<営業秘密関連ニュース>

2026年10月8日
・競合他社サーバーに不正アクセス容疑 取得情報基に営業か、2人逮捕―警視庁(JIJI.COM)
・競合他社の顧客「マイページ」に無断ログインか 容疑で2人逮捕(毎日新聞)
・光回線の競合他社に不正アクセス→顧客情報得て勧誘か 営業担当逮捕(朝日新聞)
・顧客情報 不正取得疑い…他社の営業秘密 光回線勧誘 2人逮捕(読売新聞)
・ライバル社に不正アクセス、顧客名簿入手し営業活動 容疑の光回線代理店従業員を逮捕(産経新聞)
2026年10月7日
・半導体材料情報漏えいか=元旭化成社員を再逮捕―愛知県警(時事エクイティ)
・【速報】半導体情報流出疑い、旭化成元社員再逮捕(47NEWS)
・半導体製造の情報を中国企業に流出疑い 旭化成元社員の男再逮捕(日本経済新聞)
・半導体情報を海外企業に流出疑い 旭化成元社員の男を再逮捕 愛知県警(産経新聞)
・https://www.asahi.com/articles/ASVB72Q2MVB7OIPE007M.html(朝日新聞)
・別の技術情報 漏えいか 容疑の旭化成元社員 再逮捕(読売新聞)
2026年10月5日
・トヨタ子会社情報流出疑い(中国新聞)
・トヨタ子会社情報流出疑い 元社員の男女逮捕、愛知(47NEWS)
・営業秘密情報を漏洩か、トヨタ子会社元社員2人逮捕 愛知県警(日本経済新聞)
・トヨタ子会社の営業秘密漏えい容疑 元社員2人を逮捕 元上司と部下(朝日新聞)
・トヨタ子会社の営業秘密を漏えいか、元社員2人を容疑で逮捕…転職後に元部下にデータのアップロード依頼(読売新聞)
・シンテックホズミ情報流出疑い 元社員の男女逮捕(中部経済新聞)

2026年10月13日火曜日

判例紹介:システムを実現するためのプログラム等に関する営業秘密の帰属について

営業秘密は誰のものなのか?すなわち営業秘密の帰属に関する争いはまれにあります。特に、営業秘密とされる情報を作成した従業員が当該営業秘密を不正に持ち出した場合です。このような争いでは、たとえ従業員が当該営業秘密を作成しても、その従業員は当該営業秘密を自由に使用等できないという裁判所の判断となっています。
今回の事件は営業秘密の帰属も争った事件(大阪地裁令和8年7月28日判決 事件番号:令6(ワ)6912号)です。

本事件において原告は、情報処理システム開発の計画作成、コンピュータおよび付属品の販売等を行い、ランドリーパック等のサービスを提供している株式会社です。営業秘密とされる原告の情報(本件情報)は、ランドリーパック等に関するものです。
被告は、令和4年4月30日まで原告に勤務していた原告の元従業員です。
なお、原告はA(訴外)によって立ち上げられた会社であり、被告が原告に入社した後、A、D(訴外)及び被告の3人で、ランドリーパック等を含むクリーニング業者向けのシステム開発等を行っていました。Aは原告の代表取締役を務めていましたが、令和4年4月14日に原告の代表取締役を退任し、取締役を辞任しています。

判決によると、被告自身が営業秘密の不正開示等に直接関与したのではなく、サーバーの原告のアカウントIDを原告のメールアドレスからS社のメールアドレスに変更し、変更後のアカウントIDとパスワードをS社に提供するという方法により、本件情報をS社が利用できるようにした、というもののようです。本件情報はS社及びT社によって使用されており、このS社及びT社の代表者であるBとAとは懇意の関係であり、取引関係もあったとのことです。
上記のような被告の行為は、A、S社及びT社の不法行為を故意により幇助したものと認められ、被告は原告に対して141万円の損害賠償という判決となっています。

