されていると認識できたとはいえない。</span></span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">裁判所が述べているように、企業が従業員に対して規定(就業規則等)を定め、その中でどのような情報を秘密とするかを定めているのであれば、企業はそれを守らなければなりません。そうしないと、裁判所が述べているように従業員が秘密として管理されていることを認識できないためです。</span></div><div><span style="font-size: large;">企業が就業規則等の規定を無視して、所定の情報を一方的に営業秘密であると主張することは本事件のように認められることはないため、企業が就業規則等の定めに従って秘密管理を行う必要があります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><div style="text-align: center;"><span><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-13738322025913939482023-10-30T18:45:00.002+09:002023-11-16T23:44:11.948+09:00公知の情報の組み合わせの営業秘密性<span style="font-size: large;">営業秘密は、秘密管理性、有用性、及び非公知性の三要件を全て満たした情報であり、たとえ秘密管理性を満たした情報であっても、公知の情報は営業秘密とはなり得ません。一方で、複数の公知の情報の組み合わせの非公知性が認められて営業秘密となり得るかは、裁判所の判断が分かれる可能性がありそうです。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">まずは、塗料配合情報流出事件の刑事事件判決(名古屋地裁令和2年3月27日、事件番号:平28(わ)471号 ・ 平28(わ)662号)での裁判所の判断です。この事件は、塗料の製造販売等を目的とする当時の日本ペイント株式会社の子会社の汎用技術部部長等として、被告人が商品開発等の業務に従事していました。そして、被告人は、日本ペイント社の競合他社である菊水化学工業株式会社に営業秘密(塗料の原料の配合)を漏えいし、自身も同社の取締役に就任したというものです。この被告人は、懲役2年6月(執行猶予3年)及び罰金120万円となっています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件において被告人の弁護人は、「本件各塗料の原料の情報は特許公報等の刊行物から容易に推測が可能であるので,非公知性が失われている」と主張しました。</span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、裁判所は、下記のように弁護人の主張を認めませんでした。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc;"><span style="font-size: large;">・・・本件各塗料の配合情報に含まれる原料は,特許公報等の刊行物に掲載されているものの,一つの刊行物に配合情報としてその全てが掲載されているわけではなく,関連する多数の刊行物を検索した上,複数の刊行物の情報を組み合わせて初めて本件各塗料の配合情報に含まれる原料を推測することができるにすぎない。また,<u>刊行物に掲載されている複数の原料のうちどの原料が本件各塗料の配合情報を構成するかを推測することには相応の困難がある。</u>そうすると,特許公報等の刊行物の情報から本件各塗料に含まれる原料を全て特定することは不可能でないにしても相当な労力と時間を要するといえる。したがって,特許公報等の刊行物に本件各塗料の原料の情報が記載されているからといって,本件配合情報の非公知性は失われない。</span></span></blockquote></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEizDJalKpmEcnU4os83wlESWwp04FYTrl-U6uJXr1uFhZWVFCQp2Irn4jYgWgFEBcgFynTicORPNb3NK_Ji4fNEPOut1ybz4x-kQcrjrNELt8k7F5gfTOPwBJV-IsPLUBQvY7Nfe1GJHY5U6NcusrPbrTXkYhRyDuC4sIYpmBIGPQjXkHqms7Bl9x8KvW3C/s4080/PXL_20231022_034730668.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEizDJalKpmEcnU4os83wlESWwp04FYTrl-U6uJXr1uFhZWVFCQp2Irn4jYgWgFEBcgFynTicORPNb3NK_Ji4fNEPOut1ybz4x-kQcrjrNELt8k7F5gfTOPwBJV-IsPLUBQvY7Nfe1GJHY5U6NcusrPbrTXkYhRyDuC4sIYpmBIGPQjXkHqms7Bl9x8KvW3C/w400-h301/PXL_20231022_034730668.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">一方で、東京地裁平成30年3月29日判決(事件番号:平成26年(ワ)29490号)の高性能多核種除去設備事件では、裁判所は一見、日本ペイントデータ流出事件とは逆の判断をしているように思えます。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc;"><span style="font-size: large;">上記各情報は,汚染水処理における各種の考慮要素に関わるものであって,汚染水処理において,当然に各情報を組み合わせて使用するものであり,それらを組み合わせて使用することに困難があるとは認められない。また,<u>上記各情報を組み合わせたことによって,組合せによって予測される効果を超える効果が出る場合には,その組合せとその効果に関する情報が公然と知られていない情報であるとされることがあるとしても,上記各情報の組合せについて上記のような効果を認めるに足りる証拠はない。したがって,これらの情報を組み合せた情報が公然と知られていなかった情報であるとはいえない。</u></span></span></div></blockquote><div><div></div></div><div><span style="font-size: large;">また、AI技術を用いた自動会話プログラムをまとめた情報を営業秘密とした東京地裁令和4年8月9日判決(事件番号:令3(ワ)9317号))でも、当該情報に対して「平成29年前後の公知の情報を寄せ集めたものにすぎず、AIに関する初歩的な情報にすぎないものであり、そもそも秘密情報として管理されるべきものではなかったことが認められる。」と裁判所によって判断されています。</span></div><div><span style="font-size: large;">この事件は、原告によって控訴(知財高裁令和5年2月21日(事件番号:令4(ネ)10088号)されていますが、下記のように控訴審ではより明確に非公知性が否定されています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc;"><span style="font-size: large;">(8) 原判決30頁の17行目の「本件データの」から同頁21行目の「られる。」までを「本件データは、AIについての特段の知識を有していなかったAが、インターネット上に公開されている記事又は情報を確認しながら、平成29年前後の公知の情報を寄せ集めて作成したものであって、その内容はAIに関する公知かつ初歩的な情報であるから、不正競争防止法2条6項の「公然と知られていないもの」に当たらない。」と改め、その末尾で改行する。</span></span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">以上のように、複数の公知の情報の組み合わせの非公知性が認められるか否かは裁判所の判断が分かれるているようにも思えます。より具体的には、非公知性が認められる場合とは、高性能多核種除去設備事件で示されているように「その組合せとその効果に関する情報が公然と知られていない」場合と考えられます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、塗料配合情報流出事件では「複数の刊行物の情報を組み合わせて初めて本件各塗料の配合情報に含まれる原料を推測することができるにすぎない。」として配合情報の非公知性を認めていますが、仮に、このような配合情報に非公知性がないとすると、物の配合情報はほとんどが営業秘密ではなくなってしまい、企業にとって不合理な不合理な判断となり得るでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">一方で、労力と時間を要せずにインターネットの検索や文献調査等によって集めた情報は、誰でも取得できるものと言え、そのような情報にまで営業秘密としての保護価値を与えてしまうことも適切ではないと思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">そうすると、上記のように「その組合せとその効果に関する情報が公然と知られていない」ことを非公知性の判断基準とすることは妥当であると思われます。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-33743413589318247792023-10-16T23:24:00.001+09:002023-10-16T23:24:35.028+09:00判例紹介:取引先との間の秘密保持契約による秘密情報の特定<span style="font-size: large;">自社の営業秘密を取引先等に開示する場合、秘密保持契約を締結するかと思います。その秘密保持契約には、秘密保持の対象となる情報の特定方法が規定されている場合も多いでしょう。この特定を行わないまま開示した情報の取り扱いはどのようになるのでしょうか。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このような判決がなされた裁判例が大阪地裁令和5年8月24日判決(令3(ワ)11898号)であり、本事件は、原告が被告との間で販売代理店契約を締結し、原告が被告に対し契約保証金300万円を支払ったものの、その後、本件代理店契約を解除したにもかかわらず、代理店契約終了時に返還が予定されている被告からの上記保証金の返還がないと原告が主張したものです。これに対して、被告は、原告が被告の営業秘密を不正使用したので、これが原告の被告に対する契約保証金返還債権と対当額で相殺する旨の意思表示をしました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、被告と原告とは下記のような秘密保持契約を締結していました。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">2条(秘密情報)1項</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">本契約において、「秘密情報」とは、本契約の有効期間中に、本検討に関して相手方から提供または開示された技術上または営業上の情報および資料(この情報および資料にはサンプル、製造図面、分析検証データ、報告書等およびノウハウを含む。以下、同じ。)のうち、次の各号に定めるものをいう。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(1) 電子的記録媒体、書面その他有体物…または電子メール…にて開示または提供され、当該有体物および当該電子メールに秘密である旨が明示されているもの。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">(2) 口頭で開示された情報の中で、秘密情報である旨が開示者により開示時に明示され、かつ、開示日より30日以内に、その開示内容を書面化し、秘密情報である旨を表示したうえで、開示者より受領者に送付または届けられたもの。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">上記(2)のように、本秘密保持契約では「口頭で開示された情報の中で、秘密情報である旨が開示者により開示時に明示され、かつ、開示日より30日以内に、その開示内容を書面化し、秘密情報である旨を表示したうえで、開示者より受領者に送付または届けられたもの。」が秘密情報として特定されると規定されています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、被告は、下記のように秘密情報の特定を行っていないことを認めつつ、原告は秘密保持義務違反等があると主張しました。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">被告は、本件秘密保持契約書2条1項に従った秘密情報の特定をしていないが、本件各情報が被告の秘密情報であることは、被告と原告との間で当然の前提とされていた。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">ところが、原告は、被告製品の図面等の被告の秘密情報を用いて模倣し、被告製品と同種の油化炭化装置である「パイロリナジー」(以下「原告製品」という。)を製造して、令和4年3月1日から販売している(乙17、18)。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">したがって、原告には、本件各契約に基づく秘密保持義務、善管注意義務ないし秘密情報の目的外使用禁止義務に違反した債務不履行がある。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">これに対して裁判所は、秘密保持契約の規定に従い、下記のように被告の主張を認めませんでした。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">本件秘密保持契約における「秘密情報」というためには、本件秘密保持契約書2条1項に定めるとおり、契約有効期間中に相手方から提供又は開示された情報及び資料であって、開示又は提供された有体物及び電子メールに秘密である旨が明示されているもの、もしくは、口頭で開示された情報の中で、秘密情報である旨が開示者により開示時に明示され、かつ、開示日より30日以内に、その開示内容を書面化し、秘密情報である旨を表示したうえで、開示者より受領者に送付又は届けられたものであることを要すると解される。