2022年10月10日月曜日

かっぱ寿司の元社長による営業秘密漏えい事件(刑事事件)

先週からかっぱ寿司の社長による営業秘密の漏えい事件(刑事事件)が大きく報道されています。刑事事件としての営業秘密の漏えい事件は少なからず生じており、そのほとんどはニュース記事で少し取り合げられるだけで、大きく話題になることはありません。
かっぱ寿司の事件が大きく報道される背景としては、逮捕された社長が競合他社であるはま寿司の元取締役であり、かっぱ寿司とはま寿司は共に回転ずしチェーンとして多くの人に身近な存在であると共に、ライバル企業である、という背景があるためでしょう。

ここで、営業秘密の漏えいは”元従業員”が行う場合が多いと思われるかもしれませんが、部長以上の役職を持つ者が転職時に前職の営業秘密を持ち出す事件も多くあります。役職を有する者は多くの営業秘密に対するアクセス権限があるでしょうし、その営業秘密の有益性もよく理解しているでしょう。また、転職先でも好待遇の場合が多いでしょうから、転職先での成果をより求められるというプレッシャーも感じるでしょう。

例えば、日本ペイントデータ流出事件は、日本ペイントの元執行役員が競合他社である菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出しています。また、リフォーム事業流銃事件では、エディオンの元部長が転職先の上新電機に営業秘密(リフォームに関する商品仕入れ原価や粗利のデータ等)を漏えいしています。これらの事件では、共に執行猶予付きですが懲役刑となっています。
営業秘密の漏えい事件では、執行猶予が付く場合が多いですが、被害企業の損害が多い場合等には執行猶予がつかない場合もあります。本事件は、食材の原価や取引先の情報等が営業秘密のようであり、これらの情報が回転ずしチェーン店にとって重要であることは想像に難くありません。そうすると、はま寿司の損害が大きいと裁判所に判断され、元社長は執行猶予がつかない懲役刑となる可能性もあるかもしれません。

参考ブログページ


また、前社長は、不正に持ち出した営業秘密をかっぱ寿司社内で開示して、かっぱ寿司はそれを使用していたという疑いがあります。

ここで、営業秘密を不正に持ち出して他社に転職した者には、大きく分けて下記の2パターンがあると思います。
・第1パターン:営業秘密を持ち出したものの転職先等で開示しないパターン
・第2パターン:営業秘密を持ち出して転職先で開示しするパターン

第1パターンは、例えば、不正に持ち出した営業秘密を転職先で開示するきっかけが無かったのかもしれませんし、開示しなければ罪に問われないと思って開示しなかったのかもしれません。何れにせよ、不正に持ち出した者は罪に問われる可能性がありますが、持ち出された企業は実質的な損害は生じないでしょう。

第2パターンは、さらに2パターンに分かれるかと思います。
・第2パターンA:転職先企業が開示された他社の営業秘密を使用しない。
・第2パターンB:転職先企業が開示された他社の営業秘密を使用する。
第2パターンAは、転職先企業が営業秘密の流入リスクを理解している場合でしょう。営業秘密の流入リスクを理解していなければ、転職者が良い情報を持ってきてくれたと考え、第2パターンBとなるでしょう。
また、第2パターンAの場合は、転職先企業が営業秘密の漏えい元(転職者の前職企業)に問い合わせる場合もあり、そうすることで営業秘密の漏えいに自社が関与していないことを証明することにもなるでしょう。

一方、第2パターンBは、不正に持ち出された営業秘密を転職先が使用することになるので、この転職先も罪に問われる可能性があります。この場合、転職先企業は億単位の罰金刑となる可能性があり、当然、社会的信用も大きく失われるでしょう。
さらに、それだけに留まらず、被害企業から民事訴訟を提起され、損害賠償や当該営業秘密の使用差し止めを求められる可能性があります。損害賠償の額も億単位になる可能性がありますし、何より営業秘密の使用差し止めはその後の経営に大きな影響を与える可能性があります。

今後、被害企業であるはま寿司はかっぱ寿司に対して損害賠償及び営業秘密の使用差し止めを求めて民事訴訟を提起する可能性が相当高いと思われます。
報道によるとかっぱ寿司は、「はま寿司のデータと自社の商品を比較して、商品開発に利用する」等していたようです。そうすると、営業秘密の使用差し止めが裁判所によって認められた際には、当該商品は今後販売できない可能性もあるでしょう。また、はま寿司から持ち出された営業秘密には、はま寿司の取引先に関する情報も含まれていたようです。もし、この営業秘密を用いてかっぱ寿司が新たな取引先を開拓していたらどうなるのでしょうか?その取引先とは今後取引をしてはならないのでしょうか?不正に取得した営業秘密を使用してはならないとは、いったいどの範囲までのことになるのか私もよく分かりません。

このように、転職者によって転職先企業に営業秘密が持ち込まれ、転職先企業がそれを使用したとすると転職先企業が多大なる損害を被る可能性があります。
したがって、企業は営業秘密の漏えい(流出)リスクと共に流入リスクも意識しなければなりません。例えば、転職者が前職企業の社名等が表示された資料を開示したとすると、それは高い確率で不正に持ち込まれた営業秘密である可能性があります。このような場合には、当該情報を使用しないだけでなく、自社内で当該情報が広まらないように対応すると共に転職者から当該情報の入手経路を確認し、もし前職企業の営業秘密である場合には前職企業に問い合わせるべきでしょう。また、転職間もない転職者が自社で得たとは思えないような情報を開示した場合にも同様です。

このため、企業は転職者が転職間もない時期に開示する情報には特段の注意が必要であり、自社内で作成されたと思えない情報はその入手経路を確認しなければなりません。転職者が部下や同僚であれば、入手経路を確認し易いでしょうが、転職者が上長さらには社長であっても躊躇してはならないでしょう。
万が一、開示された情報が他社の営業秘密であり、それを使用すると自社が責任を負うことになるでしょうし、もしかしたら、自身も逮捕されるかもしれません。現に、本事件では、元社長だけでなく、かっぱ寿司の部長職の人物も逮捕されています。自社に営業秘密が不正に持ち込まれると、それを知って使用した場合には自身も逮捕される可能性を意識しなければなりません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信