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2021年11月14日日曜日

営業秘密と特許の先使用権

営業秘密と特許の先使用権とはセットで語られることがあります。
それは、前回のブログ記事で述べたように、自社開発の技術を営業秘密とすると他社が同じ技術を開発して特許権を取得する可能性があるためです。このような場合、他社の特許出願時に当該技術を実施等していたら先使用権を主張でき、その実施を継続できる可能性があるためです。

ここで、先使用権は特許法79条に下記のように規定されています。
❝(先使用による通常実施権)
第七十九条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。❞
特許法79条にあるように、先使用権を有するためには、❝特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者❞という要件を満たす必要があります。しかしながら、自社が他社の特許権について先使用権を有していると考えていても、この要件を満たしていることの証明に苦慮する企業は多いようです。
先使用権の主張を行う場合における他社の特許出願は既に数年~十数年前の場合であり、現時点において、そのときに当該事業又は事業の準備を行っていたかを証明する資料が自社内で散逸したり、失われている場合もあるためです。

そしてこの先使用権と営業秘密との関係についてですが、発明を秘匿化した場合に秘密管理措置が上記要件を満たす証拠となり得るのではないかと考える人もいるかもしれません。
しかし、発明に対する秘密管理措置と上記要件とは基本的に何ら関係はありません。
まず、発明が完成してそれを秘匿化するタイミングは、当該発明の実施又は実施の準備を始めたタイミングよりも数か月から数年前になるでしょう。このように、一般的に発明の秘匿化のタイミングと事業の開始又は準備のタイミングは異なります。

また、自社の発明をわざわざ秘密管理するのであるから、それは事業の準備に相当するのではないか、と考える人もいるかもしれません。ここで、事業の準備とはどのようなものであるかは、ウォーキングビーム事件最高裁判決で下記のように判示されています。
❝法七九条にいう発明の実施である『事業の準備』とは、特許出願に係る発明の内容を知らないでこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者が、その発明につき、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されていることを意味すると解するのが相当である❞(下線は筆者による)
上記のように、「事業の準備」とは、いまだ事業の実施の段階には至らないものの、「即時実施の意図を有しており」かつ「その即時実施の意図が客観的に認識される態様、程度において表明されている」ことをいいます。本判決では、見積仕様書及び設計図の提出が、即時実施の意図を有し、それが客観的に認識される態様、程度であるとして、事業の準備と判断しています。

このように、事業の準備は「即時実施の意図を有しており、かつ、その即時実施の意図が客観的に認識され」なければならず、発明を単に秘匿化するという行為は、それを持って即時実施の意図とは認められない可能性が相当高いと思われます。
なお、秘匿化した図面に発明の内容が化体されており、当該図面を事業に用いる予定であれば、それを持って事業の準備であるとも考えられますが、その場合は秘匿の有無は先使用権の発生とは関係ありません。

以上のようにに、特許法の規定からして発明を秘匿化したからといって、当該発明に対する先使用権が発生するものではありません。従って、発明を秘匿化した場合には、別途先使用権主張ができるように、関連する資料の保存・収集を行う必要があります。


また、発明を秘匿化した企業の中には、他社の特許権を侵害した場合に先使用権の主張ができるように、当該発明を用いた事業又は事業の準備をしたことを証明する資料を予め公正証書として保管することを行っています。

では、このような公正証書の作成は営業秘密の秘密管理措置にもなり得るのでしょうか?
公正証書は資料等を封筒に入れて閉じて確定日付印を押します。これにより、その中身は開封しない限り分からず、”秘密”の状態にあるとも言えます。
しかしながら、個人的には、このような公正証書が秘密管理措置となる可能性は低いと考えます。その理由として、秘密管理性要件の主旨は以下のように考えられているためです。
❝秘密管理性要件の趣旨は、企業が秘密として管理しようとする対象(情報の範囲)が従業員等に対して明確化されることによって、従業員等の予見可能性、ひいては、経済活動の安定性を確保することにある。❞(経済産業省発行 営業秘密管理指針) 
上記のように、先使用権の証拠としての公正証書は、封によって閉じられているためその中身が分かりません。また、こうような公正証書は、企業の知財部で管理・保管されるでしょうから、一般の従業員はその存在すら知らないでしょう。
そうすると、当該公正証書では、企業が秘密として管理しようとする対象が従業員に対して明確化されているとは言い難いでしょう。このため、当該公正証書に発明の内容があったとしても、当該発明に対する秘密管理措置とはなり得ないと思われます。