この事件において被告は、ランドリーパック等に係る本件情報は原告ではなくA及びDに帰属するものであったと主張しています。
これに対して裁判所は以下のように、被告の主張を認めませんでした。
仮にランドリーパック等の事業がAやDらを中心に立ち上げられたものだとしても、前記認定事実(2)のとおり、あくまで法人である原告の事業として実施されてきたものと認められるところ、本件情報が原告ではなく、Aなどに帰属するということはできないし、Aが原告の代表取締役を退任して取締役を辞任する際に、Aが本件情報を持ち出してS社やT社に提供することについて、原告とAと間で何らかの合意がされたり、当該意思決定について原告の内部で正当な意思決定手続が採られたりしたことを認めるに足りる証拠は存在しないから、被告の主張は採用できない。
なお、前記認定事実(2)とは「原告は、令和3年9月の時点で、T社に対して、ランドリーパックのシステムを利用したサービス提供を許諾していた。同月30日付けの原告からT社への請求書によれば、上記利用許諾に伴って、T社に対して支払われていた金額は、サーバー代等のほか、ランドリーパックアプリ名目での月額1万円、ランドリーパックによる売上げの5%に当たる3万3669円(いずれも税別)であった。」というものです。


ここで、営業秘密である本件情報には以下のものが含まれることが裁判所によって認定されています。
・本件情報1:ランドリーパック等のシステムが稼働するために必要なクラウド環境設定情報及び同クラウドに環境にアクセスするためのパスワード等の接続情報
・本件情報2:原告の提供していたランドリーパック等のシステムを実現するためのプログラム及び設定ファイル
・本件情報3:ランドリーパック等を利用している会社や同会社からサービスの提供を受けている顧客に関する情報や売上げに関する情報

まず、本件情報1であるクラウド環境設定情報やパスワード等の情報はそもそもA等に帰属するものではなく、顧客情報や売上げに関する情報である本件情報3もA等に帰属するというものではないでしょう。

一方で、本件情報2はランドリーパック等のシステムを実現するためのプログラムが含まれています。このプログラムは、上記のようにA、D及び被告の3人で作成したものであると思われます。そして、Aは原告を立ち上げた人物であることを鑑みると、このプログラムの作成を主導していたとも考えられます。また、本件情報2の非公知性は認められていることからも、このプログラムは少なくともオリジナル性があり、発明となり得る技術思想も含まれている可能性があります。そうであれば、感覚的に、本件情報2は原告に帰属すると共にAにも帰属するとも思えてしまします。

また、発明は人が行うものであるため、発明を創出した人物が会社に「示す」ものであり、会社から発明を創出した人物に「示された」ものではありません。このため、営業秘密の侵害を規定した不正競争防止法2条1項7号に当てはまらないという考えもあります。
不正競争防止法2条1項7号
営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
そうすると、発明者が退職後に当該発明に係る情報を使用しても前職企業との間で契約違反となっても不競法違反となることはないという解釈もあります(これは帰属とは異なる議論かもしれません)。
この点に関して、原告は「Aは、前記情報奪取行為を行った当時は原告の代表者として本件サーバーに正当にアクセスできる立場にあったのであるから、「示された」営業秘密に該当し、また、第三者であるS社に不正な利益を得させる目的や原告に対して不当な損害を加える目的があったといえることから、図利加害目的で行われたといえる。」とも主張しましたが、原告が主張する「示された」について裁判所は直接的な判断していません。

以上のようなことから本裁判において裁判所はもうすこし丁寧に「帰属」又は「示された」について判示しても良かったのではないかと思います。
しかしながら、本事件は、発明に該当する可能性もある営業秘密について、裁判所が判断した数少ない事例になるかと思いますし、Aの帰属を認めなかった裁判所の判断は現在の社会情勢において妥当なのではないかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年9月30日水曜日

旭化成の営業秘密侵害事件(刑事事件)

先日、旭化成の営業秘密を中国企業に流出させたとして、旭化成の元従業員(66歳)が逮捕されました。


この事件の時系列をまとめると以下のようになります。
2018年11月末   
 旭化成を退職
 (潜在性硬化剤に関わる営業秘密の製造データが入ったHDDを持ち出し)
 →名古屋市内の化学メーカー等複数企業に再就職
2024年8月
 名古屋市内のメーカーが情報漏えいを愛知県警に相談
2024年9月13日
 中国の山東聖泉新材料股份有限公司に旭化成の営業秘密をメールで送信
2025年4月
 容疑者の自宅を家宅捜索(旭化成の営業秘密侵害が発覚)
2026年9月17日
 容疑者を逮捕

