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2017年10月4日水曜日

調達購買の人こそ知るべき営業秘密

営業秘密が不用意に漏れる部署はどこでしょうか?
前回のブログでは、営業の方から漏れる例を挙げました。
他にはないでしょうか?
ということで、営業があれば、その対極ともいえる調達購買の方は?

私は調達購買が他社の営業秘密に触れる可能性が高い部署の一つだと思っています。
そう、他社の営業担当者から、その会社の営業秘密を知る可能性があります。
ということは、調達購買が、他社の営業秘密を異なる他社へ流出させる可能性もあります。
図で表すと、↓こんな感じです。

S社を介してA社の営業秘密とB社の営業秘密とが行き来してしまっています。
実際にこういうことはあるようです。
S社の調達購買担当者が口の軽い人で、知的財産に対する知識等もない場合にこのようなことになるでしょう。
上記の図のように、両社の営業秘密が行き来しない場合もあり、例えば、A社の営業秘密がB社に流出する一方、B社の営業秘密は流出しないといったこともありえます。
S社を介して他社の営業秘密が行きかった結果、最悪の場合、S社にトラブルを生じさせる可能性があります。

このような状況は、A社やB社にとっても当然好ましくはありません。
A社やB社はどうするべきでしょうか?

対策の一つとしては、営業秘密が技術情報であればS社に開示する前に特許出願をすることです。
特許出願は営業秘密とは対極にあるとも思えますが、特許を取得すれば他社に対抗できるので当然有効な手段です。

営業秘密のまま開示するのであれば、S社との間で秘密保持契約を結ぶことです。
しかしながら、S社がクライアント企業である場合等には秘密保持契約を結ぶことを提案することが憚れるかもしれません。
そういう場合には、S社に渡す資料等に㊙マークを付す等し、かつ口頭でも他社に開示しないことを伝えるべきかと思います。
資料に㊙マークが付されていると、その資料を入手した企業、例えば、S社を介してA社の資料を入手したB社は、その資料を使用することを躊躇するかと思います。

他社に営業秘密を開示する場合には、その営業秘密が開示先企業から流出することを前提として対応するべきかと思います。
そして、調達購買担当者は、自身の口から他社の営業秘密を開示してしまう可能性を意識する必要があります。

2017年10月2日月曜日

営業の人こそ知るべき営業秘密

営業秘密が不用意に漏れる部署はどこでしょうか?
ここでいう不用意とは、不当な利益を得る目的や企業に損害を与える目的等の不法行為でななく、「不注意」という意味です。

まあ、挙げようと思えば、どこでもあるかもしれませんが、その一つはやはり営業部門からではないでしょうか?

営業の方は、当然ながら、自社の情報を顧客(他社)に与えます。
その情報の与え方は、適切でしょうか?必要以上の情報を与えてはいないでしょうか?
与えた情報は、自社の営業秘密ではないでしょうか?
営業秘密であるならば、それが営業秘密であることを顧客に認識させているでしょうか?
顧客は、営業秘密に対する取り扱いについて理解しているでしょうか?


ここで、面白いと言っては失礼ですが、営業時における顧客への情報の与え方を間違った判例を紹介します。
この事件は、東京地裁平成26年11月20日判決(平成25年(ワ)第25367号)であり、結論から言うと、情報を被告に開示した原告は負けています。

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事件の概要としては、原告は被告の元従業員であり、原告は、かねてからベトナム国内でのバルブ製造業務への関与を希望していました。
そして、原告は、被告からベトナムのバルブメーカーであるミン・ホア社への案内を依頼され、被告担当者とともにミン・ホア社を訪れて、被告がベトナム国内で販売するバルブをミン・ホア社で製造することについて、同社担当者と打合せをしました。このとき、原告は、被告がベトナム国内で製造、販売するバルブの設計図を作成し、同日、本件設計図のデータを添付した電子メールをミン・ホア社や被告の担当者らに送信しました。なお、原告が本件設計図の作成について被告から報酬を受けた事実はありません。被告は、その後、ベトナム国内においてバルブ(以下「被告製品」という。)の製造、販売を開始しました。

