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2026年1月31日土曜日

知財戦略:ユーグレナ由来のバイオ燃料の知財戦略について

前回のブログではユーグレナを食品としたヘルスケア領域の知財戦略について、知財戦略カスケードダウンを利用して生成AIに生成させました。今回は、ユーグレナ由来のバイオ燃料の知財戦略についてです。
なお、ユーグレナ由来のバイオ燃料は普及していません。そこで、事業目的としては、「ユーグレナ由来のバイオ燃料の商業化と市場拡大」としています。その結果、生成AIは「標準化プロセスの特許保護(プロセス標準化)」と「技術パッケージ化と導入支援」という2つの戦略の組み合わせを出してきました。
以下がその詳細です。なお、A-1の標準化プロセスの特許保護は、A-2の技術パッケージ化と導入支援の前提となるものであり、標準化に関する特許は有料ライセンスされます。
このように、特許のライセンス等を前提として事業戦略が立案された理由は、バイオ燃料の市場は非常に大きくなる可能性があり、一社だけで需要を賄うことは人員、資金、設備等の観点から非常に難しいためです。
このような理由から以下の戦略は、企業規模が比較的小さい企業を想定したものとなります。一方で、企業規模が大きな企業、例えば既に燃料の世界的な市場において高いシェアを有している企業は異なる戦略となるでしょう。

◆ A-1:標準化プロセスの特許保護(プロセス標準化)◆
★事業★
<1.事業目的(共通)>
 ユーグレナ由来バイオ燃料の商業化と市場拡大
<2.事業戦略>
 製造プロセスをモジュール化・標準化し、他社が導入しやすい再現性の高いプロセスを構築する。
<3.事業戦術>
 標準化プロセスを特許で保護し、ライセンスの核となる技術資産として確立する。

★知財★
<1.知財目的>
 標準化プロセスを特許で保護し、ライセンスの核となる技術資産として確立する。
<2.知財戦略>
 標準化プロセスを“特許化しやすい構造”に再設計し、工程別・工程組合せの特許群として体系化する。
(ポイント) 標準化プロセスをそのまま特許にするのではなく、特許化しやすい形に分解・構造化することが戦略の中心
<3.知財戦術>
 標準化プロセスを特許化しやすい形に落とし込むための実務プロセス。
① 標準化プロセスのモジュール分解戦術
 培養、抽出、精製、燃料化などの工程をモジュール化
 工程ごとに特許化可能な技術的特徴を抽出
 標準化プロセスの“特許化しやすい構造”を作る
② 工程別特許の体系化戦術
 各工程を個別に特許出願
 工程単位でライセンス可能な技術資産にする
 導入性が高まり、ライセンスモデルと相性が良い
③ 工程組合せ特許の構築戦術
 工程同士を組み合わせた特許を取得
 一部工程を変えても回避できない“特許の壁”を形成
 標準化プロセス全体を保護する効果が高い
④ 標準化プロセスの特許化しやすい表現への変換戦術
 パラメータ範囲(温度、圧力、時間)を特定
 効果(収率向上、品質安定)を明確化
 実施例を複数用意して特許強度を高める

◆ A-2:技術パッケージ化と導入支援◆
★事業★
<1.事業目的(共通)>
 ユーグレナ由来バイオ燃料の商業化と市場拡大
<2.事業戦略>
 特許+ノウハウ+品質データ+導入支援を統合した“総合技術パッケージ”を提供し、ライセンス先が確実に製造できる状態を作る。
<3.事業戦術>
 技術パッケージを知財資産として体系化し、特許とノウハウを適切に保護しながらライセンス収益を最大化する。

★知財★
<1.知財目的>
 技術パッケージを知財資産として体系化し、特許とノウハウを適切に保護しながらライセンス収益を最大化する。
<2.知財戦略>
 特許(オープン)+ノウハウ(クローズ)+データ(付加価値)+契約(統制)の“複合知財パッケージ戦略”を採用する。
(ポイント)特許は公開してもよい“オープン資産”、ノウハウは秘匿すべき“クローズ資産”、データはライセンス価値を高める“付加価値資産”、契約は漏洩防止と収益確保の“統制資産”
<3.知財戦術>
 技術パッケージを知財資産として成立させるための実務プロセス。
① 特許をパッケージの核に据える戦術
 A-1 で構築した工程別・組合せ特許をパッケージの中心に配置
 特許が“導入の必須要素”になるよう設計
 ライセンス料の根拠となる資産を明確化
② ノウハウ秘匿戦術
 運転条件、トラブル対応、最適化条件などは秘匿化
 文書アクセス制限
 技術者派遣時の情報管理ルール
 NDAの徹底
 ノウハウ漏洩時の契約ペナルティ設定
③ 品質データ活用戦術
 規格適合データ(ASTM等)をパッケージに含める
 品質データを“導入の信頼性”として提供
 データのバージョン管理で最新性を担保
④ 契約統制戦術
 ライセンス契約で実施範囲・地域・期間を明確化
 ノウハウ提供条件を契約に明記
 技術移転マニュアルを契約付属文書にする
 ライセンス料体系(初期費用+ロイヤルティ)を設計


次に、 A-1「標準化プロセスの特許保護(プロセス標準化)」の戦略とA-2「技術パッケージ化と導入支援」について解説します。

<標準化プロセスの特許保護(プロセス標準化)について>
ユーグレナ由来バイオ燃料の商業化と市場拡大を実現するためには、単に優れた製造技術を開発するだけでは不十分です。市場における技術の採用は、技術的優位性のみならず、その技術が他社にとって導入しやすく、かつ信頼性の高い“標準的な方式”として認知されるかどうかに大きく依存します。この観点から、A-1が掲げる「標準化プロセスの特許保護」は、公的規格化(デジュールスタンダード)を目指すものではなく、ユーグレナ方式を業界の事実上の標準(デファクトスタンダード)として確立することを目的とする戦略的行為です。
デファクトスタンダード化は、特に安全性・品質が重視される航空燃料分野において強い影響力を持ちます。一度「この方式が最も安定し、規格適合性が高い」と市場が認識すれば、他社はその方式を採用することが最も合理的な選択となります。この“採用の必然性”こそがデファクトスタンダードの本質であり、ユーグレナ方式がその地位を確立することで、競合他社はユーグレナ方式を採用せざるを得ない状況が生まれます。その結果、ユーグレナ方式は市場における優位性を持続的に保持し、ライセンスビジネスにおける交渉力と収益性を大幅に高めることが可能となります。
しかし、デファクトスタンダード化のみでは技術の模倣を防ぐことはできません。そこで A-1の戦略では、標準化プロセスを特許化しやすい形に再構造化し、工程別特許および工程組合せ特許として体系的に権利化することを重視します。この特許群は、ユーグレナ方式の技術的優位性を法的排他性へと転換し、デファクトスタンダードとしての地位を“独占的に享受する”ための基盤となります。すなわち、A-1 の標準化は、技術の普及を促すための「開放性」と、模倣を防ぐための「排他性」という、一見矛盾する二つの要素を統合する戦略です。
この戦略の核心は、標準化プロセスを単なる工程の整理ではなく、「特許化しやすい構造へと再設計する技術的・法的プロセス」として捉える点にあります。工程をモジュール化し、各工程の技術的特徴を抽出し、さらに工程間の組合せによって回避困難な特許網を構築することで、ユーグレナ方式は技術的にも法的にも強固な“標準”となります。このようにして形成された標準化プロセスは、他社にとって導入しやすい一方で特許によって保護されているため、ユーグレナはライセンス料を高く設定することが可能となります。
総じて、A-1の「標準化」は、ユーグレナ方式を市場における事実上の標準へと押し上げることで、技術の普及とライセンス収益の最大化を同時に達成する戦略です。このデファクト化戦略は、特許による排他性と標準化による普及性を統合することで、長期的かつ持続的な競争優位を実現するものであり、ユーグレナのバイオ燃料事業における中核的な価値創出メカニズムを形成します。

