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2018年4月11日水曜日

ー判例紹介ー 技術情報を営業秘密とした場合におけるリバースエンジニアリングによる非公知性喪失の判断

技術情報を営業秘密とする場合に留意する必要がある事項として、自社製品がリバースエンジニアリングされることで、当該営業秘密の非公知性が失われる場合があることです。

営業秘密における非公知性の判断時は、損害賠償請求については不正行為が行われた時点であり、差止請求については口頭弁論終結時です。このため、技術情報を営業秘密として管理しても、その後、当該技術情報を使用した自社製品が販売等され、当該自社製品がリバースエンジニアリングされることで非公知性が失われる可能性が生じます。このようなことは、出願時を新規性の判断時期とする特許とは大きな違いです。

下記表は、私が調べたリバースエンジニアリングによって非公知性が失われたか否かの判断がなされた判例の一覧です。下記判例の中には”リバースエンジニアリング”という文言が判決文の中には表れていないものの、実質的にリバースエンジニアリングによる非公知性喪失の有無の判断を行ったと考えられる判例が含まれています。


上記表から分かるように、近年においてリバースエンジニアリングによる非公知性喪失の有無が判断された判決が増えています。

なお、リバースエンジニアリングによる非公知性喪失の有無については、被告がリバースエンジニアリングによって原告が主張する営業秘密の非公知性が失われているとの主張が行われたときにのみ裁判所が判断します。従って、近年において被告によるこのような主張が増加していることになります。

ここで、リバースエンジニアリングによって当該技術情報を取得可能であれば、全て非公知性を失うかというとそういうわけではありません。セラミックコンデンサー事件では「専門家により、多額の費用をかけ、長期間にわたって分析することが必要」なものはリバースエンジニアリングが可能であったとしても非公知性は失われないとしています。

一方、光通風雨戸事件は、一審ではリバースエンジニアリングによっても非公知性は失われていないとされたものの、二審では覆り、非公知性が失われたと判断されました。具体的には、二審において裁判所は「本件情報1に係る図面(甲15〔1〕~〔8〕の8枚)は,光通風雨戸のスラットA及びB,上下レール枠,下レール枠,縦枠並びにカマチAないしCの各部材の形状について0.1ミリ単位でその寸法を特定するなどしたものであり,なるほどそれ自体精密なものではあるが,これは,ノギスなどの一般的な技術的手段を用いれば光通風雨戸の製品自体から再製することが容易なものである。」や「一般的な技術的手段を用いれば光通風雨戸の製品自体から再製することが容易なもの」とし、非公知性を失っていると判断しています。

上記二つの判例は、リバースエンジニアリングによる非公知性喪失の有無において代表的なものです。

そして、これらの判断基準からすると、リバースエンジニアリングによって非公知性が失われていると判断され易いものは、表からも分かるように機械構造のような測定が可能なもののようです。

このように、技術情報について営業秘密とする場合には、当該技術情報が使用された自社製品のリバースエンジニアリングによって非公知性が失われるか否かについて留意する必要があるかと思います。

http://www.営業秘密ラボ.com/
弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年3月26日月曜日

技術情報を取引先へ開示する場合の注意事項

技術系の企業において、自社独自の技術情報を取引先へ開示する場合は多々あるかと思います。この取引先とは、顧客企業であったり、下請け企業であったり、協力企業であったり様々でしょう。
そして、自社独自の技術情報を取引先へ開示することによって、当該技術情報が取引先から他社へ流出したり、取引先で許可なく使用されたりするリスクがあります。自社独自の技術情報を取引先へ開示する企業は、このようなリスクを回避するために、予め特許出願等を行うことで当該自社技術を守ったりします。

しかしながら、特許出願しても権利化が困難な技術やそもそも公開したくない技術は、特許出願を行うことなく、取引先へ開示されたりします。その際には、取引先との間で秘密保持契約を締結する場合が多いでしょう。

しかしながら、秘密保持契約を締結して安心できるわけでは全くありません。たとえ、秘密保持契約を締結したとしても、当該技術情報が取引先から漏えいすることは多々あります。
前回のブログで紹介した営業秘密使用差止等請求事件(東京地裁平成29年7月12日判決、知財高裁平成30年1月15日)もそのような事例の一つです。