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">しかし、被告が本件秘密保持契約に基づき秘密が保持されるべき秘密情報である旨主張する本件各情報について、同項に従った特定が行われていないことは当事者間に争いがないから、本件各情報は、本件秘密保持契約における「秘密情報」には当たらず、原告が本件秘密保持契約に基づく秘密保持義務、善管注意義務(本件秘密保持契約書3条)、及び、秘密情報の目的外使用禁止義務(同4条)を負うことはないというべきである。</span></div></blockquote><div></div></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgwAPfj9CYVQROv2oYcbBZDTYtsIObQ7tQTYLHkBR4fEJbfQywX_4FJPlIkTZcXOAdfr5jb4HJTVDf23ywoTBae-df-bGup4yb7X1MmGADvuw0nYdobCdW5z6MJQpuHL9Yqu3wkd_vyIEu6ceA9r8VQPFxk69EehTFfYOC3XfFU3CQYEjGCb9Rr9bau_JU5/s4080/PXL_20230916_082553300.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgwAPfj9CYVQROv2oYcbBZDTYtsIObQ7tQTYLHkBR4fEJbfQywX_4FJPlIkTZcXOAdfr5jb4HJTVDf23ywoTBae-df-bGup4yb7X1MmGADvuw0nYdobCdW5z6MJQpuHL9Yqu3wkd_vyIEu6ceA9r8VQPFxk69EehTFfYOC3XfFU3CQYEjGCb9Rr9bau_JU5/w400-h301/PXL_20230916_082553300.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">また、被告は、上記秘密保持契約とは別途締結した代理店契約書24条に原告が違反する、とも主張しました。なお、代理店契約書24条は下記のとおりです。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">1 甲(被告)または乙(原告)は、お互いに本契約における取引等で得た事項を第三者に漏洩してはならない。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">2 甲は乙に提供する「本製品」製造の技術ノウハウと知識を日本において、乙に提供することと使用させることを保証する。乙は自身で甲の提供する「契約製品」製造の技術ノウハウと知識を使用する。乙は該当技術ノウハウ或いは知識或いは設備を第三者に提供してはならない。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、これについても裁判所は、下記のように被告が主張する代理店契約書24条に基づく原告の秘密保持義務違反を認めませんでした。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">原告と被告とは、本件代理店契約を締結するに伴い、それに先立って本件秘密保持契約を締結したものであるから(乙19、証人P1、同P2)、本件代理店契約書24条にいう「秘密」は、本件秘密保持契約における「秘密情報」と同様に解するのが契約当事者の合理的意思に合致するというべきである。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">前記(2)のとおり、本件各情報は本件秘密保持契約における「秘密情報」に当たるとは認められないから、本件代理店契約書24条の秘密保持義務の対象となる「秘密」に当たるともいえない。</span></div><div><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">したがって、原告に同条に基づく秘密保持義務違反があるとの被告の主張は採用できない。</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">また、被告は「本件各情報が被告の秘密情報であることは、被告と原告との間で当然の前提とされていた」と主張していますが、裁判所はこれも認めませんでした。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">さらに、被告が自身の営業秘密であると主張した本件各情報についても、「本件各情報につき、被告による管理の意思が客観的に認識可能であったとは認められない。」等の理由から、その営業秘密性が認められませんでした。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">以上のように、取引先に自社の情報(営業秘密)を開示する場合には、秘密保持契約に規定されている営業秘密の特定方法に沿った方法で行わないと、相手方との間で当該情報が営業秘密であるとは認められません。これは、相手方との間で締結した契約書に定めれていることであるため、当然のことでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">また、相手方に開示する情報が営業秘密であると主張するのであれば、当該情報が自社においても秘密管理しなければなりません。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このように、取引先との間で秘密保持契約を締結したからといって、取引先に開示した情報が営業秘密であると認められるものではなく、契約に沿った特定や管理を適切に行う必要があります。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u></span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-44149105619803696002023-10-05T23:08:00.000+09:002023-10-05T23:08:11.628+09:00兼松の営業秘密流出事件 転職者による不正な営業秘密流入の抑制<span style="font-size: large;">先日、総合商社である兼松の元従業員が競合他社である双日に転職する際に、兼松の営業秘密を持ち出したとして逮捕されました。この事件は、今年の4月に双日に家宅捜索が入った事件であり、家宅捜索から約半年後の逮捕となっています。なお、この元従業員は、双日に家宅捜索が入った翌月には双日を懲戒解雇となっているようです。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><span style="font-size: large;"><b><a _blank="" href="https://www.sojitz.com/jp/news/2023/09/20230928.php" target="_blank">・当社元社員の逮捕について(双日株式会社 リリース)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.kanematsu.co.jp/press/files/press/20230928_release.pdf" target="_blank">・元従業員の逮捕について(兼松株式会社 リリース)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.asahi.com/articles/ASR9X5TZ3R9XUTIL00K.html" target="_blank">・逮捕の双日元社員「弱い立場の派遣社員を利用」 うそつき秘密入手か(朝日新聞)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE280TW0Y3A920C2000000/" target="_blank">・双日元社員逮捕 営業秘密侵害疑い、DX・転職増でリスク(日本経済新聞)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.sankei.com/article/20230928-J2AD4YSLXBMO3DGYGXSZSKYM5Y/" target="_blank">・双日「組織的関与、把握ない」 元社員逮捕受けコメント(産経新聞)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.yomiuri.co.jp/national/20230928-OYT1T50158/" target="_blank">・「双日」元社員を逮捕、前の勤務先「兼松」から営業秘密を不正持ち出しか…元同僚のID使う(読売新聞)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://mainichi.jp/articles/20230928/k00/00m/040/041000c" target="_blank">・双日の30代元社員を逮捕 前職の営業秘密を持ちだした疑い(毎日新聞)</a></b><br /></span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">報道によると、兼松の元従業員は退職直前の6月に3万7000にも及ぶファイルをダウンロードして不正に取得したようです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、どのようにして企業が営業秘密の不正取得を知り得るのか?との質問を受ける場合があります。これについては、多くの企業はデータに対するアクセスログ管理を行っていますので、自社の従業員が退職を申し出た際に過去数か月のアクセスログを確認し、不必要と思われるデータに当該従業員がアクセスしていないかを調べることで不正な持ち出しの有無を検知します。例えば、今回の事件のように、退職を申し出る直前の短期間に多量のデータをダウンロードしている形跡があると、営業秘密の不正な持ち出しの可能性が疑われます。</span></div><div><span style="font-size: large;">このため、アクセスログ管理を適切に行っている企業は、退職者が営業秘密を不正に持ち出しているか否かを比較的早期に検知できます。過去には退職を申し出た従業員が実際に退職するまでの間に、営業秘密の不正な持ち出しを検知し、懲戒解雇とした事例もあるようです。</span></div><div><span style="font-size: large;">今回の事件では、3万7000ものデータをダウンロードしており、通常業務でこの量のデータをダウンロードするとは考え難いため、転職に伴う不正な持ち出しであると判断できたでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">さらに、元従業員は兼松の元同僚(派遣社員)からIDとパスワードを聞き出して、退職後にも兼松の営業秘密を不正に持ち出したようです。この元同僚は、元従業員に頼まれただけであり、不正の目的等は無かったと思われるので刑事罰を受けることは無いと思います。しかしながら、兼松で使用しているIDとパスワードを外部に漏らしたということは、兼松の規則に反する行為でしょうから、兼松から何らかの処分を受ける、若しくはすでに受けていると思われます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhRlb190qzcSjMDKW3TTBxhGoC1xGD21i8XOjg_k77J_yWvSdotydduclKgkOkxjbSQF7QDGuS1ASiA4K3XUOzz43t2vR2CCRQO0isbYWabRrUpH11vjn9WKXM4O71QO5hFO_FaKDzcEQoMBfktI7RLJErq2arNsIAmZlDxBj254MGX36ZsEexhHDtRFtLp/s4080/PXL_20230901_102306612.MP.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhRlb190qzcSjMDKW3TTBxhGoC1xGD21i8XOjg_k77J_yWvSdotydduclKgkOkxjbSQF7QDGuS1ASiA4K3XUOzz43t2vR2CCRQO0isbYWabRrUpH11vjn9WKXM4O71QO5hFO_FaKDzcEQoMBfktI7RLJErq2arNsIAmZlDxBj254MGX36ZsEexhHDtRFtLp/w400-h301/PXL_20230901_102306612.MP.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">一方、双日についてですが、兼松の元従業員に営業秘密を不正に取得することを指示していたり、双日社内で当該営業秘密が開示・使用されたりしなければ、特段の責任はありません。双日社内での営業秘密の開示・使用等の有無はこれから明確になるでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">また、双日は本事件に関するリリースを発表しています。このリリースの中には、以下のような記載があります。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #cccccc; font-size: large;">”特に、情報管理に関しては、キャリア入社社員に対して、前職で業務上知り得た機密情報を当社に持ち込まないことについて明記した誓約書を入社時に差入させるなどの未然防止および社員の教育と啓蒙に努めてまいりました。”</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">上記のように"前職で業務上知り得た機密情報を当社に持ち込まないことについて明記した誓約書"を転職者に求めることは非常に重要だと思います。この誓約書により、自社が他社の営業秘密を持ち込むことを良しとしない、という意思表示にもなりますし、もし転職者が前職の営業秘密を持ち出していても、自社で開示や使用することを抑止できる可能性があります。</span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、自社への転職者による前職企業の営業秘密の持ち出しを防止することは困難です。この営業秘密の不正な持ち出しは前職企業内での行為であり、持ち出しを行ったときには、転職者は未だ前職企業の従業員であるためです。