不正競争防止法等の一部を改正する法律案が、5月23日に参議院本会議での審議で可決成立したとのことです。
過去ブログ記事:不正競争防止法等の一部を改正する法律案が衆議院で可決
弁理士会ホームページ:弁理士会会長の声明
これで予定通り法改正がなされることになります。
衆議院での可決が5月11日でしたので、2週間弱で参議院で可決されたのですね。
弁理士による営業秘密関連情報の発信
先日、弁理士会からのメールで「弁理士法改正を含む、不正競争防止法等の一部を改正する法律案が、衆議院
経済産業委員会での審査(5/11)を経て、衆議院本会議での審議(5/15)で
可決されましたので、お知らせいたします。今後は、参議院における審議が
行われる予定です。」との通知がありました。
経済産業省HP:不正競争防止法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました
野党議員によるGWも含んだ18連休となる審議拒否という素晴らしい仕事ぶりにより、改正法案が通るのかという懸念が多少あったものの、結局本国会において改正に至るかと思います。
しかしいいですねぇ、野党先生方は国会議員という権力者であるがために、職場放棄しても何ら責任を取ることなく歳費も全て頂きです。
ところで本改正において不正競争防止法に「ID・パスワード等により管理しつつ相手方を限定して提供するデータを不正に取得、使用又は提供する行為」が新たに不正行為として位置づけられることになります。
これは、所謂ビッグデータ等(限定提供データ)の不正使用を不正競争行為とし、差止請求権等の民事措置を設けるというものです。
この限定提供データとして対象となるデータは、例えば、以下のようなもののようです。
• 自動走行車両向けに提供する三次元地図データ
• POSシステムで収集した商品毎の売上データ
• 化学物質等の素材の技術情報を要約したデータ
• 船主、オペレーター、造船所、機器メーカー等の関連企業がそれぞれ 収集し、共有している船舶運行データ
なお、限定提供データは、新設される不競法2条7項で以下のように定義されます。括弧書きで、「秘密として管理されているものを除く。」とあるように、営業秘密として守れない情報に対する補完的な意味合いもあるものです。
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不正競争防止法2条7項
この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の (新設) 者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法 その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう 。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理され ている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているも のを除く。)をいう。
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また本改正案には、弁理士法の一部改正もあり、弁理士の業務に「データの利活用やJIS等の規格の案の作成に関して知財の観点から支援する業務」も含まれることが明文化されるようです。
これは弁理士としては良いことだと思いますが、果たして今回の法改正で新たに加えられるビッグデータ等に対する保護を、弁理士がどの様にかかわってビジネス化するのか?
弁理士にに対するどのようなニーズが存在するのか?
新たなビジネスモデルを構築できれば良いのですが。
経済産業省で行われている不正競争防止小委員会が既に5回目となっていました。
この小委員会は、「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」を引き継いだもので、データの利活用の法的保護、不正競争防止法の改正について検討されています。
かなり精力的に行われているようです。
関連ブログ記事:
データ利活用の促進に向けた不競法改正案 (2017年7月31日)
5回目の小委員会では、データの利活用だけではなく、不競法第5条の2(技術上の秘密を取得した者の当該技術上の秘密を使用する行為等 の推定)に関することが検討されていtたようです。
不競法第5条の2は、平成27年改正で追加された条文であり、原告側が被告による不正取得や原告の営業秘密を用いて生産できる物を生産していること等を立証した場合には、被告による営業秘密の使用行為を推定し、不使用の事実の立証責任を被告側に転換することとしたものです(参考:小倉 秀夫 著「不正競争防止法 平成27年改正の全容」 (レクシスネクシス・ジャパン株式会社 平成27年) )。 特許法第104条(生産方法の推定)と同様の規定ですね。
ここで、第5条の2には「技術上の秘密(生産方法その他政令で定める情報に係 るものに限る。以下この条において同じ。)について・・・」とあり、対象となる技術上の秘密は、「生産方法」と「その他政令で定める情報」です。
ちなみに、特許法第104条では、推定の対象が「物を生産する方法」だけであり、「その他政令で定める方法」というような文言は含まれておりません。特許法と比べることにあまり意味はないかと思いますが、不競法第5条の2の方がより広い範囲で推定規定が働くイメージですね。
この「その他政令で定める情報」は、経済産業省知的財産政策室 編 逐条解説・不正競争防止法によると「今後の技術進歩に応じ、将来的に別の技術情報を推定の対象とすべきニーズが生じた場合に備え、政令で定める情報については推定規定の対象となり得ることとしている。」とされているものです。
そして、今回の小委員会では、データの利活用のほかに「資料3 技術的な営業秘密の保護(不正使用の推定規定)」によると上記「その他政令で定める情報」を検討したようです。