以上のように、発明を営業秘密としたからといって、先使用権の主張が可能となるわけではありません。先使用権を主張するためには、それを満たすための証拠が必要であり、それがなければ先使用権の主張ができません。また、先使用権主張の準備は秘密管理措置とはなり得ないと思われます。
このため、発明を特許出願しない場合には、まず、当該発明を秘密管理し、当該発明を使用した事業の準備を開始すると共に、万が一の場合に先使用権主張ができるように準備を行うことが最も望ましいでしょう。
このように、発明を営業秘密とすることと先使用権主張の準備とは別物であることを正しく認識し、万が一に備えるべきでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2021年11月7日日曜日

自社による技術情報の秘匿化と他社による特許出願

技術情報を秘匿化することは、当該技術情報を他社に知られるないという大きなメリットがあります。
しかしながら、技術情報を秘匿化すると、当該技術情報と同じ技術を独自開発した他社によって特許出願される可能性があります。この可能性が一体どの程度のものであるかは、定かではありませんが、確かにその可能性はあるでしょう。

もし、自社で営業秘密とした技術情報が他社によって特許出願されると、まず公開公報の発行によって非公知性が失われるので、当該技術情報は営業秘密ではなくなります。これは、技術情報を秘匿化した意味が根底から失われます。

さらに、他社によって特許権が取得されてしまうと、当該技術情報を自社で使用(実施)すると他社の特許権の侵害になりますので、使用できなくなります。すなわち、営業秘密としていた技術情報を自社製品に使用しているものの、当該技術情報に係る発明の特許権を他社が取得すると、この自社製品は製造・販売できないこととなります。このため、多くの企業は少なくとも自社製品に使用する技術情報(発明)について特許出願、すなわち自社実施のための出願を行います。

なお、上記のような他社特許権の侵害に自社が陥ったとしても、特許法には先使用権(特許法79条)の規定があります。このためこの先使用権の要件を満たしている場合、自社は通常実施権を有していることとなり、所定の範囲内で実施が可能となりますので、必ずしも自社製品の製造・販売を停止しなくてもよい可能性があります。


一方で、自社実施のための出願は、安心感や保険のために必要かと思いますが、本来であれば秘匿したい技術情報をこのために特許出願するか否かはよく考えるべきであると個人的には思います。

まず、①特許出願したからと言って、さらには特許権を取得したからといって、必ずしも他社の特許権を侵害していないことにはなりません。
当然、自社の特許出願前に同じ技術が特許出願や権利化される場合もあります。さらには、自社で取得した特許権に係る発明が他社の特許権に係る発明を利用している場合もあります。この場合には、自社の特許権に係る発明を実施すると他社の特許権を侵害することになります。
このことから、特許出願をしたからといって、当該特許出願に係る発明を安心して実施できるとは限りません。特許出願前に先行特許調査を行って他社の特許権の有無を調べることで、このような事態を回避できる可能性があります。
なお、既に他社によって特許出願されている技術は、自社で秘密管理していても非公知性を失っているために営業秘密とはなり得ません。このため、自社開発技術を秘匿化する場合にも、不必要な秘密管理措置を防ぐ目的でも先行特許調査をするべきであると考えます。

さらに、②本当に同じ技術を他社が特許出願する可能性があるのか?ということも熟考えする必要があるでしょう。
例えば、自社の技術力が他社よりも高く、自社製品のリバースエンジニアリングによっても知られる可能性が低いにもかかわらず、秘匿化したい技術情報を安心感を得るために特許出願すると、他社は当該技術情報を知ることとなり、他社の技術力アップに貢献してしまう可能性もあります。このような場合に、自社実施のための特許出願は極力行わないほうが良いかと思います。
また、自社の工場内でしか使用しない技術や、自社製品に特有の技術で他社が当該技術を使用する可能性が相当低いような技術を特許出願することも考えものです。このような技術を特許出願することは単に技術の開示にしかすぎない可能性が高いためです。