この事件は、容疑者が所属していた複数のメーカーの営業秘密を不正に持ち出していた可能性があり、容疑者は営業秘密の不正取得や不正開示が犯罪であるという意識が相当低いように思えます。
また、容疑者は旭化成の営業秘密を2018年に取得し、2024年に中国企業に不正開示しています。一般的には、退職と共に営業秘密を不正取得した場合には、転職後に間もなく営業秘密を転職先に不正開示します。すなわち、不正取得と不正開示との間が数年の開きがあることはあまりないように思えます。
もしかしたら、容疑者は所属企業を退職する度に所属企業の営業秘密を不正に持ち出していたのかもしれません。そして、何らかの機会があれば、持ち出した営業秘密を他社に引き渡すつもりだったのでしょうか。

さらに、容疑者によって営業秘密を持ち出された企業が愛知県警に相談して、愛知県警が容疑者宅を家宅捜索した結果、旭化成の営業秘密が中国企業に流出したことが発覚したとのことです。すなわち、それまで旭化成は容疑者によって営業秘密を持ち出されたことを認識していなかったようです。容疑者は退職時に返却すべきHDDを持ち出していたようですが、何も気付けなかったということは2018年当時において旭化成での機器の管理にも疑問が生じます。

なお、今回の事件は、旭化成とは異なる企業が愛知県警に相談したことをきっかけに発覚して逮捕されています。そうすると、愛知県警に相談した企業の相談案件はどのようになったのでしょうか。家宅捜索までしているので、この容疑者が何らかの情報を不正に持ち出している可能性は高かったようにも思えますが、家宅捜索から既に一年半ほど過ぎています。持ち出した情報が秘密管理性等の要件を満たしていなかったのでしょうか?


ここで、容疑者による旭化成の営業秘密の持ち出し(領得)は、営業秘密が記憶されたHDDを返還しなかったことのようなので、不正競争防止法第21条第2項第1号イに該当すると思われます。
(不正競争防止法 第二十一条)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の拘禁刑若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、次のいずれかに掲げる方法でその営業秘密を領得したもの
イ 営業秘密記録媒体等(営業秘密が記載され、又は記録された文書、図画又は記録媒体をいう。以下この号において同じ。)又は営業秘密が化体された物件を横領すること。
そして、不正競争防止法違反罪(営業秘密侵害罪)の法定刑は十年以下の拘禁刑であるため、刑事訴訟法上の公訴時効は7年となります。容疑者による旭化成の営業秘密の持ち出し(領得)が2018年11月であるならば、「領得罪」単体については2025年11月頃に7年が経過し、時効が完成している可能性があります。

一方で、不正競争防止法第21条第2項第2号では、示された営業秘密を不正に「使用・開示」する行為を領得とは別の独立した犯罪として規定しています(本事件では営業秘密を日本国外である中国企業に開示しているので、不正競争防止法第21条第5項(海外重罰)に該当する可能性もあるかと思います。)。
(不正競争防止法 第二十一条)
2 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の拘禁刑若しくは二千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
二 営業秘密を営業秘密保有者から示された者であって、その営業秘密の管理に係る任務に背いて前号イからハまでに掲げる方法により領得した営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密の管理に係る任務に背き、使用し、又は開示したもの
したがって、仮に2018年における営業秘密の「領得」が時効となっていたとしても、2024年9月13日における中国企業への「不正開示」行為自体が新たな犯罪を構成しており、その時効(7年)は未だ過ぎていません。

このように、営業秘密侵害罪は「領得」、「使用」、「開示」等の侵害態様ごとに犯罪が成立するため、「領得」の時効が過ぎたからといって「開示・使用」は時効とならない場合があるので、注意が必要です。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年9月16日水曜日

判例紹介:営業秘密の不正開示の例

営業秘密の侵害は営業秘密の不正使用だけでなく、不正な開示も含まれています。
では、営業秘密でいうところの開示とは具体的にはどのような行為でしょうか。
営業秘密の開示について、不正競争防止法 逐条解説には以下のように記載されています。
営業秘密の「開示」とは、営業秘密を第三者が知ることができる状態に置くことをいい、営業秘密を非公知性を失わないまま特定の者に知られる状態に置くことも含む。具体的には、営業秘密を口頭で伝えたり、営業秘密が記録された電子データを特定の第三者に送信したり、ホームページに営業秘密を掲載したりすることのほか、営業秘密が化体された有体物(営業秘密記録媒体等又は営業秘密が化体された物件(注4))の占有を移転することで他者に営業秘密を通知したりすることなどが考えられる。
上記のように開示とは「営業秘密を第三者が知ることができる状態に置くことをいい、営業秘密を非公知性を失わないまま特定の者に知られる状態に置くことも含む。」とあります。逐条解説には、この説明に続いて具体的な例が記載されていますが、開示とされる行為の範囲は非常に広いように思えます。

