2018年8月27日月曜日

特許制度は優れた管理システム

営業秘密について考えると、その管理手法も重要になります。
ここでいう管理手法とは、営業秘密の三要件のうち秘密管理性のことではなく、データ等の管理システム等についてです。

営業秘密とする情報は、誰が管理するのでしょう?
それは各企業ごとに異なります。
管理主体は法務部、知財部、又は当該情報を使用する事業部等でしょうか?

また、営業秘密とする情報は、実際の業務で使用することが多いでしょう。
そうであるならば、管理を法務部や知財部で行ったとしても、技術情報ならば技術開発部で使用したり、顧客情報ならば営業部で使用したりします。そして、その内容は逐次更新される可能性もあります。
そうすると、営業秘密の使い勝手を良くするために、ITを使った営業秘密管理システムを構築するのでしょう。
そして、構築した営業秘密管理システムに対するアクセス管理も行います。
さらにこのシステムはクラウドにするほうが使い勝手が良いでしょう。
また、営業秘密とするデータが更新された場合は、更新される前のデータをどうするべきでしょうか?念のためシステム上に残すのでしょうか?それとも破棄するのでしょうか?
いづれにせよ、ルール作りが必要となります。
そのような様々なことを考えると、営業秘密管理システムの構築費用が相当なものになるでしょう。


一方、特許制度はどうでしょうか?
特許出願をすると1年6月後に全て公開公報として公開されます。
公開公報は、独立行政法人であるINPITが運営するJ-PlatPatで閲覧することができます。
このJ-PlatPatはインターネットで誰でも閲覧でき、また検索機能を有しているため、出願人やキーワード等で検索できます。
また、特許の審査が開始されるとそのステイタス、拒絶理由通知がなされたか、補正されたか、これらの内容を確認できます。
そして、特許査定となると特許公報が閲覧でき、年金の支払い状況等の権利継続状況も確認できます。

いうなれば、J-PlatPatは特許の管理システムです。
さらにいうと、この管理はINPITが行ってくれ、かつ特許制度、換言すると日本国が存続する限り管理し続けてくれます。
このため、自社が過去に何時どのような出願を行ったのか?そのステイタスはどうなっているのか?このようなことを簡単に確認できます。
しかも、J-PlatPatで管理してもらうためには、最低で1件1万5千円を支払えばいいのです。具体的には特許出願時に出願料として1万5千円を支払えば、出願から1年6月後に公開公報という形でJ-PlatPatで管理を開始してくれます。
特許の明細書を特許事務所に作成させる手数料を考えなければ、システムの作成費用、管理費も不要ですし、安価と考えられるのではないでしょうか?
しかも、時々より使いやすくなるようにバージョンアップしてくれます。

特許出願は公開されますが、このようにJ-PlatPatを自社の特許管理システムと考えると、見方が変わるのではないでしょうか?

技術情報の営業秘密化は特許化よりもコストが掛からないという考えもあるようですが、私は決してそうは思いません。
技術情報を営業秘密化しても、技術情報は日々新しいものが公知となります。このため、営業秘密化した技術情報については、その内容によっては非公知性の喪失の有無を定期的に確認する必要があるでしょう。この非公知性の確認には当然コストが掛かります。
もし、非公知性が失われているにもかかわらず、そのまま営業秘密として管理していると秘密管理性の形骸化を招き、営業秘密化している他の技術情報の秘密管理性に影響を与える可能性も否定できません。
また、営業秘密化する技術情報は、特許明細書と同様に文章化が必要なものもあるでしょう。そうすると、その作成にはコストが掛かります。
そして、上述のように、営業秘密管理システムの構築、メンテナンスにはコストが掛かります。

このように考えると、営業秘密として技術情報を管理することは決して安価ではないでしょう。営業秘密を適切に管理しようとすれば、特許出願よりもトータルで高コストになる可能性が高いと思います。

技術情報を特許出願又は営業秘密化をコストの面から判断することは適切ではないかと思います。
しかしながら、現在の日本は特許公開制度を有しており、特許公報等はJ-PlatPatで閲覧可能です。であれば、これを特許管理システムと位置づけ、自社の基準として公開可能な発明であれば、他者による権利化を阻むというメリットも考慮し、特許出願を行うことを考えてもよいのではないでしょうか?