しかしながら、特許出願によって一定の安心感を得られることも事実かと思います。
そこで、安心感を得るために特許出願しても、他社が自社の技術に追いつかないという確信がある場合には、公開公報の発行日前、具体的には公報発行の準備がなされる前である出願から1年3ヶ月より少し前に出願の取り下げを行うという方法があります。そして、取り下げの直後に再び出願します。一方、他社が自社の技術に追いつく可能性を感じた場合には、出願を取り下げずに特許権の取得を目指します。
これは、何れ特許出願を行うことを考えると、取り下げ→再出願毎に要する費用も特許庁費用で1万5千円(事務所費用も安いでしょう。)であり、繰り返し取り下げと再出願を行ったとしてもコスト的には問題ないかと思います。一方で、他社の技術動向の見極めが必要であるため、知財部としては難しい判断を要します。
なお、特許出願しても公開されるまでは、自社で当該技術情報を秘密管理することはいうまでもありません。

このように、技術情報の営業秘密化は他社に特許権を取得されるリスク(秘匿化リスク)があり、特許出願は他社に技術を知られるリスク(公開リスク)があります。一方で、営業秘密化は他社に技術を知られないというメリットがあり、特許出願には独占排他権を得ることができるというメリットがあります。
営業秘密化と特許化とのメリット、デメリットを見極めて、自社の事業の利益を最大化することができる方策を立案することが知財活動の本質の一つでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2020年1月17日金曜日

誤った秘密管理、先使用権の準備は営業秘密の秘密管理でもあるか?

情報を秘密管理する場合に、どのような形態で秘密管理すればよいのでしょうか。
 一般的には、デジタルデータや紙媒体に情報を記載して、それを秘密管理します。
 しかしながら、必ずしもそのような形態で秘密管理しないといけないわけではありません。
 一方で、裁判において、本来秘密としたい情報とは異なる物を秘密管理したとしても、当然に当該情報の秘密管理性は認められません。

 知財高裁令和元年10月9日判決(令和元年(ネ)10037号)はそのような判決です。
 本事件の原告は、鍵の販売・取付け・修理等を業とする株式会社です。また、被告会社は、ウェブ広告、鍵の修理・交換を業とする株式会社であり、被告Aは被告会社の代表取締役であり、被告B及び被告Cは原告の元従業員です。
 本事件において原告は、鍵を解錠するために用いる特殊工具であるグンマジの開錠方法に関する情報及びグンマジの構造・部材に関する情報が営業秘密であると主張しています。

 そして、原告は、住宅用グンマジのうち鍵の学校に置いてあるものは金庫で保管し、各錠前技師が所持するものは各自のロッカーで保管して毎日数を確認し、各錠前技師に配布されないものについても各支店で厳重に管理していたことを主張しました。
しかしながら、この主張に対して裁判所は、「このことは,工具であるグンマジの物理的な管理方法をいうにすぎず,「営業秘密」に該当するか否かが検討されるべき本件情報の管理態様をいうものではない」とのように判断しました。

確かに、原告の主張は、グンマジの管理方法であり、グンマジの開錠方法やグンマジの構造・部材に関する情報ではありません。このため、グンマジの管理方法を当該営業秘密の秘密管理性を示すものであるとして主張することは適当ではないでしょう。


この判決は分かり易いのですが、次の例ではいかがでしょうか。
技術情報を営業秘密とする場合、度々、特許制度でいうところの先使用権も考慮に入れる場合が多いかと思います。そして、技術情報を営業秘密とする場合、万が一のために先使用権主張の準備を行う企業も多いかと思います。

先使用権主張の準備としては、証拠資料をファイル等にまとめ、公証人役場で確定日付の公証を得て封をすることがあるかと思います。このように封をされたファイルには営業秘密とする技術情報に関する資料も含まれているでしょう。
では、このようなファイルは、当該営業秘密に対する秘密管理といえるのでしょうか?