ここで開示行為を具体的に判断した裁判例として大阪地裁令和8年1月22日判決(事件番号:令6(ワ)5424号 ・ 令6(ワ)8059号)があります。
この事件において、原告は訪問看護事業の遂行にあたり、原告システムを利用して利用者情報や訪問看護サービスに必要な情報を一元的に管理し、本件マスタメンテ情報を登録していました。
被告A~C等は原告事業者で勤務していたものの、被告Bは被告A,Cと共に原告と同様の訪問介護サービス事業を行う会社(被告会社)を立ち上げ、原告を退職しています。
そして、原告は、被告Aの退職時にマスタメンテ情報を不正に取得等したと主張しています。
この主張に対して、マスタメンテ情報の営業秘密性及び被告Aによる不正取得(不競法2条1項4号違反)を認めました。


さらに、裁判所は以下のように、被告Aによるマスタメンテ情報の不正開示を認めました。
 イ 開示について
 前記前提事実に加えて、証拠(乙4、7、9、被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社が令和6年4月から被告システムの利用契約を締結し、同月1日から訪問看護サービスの提供を開始した事実、被告会社が同年3月中に当初引継対象者との間で訪問看護サービスサービス利用契約を締結した事実、遅くとも同月末頃から被告システムへの入力が可能となり、当初引継対象者の情報として、少なくとも本件マスタメンテ情報の別紙2「第1」の「6」の「(1)医療保険、(2)高齢者受給者証、(3)高額療養費、(4)介護保険、(5)負担割合証、(6)公費」の項目に対応する情報が被告Aによって被告システムに登録された事実、・・・が、それぞれ認められる。
 これらの事実に加え、上記「(1)」ないし「(6)」の情報は、利用者IDや公的な資格に関する情報であって、被告会社が原告から引継ぎを受けた時点より半年以上前に取得された情報であったとしても、引き継いだ利用者の情報である以上、利用する余地は十分にあるというべきであることや、被告システムが利用するソフトウェア(iBow)において、別の事業所の情報を他の事業所に取り込むことは推奨されていないものの、取込みが自体は可能であること(甲14)を考慮すると、被告Aによって本件マスタメンテ情報の別紙2「第1」の「6」の「(1)」ないし「(6)」の情報が被告システムに登録されたと推認することができる。
 以上によれば、被告Aは、本件マスタメンテ情報の同「6」記載の情報のうち、上記「(1)」ないし「(6)」に係る情報を被告会社に開示したといえ、当該開示について、不正競争(不競法2条1項4号)が成立する。
このように、不正取得した営業秘密をコンピュータシステムに登録するような行為も営業秘密の不正開示になるようです。
コンピュータシステムにマスタメンテ情報を登録するだけでは開示に当たらないようにも思えますが、マスタメンテ情報をコンピュータシステムに登録することにより、第三者(本事件では被告会社の従業員)がマスタメンテ情報を知ることができるようになります。すなわち、営業秘密を第三者に実際に見せていなくても、第三者が見ることが可能な状態にすることが不正開示にあたり、営業秘密の侵害となります。

そして、このように不正開示された営業秘密を事業に使用することも侵害行為となり、これは個人だけの違法行為ではなく、下記のように会社による違法行為となる可能性があります。このため、本事件では被告Aだけでなく、被告Aが務めている被告企業の営業秘密侵害もも裁判所によって認められました。
 (3) 被告会社の不正競争の成否について
 上記の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、被告Aによる被告システムへの登録という方法によって本件マスタメンテ情報の上記「6」の「(1)」ないし「(6)」の情報の開示を受け、令和6年4月から、被告システムを用いて、同情報に係る利用者である当初引継対象者に対する訪問看護サービスの提供を開始し、上記情報を業務に使用したことが認められる。そして、被告会社の事業が被告A及び被告Bを中心として開始されたこと(乙9)ことからすれば、被告会社は、被告Aによる上記情報の不正取得行為が介在したことを知って、上記情報を使用したといえる。
 以上によれば、被告会社の上記情報の使用について、不正競争(不競法2条1項5号)が成立する。
弁理士による営業秘密関連情報の発信