</span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、仮に転職者が前職企業の営業秘密を持ち出したとしても、当該営業秘密が自社で開示や使用されなければ、自社が責任を問われることはありません。このため、上記のような誓約書を入社前に求めることが重要となります。仮に、前職企業の営業秘密を転職者が持ち出したとしても、誓約書によって当該行為が不法行為であると転職者に認識させ、転職先である自社で開示や使用することを食い止めることができる可能性があるためです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このように、転職者に対する他社営業秘密の持ち出しを禁ずる誓約書、さらには自社従業員に対する他社営業秘密を開示・使用しない旨の教育等は、他社営業秘密が自社に不正に流入することを防止するために重要なこととなります。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u></span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-38879328684500913152023-09-27T10:12:00.000+09:002023-09-27T10:12:07.774+09:00判例紹介:名刺データと顧客情報の違い<span style="font-size: large;">先日、下記日経新聞の記事に詳述されているように、元所属企業の名刺データの管理システムにログインするためのID、パスワードを転職先で開示したとして、元所属企業の社員が逮捕されました。しかし、逮捕理由は、営業秘密侵害ではなく、個人情報保護法違反とのことです。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><a href="https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE1421N0U3A910C2000000/" target="_blank"><span style="font-size: large;">・名刺データ、管理にリスク 個人情報提供疑いで初逮捕(日本経済新聞)</span></a></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">上記記事によると、名刺データが営業秘密に該当しない可能性があるためとのことです。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">”警視庁は今回、情報が営業秘密に該当しないと判断した。名刺は第三者に渡すことが前提で、記載された情報が非公知性の要件を満たす可能性が低いなどとみた。”</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">確かに、確かに名刺そのものは営業秘密とされない可能性が高いです。</span></div><div><span style="font-size: large;">例えば、東京地裁平成27年10月22日判決(平26(ワ)6372号)では、元従業員が転職先に名刺帳を持ち出したとして、元従業員を被告として被告の元所属先企業が原告となり、民事訴訟を起こしました。</span></div><div><span style="font-size: large;">これに対して裁判所は下記のように判断しています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">”本件名刺帳に収納された2639枚の名刺を集合体としてみた場合には非公知性を認める余地があるとしても,<u>本件名刺帳は,上記認定事実によれば,被告Aが入手した名刺を会社別に分類して収納したにとどまるのであって,当該会社と原告の間の取引の有無による区別もなく,取引内容ないし今後の取引見込み等に関する記載もなく,また,古い名刺も含まれ,情報の更新もされていないものと解される(甲16参照)。</u>これに加え,原告においては顧客リストが本件名刺帳とは別途作成されていたというのであるから,原告がその事業活動に有用な顧客に関する営業上の情報として管理していたのは上記顧客リストであったというべきである。そうすると,名刺帳について顧客名簿に類するような有用性を認め得る場合があるとしても,<u>本件名刺帳については,有用性があると認めることはできない。</u>”</span></blockquote><span style="font-size: large;"><u></u></span></div><div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhf6Vr3WHKcXypOFJF9rR40YcGp_DDQMoiI47jt2_jk561TdQzcB2rmGr10yxMcRELxdAPEWgfHarayn8h3qqa46woWR9j6S8qwsqbH0AlA8FrotO7JhNzvf6YjL4gFrPTjHsh_ys_LDPUzAfro7jhRlfXZYsBCxO4riiEoKxYgDm9YNXfS3pR_xuJI2Gd3/s4080/PXL_20230924_033254533.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhf6Vr3WHKcXypOFJF9rR40YcGp_DDQMoiI47jt2_jk561TdQzcB2rmGr10yxMcRELxdAPEWgfHarayn8h3qqa46woWR9j6S8qwsqbH0AlA8FrotO7JhNzvf6YjL4gFrPTjHsh_ys_LDPUzAfro7jhRlfXZYsBCxO4riiEoKxYgDm9YNXfS3pR_xuJI2Gd3/w400-h301/PXL_20230924_033254533.jpg" width="400" /></a></div><br /></div><div><span style="font-size: large;">この裁判例では、名刺の単なる集合、すなわち分類や更新もされていない名刺帳には営業秘密でいうところの有用性がないと判断しています。名刺の集合のなかには、顧客(又は顧客見込み)の情報が含まれているでしょうが、分類等されていない限り第三者から誰が顧客なのかは判別できず、企業活動に利用できるかと問われると単なる名刺の集合で難しいでしょう。この裁判例では名刺帳ですが、名刺に記載の内容をデータ化した場合であっても同様でしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">また、今回の事件の記事では、非公知性が否定される可能性を懸念していますが、名刺の単なる集合に有用性がないと判断するか、非公知性がないと判断するかに本質的な違いが無いと思います。なお、上記裁判例でも、下記のように名刺そのものには非公知がないとも指摘しています。</span></div><div><blockquote><span style="background-color: #eeeeee; font-size: large;">”原告は,本件名刺帳に収納された名刺に記載された情報が原告の営業秘密に当たる旨主張するが,名刺は他人に対して氏名,会社名,所属部署,連絡先等を知らせることを目的として交付されるものであるから,その性質上,これに記載された情報が非公知であると認めることはできない。”</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">一方、顧客情報は、単なる名刺の集合とは異なり、文字通り企業の顧客(又は顧客見込み)の情報であり、企業として収益の要ともいえ、その有用性が否定されるものではありません。このように、営業秘密の視点からは、顧客情報と名刺の集合とでは少なくとも有用性に大きな違いがあると思われます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">とはいえ、今回の事件のように、営業秘密ではなくても、名刺データを転職先等で開示すると違法となる可能性があるようです(今回の事件は、不正ログインのような気もしますが。)。このため、転職時における名刺データの取り扱いは注意が必要でしょう。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-6063712082900604662023-09-14T23:29:00.001+09:002023-09-14T23:29:29.353+09:00判例紹介:営業秘密としての技術情報の特定(認められない例)<span style="font-size: large;">技術情報を営業秘密として特定するためには、図や表、プログラム、特許請求の範囲と同様の記載、とのように様々な形態があり得ます。しかしながら、特定は形態でもよいわけではなく、やはり営業秘密とする技術情報の内容が客観的に判断可能な形態で特定する必要があります。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、技術情報の特定が認められなかった裁判例として大阪地裁令和5年7月3日判決(事件番号:令2(ワ)12387号)があります。</span></div><div><span style="font-size: large;">この事件では、UCN(波長が600オングストロームより長い、極端に低いエネルギーの中性子であって、その低いエネルギー故に容器の中に閉じ込められる性質を有するもの(Ultra Cold Neutron))に関する装置を、原告が営業秘密と主張しています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件において、まず原告は以下のように営業秘密の特定について述べています。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝本件は、本件情報が化体した本件物件につき、その使用、開示の差止め等を求める事案であり、本件物件が社会通念上他の有体物から識別できる程度に特定できていればよく、必ずしも、営業秘密に当たる技術上の情報そのものの記載まで求められるものではない。原告らは、別紙物件目録において、社会通念上他の有体物から識別できる程度にまで本件物件を特定している。❞</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">そして、原告は営業秘密を下記のように主張しています。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝本件情報の具体的内容は、本件物件の外部形状、内部構造及びその機能を発揮させるため組み上げられた各部の装置や機器(以下「構成部品」という。)を含む仕組み自体であり、形状及び構造にあっては、本件物件全体及び各構成部品の形状、寸法、加工及び組立てに関する情報である❞</span></blockquote></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjAVKAU0480tV0V7zxXVBb5NuVYu4BEnoL1P8kG2ueKomNJ7nbxWtk-ulY8AaT7_4LOqJS1GXm4LNAJsL7RuPJHwXWk0A6QnPBfqFMju3KHKa93lzswU1d7oftlMjGcmRCgwibl_60wscMTJ5jhNTCifcy_eNqR8_DwV8rgn06el58J2YoU-DtTc90wtd8k/s4080/PXL_20230806_061945170~2.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjAVKAU0480tV0V7zxXVBb5NuVYu4BEnoL1P8kG2ueKomNJ7nbxWtk-ulY8AaT7_4LOqJS1GXm4LNAJsL7RuPJHwXWk0A6QnPBfqFMju3KHKa93lzswU1d7oftlMjGcmRCgwibl_60wscMTJ5jhNTCifcy_eNqR8_DwV8rgn06el58J2YoU-DtTc90wtd8k/w400-h301/PXL_20230806_061945170~2.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">このような原告の主張(営業秘密とする技術情報の特定)に対して、裁判所は以下のように判断し、原告の主張を認めませんでした。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">❝しかし、かかる記述は情報の属性を極めて抽象的に述べたものにすぎず、具体的な技術思想や技術的意義を含む情報の具体的内容を読み解くことは全く不可能であり、ひいては公知の情報との対比(有用性、非公知性)や、管理態様(秘密管理性)を観念することができず、営業秘密の要件を備えるかどうかを判断することができない。</span></div><div><span style="font-size: large;">したがって、原告らの主張によってはそもそも本件情報が営業秘密に当たるとすることはできず、その主張は失当に帰する。原告らは先例からこのような特定で十分であるとするが、上記のとおり、営業秘密に該当するかどうかの判断ができない以上、原告らの主張は採用することができない。❞</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">ここで、客観的に特定できる技術情報がどのようなものであるかが上記で示されていると思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、「具体的な技術思想や技術的意義を含む情報の具体的内容を読み解くことが可能」なように技術情報を特定する必要はあります。</span></div><div><span style="font-size: large;">たとえば、図面やソースコード、材料の配合比率等は、具体的な内容を読み解くことができる典型でしょう。しかしながら、技術情報を上位概念にするほど、抽象的となり、具体的な内容を読み取くことができないものになり可能性があります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">そして、具体的な内容を読み解くことを必要とする理由は、「公知の情報との対比(有用性、非公知性)」、「管理態様(秘密管理性)を観念する」ことを可能とするためです。</span></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、営業秘密の三要件を判断可能な程度に技術情報は特定されないといけません。そして、本事件のように営業秘密の特定ができていないとして、原告敗訴となる事例が少なからずあり、秘匿化する情報の特定は何より大事です。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-45466544074270021482023-09-06T23:09:00.001+09:002023-09-06T23:09:25.708+09:00他社営業秘密を持ち出した人の雇用リスク<span style="font-size: large;">営業秘密の不正流出の目的の一つに転職先で使用するというものがあります。</span><div><span style="font-size: large;">このブログでも度々、営業秘密の流入リスク(侵害リスク)について取り上げていますが、この流入リスクを負う立場は転職先企業です。そして、転職者(転入者)による営業秘密の流入リスクは近年、流出リスクと共に顕在化してきています。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">先日も、地方航空会社であるオリエンタルエアブリッジの元従業員が航空会社であるトキエアへ転職する際に、保安対策に関する営業秘密を持ち出したとして書類送検されました。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div>