原告の主張としては、被告は原告の設計ノウハウを無断で利用して被告製品の販売収益を上げるという不正の利益を得る目的で、入手した本件設計図を使用して被告製品を製造、販売しているというものです。

これに対して裁判所は、「被告がベトナム国内で販売するバルブをミン・ホア社で製造することについて、同社担当者と打合せをしたこと、その際、原告が上記バルブの図面を作成する話が出て、原告は,同月16日、その頃までに作成した本件設計図を電子メールに添付してミン・ホア社や被告の担当者らに送信したこと、原告は、同月28日の被告担当者との打合せの際、被告担当者に対し、本件設計図をそのまま、あるいは変更を加えて自由に使用してよい旨を述べたことが認められる。これらの事実によれば、原告は、被告がベトナム国内で製造、販売するためのものとして、本件設計図を作成し、被告に交付したのであるから、本件バルブは、被告にとって「他人の商品」に当たるとは認められない。」 と判断しています。

そして、結論として、裁判所は「原告は、本件設計図の自由な利用を被告に許したものといえるから、被告が本件設計図に基づいて被告製品をベトナムで製造,販売しているとしても、被告に同号の「不正の利益を得る目的」があるということはできず、本件設計図が営業秘密に当たるか否かにかかわらず、被告の行為は、不正競争を構成しない。」としています。
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おそらく、原告は、被告を介して、ミン・ホア社からバルブの設計や製造に関する仕事の依頼がくることを期待して、自身が作成した設計図を被告と原告に渡し、自由に使っていいと言ったのでしょう。そうしたら、被告がこの設計図を使ってベトナムでバルブの製造をしてしまった・・・。

原告は、営業目的とはいえども、自身の営業秘密を気前良く開示し、使用許可まで与えてしまって、それを被告に対して営業秘密の不正使用だと言っても裁判所は認めなかったということです。
この裁判所の判断は妥当なものであると考えられます。

しかし、ここまで極端なことはなくても、自社の情報を秘密とすることなく取引先に開示してしまった営業の人はいるのではないでしょうか?
その結果、リップサービスのつもりで行ったことが、後々自身の予想しなかったことに発展するかもしれません。
その場合、後からその開示は無かったことにしたくても、それはできません。

営業の方も、当然、自社の営業秘密の触れる機会が多いと思います。
そのため、営業を行う際に、常に営業秘密について意識する必要があると思います。
営業のどの段階で、どこまで営業先に話すのか?
営業秘密を話していないか?
営業秘密を話した方が受注の可能性が高まるのであれば、何を話すのか?
その際、営業先は秘密保持をしてくれるのか?秘密保持契約を取り付けられるのか?

営業秘密の観点から、営業先で話して良い事、悪い事を今一度見直しては如何でしょうか?

2017年9月12日火曜日

新潮と文春の中吊り広告に関する問題の顛末

このブログを始めたころに、新潮と文春との間で中吊り広告に関する問題が起きました。
具体的には、「印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?」というものです。

営業秘密にも絡んでそうな話題だったので、本ブログでもこれに飛び着き、下記のように複数回記事にしています(その1は殆ど関係ない話題です。)。

参考過去ブログ:
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その2
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その3
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その4
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その5
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その6(まとめ)

私としては、中吊り広告が取次会社でも“秘密管理”されていない限り、新潮は営業秘密の侵害という不法行為を文春に問うことはできないと考えています。



そして、この問題に関しては、文藝春秋の社長が新潮社を訪れ、謝罪文書を手渡すことで、一件落着したようです。
参考:NHKニュース
問題発覚が5月ですが、文藝春秋もこれまで放置していたわけではなく、おそらく新潮社が納得いくような落としどころを互いに模索していたのではないでしょうか?

