不正競争防止法第二条1項八号その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
一方で、例えば取引先から自社へ競合他社の営業秘密を渡される場合というのも少なからずあります。これは取引先の担当者が他社の営業秘密に関する意識が相当に低く、深い意図なく若しくは良かれと思って渡してくる可能性があります。
渡し方は、唐突にメールに添付する形や、当該取引先に伺ったときに印刷物を渡されるという方法でしょうか。自社としては、取引先が渡してきたものであり、とりあえず受け取るという形になるかと思います。
このよう場合に、取引先から取得した他社の営業秘密を自社内で開示等すると、営業秘密侵害となるのでしょうか?
ここで、取引先から取得した営業秘密の侵害の有無について判断した裁判例(知財高裁平成30年1月15日判決 事件番号:平29(ネ)10076号、東京地裁平成29年7月12日判決、事件番号:平28(ワ)35978号)があります。
この事件は、原告(控訴人)の営業秘密である「配向膜用光学アライメント装置仕様書」(本件各文書)を被告(被控訴人)が不正に取得したとして、不競法2条1項8号違反を理由に使用や開示の差止等を求めたものです。
本件各文書は、原告が台湾企業や中国企業と秘密保持契約を締結して開示したものであり、原告製品の製品概要、仕様等が記載されていると共に各丁に「CONFIDENTIAL」との記載があります。被告は、どのようにして本件各文書を入手したかは明らかにしていませんが、営業活動等の過程で入手したようです。
そして、本件各文書には、原告製品の情報と共にCONFIDENTIALとの表示があることから、被告はこれが原告の営業秘密であることが容易に理解できたとも言えるでしょう。
これに対し、裁判所は以下のように判断しています。
不競法2条1項8号所定の「重大な過失」とは,取引上要求される注意義務を尽くせば,容易に不正開示行為等が判明するにもかかわらず,その義務に違反する場合をいうものと解すべきである。被控訴人が,本件情報の記載された本件各文書を取得するに当たって,本件各文書の内容がそれを被控訴人が自社の製品に取り入れるなどした場合に控訴人に深刻な不利益を生じさせるようなものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務が発生することを根拠付ける要素の1つとなり得る。これに対し,本件各文書が通常の営業活動の中で取得されたものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務の発生を妨げる事実に該当すると解される。よって,本件各文書の内容がそれを被控訴人が自社の製品に取り入れるなどした場合に控訴人に深刻な不利益を生じさせるようなものとは認められないこと,本件各文書が通常の営業活動の中で取得されたものであることは,被控訴人が不正開示行為等を重大な過失により知らなかったことと関係がないとはいえず,控訴人の主張は採用できない。・・・被控訴人が,本件各文書を取得するに当たり,本件各文書のConfidentialの記載以外に,本件各文書の保有者から,本件情報を秘密情報として扱うように指示されたり,秘密保持契約の締結を求められたり,あるいは,報酬や利益と引換えに本件各文書を得たなど,本件情報が秘密情報であることを疑うべき事実があったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件各文書のConfidentialの記載のみをもって,被控訴人において,本件各文書の取得に当たって,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問い合わせるなどして調査確認すべき取引上の注意義務があったとまではいえないから,控訴人の主張は採用できない。
上記のことから、裁判所は本事件において営業活動で取得した他社の営業秘密の取り扱いについて、以下のように判断しています。
1.本件各文書が通常の営業活動の中で取得されたものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務の発生を妨げる事実に該当する。
2.本件各文書のCONFIDENTIALの記載のみをもって,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務があったとまではいえない。
3.本件各文書の内容がそれを被控訴人が自社の製品に取り入れるなどした場合に,控訴人に深刻な不利益を生じさせるようなものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務が発生することを根拠付ける要素となり得る。
すなわち、通常の営業活動において取得した営業秘密かもしれない他社の情報であっても、CONFIDENTIALとのような記載程度では注意義務の程度は低く、取得したとしても大きな問題はないとの判断のようです。一方で、当該情報を実施すると当該他社に深刻な不利益を生じさせる可能性が有る場合には要注意のようです。
このように、営業活動によって他社の営業秘密を取得した場合は、中途採用者が前職の営業秘密を持ち込んだ場合とは違い、注意義務がかなり低いようです。すなわち、中途採用者が前職の営業秘密を持ち込むことに対しては注意義務が相当高いと言えるでしょう。
弁理士による営業秘密関連情報の発信