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年8月20日月曜日

営業秘密の民事訴訟は生々しい

今回は営業秘密に関するものの、さほどかたい話ではありません。

営業秘密に関する訴訟も知財に関する訴訟といえるでしょう。
ここで、知財に関する訴訟といえば、特許侵害訴訟当です。
特許侵害訴訟であれば、その構成要素を全て充足する製品を被告が製造等しているか?といったように主に技術論になり、ドロドロした感じはほとんどありません。
まあ、裏側には被告企業のことが気に入らない、というような原告側の気持ちもあるかと思いますが、判決文からは読み取れません。

一方、営業秘密に関しては、判決文を読んでいてもドロドロ感があります。

例えば、顧客情報に関するものであれば、元従業員や元役員等であった退職者が被告になる場合が多いのですが、中には原告の無理筋ではないかと思われる訴訟もあり、原告の気持ちが何となく伝わります。
要するに、“自社の顧客を持っていかれて気に入らない。だから何とか訴えられないか?”という気持ちでしょうか。
元がこんな感じ(私の想像ですが)であるため、営業秘密の特定も不十分な場合もあり、複数の訴訟の中には裁判所が「原告の主張する営業秘密が何であるのか特定できないため、秘密管理性、有用性、非公知性の判断ができない。」とのように判断され、棄却となる例もあります。


また、営業秘密の訴訟では、個人が被告に含まれる場合が多いので、その被告と原告企業との関係が細かく判決文に記載されています。例えば、被告が原告企業にいつ入社し、どのような業務に従事し、いつ退職し、どこに転職したかというようにです。
被告が複数人存在すれば被告毎にそれが記載され、被告間の関係も記載されていたりします。

例えば、ある訴訟では人間関係の複雑さを感じさせるものがありました。
それは、Aが同僚のBに自身と共に転職を促し、かつ営業秘密の持ち出しを企てたものの、Aは結局転職せずBのみが転職し、在職していた企業から訴えられたというものもありました。Bにとってみたら、納得しがたいものがあるでしょう。

さらに生々しさのある訴訟としては、競合他社へ転職した元従業員を被告とした訴訟において、転職先企業と被告との関係を示すものとして、被告が転職後に乗り換えた自家用車、具体的には被告がステップワゴンで妻がフィットであったものを、妻の名義でレガシーワゴンと中古のメルセデスベンツに買い替えたとの事実認定がされたものがありました。確かに転職後に自家用車のグレードが明らかにアップしています。
これは、転職企業から被告へ与えた利益を示すものとして、原告が調べたのでしょう。原告は、被告が競合他社に転職すること、しかも自社の営業秘密を持ち出していることに気が付いていたので、被告を解雇しています。そして、被告の行動を可能な限り調べたのでしょう。

このように、営業秘密関連の訴訟は特許侵害訴訟等とは少々異なる“色”もあり、まさに民事訴訟という感じでしょうか。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年8月13日月曜日

技術情報の複数の管理手法

技術情報の管理、あまり使われない表現かもしれませんが、私は理想的には下記3つの手法を技術情報の管理と考えます。

①特許化
②秘匿化
③放置管理

なお、放置管理とは、特許化、秘匿化の何れも選択されなかった技術情報をその後、その技術内容及び放置管理に至った経緯を含めて確認できるように管理”をすることです。放置管理は、文字通り何ら管理しないというものではありません。
また、さらに細分化すると「権利化を伴わない公知化」というものもあるかと思います。例えば自社の技術力アピールのためにホームページ上で技術情報を公開するといったものです。しかしながらこのような手法を選択する場合は少ないと思いますので割愛します。

そして、上記①~③は同列のものであり、例えば特許化ありきで特許化しないから②又は③というものではないと考えます。

しかしながら、実際には多くの企業は「①特許化」を視点において技術情報の管理を行っているのではないでしょうか。この理由の一つとしては、技術者や事業部等又は知財部に出願件数のノルマを課す等することで、技術開発を促すことにもあるかと思われ、さらに特許出願件数を安定して行うためにも大変有効な手段かと思います。