<A-1とA-2の役割分担>
ユーグレナ由来バイオ燃料の商業化と市場拡大を実現するためには、技術そのものの優位性と、その技術を市場に展開するための仕組みの双方が不可欠です。この観点から、事業戦略AはA-1(標準化プロセスの特許保護)とA-2(技術パッケージ化と導入支援)の二つの補完的な要素によって構成されます。
A-1は、ユーグレナ方式の製造プロセスを技術的に確立し、その再現性・品質・安全性を担保するための基盤的役割を担います。具体的には、培養、抽出、精製、燃料化といった一連の工程をモジュール化し、それらを特許化しやすい構造へと再設計することで、ユーグレナ方式が他社にとって最も合理的かつ信頼性の高い製造手法となるように位置づけます。このプロセスの標準化は、単に工程を整理するだけでなく、ユーグレナ方式を業界の事実上の標準(デファクトスタンダード)へと押し上げるための戦略的行為です。そして、この標準化されたプロセスを工程別特許や工程組合せ特許として体系化することで、技術的優位性を法的排他性へと転換し、ライセンス事業の核となる技術資産を形成します。すなわちA-1は、「技術そのものを作り、守る」という役割を担います。
これに対してA-2は、A-1によって確立された技術を、他社が実際に導入し運用できる形へと変換する役割を担います。A-1が技術の“中身”を作るのに対し、A-2はその技術を“商品”として成立させるための仕組みを構築します。具体的には、特許(オープン資産)、ノウハウ(クローズ資産)、品質データ(付加価値資産)、そして契約(統制資産)を統合した総合的な技術パッケージを設計し、さらに技術者派遣や品質監査といった導入支援体制を整備することで、ライセンス先が確実にユーグレナ方式を運用できる状態を作り出します。このプロセスは、技術の導入障壁を下げ、ライセンス事業の成功率を高めると同時に、ノウハウ秘匿や契約統制によって収益性と安全性を両立させるものです。すなわちA-2は、「技術を売れる商品にし、収益化する」という役割を担います。
両者の関係は明確であり、A-1がなければ、A-2が提供する技術パッケージの核となる技術資産が存在しません。逆にA-2がなければ、A-1が構築した技術は市場に展開されず、収益化も実現しません。A-1は技術的優位性と排他性を創出し、A-2はその優位性を市場価値へと転換します。このように、A-1と A-2は技術・ビジネス・知財の三位一体モデルを構成し、両者が相互補完的に機能することで、ユーグレナ方式のバイオ燃料製造技術は長期的かつ持続的なライセンスビジネスとして成立します。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年1月25日日曜日

知財戦略:ユーグレナの知財戦略を知財戦略カスケードダウンへの当てはめ

前回のブログでは、ユーグレナ社の知財戦略について述べました。
今回は、このユーグレナ社の知財戦略を知財戦略カスケードダウンに当てはめてみます。
この当てはめは、AIであるCopilotに考えさせたものを修正したものです。


今回は、ユーグレナを食品としたヘルスケア領域に対する事業目的→事業戦略→事業戦術→知財目的→知財戦略→知財戦術を考えました。

★事業★
<1.事業目的(ヘルスケア領域)>
ユーグレナ由来成分を活用した高付加価値食品市場の拡大
<2.事業戦略(目的を達成するための大まかな方策)>
ユーグレナ成分の独自性を活かした差別化
・他社が模倣できない独自成分・独自加工技術を確立する
・科学的エビデンスを強化し、機能性食品としての信頼性を高める
<3.事業戦術(戦略を実行する具体的施策)>
・戦術A-1:新規ユーグレナ成分の探索・分析
・戦術A-2:粉末化・加工技術の改良
・戦術A-3:機能性表示食品の届出・エビデンス取得

事業戦術としては、上記のようにA-1~A-2の3つが出てきました。
そこで、それぞれの事業戦術ごとに知財目的→知財戦略→知財戦術を下記に記します。

★知財(事業戦術A-1:新規ユーグレナ成分の探索・分析)★
<1.知財目的>
新規成分の独自性を保護し、競合による模倣・追随を防止する。
(理由)
新規成分はヘルスケア事業の差別化源泉であり、成分そのものの独占が市場優位性を決定するため。
<2.知財戦略>
成分・組成・機能に関する特許を積極的に取得し、広いクレームで独占領域を確保する。
(戦略の方向性)
成分そのもの(物質特許)、成分の組成・含有量、成分の機能・用途を広く権利化する。
<3.知財戦術>
・成分特許のクレーム最適化
  新規成分の化学構造・組成・特徴を広くクレーム化
  競合が回避しにくいパラメータ範囲を設定 
  実施例を複数用意し、特許の強度を高める
・分析データの体系化
  成分分析データ(HPLC、MS、NMRなど)を特許明細書に反映
  機能性データ(抗酸化、免疫、代謝など)を用途クレームに活用
  科学論文より先に特許出願するフローを構築


★知財(事業戦術A-2:粉末化・加工技術の改良)★
<1. 知財目的>
加工プロセスの独自性を保護し、製品品質の差別化を維持する。
(理由)
粉末化・加工技術は製品の安定性・味・溶解性などに直結し、食品としての競争力を左右するため。
<2.知財戦略>
加工プロセスは特許化を基本としつつ、秘匿化すべき工程はノウハウとして管理するハイブリッド戦略を採用する。
(戦略の方向性)
  市販品から逆解析できる部分 → 特許化
  工場内でしか分からない工程 → 秘匿化
<3. 知財戦術>
・プロセス特許の取得
  粉末化条件(温度、圧力、乾燥条件など)をクレーム化
  粉末の粒度・含水率・安定性など製品特性を特定したクレームを設計
  市販品から侵害調査が可能な「製品クレーム」を優先
・秘匿化すべき工程の選別
  工場内でしか分からない工程(撹拌条件、投入順序など)は秘匿化
  特許出願前に秘匿技術との境界を明確化

★知財(事業戦術A-3:機能性表示食品の届出・エビデンス取得)★
<1. 知財目的>
消費者庁に届け出る機能性エビデンスを特許に反映し、機能性表示食品の独占領域を確保する。
(理由)
機能性表示食品の届出データは、用途特許の強力な裏付けとなり、競合の参入障壁を高めるため。
<2.知財戦略>
機能性データを用途特許に組み込み、食品カテゴリーごとに用途特許網を構築する。
(戦略の方向性)
  「機能 × 食品形態」の組み合わせで特許網を形成
  科学的エビデンスを特許に反映し、強い用途特許を取得
<3.知財戦術>
・用途特許の網羅化
  免疫、疲労、腸活、代謝など機能性ごとに用途特許を出願
  飲料、サプリ、菓子、プロテインなど食品形態ごとにクレームを設計
  競合が回避しにくい用途クレームを設定
・機能性データの特許活用
  届出データに使用したヒト試験データを特許明細書に反映
  エビデンスを複数の用途クレームに展開
  科学論文より先に特許出願するフローを整備

