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2024年5月11日土曜日

判例紹介:回転寿司チェーン店事件の元部長に対する刑事事件地裁判決

本事件は、かっぱ寿司の前社長が前職であるはま寿司の営業秘密を不正に持ち出した事件に関連して、カッパ社及びその社員(元商品部長)が刑事告訴された地裁判決(東京地裁令和6年2月26日 事件番号:令4(特わ)2148号)です。
判決は、カッパ社に対して罰金3000万円、元商品部長に対しては懲役2年6月(執行猶予4年)及び罰金100万円ですが、控訴していますので確定ではありません。

この事件は、転職者だけでなく、転職先に在職していた従業員も営業秘密侵害で刑事告訴・起訴されて有罪となった事件であり、私が知る限りはじめての事件です(従業員が刑事告訴されても不起訴となった事件は過去にありました。)。

元商品部長(被告人B)は実際なにをしたのでしょうか。判決文では以下のように記載されています。なお、Cは、はま寿司から転職してきた元社長です。また、F社は、はま寿司です。
1 被告人Bの客観的行為
 ⑴ 証拠によれば、次の事実が認められる。
ア Cは、令和2年11月9日、被告人Bに対し、件名を「Jデータ」とし、本件各データを前記の各表題付きで添付した電子メールを送信した。被告人Bは、これを受信した後、同日、本件各データについて、自身が使用していた業務用パーソナルコンピュータに保存するとともに、その内容を確認した(判示第1柱書)。
イ 被告人Bは、同月25日、被告会社の当時の商品本部長H宛て及び商品本部商品部商品開発課長I宛てに、本件各データ等を添付した電子メールを送信した(判示第1の1及び2)。また、被告人Bは、Cの指示を受け、同年12月17日、本件各データを用いて、F社が提供する商品の原価と被告会社が提供する商品の原価とを比較したデータファイルを作成した上、Cに対し、これを添付した電子メールを送信し、さらに、同月21日、同データファイルについて、被告会社分につき物流費抜きの原価率を計上したものに更新した上、Cに対し、これを添付し、その分析をも加えた電子メールを送信した(判示第2)。
上記の行為により、裁判所は、被告人Bがパーソナルコンピュータに本件各データを保存した時点でF社の営業秘密を「取得」し、本件各データ等を添付した電子メールをH宛て及びI宛てに送信した時点でF社の営業秘密を「開示」し、原価等情報データを利用して比較を行ったデータファイルを作成した行為をF社の営業秘密を「使用」したと認定しています。

そして、被告人Bは下記不正競争防止法21条1項7号違反とされています。なお、下記不正競争防止法21条1項7号は、下記令和五年法律第五十一号による改正前のものです。
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
・・・
七 不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、第二号若しくは前三号の罪又は第三項第二号の罪(第二号及び前三号の罪に当たる開示に係る部分に限る。)に当たる開示によって営業秘密を取得して、その営業秘密を使用し、又は開示した者
なお、F社の本件各データを不正に持ち込んだCは、下記不正競争防止法21条1項3号ロ等違反で有罪となっています(東京地裁令和5年5月31日 事件番号:令4(特わ)2148号)。
三 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得した者
・・・
ロ 営業秘密記録媒体等の記載若しくは記録について、又は営業秘密が化体された物件について、その複製を作成すること。

ここで、不正競争防止法21条1項7号違反では「不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で」とのように図利加害目的が要件となります。これについて、2016年発行の逐条解説 不正競争防止法のp.234には、下記のように記載されています。
② 要件
 (i)図利加害目的の係り方
本罪については、不正開示により営業秘密を取得した時点から違法性の認識が必要であると考えられるので、取得の時点及びその後の不正使用又は不正開示の時点の何れにおいても目的要件を満たさない限り、本罪は成立しない。
このように被告人Bの行為が違法であるとするためには、Cから受信した本件各データがF社の営業秘密であることを被告人Bが認識していた必要があります。しかしながら、被告会社の弁護人は「本件各データには「社外秘」等の表記はされていなかった」とも主張しており、この主張は被告人Bに違法性の認識がなかったことを主張しているのだと思います。これについて裁判所は以下のように判断しています。
2 被告人Bの故意及びCとの共謀
  ⑴ 被告人Bは、F社から転職して間がないCから、「Jデータ」とのF社の略称を使用した件名のメールを受信しており、かつ、添付に係る本件各データの表題は、「原価表」「J食材一覧……仕切値用」の文言を含むものであるから、そのメールの件名及び本件各データのファイル名自体からして、本件各データがF社の商品の原価、仕入れ等に関するデータであると容易に推知できたといえる。そして、被告人Bは、この受信の前後に、上司であるCから、本件各データを参考にするよう指示されており、その検討を約した後、本件各データをパーソナルコンピュータに保存し、その内容を確認していたのであるから、遅くとも、その保存、確認の時点までには、本件各データがF社の商品の原価、仕入れ等に関するものであることを認識したと認められる。また、このような内容に照らすと、F社がこれを秘密として取り扱うことは、F社の従業員に限らず、商品開発等に携わる者にとって容易に推知可能といえる。被告人Bの上司に当たる前記Hが、前記1⑴イの比較したデータファイルを閲覧して、被告人Bに対し、「これまずいよね。犯罪でしょ。」と言ったことも、このことを端的に表すものである。したがって、被告人Bにおいて、本件各データが営業秘密に該当するとの認識に欠けるところはない。
このように、裁判所は、F社の本件各データに秘密管理措置を示す表示がなかったものの、被告人Bは本件各データがF社の営業秘密であることを容易に推知可能であったと判断しています。
個人的には、この裁判所の判断は少々厳しいとも思えてしまいます。営業秘密に関する多くの裁判例では秘密管理措置が明確である必要があるとしているものの、本事件では秘密管理措置が明確でない本件各データに対して、被告人BがF社の営業秘密であることを「容易に推知」できたと認定しているためです。
例えば、企業の顧客情報は多くの人が当該企業にとって営業秘密であると「容易に推知」できると思いますが、当該顧客情報に対して秘密管理措置がなされていない場合には営業秘密とは認められません。ここでいう秘密管理措置とは、㊙マークを付したり、デジタルデータであればパスワード管理することです。このため、本事件では本件各データには㊙マーク等も付されていなかったことから、被告人Bが「容易に推知」できたと認定してもよいのか個人的には疑問に思えます。
しかしながら、本事件のように「容易に推知」できたとしなければ、転職者から取得した者(2次取得者)に対して不正競争防止法21条1項7号違反と言える場合は少なくなるようにも思えます。
また、判決文には「被告人Bの上司に当たる前記Hが、前記1⑴イの比較したデータファイルを閲覧して、被告人Bに対し、「これまずいよね。犯罪でしょ。」と言ったことも、このことを端的に表すものである。」ともあり、この証言によっても被告人Bが本件各データをF社の営業秘密であると認識できた、ということなのでしょう。

そして、裁判所は「商品開発等の検討をするため、これを所管する上司及び部下に本件各データを開示し、自らも原価を比較するため本件各データを使用」した被告人Bの行為が不正の利益を得る目的であるとしています。
これに対して、弁護人は「被告人BがCの指示を拒めなかった」ことを主張しましたが、裁判所は「このことは目的の認定に関わらない。」と判断しています。

上記「Cの指示を拒めなかった。」という被告人Bの証言は事実だと思います。社長の指示を拒めば被告人Bの立場が悪くなることはサラリーマンであれば容易に想像でき、本件各データがF社の生業秘密であると認識していても、被告人BはCの指示に従うという選択をしたのでしょう。しかしながら、これにより被告人Bまでもが営業秘密侵害で有罪判決を受けています。
では、被告人Bはどうすればよかったのでしょうか。考えられることは、被告人Bの上司であるHが「これまずいよね。犯罪でしょ。」と言ったことから、この上司であるHを介してCにF社の本件各データを使用等することが犯罪であることを伝え、社内の法務部や顧問弁護士と相談してF社にも伝えることが考えられます。
被告会社が自らF社にCが営業秘密を不正に持ち出したことを伝えることで、外形的には被告人Bや被告会社が違法行為をしていたとしても、F社に刑事告訴までされなかったかもしれません。

本事件のように、転職者が前職企業の営業秘密を不正に持ち出し、それを転職先で開示して転職先が使用することは、被告会社に限らず他の会社でも少なからずあると思います。そして、本事件のように転職先従業員が刑事罰を受けるという最悪な事態となることは今後もあるでしょう。
このため、各企業は、このような事態に陥らないようにする体制を整える必要があると考えます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2024年4月15日月曜日

知財としての営業秘密の理解

知財といわれてまず思いつくものは、特許であり、次に商標、意匠、実用新案かと思います。しかしながら、営業秘密を知財として挙げる人はあまり多くないかもしれません。
この理由としてはいくつか考えられますが、まず、特許等の権利化は権利化業務といった「仕事」或いは「ビジネス」として確立していることにあるでしょう。そして、特許等の出願をより多くしようとする組織である特許庁や特許事務所といった存在が大きいと考えます。
すなわち、特許庁が旗振り役となり、企業に特許出願を促し、その依頼を特許事務所が受ける。これにより、特許庁は自身の存在意義を大きくし、特許事務所は利益を挙げることができます。そして、企業は、特許権を取得することにより、特許に係る技術を独占したり、他者にライセンスすることで間接的又は直接的に利益を得たり、年間の特許出願件数や保有している特許権数を自社の知財としてアピールします。
一方で、営業秘密に関しては、上記のような権利化業務という「仕事」や「ビジネス」は存在しません。さらに、特許庁や特許事務所が権利化は止めて営業秘密化しましょう、とのように旗振りを行うことも殆どありません(経済産業省等は営業秘密の理解を深める活動を行っています。)。当然ですが、企業が自社で保有している営業秘密の数をアピールすることもありません。

このような理由により、企業(知財部)は営業秘密を知財として認識し難いともいえるでしょう。しかしながら、実際にビジネスに用いられる特許権は全体の一割や二割ともいわれ、そもそも特許出願を行う目的がその数となっている企業も少なからずあります。その結果、特許出願がコストをかけて無駄な、下手をすると競合他社に利益をもたらす技術情報の開示を行っている可能性もあります。

一方で、営業秘密は、製品の詳細な技術情報、製品の製造方法、製品の組成であったり、実際に企業がビジネスに用いている情報である場合が多いのではないでしょうか。
このため、転職が一般的になっている昨今、営業秘密とする情報にはアクセス制限を行ったり、サーバ等へのアクセスログを取る等して、企業は営業秘密を転職者(転出者)が持ち出すことを防止又は持ち出しを検知しています。

ここで、情報を営業秘密とするためには、情報を特定したうえで、秘密管理性、有用性、非公知性を満たさなければなりません。
営業秘密とする情報が顧客情報や取引情報等の営業情報の場合では、このような営業情報が公知となっている可能性は低いので、秘密管理性を満たせば有用性及び非公知性も認められる可能性が高いです。
一方で、技術情報に関しては、特許公報や学術論文、雑誌、インターネット等によって既に公知となっている可能性もあります。また、自社の製品をリバースエンジニアリングすれば知り得る情報となる可能性もあります。このため、技術情報は秘密管理性を満たしていても、有用性や非公知性が認められない可能性があります。

従って、知財の立場からすると、技術情報が既に公知又は将来公知となるかを判断し、営業秘密にできるか否かを判断する必要があります。そして、現在は非公知であるもの、将来は公知となるよう技術情報であれば、特許出願するという選択肢も取り得ます。また、事業戦略の観点からも特許化又は営業秘密化の検討するべきでしょう。
このため知財としては、自社で創出した技術情報をどのような形式で知財とするかを判断するために、秘密管理性は当然のことながら、営業秘密としての有用性及び非公知性を理解しする必要があります。