また、特許出願は技術情報の管理という視点からすると、企業にとってとても容易な手法であるとも思えます。
特許出願後は審査請求、中間処理、特許査定後は年金の支払い、これらは所定のコストさえ支払えば代理させている特許事務所が管理してくれ、逐次クライアント企業に報告してくれます。
このように技術情報を特許化することは、企業にとって独占排他権を得るというメリットの他に技術情報の管理が容易であるというメリットも大きいかと思います。


しかしながら、技術情報の特許化は公開という多大なるリスクがあります。すなわち、特許出願は公報によって全て公開されます。
このため、他社の公報から技術情報を知得し、自社の技術とすることが行われています。
これは他社の特許権を実施しない限り違法なことではありません。
このため、侵害の特定が困難な技術、例えば一般には公にならない工場等でのみしか実施しない技術情報等は特許出願を行わないという選択、すなわち秘匿化が広く取られています。

では、このような企業が秘匿した技術情報はどのように管理されているのでしょうか?
例えば、営業秘密の三要件を満たすように管理されているでしょうか?
それとも、だれでもアクセス可能なサーバ上のフォルダ又はキャビネットの中、さらには従業員が使用しているパソコンの中に保存されたままとなっているのではないでしょうか?
技術情報の特許出願ありきの考えではこのような管理に陥り、万が一の場合に法的に争っても負ける事態となりかねないと思われます。

さらに、特許出願しないさらに自社実施もしない技術は、誰も管理せずに放置されたままとなるでしょう。このようなことは企業が労力とコストをかけたに技術もかかわらず、忘れ去られることになり得ます。

以上のようなことが特許出願ありきの技術情報管理で陥るかもしれない事態です。すなわち、特許化ありきの管理では、特許出願しない技術情報に対する意識が非常に低くなってしまうため、秘匿化、放置管理に対する対応が不十分なものになります。

一方で、①特許出願と②秘匿化、③放置管理を同列に考えることでこのような事態を防げるかもしれません。
すなわち、技術情報を特許化ありきではなく、秘匿化と放置管理もその管理手法の一つとして積極的に“活用”することです。

このためには、秘匿化と放置管理の手法を企業ごとに確立する必要があります。
秘匿化であるならば、まず秘密管理性ですが、どのように秘密管理を実行するのか?これは情報の種類によっても異なるかもしれません。工場等で使用している技術情報もあるでしょう。製品に用いられている技術情報もあるでしょう。色々な人が日々の業務で使用している技術情報もあるでしょう。

また、秘匿化された技術情報が他社により公知となったか否かの確認もするべきかもしれません。公知となった技術情報を何時までも秘密管理していると、秘密管理の形骸化を招き、他の技術情報の秘密管理性に影響を与えるかもしれません。
さらに、放置管理するのであれば、放置管理された情報をどこの部署が管理するのか?知財部なのか?技術開発を行った事業部なのか?というようにルールを決めなくてはなりません。
このようなことを企業は管理の手間を考慮しつつ決定する必要があるかと思います。直感的に特許化の方が管理が容易ですね。

また、①~③のうちどの管理手法を取るかという点に関しては、例えば技術情報の公開可否を最初の基準として検討し、公開可能であれば特許化又は放置管理の何れかとのように考えることもできるでしょう。公開不可の判断ならば秘匿化です。公開可能でありかつ独占排他権を得たいのであれば、特許化です。
また、秘匿化の判断には特にリバースエンジニアリングによる公知化の可能性を考慮しなければなりません。当該技術情報を製品に用いる場合、この製品をリバースエンジニアリングすることで容易に知ることができれば営業秘密でいうところの非公知性を満たしません。
そうであるならば、秘匿化よりも特許化の方がよいとの判断もあり得ます。また、製品化までは秘匿化し、製品が市場にでると同時に特許出願を行うという選択もあり得ます。
さらに、秘匿化、放置管理については、例えば半年ごとに当該技術情報の価値を考慮し、特許化の判断を行うという作業もあるでしょう。

以上、色々書き並べましたが、技術情報に対する管理として①特許化、②秘匿化、③放置管理をを同列に考えることで、知財活動がより充実したものになるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信