私は、これは秘密管理とは言えないと思います。その理由は、この管理は先使用権主張のための管理であり、営業秘密そのものの管理ではないからです。
また、封をしたファイルは、その中を確認できないので、どのような情報が記載されているのかを確認できません。どのような情報が営業秘密であるのか予見できないため、秘密管理しているとは言えないでしょう。

従って、営業秘密とする技術情報は、先使用権主張の準備とはことなる形態で秘密管理する必要があります。このように、技術情報を営業秘密とする場合において、先使用権の準備は秘密管理とは異なることを認識する必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年9月6日木曜日

営業秘密と先使用権主張の準備 その2

前回のブログ記事「営業秘密と先使用権主張の準備 その1」の続きです。

前回では、営業秘密の非公知性喪失の有無の確認を先使用権主張の準備に利用することに触れました。

まず、営業秘密の非公知性喪失の有無の確認とはなんでしょうか?

参考ブログ記事:ー判例から考えるー 技術情報を営業秘密管理する場合にも先行技術調査が必要?

上記参考ブログでも記載したように、営業秘密化する技術情報と公知技術とを混在させて秘密管理してしまうと、営業秘密化する技術情報の秘密管理性までもが否定される場合があります。一種の秘密管理の形骸化でしょうか。
このため、特に重要な営業秘密に関しては、営業秘密管理している間は定期的に特許文献調査等を行い、当該技術情報の非公知性喪失の有無を確認するべきと考えます。
もし、当該技術情報の非公知性が喪失した場合には、他の営業秘密の秘密管理性に影響を与えないように、秘密管理を解除するというような措置をとるべきでしょう。

このような非公知性喪失の有無の確認を定期的に確認すると、自社で営業秘密管理している技術情報と同様の技術を他社が特許出願していることを発見する可能性があります。
この場合、先使用権主張の準備を行うことが、営業秘密の非公知性喪失の有無の確認を先使用権主張の準備に利用するということです。
これにより、無駄な先使用権主張の準備は回避できるかと思います。

図案化すると下記のような感じです。



1.開発した技術の先行技術文献調査(検索式の作成)
2.先行技術が無い場合に技術情報を特許出願又は秘匿化の決定 
3.秘匿化した技術情報のうち、少なくとも実施又は実施の準備をしている技術情報を定期的(半年や1年毎)に他社特許調査(検索式の利用)
4.他社の特許出願を発見した場合に、先使用権主張の準備
5.当該他社の特許出願の審査状況をウォッチ

このような手法をとることで、先使用権主張の準備を行う対象となる技術情報は、実際に他社が特許出願した技術のみとなります。
なお、この手法は、既に他社特許出願の特許公開公報が発行されたのちに、他社特許出願のタイミングまで遡って先使用権主張の準備を行うものです。このため、収集すべき証拠資料が既に失われていることを危惧される方もいるかもしれません。
しかしながら、他社特許出願の確認を半年に一度行うのであれば、最長でも2年前に出願された他社特許出願を発見することになり、他社特許出願のタイミングからさほど時間は経過していないと考えられます。もし、2年前の証拠資料が失われているとしたら、それは自社の文書管理に問題があると考えられ、営業秘密管理以前の問題でしょう。

上記例では、他社の特許出願を確認したタイミングで先使用権主張の準備を行うものですが、当該特許出願が自社の営業秘密と同様の技術範囲で特許権を取得するとは限りません。
このため、他社の特許権取得を確認したタイミングで先使用権主張の準備を行ってもいいかもしれません。これにより、より無駄のない先使用権主張の準備が可能となります。その一方で、この場合は、他社が特許出願したタイミングまで遡って証拠資料を見つけだし、先使用権主張の準備を行う必要があります。すなわち、他社の特許出願タイミングから数年~10年以上経過したのちに先使用権主張の準備を行う可能性があります。このため、証拠資料が破棄されている等のリスクも生じ易くなることに留意する必要があります。

また、定期的に特許調査を行うことは大変ではないかと思う人もいるかと思いますが、果たしてそうでしょうか?
対象となる営業秘密は実際に自社で実施又は実施の準備をしている技術情報です。
このような技術情報は一社当たりどの程度あるでしょうか?
中小企業であればさほど多くはないかもしれませんし、企業規模が大きくなれば当然対象となる営業秘密は多くなりますが、その分、知財部員も多くなります。
さらに、上記「1」において適切な検索式を作成しておけば、前回の調査期間と今回の調査期間との差分を確認するだけでいいのです。このため、半年おき又は一年おきに確認したとしても実際に目を通す必要のある他社特許の件数は、一回の調査当たり数件から十数件程度かもしれません。この程度の特許調査であれば、半日もあれば完了しますので、さほどの手間ではないかと思います。