参考過去ブログ:
他社が秘密としている技術情報を入手した場合について(不競法2条1項8号)
不競法2条1項8号に関する興味深い判例



個人的には、上記判決は非常に重要だと思っています。
まず、この判決で驚いたことは、「本件各文書のConfidentialの記載のみをもって,被控訴人において,本件各文書の取得に当たって,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務があったとまではいえない」という裁判所の判断です。この判断は、表現は異なるものの、地裁の判断を支持したものです。
すなわち、通常の営業活動で「マル秘」マーク等の秘密管理意思を伺わせるような記載がある他社の情報を取得したとしても、それだけをもってして取得企業は「重大な過失」を犯したことにはならないようです。

このことは、営業秘密保有企業にとっては当惑することかと思います。
何せ、上記判決に係る事件では、営業秘密とする各文書の開示先である取引会社と秘密保持契約を交わした上に、各文書に「Confidential」との記載をしているわけです。このため、原告企業は、当該文書を取得した他社(被告企業)が当該文書を不正開示行為されたものである考えることは当然であるとも思えます。
しかしながら、裁判所は「Confidential」との記載のみでは、当該文書を取得した他社は、その取得に「重大な過失」は無いとの判断です。

では、営業秘密保有企業は、どうすればよいのでしょうか?
営業秘密の開示先企業と秘密保持契約を交わしたところで、当該契約が守られる確証はありません。もし、当該営業秘密が開示先企業から漏えいしたとしても、現実的には、契約不履行を追及することは難しいかもしれません。特に、開示先企業が営業秘密保有企業の顧客である場合はなおさらです。

ここで、裁判所は「本件各文書のConfidentialの記載のみをもって」と述べています。では、「のみ」ではなかったらどうでしょうか?
例えば、「Confidential」と共に、「本文書は●●年●●月に秘密保持契約を締結したうえで、A社からB社へ開示された文書です。」とのような注意記載がされていたらどうでしょうか?
流石に、このような他社の文書を取得した企業は、上記判決でいうような「不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務がある」と言えるのではないでしょうか?
裏を返すと、ここまでの記載をしないと、営業秘密を取得した他社に対して「重大な過失」を問えないかもしれません。

しかしながら、このような注意記載をしたとしても、当該営業秘密を漏えいさせる者が当該記載を削除して、他社へ漏えいする可能性も考えられます。例えば、当該注意記載を余白部分に行った場合は、デジタルデータを加工することによって簡単に当該注意記載を消すことが可能かと思います。注意記載がない営業秘密を取得した他社は、やはり「重大な過失」はないとなるでしょう。

そのようなことを防ぐために、文書の内容に重なるように「透かし」によって上記注意記載を行い、当該記載を悪意を持って消去できないようにするべきではないでしょうか。
当該注意記載と文書の内容とが重なっていると、当該注意記載を消そうとする場合には、文書の内容の一部も消してしまう可能性が高いかと思います。また、文書の内容の一部を消さないように、当該注意記載を消すことはそれなりの手間がかかるでしょう。
本判決が出た以上、このような対応を行わないと営業秘密を取得した他社に対して、「重大な過失」を問えない可能性が高いかと思われます。

また、上記のような注意記載がなされた他社の文書等を取得した企業は、「不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務がある」ということになります。
もし、この「注意義務」を果たさない場合、当該企業は不正競争防止法2条1項8号違反で責任を問われる可能性が生じます。
従って、もし、上記注意記載のような表記のある他社の文書等を第三者から開示された場合、当該文書の取得をその場で断って取得しない等の対応が必要になるかと思います。

一方で、秘密管理意思を示すような記載すらない他社の情報については、それが重要な情報であっても、その取得は不正競争防止法2条1項8号でいうところの重大な過失があったと判断される可能性は低いかと思います。

このように、不正競争防止法2条1項8号における「重大な過失」について、今回の判決で指針のようなものは得られたかと思いますが、営業秘密の保有者の立場、他社の営業秘密の取得者の立場から考えさせられることが多々あるかと思います。

2018年3月15日木曜日

技術情報を営業秘密とした場合の有用性判断 まとめ

過去数回にわたって、技術情報を営業秘密とした場合における裁判所の有用性判断についての判例を紹介しました。
今回は現時点でのまとめを。

過去のブログ記事
・技術情報を営業秘密とした場合に「優れた作用効果」が無い等により有用性を否定した判例その1
・技術情報を営業秘密とした場合に「優れた作用効果」が無い等により有用性を否定した判例その2
・技術情報を営業秘密とした場合に「優れた作用効果」が無い等により有用性を否定した判例その3
・技術情報を営業秘密とした場合に「優れた作用効果」が無い等により有用性を否定した判例その4
・技術情報を営業秘密とした場合に有用性が有るとされた判例