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年1月18日日曜日

知財戦略:ユーグレナ社の知財戦略

知財戦略は、主として特許等の権利化(公知化)する技術と秘匿化する技術の選択(オープン・クローズ戦略)であると考えます。
このオープン・クローズ戦略の典型的な例としてユーグレナ社の知財戦略を挙げます。

まず、ユーグレナ(Euglena/和名:ミドリムシ)は植物と動物の両方の性質を併せ持つ単細胞微生物です。ユーグレナの大きさは50μm程度で葉緑体を持ち光合成が可能である一方、光がなくても有機物を栄養源に増殖し、大量に培養することが可能です。
ユーグレナは非常に栄養バランスが良く、人に必要な約59種類の栄養素を含むとされます。このため、食品やサプリに主に用いられています。さらに、ユーグレナの用途としては、化粧品、創薬、バイオ燃料等があります。

(1) 知財の基本戦略:特許と秘匿化のハイブリッド
ユーグレナ社は、特許戦略と秘匿化戦略を使い分けることを明確に方針化しています。
栄養豊富な微細藻類「ユーグレナ(ミドリムシ)」の大量培養技術(特に培養方法そのもの)については、詳細を公開することで権利化するよりも、秘匿化してノウハウとして管理する戦略を採っています。
この理由は、大量培養技術の詳細手順を開示して特許化すると、競合が模倣しやすくなる上、工場内で実施される技術の特許侵害を確認するのが難しいという理由からです。

一方で、ユーグレナを粉末化したり、特定の用途や加工方法、製品形態に関する発明などの技術については、特許として出願・権利化しています。
 こうした用途・加工関連の特許は、競合製品を購入して含有物や構成を調べることで侵害の有無を比較的容易に確認できるため、権利行使もしやすいと考えられるためです。

(2)培養技術の秘匿(オープン・クローズ戦略)
ユーグレナ社は「世界初の屋外大量培養技術」を開発していますが、その核心部分は特許にしていません。その背景は次の通りです:
詳細を公開すると技術内容が明らかになり、競合が同じ方法を再現できる可能性が高まる。
工場内での培養技術は外部から実施事実が確認しにくく、特許侵害の証拠をつかみにくいため、権利化のメリットが少ないと判断されています。
このように、培養技術は秘匿ノウハウ(trade secret)として保護し、用途・加工技術は特許で保護するという「オープン/クローズ」戦略を明確に実行しているのがユーグレナ社の知財戦略の代表例です。


(3)特許ポートフォリオの一例
ユーグレナ社は用途・製品関連の技術について多数の特許を有しており、例えば以下のようなものがあります。なお、ユーグレナ社は、現在約120件程度日本国で特許出願しています。
・特許第6654264号
発明の名称:パラミロン含有レーヨン繊維及びその製造方法
概略:ユーグレナ由来のパラミロンを繊維化し含有したレーヨン繊維(パラミロンレーヨン)の構成およびその生成方法に関する発明。パラミロンを含有させた繊維自体とその用途(例えば機能性素材、繊維製品)について権利化している。

・特開2024-064892号公報
発明の名称:タンパク質高含有ユーグレナとその生産方法)
概略:タンパク質含有率 35質量%以上のユーグレナ。前記ユーグレナとしては、パラミロン合成酵素をコードする遺伝子が抑制され、又は欠失したユーグレナが挙げられる。パラミロン合成酵素をコードする遺伝子としては、グルカン合成様酵素2(GSL2)をコードする遺伝子が挙げられる。

(4) まとめ:ユーグレナ社の知財戦略のポイント
・特許とノウハウを戦略的に使い分ける「オープン・クローズ戦略」
    → 事業展開の局面に応じた保護手法の最適化。
・培養方法などのコア技術は秘匿化(ノウハウ)
    → 詳細公開を避け、模倣防止と侵害確認困難性を逆手に取る。
・製品用途・加工・特定機能に関する技術は特許化
    → 競合との比較や侵害証拠の収集が容易な領域を選択的に保護。

参考URL

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年12月30日火曜日

公益通報を目的とした秘密情報の持ち出し

先日、元社員による公益通報を目的とした情報の持ち出しに違法性はないとした民事訴訟の地裁判決が出ました。




ここで、経済産業省が発行している営業秘密管理指針には営業秘密の有用性について以下のような解説があります。
「有用性」の要件は、公序良俗に反する内容の情報(脱税や有害物質の垂れ流し等の反社会的な情報)など、秘密として法律上保護されることに正当な利益が乏しい情報を営業秘密の範囲から除外した上で、広い意味で商業的価値が認められる情報を保護することに主眼がある。
元社員が持ち出したとされる「医師との契約書など機密情報」がどのような内容であるかは分かりませんが、「秘密として法律上保護されることに正当な利益が乏しい情報」であれば有用性が認められず、上記機密情報は営業秘密ではないということになります。

一方で、判所所がこのような判断をしたとのような報道はなく、「秘密情報を持ち出した目的が犯罪の告発であった」として違法性はない、とのように判断したとの報道がなされています。
そうであれば、元社員には「不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的」がないとして違法性はないと裁判所が判断したようにも思えます。なお、この元社員が報道機関に営業秘密を漏らしたとする証拠はないとのようにも裁判所は判断しています。
従って、元社員は犯罪の証拠と告発文を警察に送っただけであり、そのような行為では「不正の利益」を得ることはできず、また、警察への告発が「営業秘密保有者に損害を加える目的」とは解されないでしょう。

一方、少し前にも同様に公益通報を目的としたと被告が主張してメディアに営業秘密を開示した行為についての民事訴訟の判決がありました。この事件において裁判所は元社員による公益通報を認めず、元社員に対する損害賠償請求を認めました。

この二つの事件に対する民事訴訟の判決の違いの理由が何であるかはよく分かりません。一方が警察への告発であり、他方がメディアへの告発であることが理由でしょうか?