ここまでが、自社で創出した営業秘密(技術情報)に関する考えです。次は、自社への転職者(転入者)が持ち込んだ技術情報に関してはどうでしょうか。

転入者が持ち込んだ技術情報は、前職企業の営業秘密である可能性があります。他社の営業秘密を許可なく使用した場合には不正競争防止法違反となり、民事的責任や刑事的責任を負う可能性があります。しかしながら、転入者が持ち込んだ情報であっても、営業秘密でなければ(特許権や著作権等の他の権利侵害がないならば)使用できます。

すなわち、転入者が自社に技術情報を持ち込んだ場合、当該技術情報が他社の営業秘密であるか否かの判断を自社で行う必要があります。例えば、転入者が持ち込んだ情報を全て他社の営業秘密として扱ってしまうと、本来使用できる情報を使用しないことになり、さらには、転入者の能力に足かせを与える可能性もあり、その結果、転入者は自社では能力を発揮できないと考え、他社に転職する可能性もあるでしょう。
一方で、転入者が持ち込んだ情報に対して営業秘密であるか否かの判断を行うことなく、自社で使用してしまうと、上記のように営業秘密侵害となり、自社に損害等を与える可能性があります。

では、転入者が持ち込んだ技術情報が営業秘密であるか否かの判断はどのようにすればよいのでしょうか。それは、第一には非公知性を判断することだと思います。
転入者が持ち込んだ技術情報が公知の情報であれば、それは営業秘密ではありません。このため、特許文献や学術論文等の調査を行うことで当該技術情報の非公知性を判断することが考えられます。そして、全く同じ情報が公知となっていなくても、特許でいうところの設計事項程度の違いであれば、有用性が無い可能性があります。有用性が無い技術情報も営業秘密ではないので使用可能です。
このような非公知性や有用性の判断は、知財(知財部)の得意とするところでしょうし、法務や技術者自身がこのような法的な判断を行うことは難しいと思います。

では、秘密管理性の判断はどうでしょうか。転入者が持ち込んだ技術情報が転入者の前職企業で秘密管理されていたか否かを客観的に判断することは非常に難しいと思います。仮に転入者が、前職企業において当該技術情報を秘密管理していなかったと説明したとしても、それが正しいか否かを判断することは想到難しいでしょう。
他にも、転入者が自身で創出(発明)した技術情報であるから使用することに問題ないとのような説明をすることも考えられます。これについても、法解釈の観点と共にその説明を客観的に判断できないという問題があります。
すなわち、転入者の説明をうのみにして転入者が持ち込んだ技術情報の営業秘密性を判断することには高いリスクがあります。

以上のように、技術情報については、その営業秘密性の判断について、法的な視点とと共に技術的な視点が当然必要となります。このため、技術情報の営業秘密性については、特許等と同様に知財としてあるかう必要があると考えます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2024年3月17日日曜日

転職者による営業秘密の不正流出・流入まとめ

転職者による営業秘密の不正流出・流入を簡単にまとめます。


上記図の(A)のように転職者(転出者)は転職時に前職企業から営業秘密を不正に持ち出すことがあります。
転出者によって不正に持ち出される営業秘密には、在職中に仕事で使用するために前職企業から正当に開示された営業秘密だけに限らず、転出者自身にはアクセス権限がないものの何らかの方法で取得した営業秘密も含まれます。
このような営業秘密の不正な持ち出しは、サーバ等に保存されているデータに対して行われるアクセスログのチェックによって発覚することが多々あります。このため、近年ではアクセスログ管理を行っている企業は多く、自社の従業員等が退職を申し出た際や退職後等にアクセスログをチェックすることが広く行われているようです。また、アクセスログのチェックに付随してUSB等への外部記憶媒体にデータを保存する行為や、メールによってデータを送信する行為も転職者に対して行う企業は多いと思います。
このように、営業秘密の不正な持ち出しは、近年ではデジタルデータの持ち出しとなる場合が多いため、コンピュータシステムによってこれを検知することが可能な場合が多いでしょう。

一方で、自社への転職者(転入者)による前職企業の営業秘密の不正な持ち込みをコンピュータシステムによって検出することは難しいように思います。このため、転入者による不正な持ち込みは段階ごとに防止できる体制又は従業員の認識が必要となると考えます。

まず、図のB1のパターンです。このパターンは、転入者は前職企業の営業秘密を不正に持ち出しています。このため、転入者が前職企業の営業秘密を自社に持ち込むことを防止しなければなりません。この対策としては、転入者に対して、入社時に他社営業秘密の持ち込みを禁ずる誓約書を求めたり、他社営業秘密の不正な持ち出しは犯罪行為であること、仮に自社内でそのような行為が見つかった場合には警察に通報すること等の説明を行います。
ここで、転入者による営業秘密の不正な持ち込みを防止できれば、仮に転入者が営業秘密侵害で前職企業から刑事告訴等を受けたとしても、自社は転入者による営業秘密の不正な持ち出しの事実さえ知らないこととなるので、民事的責任や刑事的責任を負うことはないでしょう。しかしながら、転入者が刑事告訴を受けた場合には、自社が家宅捜索を受ける可能性もあるかもしれませんが、そうなったとしても、自社が不正行為を行っていないことが証明されることになるでしょう。

このような対策を行っても、転入者が自社内で前職企業の営業秘密を開示するかもしれません。この場合がパターンB2です。このような事態となり、仮に当該営業秘密を自社でさらに開示したり、使用したとすると、自社は営業秘密を侵害したこととなります。
ここで、転入者による営業秘密の開示先は、自社における既存の従業員であり、転入者が営業秘密を自社で開示したとすると、その事実を知る者は既存の従業員となります。そして、自社が侵害者とならないためには、当該従業員自身が転入者による更なる開示等を防ぐ必要があります。すなわち、当該従業員が当該営業秘密の出所を転入者から確認し、他の従業員へさらに開示しないように転入者に伝えると共に、上長や担当部署に報告する必要があるでしょう。
このためには、各従業員に対して営業秘密の不正使用は犯罪であることや、転入者が営業秘密を持ち込んだ場合における報告先を予め周知しておくことが必要です。報告先となる部署は例えば法務部や知的財産部等になるでしょう。
これにより、仮に転入者が不正に持ち込んだ他社の営業秘密が自社で開示されたとしても、当該営業秘密が自社内でさらに開示されたり、使用されることを防止できます。従って。パターンB2の場合は、自社で営業秘密が開示されたものの、自社でさらに開示や使用等をしていないので民事的責任や刑事的責任を負う可能性は低いと思います。

パターンB3は、転入者が不正に持ち込んだ営業秘密を自社内で使用等した場合です。この場合は、自社が他社営業秘密を不正に使用しているので、民事的責任又は刑事的責任を負うことになります。
パターンB3が自社にとって最悪な状況であるものの、例えば不正に持ち込まれた営業秘密が技術情報である場合には、知的財産部が侵害の拡大を抑制できる立場にあると思います。
このためには、技術開発部等で新規に開発された技術を、知的財産部が特許化の有無にかかわらず吸い上げ、管理する体制が必要です。このような体制は、特段新しいものでもなく、知的財産部の役割からすると当然とも考えられます。
そして、新規開発の技術の発明者が誰であるのか、その開発経緯を知的財産部が確認することで、新規な技術が他社営業秘密を用いているか否かを判断できるでしょう。
例えば、発明者が転職間もない従業員であった場合には、前職企業の営業秘密を使用していないかを確認する動機づけとなります。また、その開発経緯に不自然な点があれば、これも不正に持ち込まれた他社営業秘密を使用していないかを確認する動機づけとなります。
仮に、知的財産部で不正に持ち込まれた他社営業秘密の使用が確認された場合には、当然、この新規技術を用いた製品等の製造販売を停止させることになります。

このように、営業秘密の不正流入にはいくつかの段階(パターン)があると考えます。このため、夫々のパターンを想定した対応が可能となる体制(従業員教育)が必要でしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2024年2月28日水曜日

回転寿司チェーン店事件のはま寿司及び元部長に対する刑事事件判決

かっぱ寿司の前社長が前職であるはま寿司の営業秘密を不正に持ち出した事件について、カッパ社及びその社員(元商品部長)も刑事告訴されていましたが、これに対して地裁判決が先日ありました。


カッパ社に対しては罰金3000万円、元商品部長に対しては懲役2年6月(執行猶予4年)、罰金100万円という判決となっています。前社長に対しては、既に判決が出ており、懲役3年(執行猶予4年)、罰金200万円です。前社長の刑事罰は確定しているようですが、カッパ社と元商品部長に関しては控訴するかもしれません。

なお、転職者の前職企業の営業秘密が持ち込まれて使用等した企業(被告企業)に刑事罰が適用された事件は過去にもありました(自動包装機械事件)。この自動包装機械事件では、被告企業は1400万円の罰金刑となっています。


一方で、転職者の前職企業の営業秘密が持ち込まれた被告企業の社員が刑事罰を受けた事件は、私が知る限り初めての事件です。
本事件では、元商品部長が被告となっており、この元商品部長は、はま寿司から転職してきた前社長の指示に従い、はま寿司の営業秘密を使用等したとのことです。
確かに、元商品部長は、はま寿司の営業秘密であることを知って不正使用したのでしょうから刑事罰の対象となるでしょう。しかしながら、元商品部長は前社長の指示で不正使用を行っており、これを拒むと社内での立場が悪くなることは想像に難くはありません。そうすると、元商品部長による営業秘密の不正使用の是非について考えさせられます。

そもそも社員がこのような事態に陥ることは、企業として絶対に防がないといけないことだと思います。その意味でも、元商品部長が営業秘密の不正使用を行うという選択をしたことに対して、カッパ社にも責任があると思えます。

今後、転職はより一般的になり、他社の営業秘密が自社へ不正に持ち込まれる可能性は益々高くなります。
そして、転職者が上司となる可能性もあり、本事件のように上司が前職企業の営業秘密を持ち込む可能性もあるでしょう。また、転職してきた部下や同僚となった者が前職企業の営業秘密を不正に持ち込む可能性もあるでしょう。仮に、転職者によって開示された営業秘密を社員がそれと知って不正使用すると、本事件のようにこの社員が刑事責任を負うこととなります。

このような事態を防ぐためにも、企業は転職者を介した他社の営業秘密の流入を食い止め、仮に他社の営業秘密が流入したとしても社員がそれを使用しないようにしなければなりません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2023年10月5日木曜日

兼松の営業秘密流出事件 転職者による不正な営業秘密流入の抑制

先日、総合商社である兼松の元従業員が競合他社である双日に転職する際に、兼松の営業秘密を持ち出したとして逮捕されました。この事件は、今年の4月に双日に家宅捜索が入った事件であり、家宅捜索から約半年後の逮捕となっています。なお、この元従業員は、双日に家宅捜索が入った翌月には双日を懲戒解雇となっているようです。

・当社元社員の逮捕について(双日株式会社 リリース)
・元従業員の逮捕について(兼松株式会社 リリース)
・逮捕の双日元社員「弱い立場の派遣社員を利用」 うそつき秘密入手か(朝日新聞)
・双日元社員逮捕 営業秘密侵害疑い、DX・転職増でリスク(日本経済新聞)
・双日「組織的関与、把握ない」 元社員逮捕受けコメント(産経新聞)
・「双日」元社員を逮捕、前の勤務先「兼松」から営業秘密を不正持ち出しか…元同僚のID使う(読売新聞)
・双日の30代元社員を逮捕 前職の営業秘密を持ちだした疑い(毎日新聞)