<span style="font-size: large;"><b><a _blank="" href="https://www.orc-air.co.jp/information/20230828-15753/" target="_blank">・退職者による社内情報のデータ持ち出しについて(オリエンタルエアブリッジ株式会社 リリース)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://mainichi.jp/articles/20230828/k00/00m/040/240000c" target="_blank">・航空保安情報持ち出し疑い ORC元社員を書類送検 長崎県警(毎日新聞)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.asahi.com/articles/DA3S15727946.html" target="_blank">・航空保安情報、持ち出し容疑 ORC元管理職を書類送検(朝日新聞)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.sankei.com/article/20230828-XKFG4QE6CJMQNGDSX5GGFGRIXE/" target="_blank">・航空保安情報持ち出し疑い 元管理職を書類送検、長崎(産経新聞)</a></b><br />
<b><a _blank="" href="https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE282U40Y3A820C2000000/" target="_blank">・航空保安情報を持ち出しか 元ORC管理職を書類送検(日本経済新聞)</a></b><br /><b><a _blank="" href="https://www.yomiuri.co.jp/national/20230827-OYT1T50182/" target="_blank">・オリエンタルエアの航空保安情報を持ち出しか、元管理職を書類送検…新規参入トキエアに入社(読売新聞)</a></b><br /></span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">この事件では、トキエアへの営業秘密の開示及び使用は認められなかったとのことですが、上記の読売新聞の報道によると「男が作成に関与したトキエアの安全管理規程も作り直された」とのことです。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件についてトキエアの関与はなく、トキエアには当該営業秘密が開示されなかったとのことですから、トキエアは安全管理規定を作り直す必要はないようにも思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">とはいえ、トキエアとしては、営業秘密を不正に持ち出した人物が作成に関与した安全管理規定を使い続けることに不安感があり、このために安全管理規定を作り直したということなのでしょうか。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhugIsVTwUYRVIxGZIjvjBDH0k4qGH7Gr-pifbZWlbIm9YgecoJ4sigEZCOQ4h09tji3jL7Io1dTqGEGWpvHvNR3CGcH6EpX0DX9xHe5NCRqd6_QIR5myX00nqyN2isiIdZ52GqlrbYs_mOAuDa-AOHQziLQ6z30KODmaONvyt6rf-RqE0V92guHKnAAxs8/s4080/PXL_20230811_054854150.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhugIsVTwUYRVIxGZIjvjBDH0k4qGH7Gr-pifbZWlbIm9YgecoJ4sigEZCOQ4h09tji3jL7Io1dTqGEGWpvHvNR3CGcH6EpX0DX9xHe5NCRqd6_QIR5myX00nqyN2isiIdZ52GqlrbYs_mOAuDa-AOHQziLQ6z30KODmaONvyt6rf-RqE0V92guHKnAAxs8/w400-h301/PXL_20230811_054854150.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">この例のように、前職企業の営業秘密を持ち出した転職者(転入者)が自社で当該営業秘密を開示しなくても、当該転職者が自社で関与していた業務についての見直し、やり直しを行うという判断をする企業もあるようです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">なお、営業秘密を持ち出した人物は、上記読売新聞の報道によると、オリエンタルエアブリッジでは「安全管理や安全に関する社内教育などを担当する安全推進室の管理職」であり、トキエアでも「安全推進室の管理職」となっていたようです。</span></div><div><span style="font-size: large;">仮に、この人物がトキエアにおいて営業秘密を開示していたならば、部下である元来の従業員もトキエアの営業秘密であると認識したうえで、当該営業秘密を使用して安全管理規定を作成した可能性があります。もし、そのような事態に陥れば、上記従業員も刑事罰を受ける可能性があります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このような可能性を鑑みると、企業としては、転職者が自社において前職企業の営業秘密を開示、使用することを確実に防止する必要があります。特に、転職者が自社において管理職等となり、部下を持つ立場であれば、なおのことであると考えます。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-35497742144940000932023-08-29T22:21:00.002+09:002023-10-21T21:50:48.143+09:00判例紹介:情報を持ち出さない旨の合意の解釈<div><span style="font-size: large;"><a href="https://www.xn--zdkzaz18wncfj5sshx.com/2023/08/blog-post_15.html" target="_blank">前回のブログ</a>で紹介した事件(東京地裁令和4年8月9日(事件番号:令3(ワ)9317号))、知財高裁令和5年2月21日(事件番号:令4(ネ)10088号))続きです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">この事件は、原告の従業員であって後に被告会社に移籍したBが原告在籍中に本件データのファイルのスライドの一部を作成し、Bが被告会社に移籍した後、被告ら作成データのファイルのスライドの一部を作成し、被告Aに対して被告ら作成データを含むファイルを電子メールで送信したというものです。なお、被告Aは原告の元代表取締役であり、代表取締役を辞任した後に被告会社を設立しています。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件の結論は、原告が主張する情報は営業秘密ではないと地裁によって判断され、原告の主張は全て棄却され、知財高裁でも覆ることはありませんでした。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">今回は、本事件において原告と被告との間で締結していた合意書についてです。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件では、原告の元代表取締役である被告Aは、原告会社に在籍している時に下記5項を含む合意書を原告Cとの間で締結していました。この合意書において乙は被告Aであり、甲が原告Cとなります。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝5.乙はGSPの資産(ソフトウェアを含む)、顧客リスト、その他営業上・経営上の資産、情報を持ち出さないこと。❞</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">上記5項の合意があると、被告Aが原告の情報に基づく作成データを入手したことは5項違反のようにも思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgkNr1yMcDderNNvEE0DnIJERr1k6_KTVGvaWg7gRN_7l8nRVMwWuktzrgSU33f4QfMMpqbzhZ_d7JXU4QK5QnO5i6oLbauqFPll33gFwmO07smWnl5QAlD9bCzfxtX9mUAP99PVHqh2OfGR3kGg-tgorwwAyD-SBLBZkP56owz001CcV6dThKQkqo-Gw7B/s4080/PXL_20230805_234447941.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEgkNr1yMcDderNNvEE0DnIJERr1k6_KTVGvaWg7gRN_7l8nRVMwWuktzrgSU33f4QfMMpqbzhZ_d7JXU4QK5QnO5i6oLbauqFPll33gFwmO07smWnl5QAlD9bCzfxtX9mUAP99PVHqh2OfGR3kGg-tgorwwAyD-SBLBZkP56owz001CcV6dThKQkqo-Gw7B/w400-h301/PXL_20230805_234447941.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div class="separator" style="clear: both; text-align: left;"><span style="font-size: large;">しかしながら、裁判所は、この5項について❝本件合意書5項にいう「情報」とは、本件経過及び当事者双方の合理的意思を踏まえると(原告C21頁)、営業秘密又はこれに準ずる情報をいうものと解するのが相当である。❞とし、以下のように被告の5項違反を否定しています。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">❝本件データは営業秘密に該当するものではなく、本件データと実質的に同一である被告ら作成データも営業秘密に該当するものとはいえず、その内容に照らし、有用性が極めて低い情報であるといえる。そして、上記認定事実によれば、その他の情報についても、単なる電子メールのやり取りにとどまるものなど、その内容に照らし、被告ら作成データと同様に原告の営業秘密又はこれに準ずるものに該当することを認めるに足りない。のみならず、被告Aが原告から情報(甲5の1ないし6の情報)を取得したとしても、上記情報の性質や内容等に照らし、これによって原告に損害が生じたことを認めるに足りず、これを裏付ける的確な証拠もない。</span></div><div><span style="font-size: large;">以上の諸事情を総合すれば、被告Aが指示して原告から情報(甲5の1ないし6の情報)を取得したとしても、当該情報が営業秘密又はこれに準ずる情報に当たらないから、本件合意書5項に違反すると認めることはできない。❞</span></div></blockquote><div></div><div><span style="font-size: large;">このような裁判所の判断に対して、知財高裁において原告は以下のように主張しました。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝原判決は、同項の「情報」について「営業秘密又はこれに準ずる情報」を意味するものと限定的に解釈したが、これを裏付ける証拠のうち、「営業秘密又はこれに準ずる情報」という具体的な表現が出てくるのは、原審における控訴人代表者Bに対する裁判長からの誘導的かつ抽象的な補充尋問のみであることからして、上記限定解釈は根拠を欠く。❞</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、原告は5項でいうところの「情報」は営業秘密に限らず、自社で作成等された全ての情報を含むものであると、との主張を行っているのでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">これに対して知財高裁は、下記のように原告の主張を認めませんでした。なお、下記のBは原告(控訴人)の代表者です。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝原審の控訴人代表者尋問におけるやりとりをみると、Bが、5項の「情報」について「経営上有益なもの」を持ち出さないという趣旨である旨述べたことを踏まえて、原審裁判長が、「要するに営業秘密又はそれに準ずるような情報という趣旨」かを確認したところ、Bが「おっしゃるとおり」と回答したのであるから、B自身が「経営上有益なもの」に限定する意思を有していたのであり、原審裁判長による誘導などされていない。