2017年8月30日水曜日

営業秘密の漏えいが発覚してもやってはいけないこと

自社の営業秘密の漏えいが発覚したら何をしますか?

漏洩した営業秘密の特定を行うかと思います。
そして、何時誰が漏えいさせたかを調査することになると思います。

これらの調査は、まず社内で行うことになるでしょう。
そのとき、どのように調査を行いますか?
2種類の方法が考えられるかと思います。

①営業秘密の漏えいがあったことを社内で広く告知し、情報提供等を呼び掛ける。
②営業秘密の漏えいがあったことを社内で告知することなく、限られた人員でのみ調査を行う。

さあ、どちらを選択しますか?



多くの社員に告知することで、当然、営業秘密の漏えいに関する情報も集まりやすいでしょうし、近年の隠ぺい体質への批判的な風潮からすると、やはり①でしょうか?

では、①を選択した場合における最悪の事態はどのようなものでしょうか?
これも、私が参加したセミナーで警察関係者が述べていたことです。

営業秘密の漏えいがあったことを社内で広く告知すると、営業秘密の漏えい者が未だ自社に在籍している場合には、自身が行った漏えいが発覚したことを認識することになります。
この場合、漏えい者は、証拠隠滅を図る可能性があります。
そうした場合、漏えい者を特定することが困難になるかもしれません。

さらに漏えい者は、最も効果的な証拠隠滅である自殺を行う可能性があるようです。
営業秘密の漏えい者は、殆どの場合では前科はないようです。
まあ、そうですよね。漏えい者は、多くの場合、社内で普通に働いていた人ですから。
そして、漏えい者は、初めて犯した犯罪の重大さに驚き慄き、自殺を選択する可能性があるようです。
こうなったら、犯人捜しどころではないですよね。

と、いうわけで営業秘密の漏えいが発覚しても①はやってはいけないことであり、②の方が好ましいようです。

②を行う場合は、信頼できる社員で調査を行うことが当然重要になります。
口の軽い人でしたら務まりませんよね。
また、営業秘密の漏えいが発覚した場合には、警察に相談することも重要とのこと。
警察と共に調査を行うことで、より早期に漏えい者を探し出すことを試みた方が良いかと思います。
この場合、警察も会社にズカズカと踏み込んで捜査を行うのではなく、会社側から必要な資料の提供を受け、参考人等に対しては社外で話を聞く等のことをするそうです。

また、営業秘密の漏えいが発覚した場合に正しい行動をとれるように、防災マニュアルのような、「営業秘密漏えいマニュアル」をあらかじめ作ることも必要かと思います。
②の行動をとることが必要であると一部の人が認識していても、それを知らない人が大騒ぎし、漏えい者に証拠隠滅を図られるかもしれませんからね。

2017年8月28日月曜日

タイムスタンプ:技術文書管理システム

富士ゼロックスが、「知的財産の先使用権立証を支援する技術文書管理システム」を作成したとの報道を読んで、ちょっと思ったことを。

<参照>
IT Leaders:http://it.impressbm.co.jp/articles/-/14882
富士ゼロックス:http://news.fujixerox.co.jp/news/2017/001373/

アマノのタイムスタンプサービスを組み合わせたもののようですね。
タイムスタンプの利用=先使用権立証という流れに沿ったサービスですね。

私は、タイムスタンプを先使用権立証のために用いることが一般的になるということに対しては少々懐疑的です。
しかしながら、私の予想が外れて、一般的になればいいとは思います。



ここで、「タイムスタンプを押した情報=秘密管理性を満たす」ということにはならないと考えられます。
「タイムスタンプを押す=情報の作成日時の証明」であり、情報の秘密管理とは直接的にはむすびつかないと考えられます。

せっかくならば、こういったタイムスタンプを押したシステムに対して、情報の秘密管理性も満たすようなサービスを組み込んだら如何でしょうか?
タイムスタンプを押す情報の中には、当然、営業秘密として保護すべき情報も含まれているでしょう。
そのような情報に対して、㊙マークを同時に付与するとか、パスワード等でアクセス管理された所定のフォルダに自動的に記憶されるとか、・・・。

ところで、「営業秘密」+「タイムスタンプ」のキーワードでグーグル検索を行うと、このブログにおける「タイムスタンプを使う目的」の記事が1ページ目に出てきます・・・。
この記事がどの程度アクセスされているかは分かっているので、「営業秘密の管理に対してタイムスタンプを用いる」という観点は広まっているとは言い難いですね。
一方で、「先使用権」+「タイムスタンプ」のキーワードで検索しても私のブログ記事はすぐに上がってこないので、「先使用権の証明にタイムスタンプを用いる」という観点は、「営業秘密の管理に対してタイムスタンプを用いる」という観点に比べて、圧倒的に広まっていると思われます。

2017年8月25日金曜日

特許権の侵害は刑事事件化されず、営業秘密の侵害は刑事事件化される理由

特許権の侵害は刑事事件になることはまずありません。
一方、営業秘密の侵害に関しては、刑事事件となる場合があります。
この違いは何でしょうか?

これに関して、あるセミナーで警察関係者の方が警察の視点から説明したものを聞いたことがあります。
特許だけでなく、実案や意匠も同様でしょうが、その理由は、無効審判によって権利そのものが消滅する場合が多々あるためとのことでした。

もし、侵害者(法人含む)に対して警察が立件しても、その後、無効審判によって権利が消滅した場合には、犯罪行為そのものがなくなってしまうため、警察は特許権等の侵害を刑事事件化することに及び腰になるとのことでした。

これはよく分かる理由だと思いました。

商標法違反で刑事事件化される場合でも、商標法違反とされる商標は今後無効とはなり得ないほど有名なブランドのものですしね。


一方で、営業秘密に関しては、その取得行為等は窃盗犯と同様のものであると警察は考えているようです。
営業秘密に関しては、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たしていれば、その後、営業秘密が無効となることはありません。
すなわち、営業秘密に関しては、特許権等とは異なり、事後的にその犯罪行為そのものがなくなることはありません。

特許権等は、技術を独占し他社を排除できる“強い権利”であるからこそ“無効審判”の制度が設けられているのですが、この無効審判があるために、刑事事件化され難いようです。
一方、営業秘密は、“強い権利”となりえるものではなく、“無効”という概念そのものがないため、刑事事件化され易いようです。

営業秘密が技術情報である場合、特許権侵害と営業秘密侵害はその行為は同様であるとも思われます。
にもかかわらず、刑事事件化されるか否かの違いが非常に大きく、私自身はなんだか釈然としません。
そもそも、特許権侵害と営業秘密侵害の刑事罰を同列に考えてはいけないのでしょうか?