報道によると、兼松の元従業員は退職直前の6月に3万7000にも及ぶファイルをダウンロードして不正に取得したようです。

ここで、どのようにして企業が営業秘密の不正取得を知り得るのか?との質問を受ける場合があります。これについては、多くの企業はデータに対するアクセスログ管理を行っていますので、自社の従業員が退職を申し出た際に過去数か月のアクセスログを確認し、不必要と思われるデータに当該従業員がアクセスしていないかを調べることで不正な持ち出しの有無を検知します。例えば、今回の事件のように、退職を申し出る直前の短期間に多量のデータをダウンロードしている形跡があると、営業秘密の不正な持ち出しの可能性が疑われます。
このため、アクセスログ管理を適切に行っている企業は、退職者が営業秘密を不正に持ち出しているか否かを比較的早期に検知できます。過去には退職を申し出た従業員が実際に退職するまでの間に、営業秘密の不正な持ち出しを検知し、懲戒解雇とした事例もあるようです。
今回の事件では、3万7000ものデータをダウンロードしており、通常業務でこの量のデータをダウンロードするとは考え難いため、転職に伴う不正な持ち出しであると判断できたでしょう。

さらに、元従業員は兼松の元同僚(派遣社員)からIDとパスワードを聞き出して、退職後にも兼松の営業秘密を不正に持ち出したようです。この元同僚は、元従業員に頼まれただけであり、不正の目的等は無かったと思われるので刑事罰を受けることは無いと思います。しかしながら、兼松で使用しているIDとパスワードを外部に漏らしたということは、兼松の規則に反する行為でしょうから、兼松から何らかの処分を受ける、若しくはすでに受けていると思われます。


一方、双日についてですが、兼松の元従業員に営業秘密を不正に取得することを指示していたり、双日社内で当該営業秘密が開示・使用されたりしなければ、特段の責任はありません。双日社内での営業秘密の開示・使用等の有無はこれから明確になるでしょう。

また、双日は本事件に関するリリースを発表しています。このリリースの中には、以下のような記載があります。
”特に、情報管理に関しては、キャリア入社社員に対して、前職で業務上知り得た機密情報を当社に持ち込まないことについて明記した誓約書を入社時に差入させるなどの未然防止および社員の教育と啓蒙に努めてまいりました。”
上記のように"前職で業務上知り得た機密情報を当社に持ち込まないことについて明記した誓約書"を転職者に求めることは非常に重要だと思います。この誓約書により、自社が他社の営業秘密を持ち込むことを良しとしない、という意思表示にもなりますし、もし転職者が前職の営業秘密を持ち出していても、自社で開示や使用することを抑止できる可能性があります。
ここで、自社への転職者による前職企業の営業秘密の持ち出しを防止することは困難です。この営業秘密の不正な持ち出しは前職企業内での行為であり、持ち出しを行ったときには、転職者は未だ前職企業の従業員であるためです。
しかしながら、仮に転職者が前職企業の営業秘密を持ち出したとしても、当該営業秘密が自社で開示や使用されなければ、自社が責任を問われることはありません。このため、上記のような誓約書を入社前に求めることが重要となります。仮に、前職企業の営業秘密を転職者が持ち出したとしても、誓約書によって当該行為が不法行為であると転職者に認識させ、転職先である自社で開示や使用することを食い止めることができる可能性があるためです。

このように、転職者に対する他社営業秘密の持ち出しを禁ずる誓約書、さらには自社従業員に対する他社営業秘密を開示・使用しない旨の教育等は、他社営業秘密が自社に不正に流入することを防止するために重要なこととなります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2023年9月6日水曜日

他社営業秘密を持ち出した人の雇用リスク

営業秘密の不正流出の目的の一つに転職先で使用するというものがあります。
このブログでも度々、営業秘密の流入リスク(侵害リスク)について取り上げていますが、この流入リスクを負う立場は転職先企業です。そして、転職者(転入者)による営業秘密の流入リスクは近年、流出リスクと共に顕在化してきています。

先日も、地方航空会社であるオリエンタルエアブリッジの元従業員が航空会社であるトキエアへ転職する際に、保安対策に関する営業秘密を持ち出したとして書類送検されました。

・退職者による社内情報のデータ持ち出しについて(オリエンタルエアブリッジ株式会社 リリース)
・航空保安情報持ち出し疑い ORC元社員を書類送検 長崎県警(毎日新聞)
・航空保安情報、持ち出し容疑 ORC元管理職を書類送検(朝日新聞)
・航空保安情報持ち出し疑い 元管理職を書類送検、長崎(産経新聞)
・航空保安情報を持ち出しか 元ORC管理職を書類送検(日本経済新聞)
・オリエンタルエアの航空保安情報を持ち出しか、元管理職を書類送検…新規参入トキエアに入社(読売新聞)

この事件では、トキエアへの営業秘密の開示及び使用は認められなかったとのことですが、上記の読売新聞の報道によると「男が作成に関与したトキエアの安全管理規程も作り直された」とのことです。
本事件についてトキエアの関与はなく、トキエアには当該営業秘密が開示されなかったとのことですから、トキエアは安全管理規定を作り直す必要はないようにも思えます。
とはいえ、トキエアとしては、営業秘密を不正に持ち出した人物が作成に関与した安全管理規定を使い続けることに不安感があり、このために安全管理規定を作り直したということなのでしょうか。


この例のように、前職企業の営業秘密を持ち出した転職者(転入者)が自社で当該営業秘密を開示しなくても、当該転職者が自社で関与していた業務についての見直し、やり直しを行うという判断をする企業もあるようです。

なお、営業秘密を持ち出した人物は、上記読売新聞の報道によると、オリエンタルエアブリッジでは「安全管理や安全に関する社内教育などを担当する安全推進室の管理職」であり、トキエアでも「安全推進室の管理職」となっていたようです。
仮に、この人物がトキエアにおいて営業秘密を開示していたならば、部下である元来の従業員もトキエアの営業秘密であると認識したうえで、当該営業秘密を使用して安全管理規定を作成した可能性があります。もし、そのような事態に陥れば、上記従業員も刑事罰を受ける可能性があります。

このような可能性を鑑みると、企業としては、転職者が自社において前職企業の営業秘密を開示、使用することを確実に防止する必要があります。特に、転職者が自社において管理職等となり、部下を持つ立場であれば、なおのことであると考えます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2023年7月11日火曜日

不競法2条1項8号における「取得」や「使用」とは?その2

前回のブログでは、どのようか行為が不競法2条1項8号違反(営業秘密の転得者による不正取得・使用等)となるのかについて、大阪地裁令和2年10月1日判決(事件番号:平28(ワ)4029号)を参考にして考えました。今回はその続きです。

本事件は、家電小売り業のエディオン(原告)の元従業員(被告P1)がリフォーム事業に係る営業秘密を転職先である上新電機(被告会社)へ持ち出した事件の民事訴訟です。この事件は刑事事件にもなっており、この元従業員は有罪判決となっています。
本事件では、被告が原告から持ち出した営業秘密は複数あり、それぞれについて被告による不正な開示・使用(不競法2条1項7号違反)、被告会社による不正な開示・使用(不競法2条1項8号違反)が裁判所によって判断されています。

前回のブログでは、不競法2条1項8号違反における「取得」について述べましたが、今回は「使用」についてです。
まず、工料表の価格と思われる資料1-5に対して、下記のようにして裁判所は、被告P1については不競法2条1項7号が認められる、と裁判所は判断しています。
❝被告P1は,P3に対し,「EDION 工料表」及び「エディオンの内装リフォーム価格表」を送付したことが認められる。P3は,被告会社ビジネス開発大阪営業所長であったところ,同営業所はパッケージリフォーム商品の工事見積りを担当する部署であること(甲81の2)を踏まえると,被告P1は,被告会社のパッケージリフォーム商品の開発に当たり,原告の工事料金を意識して積極的に活用していたことがうかがわれる。このことと,被告P1がP3に対して送付した「EDION 工料表」は資料1-5であること(被告P1本人)に鑑みると,被告P1が被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等に当たりこれを参考としていたことが合理的に推認される。❞
そして、裁判所は、下記のようにして、被告会社は資料1-5の情報につき被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等に当たってこれを使用していたと判断しています。
❝被告P1は,P3に対し,工事費売価は「EDION 工料表の価格」で設定してあるとしつつ,工事費原価は仮の数値を入れているとしてP3による設定を求めている(甲86の1)。また,別の機会に,P3は,「エディオンの内装リフォーム価格用」記載の価格での運用を求める被告P1に対し,「内装工事の工事価格は,柔軟に変更してまいります。」と回答している。こうした被告P1とP3のやり取りからは,両者(スマートライフ推進部とビジネス開発大阪営業所)のやり取りを通じて被告会社のパッケージリフォーム商品の工事価格が決定されていたことがうかがわれる。
そうすると,資料1-5の情報につき,被告会社は,被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等に当たってこれを使用していたものといえる。また,上記メールのやり取りの内容から,被告P1の示す工料表が原告のものであることはP3も当然に認識し得ることに鑑みると,被告会社は,被告P1の開示した資料1-5の情報が原告の営業秘密であることを知り又は重大な過失によりこれを知らないで取得し,使用したものと認められる。
このように、被告会社は、資料1-5に対して分かりやすい態様で不正使用を行っていたようです。


次に、システムの情報である資料3-1~3-9についてです。
まず、原告は、リフォーム事業において「House System Operation Reform Program」システム(HORPシステム)を使用し、被告会社はリフォーム事業において「Joshinreform Unify Management Program」システム(JUMPシステム)を使用しています。
そして、資料3-1~3-9は被告P1が取得していると裁判所は認め、以下のことから、被告P1は被告会社にこれらの情報を開示したと判断しています。
❝また,市販のリフォーム事業向け案件管理システムが建築業者等向けであるのに対し,HORPシステムの情報は,原告と同じく家電量販店としてリフォーム事業を展開する被告会社にとって,自社のシステム開発に当たり参考となるといえる。
さらに,被告P1は,転職後に転職先でリフォーム事業に使用する意図で原告データサーバ上の情報を取得したと見られることに鑑みると,被告P1がHORPシステムに関する知識経験を有することを踏まえても,手持ちのHORPシステムに関する資料をJUMPシステムの開発に当たり開発関係者に開示しない理由はない。現に,平成26年4月頃,被告P1は,P4に対し,HORPシステムの業務全体フロー(甲82)を示し,JUMPシステムの業務全体フロー(別紙6)を作成させているし,他の原告のリフォーム事業に関する資料を被告会社従業員に示すなどしている。しかも,被告P1は,取引先に対するメール(甲25)において,「100満ボルト,エディオンにて試行錯誤しながら辿り着いた一つのビジネスモデルを,今回は更にグレードアップさせ,スピードアップさせて最短でカタチにしてゆきます。」,「HORPシステムと同じ考えの基,それ以上のオペレーションシステムの開発…等ご協力いただく内容が沢山あります」などと,HORPシステムと同様のシステムの開発に強い意欲を示していた。
こうした事情等に鑑みると,被告P1は,被告会社スマートライフ推進部でJUMP システムの開発に当たる中心的メンバーであるP4に対し,資料3-1~3-9を示し,JUMPシステム開発の参考に供したことが合理的に推認される。
そして、裁判所は、以下の理由から、被告P1から開示された資料3-1~3-9を被告会社は使用したと判断しています。
❝JUMPシステム開発の打合せの過程で被告会社からファンテックに対しHORP関連情報その他原告のHORPシステムに関する具体的な資料ないし情報が提供されたことがないこと,JUMPシステムの開発がそれ以前の被告会社のリフォーム事業の業務フローをおおむね踏襲しつつ,一元的な業務管理及び作業手順の標準化等の観点からリフォーム事業に特化した案件管理システムの開発として進められたものと見られること,作業の組織化,情報共有,進捗管理,顧客情報管理といったシステム導入効果は,市販のリフォーム事業向け案件管理システムでもうたわれていたこと,具体的な入力項目や操作方法といった詳細な事項は,既存のシステムとの連携や,社内の関連部署やメーカー,工事業者等の取引先との連携に関する従前の運用方法からの連続性等を考慮しなければならず,事業者ごとに異なり得ることなどに鑑みると,P4等被告会社の関係者が参考としたのは,資料3-1~3-9の各情報のうち,家電量販店としてリフォーム事業を展開するための案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分が中心であったものと推察される。
上記で特徴的だと感じることは、被告会社のJUMPシステムの開発を委託していたシステム開発業者であるファンテックに原告のHORPシステムの関連情報が提供されていないにも関わらず、被告会社は「家電量販店としてリフォーム事業を展開するための案件管理システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分」を参考にしたと推察して、資料3-1~3-9を被告会社が使用したと裁判所が判断したことです。