ニュースを見る限り、「中吊り広告を長期にわたり借り受け」とのように、違法行為とは取られないような表現を使っているところが面白い、というか常套手段ですね。
また、このニュースでは、「週刊新潮が同じような内容の記事を掲載することを知りながら、あたかも週刊文春の独自スクープであるかのような速報をWEBサイト上で先に流した事例があったことを認め、これについても謝罪しています。」とも報じられているように、文藝春秋が全面的に非を認め謝罪しています。

このように、他社の情報を不正に取得した場合は、例え、民事や刑事事件に発展しなくても、朝日新聞出版の件でもあったように、社を挙げての謝罪に追い込まれる可能性があります。
いや、民事・刑事事件に発展させないために、謝罪するのかもしれません。

一昔前は、他社が秘密にしている情報を取得し、それを利用することが当たりまえであり、従業員もそれを求められていたかもしれません。
しかしながら、今の時代では、他社が秘密にしているであろう情報を容易に取得できる状況にあっても、それを取得して利用することは許されないことであることを各企業,
特に経営層は認識するべき事項であると思われます。

2017年5月30日火曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その6(まとめ)

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を営業秘密の視点から検討しました。

自分の知識不足もあり、不明な点も多々ありますが、やはり秘密管理性の要件を満たさない可能性が高いように思えます。
しかしながら、取引先からの営業秘密の漏えいの場合には、このようなケースが多いのではないでしょうか。
すなわち、今回の件に関しては、「取引先を介した自社の営業秘密の漏えい」という問題が顕在化したものです。

企業活動において、必ず取引先は居ます。
この取引先に対して場合によっては、自社の営業秘密を開示し、必要に応じて営業秘密を記した情報を渡す場合もあります。
このような場合、取引先で営業秘密を誰がどのように扱っているのか把握している企業はどの程度あるでしょうか?
下手したら、自社の営業秘密は取引先で営業秘密として管理されていないかもしれません。
また、自社の営業秘密に触れる取引先の従業員は、営業秘密の概念に関する知識に乏しく、罪の意識なくそれを他社に漏らすかもしれません。

では、取引先に営業秘密を開示したり、渡す場合はどうすればよいのでしょうか?
当然、取引先との力関係によって可能なこと不可能なことはあるかと思いますが、以下のようなことが考えられます。

1.開示する営業秘密の吟味。常に必要最低限の営業秘密を開示。
2.自社の営業秘密であることを明示する。㊙マークの記載等。
3.秘密保持契約の締結
4.取引先従業員に対する営業秘密教育の要求
5.取引先に対する営業秘密管理方法の確認及び指導

他にも対応策はあるかと思いますが、とりあえず思いつくものは以上のようなものでしょうか。
そして、上記のことは、取引先から営業秘密が漏れ出ることも想定したものです。
また、取引先にも営業秘密の管理徹底を求めていくことも重要かと思います。





2017年5月27日土曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その5

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。

すでに、この記事が掲載された週刊新潮の発行から1週間以上経ちます。
すでに、話題性に乏しい気もしますが、そこは営業秘密しかやらないブログ、まだ引っ張りますよ。

前回で取次会社における秘密管理性についての検討は終わります。
週刊新潮の記事からだけでは、中吊り広告に対する秘密管理性は認めにくいような気がします。
しかし、秘密管理性があるとしてさらに検討を続けます。

既に忘れた方もいらっしゃるかと思いますが、文春へ営業秘密の漏えいを行ったことによる不競法(2条1項7号)による責任を、取次会社の従業員に対して問うためには「不正の利益を得る目的」又は「その保有者に損害を加える目的」を有していなければなりません。

ここで、前々回でも挙げたように、新潮の記事の28頁の第4~5段落には下記のようなことが記載されています。
「『文春社員に中吊りを渡した弊社社員はこの4月に今の担当になったばかりで、"文春とのことは前の担当者から引き継いだ"と話している。前の担当者は5年前に週刊誌の担当になったが、文春の件はやはり"前任者から引き継いだと思う"と言っています』文春が本誌の中吊り広告を入手するのは『ルーティンワーク』と化し、継続的に行われていたわけだ。」

この記載からすると、取次会社の従業員は「不正の利益を得る目的」又は「その保有者に損害を加える目的」は全くなく、ある意味罪の意識はなく、常日頃の仕事の一環として文春に中吊り広告を渡していたのではないでしょうか。
そうであるならば、中吊り広告が営業秘密であったとしても、取次会社の従業員に対して不競法2条1項7号に基づいて責任を問うことは難しいのではないかと思います。

