営業秘密関連ニュース

2018年11月2日
2018年11月2日

2018年11月1日
・自社技術の情報漏らす 元取締役ら2人逮捕(日テレニュース24)
・光ファイバー技術漏出の疑い、元精密部品会社員ら逮捕へ(朝日新聞)


営業秘密と先使用権主張準備

営業秘密と先使用権はよくセットにされて語られます。
技術情報を営業秘密化(秘匿化)する場合には当然特許出願を行わないので、当該技術に係る特許権を他者に取得される可能性が生じます。したがって、技術情報の営業秘密化にとって先使用権について意識することは当然でしょう。


<1.先使用権とは>

先使用権は特許法第79条に規定されている通常実施権のことです。
先使用権は、他者がした特許出願の時点で、その特許出願に係る発明の実施である事業やその事業の準備をしていた者に認められる権利(無償の通常実施権)です。すなわち、当該技術に関する特許権は、他社が所有し、自社は所有していません。
なお、先使用権を主張する場合には、他社の特許出願に係る発明を知らないで自らその発明を行っている必要があります。すなわち、先使用権の主張をする側が独自に開発している必要があります。

例えば、自社で独自に開発して実施している製造方法等を特許出願せずに秘匿化した後に、当該製造方法に係る発明の特許権を他者に取得されるとこの形式的には特許権の侵害となります。しかしながら、先使用権の主張が認められれば、例外的に他社の特許権に係る発明を無償で実施可能となります。 
裏を返すと、他者の特許出願に係る発明を独自に開発しても、当該特許出願時に事業の実施又は準備をしていなければ、先使用権は認められません。


<2.先使用権主張のための証拠>

先使用権の主張を行うためには、先使用権を有することを示す客観的な証拠が必要です。
先使用権の証拠資料は、自社実施又はその準備が他社の特許出願前であることを、客観的に証明するものです。このため各証拠資料には、日付の記載が必要不可欠です。

証拠資料としては例えば下記のようなものがあります。
A.研究開発段階、発明の完成段階
 研究ノート、技術成果報告書、設計図、仕様書
B.事業化に向けた準備が決定された段階
 社内の事業化決 定会議の議事録や事業開始決定書等
C.事業の準備段階   
 設計図、仕様書、 見積書、請求書、納品書、帳簿類等
D.事業の開始及びその後の段階
 製品の試作品、 製造年月日や製品番号、仕様書、設計図、カタログ、パンフレット、 商品取扱説明書及び 製品自体等
(参考:特許庁ホームページ 先使用権制度について


上記「A」は先使用権の対象となる発明が自社で独自に開発していたことを示す証拠となり、「B」と「C」は事業の実施の準備を示す証拠となり、「D」は事業の実施を示す証拠となり得るかと思います。


<3.先使用権主張の準備>

先使用権の主張を行う場合とは、特許権者から侵害である訴えられた場合であり、かつ侵害の否認することができない場合です。
実際に特許権者から訴えられる場合とは、当該特許出願のときから数年又は十数年経過している場合が多いでしょう。上記のように先使用権主張のための証拠は、他社の特許出願時点のものです。このため、訴えられたときに先使用権主張のための証拠を揃えようとしても既に破棄又は散逸してしまい、思うように証拠を集めることができない可能性があります。
そこで、自社が開発した技術を特許出願せずに秘匿化する場合には、他者の特許権を侵害する可能性を考慮して予め先使用権主張の準備を行うという知財活動があり、実際に行っている企業も多数あります。

先使用権主張の準備とは、具体的には以下のようなものです。


まず、自社で技術開発を行う過程で、先行技術調査を行うことで他社特許出願の有無を調べます。その結果、他社特許出願がない場合には、開発した技術情報の特許出願又は秘匿化の判断が行われるでしょう。
当該技術について秘匿化を決定し、その後、当該技術の実施の準備を開始すると先使用権主張の準備のための証拠集めを行います。さらに、事業の実施が開始されるとそれに応じて証拠集めを行います。
証拠収集が完了するとこれらの証拠をファイルにし、公証役場で確定日付を得、万が一のためにこのファイルを保管します。