ここで、特許権侵害においては、他者の特許権に係る請求項の構成要件を全て充足する態様で実施しなければ、基本的には侵害となりません。一方で、営業秘密侵害は、上記のように、他者の営業秘密を全て充足するような使用態様でなくても、参考にするだけでも侵害とみなされます。しかも、本事件では「システムの設計思想その他理念的・抽象的というべき部分」を参考にしただけでも営業秘密の使用と判断されています。
すなわち、本事件を鑑みると、営業秘密の使用とみなされる範囲は特許権と比較してとても広い可能性があります。従って、万が一、自社に他社の営業秘密が不正に流入したとしても、当該営業秘密を決して参考程度にでも閲覧することなく、さらには自社内で拡散することがないようにしなければなりません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2023年7月4日火曜日

不競法2条1項8号における「取得」や「使用」とは?その1

不正競争防止法第2条1項8号は下記のように規定されており、例えば、自社への転職者(転入者)が前職企業の営業秘密を自社で開示して、それを自社で使用した場合に不正競争防止法違反であるとして適用されます。
不正競争防止法第2条1項8号
その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
では、具体的にどのような行為がこの不競法2条1項8号違反となるのでしょうか。これについて、大阪地裁令和2年10月1日判決(事件番号:平28(ワ)4029号)を参考にして考えます。
本事件は、家電小売り業のエディオン(原告)の元従業員(被告P1)がリフォーム事業に係る営業秘密を転職先である上新電機(被告会社)へ持ち出した事件の民事訴訟です。この事件は刑事事件にもなっており、この元従業員は有罪判決となっています。
本事件は、被告が原告から持ち出した営業秘密は複数あり、それぞれについて被告による不正な開示・使用(不競法2条1項7号違反)、被告会社による不正な開示・使用(不競法2条1項8号違反)が裁判所によって判断されています。

まず、原告の営業秘密である資料1-1について、以下のように被告P1の不正使用・開示行為があったと裁判所は判断しています。なお、資料1-1の内容は閲覧制限により具体的にはわかりませんが、原告の標準構成明細というものに含まれる情報であると思われます。また、下記P4は原告の従業員です。
❝(ア) 前記(1)ウ(エ)のとおり,被告P1は,被告会社において,パッケージリフォーム商品の商品開発や仕入交渉等を単独で担当するとともに,原告の標準構成明細を使用して本件比較表及びこれに添付された標準構成明細を作成し,これをP4等に示した。また,被告P1は,原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準構成明細のテンプレート(別紙2「営業秘密目録」資料1-1-2)を作成した(前記ウ(オ))。当該テンプレートは,原告の標準構成明細の書式とかなりの程度類似する上,その備考欄上部の記載は,これが原告の標準構成明細の書式をもとに作成されたことをうかがわせる。
被告P1も,当該テンプレート作成に当たり表としては原告の標準構成明細を使用したことを認めている(被告P1本人)。
これらの事情に加え,被告P1がP1HDD に原告の標準構成明細のデータを保存していること(前記ア(イ))に鑑みると,被告P1は,被告会社のパッケージリフォーム商品の開発に当たり,その仕入価格,粗利率,粗利金額の設定のため原告の標準構成明細記載の原告の仕入価格等の情報を参考にしていたことが合理的に推認される。また,被告P1は,被告会社の標準構成明細の書式作成に当たり,原告の標準構成明細の書式を使用したことが認められる。・・・
以上より,被告P1による資料1-1の情報の使用及び同情報に基づき作成された資料1-1-2の情報の使用は,不正競争(不競法2条1項7号)に当たる。❞

そして、被告会社に対して、裁判所は下記のように資料1-1の情報について、被告会社は営業秘密不正開示行為があることを知り又は少なくとも重大な過失によって知らずに取得したと認めました。
❝(イ) 前記(1)ウ(エ)及び(1)エのとおり,被告会社共有フォルダ内に原告の標準構成明細のデータが保存されており,同フォルダを通じてP4及びP8がこれに含まれるデータを業務上使用する USBメモリに保存している。しかも,そのフォルダ名から,当該データが,本来は被告会社にあるはずのない原告のデータであることは容易に理解し得る。
これらの事情を総合的に考慮すると,被告会社は,資料1-1の情報につき,営業秘密不正開示行為があることを知り又は少なくとも重大な過失によって知らずに,これを取得したものと認められる。すなわち,被告会社による資料1-1の情報の取得は,不正競争(不競法2条1項8号)に当たる。❞
なお、前記(1)ウ(エ)及び(1)エは、下記です。
❝(1)  関連する事実
・・・
ウ 被告P1の被告会社入社と被告会社のJUMPシステム開発等
・・・
 (エ)被告P1は,被告会社入社後,被告会社のパッケージリフォーム商品の開発及び仕入交渉等を単独で担当するようになった。・・・
被告P1は,その頃,本件比較表を,当時パッケージリフォーム商品の仕入を担当していたP4を含む被告会社従業員に示した上で,被告会社の粗利額,粗利率が低いことについて厳しい口調で叱責した。その際,P4は,被告P1からそのデータをもらい受け,業務上使用する資料等を記録する自己のUSB メモリに保存した。また,本件比較表及び関連資料である上記標準構成明細のデータ(「JE構成明細比較.xls」)は,被告会社共有フォルダの「Edion」フォルダ内に保存されたことにより,被告会社スマートライフ推進部所属の従業員であれば閲覧可能な状態に置かれた。
・・・
エ 被告会社共有フォルダに保存されたデータ
被告会社共有フォルダには,「Edion」という名称のフォルダが存在する。同フォルダには,「(旧)商品作り」,「1P1」,「110218 エディオン様マスター」等のフォルダが存在する。このうち,「(旧)商品作り」には,「J-E 構成明細比較.xls」のファイルがあるほか,標準構成明細,プランニングチェックシート等のデータが保存されている。
スマートライフ推進部の従業員は,上記「Edion」フォルダの存在を認識しており,同フォルダ内のデータを閲覧するのみならず,前記のとおり,P4やP8は,同フォルダ内のデータを自己が使用するUSB メモリに保存していた。❞
すなわち、原告の営業秘密を被告P1から受け取った被告会社従業員P4やP8が「Edion」という名称のフォルダを作成し、そこに原告であるエディオンの営業秘密を保存したという行為に対して、被告会社は不競法2条1項8号違反であると判断されたことになります。

確かに、不競法2条1項8号には「取得」も不競法違反として含まれています。このため、転入者が転職先企業において前職の営業秘密を開示した段階で、当該転職先企業はこの営業秘密を否が応でも取得したこととになり、不競法違反の可能性が生じます。これは転職先企業において非常に厳しい状況であり、このような状況に陥ることは避けなければなりません。

さらに、被告は、原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準構成明細のテンプレートである資料1-1-2を作成して、被告会社従業員P3にメールしています。しかしながら、これについて裁判所は、下記のように被告会社の不競法違反に認めていません。
❝他方,被告P1は,被告会社において,その在籍中は被告会社のパッケージリフォーム商品の開発等を単独で担当していたものであり,その際に使用する標準構成明細も,原告の標準構成明細のデータ及び原告在籍中の被告P1の経験に基づき,他の被告会社従業員の関与のないままに作成されたものとうかがわれる。そうすると,被告会社における標準構成明細(甲86,87)について,被告会社が,被告P1の営業秘密不正開示行為により作成されたものと知っていたこと又は知らないことにつき重大な過失があると認めるに足りる証拠はない。
したがって,資料1-1-2の情報については,被告会社の行為は,不正競争(2条1項8号)に当たらない。これに反する原告の主張は採用できない。❞
資料1-1-2について、被告会社の不競法違反が否定された要因として「被告P1以外の被告会社従業員の関与がなく、原告の営業秘密を使用したこと被告会社が知ることもできなかった」ことにあるのでしょう。すなわち、すでに被告会社従業員であるものの転入者である被告P1が独自に作成した資料を被告会社で開示しても、被告会社は不競法違反にならないようです。
従って、本事件において、仮に被告P1が原告の営業秘密である情報1-1を被告会社で開示することなく、自身が独自に資料1-1-2を作成して、それを被告会社が使用しても被告会社は不競法違反にならないと思われます(原告から被告会社へ警告等がされた後も使用し続けたら、不競法2条1項8号違反となる可能性はあると思います)。

次回につづきます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2023年5月17日水曜日

営業秘密の流入リスク(知財リスク)

営業秘密の不正な持ち出し(不正流出)は以前からありましたが、近年それが転職に伴うものであることが多くなるにつれて、企業の関心度も高まっているように思えます。

企業における営業秘密の不正流出に対する対策としては以下のようなものがあるでしょう。
このような措置のうち、複数を行っている企業は多いかと思います。
 ①就業規則への秘密保持条項の規定
 ②就業規則とは別に秘密管理規定の策定
 ③営業秘密に関する研修
 ④アクセス権限管理
 ⑤アクセス履歴
 ⑥転職者への秘密保持誓約
しかしながら、上記のような対策を行っても、前職企業の営業秘密を持ち出す転職者は存在します。このような転職者が営業秘密を持ち出す理由は、ただ一つ、転職先企業で開示・使用するためです。

ところで、転職者から前職企業の営業秘密を開示された企業は、その営業秘密を自由に使用してもよいのでしょうか。当然、そのようなわけはありません。
例えば、営業秘密の不正競争を規定した不正競争防止法2条1項8号では以下のようにして、転職者等によって不正に持ち出された営業秘密であることを知って、他者(転職先企業等)が使用等することが不正であると規定しています。
"不正競争防止法2条1項8号
その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為"
また、刑事罰が規定されている不競法21条1項7号にも、同様の規定があります。

すなわち、転職者が前職企業から持ち出した営業秘密を転職先企業で開示し、転職先企業が当該営業秘密を使用すると、転職先企業やその従業員等が民事的責任、刑事的責任を負う可能性が有ります。より具体的には、民事的責任としては損害賠償及び差し止め等であり、刑事的責任としては罰金や従業員には懲役刑の可能性もあります。

以下の表は、日本企業間の転職に伴う営業秘密の流入事例です。


この表のように、既に億単位の損害賠償になった事例もあり、営業秘密の流入は特許権等の侵害と同様に知財リスクと考える必要があると思われます。実際に、転職者からの営業秘密の流入をリスクとして捉え、それを使用しないという正しい選択を行っている企業もあります。

なお、他社の営業秘密を侵害してしまった場合には、当然、その営業秘密の使用等の停止も求められます。ここで、特許権であれば、特許権の存続期間が終了した後には、元侵害者であったとしても当該特許権に係る技術の自由な実施が可能となります。