以上説明したように、先使用権主張の準備を営業秘密の非公知性喪失の有無の確認とセットで行うことにより、より無駄のない先使用権主張の準備が可能になると考えます。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年9月4日火曜日

営業秘密と先使用権主張の準備 その1

営業秘密と先使用権はよくセットにされて語られます。

技術情報を営業秘密化(秘匿化)する場合には当然特許出願を行わないので、当該技術に関して他社に特許権を取得される可能性が生じます。したがって、技術情報の営業秘密化にとって先使用権について意識することは当然でしょう。

ここで、先使用権の主張を行う場合とは、自社が他社の特許権を侵害している場合です。侵害していないのであれば、先使用権の主張を行う場面はありません。
すなわち、先使用権の主張を行う状況とは、他社の特許権を実際に侵害している状況であり、非常に良くない状況です。

では、先使用権とは具体的に何でしょうか。
先使用権は特許法第79条に規定されている通常実施権のことです。
先使用権は、他者がした特許出願の時点で、その特許出願に係る発明の実施である事業やその事業の準備をしていた者に認められる権利(無償の通常実施権)です。すなわち、当該技術に関する特許権は、他社が所有し、自社は所有していません。
例えば、実施している製造方法等を特許出願せずに秘匿化した後に、当該製造方法に係る発明の特許権を他者に取得されるとこの特許権の侵害となります。しかしながら、先使用権の主張が認められれば、例外的に他社の特許権に係る発明を無償で実施可能となります。

先使用権の主張を行うためには、先使用権を有することを示す客観的な証拠が必要です。
先使用権の証拠資料は、自社実施又はその準備が他社の特許出願前であることを、客観的に証明するものです。このため各証拠資料には、日付の記載が必要不可欠です。

証拠資料としては例えば下記のようなものがあります。
・研究開発段階、発明の完成段階
 研究ノート、技術成果報告書、設計図、仕様書
・事業化に向けた準備が決定された段階
 社内の事業化決 定会議の議事録や事業開始決定書等
・事業の準備段階   
 設計図、仕様書、 見積書、請求書、納品書、帳簿類等
・事業の開始及びその後の段階
 製品の試作品、 製造年月日や製品番号、仕様書、設計図、カタログ、パンフレット、 商品取扱説明書及び 製品自体等

参考:特許庁ホームページ 先使用権制度について

そして、技術情報を営業秘密化し、かつそれを実施する場合には先使用権主張の準備を行いましょう、という流れがあり、企業の知財部も先使用権主張の準備を実際に行っているところが少なからずあるようです。

先使用権主張の準備とは、具体的には以下のような感じでしょうか。


まず、自社で技術開発を行う過程で、選考技術調査を行うことで他社特許出願の有無を調べます。その結果、他社特許出願がない場合には、開発した技術情報の特許出願又は秘匿化の判断が行われるでしょう。
当該技術について秘匿化を決定し、その後、当該技術の実施の準備を開始すると先使用権主張の準備のための証拠集めを行います。さらに、実施が開始されるとそれに応じて証拠集めを行うでしょう。
証拠収集が完了するとこれらの証拠をファイルにし、公証役場で確定日付を得、万が一のためにこのファイルを保管します。

ここで、上記のような先使用権主張の準備の問題点としては、技術情報の実施又は実施の準備を開始した時点で先使用権主張の準備をすると、未だ存在しない他社出願を想定したものになります。このため、もし他社が当該技術にかかる特許出願を行わない場合には、先使用権主張の準備は無駄になります。

そこで、営業秘密の管理、ここでは営業秘密の非公知性喪失の有無の確認を用いることで、無駄のない先使用権主張の準備が行えると考えます。
詳細は次回に。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2017年12月15日金曜日

営業秘密保護や先使用権証明のための文書管理システムとは?