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年11月30日日曜日

判例紹介:念書(契約書)に基づく秘密情報の廃棄や使用の制限について

秘密保持契約等を交わして自社の秘密情報を他社に開示することは一般的に行われており、開示した秘密情報の取り扱いに関して争って訴訟となる場合もあります。今回はそのような民事訴訟(新潟地裁令和 5年 9月28日 事件番号:令2(ワ)87号)を紹介します。

本事件は、使用済み紙おむつの燃料化事業に関し地方公共団体である被告との間で意見や情報の交換等を行っていた原告が、被告との間で交わした秘密保持に関する念書に基づき、本件情報を廃棄又は削除すること、被告において使用しないこと及び第三者へ開示し提供しないこと等を求めたものです。

まず、地方公共団体である被告は平成26年頃から使用済み紙おむつの燃料化について、実験を行うなどして事業化を検討し、平成29年11月15日以降、原告との間で燃料化事業について意見交換や情報共有等を行い、原告と被告は平成30年9月頃、平成29年11月15日付けにして本件念書を締結し、原告は本件情報を被告に開示しました。
その後、被告は公募による随意契約に基づき外部の事業者に委託して、燃料化事業の実証事業を行うこととし、令和元年5月、運営事業者の公募を開始して原告や他の事業者から応募を受けました。その結果、同年7月、運営事業者を社会福祉法人十日町福祉会に決定し、原告は落選することとなり、被告は、その後に十日町福祉会との間で随意契約の方法により、本件事業の運営に係る契約を締結しました。

このような経緯があり、原告は被告に対して開示した本件情報を本件念書に基づいて廃棄や本件情報を使用しないこと等を請求しました。

裁判所は原告が被告に開示した本件情報に対して、本件念書が適用される情報であるかを検討しています。
本件情報は、以下のものです。
ア 燃料化装置(SFD)に関する情報のうち、紙おむつ燃料化処理の作業手順
イ 燃料化装置(SFD)に関する情報のうち、紙おむつ燃料化処理に必要なガスの使用量 ウ 紙おむつ木くず混合ペレット製造に関する情報のうち、その製造の手順
エ 紙おむつ木くず混合ペレット製造に関する情報のうち、その成分分析
オ 紙おむつ木くず混合ペレット製造に関する情報のうち、破砕機の追加使用
カ 紙おむつ木くず混合ペレットに関する情報のうち、木くず混合ペレットの燃焼実験の結果とペレットの燃殻、排気ガスの成分分析及び燃え殻の成分分析データ
キ 紙おむつ木くず混合ペレットに関する情報のうちペレットサイズ
ク 使用済み紙おむつリサイクル施設の環境調査に係る燃料化装置による臭い等の情報

このうち、アとウは、原告が補助金事業の成果として平成30年3月頃に環境省に報告したもので、公刊されている書籍にも同様の作業手順が記載されているから、被告が原告から開示を受けた平成29年11月15日より後に、被告の責によらずに公知となったものであるため、被告は当該情報につき本件念書に基づく義務を負わない、とされました。

オは、被告が燃料化装置のメーカーから提供された資料にも、同様の様子が写真により記載されているから(乙61〔10頁〕)、開示を受けた時点で既に被告が保有していた情報であるため、被告は当該情報につき本件念書に基づく義務を負わない、とされました。

キは、木質ペレットのサイズはISO規格に定められている範囲であり、紙おむつを利用したペレットとの関係でも、ペレット成形機を製造している事業者において平成23年頃から6mmのサイズで紙おむつペレットを製造するための部品を製造しており、原告に特殊な技術ではなく開示を受けた時点で既に公知であった情報であるとして、被告は当該情報につき本件念書に基づく義務を負わない、とされました。

一方、イ、エ、カ、クについては、非公知の情報であるとして、被告は、当該情報につき本件念書に基づく義務を負う、とされました。


次に、原告による「本件情報の廃棄又は削除についての請求」に対して裁判所は以下のように判断しました。
本件念書は、その有効期間は実験の目的が完了するまでの期間とし(本件念書8条本文)、ただし、その失効後も、情報の使用目的等に関する規定(本件念書3条から5条まで)は有効に存続するものと定めるところ(本件念書8条ただし書き)、廃棄や削除に係る義務(本件念書6条)は、上記期間の終了後にも存続するものとして挙げられていないから、上記期間の終了後には存続しないと解される。
そして、本件念書について、令和元年7月12日に有効期間が終了したことは、原告が(本件情報を使用しないことについての請求に関し)自認するとおりであって、同日に本件念書の有効期間が終了した以上、廃棄や削除に係る義務は消滅したものというべきであるから、本件情報を廃棄又は削除することについての請求は理由がない。
このように、裁判所は、本件情報の廃棄又は削除に対して本件念書では本件念書の有効期間が終了した後にも有効に存続するという定めには含まれないとして、認めませんでした。本件念書の有効期限が過ぎたのであれば、本件情報は廃棄等されて当然のようにも思えてしまいますが、念書にそのような記載がないのであれば、廃棄等の請求は認められないこととなります。

また原告による「本件情報を使用しないことについての請求」に対して裁判所は以下のように判断しました。
本件念書は、被告において、原告から開示される使用済み紙おむつ燃料化事業における紙おむつ混合ペレットの成形実験及び燃焼実験に関する秘密情報を「本事業」の目的のためにのみ使用するものとし、他の目的に使用しないことに同意する旨を定め(3条)、「本事業」については、「使用済み紙おむつ燃料化事業」をいうものであって(本件念書の前文〔甲7〕)、その文言上、原告が被告から受託する業務に限定されていない上、本件念書は、被告が原告から開示を受けた情報等を利用して紙おむつ燃料化事業を行うために締結されたものであること(認定事実(4)ウ)に鑑みると、被告の行う紙おむつ燃料化事業のために原告から開示を受けた情報を利用することは、「他の目的」に該当しないというべきである。
そして、被告において、紙おむつ燃料化事業のほかに上記(1)ケの情報を利用していることを認めるに足りる証拠はないから、原告において、当該情報を使用しないよう求めることはできないというべきである。
本来原告は「原告が受託する使用済み紙おむつ燃料化事業」にのみ本件情報を使用することを目的として、本件念書を交わしたのだと思います。しかしながら、本件念書にはそのように記載されていなかったために、原告が他の事業者と共に「使用済み紙おむつ燃料化事業」のために本件情報を使用(利用)することができるようです。

また、原告は「本件情報を第三者に開示しないこと」(差止め)も求めていましたが、被告が当該情報を現に第三者に開示しているとか、第三者に開示するおそれがあると認めるに足りる証拠もないとして認められませんでした。なお、「現に開示・漏示がされ、又はそのおそれがあるかどうかを問わずに一律に差止めをすることができる旨の明示的な定めもないことからすれば」とも裁判所は述べていることから、このような定めが念書でされていれば、無条件に差止めができる可能性があるようです。

このように、秘密情報の開示先との間で交わす秘密保持契約書(念書)は秘密情報を開示する目的から様々なことを想定して定める必要があります。そうしないと、思わぬところで足をすくわれる可能性があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年11月23日日曜日

報道に用いられる営業秘密の違法性

ニデック株式会社は営業秘密を持ち出した元社員とこの営業秘密を使用してトラブルを東洋経済オンラインで報じた東洋経済新聞社に対して、民事訴訟を起こしていいましたが、本事件の地裁判決が出ました。
・ニデック元社員に賠償命令、営業秘密を記者へ提供で 東京地裁(日本経済新聞)
・ニデック元社員に損害賠償命令 営業秘密を記者へ提供(47NEWS)
・営業秘密を東洋経済記者に提供 ニデック元社員に275万円賠償命令(朝日新聞)

この判決によると、ニデックの元社員は、ニデックの稟議書等の営業秘密を不正に持ち出したとして、約270万円の損害賠償が命じられました。一方で、東洋経済新聞社は「資料は元社員が自発的に提供したもので、取材の過程で違法行為はなかった」(朝日新聞)として、責任を負わないとのことです。