一方で、営業秘密には存続期間という概念がありません。したがって、営業秘密の侵害者は、その営業秘密の使用停止が何時まで続くのかはわかりません。すなわち、他社の営業秘密を用いて製造した製品等の製造販売は何時まで続くのかが不明確です。営業秘密はその情報が公知になれば、営業秘密ではなくなるため、公知になるまで待つしかなく、実質的に永久に当該製品の製造販売ができないかもしれません。
また、特許権はその技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるため、その外縁が明確です。しかしながら、営業秘密の技術的範囲の外縁はどうでしょうか。例えば、侵害した営業秘密に非公知の新たな技術的な課題も含まれていたら、この課題を解決するための技術手段の開発もできないかもしれません。
このように、営業秘密の侵害によって営業秘密の使用停止となった場合には、停止となる期間や技術的範囲が良く分からず、侵害企業は過剰な対応を取らざる負えなくなるかもしれません。

さらに、特許権侵害とは異なり、営業秘密の侵害は刑事罰となる可能性があります。このため、侵害企業に罰金が科される可能性があります。
さらに、加害企業の従業員(営業秘密を持ち込んだ転職者とな異なる従業員)が刑事罰を受ける可能性すらあります。例えば、不正に持ち込まれた営業秘密をそれが他社の営業秘密と知って使用等した従業員が特定されれば、当該従業員は刑事罰を受けるかもしれません。
このように従業員が最悪の事態となることを防止するためにも、営業秘密の流入は避けなければなりません。

そこで、他社の営業秘密の不正流入を防止するためには、以下の措置が考えられます。
 ①自社への転職者に対する注意喚起
 (前職企業の営業秘密を持ち込んではいけないことを転職者に説明)
 ②社員研修
 (不正流入が疑われる他社の営業秘密の不使用を周知)
 ③社内相談制度
 (営業秘密の不正流入疑いを認知した場合に相談)
 ④知財活動を介した不正流入検知
 (新規開発技術の開発経緯から営業秘密の不正流入を検知)

以上のように、転職者による営業秘密の不正流出とセットで不正流入が生じる可能性があります。この不正入流を防止することは知財リスクの観点から非常に重要なことです。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2023年4月29日土曜日

グローバルファウンドリーズが企業秘密侵害等でIBMを提訴

先日、半導体製造を行っている米国のグローバルファウンドリーズ(GF)がIBMを企業秘密(Trade Secret)等の侵害で提訴したという報道がありました。
より具体的には、GFの知的財産や企業秘密をIBMがインテルや日本企業のラピダスとの間で共有したとしてIBMを提訴したとのことです。


そこで、GF、IBM、ラピダスの関係をWikipediaや報道内容を参考に簡単にまとめてみました。

2009年    GF設立(AMDが2008年に半導体製造部門を分社化した「The Foundry Company」が母体)。
2015年    GFがIBMの半導体事業を取得。GFはIBMの半導体関連特許も取得、IBMは半導体の微細化加工技術などの研究開発は継続。
2018年8月  GFが7nmプロセスの開発無期限延期を発表
2021年6月  IBMが2nmチップを発表。
2022年8月   ラピダス設立。
2022年12月  IBMとラピダスが2nmの半導体製造で提携。ラピダスは2nmの製品の技術ライセンスをIBMから受ける。
2023年4月  GFがIBMを企業秘密侵害で提訴。

このように、GFはIBMの半導体事業を取得したものの、IBMは半導体の微細化加工技術の研究開発を続け、最先端技術となる2nmプロセスを開発しています。そして、設立間もないラピダスは2022年12月にIBMとの間で2nmの半導体製造に関するライセンス契約を行いました。そして、その直後といってもよい2023年4月のタイミングでGFがIBMを企業秘密侵害等で提訴したことになります。

なお、GFは2018年には7nmプロセスの開発無期限延期を発表したとのことなので、現在のGFは2nmプロセスの技術は有していないと思われます。
さらに、GFが7nmプロセスの開発延期を決定したことに対して、IBMがGFに対して契約不履行で提訴との報道も2021年にありました。

上記のように、IBMから半導体事業を取得したGFは微細化技術に遅れがあり、その一方でIBMは微細化の最先端技術を有しています。そして、そのIBMがラピダスやインテルに微細化技術のライセンス提供を行うことにより、GFは市場競争力を失いつつあるのが現状であり、このような市場環境でのIBMに対するGFの提訴です。


ところで、GFによるIBMの提訴は、確たる証拠があってのことでしょうか。
また、GFは、IBMがラピダスとの提携以降に元GFの技術者を積極的に採用していると主張しており、GFはその採用の停止も求めています。GFとしては、そのような元GFの技術者が自社の情報をIBMへ不正に持ち込んでいるとも主張したいかのようです。
しかながら、IBMとラピダスが提携を発表したのは2022年の12月であり、GFが提訴した2023年の4月において、どの程度の情報がIBMからラピダスに提供されたのか疑問です。そもそも、IBMがラピダスに提供する情報は主に2nmのプロセス技術でしょうから、既に7nmプロセスの開発すら行っていないGFの技術が混在している可能性は低いと思います。
また、IBMがGFの特許権を侵害しているのであれば、GFは特許権侵害として提訴した方がよいようにも思えますが、そのようでもないようです。
このようなことを考えると、GFによるIBMの提訴は勝ち目が薄そうな気がします。
そうであるならば、やはり他の目的があっての提訴でしょうか。

ここで、GFとIBMとの報道を目にして、思い出した報道がありました。
ボンバルディアによる三菱航空機の提訴です。
これは、ボンバルディアの元従業員を複数人採用した三菱航空機がこの元従業員からボンバルディアの機密情報を不正に入手したとして、ボンバルディアが三菱航空機を提訴したものの、その後に、三菱重工がボンバルディアの小型機事業を買収したことにより、この提訴も取り下げられたというものです。

なお、客席が数十人程度の小型機(リージョナルジェット)は競争が激しく、ボンバルディアもこの市場では苦戦していたようです。そのようなことを考えると、ボンバルディアは事業買収の交渉の席に三菱重工を座らせるために、営業秘密侵害を用いた提訴をまず行ったのではないかとも思えます。

そもそも、競合他社の元従業員を採用したら、この元従業員を介して当該競合他社の営業秘密が流出・流入する可能性は想定されることであり、確たる証拠が無くても人材の移動という事実だけで、勝敗は別として提訴を行い易いようにも思えます。
そして、ボンバルディアによる三菱航空機の提訴の例のように、GFも他の目的があってIBMと交渉するために元従業員の採用停止も含む企業秘密侵害で提訴したのではないかと思えます。
その目的とは、GFもラピダスやインテルのように2nmプロセスの技術提供をIBMから受けるということではないでしょうか。
もし、IBMから技術提供を受けることができれば、自社開発を断念していた最先端の微細化技術を手に入れることができ、自社の競争力を確実に高めることができるでしょう。IBMは、ラピダス、インテル、その他の企業にも技術提供を行っているようなので、GFへ技術提供を行う可能性もあるのではないでしょうか。

以上のように、GFによるIBMの提訴はその経緯からしてGFが勝訴する可能性は低いように思えます。そうであるならば、ラピダスがIBMからの技術提供を受けられなくなる可能性も低いでしょう。しかしながら、もしGFがIBMから技術提供を受けるとのようなことになると、ラピダスの競争相手が増えることになり、それはそれでラピダスにとっては好ましくない結果となるかもしれません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2023年3月28日火曜日

営業秘密刑事事件数の推移

先日、警察庁生活安全局から「令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について」が公表されました。

これによると、営業秘密侵害事犯の検挙事件数は昨年度29件であり、他の事件に比べると数は少ないものの、過去最多であり下記グラフのように右肩上がりに増加しています。
これは、転職等による人材流動が増加していることに伴うと考えられますが、企業も営業秘密の不正な持ち出しは犯罪であるという認識が高まり、不正な持ち出しを監視するシステム構築が進み、不正な持ち出しの発見が多くなっていると想像されます。



営業秘密の侵害事件が報道されると、被害企業の情報管理体制等を問題視する傾向があるように思えますが、それは間違いと考えています。当然、営業秘密の不正な持ち出しが全く無いことが理想ですが、それでも持ち出す人は必ず存在します。これに対して、情報管理体制が適切であるからこそ、営業秘密の不正な持ち出しを発見できているとも考えられるためです。

一番良くないことは、営業秘密の不正な持ち出しを発見する体制が整っておらず、営業秘密を持ち出されているにもかかわらず、それを発見できないことです。そのような企業は、「自社からの営業秘密の流出はない」とのような誤った認識を持つことになります。

また、下記は主な営業秘密流出事件の判決の一覧です。

一昔前は、顧客情報等の販売を目的とした営業秘密の流出が多かったようにも思えます。典型例としては、携帯電話の加入者情報でしょう。近年では、このような販売等を目的とした営業秘密の流出少なくなっているようです。この理由は、販売目的とした営業秘密の流出は、直接的な金銭の授受があるため、犯罪意識を高く感じるためかもしれません。

一方で、近年では上記のように転職先で開示・使用することを目的とした営業秘密の流出が多くなっています。これには、直接的な金銭の授受は発生しませんし、場合によっては自分が作成した、自分が業務に用いていた、という意識があり、モラルとしては良くないけれど犯罪ではない、という誤った認識があるのかもしれません。

さらに、転職時の流出ということもあいまって、近年では技術情報の流出も多くなっているようにも思えます。これは知財の観点からすると、転職者が前職企業の技術情報を持ち込んだ結果、違法に流入した他社技術と自社技術とが混在する可能性があります。もし、このような状況に陥って他社の営業秘密侵害となり、差し止めとなると特許権の侵害よりも困ったことになります。
特許権の侵害でしたら、当該特許の存続期間が経過するとそれまで侵害であっても、その後は自由に実施できます。しかしながら、営業秘密には存続期間の概念がありません。そうすると、差し止めの状態が何時まで続くのか分かりません。
このような、営業秘密の流入リスクは、今後顕在化してくるでしょう。そうならないためにも、営業秘密の流出・流入には細心の注意を払う必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2023年3月12日日曜日

日本ペイントデータ流出事件の民事訴訟(和解)

日本ペイントの元執行役員が菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出して菊水化学で開示・使用した事件があり、日本ペイントは元執行役員を刑事告訴し、菊水化学と元執行役員に対して民事訴訟を起こしていました。
先日、この民事訴訟について、日本ペイントと菊水化学との間で和解が成立したとのことです。これに関する費用として、和解金を含む訴訟費用3億7200万円(372 百万円)が菊水化学の特別損失として計上されています。
なお、刑事事件の被告である日本ペイント元執行役員は、持ち出したデータの営業秘密性を高裁まで争いましたが、懲役2年6月、執行猶予3年、罰金120万円の判決となっています。

<参考ニュース>
・菊水化学工業、日本ペイントHDと訴訟和解 特損3億円(日本経済新聞)
<参考ページ>
日本ペイントデータ流出事件(過去の営業秘密流出事件)

日本ペイントと菊水化学との民事訴訟において、どの様な主張が行われたのかは当然分かりませんが、刑事事件の結果もあるので、菊水化学が日本ペイントから持ち出されたデータの営業秘密性を否定することは難しいでしょう。
また、日本ペイントは、菊水化学による不正競争防止法2条1項8号違反を主張したのではないかと思います。
不正競争防止法2条1項8号
その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
上記8号に照らし合わせると、菊水化学が「営業秘密不正開示行為であることを知って」日本ペイントの営業秘密を使用等したとは思えないので、菊水化学が「重大な過失」を有していたか否かが争点になったのかと想像されます。


