2025年11月23日日曜日

報道に用いられる営業秘密の違法性

ニデック株式会社は営業秘密を持ち出した元社員とこの営業秘密を使用してトラブルを東洋経済オンラインで報じた東洋経済新聞社に対して、民事訴訟を起こしていいましたが、本事件の地裁判決が出ました。
・ニデック元社員に賠償命令、営業秘密を記者へ提供で 東京地裁(日本経済新聞)
・ニデック元社員に損害賠償命令 営業秘密を記者へ提供(47NEWS)
・営業秘密を東洋経済記者に提供 ニデック元社員に275万円賠償命令(朝日新聞)

この判決によると、ニデックの元社員は、ニデックの稟議書等の営業秘密を不正に持ち出したとして、約270万円の損害賠償が命じられました。一方で、東洋経済新聞社は「資料は元社員が自発的に提供したもので、取材の過程で違法行為はなかった」(朝日新聞)として、責任を負わないとのことです。

ここで、不正競争防止法で規定されている違法行為を見てみます。
ニデックの元社員による違法行為は、おそらく不正競争防止法第2条第1項第7号ではないかと思います。(又は2条1項4号かもしれません。)
不正競争防止法第2条第1項第7号
営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
この条文では、営業秘密そのものを取得する行為は違法ではないものの、不正の利益を得る目的や会社に損害を加える目的で使用や開示する行為が違法とされています。
東洋経済新聞社が報道目的で元社員から当該営業秘密を入手したようなの、東洋経済新聞社から元社員へ金銭の受け渡し(不正の利益を得る目的)があったとは考えにくいでしょう。そうすると、元社員が東洋経済新聞社にニデックの営業秘密を渡した(開示した)行為は、「ニデックに損害を加える目的」であったと判断されたのかと思います。日本経済新聞では「杉浦正樹裁判長は、元社員が正当な権限がなく資料を持ち出し、記事が掲載されたことでニデックは取引先や投資家の信頼が損なわれたと指摘。」とのように報道されています。


一方で、東洋経済新聞社は営業秘密の二次転得者であり、元社員が不競法第2条第1項第7号違反であれば、東洋経済新聞社は不競法第2条第1項第8号に該当する可能性があります。
不正競争防止法第2条第1項第8号
その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
東洋経済新聞社は、元社員から稟議書を渡されており、通常であれば稟議書は会社の営業秘密であると推察できますから、営業秘密不正開示行為であることを知って稟議書を取得したと考えられえます。そして、それを東洋経済オンラインで報じることで使用しています。
このような行為は、不競法第2条第1項第8号に違反しているように思えます。

一方で、不正競争防止法は、「不正競争」の防止を通じて「事業者間の公正な競争を確保する」ことを法目的としています。そうすると、そもそも報道目的での営業秘密の使用等は不正競争ではないため、不正競争防止法違反となるような行為でもないと考えられます。
不正競争防止法第1条
この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
このように、同じ営業秘密であっても不正使用や不正開示の目的が異なることにより、違法性が異なったのかと思います。
しかしながら個人的にはこのような裁判所の判断に釈然としないものがあります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年11月16日日曜日

引っ越しに関する顧客リストを同業の転職先企業に持ち出した刑事事件

先日、引っ越しに関する顧客リストを同業の転職先企業に持ち出したとして、4人も逮捕され、転職先企業も書類送検されたという事件がありました。 営業秘密侵害の刑事事件において、一度に4人が逮捕される事件はあまり多くないかと思われます。

この事件は、転職先企業の代表者が被害企業の元社員に対して、営業秘密である顧客リストの不正な持ち出しを指示し、この元社員が転職先企業に転職したというものです。
そして、持ち出した顧客リストを転職先企業内で開示し、使用していたようです。


顧客リストは、被害企業内においてパソコン画面に表示された顧客リストをスマートフォンで撮影して持ち出したとのことです。このような持ち出し方法は、顧客リストを不正に持ち出したことを検知されないためとも考えられます。
なお、カメラで撮影して営業秘密を不正に取得することは、営業秘密を不正に複製して持ち出すことであり、今回逮捕されたように当然違法行為です。

また、逮捕された社長の他の3人は被害企業の元従業員であり、一人は顧客情報を不正に持ち出した者のようですが、残りの2人はどのような理由で逮捕されたのかは報道からはよく分かりませんでした。
仮に転職先企業内で顧客リストを不正に使用等したという理由なのであれば、この事件も回転寿司チェーン店事件における元部長と同じ状態なのかもしれません。

なお、逮捕されたとしても不起訴となる可能性も高いので、この事件の詳細は今後分からないかもしれません。しかしながら、不起訴となっても、既に氏名が報道されている者もいます。
このようなことを防ぐためにも、営業秘密侵害は、犯罪であることはもっと広く認識されるべきでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年10月30日木曜日

