前回に続き、今回もサーバへのアクセスと秘密管理性に関する裁判例(大阪地裁令和7年4月24日判決 事件番号:令5(ワ)12720号)を紹介します。
本事件の被告Aは、土木建築総合請負等を目的とする原告会社の元取締役であり、取締役を退任した約4か月後に被告会社を設立し、被告会社の代表取締役に就任しています。
その一方で、被告Aは、原告会社との間で顧問契約も締結しました。この顧問契約では秘密保持に関し、被告Aが本契約の有効期間中か否かにかかわらず、本業務の遂行中に知り得た原告に関する営業上、技術上その他の一切の情報を使用し、複製し、又は第三者に開示・漏洩してはならないものとされました。
しかしながらその後、原告は、被告Aによる原告従業員の引抜行為等が債務不履行、不正競争又は不法行為に当たり、原告製品と同一又は類似する製品の製造等が不正競争(不競法2条1項1号)に当たるなどとした警告を行い、今回の民事訴訟となっています。
なお、ここでいう営業秘密は、原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報になります。そして、これらの営業秘密の秘密管理措置は以下のようなものです。
ア 原告の令和4年9月1日時点の従業員数は50名(本社9名、関東出張所7名、岬工場20名、千葉工場14名)であった。本社及び関東出張所の従業員16名は、構造計算・設計・見積書作成、経理・事務、窓口等を、各工場の事務所に所属する従業員9名は、設計・発注、窓口等を担当しており、これら25名に原告からパソコンが貸与されていた。イ 原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報は、外部から接続ができない原告社内のサーバのフォルダ内に格納されており、上記パソコン貸与者において当該パソコンから上記フォルダにアクセスすることができた。なお、上記各情報は、手間の煩わしさからパスワード付されずに格納されていた。ウ 原告の就業規則(令和2年4月1日適用)には、従業員の秘密義務として、① 製品技術・設計、企画、開発に関する事項、② 製品販売・顧客情報に関する事項、③ 財務・経営に関する事項、④ 人事管理に関する事項、⑤他社との業務提携に関する事項等について従業員は、在職中及び退職後において、以下の秘密情報につき、厳に秘密として保持し、会社の事前の許可なく、いかなる方法をもってしても、開示、漏えい又は使用してはならない旨が定められていた。(甲17)
このような秘密管理措置に対して、裁判所は以下のように秘密管理性を判断しています。
本事件は、前回紹介した事件よりも少ない、50%程度の従業員に貸与したパソコンでサーバへの自由なアクセスが可能とされています。このような場合でも、フォルダ等へのパスワードが設定されていないため、「業務上必要性のない情報であるにもかかわらずアクセスできた者も存在したといえる。」とされ、秘密管理性が認められませんでした。イ ・・・原告は就業規則において従業員に秘密保持義務を課し、上記各情報については外部から接続できない社内サーバで管理し、貸与したパソコンに限ってアクセスできる措置を講じている。しかし、具体的な秘密管理措置についてみると、上記各情報(データ)には、円滑な業務遂行を優先して手間の煩わしさを解消する目的でパスワードが付されておらず、これらに「部外秘」「秘密情報である」などと付記されていた事情もうかがわれない。また、情報へのアクセスが貸与されたパソコンに制限されているとしても、貸与されたパソコンの使用者の担当業務は様々であって、全ての貸与者において、業務の遂行上これらの情報すべてが必要な情報であるとは解し難く、業務上必要性のない情報であるにもかかわらずアクセスできた者も存在したといえる。さらに、就業規則には、秘密保持の対象となる事項が列挙されているが、本件で問題となっている原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報がこれに該当するか否かを明示的に記載しているものではなく、別途、原告がこれらの情報が秘密情報に当たる旨を明示的に表示した事情もうかがわれない。以上によれば、原告においてこれらの情報を秘密として管理する意思があったとしても、被告Aや原告の従業員においてこれを十分認識し得る程度に秘密として管理する体制が講じられていたと認めることはできない。したがって、秘密管理性は認められない。ウ 以上から、その余の要件(非公知性及び有用性)について検討するまでもなく(なお、原告製品情報については、これらによる製品が一般の建築に供される建築資材であることや、原告自身も当該資材それ自体を秘密と扱っていないこと(甲2)からすると、原告主張の事実が仮にあったとしても、非公知性を認めることも困難である。)、原告製品情報、原告取引情報及び原告原価情報は、不競法2条6項所定の「営業秘密」に当たらない。
すなわち、サーバにアクセスできるパソコンや従業員の数にかかわらず、フォルダ等にパスワードを設定しない限り、サーバにアクセスできるパソコンを限定していても、それだけでは秘密管理性は認められない可能性が相当に高いように思えます。
なお、就業規則について規定している秘密保持の内容が包括的過ぎるという理由で、これによる秘密管理性は認められていません。
弁理士による営業秘密関連情報の発信