この資料3には「データの価値が高まり、データの分析もAI等の実装により高度化が進み、その分析方 法等の開発にも相当の投資がなされている。企業は、分析方法等を、営業秘密として秘密 管理し競争力を維持している。一方で、万が一、その方法が他者に不正に取得されて使用 されたとしても、その使用に関しては、外部からの立証が困難な状況。 そのため、分析・解析・評価方法等について、営業秘密の不正な取得等が認められる場合 において、その秘密を使用したことを推定することを検討する。 」とあり、まさに、「今後の技術進歩に応じ、将来的に別の技術情報を推定の対象とすべきニーズが生じた場合」に応じた検討であると思われます。
そして、「その他政令で定める情報」としては、「分析方法」や「予測方法」を含むことを検討しています。
この、「分析方法」や「予測方法」は、具体的には、 「疾患の可能性等を評価(予測)する方法」、「機器の稼働状況を評価(予測)する方法」、 「気象を予測する方法」、「需要を予測する方法」、「混雑状況を予測する方法」、「人車、物等の 行動等を評価(予測)する方法」、「データを可視化・構造化する分析方法」 を分類したもののようです。
これらの具体的な方法は、直感的には膨大なデータ、所謂ビッグデータを活用した方法のようにイメージできます。だからこそ、今の委員会で検討しているのでしょう。
そして、「その他政令で定める情報」に上記方法を加えることで、不競法を改正することなく、ビッグデータを用いた営業秘密に対する法的保護をより積極的に与えるということでしょうか。
このブログでは、営業秘密と共にデータの利活用についても追いかけようと思っています。
以前に、このブログではこれに関するものとして下記にの記事を載せています。
・ビッグデータと営業秘密
・第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討
やはり、ビッグデータや第四次産業革命に興味があるせいか、本ブログでもアクセス数の多い記事です(本ブログの全アクセス数はまだまだ少ないですが・・・)。
そして、経済産業省において「産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会(第1回)」なるものが開催され、7月27日付けで経済産業省のホームページに資料が開示されています。
この委員会は、「資料4-1 不正競争防止小委員会の設置について」に「営業秘密の保護・活用に関する小委員会」を廃止 し、知的財産分科会の下に新たに設置されたものとあります。
そして、この小委員会の目的は、法改正に向けた詳細な制度設計を進めることにあり、下記の点を検討事項として挙げています。
(1)データの不正取得等の禁止
(2)データに施される暗号化技術等の保護強化
(3)技術的な営業秘密の保護のための政令整備(政令事項)
ここで、どのような侵害事例を対象としているのかが、参考資料 データ侵害の事例(データ利活用 ヒアリング調査)にまとめられています。
この侵害事例を参照すると、所謂ビッグデータのみを対象としているわけではないようです。
このデータの要件は、営業秘密の3要件(秘密管理性、有用性、非公知性)のように程対象となるデータがなんであるかを定めるものであるので、最も注視するべきことだと思われます。
今後も、このデータ保護に関する不競法改正案について追いかけてみようと思います。
ビッグデータに対する独占禁止法の指針で思い出しましたが、少し前に以下のようなものが
経済産業省から発表されていました。
「第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討 中間とりまとめ」
第四次産業革命とは何ぞや、ということは置いといて、 資料1を見ると、「データ」を不正競争防止法で保護しようという流れがあるようです。
色々な案があるようですが、最も核となるものとして、以下のようなものを不正競争防止法に追加することが検討されているようですね。
「不正な手段によりデータを取得する行為や、不正な手段により取得されたデータを使用・提供する行為を、不正競争行為とする。」
営業秘密に関する規定と似通っていますが、営業秘密とは別に新たに2条1項に追加されるのでしょうか。
ここでいうデータとは、「価値あるデータ」とされているようですが、具体的には何でしょうか?
また、この案で保護対象となるものは、「営業秘密として管理されていない情報」のようです。
確かに、「営業秘密として管理されている情報」は、既に不競法で保護対象とされているわけですからね。
そうなると、保護対象とする「データ」がなんであるかがどのように規定されるのかが非常に興味深いです。
現代において、あらゆる情報がデジタルデータとして管理されています。 どのような「データ」=情報でも保護対象となるのであれば、「営業秘密」としてデータ(情報)を管理する必要はなくなるのでしょうか?
そのような解釈は乱暴すぎるので、「営業秘密」として管理されているデータ(情報)と改正案で保護対象とされる「データ」との違いが明確化されるはずです。
「データ」は、所謂ビッグデータを想定しているのでしょうか?
ビッグデータは、時々刻々と変化していると思われるので、ビッグデータを「営業秘密」として特定することは少々難しいような気もします。
ビッグデータが、もし持ち出されたとしても、ビッグデータが時々刻々と変化していたら、持ち出したビッグデータの特定をどうやるのか?何らかの方法で、時々刻々と変化しているビッグデータをリアルタイムで不正にダウンロードし続けていたら、どうなるのか?
「営業秘密」として管理されてる秘密情報は、時々刻々と変化し続けるデータは対象として想定されていない気もします。
そうすると、そのようなデータを保護する規定を新設する意義はやはり大きいのではないでしょうか。
ちなみに、第四次産業革命に対する知財ということで、経済産業省は「第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会」を行い、このまとめも行っていたようです。