そうすると、文春はどうなるのでしょうか、「営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って」営業秘密を取得し、その取得した営業秘密を「使用」した場合(不競法第2条第1項第8号)に責任を問われるかもしれません。
ここで「不正開示行為」とは何か?となりますが、これは「前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為」又は「秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為」とです。
「同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為」とは、不競法第2条第1項第7号における開示行為であり、今回の場合は上述したように、取次会社の従業員の行為は当てはまらないかもしれません。
一方、「秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為」とはなんでしょうか?
法律で規定された守秘義務でしょうか?「秘密を守る法律上の義務」は取次会社の従業員にあるのでしょうか?
また、これには、契約による守秘義務も含まれるのでしょうか?そうであるならば、新潮と取次会社が中吊り広告に対する守秘義務契約を結んでいたらOKなのでしょうか?これについては、今のところ私はよくわかりませんし、そもそも守秘義務契約もされていなかったらだめですよね。

うーん、私の理解では文春の行為に対して、不競法における営業秘密の漏えいという視点で法的な責任を問うことはなかなか難しそうですね。

ちなみに、ここでいう「使用」とは、 「営業秘密を参考とする行為」も含まれるようなので(逐条解説 不正競争防止法 経済産業省 知的財産政策室編 p.83)、文春が中吊り広告の記載を見ることで新たな情報を得て独自に取材しても、それは「中吊り広告を参考とする行為」である、中吊り広告が営業秘密であるならば「使用」にあたると考えられます。


また、文春に対して不競法に基づいて責任を問うことを考えた場合、 第2条第1項第8号ではなく、第2条第1項第4号が適用できるでしょうか。
これは、「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為」というものであり、さすがに文春が取次会社から中吊り広告を入手した行為を「窃取、詐欺、強迫」とするのは無理かと思いますが、 「その他の不正の手段」になり得るのでしょうか?
「その他の不正の手段」とは逐条解説では「社会通念上、これと同等の違法性を有すると判断される公序良俗に反する手段」とあり、その一例として、「営業秘密が記載された紙媒体を複写して取得する行為」とあります。
文春は中吊り広告を取次会社から手に入れてコピーしているので、上記の「不正取得行為」となるのでしょうか?
それならば、中吊り広告が営業秘密であるならば、 「第2条第1項第4号」の適用が可能なような気もします。



もう検討はこのあたりでやめます。
次回はまとめてみますか。

2017年5月24日水曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その4

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。


前回では中吊り広告の秘密管理性について検討しました。
私の心象としては、中吊り広告は取次会社において秘密管理措置が取られていなかったのではないかと思います。
もう少し、秘密管理性について検討してみたいと思います。

ここで、一般論として、「電車に吊られる前、すなわち人目に触れる前の中吊り広告の内容は秘密である」とも考えられます。
そうであるならば、「取次会社が秘密管理措置を取っていないとしても、中吊り広告が秘密とされるべきであることは、社会人として当然に認識しうるものである」とも考えられ、黙示的にですが中吊り広告の秘密管理性を認められる、との考えもなるかもしれません。

このような考えについて関連しそうな判例があります。 
この判例は、平成27年5月27日知財高裁判決(平成27年(ネ)第10015号)であり「タンクローリー用の鏡板の成形用金型に関する技術情報」に関するものです。営業秘密に関する訴訟であまり多くない知財高裁での判決であり、影響力もあるかと思います。
事件の概要としては、「被告は原告に対して金型製作費用の概算見積りの提出を依頼し、原告は金型製作費用の概算見積りを提出した。この際、原告は、被告に対して技術情報を開示した。」というものです。