ここで、この事件の経緯は刑事事件判決(名古屋地裁令和2年3月27日 平28(わ)471号 ・ 平28(わ)662号)によると、以下の通りです。なお、下記の被告人は、日本ペイントの元取締役です。

(1) 被告人は、昭和53年にa社(日本ペイント)に入社し、平成22年3月にa社を退職し、同年4月に同社の子会社であるb社に転籍。
(2) 被告人は、平成25年2月12日に辞表を提出し、同年3月15日に同社を退職。
(3) 被告人は、b社に在籍中、同社本社内において,システムにアクセスして本件情報が記載された商品設計書を取得し、これを基に本件各塗料の原料及び配合量の情報についての完成配合表①、完成配合表②を作成。
(4)  被告人は、平成25年2月にc社(菊水化学)から同社の取締役への就任の打診を受け、同年4月にc社に入社して同年6月に同社の取締役に就任。
(5)  被告人は、同年4月頃にc社において、完成配合表①を基に作成した推奨配合表①をc社の従業員Aらに手渡す。
(6)  被告人は、同年8月2日に完成配合表②を基に作成した推奨配合表②を添付した電子メールをc社の従業員Bに送信。
(7)  c社は、被告人により開示された情報を用いて塗料X、塗料Yをそれぞれ開発製造して販売。

上記経緯から、菊水化学へ転職してきた日本ペイントの元取締役は、転職後に時間を置かず推奨配合表を菊水化学の従業員らに渡しています。元取締役は、菊水化学において取締役という役職でもあり、自身が短期間に菊水化学内で研究開発を行って、菊水化学での業務として推奨配合表を作成したとは考えられません。
そうすると、菊水化学は、この推奨配合表が日本ペイントから持ち出された情報に基づいて作成されたのではないか、ということを想像できるのではないでしょうか。そうであれば、菊水化学に重過失が有ったと考えられるのかと思います(営業秘密侵害においてどのような場合に「重過失」となるのか判例が少ないため、定かではありません。)。
おそらく、このようなやり取りがあり、その結果、菊水化学が金銭を日本ペイントに支払うという和解が成立したのではないかと思います。

菊水化学は、訴訟費用として和解金を含む3億7200万円を計上しています。訴訟費用とありますが、おそらくこの金額のほとんど、すなわち3億円以上が和解金かと思われます。
これにより、菊水化学は、2022 年4月1日~2023 年3月 31 日における個別業績予想を583百万円かた395百万円に下方修正していることから、上記和解金が菊水化学の業績に少なからず影響を与えていることが分かります。また、菊水化学は、和解金の支払いだけでなく、推奨配合表等の廃棄等も行っているかと思います。
なお、菊水化学は、当該推奨配合表を用いたと思われる製品の製造販売を2017年3月の段階で停止しているようです。

このように、本事件は、営業秘密の流入リスクが顕在化した例といえるでしょう。
ここで、気になることがあります。
このような他社の営業秘密の流入に対する影響はいつまで続くのかということです。
特許権であれば、特許権の存続期間が過ぎると誰でも当該特許権に係る発明を実施可能となります。しかしながら、営業秘密には存続期間という概念はありません。

日本ペイントから持ち出されたデータは非常に有益なものなのでしょう。だからこそ、日本ペイントの元取締役は菊水化学への転職時に持ち出し、菊水化学も使用したのだと思われます。このため、菊水化学は同様の製品を再び製造販売したいと思うかもしれません。これが仮に特許権の侵害であれば、当該特許権の存続期間の経過後であれば、侵害した製品と同様の製品を製造販売しても問題はありません。
一方で営業秘密に関しても、流入した他社の営業秘密を使用せずに独自に開発すれば問題はありません。しかしながら、他社の営業秘密が自社に流入した場合には、当該他社の営業秘密を使用していないことを証明可能とする必要があるでしょう。
そのためには、まず、他社の営業秘密を使用した製品を製造した技術者を同様の製品の開発に携わらないようにするべきでしょう。当該技術者が当該他社の営業秘密を記憶している可能性があるからです。
そして、当該他社の営業秘密を使用せずに製品の開発を行ったことを証明できる各種データや資料を会社が存続している限り、残す必要があるかもしれません。
さらに、そもそも、同様の製品を製造販売するきっかけが当該他社の営業秘密とは無関係であることの証明も必要かもしれません。特許権の侵害は、特許請求の範囲で判断することができます。しかしながら、営業秘密の使用は、営業秘密から得られる情報そのものだけなのでしょうか。仮に、流入した営業秘密が、非公知の技術的な課題を解消するためのものである場合には、当該課題も営業秘密と捉えることができるかもしれません。流入した営業秘密に新たな課題を示す内容が明確に含まれていたらなおのことです。

このようなことを考えると、他社の営業秘密が流入した場合、その後に当該他社の営業秘密の使用を疑われそうな製品を開発することに躊躇することになります。その結果、自社はビジネスチャンスを失うことになるかもしれません。
営業秘密には存続期間の概念がないこと、営業秘密の使用の範囲が良く分からない、もしかすると非常に広い範囲なのかもしれない、とのようなことを考慮すると、営業秘密侵害は特許権侵害よりもその影響は大きいのかもしれません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2023年2月28日火曜日

かっぱ寿司営業秘密事件について

はま寿司の元取締役から転職したかっぱ寿司の元社長が、はま寿司の取引情報等の営業秘密を不正に持ち出して、かっぱ寿司で開示、使用したとして不正競争防止法違反(営業秘密侵害)で逮捕された事件について、初公判が始まっています。

この事件は、かっぱ寿司の元社長の公判と、かっぱ寿司の運営会社であるカッパ・クリエイト社及びかっぱ寿司の元商品部長との公判は分けて行われているようです。公判では、かっぱ寿司の元社長は営業秘密侵害について認めている一方で、運営会社及び商品部長は無罪を主張しているとのことです。

ここで、報道では有名企業の社長が取締役であった前職ライバル企業から営業秘密を不正に持ち出したとして、大きく報道されています。しかしながら、取締役等の役職者が営業秘密を不正に持ち出し、他社に転職したり、独立することはさほど珍しくはありません。従業員に比べて役職者は、営業秘密に対するアクセス権限も多く有しているでしょうし、転職先等で成果を挙げることに対するプレッシャーはより大きいでしょうから、役職者ほど営業秘密を不正に持ち出す可能性が高いことは容易に想像できます。

一方で、本事件で特徴的なことは、営業秘密の開示先企業及びその従業員(元商品部長)も罪に問われていることにあります。開示先企業が罪に問われることは、今回が初めてではありませんが、多くはありません。(過去には2000万円の罰金を科された企業もあります。)
また、開示先企業の従業員(元商品部長)が逮捕されることは過去にありましたが、私の知る限り不起訴となっています。仮に、開示先企業の従業員が有罪となれば、初めてのことかもしれません。


しかしながら、この元部長に関しては非常に気の毒に思います。元部長は、公判において 元社長からの指示であったと証言しているようで、これは偽らざる本心でしょう。
元社長からはま寿司の情報を渡され、この情報に基づいて資料を作成するように指示された場合、元部長はこれを断れるでしょうか。断るとしたら、「元社長の行為は営業秘密侵害であり、刑事告訴の対象となる。」とのように元部長は元社長に進言しなければなりません。果たして、不正競争防止法に詳しくないであろう人が、それを言えるでしょうか。また、言った場合にどのようになるでしょうか。このようなことを部下に言われたら、結果を早期に出したい元社長は不愉快に感じ、元部長を退職に追い込んだかもしれません。すくなくとも、元社長との関係性は悪化することが想像されます。
すなわち、起訴された元部長は実質的に選択肢が無かったとも思われます。仮に、元社長がかっぱ寿司に転職して来なければ、この元部長は逮捕・起訴されることもなく、今も何事もなくかっぱ寿司で働いていたことでしょう。

このようなことは、誰の身にも生じる可能性が有ります。すなわち、上司がライバル企業から転職してきて、このライバル企業の情報を渡された部下となる可能性が誰にでも有るということです。上司の指示通りにライバル企業の情報に基づいて仕事を行うと、営業秘密侵害罪で逮捕される可能性が有ります。一方、上司の指示を断ると、最悪、退職に追い込まれるかもしれません。このような部下は、どちらを選択しても悪い方にしか進めません。

このような事態を防ぐことができるのは、やはり自身が所属する企業しかありません。すなわち、転職してきた者に対して、前職企業等の営業秘密を持ち込ませないということです。これに対しては、例えば、入社時に営業秘密の不正な持ち込みは刑事罰又は民事的責任を負うことを説明しつつ、誓約書にサインを求めることが考えられます。
しかしながら、それでも営業秘密を持ち込む者がいるかもしれません。そのために、従業員自身が営業秘密の不正使用は違法であることを正しく認識し、仮に他社の営業秘密の持ち込みを発見した場合には、法務部門やコンプライアンス部門に報告し、当該営業秘密の使用を防止する枠組みを作るべきでしょう。
これにより、もし、ライバル企業から転職したきた上司が部下にライバル企業の営業秘密を開示した場合には、当該部下が法務部門等に報告することで、当該部下が営業秘密侵害となるような行為を行うことを未然に防止できます。

また、このような報告を受けた法務部門は、当該営業秘密が持ち出された事実を転職者の元所属先企業に報告すべきでしょう。これは、結果的に、自社が当該営業秘密を不正使用していないという主張をし易くなり、自社が刑事及び民事的責任を負うことの防止となり、自社を守ることになります。

営業秘密に対して、自社の営業秘密の漏えい対策を行う企業は多くありますが、他社から自社に営業秘密が持込まれることへの対策を行っている企業は多くないように思えます。
しかしながら、かっぱ寿司のような事態が生じている現在、営業秘密の不正な持ち込みに対する対応を行わないと、自社の従業員が不幸にも逮捕されたり、自社そのものが責任を問われる可能性が生じる可能性が有ります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2022年10月10日月曜日

かっぱ寿司の元社長による営業秘密漏えい事件(刑事事件)

先週からかっぱ寿司の社長による営業秘密の漏えい事件(刑事事件)が大きく報道されています。刑事事件としての営業秘密の漏えい事件は少なからず生じており、そのほとんどはニュース記事で少し取り合げられるだけで、大きく話題になることはありません。
かっぱ寿司の事件が大きく報道される背景としては、逮捕された社長が競合他社であるはま寿司の元取締役であり、かっぱ寿司とはま寿司は共に回転ずしチェーンとして多くの人に身近な存在であると共に、ライバル企業である、という背景があるためでしょう。

ここで、営業秘密の漏えいは”元従業員”が行う場合が多いと思われるかもしれませんが、部長以上の役職を持つ者が転職時に前職の営業秘密を持ち出す事件も多くあります。役職を有する者は多くの営業秘密に対するアクセス権限があるでしょうし、その営業秘密の有益性もよく理解しているでしょう。また、転職先でも好待遇の場合が多いでしょうから、転職先での成果をより求められるというプレッシャーも感じるでしょう。

例えば、日本ペイントデータ流出事件は、日本ペイントの元執行役員が競合他社である菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出しています。また、リフォーム事業流銃事件では、エディオンの元部長が転職先の上新電機に営業秘密(リフォームに関する商品仕入れ原価や粗利のデータ等)を漏えいしています。これらの事件では、共に執行猶予付きですが懲役刑となっています。
営業秘密の漏えい事件では、執行猶予が付く場合が多いですが、被害企業の損害が多い場合等には執行猶予がつかない場合もあります。本事件は、食材の原価や取引先の情報等が営業秘密のようであり、これらの情報が回転ずしチェーン店にとって重要であることは想像に難くありません。そうすると、はま寿司の損害が大きいと裁判所に判断され、元社長は執行猶予がつかない懲役刑となる可能性もあるかもしれません。