❞</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">ここで、原告の主張するように5項の「情報」が「営業秘密又はこれに準ずる情報」に限定解釈されなかったどうなったのでしょうか?被告Aが原告から情報を取得したのであれば、被告Aは当然に5項違反となり得るかと思います。そうすると、当該情報は、営業秘密ではないため差し止めは認められずとも、損害賠償は認められるのでしょうか。</span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、裁判官は一審において❝被告Aが原告から情報(甲5の1ないし6の情報)を取得したとしても、上記情報の性質や内容等に照らし、これによって原告に損害が生じたことを認めるに足りず、これを裏付ける的確な証拠もない。❞とも認定しています。そうすると、当該「情報」が営業秘密であるなしにかかわらず、原告の損害は認められないことになるのでしょうか。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">上記5項のような情報管理の規定において「情報」はできるだけ広い概念として定義される場合もあるかと思います。そうすることで、自社から持ち出された情報が秘密管理性を満たさず営業秘密でなくとも、持ち出した者に対して損害賠償が可能なようにも思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">しかしながら、そのように「情報」を定義しても本事件の裁判所の判断を鑑みると、当該情報に有用性や非公知性がないとしたら、自社に損害はない、すなわち当該情報には保護する価値がないと判断される可能性が高いのではないでしょうか。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-9315739177539336302023-08-15T22:24:00.004+09:002023-09-13T22:50:59.817+09:00判例紹介:公知の情報の寄せ集めは営業秘密になるか?<div><span style="font-size: large;">多くの技術情報が様々な媒体で公開されているため、技術情報に係る営業秘密は顧客情報等の営業情報とは異なり、有用性や非公知性が否定される場合があります。例えば、公開されている技術情報を寄せ集めた情報であるとして、原告が営業秘密であると主張する技術情報の非公知性が裁判所によって認められなかった例があります。</span></div><div><span style="font-size: large;">今回は、裁判所によってそのような判断がなされた事件(東京地裁令和4年8月9日(事件番号:令3(ワ)9317号))を紹介します。この事件は原告によって控訴(知財高裁令和5年2月21日(事件番号:令4(ネ)10088号))されましたが、地裁判決は覆っていません。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件の概要は、原告の従業員であって後に被告会社に移籍したBが原告に在籍中に本件データのファイルのうちスライド2枚目ないし8枚目の部分を作成し、Bが被告会社に移籍した後、被告ら作成データのファイルのうちスライド7枚目ないし13枚目の部分を作成し、被告Aに対し、被告ら作成データを含むファイルを電子メールで送信したというものです。なお、被告Aは原告の元代表取締役であり、代表取締役を辞任した後に被告会社を設立しています。</span></div><div><span style="font-size: large;">なお、原告が営業秘密であると主張する本件データの内容は、AI技術を用いた自動会話プログラムである「AIチャットボット」につき、「機能一覧」、「非機能一覧」、「画面イメージ」等をまとめたものです。</span></div><div><span style="font-size: large;">この本件データについて被告は以下のように主張しています。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝Bは、AIに関する知識を余り有していなかったことから、AIに関する議論のたたき台として、本件データを作成したところ、その内容は、ウェブで公開されている記事又は情報を確認しながら、平成29年前後の公知の情報を寄せ集めたものにすぎず、AIに関する初歩的な情報にすぎないものであった。❞</span></blockquote></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjhhN4QI3CdTKY96Qqn9V2vPnBR5g78XtjEi68mhXgh-54w2DjvZfEA2wx8zsvlbfRjLFb3LVXLGQVm6xbg3qsjgR0W7gVYs3OlNJxsyHqLM6SoAn2OzMqQ2aMyloW1986dJl2BehRfjU0EjV94qXLlu7sEK-A0hvdgmaz5MdxktEJmGVIDRIcMbvvMRPGf/s4080/PXL_20230806_035457379.MP.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjhhN4QI3CdTKY96Qqn9V2vPnBR5g78XtjEi68mhXgh-54w2DjvZfEA2wx8zsvlbfRjLFb3LVXLGQVm6xbg3qsjgR0W7gVYs3OlNJxsyHqLM6SoAn2OzMqQ2aMyloW1986dJl2BehRfjU0EjV94qXLlu7sEK-A0hvdgmaz5MdxktEJmGVIDRIcMbvvMRPGf/w400-h301/PXL_20230806_035457379.MP.jpg" width="400" /></span></a></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このような本件データについて一審裁判所は以下のように判断しており、まず、以下のようにして裁判所は本件データの秘密管理性を認めていません。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝そして、本件データは、シェアポイントにおける「07.Team」フォルダ内の「AI」フォルダにおいて、「chatbot 要件_追加_20171002.pptx」というファイル名で格納されていたところ、Bは、そもそも「AI」フォルダにアクセス権限や閲覧制限を個別に設定せず、本件データにも個別のパスワードを設定しなかったため、原告の役職員の全員が本件データを閲覧でき、しかも、「07.Team」フォルダに保存された資料に関するルール(ただし、下位フォルダを作成したり削除したりするにはIT担当の従業員への依頼を要するというルールを除く。)は格別存在しなかったことが認められる。のみならず、本件データには、「機密情報」、「confidential」という記載がないため、客観的にみて、本件データにアクセスした者において当該情報が秘密情報であることを認識できなかったことが認められる。❞</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">そして、本件データに対して、一審裁判所は被告の主張を認め、以下のように❝そもそも秘密情報として管理されるべきものではなかった❞とも認定しています。なお下記は、判決文において上記秘密管理性の判断の前に記載されていました。</span></div><div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝そこで検討すると、前記認定事実によれば、本件データの内容は、ウェブで公開されている記事又は情報を確認しながら、平成29年前後の公知の情報を寄せ集めたものにすぎず、AIに関する初歩的な情報にすぎないものであり、そもそも秘密情報として管理されるべきものではなかったことが認められる。❞</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">このような判断は、秘密管理性ではなく、非公知性又は有用性の判断に該当するのではないかと思います。これに関して、控訴審である知財高裁では、原判決が下記のように改められ、本件データは非公知性も認められないことが明確にされました。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝ (8) 原判決30頁の17行目の「本件データの」から同頁21行目の「られる。」までを「本件データは、AIについての特段の知識を有していなかったAが、インターネット上に公開されている記事又は情報を確認しながら、平成29年前後の公知の情報を寄せ集めて作成したものであって、その内容はAIに関する公知かつ初歩的な情報であるから、不正競争防止法2条6項の「公然と知られていないもの」に当たらない。」と改め、その末尾で改行する。❞</span></blockquote></div></div><div><span style="font-size: large;">ここで上述のように、様々な技術情報が各種技術文献、特許公開公報、インターネット等で無数に公開されています。公開されている技術情報を寄せ集めてまとめた情報は、当該技術に詳しくない者や企業にとっては実際に有用であると思われます。しかしながら、営業秘密としては公知の情報を寄せ集めたに過ぎないため、このような情報は有用であったとしても非公知ではないと判断される可能性が高いと考えられます。</span></div><div><span style="font-size: large;">以上のように、技術情報を営業秘密として管理する場合には、非公知性の有無も重要な判断材料となります。このため、裁判所で非公知性がないと判断される可能性のある技術情報がどのような情報であるかは正しく認識する必要があります。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-82158014518973566492023-08-09T09:14:00.006+09:002023-08-09T09:15:09.456+09:00特許出願件数と審査請求件数の推移<span style="font-size: large;">このブログでも適宜更新している日本の特許出願件数と日本企業の研究開発費の推移を示すグラフに、審査請求件数の推移も追加しました。</span><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEik4l-RJPMgKfx63-3JzUZOP65dpzMaD2SGNcgzmqNgUHHduPrUsklEjAjayghWwfcsg5hARuuHP6g-tCmafMEH47OxEtHkXpAr7C4i4gyjii0ddsNZUFeEdWNQTyQt7kVuqmTXeetedytNyd47h7v2yCDCX3c_41phwikbsSQP4BxmBQTjuKy-872_U5Kw/s1814/%E7%89%B9%E8%A8%B1-%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%96%8B%E7%99%BA%E8%B2%BB.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="799" data-original-width="1814" height="282" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEik4l-RJPMgKfx63-3JzUZOP65dpzMaD2SGNcgzmqNgUHHduPrUsklEjAjayghWwfcsg5hARuuHP6g-tCmafMEH47OxEtHkXpAr7C4i4gyjii0ddsNZUFeEdWNQTyQt7kVuqmTXeetedytNyd47h7v2yCDCX3c_41phwikbsSQP4BxmBQTjuKy-872_U5Kw/w640-h282/%E7%89%B9%E8%A8%B1-%E7%A0%94%E7%A9%B6%E9%96%8B%E7%99%BA%E8%B2%BB.jpg" width="640" /></span></a></div><div><div><span style="font-size: large;">特許出願件数が減少していることはあらためて言うまでもないことですが、その一方で審査請求件数は特許出願件数ほど減少していません。</span></div><div><span style="font-size: large;">特に、2009年のリーマンショック以降は特許出願件数が減少しているにもかかわらず、審査請求件数は多少の増減はあるものの年間約24万件でほぼ横ばいです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">さらに、コロナ禍においても審査請求件数に有意な変化はないように思えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">これは、コロナ禍における特許出願件数の減少がおそらく経費削減を目的としたものであろうことからすると意外とも思えます。すなわち、企業はむやみやたらに特許に係る費用を削減しているのではなく、審査請求費用は経費削減の対象とはしなかったということなのでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">一方、これとは対照的な時期がリーマンショックではないでしょうか。審査請求は出願から3年以内に行う必要があり、多くの場合はこの期限末に審査請求が行われます。すなわち、特許出願件数と審査請求件数とには3年弱のタイムラグが発生するはずです。</span></div><div><span style="font-size: large;">にもかかわらず、リーマンショックの影響がある2009年には特許出願、審査請求共に有意な減少がみられます。このことは、本来必要な審査請求が、新規の特許出願と共に経費削減の影響によって減少した可能性が考えられます。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">このように、2009年以降の近年の審査請求は特許出願の減少とはかかわりなく、ほぼ一定であり、経済動向に左右されていないと考えられます。</span></div><div><span style="font-size: large;">このことは、企業の特許出願動向として、真に特許権を必要とする技術に絞って特許出願を行う傾向がより強くなっているのだと思われます。