ここで、不正競争防止法で規定されている違法行為を見てみます。
ニデックの元社員による違法行為は、おそらく不正競争防止法第2条第1項第7号ではないかと思います。(又は2条1項4号かもしれません。)
不正競争防止法第2条第1項第7号
営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
この条文では、営業秘密そのものを取得する行為は違法ではないものの、不正の利益を得る目的や会社に損害を加える目的で使用や開示する行為が違法とされています。
東洋経済新聞社が報道目的で元社員から当該営業秘密を入手したようなの、東洋経済新聞社から元社員へ金銭の受け渡し(不正の利益を得る目的)があったとは考えにくいでしょう。そうすると、元社員が東洋経済新聞社にニデックの営業秘密を渡した(開示した)行為は、「ニデックに損害を加える目的」であったと判断されたのかと思います。日本経済新聞では「杉浦正樹裁判長は、元社員が正当な権限がなく資料を持ち出し、記事が掲載されたことでニデックは取引先や投資家の信頼が損なわれたと指摘。」とのように報道されています。


一方で、東洋経済新聞社は営業秘密の二次転得者であり、元社員が不競法第2条第1項第7号違反であれば、東洋経済新聞社は不競法第2条第1項第8号に該当する可能性があります。
不正競争防止法第2条第1項第8号
その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
東洋経済新聞社は、元社員から稟議書を渡されており、通常であれば稟議書は会社の営業秘密であると推察できますから、営業秘密不正開示行為であることを知って稟議書を取得したと考えられえます。そして、それを東洋経済オンラインで報じることで使用しています。
このような行為は、不競法第2条第1項第8号に違反しているように思えます。

一方で、不正競争防止法は、「不正競争」の防止を通じて「事業者間の公正な競争を確保する」ことを法目的としています。そうすると、そもそも報道目的での営業秘密の使用等は不正競争ではないため、不正競争防止法違反となるような行為でもないと考えられます。
不正競争防止法第1条
この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
このように、同じ営業秘密であっても不正使用や不正開示の目的が異なることにより、違法性が異なったのかと思います。
しかしながら個人的にはこのような裁判所の判断に釈然としないものがあります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年10月19日日曜日

自社製品の市場、自社の立ち位置、技術内容等に応じた特許化又は秘匿化の選択

自社技術を特許出願する目的として、主に二つがあると考えます。
一つは、市場を独占する目的、もう一つは他社製品との差別化を行う目的です。

市場を独占するのであれば、自社のみで需要を賄う必要があります。独占を意識できる市場は新規な市場の場合が多く、新規な市場に適合する技術は特許権しかも、誰もが実施する可能性のある基本特許を取得できる可能性があります。

ここで、当該市場へ参入する企業が自社だけであり、自社の規模が当該市場に比べて十分に大きい、又は自社の規模は大きくないけれど当該市場が小さく需要を賄えるのであれば、自社だけで市場を独占することも可能でしょう。
一方で、当該市場に魅力を感じる他社が存在する場合には特許権により排除することも考えられますが、当該特許権の技術範囲に含まれない異なる技術で当該市場に参入する可能性もあります。
これはある意味で好ましいことでもあり、他社が市場に参入する余地があれば、供給よりも需要が大きいので市場そのものがより大きくなる可能性があります。そうすると、自社のシェアは小さくなるものの、市場が大きくなることで自社の売り上げは大きくなる可能性があります。

しかしながら、自社の特許権の技術範囲に含まれない技術を他社が実施することで市場が大きくなると、自社の特許権はあまり意味をなさない可能性があります。仮に、他社の技術が自社の技術よりも優れていた場合には、自社が当該市場からの撤退という事態になるかもしれません。


では、特許の視点からはどのような対応が考えられるでしょうか。
自社が当該市場に適合した基本特許を有しているのであれば、この基本特許を他社にライセンスして実施してもらうことが考えられます。ライセンスは有償よりも無償の方が参入企業が多くなるので好ましいでしょう。これにより、他社の技術が台頭する可能性が低くなり、かつ自社開発の技術が当該市場で主流となり得るので、自社は技術的優位に立てる可能性が高いでしょう。

無償ライセンスであるならば、特許を取得する必要が無いと考えるかもしません。しかしながら、仮に無償ライセンスを受けた他社が自社に対して他社特許権の行使を行った場合には、この無償ライセンスした特許権に基づいて権利行使を行うことができます(予めそのような契約にします。)。いわば、この無償ライセンスは半強制的なクロスライセンスでもあります。
また、市場が幾つかの分野に細分化でき、自社だけでは全ての分野への参照が難しい場合もあるでしょう。そのような場合には、分野毎、換言すると当該技術の用途毎に特許権を取得します。当該技術に新規性・進歩性があれば用途毎の特許を取得することは難しくありません。そして、自社が実施しない分野(用途)に対しては、他社に対して有償ライセンスを行います。

このようにして、新規な市場において自社技術を広め、他社参入を促すことでより市場を大きくすることも考えられます。また、市場に広まる技術は、自社技術であるため、自社が技術的に優位となる可能性が高く、常に他社製品よりも優れた製品を出すことも可能となりやすいでしょう。

しかしながら、このようになると市場の独占ではないので、自社製品は他社製品との差別化を行う必要があります。

自社が開発した差別化技術が自社製品の外観やUIから容易に判別できる場合には、特許を取得した方がよいでしょう。差別化技術の権利化には、特許だけでなく、実用新案や意匠も有効な場合があります。また、自社製品のリバースエンジニアリングによって容易に知得できる差別化技術も権利化が好ましいかと思います。

一方で、差別化技術が自社製品から知得される可能性が低いのであれば、ノウハウ(営業秘密)とすることも考慮する必要があるでしょう。秘匿化できる差別化技術を特許出願すると、当該差別化技術を他社が認識し、特許権の技術範囲に含まれない類似技術を実施する可能性があるためです。そうなった場合、自社の差別化技術によって他社製品との差別化ができなくなる可能性があります。

なお、秘匿化できる技術は製品の製造方法等の工場内でしか実施しないような技術です。このような技術は、自社で特許権を取得しても他社の侵害を容易に発見できず、自社の技術漏えいとなるだけの可能性も高いでしょう。また、自社製品で使用されている複雑な処理内容等も他社の侵害発見が容易ではない場合があるので、特許権を有効に利用できないかもしれません。

一方で、差別化技術を秘匿化した場合、他社が同じ技術を実施していてもそれが他社が独自に開発した技術であれば、何ら権利行使はできません。また、他社が当該差別化技術を独自開発して権利化してしまったら、実質的に他社特許の権利侵害になります。この場合、自社は先使用権を有しているでしょうし、やはり他社も自社による権利侵害を認識できないでしょうが、万が一のことを考えると気持ちのいいものではありません。

このように、自社開発技術の特許出願又は秘匿化は、自社製品の市場、自社の立ち位置、技術内容等に基づいて選択する必要があります。そして、この選択の目的は、自社利益の最大化にあります。
この視点が欠落すると、単に意味もなく特許出願又は秘匿化するだけであり、その結果、自社に損害を与える可能性すらあると考えます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年9月12日金曜日

IPAの「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」について

IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)から「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」報告書が発表されました。前回の実態調査は2020年でしたので、4年ぶりの報告書です。

特に私が注目している調査結果は、営業秘密の漏えいルートです。これにより、どのようなルートで営業秘密が漏えいしているのかを端的に理解できます。


営業秘密の漏えいには、主に以下の3パターンがあると思います。
パターン1:不注意等による営業秘密の漏えい
パターン2:権限のない者による漏えい
パターン3:権限のある者による図利加害目的による漏えい