しばらく前に、ある企業の文書管理システムのセミナーに行きました。
営業秘密保護や先使用権証明に関する技術の知見を得ることがセミナー参加の主たる目的です。

営業秘密保護や先使用権証明のためには、書類の電子化やサーバ管理といった技術的な要素も重要になるかと思います。
いかにして書類を効率良く管理し、かつ企業秘密(営業秘密)を守るか?

参加させて頂いたセミナーは、セミナー主催企業の製品紹介ですが、文章電子化システムの技術動向を知らない私にとってはかなり参考になりました。
そして、その製品を実際に操作させて頂いたのですが、直感的に使い易いなという印象。
良くできている文書管理システムだと思いました。

で、肝心の営業秘密保護や先使用権証明のための技術としてどのようなものがあるのか?ということですが。

先使用権証明のために利用できる機能として(セミナーではそのような直接的な説明はありませんでしたが。)、やはりタイムスタンプ機能ですね。オプションでしたが。
文書データにタイムスタンプを押す設定をしているフォルダにデータを入れると、ユーザが意識することなく自動でタイムスタンプを押してくれるようです。

また、読み取った文書データから自動で日付を読み取り、日付毎のフォルダに自動で割り振ってくれる機能もあります。
この機能は、先使用権証明というよりも文書管理機能としての側面が強いものですが、先使用権証明のためには、他社の特許出願の日が基準となりますから、先使用権を主張しなければならない事態に陥った場合に、必要な書類を効率良く見つけ出すためには重要な機能かもしれません。
しかし、当たり前ですが、書類に日付が入っていることが前提ですね。
書類に日付が入っているのであれば、先使用権証明のためのタイムスタンプは大きな意味を持たないような気もします。

一方で、先使用権証明のためならば、日付毎ではなく技術毎に必要書類を管理する方が良いのでしょうか?しかしながら、侵害を疑われる技術を想定することは略不可能ですよね。先使用権証明のために書類をまとめ確定日付を付与したとしても、その書類を使うことは無く、実質的に無駄な作業になるという意見も聞きます。


次は、企業秘密(営業秘密)の保護に関する機能として良いと思った機能です。

一つは、アクセス権限のないフォルダやデータを画面上に表示させない機能。
私が知らなかっただけで、この機能は一般的なのでしょうか。
すごく単純な管理システムでしたら、単にフォルダ等にアクセス制限をするだけですが、それではフォルダ名等からその内容が推察される可能性があります。
勘のいい人ならば、そのフォルダにどのような情報が入っているのか分かるでしょうし、アクセス制限がされていることによってそれが重要な情報であることも分かってしまいます。
アクセス権限がない人には、“当該情報の存在すら知られない”ことは重要かと思います。

また、一つのデータの内容の一部にアクセス制限をかけることができる機能もありました。
具体的には、文書データの内容の一部にマスキングを行い、アクセス権限がない人には見れないようにする機能です。これは良い機能だと感じました。
一つのデータの中にも必要以上に閲覧させたくない情報が含まれる場合は多々あるかと思います。
この様な場合、閲覧させたくない情報にマスキングを行い、アクセス権限がある人のみがマスクしていないデータの閲覧が可能になります。

私が体験させて頂いたシステムは、アクセスログ管理がもう少し充実している方が好ましいと感じました。
何時どのユーザがどのフォルダやデータにアクセスしたのか、アクセスの頻度は通常と同じか、多量にデータをダウンロードしていないか、等が簡易に監視・報知する機能が充実しているといいですね。

ここで、このセミナーに参加して思ったこと、それは、「文書データ管理の機能も充実し、企業秘密保護の機能も充実しているシステムって無いのではないか?」ということ。
当たり前ですが、メーカーが得意とする分野に機能の充実度が偏るかと思います。
文章データ管理、企業秘密保護の両方が得意なメーカーってあるのでしょうか?

しかしながら、今後、書類のデジタルデータ化が一層促進され、それに伴い、企業秘密保護も重要度も増々高まると思います。
そうすると、文章データ管理機能、企業秘密保護機能の両方が充実したシステムも必然的に開発、販売されることになるかと思います。

今度は展示会等に行って様々な企業の文書管理システムに関する情報収集をしても面白いかもしれません。