フランチャイズ契約をした被告が自身で取得した顧客情報の取り扱いについて

今回紹介する事件(東京地裁令和7年3月14日 事件番号:令3(ワ)18742号 ・ 令4(ワ)9207号)は、学習塾のフランチャイズを展開するマスターフランチャイザーである原告が、同フランチャイズのエリアフランチャイザーである被告に対してフランチャイズ契約の解除後における商標権侵害等を主張した事件です。この原告の主張の中に、顧客に係る氏名等の情報(本件顧客情報)に対する使用の差止と廃棄も含まれています。

まず、本件顧客情報は、原告が取得したものではなく、被告が取得した生徒等の個人情報です。そして、フランチャイズ契約(本件契約)には、下記のような条項があります。
第28条(個人情報管理)
4.乙及び丙は、生徒等の個人情報の取得を必要な範囲内で適切かつ公正な手段により行うものとし、前項の利用目的の達成に必要な範囲内でのみ利用する。
原告は、この条項に基づいて被告に対して本件顧客情報の使用の差止を求めました。
これに対して、裁判所は下記のように判断しています。
本件契約第28条4項は、被告明光らが取得した生徒等の個人情報について、「前項(学習支援サービスの提供、明光義塾の運営)の利用目的の達成に必要な範囲内でのみ利用する。」とされ、同条11項において、「本条で定める被告明光らの個人情報管理義務は、本件契約の終了又は解除後も有効とする。」と規定されているから、被告明光らは、明光義塾の運営以外に生徒等の個人情報を利用することはできないと解される。そして、本件顧客情報は、いずれも、同条3項の生徒等の個人情報に該当するとところ、被告明光らは、本件解除により明光義塾のエリアフランチャイザー及びフランチャイジーの地位を喪失しており、明光義塾に係る事業を継続することはできないから、上記生徒等の個人情報を用いて連絡をすることはできない。
したがって、不競法に基づく請求の成否について検討するまでもなく、原告の被告明光らに対する本件顧客情報の使用の差止請求は理由がある。
このような判断は、契約に基づいた妥当な判断かと思います。

さらに、原告は、本件顧客情報の破棄も求めています。使用の差止と共には破棄も求めることは当然のことでしょう。ここで、原告は、本件契約の第27条等に基づいて破棄をもとめています。
第27条(守秘義務)
1.乙及び丙は、甲に対し、下記事項について義務を負う。
(1)乙及び丙は、本契約によって知り得て甲の事業上の秘密(以下「秘密情報」という。)及び甲の不利益となる事項、情報を第三者に漏らしてはならない。
これに対して裁判所は以下のように判断しています。
原告は、被告明光らは、本件契約第27条、第28条及び第46条により、本件顧客情報を廃棄する義務があると主張する。しかし、本件契約第27条1項は、被告明光らが本件契約によって知り得た原告の事業上の秘密を「秘密情報」と定義しているところ、本件顧客情報は、本件契約第28条3項のとおり、被告明光らが生徒等から取得するものであるから、そもそも本件契約上の「秘密情報」に該当するものとはいえない。また、同条は、生徒等の個人情報の目的外利用を禁止しているものの、当該情報の破棄について定めておらず、本件契約第46条1項も、フランチャイズ展開に使用した資料及び書類を原告に返還する旨定めているものの、本件顧客情報が上記フランチャイズ展開に使用した資料及び書類に含まれるかは明らかでない上、同条項も、原告への返還義務を規定しているにすぎず、廃棄について定めたものとはいえない。以上によれば、本件契約に基づき、本件顧客情報の廃棄を求めることはできない。
このように裁判所は、本件顧客情報は被告が取得したものであり、そのような情報の破棄について契約では定められていないとしています。あくまで、被告が漏らしてはならない情報は、本件契約上は原告から取得した情報であるということのようです。

さらに、原告は不競法2条1項7号又は同項14号に定める不正競争に該当するとして、本件顧客情報の廃棄を求めました。しかしながら、これらの不正競争は、営業秘密を保持する事業者から当該営業秘密を示された場合に成立するものであり、本件顧客情報は被告らが取得して原告に提供したものであり、原告から示された場合に該当しないことは明らかであるとして、原告の主張を認めませんでした。

原告側とすれば顧客情報の使用の差し止めが認められるのであれば、顧客情報の破棄も認められるかとも思うのですが、このように契約の内容に従って破棄は認められませんでした。一方で、被告側とすれば、自社で取得した顧客情報であるにも関わらず、原告との契約が終了すると共に使用できなくなることは不本意でしょう。
このようなことを鑑みると、様々な可能性を考慮に入れて契約は締結するべきであることを再認識する必要があるでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信