参考ブログページ


また、前社長は、不正に持ち出した営業秘密をかっぱ寿司社内で開示して、かっぱ寿司はそれを使用していたという疑いがあります。

ここで、営業秘密を不正に持ち出して他社に転職した者には、大きく分けて下記の2パターンがあると思います。
・第1パターン:営業秘密を持ち出したものの転職先等で開示しないパターン
・第2パターン:営業秘密を持ち出して転職先で開示しするパターン

第1パターンは、例えば、不正に持ち出した営業秘密を転職先で開示するきっかけが無かったのかもしれませんし、開示しなければ罪に問われないと思って開示しなかったのかもしれません。何れにせよ、不正に持ち出した者は罪に問われる可能性がありますが、持ち出された企業は実質的な損害は生じないでしょう。

第2パターンは、さらに2パターンに分かれるかと思います。
・第2パターンA:転職先企業が開示された他社の営業秘密を使用しない。
・第2パターンB:転職先企業が開示された他社の営業秘密を使用する。
第2パターンAは、転職先企業が営業秘密の流入リスクを理解している場合でしょう。営業秘密の流入リスクを理解していなければ、転職者が良い情報を持ってきてくれたと考え、第2パターンBとなるでしょう。
また、第2パターンAの場合は、転職先企業が営業秘密の漏えい元(転職者の前職企業)に問い合わせる場合もあり、そうすることで営業秘密の漏えいに自社が関与していないことを証明することにもなるでしょう。

一方、第2パターンBは、不正に持ち出された営業秘密を転職先が使用することになるので、この転職先も罪に問われる可能性があります。この場合、転職先企業は億単位の罰金刑となる可能性があり、当然、社会的信用も大きく失われるでしょう。
さらに、それだけに留まらず、被害企業から民事訴訟を提起され、損害賠償や当該営業秘密の使用差し止めを求められる可能性があります。損害賠償の額も億単位になる可能性がありますし、何より営業秘密の使用差し止めはその後の経営に大きな影響を与える可能性があります。

今後、被害企業であるはま寿司はかっぱ寿司に対して損害賠償及び営業秘密の使用差し止めを求めて民事訴訟を提起する可能性が相当高いと思われます。
報道によるとかっぱ寿司は、「はま寿司のデータと自社の商品を比較して、商品開発に利用する」等していたようです。そうすると、営業秘密の使用差し止めが裁判所によって認められた際には、当該商品は今後販売できない可能性もあるでしょう。また、はま寿司から持ち出された営業秘密には、はま寿司の取引先に関する情報も含まれていたようです。もし、この営業秘密を用いてかっぱ寿司が新たな取引先を開拓していたらどうなるのでしょうか?その取引先とは今後取引をしてはならないのでしょうか?不正に取得した営業秘密を使用してはならないとは、いったいどの範囲までのことになるのか私もよく分かりません。

このように、転職者によって転職先企業に営業秘密が持ち込まれ、転職先企業がそれを使用したとすると転職先企業が多大なる損害を被る可能性があります。
したがって、企業は営業秘密の漏えい(流出)リスクと共に流入リスクも意識しなければなりません。例えば、転職者が前職企業の社名等が表示された資料を開示したとすると、それは高い確率で不正に持ち込まれた営業秘密である可能性があります。このような場合には、当該情報を使用しないだけでなく、自社内で当該情報が広まらないように対応すると共に転職者から当該情報の入手経路を確認し、もし前職企業の営業秘密である場合には前職企業に問い合わせるべきでしょう。また、転職間もない転職者が自社で得たとは思えないような情報を開示した場合にも同様です。

このため、企業は転職者が転職間もない時期に開示する情報には特段の注意が必要であり、自社内で作成されたと思えない情報はその入手経路を確認しなければなりません。転職者が部下や同僚であれば、入手経路を確認し易いでしょうが、転職者が上長さらには社長であっても躊躇してはならないでしょう。
万が一、開示された情報が他社の営業秘密であり、それを使用すると自社が責任を負うことになるでしょうし、もしかしたら、自身も逮捕されるかもしれません。現に、本事件では、元社長だけでなく、かっぱ寿司の部長職の人物も逮捕されています。自社に営業秘密が不正に持ち込まれると、それを知って使用した場合には自身も逮捕される可能性を意識しなければなりません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2020年10月19日月曜日

刑事事件:導電性微粒子情報流出事件

先週報道された積水化学工業の元従業員が営業秘密(スマートフォンのタッチパネルに用いられる導電性微粒子の製造工程に関する技術情報)を中国企業に流出させ刑事告訴された事件についてです。

この事件で話題になったことは、元従業員が積水化学に在職中にSNSを通じて中国企業と通じ、情報を流出させていたということです。ちなみに、このSNSはLinkedInとのことです(SankeiBiz 迫る中国の産業スパイ 手段は多様化、取引先装いSNSで接触か)。
また、元従業員は、情報流出が発覚した後に解雇されており、中国企業(営業秘密の柳州先企業であるかは不明)に転職したようです。

上記報道によると「元社員も「潮社側から何か情報を引き出せないか」などと考えて、」とあり、また、NHKの報道(情報漏えい疑いで書類送検)によると「自分の研究が評価されていなかった。情報を渡す代わりに中国の会社の情報を入手して新たな製品を開発し、上司や会社を見返したかった」と供述しているようです。
このように元従業員は、営業秘密を中国企業へ提供する替わりに、この中国企業が有する情報を取得することが目的だったようです。

この目的は、2重の危険性を有しています。一つは、自社の営業秘密を他社に流出させることであり、もう一つは、他社の営業秘密を自社に流入させることです。
今回の事件は、元従業員は中国企業から情報を取得することはできなかったようですが、もし、元従業員が中国企業から情報を取得し、それを積水化学内で使用等していたら面倒なことになったかもしれません。

もし、このようなことが起きると、積水化学自体が不正競争防止法2条1項8号又は9号違反となる可能性が有るからです。2条1項8号又は9号は、他社の営業秘密について不正開示行為があったことを知って又は重大な過失により知らないで使用等する行為であり、主に営業秘密が流入した企業等がその対象となります。


しばらく前は、他社が保有する情報を取得することは”良し”とされていたかもしれません。
実際、不正競争防止法で営業秘密侵害が規定されたのは、平成2年であり、このときは刑事罰は導入されていません。刑事罰が規定されたのはさらに近年の平成15年です。
このため、営業秘密の侵害によって刑事罰を受ける可能性を認識していない会社員も多くいるでしょう。もし、そのような人が上司であったら、未だに他社の営業秘密を取得することを“良し”と考え、そのような指示を部下に与えている人がいるかもしれません。

しかしながら、他社の営業秘密を取得し、それを自社で開示や使用することは営業秘密侵害となるため、結果的に自社に損害を与える可能性が有ります。
このような事実を企業も従業員も認識し、誤った行動をとらないようにしなければなりません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年9月27日日曜日

刑事事件:ロボット情報不正取得事件

先日、元勤務先からロボット情報を不正に持ち出したとして、この元勤務先の元従業員が逮捕されました。近年、転職先で有利になる等の目的で行われるありがちな営業秘密流出事件です。

具体的には、報道によると「逮捕容疑は昨年8月20日、不正な利益を得る目的で会社のサーバーにアクセスし、営業秘密である産業用ロボットの設計図や生産ラインのレイアウト図など59点の情報をハードディスクにコピーして不正に取得したとしている。」(「ロボット情報不正取得疑い 勤務先から、41歳男逮捕」2020/09/24 産経新聞)とのことです。

なお、上記報道にもあるように元従業員は、「「データをコピーしたことに間違いはないが、不正な利益を得る目的ではない」と容疑を一部否認している。」とのことですが、「逮捕前の任意の調べに「(データを示せば)優遇されるのではないかと思った」と話したという。」との報道もあります(「ロボットの機密情報持ち出した疑い 転職した元社員逮捕」2020/09/24 朝日新聞)。
このように転職先で優遇されることを目的として、退職時に元勤務先の営業秘密を持ち出していたら、それを持って不正の目的となり、刑事事件となる可能性が高いです。
このような事実は、企業に勤める人は窃盗が犯罪であることと同様に、刑事事件化されて刑事罰を受ける可能性が有ることを理解すべきです。

また、他の報道によると元勤務先の取引先の情報も持ち出していたようです(「産業用ロボットデータ不正持ち出しで逮捕の男 取引先のデータも含まれていた」2020/09/25 CVCNEWS)。
これは、逮捕された元従業員の元勤務先は、営業秘密を持ち出された被害企業というだけでなく、他社に迷惑をかけた企業との立場にもなり得、信用を失いかねないことになります。
営業秘密の流出は、自社に関する情報の流出だけであれば、流出元の企業は被害企業となりますが、顧客情報等に代表されるような他社(他者)の情報が流出した場合には、当該他社(他者)に対しては加害企業とのような立場に立たされます。この典型例がベネッセ個人情報流出事件でしょう。


一方、元従業員の転職先企業は、どのような対応をしたのでしょうか?
これに関して報道によると「さらに転職先では逮捕容疑の59件を除くデータの一部について、紙の資料にして示したが、転職先は「同業他社のものはリスクがある」と提供を受けなかったという。」とあります(「ロボット情報持ち出し、転職先「リスクある」と利用断る」2020/09/25 朝日新聞)。

この転職先企業によるこの判断は適切以外の何物でもありません。
転職者が元勤務先の営業秘密を持ち出したとしても、それを自社(転職先企業)で開示させないことがベストですが、もし開示したとしても、その使用は不正競争防止法違反に該当することを理解し、その流入を組み止める必要があります。
このため、特に転職者が提供する情報については細心の注意を払うべきでしょう。
例えば、それまで自社では知り得ていなかった情報を自社で転職者が開示した場合には、その出所を確認するべきです。もし、その出所が転職者の元勤務先であれば、元勤務先の営業秘密の可能性が有ります。
このような意識を持たずに開示された営業秘密を使用して製品を製造販売した結果、刑事事件となり、当該製品の製造販売を中止した企業もあります

このように、転職者による営業秘密の持ち出しは、元勤務先にとっても損害を生じさせるだけでなく、その目的が転職先での使用であるので、転職先にも大きなリスク(営業秘密の流入リスク)を与えるものです。従って転職先企業は、転職者が元勤務先の営業秘密を持ち込まないように、例えば、入社決定時に元勤務先の営業秘密の持ち込みをしないように文章や口頭で説明し、また、入社後の研修等でも同様の説明をし、発覚した場合には元勤務先へ通告すると共に解雇することを予め説明することで、他社の営業秘密の流入を食い止める必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年9月13日日曜日

野村証券顧客情報流出事件

前回のブログでは、営業秘密(技術情報)の流入リスクについて述べました。
そうしたところ、営業秘密(顧客情報)の流入リスクを感じさせる事件が起きました。
野村証券の元社員が顧客情報を転職先(日本インスティテューショナル証券)へ流入させ、転職先で開示したというものです。

野村證券と日本インスティテューショナル証券とのプレスリリース及び報道によると、正確には、顧客情報の流出があったとの発表のみで、今のところ、刑事事件化及び民事訴訟には至っていません。このため、正確には”事件”ではありませんが、野村證券は法的措置も検討しているとのことなので今後、刑事事件化及び民事訴訟が提起されるかもしれません。

今回の野村証券の顧客情報流出で考えさせられることが下記のようにいくつかあります。
①元社員が野村證券の他の従業員を巻き込んでいること。
②転職先の証券会社の営業がどのようになるのか?
③顧客情報の発覚が転職先証券会社の内部通報であること。

流出した顧客情報が営業秘密に該当するという前提で上記①~③を考えたいと思います。

<①元社員が野村證券の他の従業員を巻き込んでいること。>

報道によると、元社員は「昨年10月から日本インスティテューショナルに勤務。今年1~7月に複数回にわたり、かつて部下だった野村社員に「社員教育のため」などとして、顧客の取引内容や野村とのやりとりに関する情報の提供を求め、入手していた。」(JIJI.COM「野村、275社の情報流出 元社員が関与、法的措置検討」)とあります。
このように、今回の顧客情報の流出に関して、部下であった野村証券の社員が関与しています。

この部下だった社員は、実際に不競法違反にあたるのか不明です。
その理由としては、元社員が「社員教育のため」といって情報の提供を求めたということから、野村社員は「不正の利益を得る等」の目的意識がなかったかもしれません。ただし、元社員から情報提供に際して金品の提供等を受けた場合には「不正の利益を得る目的」があったと解されるでしょう。
一方で、「不正の利益を得る目的」がなかったとしても、この部下であった社員は野村証券の就業規則等に反することになるでしょうから、野村証券から何らかの処分を受けることにはなるでしょう。今回の件は、金融庁からも説明を求められており、相当厳しい処分もあり得るのではないでしょうか?

