換言すると、権利化又は営業秘密化の対象となる技術的アイデア(発明)は元々が同じということになります。しかしながら、元々が同じであるにもかかわらず、どのような選択をするかにより、その保護範囲が変わります。
下記図はそのような関係を表したものです。
まず、技術的アイデアは従業員(発明者)の頭の中にあります。
このため、発明者の頭の中にある技術的アイデアを特定する必要があります。ここでいう特定とは、例えば、図面、グラフ、表、文章化等により、技術的アイデアを第三者が認識できる形態とすることです。より具体的には、従来技術と比較することで当該技術的アイデアが非公知であるか否かを第三者が判断できる程度に特定する必要があります。
この特定が行われると、技術的アイデアを示す図面、グラフ、文章化等の情報(技術情報)が得られることになります。
この技術情報がすでに保護の対象になり得ると考えられます。
具体的には、ノウハウとして保護の対象となるでしょう。ノウハウの保護とは、例えば、転職する従業員が当該ノウハウを不正に持ち出して転職先で使用した結果、前職企業に損害を与えた場合に前職企業が民法709条等に基づいて損害賠償請求を行うことです。
民法709条故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
しかしながら、ノウハウの保護としては損害賠償請求しか認められず、差止請求等は認められない可能性が高く、その保護範囲は非常に限定的であると思われます。
一方で、同じ技術的アイデア(ノウハウ)であっても、これに対して㊙マークやアクセス管理等の秘密管理措置を行うと営業秘密となります。営業秘密は、秘密の状態が保たれ、かつ非公知性を有している情報であれば、これの不正持ち出しや不正使用等に対する保護が半永久的に可能となります。しかしながら、営業秘密は独占権ではないので、他社が自社の営業秘密と同じ技術を独自に開発等して使用しても、当該他社は自社の営業秘密侵害とはなりません。
さらに、技術的アイデア(ノウハウ)を特許出願して特許権を取得すると、技術内容の公開という代償がありますが、独占権という強い権利を得ることができます。
しかしながら、特許出願を行うためには、特許請求の範囲や明細書等を作成して特許庁へ出願し、特許庁の審査を経て特許査定を得る必要があります。特許査定を得たとしても、登録費用や年金を支払わなければ特許権として維持されません。特許権は営業秘密とは異なり特許権者に独占権を生じさせますが、特許権の取得には手間とコストが必要となります。
このように、非公知の技術的アイデアは、それを特定するとまずノウハウとして保護が可能となります。さらに、特定したノウハウのに対して手間をかけて秘密管理措置を行うと営業秘密として保護され、さらに手間をかけるて特許権を取得すると独占権が得られます。
換言すると、技術的アイデアは、手間をかけるとより財産的価値が高まり、手間をかけなければ財産的価値は生じないといえるでしょう。
このように、技術的アイデアは、特定することにより、どのような保護を受ける形態とするかの選択が可能となります。この選択、特に権利化と営業秘密化は事業の利益の最大化を目的として選択することとなります。
弁理士による営業秘密関連情報の発信