結論として、当該技術情報の秘密管理性は認められなかったのですが、判決には以下のようなことが記されています。
「控訴人代表者作成の陳述書(甲16)にも,控訴人の取引する業界では,お互いにそれぞれの有する技術ノウハウを尊重しており,契約の成約時に秘密保持契約を締結していること,成約までの過程で技術資料の交換を行うことはあるが,その際,いちいち秘密保持契約を締結するわけにはいかないため,成約時に契約すること,その間は当事者同士が互いに秘密を守ってきていることが記載されているにとどまっている。」
上記「控訴人」とは当該情報の保有者である原審原告です。
そして、上記のことは、原告が「業界の一般論として技術情報を開示されたら、秘密保持契約等をしなくても、秘密とすることが当然」と主張しているかと思います。

しかしながら、裁判所は以下のように判断して秘密管理性を否定しています。
「上記陳述書の記載は,本件において,控訴人が被控訴人に開示した技術情報について,これに接する者が営業秘密であることが認識できるような措置を講じていたとか,これに接する者を限定していたなど,上記情報が具体的に秘密として管理されている実体があることを裏付けるものではない。」
すなわち、裁判所は、一般論を秘密管理措置として認めず、やはり「情報が具体的に秘密として管理されている実体」 がなければ秘密管理性を認めないと解されます。
うーん、一般論では秘密管理措置は認められそうにありませんね。

困りましたね。何が困るかというと、ここで、秘密管理性が無いとなるとこれ以上検討を進めてもねえ・・・。
というわけで、本件については、週刊新潮の記事だけでは中吊り広告の秘密管理性に認めがたいと思われるものの、次からは中吊り広告が「営業秘密」であるとして他の事項も検討してみたいと思います。  そもそも、記事には書かれていないだけで、取次会社は、中吊り広告に対して秘密管理措置を適切に行っているのかもしれませんしね。

2017年5月22日月曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その3

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。


まず、中吊り広告は、営業秘密なのでしょうか?
営業秘密は、前に説明したように、下記の3要件を満たすものです。

①秘密管理性
②有用性
③非公知性

これら3要件の具体的な説明は追々やりますが、とりあえず検討を。
②有用性とは、営業秘密管理指針では「その情報が客観的にみて、事業活動にと って有用であることが必要である。 」とされています。中吊り広告は、週刊新潮にとって週刊誌の販売促進に寄与するものであるため、有用性があると考えられます。

③非公知性とは、 営業秘密管理指針では「一般的には知られておらず、又は容易 に知ることができないことが必要である。 」とされています。中づり広告は実際に電車に吊られ、乗客が見ることが可能となるまでは非公知性が満たされていると考えられます。すなわち、中づり広告は、取次会社で管理されている状態では、非公知性があると考えられます。

取次会社が保有している状態にある中づり広告に対する有用性と非公知性については、さほど争点とはならないと考えます。

では、①秘密管理性はどうでしょうか。
まず、秘密管理性とは、営業秘密管理指針では「営業秘密保有企業の秘密管理意思が 秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対 する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。 」とされています。
少々わかりにくいかと思いますが、従業員等(今回は取次会社の従業員)が、その情報が秘密とされていることを認識できるように企業は管理しないといけないということです。
営業秘密管理指針では、管理方法は特に指定されておらず、「秘密管理措置の内容・程度は、企業の規模、業態、従業員の 職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なる」としています。より具体的には、秘密管理する情報に対して㊙マークを付したり、当該情報に対して施錠管理やデータへのアクセス管理をしていなくても、従業員等が企業の秘密管理意思を認識できるように企業は管理すればよいとしています。

では、今回の件における秘密管理性はどうでしょうか?
ここで、新潮の記事からは、取次会社が中づり広告を営業秘密として、従業員が認識できるように秘密管理していたとの事実は読み取れません。また、新潮が取次会社に対して中吊り広告を営業秘密として管理するように依頼していた様子もありません。

さらに、新潮の記事の28頁の第4~5段落には下記のようなことが記載されています。
「『文春社員に中吊りを渡した弊社社員はこの4月に今の担当になったばかりで、"文春とのことは前の担当者から引き継いだ"と話している。前の担当者は5年前に週刊誌の担当になったが、文春の件はやはり"前任者から引き継いだと思う"と言っています』文春が本誌の中吊り広告を入手するのは『ルーティンワーク』と化し、継続的に行われていたわけだ。」
この記載からは、取次会社から文春への中吊り広告の貸し渡しは複数人が関与して長年に渡り行われていたと考えられます。
ここからは、私の推察ですが、複数人が関与していたということは、中吊り広告が秘密として管理されていなかったために、文春に貸渡すことに対する抵抗が無い、若しくは薄かったとも思われます。