パターン1は、営業秘密の漏えいに違いありませんが、不正競争防止法やその他の法律で違法とされていることではありません。
パターン2は、不競法の2条1項4号違反等にもなりますが、不正アクセス等に該当するものであり、不競法よりも他の法律に違反する行為と捉えられ易いです。
パターン3は、例えば転職時や独立時に前職企業に営業秘密を持ち出すといった行為であり、不競法2条1項7号等に違反すると考えられます。まさに、いわゆる営業秘密侵害(営業秘密領得)がこのパターン3に該当すると考えます。

パターン3にあたるものは、上図において「現職従業員等(派遣社員含む)による金銭目的等の具体的な動機をもった漏えい」、「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」、「契約満了後又は中途退職した契約社員・派遣社員等による漏えい」、「定年退職者による漏えい」でしょう。
なお、前回調査から数倍以上で増加している漏えいルートもありますが、実際にこれほど増加しているのかは少々疑問です。近年、より営業秘密の漏えいについて企業の意識も高くなっているので、前回調査では漏えいしているにもかかわらず企業が検知できなかったものの、今回調査では漏えいを検知できているような場合もあるでしょう。このような理由により、今回調査では、営業秘密の漏えいが一見多くなっているように見えるのかもしれません。

一方で「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」は前回調査よりも約半分程度になっています。前回調査から減少している漏えいルートは、実質的にこれだけであることも少々興味深いです。もしかすると、前回調査からの4年間に、転職時等における営業秘密の不正な持ち出しは違法であることを各企業が社員教育したことにより、「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」が減ったのかもしれません。

また、下記図は営業秘密の侵害行為への対応を示した図です。


この図から明確なことは、「具体的な対応は何もしなかった」が約1/4に減少していることです。その一方で当然ながら、各種対応が増加しています。特に、「警告文書を送付した」、「民事訴訟を提起した(仮処分命令の申立てを含む)」、「懲戒解雇とした」、「刑事告訴した」が大幅に増加しているようです。これは前回調査にくらべて、企業が営業秘密侵害に対してより厳しい対応を行っていることを示していると思います。

なお、「民事訴訟を提起した(仮処分命令の申立てを含む)」が約4倍に増加しています。しかしながら、判決が出された民事訴訟の数は、この4年間で増加しているとも感じられず、到底4倍にもなっているとは思えません。このため、民事訴訟が提起されても実際に判決がだされる割合は少なく、そのほとんどが和解や取り下げとなっているのではないかと思われます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年8月14日木曜日

東京エレクトロンによるTSMCの機密情報取得について

先日、東京エレクトロンの台湾事務所の元従業員が台湾のTSMCの2nmの半導体技術に関する技術情報を不正に持ち出し、台湾において刑事事件となったとのニュースがありました。

・<台湾>2ナノ半導体秘密持ち出しか、TSMC元社員ら拘束 日本企業も捜索(朝日新聞)
・<台湾>TSMC機密取得で元従業員拘束、台湾当局が東エレク捜索 現地報道(日本経済新聞)
・<台湾>台湾当局、TSMC元従業員ら3人拘束 機密情報を不正に取得疑い(毎日新聞)
・<台湾>TSMCの機密情報不正取得で元従業員ら3人拘束 国家安全法違反容疑で台湾当局(産経新聞)
・<台湾>TSMCの半導体技術を不正取得か、台湾検察が元従業員ら3人の身柄拘束…日本企業に転職(読売新聞)
・<台湾>TSMC関係者3人拘束 機密取得で国安法違反疑い―台湾(JIJI.COM)

この事件は、台湾国内では通常の営業秘密不正取得とは異なると考えている可能性があるように思えます。
台湾の法律では営業秘密法というものがあり、これは日本でいうところの不正競争防止法の営業秘密規定と同様のようです。

しかしながら、今回の事件はこの営業秘密保護法の適用ではなく、国家安全法の適用であるということです。この国家安全法は、国家機密の漏えいや経済スパイ行為等に対応するための法律のようであり、いわゆるスパイ防止法のようなものでしょうか。この法律が適用されたということは、今回の事件は台湾の経済を揺るがすような事件として認識されたということなのでしょう。


また、今回の事件の特徴的なことの一つとして、TSMCから持ち出された技術情報が東京エレクトロンを介して日本企業であるラピダスに流出したのではないかという疑義がもたれているということです。
この疑義を解消するためでしょうか、東京エレクトロンからリリースされた「当社に関する報道について」には、「当社による調査では、現時点において関連する機密情報の外部への流出は確認されておりません。」との一文があります。通常であれば、「自社内での機密情報の開示や使用は確認されておりません。」とのようなことが記載されると思われますが、そのような文章はなく「外部流出はない」とのように他の事件では見られない一文です。

技術情報は実態のない情報であるため、容易に拡散させることができます。実際にある企業の営業秘密が点々と他社に拡散することもあります。また、取引先から開示され、自社で管理している情報が漏えいするという事例も生じています。

本事件において東京エレクトロンにとってよくないことは、仮にTSMCの技術情報を不正使用していないとしても、2nmの半導体技術を東京エレクトロンが開発した場合に実はTSMCの技術情報を用いていたのではないかという疑義を持たれるということです。
さらに、仮に東京エレクトロンがTSMCの技術情報を不正使用していた場合には、当然、当該技術情報の使用をやめなければなりません。もし、TSMCの技術情報を用いて新たな技術を開発していた場合には、この新たな技術開発もやめないといけません。そもそも、営業秘密には特許権のように存続期間の概念もありません。このため、TSMCの技術情報が公知となるまで、当該技術情報を使用することはできないでしょう。その結果、東京エレクトロンは2nmの半導体技術の開発に足枷を有することにもなりかねません。

このように、他社の技術情報が自社に不正流入した場合には、それが将来にわたって負の影響を生じさせる可能性もあります。このようなことを考えると、自社から営業秘密が不正に流出することを防ぐだけでなく、他社の営業秘密が自社に不正流入することも防止することも重要となります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年7月31日木曜日

日本の特許出願件数の推移とソフトバンクのAI特許出願

下記グラフは日本の特許出願件数の推移等を示したものであり、先日発表された2024年の出願件数を加味しています。

このグラフから分かるようにコロナ禍を過ぎ、2023年、2024年共に前年よりも出願件数が増えています。その数は2023年では2022年に比べて+10,603件、2024年は2023年に比べて+6,722件です。2年連続でこれほど増加した例は近年にはなく、コロナ禍で減った特許出願が順調に回復しているようにも思えます。

しかしながら、これは一過性のものかもしれません。その理由は、ソフトバンクによる膨大なAI関連の特許出願にあります。2023年以降にソフトバンクは膨大なAI関連の特許出願を行っていることが明らかになり、その数は1万件ともいわれています。
2022年を基準とすると2024年までの増加件数は17,325件です。そうすると、この増加件数の60%近くがソフトバンクの出願とも考えられます。なお、公開公報が発行されていない出願も多いでしょうから、もしかすると、ソフトバンクの出願はもっと多いのかもしれません。