また、公証役場で確定日付を得る代わりに、収集した証拠を電子データ化してタイムスタンプを押すことも考えられます。


<4.営業秘密管理と先使用権主張準備の組み合わせ>

上記のような先使用権主張の準備の問題点としては、技術情報の実施又は実施の準備を開始した時点で先使用権主張の準備をすることです。すなわち、未だ存在しない他社出願を想定して先使用権主張の準備を行うことになります。このため、もし他社が当該技術にかかる特許出願を行わない場合には、せっかくの先使用権主張の準備は無駄になります。

そこで営業秘密管理、ここでは営業秘密の非公知性喪失の有無の確認を用いることで、無駄のない先使用権主張の準備が行えると考えます。

ここで、営業秘密化する技術情報と公知技術とを混在させて秘密管理してしまうと、営業秘密化する技術情報の秘密管理性までもが否定される可能性が考えられます。このため、特に重要な営業秘密に関しては、定期的に特許文献調査等を行い、当該技術情報の非公知性喪失の有無を確認するべきと考えます。
もし、当該技術情報の非公知性が喪失した場合には、他の営業秘密の秘密管理性に影響を与えないように、秘密管理を解除するというような措置をとることが考えられます。

このような非公知性喪失の有無の確認を定期的に確認すると、自社で秘密管理している技術情報と同様の技術を他社が特許出願していることを発見する可能性があります。
そこで、自社が秘密管理している技術と同じ特許出願を発見したタイミングで先使用権主張の準備を行うことで、無駄な先使用権主張の準備は回避できるかと思います。

この手法を図案化したものが下記図です。



1.開発した技術の先行技術文献調査(検索式の作成)
2.先行技術が無い場合に技術情報を特許出願又は秘匿化の決定 
3.秘匿化した技術情報のうち、少なくとも実施又は実施の準備をしている技術情報を定期的(半年や1年毎)に他社特許調査(検索式の利用)
4.他社の特許出願を発見した場合に、先使用権主張の準備
5.当該他社の特許出願の審査状況をウォッチ

このような手法をとることで、先使用権主張の準備を行う対象となる技術情報は、実際に他社が特許出願した技術のみとなります。
なお、この手法は、既に他社特許出願の特許公開公報が発行されたのちに先使用権主張の準備を行うものです。このため、収集すべき証拠資料が既に失われていることを危惧される方もいるかもしれません。
しかしながら、他社特許出願の確認を半年に一度行うのであれば、特許公開公報の発行は出願から1年半後なので最長でも2年前に出願された他社特許出願を発見することになり、他社特許出願のタイミングからさほど時間は経過していないと考えられます。もし、2年前の証拠資料を自社内で収拾できないとしたら、それは自社の文書管理に問題があると考えられ、営業秘密管理以前の問題でしょう。


<タイムスタンプの利用案>

先使用権主張において今後、侵害側が自社で独自に開発した発明であるか否かが争いになるかもしれません。
その理由は、今後人材の流動性がより高まっているため、特許権を有している企業から、侵害側の企業に当該特許発明の内容を知った従業員が転職する可能性があります。
すなわち当該従業員の転職後に特許出願がなされ、侵害企業が特許出願の前に事業の実施又は実施の準備を行っていた場合には、その侵害企業が独自に開発した技術ではないことが疑われます。

このため、自社開発であることを証明する必要が生じ、自社開発であることを示す証拠資料は、研究ノートやそれに付随する電子データであろうかと思います。しかしながら、発明の着想を得た時期は何時なのかといったようなことを示す資料となり得るものは少ないかもしれません。
例えば、当該発明を記載した1ページ程度の文書データがその資料となり得るかもしれません。そのような資料(文書データ)は、日付の改ざんが疑われる可能性もあります。

証拠資料の日付に疑問を生じさせることを防止するためには、例えば研究開発の過程を示す電子データにタイムスタンプを押すことが考えられます。
そして、このようなタイムスタンプを押した電子データに加え、日付入りの手書きの研究ノートもあれば2重の証拠資料となり得るため、尚よいでしょう。
弁理士による営業秘密関連情報の発信