このように、転職した元上司等から会社の情報提供を求められる場合があるようです。そのような場合には、元上司だとしても絶対に断るべきです。当該情報が営業秘密である場合には不競法違反に加担することなります。その結果、自身が刑事罰を受ける可能性もあります。「不競法違反になることを知りませんでした。」ではすみません。

また、この元社員は自身の行為が法に触れることを強く認識していたかもしれません。
その理由は、自身の営業活動に用いるつもりであるにもかかわらず、「社員教育のため」と嘘の理由をついて入手したことにあります。これは、元部下に違法性を感じさせないためについた嘘かもしれません。
また、転職と共に営業秘密を持ち出す事例では多くの場合、自身が在籍中に自身の手で持ち出します。しかしながら、最近では、退職者が退職前にどのような情報にアクセスしていたか、アクセスログを確認して営業秘密の持ち出しの有無を確認する企業も多いです。
野村証券もそのようなことをしているのかもしれません。そうすると、退職時に自身が持ち出すことは非常にリスクが高くなります。そこで、自身が退職した後に部下を介して顧客情報を取得したのかもしれません。
そうすると、この元社員は相当悪質性が高いとも思えます。


<②転職先の証券会社の営業がどのようになるのか?>

次に、元社員の転職先である日本インスティテューショナル証券は今後、今まで通りに営業活動ができるのでしょうか?
今回の顧客情報は、法人顧客275社に関する情報とのことです。日本インスティテューショナル証券は、当然、当該顧客情報を使用しないと野村証券に説明するでしょう。なお、JIJI.COMの報道には「第三者への流出は確認されておらず、情報は廃棄処理などを済ませたという。」とあります。
しかしながら、顧客情報に含まれていた275社のうち、日本インスティテューショナル証券の社員が何れかに営業を行なったとしたら、たとえ、当該顧客情報を使用していないとしてもその使用が疑われる可能性が考えられます。そうすると、日本インスティテューショナル証券は、当該顧客情報に含まれていた275社には今後営業に行けないことになります。

これが、営業秘密の流入リスクです。
有体物であれば、その破棄を客観的に確認することができます。しかしながら、知的財産でもある情報は無体ですので簡単にコピーを生成できます。このため、当該情報を破棄したと主張しても、それが本当であるのかは明確には分かりません。ある意味、永遠に不正使用が疑われることになります。

ここで、日本インスティテューショナル証券のホームページの会社概要を見ると、日本インスティテューショナル証券は、日興アセットマネジメント株式会社の100%子会社であり、従業員数も親会社との兼務者を含めて17とあります。今後、満足のいく営業活動ができない事態となれば、親会社としては日本インスティテューショナル証券の解散も視野に入るのではないでしょうか?

<③顧客情報の発覚が転職先証券会社の内部通報であること。>

JIJI.COMの報道には「日本インスティテューショナル社員の内部通報で8月下旬に発覚した。」とあります。これは、日本インスティテューショナル証券にとっては幸いだったと思います。例えば、日本インスティテューショナル証券に転職した元社員が野村証券の顧客情報を長く使用して営業をおこなったとすると、野村証券の被害が大きくなり、訴訟となった場合に日本インスティテューショナル証券の損害賠償額も大きくなるからです。

私は、営業秘密の流入を100%防止することはできないと思います。殺人が犯罪であることを理解しているにもかかわらず殺人時間が無くならないことと同様に、営業秘密の漏えい(不正取得)が犯罪であると理解しても、営業秘密を漏えいする人がゼロとなることはないでしょう。
そうすると、違法と理解していても不正取得した営業秘密を転職先等に持ち込む人もゼロにはなりません。そうであれば、不正取得された営業秘密が流入したとしてもそれを早期に見つけ出す体制を企業は整えるべきでしょう。

日本インスティテューショナル証券がそのような体制を整備していたかはわかりません。
しかしながら、内部通報によって発覚したということなので、転職してきた野村證券の元社員の違法行為に気が付いた社員がおり、日本インスティテューショナル証券自体もそのような不正行為を隠し立てせず、野村證券へ顧客情報の流入があったことを伝えることができたと思われます。このことは、結果的に、お互いの損害を小さくすることにもつながり良かったことであり、他の企業も参考にすべきことだと思います。

以上のように、この事件(事件化していませんが)は、ありがちな顧客情報の流出でありますが、実は営業秘密の流出・流入について考えさせられる事件でもあります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年9月7日月曜日

判例紹介:日本ペイントデータ流出事件の刑事事件判決 -他社の営業秘密流入リスクー

しばらく前に日本ペイントデータ流出事件の刑事事件判決(名古屋地裁令和2年3月27日 平28(わ)471号 ・ 平28(わ)662号)が出ていました。日本ペイントの営業秘密を持ち出したとされた被告人は、一審地裁判決では懲役2年6月(執行猶予3年)及び罰金120万円となっています。

この事件は、塗料の製造販売等を目的とする当時の日本ペイント株式会社(判決文ではa社)の子会社であるb株式会社の汎用技術部部長等として、被告人が商品開発等の業務に従事していました。そして、被告人は、a社の競合他社である菊水化学工業株式会社(判決文ではc社)にa社の営業秘密を漏えいし、自身もc社の取締役に就任したというものです。なお、被告人は、a社の元執行役員でもあったようです。


この刑事事件判決文は営業秘密を理解する上で参考になることがいくつかあり、今回は他社の営業秘密の流入リスクについて考えてみたいと思います。

まず、どのようにして被告人がc社に営業秘密を漏えいさせたのでしょうか?

判決文によると、被告人はb社に在籍中、同社本社内において本件情報(a社の塗料である○○及び△△(本件各塗料)の原料及び配合量)が記載された商品設計書を取得して、これを基に本件各塗料の原料及び配合量の情報についての電磁的記録(○○に関するものを「完成配合表①」、△△に関するものを「完成配合表②」)を作成しました。

そして被告人は、c社において完成配合表①を基に作成した「●●:ホワイト」と題する書面(以下「推奨配合表①」という。)をc社の従業員Aらに手渡しました。さらに被告人は、完成配合表②を基に作成した「▲▲:ホワイト」と題する電磁的記録(以下「推奨配合表②」)を添付した電子メールをc社の従業員Bに送信しました。

なお、被告人はc社に配合表を提供する前に、自ら提案書を持参してc社に赴き、被告人がb社を退職して塗料ビジネスコンサルタントを始める予定であることを伝え、被告人とのコンサルタント契約の締結を持ち掛けていたとのことです。すなわち、当初、被告人はb社を退職した後にc社のコンサルタントとなるつもりだったようです。

そしてc社は被告人により開示された○○に係る情報を用いて塗料「●●」を,△△に係る情報を用いて塗料「▲▲」を,それぞれ開発製造して販売しました。
その結果、被告人はa社から営業秘密の領得等により刑事告訴され、c社はa社から民事訴訟を提起されています。さらに、報道によると「事件を受け、菊水化学は住宅向け塗料など一部製品については昨年3月から販売を中止している。」(Sankei Biz 2017.7.15「日本ペイントが菊水化学を提訴」)とのことです。

まさに、c社(菊水化学)は他社の営業秘密が流入したことにより、訴訟となり、自社製品の販売停止まで至っています。これが他社の営業秘密流入リスクの典型例です。


では、c社はどうするべきだったのでしょうか?
被告人からコンサルタント契約の打診を受けるまではいいでしょう。このようなことは、少なからずあることでしょうし、コンサルタント契約の打診だけでは営業秘密の開示を受けたことにはなりません。

一方、被告人から推奨配合表①,②を受け取ったことは非常に良くないことです。
この時点で、推奨配合表①,②には被告人の所属企業であったa社又はb社の営業秘密が含まれていることをc社は想定するべきでした。

具体的には、推奨配合表①は手渡しだったので、その場で被告人に返却するべきでした。
また、推奨配合表②はメールで送付されたので返すことはできません。そこで、このメールはc社内で不特定の従業員の目に触れないように管理したうえで、被告人にa社又はb社の営業秘密が含まれていないことを確認するべきでしょう。
もし、営業秘密が含まれていないと被告人が主張するのであれば、a社又はb社にそれが事実であるか否かを確認することの同意を被告人から得るべきでしょう。そこまでやれば、被告人の反応から営業秘密が含まれているか否かが分かりますし、もし、含まれているという確信があればa社又はb社へその事実を通知し、c社は被告人による営業秘密の領得には関与していないことを伝えるべきでしょう。
営業秘密の領得等は犯罪ですので、そのような犯罪行為があったことを被害企業に伝えることは当然の行為です。また、それにより、自社の潔白を被害企業に認識させることにもあるでしょう。

上記のことを考慮する必要があるにもかかわらず、被告人から受け取った情報をもとに、製品を製造販売するということは最も悪手であり、c社が当該製品の製造販売の停止にまで追い込まれることは当然でしょう。

ここで、被告人から推奨配合表①,②を受け取ったc社の従業員A,Bがどのような立場の人物であったかは判決文からは分かりません。技術開発を行う人物であったかもしれませんし、経営に携わる人物であったかもしれません。しかしながら、どのような立場の人物であったも、他社の営業秘密の流入リスクは認識し、対応できるようにしなけらばならないでしょう。

昨今、人材の流動性は高まっており、この流れは益々促進されるでしょう。さらに、SNS等により、個人間のやり取りも容易です。すなわち、自社に他社の営業秘密が流入するルートは会社の公の窓口(人事、転職サイト等)だけでなく、あらゆる可能性があります。
そうすると、全従業員が営業秘密についてある程度の理解を有する必要があります。
自社の営業秘密を漏えいすることが違法であるだけでなく、他社の営業秘密の使用が違法であることを正しく認識させる必要があります。
これを怠った結果がまさにc社の結果でしょう。

なお、c社はa社から民事訴訟を提起されています。提訴は2017年であり、営業秘密の民事訴訟は2年前後で一審判決がでる傾向があるので、すでに判決が出る頃かと思いますが出ていません。このため民事訴訟は既に和解している可能性もあるかと思います。c社は既に当該製品の製造販売を停止していますし、a社が納得する賠償金を支払うことに同意していれば、和解には至るでしょう。また、この刑事事件の判決文を見ると、c社が刑事事件に対して協力的であったとも思えます。
次回は、被告人がリバースエンジニアリングによる非公知性の喪失についても主張していますので、その点について検討したいと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信