ソフトバンクの出願件数は一社で、しかもAIの分野だけと考えると異常なほどの多さであり、実施形態が同一の出願も多数あるようです。このことから、実質的な発明としては出願件数よりもかなり少ないのかもしれません。
とはいえ、ソフトバンクによるこのような膨大な特許出願は、AI分野の技術を特許権で独占することを目的とした知財戦略(事業戦略)であると考えられ、これは全社を挙げなければできなことであり、これを成しえていることは素晴らしいと思います。

さらにソフトバンクは、自社でのAI利用を義務化するとのことであり、これにより、AIに関するノウハウを蓄積でき、さらに特許出願も行うことができるでしょう。
これは事業戦略と知財戦略とを組み合わせた事業活動です。
これにより、ソフトバンクが今後日本だけでなく世界のAI分野の多くを、独占又はラインセンス等により主導権を握ることができるか注視したいところです。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年7月14日月曜日

AIであるCopilotに、知財戦略カスケードダウンを参考にしてQRコードとCPコードの知財戦略を聞いてみた。

 知財戦略カスケードダウンを参考に、2次元コードであるQRコードとCPコードの知財戦略の違いと、QRコードが成功した要因とCPコードが失敗した要因を知財戦略の視点から解説してもらいました。ちなみに、CPコードはQRコードよりも先発の二次元コードです。

参考:知財戦略カスケードダウンによるオープン・クローズ戦略の実例検討

下記のAIの解説で新たに思ったことは、QRコードは特許を活用してQRコードの普及と収益化を両立するためのエコシステムを構築できたけど、CPコードはそのエコシステムを構築できなかったことにあるということ。


📊 QRコードとCPコードの知財戦略の違いと成否の要因分析(知財戦略カスケードダウン視点)

「知財戦略カスケードダウン」は、事業目的に基づいて知財目的・戦略・戦術を階層的に整理する手法です。これを用いて、QRコードとCPコードの知財戦略を比較し、それぞれの成功・失敗要因を分析します。

🧩 知財戦略の構造比較

項目QRコードCPコード
事業目的世界的な普及と市場形成偽造防止・高セキュリティ提供
知財目的安心して使える環境の整備技術独占による競争優位性
知財戦略特許取得+無償開放(オープン)特許取得+秘匿化(クローズ)
知財戦術模倣品排除、読取装置で収益化ライセンス契約、技術非公開

QRコードが成功した要因(知財戦略の視点)

  1. オープン戦略による普及促進

    • 特許を取得しつつ、基本仕様を無償開放

    • 他社が安心して利用できる環境を整備(クリアランス不要)

  2. 標準化による信頼性確保

    • ISO/JIS規格化により業界標準として定着

  3. 収益源の分離と戦略的クローズ

    • 読取装置の差別化技術は秘匿化し、収益化

    • 一部技術はライセンス提供で市場拡大と収益両立

  4. 模倣品排除によるブランド維持

    • 特許権を行使して不正利用を排除

  5. 他社の利益も考慮した市場設計

    • 他社もQRコード関連製品で収益を得られる環境を構築

CPコードが失敗した要因(知財戦略の視点)

  1. クローズ戦略による普及障壁

    • 技術詳細を秘匿化し、導入企業に限定

    • 標準化されておらず、汎用性が低い

  2. 導入企業の理解・信頼が必要

    • B2Bモデルのため、普及には時間と教育が必要

    • 市場形成において他社の参入障壁が高すぎた

  3. 互換性の欠如による孤立化

    • 他社製品との連携が難しく、エコシステムが構築されなかった

  4. 知財戦略が事業目的と乖離

    • 技術独占を優先しすぎて市場形成を犠牲にした可能性

🧠 まとめ:成功と失敗の分岐点は「知財の使い方」

QRコードは「普及=価値」と捉え、知財を“守る”だけでなく“広げる”ために活用しました。一方、CPコードは「独占=価値」と捉え、知財を“囲い込む”ことで差別化を図りましたが、市場形成に必要な他社の参入を阻んでしまいました。

つまり、知財戦略は事業目的に忠実であるべき。技術の優劣ではなく、知財の使い方が成功を分けたのです。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2025年6月29日日曜日

XのAIであるGrockに知財戦略カスケードダウンについて聞いてみた。

筆者が提案している「知財戦略カスケードダウン」についてXのAIであるGrockに聞いてみました。

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「知財戦略カスケードダウン」とは、企業の事業利益の最大化を目指し、技術(発明)の独占と普及をコントロールするための戦略的アプローチです。この戦略は、特許出願による権利化だけでなく、営業秘密の活用や知財戦術を組み合わせ、競合他社の製品群や特許群を意識しながら、企業のビジネスを成功に導くことを目的としています。以下に、その概要とポイントを解説します。

1. 知財戦略カスケードダウンの概要
知財戦略カスケードダウンは、企業が知的財産(知財)を活用して競争優位性を確立するための体系的なプロセスです。このアプローチでは、以下のようなステップで知財戦略を展開します:
  • 事業目標の設定:企業の事業戦略や利益目標に基づき、知財活動の方向性を定める。
  • 技術の選別と保護方法の選択:技術を特許化するか、営業秘密として秘匿化するかを判断。競合他社の動向や市場環境を考慮し、適切な保護手段を選ぶ。
  • カスケードダウン(段階的展開):知財戦略を段階的に落とし込み、特許出願、営業秘密管理、ライセンス戦略などを組み合わせて実行。
  • 競合分析と戦術的対応:他社の特許や製品群を分析し、市場でのポジショニングや差別化を図る。
この戦略の特徴は、単なる特許取得に留まらず、営業秘密の活用や他社との競争環境を意識した柔軟な知財管理を行う点にあります。知財戦略カスケードダウンでは、知財を「市場の維持」や「他社参入の抑制」といったビジネス視点で捉え、戦略的に運用することを重視しています。
2. 特許と営業秘密のバランス
知財戦略カスケードダウンでは、知財戦略において特許出願と営業秘密の使い分けを強調しています:
  • 特許出願:技術を公開し、独占権を確保する。ただし、公開されるため他社による模倣リスクを完全に防げない場合がある。
  • 営業秘密:技術を非公開に保ち、競合他社に知られずに保護する。特に、リバースエンジニアリングされにくい技術や、特許化が難しいノウハウに適している。
このバランスを取ることで、企業は技術の独占と普及を最適化し、競争力を強化できます。
3. 実践例と応用
知財戦略カスケードダウンの実例として、以下のようなケースが挙げられます:
  • 他社製品・特許群の分析:競合の特許ポートフォリオや製品戦略を分析し、自社の知財戦略を調整。たとえば、競合の特許を回避しつつ、自社の技術を差別化する。
  • 三方一選択:特許、営業秘密、公開(ノウハウの無償公開)の3つの選択肢から最適なものを選ぶ戦略。たとえば、市場でのリーダーシップを確立するために一部の技術を公開し、業界標準化を狙うこともある。
4. 実務での活用
知財戦略カスケードダウンを以下のような場面で実践することが推奨されます:
  • 企業内部での知財管理:技術情報の秘匿化や特許化の判断基準を明確化し、社内プロセスに組み込む。
  • 競合との交渉:ライセンス契約や技術提携において、知財戦略を活用して有利なポジションを築く。
5. 意義とメリット
知財戦略カスケードダウンの主なメリットは以下の通りです:
  • 柔軟性:特許と営業秘密を状況に応じて使い分け、市場環境に適応。
  • 競争優位性の強化:他社の動向を踏まえた戦略により、市場での差別化を図る。
  • 事業利益の最大化:知財を単なる権利保護のツールではなく、事業戦略の「ビークル(運搬手段)」として活用し、収益向上につなげる。

