営業秘密関連ニュース

2019年2月15日
・男女逮捕、元勤務先から顧客データ盗む…営業秘密侵害の疑い 女の会社でデータ使用、犯罪収益を隠す/県警(埼玉新聞)

2019年1月29日
・<米国> 三菱航空機、ボンバルディアを反訴 MRJ巡り(REUTERS)
・<米国> 三菱航空機、ボンバルディアを反訴 「開発阻害の違法行為」(日経新聞)
・<米国> ボンバルディアを反訴 三菱航空機、不正根拠なく(SankeiBiz)

2019年1月29日
・<米国> 米司法省、ファーウェイ起訴 イラン制裁での詐欺罪など(朝日新聞)
・<米国> 米、ファーウェイ副会長ら起訴 身柄引き渡しも要求(産経新聞)
・<米国> 米司法省、中国ファーウェイを起訴 制裁逃れと企業秘密窃取の疑い(REUTERS)
・<米国> 米司法省、ファーウェイを起訴--企業秘密の窃取や詐欺で(CNET Japan)
・<米国> ファーウェイCFOらを米が起訴…罪状23件(YOMIURI ONLINE)

2019年1月24日
・顧客情報をライバル会社に 元社員の男逮捕(FNN)
・競合社に営業秘密漏えい容疑=ソフトウエア会社元部長逮捕-警視庁(JIJI.COM)
・営業秘密漏らした疑い システム会社元幹部を逮捕(産経新聞)
・営業秘密漏らした疑いで逮捕 システム会社元幹部(中日新聞)
・お詫びとご報告(株式会社ゼネテック - ホームページ 2017年11月13日)

営業秘密の帰属について

特許に関しては、過去の裁判の積み重ね等により、特許法35条(職務発明)の度重なる法改正が行われ、特許を受ける権利は誰に帰属するのかが明確になっています。
しかしながら、営業秘密の帰属については、未だ法的に明確になっていません。そして、営業秘密の帰属については、主に不正競争防止法2条1項7号において問題になるかと思います。

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不正競争防止法2条1項7号
営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
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<不競法における「営業秘密を保有者から示された者」の解釈>

不競法2条1項7号における侵害行為と認められる場合には「保有者からその営業秘密を示された場合において、」との要件を満たす必要があります。また、同様の要件として営業秘密の刑事罰を規定した不競法21条1項三号等には「営業秘密を保有者から示された者」との要件があります。

ここで、営業秘密を創出した従業者は「営業秘密を保有者から示された者」に該当するのでしょうか。具体的には、発明であれば従業者が一人で創出する場合もあり、このような場合には当該発明にかかる情報はまず従業者が自身が業務で用いるパソコン等に保有し、その後従業者から企業へ示されることになります。すなわち、このような場合において発明を創出した従業者と創出者との関係では「営業秘密を保有者から示された者」は、企業側となります。

この解釈が正しいのであれば、たとえ企業が従業者から示された当該発明を秘密管理したとしても、当該従業者が他の企業に転職して転職先企業において発明を開示することは不競法違反にはあたりません。この従業者は上記の「営業秘密を保有者から示された者」との要件を満たさないためです。


<営業秘密が規定された当時の逐条解説の記載>

営業秘密は1990年(平成2年)から不正競争防止法において民事的保護が規定されました。
通商産業省(現経済産業省)知的財産政策室が監修した「営業秘密ー逐条解説 改正不正競争防止法ー」が発行されています。 すなわち、この書籍の記載は営業秘密が定められた当初における行政の法解釈と理解できます。
ここで、本書の87ページの“「保有者ヨリ示サレタル営業秘密」”には「例えば企業に所属する従業員が職務上営業秘密を開発した場合に、当該営業秘密の本源的保有者は企業と従業員のいずれにかるのか、即ちいずれに帰属するのかという点が問題となる。」とのように帰属について問題提起しています。すなわち、営業秘密の民事的保護が規定された1990年において既にその帰属に対する問題提起はなされていました。
そして、これに対して本書では「個々の営業秘密の性格、当該営業秘密の作成に際しての発案者や従業員の貢献度等、作成がなされる状況に応じてその帰属を判断することになるものと考えられる。」とし、下記のように例示しています。

「例えば企業Aで働く従業員Bが自ら営業秘密を開発しそれがBに帰属する場合にはAから示された営業秘密ではないため、Bが転職して競業企業Cにおいて当該営業秘密を使用したり開示したりする場合であっても、本号に掲げる不正行為には該当しない。・・・契約によってBからAに帰属を移した営業秘密をBが転職して競業企業Cにおいて利用したり開示したりする行為は、本号の適用を受けないとしても債務不履行責任を負うことは当然である。」
すなわち、本書では、営業秘密が従業員Bに帰属する場合には当該営業秘密を他社等に開示しても不競法2条1項7号違反にはならない、一方で、帰属を企業に移していたら債務不履行となる、と解釈しているようです。
なお、本書の93ページの注意書き(4)には「営業秘密の帰属については、①企画、発案したのは誰か、②営業秘密作成の際の資金、資材の提供者は誰か、③営業秘密作成の際の当該従業員の貢献度等の要因を勘案しながら、判断することが適切であると考えられる。」とあります。