すなわち、技術を公開するだけの特許出願は減少しているのでしょう。そして、そのような技術は各企業において秘匿化されているのだと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">一見すると、特許出願件数が年々減少傾向にあることは好ましくないようにも思えます。しかしながら、審査請求件数に変化がないということは、特許権を欲する技術のみを精査して特許出願しており、その結果無駄な特許出願が減少しているので、とても好ましい傾向にあるのかもしれません。</span></div><div><span style="font-size: large;">そして、審査請求件数は特許出願件数よりも多くなることはなく、理想的な特許出願としては、全ての特許出願が審査請求されることでしょう。現状のような傾向が続くのであれば、特許出願件数はそろそろ下げ止まりで、年間30万件前後で推移するのかもしれません。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div><div><br /></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-89058987501106037582023-07-25T19:30:00.007+09:002023-07-25T23:44:10.301+09:00営業秘密侵害事件(刑事事件)の有罪判決率<span style="font-size: large;">営業秘密侵害の刑事事件は絶対数は少ないものの、近年大幅に増加しています。</span><div><span style="font-size: large;">警察庁生活安全局から「<a href="https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/seikeikan/R04_nenpou.pdf" target="_blank">令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について</a>」下記グラフによると令和4年度において29件の検挙事件数であり、平成25年の約6倍になっています。</span></div><div><span style="font-size: large;">ちなみに、平成24年以前は統計を取っていないために不明とのことです。</span></div><div><span style="font-size: large;">そして、平成25年から令和4年までの検挙事件数の総数は177件となります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhb38PhzfadTcs125yptrRZpeVTQ6ddgcaSw93nDiEV6wba_zXEq38BVQ8lS0OvECShlIf-Sw7Epk7C9bdyJ1-UTkaBmyS1tTrx4WQzd1ZRlQ1w-WHHkWCwXvVwcrWpSOO2tWitvme4776jvsXTN3Spu5J1LXa_-sgnPHNNcR1HL8sAcFHilx7a2we-hmQi/s504/%E6%A4%9C%E6%8C%99%E6%95%B0.png" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="324" data-original-width="504" height="412" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhb38PhzfadTcs125yptrRZpeVTQ6ddgcaSw93nDiEV6wba_zXEq38BVQ8lS0OvECShlIf-Sw7Epk7C9bdyJ1-UTkaBmyS1tTrx4WQzd1ZRlQ1w-WHHkWCwXvVwcrWpSOO2tWitvme4776jvsXTN3Spu5J1LXa_-sgnPHNNcR1HL8sAcFHilx7a2we-hmQi/w640-h412/%E6%A4%9C%E6%8C%99%E6%95%B0.png" width="640" /></span></a></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><span style="font-size: large;">ちなみに、この検挙事件数は検挙人員とは異なるものであり、検挙人員は令和3年の統計によると下記のようになります。</span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh2rwDWLPiPLGBMkp6BR5m9gpbAIQlm8FaTTRH-GpLTw7XQIDdxTuVcoJsJI0PxOybvagPOiHfDwY1LaFgvtQ4HlGIVyuCvSXNG8IEselQMthq6ZiSy9UNqqyPoanCxoS8ju3kGbsLeliNhQzJWKSvg4z9osxrnFW-7E8Qm_Jx5lPWs7fjdxSQpj3wic0sX/s782/%E6%A4%9C%E6%8C%99%E4%BA%BA%E5%93%A1.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="219" data-original-width="782" height="180" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEh2rwDWLPiPLGBMkp6BR5m9gpbAIQlm8FaTTRH-GpLTw7XQIDdxTuVcoJsJI0PxOybvagPOiHfDwY1LaFgvtQ4HlGIVyuCvSXNG8IEselQMthq6ZiSy9UNqqyPoanCxoS8ju3kGbsLeliNhQzJWKSvg4z9osxrnFW-7E8Qm_Jx5lPWs7fjdxSQpj3wic0sX/w640-h180/%E6%A4%9C%E6%8C%99%E4%BA%BA%E5%93%A1.jpg" width="640" /></a></div><br /><div class="separator" style="clear: both; text-align: left;"><span style="font-size: large; text-align: right;">また、平成25年~平成29年の検挙人員は下記のとおりであり、これは「平成29年における生活経済事犯の検挙状況等について」にありました。</span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: left;"><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjN_qDK336zpwa7pnxkpb5A7ud54gwbGdeI9GlEQAM3xSvGyedEuAT-UiBiJyhEpVktmeNC8YfmMfcQyQq0OYrTKnAjskF2KKklIl4yBIK4B9c2bnKFLS3xiQMS6C8cRewrcjpERn9tTHtUrLZ-9bPql8ApnpwpBqnFCaDTY5rLse-twoi0b-OIw_5RwUHF/s794/%E5%96%B6%E6%A5%AD%E7%A7%98%E5%AF%86%E4%BE%B5%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E7%8A%AF%E3%81%AE%E6%A4%9C%E6%8C%99%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%A7%BB.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="252" data-original-width="794" height="204" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjN_qDK336zpwa7pnxkpb5A7ud54gwbGdeI9GlEQAM3xSvGyedEuAT-UiBiJyhEpVktmeNC8YfmMfcQyQq0OYrTKnAjskF2KKklIl4yBIK4B9c2bnKFLS3xiQMS6C8cRewrcjpERn9tTHtUrLZ-9bPql8ApnpwpBqnFCaDTY5rLse-twoi0b-OIw_5RwUHF/w640-h204/%E5%96%B6%E6%A5%AD%E7%A7%98%E5%AF%86%E4%BE%B5%E5%AE%B3%E4%BA%8B%E7%8A%AF%E3%81%AE%E6%A4%9C%E6%8C%99%E7%8A%B6%E6%B3%81%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%A7%BB.jpg" width="640" /></a></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: left;"><span style="font-size: large;">このように、平成25年から令和4年までの検挙人員の総数は289人となります。</span></div></div><div><div><span style="font-size: large;">検挙事件数の総数が177件で、検挙人員の総数が289人ということは、一つの事件に関与した人数が複数人の場合が多いということなのでしょう。</span></div><div><span style="font-size: large;">なお、このうち、少なくない割合で不起訴となっています。営業秘密侵害事犯における不起訴の割合はわかりませんが、「<a href="https://hakusyo1.moj.go.jp/jp/69/nfm/n69_2_2_2_4_0.html" target="_blank">令和4年版 犯罪白書</a>」によると近年の刑法犯において起訴率は40%前後のようですね。</span></div><div><span style="font-size: large;">仮に、この起訴率40%を営業秘密侵害事犯に当てはめると、検挙事件数のうち70件程度、検挙人員のうち120人程度が起訴され、裁判を受けることになります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、過去に営業秘密侵害事犯で起訴されたものの無罪となった事件は私が知る限り、4つ(計6人)あります。</span></div><div><span style="font-size: large;">(1)<a href="https://home.kingsoft.jp/news/news/jiji/2022022201048.html" target="_blank">行政書士顧客情報事件</a></span></div><div><span style="font-size: large;">(平成31年データを取得、令和4年2月大阪地裁で無罪判決 他の男との共謀は無い)</span></div><div><span style="font-size: large;">(2)<a href="https://www.sankei.com/article/20220318-PKT3FJVO3BKWNGBMME6L3VNVGU/" target="_blank">愛知製鋼事件</a></span></div><div><span style="font-size: large;">(平成29年2月逮捕 令和4年3月名古屋地裁で2人に無罪判決)</span></div><div><span style="font-size: large;">(3)<a href="https://www.sankei.com/article/20220323-5KYUX2KOIJO3RF56IFJKOJMPAY/" target="_blank">顧客情報事件</a></span></div><div><span style="font-size: large;">(平成29年1月データを取得、令和4年3月津地裁で無罪判決)</span></div><div><span style="font-size: large;">(4)<a href="https://www.sankei.com/article/20230706-BOEEDGRFFZOOXHY64PMCGZQ7OE/" target="_blank">自動車部品仕入れ先情報事件</a></span></div><div><span style="font-size: large;">(令和2年10月起訴、令和5年7月札幌高裁で2人に無罪判決)</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">無罪判決数が4つ人数にして6人であり、検挙人員の起訴数を120とすると、営業秘密侵害事犯における有罪判決率は、95%となります。なお、仮に検挙人員289人がすべて起訴されたとしても、有罪判決率は約98%です。</span></div><div><span style="font-size: large;">日本の有罪判決率が99.9%と言われているのに比較すると、今のところ営業秘密侵害事犯の有罪判決率は低いようにも思えます。とはいえ、営業秘密侵害事犯の母集団が圧倒的に少ないので、これは誤差範囲なのかもしれません。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">営業秘密侵害事犯は実際に数も多くなく、営業秘密の三要件等の判断は誤り易いのかもしれません。実際に、上記(3)の事件では、下記のように裁判所は判断したようです。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝柴田誠裁判長は判決理由で、顧客情報は「同業者なら特別な困難を伴うことなく容易に入手できるものが大半だ」とした上で、「日々の営業活動の中で個人的な信頼関係を構築し、蓄積してきたものと認められ、被告人自身の人脈と不可分の情報が多分に含まれていた」と指摘。❞(<a href="https://www.sankei.com/article/20220323-5KYUX2KOIJO3RF56IFJKOJMPAY/" target="_blank">2022/3/23 産経新聞「顧客情報持ち出し、無罪 地裁「被告人脈と不可分」」</a>)</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">このように、営業秘密とされるデータがどのようなものであるかは、判断が難しいもののあるでしょう。