結論
知財戦略カスケードダウンは、特許と営業秘密を戦略的に組み合わせ、競合環境を意識しながら事業利益を最大化するアプローチです。この戦略を通じて、企業が知財を単なる法務ツールではなく、市場競争の武器として活用することが提唱されています。実務では、競合分析や技術の選別を丁寧に行い、事業戦略との整合性を保つことが成功の鍵となります。


さらに、知財戦略カスケードダウンの問題点を聞いてみました。
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知財戦略カスケードダウンは、特許と営業秘密を組み合わせ、競合環境を意識した知財戦略を展開するものですが、実務での適用にはいくつかのハードルやリスクが存在します。
1. 実務運用の複雑さとリソース負担
  • 問題点: 知財戦略カスケードダウンは、競合他社の特許・製品群の分析、技術の選別(特許化か営業秘密か)、市場環境に応じた戦略の段階的展開など、高度な分析と判断を要求します。これには知財専門家だけでなく、事業部門や技術部門との密な連携が必要です。
    • 特に中小企業では、知財専任の人材や予算が不足している場合が多く、戦略の実行に必要なリソースを確保することが難しい。
  • 影響: 戦略の立案や実行が不十分だと、競合に対する優位性を確保できず、知財戦略の効果が半減するリスクがある。
  • : 競合の特許ポートフォリオ分析には特許調査ツールや専門家のスキルが必要だが、これらを導入できない企業では戦略の精度が低下する。
2. 営業秘密管理の難しさ
  • 問題点: 知財戦略カスケードダウンでは、営業秘密の活用が重要な要素だが、営業秘密の保護には「秘密管理性」の立証が求められます(日本の不正競争防止法では、情報が秘密として管理されていることが保護の条件)。
    • 適切な秘密管理措置(アクセス制限、内部規定、社員教育など)を怠ると、営業秘密として保護されないリスクがある。
    • また、従業員の退職や情報漏洩により、営業秘密が失われる可能性がある。
  • 影響: 営業秘密に依存しすぎた場合、漏洩リスクや管理コストが増大し、特許化を選択した場合と比べて保護の安定性が低下する。
3. 競合環境の変化への対応の難しさ
  • 問題点: 知財戦略カスケードダウンは、競合他社の特許や製品群を分析し、市場でのポジショニングを意識する戦略だが、市場や技術の変化が速い業界(例: IT、AI、バイオテクノロジー)では、戦略の前提が短期間で陳腐化する可能性がある。
    • 競合の新技術や特許出願の動向を継続的にモニタリングする必要があり、これには時間とコストがかかる。
  • 影響: モニタリングが不十分だと、他社の特許に抵触するリスクや、市場での差別化が失敗する可能性が高まる。
  • : 競合が予期せぬ特許を取得した場合、自社の技術が制限を受ける(例: 特許侵害訴訟)可能性がある。
4. 特許と営業秘密の選択ミスのリスク
  • 問題点: 技術を特許化するか営業秘密にするかの判断が難しい。特に、リバースエンジニアリングされやすい技術を営業秘密として保護しようとすると、競合に模倣されるリスクが高まる。一方、特許化した場合、技術情報が公開され、他社による回避策の開発を誘発する可能性がある。
  • 影響: 誤った選択は、技術の独占や市場競争力の低下を招く。たとえば、特許化すべき技術を営業秘密にした場合、競合に模倣され、市場シェアを失う可能性がある。
  • : ある企業がコア技術を営業秘密として保護したが、製品の市場投入後にリバースエンジニアリングされ、競合他社に類似技術を開発されたケース。
5. 組織内での戦略浸透の難しさ
  • 問題点: 知財戦略カスケードダウンは、知財部門だけでなく、経営層、技術部門、営業部門など企業全体の協力が必要。しかし、知財の重要性に対する理解が不足している場合、戦略の実行が形骸化する。
    • 特に、技術者や経営層が知財戦略の価値を理解していない場合、適切な技術情報の提供や戦略へのコミットメントが得られない。
  • 影響: 部門間の連携不足により、知財戦略が事業戦略と乖離し、期待したビジネス成果を上げられない。
  • : 技術部門が特許出願に必要な情報を十分に提供しない場合、特許の質が低下し、競合に対する抑止力が弱まる。
6. 法的リスクとコスト
  • 問題点: 特許出願や営業秘密の管理には、特許庁への出願費用、維持費用、訴訟リスク、秘密管理のためのシステム投資など、コストがかかる。特に、国際展開を視野に入れる場合、複数国での特許出願や法務対応が必要となり、コストが膨大になる。
    • また、特許侵害訴訟や営業秘密の不正使用訴訟が発生した場合、訴訟費用や時間的負担が大きくなる。
  • 影響: コストとリターンのバランスが取れない場合、知財戦略の費用対効果が低下する。
  • : 特許を取得したが、市場での活用が不十分で維持費用だけがかさむケースや、営業秘密の漏洩訴訟で秘密管理性の立証に失敗するケース。
7. 業界や企業規模による適用限界
  • 問題点: 知財戦略カスケードダウンは、大企業や知財リソースが豊富な企業に適しているが、中小企業やスタートアップでは、戦略の実行に必要な知見や資金が不足しがち。
    • また、業界によって知財の重要性が異なる(例: 製薬業界では特許が重要、ソフトウェア業界では営業秘密やオープンソースが重視される場合がある)ため、すべての業界に一律に適用するのは難しい。
  • 影響: 業界特性や企業規模を無視した戦略適用は、効果が限定的になるか、逆にリソースを浪費する。
  • : 中小企業が競合分析に十分なリソースを割けず、戦略が表面的になる場合。
8. 公開戦略のリスク
  • 問題点: 「公開(技術の無償公開)」は、業界標準化や競合の参入障壁低下を狙う戦略だが、公開した技術が競合に利用され、自社の競争力が低下するリスクがある。
    • 公開のタイミングや範囲を誤ると、自社の技術優位性が失われる。
  • 影響: 市場でのリーダーシップを確立できず、逆に競合に市場を奪われる可能性がある。
  • : 技術を公開して標準化を狙ったが、競合が改良技術を特許化し、市場を支配したケース。
結論
知財戦略カスケードダウンは、特許と営業秘密を戦略的に活用し、事業利益を最大化する優れたフレームワークですが、以下のような問題点が実務での課題となります:
  1. 複雑な実務運用とリソース負担
  2. 営業秘密管理の難しさと漏洩リスク
  3. 競合環境の変化への対応の難しさ
  4. 特許と営業秘密の選択ミスのリスク
  5. 組織内での戦略浸透の難しさ
  6. 法的リスクとコスト負担
  7. 業界や企業規模による適用限界
  8. 公開戦略のリスク
これらの問題を克服するには、企業規模や業界特性に応じたカスタマイズ、知財専門家との連携、継続的な市場・競合分析、社内教育の強化が不可欠です。

弁理士による営業秘密関連情報の発信