<ー判例ー 技術情報に係る営業秘密の帰属について>

技術情報に係る営業秘密の帰属を判断した裁判例として、フッ素樹脂ライニング事件(大阪地裁平成10年12月22日判決)が挙げられます。本事件は、フッ素樹脂シートの溶接技術に関するノウハウ(本件ノウハウ)が営業秘密であると原告会社は主張しています。

本事件では、原告会社を退職した被告A(個人)び被告B(個人)は、その後、被告会社の取締役に就任しました。そして、被告会社らは、本件ノウハウに秘密性が認められたとしても、本件ノウハウは被告Bが一人で考案し、実用化したものであるから、その権利は被告Bに帰属すると主張しました。

これに対し、裁判所は「本件ノウハウの確立等に当たって被告Bの役割が大きかったとしても、それは原告会社における業務の一環としてなされたものであり、しかも、同被告が一人で考案したものとまで認めるに足りる証拠はないから、本件ノウハウ自体は原告会社に帰属するものというべきであり、被告B個人に帰属するものとは認められない。」として営業秘密である本件ノウハウが被告bに帰属するという被告の主張を認めませんでした。



<ー判例ー 営業情報に係る営業秘密の帰属について>

営業情報に係る営業秘密の帰属を判断した裁判例として、医薬品顧客情報流出事件(大阪地裁平成30年3月5日判決)が挙げられます。

本事件では、被告ら3名(明星薬品を退職して八光薬品を設立及び入社)は、自らが顧客情報を集積していたのであって、明星薬品を退職するまで明星薬品とともに被告ら3名も顧客情報の保有者であったと主張しました。

この主張に対して、裁判所の判断は、以下のようなものであり、当該顧客情報は被告らに帰属せず、明星薬品に帰属していたと判断しています。

・被告ら3名は、明星薬品の従業員として稼働していた者であり、明星薬品の営業として顧客を開拓し、医薬品等の販売を行うことによって明星薬品から給与を得ていた。被告ら3名が営業部員として集めた情報は、明星薬品に報告され、明星薬品の事務員がデータ入力して一括管理していた。
・実際に顧客を開拓し、顧客情報を集積したのは被告ら3名であっても、それは、被告ら3名が明星薬品の従業員としての立場で、明星薬品の手足として行っていたものにすぎないから、被告ら3名が集積した顧客情報は、明星薬品に帰属すべきといえる。



<考察>

医薬品顧客情報流出事件では顧客情報の作成に対して被告の貢献度が高いと思われるにもかかわらず、裁判所は顧客情報の帰属は会社にあると判断しました。

ここで、上述のように「営業秘密-逐条解説 改正不正競争防止法」(1990年) には、営業秘密の帰属についての判断基準の例として下記(1)~(3)等の要因を勘案しながら判断することが示されています。
(1)企画、発案したのは誰か
(2)営業秘密作成の際の資金、資材の提供者は誰か
(3)営業秘密作成の際の当該従業員の貢献度

すなわち、医薬品顧客情報流出事件において裁判所は、被告三人が顧客情報を集積したことを認めたものの、顧客情報に関して従業員の貢献度(上記(3))を勘案せず、上記(1),(2)に相当すると考えられる事実を勘案してその帰属を判断したと解されます。
このように、営業情報については、たとえ、その作成にあたり従業員の貢献度が高かったとしても、当該営業情報は従業員に帰属するとは認められにくく、その帰属は会社に帰属すると判断され易いとも思われます。

一方、技術情報についてはどうでしょうか。
フッ素樹脂ライニング事件において裁判所は「同被告が一人で考案したものとまで認めるに足りる証拠はない」と認定していますが、この認定は、裏を返せば、本件ノウハウが被告一人で考案した証拠があれば、本件ノウハウは被告に帰属する可能性を示唆しているとも思われます。

ここで
「営業秘密-逐条解説 改正不正競争防止法」(1990年) p.93には「特許法においては、発明をなすという行為は個人の発想に基づくところ大であり、属人的性格が強い」とされ、近年の特許法35条の度重なる改正等により特許の発明者の権利も強く認められています。
そうであるならば、同じ技術情報であっても特許出願した場合には発明者としての従業員の権利が認められる一方、営業秘密化した場合には従業員の権利が認められないとなると、非常にバランスを欠くとも思われます。

このように考えると、技術情報を営業秘密とした場合、当該技術情報の創出の寄与が高かった従業員が当該技術情報を会社に許可なく持ち出す等しても、当該技術情報は当該従業員に“も”帰属していると判断され、不競法違反に問うことは難しいのではないかと考えます。
では、企業としてはどうすればよいのでしょうか。企業は、技術情報の創出の寄与が高かった従業員に対して秘密保持契約を結ぶべきでしょう。これにより、もし従業員が当該技術情報を持ち出した場合、不競法違反に問えなくても秘密保持義務違反を問うことは可能となります。なお、秘密保持義契約を締結する場合には、当該技術情報を特許出願した場合と同様に企業は当該従業員に対して相当の利益を与えるべきと考えます。

ただし
、このようにして持ち出された技術情報を当該従業員から開示された他社(例えば当該従業員の転職先企業)が使用した場合には、当該他社は不競法2条1項8号違反により営業秘密の侵害になります。
すなわち、秘密保持契約が締結されている技術情報の許諾のない開示は、不競法2条1項8号の「その営業秘密について不正開示行為(秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為)」に該当すると考えられるためです。