あくまで週刊新潮の記事からの推察にしか過ぎませんが、これらのなことから、取次会社では新潮の中吊り広告を秘密管理していたとはいえず、新潮の中吊り広告は営業秘密としての3要件を満たさない、すなわち、営業秘密ではないとも考えられるのではないかと思います。
もしそうであれば、営業秘密の不正な取得及び使用という、不法行為そのものが成り立たなくなります。

次回、さらに検討を進めたいと思います。


2017年5月21日日曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その2

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」をちゃんと考えます。

これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春ですね。

営業秘密的に考えると、この中吊り広告は営業秘密であり、それを取次会社が正当に取得しているものの、取次会社の従業員が「不正の利益を得る目的」又は「その保有者に損害を加える目的」で中吊り広告を文春に「開示」したとも考えられます(不正競争防止法第2条第1項第7号)。
そして、 文春側は、「営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って」営業秘密を取得し、その取得した営業秘密を「使用」したと考えられます(不競法第2条第1項第8号)。

すなわち、不法行為を行った者は、取次会社の従業員と文春側の従業員ということでしょうか。
そして、取次会社及び文藝春秋が会社としてどのように関与していたかということも当然重大な問題となります。

なお、現時点では、週刊文春は
「まず、「週刊文春」が情報を不正に、あるいは不法に入手したり、それをもって記事を書き換えたり、盗用したりしたなどの事実は一切ありません。」
(引用元:週刊文春 ホームページ http://bunshun.jp/articles/-/2567
と発表し、週刊新潮の中吊り広告を取得していたことを否定しています。

しかしながら、取次会社であるトーハンは、「株式会社新潮社様の週刊新潮に係る中吊り広告取扱いについてのお詫び」と題して、
「当社が文藝春秋様に中吊り広告を貸し渡したことは不適切な取扱いであり、既に新潮社様に対して、取引者間の誠実義務に欠けていたことを認め、お詫びをしております。」
(引用元:株式会社トーハン ホームページ http://www.tohan.jp/news/20170519_977.html
と発表し、「文藝春秋に中吊り広告を貸し渡し」というこをを認めています。

文春側は認めていないにもかかわらず、取次会社は 「文藝春秋に中吊り広告を貸し渡し」という表現ですが認めているようです。
貸し渡し先が「週刊新潮」ではなく「文芸春秋」であり、「貸し渡し」という表現がちょっと気になるところです。
深読みすると、「文芸春秋」と表現することで「週刊文春」は週刊新潮の中吊り広告を取得していないという逃げ道を作ってあげているのかもしれません。また、「貸し渡し」という表現をすることで、「中吊り広告」は誰も窃盗していないことを強調したいのかもしれません。
また、取次会社であるトーハンは、上記「お詫び」において、
「引き続き、当社は、全容解明に向けて鋭意調査を継続してまいりますとともに、内部統制・管理体制の一層の強化、整備に努めてまいります。」
とも記しています。これは、会社ぐるみではないことを暗に示しているものと思われます。

このように、従業員の転職時だけでなく、取引会社を通じて営業秘密が漏れることはよくある事かと思われます。
企業側は、このようなことをある程度想定しなければいけないことであるとも感じます。
また、今回の取引会社のように、他企業の営業秘密となり得る情報を扱う会社は他企業の営業秘密が自社から漏えいすることを想定した対応を事前に取る必要があると考えます。

今回の週刊新潮の件は、色々考えさせられることがあるので、引き続きブログで検討してみたいと思います。
キーワードはやはり「秘密管理性」、それに 「不正の利益を得る目的」又は「その保有者に損害を加える目的」であろうかと思います。
 なお、今のところ、私が考える結論は商慣習上の倫理違反という問題はあるとしても、新潮が文春(文藝春秋)を営業秘密に関する不法行為で訴えることは難しいのではないかと思います。