まず、有用性の判断について、田村義之 著, 不正競争法概説〔第2版〕(2003 有斐閣)には「秘密管理体制を突破しようとする者はその秘密に価値があると信じているがためにそのような行為に及ぶのである。いずれにせよ秘密管理網を突破する行為が奨励されてしかるべきではないのであるから、このような行為が行われているのに、それほど有用な情報ではないという理由で、法的保護を否定する必要はないであろう。」と記載されており、私はこの田村先生の考えが最も納得できます。

しかしながら、この書籍は2003年に発行のものであり、営業秘密に関する書籍としては少々古く、その後、裁判によって有用性の判断が幾つもなされています。
そして、上記ブログ記事で紹介したように、技術情報を営業秘密とした場合には「優れた作用効果」が無い等のように、あたかも特許の進歩性と同様の判断がなされていると思われる判決もあります。

すなわち、裁判における有用性の判断としては、「それほど有用な情報ではないという理由で、法的保護を否定する必要はないであろう。」ということはなく、特に技術情報に関しては作用効果を奏するものでなければ、有用性が認められない可能性があります。


ここで、技術情報を営業秘密とした場合に有用性が否定されるパターンは、複数あると思われます。

〇パターン1
発熱セメント体事件(大阪地裁平成20年11月4日判決)における「本件情報1は,炭素を均一に混合するという点を除いて,乙23公報により平成15年10月当時において既に公知であったものであり,炭素を均一に混合するという点についても,有用な技術情報とはいい難いことからすれば,不正競争防止法2条6項にいう「事業活動に有用な技術上の情報であって,公然と知られていないもの」ということはできず,同項にいう「営業秘密」に該当するとは認められない」との判断や、接触角計算プログラム事件(知財高裁平成28年4月27日判決)「原告アルゴリズムの内容の多くは,一般に知られた方法やそれに基づき容易に想起し得るもの,あるいは,格別の技術的な意義を有するとはいえない情報から構成されているといわざるを得ない」との判断のように、特許公報等の公知の技術情報と比較してその有用性を否定するパターンです。
まさに、特許における進歩性の判断と同様の判断基準との考えられます。
なお、このパターンは、営業秘密の非公知性の判断とされる場合もあるようです。

〇パターン2
営業秘密と主張する技術情報の特定が不十分である場合には有用性が認められにくいとも思われます。当たり前かもしれませんが・・・。
例えば、小型USBフラッシュメモリ事件(知財高裁平成23年11月28日判決)では「控訴人が提供したとするLEDの搭載の可否,搭載位置,光線の方向及びLEDの実装に関する情報は,被控訴人から提案された選択肢及び条件を満たすために適宜控訴人において部品や搭載位置を選択したものであって,その内容は,当業者が通常の創意工夫の範囲内で検討する設計的事項にすぎないものと認められる」(下線は筆者による。)と裁判所は判断すると共に、「「そうした寸法・形状での小型化を達成する部品配列・回路構成等との関係でもそれら各要素が両立する事実及びその方法を伝える情報として,全てが組み合わさ」った情報とはどのような情報なのか不明であり,営業秘密としての特定性を欠くといわざるを得ない。」とも述べています。

また、発熱セメント体事件でも、「乙23発明において,セメントに炭素を混合することが開示されている以上,炭素を混合するに当たり,偏りのないよう均一に混合するというのは,当業者であれば通常の創意工夫の範囲内において適宜に選択する設計的事項にすぎない。また,上記相違点に係る情報には炭素を均一に混合するための特別な方法が具体的に開示されているわけでもない。したがって,単に均一に混合するという上記相違点に係る情報は,それだけでは到底技術的に有用な情報とは認め難い。」と判断されています。

さらに、錫合金組成事件(大阪地裁平成28年7月21日判決)では「原告ら代表者は,陳述書(甲20)において,本件合金の有用性を説明するが,本件合金がその説明に係る効果を有することは,客観的に確認されるべきものであり,関係者の陳述のみによって直ちにそれを認めることはできない。」と判断されています。このように、裁判所は 営業秘密とする技術情報の効果は客観的に確認されるべきものであるとしています。

このパターン2は、営業秘密とする技術が上位概念である場合に、生じやすいかもしれません。また、特定が比較的難しい化学系の技術の場合にも生じやすいかもしれません。


一方で、接触角計算プログラム事件(知財高裁平成28年4月27日判決)における原告ソースコード、婦人靴木型事件(東京地裁平成29年2月9日判決)における靴の木型、PCプラント事件(知財高裁平成23年9月27日判決)や半導体封止機械装置事件(福岡地裁平成14年12月24日判決)のように特定の装置の図面のように、営業秘密とする技術情報が明確に特定できている場合はその有用性が認められ易いとも思われます。