また、今後、営業秘密の三要件の判断基準が変化する可能性もあるかと思います。仮に、そうなった場合、今までは有罪と判断されたことが無罪と判断される可能性もあるかと思います。</span></div><div><span style="font-size: large;">もしかすると、逮捕されても不起訴となる割合が増加するのかもしれません。しかしながら、報道等では逮捕は報じられても不起訴は報じられ難いようであり、さらに不起訴理由は分かりません。営業秘密侵害は、その判断が難しいところもあり、検察の判断基準を知るためにも不起訴理由は何らかの形で公開してもらえると有難く思います。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-64576332728486754052023-07-11T22:50:00.003+09:002023-07-11T22:50:48.352+09:00不競法2条1項8号における「取得」や「使用」とは?その2<span style="font-size: large;"><a href="https://www.xn--zdkzaz18wncfj5sshx.com/2023/07/8.html" target="_blank">前回のブログ</a>では、どのようか行為が不競法2条1項8号違反(営業秘密の転得者による不正取得・使用等)となるのかについて、大阪地裁令和2年10月1日判決(事件番号:平28(ワ)4029号)を参考にして考えました。今回はその続きです。</span><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">本事件は、家電小売り業のエディオン(原告)の元従業員(被告P1)がリフォーム事業に係る営業秘密を転職先である上新電機(被告会社)へ持ち出した事件の民事訴訟です。この事件は刑事事件にもなっており、この元従業員は有罪判決となっています。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件では、被告が原告から持ち出した営業秘密は複数あり、それぞれについて被告による不正な開示・使用(不競法2条1項7号違反)、被告会社による不正な開示・使用(不競法2条1項8号違反)が裁判所によって判断されています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">前回のブログでは、不競法2条1項8号違反における「取得」について述べましたが、今回は「使用」についてです。</span></div><div><span style="font-size: large;">まず、工料表の価格と思われる資料1-5に対して、下記のようにして裁判所は、被告P1については不競法2条1項7号が認められる、と裁判所は判断しています。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝被告P1は,P3に対し,「EDION 工料表」及び「エディオンの内装リフォーム価格表」を送付したことが認められる。P3は,被告会社ビジネス開発大阪営業所長であったところ,同営業所はパッケージリフォーム商品の工事見積りを担当する部署であること(甲81の2)を踏まえると,被告P1は,被告会社のパッケージリフォーム商品の開発に当たり,原告の工事料金を意識して積極的に活用していたことがうかがわれる。このことと,被告P1がP3に対して送付した「EDION 工料表」は資料1-5であること(被告P1本人)に鑑みると,被告P1が被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等に当たりこれを参考としていたことが合理的に推認される。❞</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">そして、裁判所は、下記のようにして、被告会社は資料1-5の情報につき被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等に当たってこれを使用していたと判断しています。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">❝被告P1は,P3に対し,<u>工事費売価は「EDION 工料表の価格」で設定してある</u>としつつ,工事費原価は仮の数値を入れているとしてP3による設定を求めている(甲86の1)。また,別の機会に,<u>P3は,「エディオンの内装リフォーム価格用」記載の価格での運用を求める被告P1に対し,「内装工事の工事価格は,柔軟に変更してまいります。」と回答している。</u>こうした被告P1とP3のやり取りからは,両者(スマートライフ推進部とビジネス開発大阪営業所)のやり取りを通じて被告会社のパッケージリフォーム商品の工事価格が決定されていたことがうかがわれる。</span></div><div><span style="font-size: large;">そうすると,資料1-5の情報につき,被告会社は,被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等に当たってこれを使用していたものといえる。また,上記メールのやり取りの内容から,被告P1の示す工料表が原告のものであることはP3も当然に認識し得ることに鑑みると,<u>被告会社は,被告P1の開示した資料1-5の情報が原告の営業秘密であることを知り又は重大な過失によりこれを知らないで取得し,使用したものと認められる。</u>❞</span></div></blockquote><div></div><div><span style="font-size: large;">このように、被告会社は、資料1-5に対して分かりやすい態様で不正使用を行っていたようです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEja8OE84l-tlxSlh33TwnJ2Y2vAMNBnneA-msRgqV6QBO79qtSqzqBCNK2fkkHlJGvb5pX_SU7tYR3jDXmAddfo1DAgnBqgnOavw36XagEr-D0jUifMZ2rHk5TLEUHjmNXeoIId6CYBV2LNJXA31JRYO-bn-r1cl6g3YGKXg0OyW6vxW1FjJVSsw8dFqCsS/s4080/PXL_20230708_054538644.jpg" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="3072" data-original-width="4080" height="301" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEja8OE84l-tlxSlh33TwnJ2Y2vAMNBnneA-msRgqV6QBO79qtSqzqBCNK2fkkHlJGvb5pX_SU7tYR3jDXmAddfo1DAgnBqgnOavw36XagEr-D0jUifMZ2rHk5TLEUHjmNXeoIId6CYBV2LNJXA31JRYO-bn-r1cl6g3YGKXg0OyW6vxW1FjJVSsw8dFqCsS/w400-h301/PXL_20230708_054538644.jpg" width="400" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">次に、システムの情報である資料3-1~3-9についてです。</span></div><div><span style="font-size: large;">まず、原告は、リフォーム事業において「House System Operation Reform Program」システム(HORPシステム)を使用し、被告会社はリフォーム事業において「Joshinreform Unify Management Program」システム(JUMPシステム)を使用しています。</span></div><div><span style="font-size: large;">そして、資料3-1~3-9は被告P1が取得していると裁判所は認め、以下のことから、被告P1は被告会社にこれらの情報を開示したと判断しています。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">❝また,市販のリフォーム事業向け案件管理システムが建築業者等向けであるのに対し,HORPシステムの情報は,原告と同じく家電量販店としてリフォーム事業を展開する被告会社にとって,自社のシステム開発に当たり参考となるといえる。</span></div><div><span style="font-size: large;">さらに,<u>被告P1は,転職後に転職先でリフォーム事業に使用する意図で原告データサーバ上の情報を取得したと見られることに鑑みると,被告P1がHORPシステムに関する知識経験を有することを踏まえても,手持ちのHORPシステムに関する資料をJUMPシステムの開発に当たり開発関係者に開示しない理由はない。</u>現に,平成26年4月頃,被告P1は,P4に対し,HORPシステムの業務全体フロー(甲82)を示し,JUMPシステムの業務全体フロー(別紙6)を作成させているし,他の原告のリフォーム事業に関する資料を被告会社従業員に示すなどしている。しかも,被告P1は,取引先に対するメール(甲25)において,「100満ボルト,エディオンにて試行錯誤しながら辿り着いた一つのビジネスモデルを,今回は更にグレードアップさせ,スピードアップさせて最短でカタチにしてゆきます。」,「HORPシステムと同じ考えの基,それ以上のオペレーションシステムの開発…等ご協力いただく内容が沢山あります」などと,HORPシステムと同様のシステムの開発に強い意欲を示していた。</span></div><div><span style="font-size: large;"><u>こうした事情等に鑑みると,被告P1は,被告会社スマートライフ推進部でJUMP システムの開発に当たる中心的メンバーであるP4に対し,資料3-1~3-9を示し,JUMPシステム開発の参考に供したことが合理的に推認される。</u>❞</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">そして、裁判所は、以下の理由から、被告P1から開示された資料3-1~3-9を被告会社は使用したと判断しています。</span></div><div><blockquote><span style="font-size: large;">❝JUMPシステム開発の打合せの過程で被告会社からファンテックに対しHORP関連情報その他原告のHORPシステムに関する具体的な資料ないし情報が提供されたことがないこと,JUMPシステムの開発がそれ以前の被告会社のリフォーム事業の業務フローをおおむね踏襲しつつ,一元的な業務管理及び作業手順の標準化等の観点からリフォーム事業に特化した案件管理システムの開発として進められたものと見られること,作業の組織化,情報共有,進捗管理,顧客情報管理といったシステム導入効果は,市販のリフォーム事業向け案件管理システムでもうたわれていたこと,具体的な入力項目や操作方法といった詳細な事項は,既存のシステムとの連携や,社内の関連部署やメーカー,工事業者等の取引先との連携に関する従前の運用方法からの連続性等を考慮しなければならず,事業者ごとに異なり得ることなどに鑑みると,<u>P4等被告会社の関係者が参考としたのは,資料3-1~3-9の各情報のうち,家電量販店としてリフォーム事業を展開するための案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分が中心であったものと推察される。</u>❞</span></blockquote></div><div><span style="font-size: large;">上記で特徴的だと感じることは、被告会社のJUMPシステムの開発を委託していたシステム開発業者であるファンテックに原告のHORPシステムの関連情報が提供されていないにも関わらず、被告会社は「家電量販店としてリフォーム事業を展開するための案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分」を参考にしたと推察して、資料3-1~3-9を被告会社が使用したと裁判所が判断したことです。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">ここで、特許権侵害においては、他者の特許権に係る請求項の構成要件を全て充足する態様で実施しなければ、基本的には侵害となりません。一方で、営業秘密侵害は、上記のように、他者の営業秘密を全て充足するような使用態様でなくても、参考にするだけでも侵害とみなされます。しかも、本事件では「システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分」を参考にしただけでも営業秘密の使用と判断されています。</span></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、本事件を鑑みると、営業秘密の使用とみなされる範囲は特許権と比較してとても広い可能性があります。従って、万が一、自社に他社の営業秘密が不正に流入したとしても、当該営業秘密を決して参考程度にでも閲覧することなく、さらには自社内で拡散することがないようにしなければなりません。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.comtag:blogger.com,1999:blog-5088769467404656838.post-89127078650871907342023-07-04T09:15:00.002+09:002023-07-11T22:51:13.208+09:00不競法2条1項8号における「取得」や「使用」とは?その1<span style="font-size: large;">不正競争防止法第2条1項8号は下記のように規定されており、例えば、自社への転職者(転入者)が前職企業の営業秘密を自社で開示して、それを自社で使用した場合に不正競争防止法違反であるとして適用されます。</span><div><div><blockquote><span style="font-size: large;">不正競争防止法第2条1項8号<br /></span><div><span style="font-size: large;">その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為</span></div></blockquote><div></div></div></div><div><span style="font-size: large;">では、具体的にどのような行為がこの不競法2条1項8号違反となるのでしょうか。