以上のことから、技術情報を営業秘密とする場合の有用性に関する留意事項は、「公知技術に比べて優れた作用効果を客観的に確認できる程度に明確となるように、営業秘密とする技術情報を特定する。」ということでしょうか。
これは当たり前のこととも思われますが、実際には有用性が認められない判決が多数あるので、このことを意識しなければ裁判で勝てる営業秘密管理とはならないのかと思います。

ここで、錫合金組成事件(大阪地裁平成28年7月21日判決)で裁判所は「原告らは,本件合金の成分及び配合比率を容易に分析できたとしても,特殊な技術がなければ本件合金と同じ合金を製造することは不可能であるから,本件合金は保護されるべき技術上の秘密に該当する旨主張する。しかし,その場合には,営業秘密として保護されるべきは製造方法であって,容易に分析できる合金組成ではないから,原告らの上記主張は採用できない(なお,前記のとおり原告らは,本件で本件合金の製造方法は営業秘密として主張しない旨を明らかにしている。)。」と判断しています。
上記下線は、営業秘密として特定される技術情報に対して、非常に重要な示唆であると思われます。営業秘密とする技術情報の特定が誤っていたら、本来、不正競争防止法で守られるべき情報が守られないことになります。
従って、どの技術情報を営業秘密として管理し、その技術情報は客観的に作用効果を確認できるものであるかを十分に検討する必要があるかと思います。

2017年8月12日土曜日

ブログをはじめて3ケ月-アクセスの傾向-

この営業秘密にだけ特化したブログをはじめて3ケ月。
営業秘密という、比較的ニッチな内容なため、アッサリとネタが尽きるかと思いきや、案外ネタは多く、ネタ切れまでもう少しかかりそうです。

そして、未だアクセス数は多いとは言えないものの、記事へのアクセス状況から皆さんが興味のある事の傾向が伺えます。
私が営業秘密に興味を持ったきっかけは27年の不競法法改正による刑事罰の強化ですが、刑事罰に関する記事は人気がありません。
やはり、刑事罰ともなると自身や自分の所属企業にとっては無縁のことと思われる方が多いのでしょうか。
私は27年法改正が産業界の要望もあってのことであり、興味を持たれ易い内容かと思っていましたので、少々意外でした。
<刑事罰に関する記事>
営業秘密保護に対する警察の取り組み
営業秘密の漏えいに関する近年の刑事罰
営業秘密における民事訴訟と刑事訴訟との関係


一方、アクセス数が多い記事は、“週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」”シリーズですね。
時事ネタはウケがいいのでしょうか?
ちなみに、“「文春砲」汚れた銃弾”でグーグル検索すると、このブログの記事が出てきます。

意外にアクセス数が多い記事が“農業”関係です。
“イチゴ品種の韓国への流出”をはじめに、私も農業と営業秘密の関係に興味を持ち、幾つか書きましたが、同じように興味を持たれる方が多いようですね。
農業分野は、技術を守るという視点では、特許とするよりも営業秘密とする方が親和性が高いようにも思えます。
しかしながら、農業の技術を営業秘密で守るということは、ほとんど浸透していないようです。
その理由に、“農業+営業秘密”でグーグル検索するとこのブログの“農業分野における営業秘密”が検索結果の一番上に来てしまいます。
この記事のアクセス数を考えると、うーん、喜ばしい事とは言えませんね。
 <農業に関する記事>
イチゴ品種の韓国への流出
農業分野における営業秘密
農業ICT知的財産活用ガイドライン

また、第四次産業革命やビッグデータに関する記事もアクセス数が多いです。
やはりこれから伸びる技術分野ですしね。
また、データの利活用に関しては近い将来、不正競争防止法の改正も行われる可能性が高いようです。
<第四次産業革命・ビッグデータに関する記事>
ビッグデータと営業秘密
第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討
特許庁における知的財産分科会
データ利活用の促進に向けた不競法改正案

農業と営業秘密との関係や、データ保護に関することは、今後も追いかけようと思います。

そして、特許と営業秘密との関係を記した記事もそこそこアクセス数が多いですね。
弁理士の方のアクセスも多いかと思いますし、近年は特許出願も減少傾向にありますからね。
<特許と営業秘密との関係に関する記事>
特許出願件数の減少から考える営業秘密
営業秘密の3要件:有用性 -特許との関係-
営業秘密の3要件:有用性-特許との関係- その2

ざっとこんな感じです。
これからもボチボチやっていきます。