これについて、大阪地裁令和2年10月1日判決(事件番号:平28(ワ)4029号)を参考にして考えます。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件は、家電小売り業のエディオン(原告)の元従業員(被告P1)がリフォーム事業に係る営業秘密を転職先である上新電機(被告会社)へ持ち出した事件の民事訴訟です。この事件は刑事事件にもなっており、この元従業員は有罪判決となっています。</span></div><div><span style="font-size: large;">本事件は、被告が原告から持ち出した営業秘密は複数あり、それぞれについて被告による不正な開示・使用(不競法2条1項7号違反)、被告会社による不正な開示・使用(不競法2条1項8号違反)が裁判所によって判断されています。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">まず、原告の営業秘密である資料1-1について、以下のように被告P1の不正使用・開示行為があったと裁判所は判断しています。なお、資料1-1の内容は閲覧制限により具体的にはわかりませんが、原告の標準構成明細というものに含まれる情報であると思われます。また、下記P4は原告の従業員です。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">❝(ア) 前記(1)ウ(エ)のとおり,被告P1は,被告会社において,パッケージリフォーム商品の商品開発や仕入交渉等を単独で担当するとともに,原告の標準構成明細を使用して本件比較表及びこれに添付された標準構成明細を作成し,これをP4等に示した。また,<u>被告P1は,原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準構成明細のテンプレート(別紙2「営業秘密目録」資料1-1-2)を作成した(前記ウ(オ))。</u>当該テンプレートは,原告の標準構成明細の書式とかなりの程度類似する上,その備考欄上部の記載は,これが原告の標準構成明細の書式をもとに作成されたことをうかがわせる。</span></div><div><u><span style="font-size: large;">被告P1も,当該テンプレート作成に当たり表としては原告の標準構成明細を使用したことを認めている(被告P1本人)。</span></u></div><div><span style="font-size: large;">これらの事情に加え,被告P1がP1HDD に原告の標準構成明細のデータを保存していること(前記ア(イ))に鑑みると,被告P1は,被告会社のパッケージリフォーム商品の開発に当たり,その仕入価格,粗利率,粗利金額の設定のため原告の標準構成明細記載の原告の仕入価格等の情報を参考にしていたことが合理的に推認される。また,被告P1は,被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり,原告の標準構成明細の書式を使用したことが認められる。・・・</span></div><div><span style="font-size: large;">以上より,被告P1による資料1-1の情報の使用及び同情報に基づき作成された資料1-1-2の情報の使用は,不正競争(不競法2条1項7号)に当たる。❞</span></div></blockquote><div></div></div><div class="separator" style="clear: both; text-align: center;"><a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjIhhTwh7cjXVFc6pOV0gK6dLaqEohV2PUWnhxPuWxsQfDEIgbnRwF2n0quKVB-FPm_9zvHfeSV8KwEqzuWMlLl8F3ZOUjW3M6OtecXd7BBO_j-CsDiXVaeNbjA2jflw5KwO_ofh3Syr9LTd3Q2Y9ShXhYCLRsdX94tR5SBTPuAbZKhxmotC3Tcg8nMCAQt/s4080/PXL_20230625_064407714.jpg" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><span style="font-size: large;"><img border="0" data-original-height="4080" data-original-width="3072" height="400" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjIhhTwh7cjXVFc6pOV0gK6dLaqEohV2PUWnhxPuWxsQfDEIgbnRwF2n0quKVB-FPm_9zvHfeSV8KwEqzuWMlLl8F3ZOUjW3M6OtecXd7BBO_j-CsDiXVaeNbjA2jflw5KwO_ofh3Syr9LTd3Q2Y9ShXhYCLRsdX94tR5SBTPuAbZKhxmotC3Tcg8nMCAQt/w301-h400/PXL_20230625_064407714.jpg" width="301" /></span></a></div><span style="font-size: large;"><br /></span><div><span style="font-size: large;">そして、被告会社に対して、裁判所は下記のように資料1-1の情報について、被告会社は営業秘密不正開示行為があることを知り又は少なくとも重大な過失によって知らずに取得したと認めました。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">❝(イ) 前記(1)ウ(エ)及び(1)エのとおり,<u>被告会社共有フォルダ内に原告の標準構成明細のデータが保存されており,同フォルダを通じてP4及びP8がこれに含まれるデータを業務上使用する USBメモリに保存している。しかも,そのフォルダ名から,当該データが,本来は被告会社にあるはずのない原告のデータであることは容易に理解し得る。</u></span></div><div><span style="font-size: large;">これらの事情を総合的に考慮すると,被告会社は,資料1-1の情報につき,営業秘密不正開示行為があることを知り又は少なくとも重大な過失によって知らずに,これを取得したものと認められる。すなわち,被告会社による資料1-1の情報の取得は,不正競争(不競法2条1項8号)に当たる。❞</span></div></blockquote><div></div></div><div><span style="font-size: large;">なお、前記(1)ウ(エ)及び(1)エは、下記です。</span></div><div></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">❝(1) 関連する事実</span></div><div><span style="font-size: large;">・・・</span></div><div><span style="font-size: large;">ウ 被告P1の被告会社入社と被告会社のJUMPシステム開発等</span></div><div><span style="font-size: large;">・・・</span></div><div><span style="font-size: large;"> (エ)被告P1は,被告会社入社後,被告会社のパッケージリフォーム商品の開発及び仕入交渉等を単独で担当するようになった。・・・</span></div><div><span style="font-size: large;">被告P1は,その頃,本件比較表を,当時パッケージリフォーム商品の仕入を担当していたP4を含む被告会社従業員に示した上で,被告会社の粗利額,粗利率が低いことについて厳しい口調で叱責した。その際,<u>P4は,被告P1からそのデータをもらい受け,業務上使用する資料等を記録する自己のUSB メモリに保存した。また,本件比較表及び関連資料である上記標準構成明細のデータ(「JE構成明細比較.xls」)は,被告会社共有フォルダの「Edion」フォルダ内に保存されたことにより,被告会社スマートライフ推進部所属の従業員であれば閲覧可能な状態に置かれた。</u></span></div><div><div><span style="font-size: large;">・・・</span></div><div><span style="font-size: large;">エ 被告会社共有フォルダに保存されたデータ</span></div><div><span style="font-size: large;">被告会社共有フォルダには,「Edion」という名称のフォルダが存在する。同フォルダには,「(旧)商品作り」,「1P1」,「110218 エディオン様マスター」等のフォルダが存在する。このうち,「(旧)商品作り」には,「J-E 構成明細比較.xls」のファイルがあるほか,標準構成明細,プランニングチェックシート等のデータが保存されている。</span></div><div><span style="font-size: large;">スマートライフ推進部の従業員は,上記「Edion」フォルダの存在を認識しており,同フォルダ内のデータを閲覧するのみならず,前記のとおり,P4やP8は,同フォルダ内のデータを自己が使用するUSB メモリに保存していた。❞</span></div></div></blockquote><div><div></div></div><div><span style="font-size: large;">すなわち、原告の営業秘密を被告P1から受け取った被告会社従業員P4やP8が「Edion」という名称のフォルダを作成し、そこに原告であるエディオンの営業秘密を保存したという行為に対して、被告会社は不競法2条1項8号違反であると判断されたことになります。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;">確かに、不競法2条1項8号には「取得」も不競法違反として含まれています。このため、転入者が転職先企業において前職の営業秘密を開示した段階で、当該転職先企業はこの営業秘密を否が応でも取得したこととになり、不競法違反の可能性が生じます。これは転職先企業において非常に厳しい状況であり、このような状況に陥ることは避けなければなりません。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><div><span style="font-size: large;">さらに、被告は、原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準構成明細のテンプレートである資料1-1-2を作成して、被告会社従業員P3にメールしています。しかしながら、これについて裁判所は、下記のように被告会社の不競法違反に認めていません。</span></div><div><div></div><blockquote><div><span style="font-size: large;">❝他方,被告P1は,被告会社において,その在籍中は被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等を単独で担当していたものであり,その際に使用する標準構成明細も,原告の標準構成明細のデータ及び原告在籍中の被告P1の経験に基づき,他の被告会社従業員の関与のないままに作成されたものとうかがわれる。そうすると,被告会社における標準構成明細(甲86,87)について,被告会社が,被告P1の営業秘密不正開示行為により作成されたものと知っていたこと又は知らないことにつき重大な過失があると認めるに足りる証拠はない。</span></div><div><span style="font-size: large;">したがって,資料1-1-2の情報については,被告会社の行為は,不正競争(2条1項8号)に当たらない。これに反する原告の主張は採用できない。❞</span></div></blockquote></div></div><div><span style="font-size: large;">資料1-1-2について、被告会社の不競法違反が否定された要因として「被告P1以外の被告会社従業員の関与がなく、原告の営業秘密を使用したこと被告会社が知ることもできなかった」ことにあるのでしょう。すなわち、すでに被告会社従業員であるものの転入者である被告P1が独自に作成した資料を被告会社で開示しても、被告会社は不競法違反にならないようです。</span></div><div><span style="font-size: large;">従って、本事件において、仮に被告P1が原告の営業秘密である情報1-1を被告会社で開示することなく、自身が独自に資料1-1-2を作成して、それを被告会社が使用しても被告会社は不競法違反にならないと思われます(原告から被告会社へ警告等がされた後も使用し続けたら、不競法2条1項8号違反となる可能性はあると思います)。</span></div><div><span style="font-size: large;"><br /></span></div><div><span style="font-size: large;"><a href="https://www.xn--zdkzaz18wncfj5sshx.com/2023/07/82.html" target="_blank">次回</a>につづきます。</span></div><div><br /></div><div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: medium;"><span style="font-size: large;"><a href="http://www.営業秘密ラボ.com/"><b>http://www.営業秘密ラボ.com/</b></a></span></span></div><div style="text-align: center;"><span style="font-size: large;"><u><b>弁理士による営業秘密関連情報の発信</b></u> </span></div></div>弁理士 石本 貴幸http://www.blogger.com/profile/14123180392559369747noreply@blogger.com