2026年7月31日金曜日

特許出願件数と日本企業の研究開発費の推移

先日、特許行政年次報告書2026年版が公表されたので、特許出願件数と日本企業の研究開発費の推移のグラフを更新しました。


このグラフから分かるように、2025年は特許出願件数が大幅に増加し、前年比16.8%増の358,317件となりました。実に2009年と同程度の件数まで一気に増加しました。
しかしながら、この極端な特許出願件数の増加は既に知られているように、2025年11月と12月に集中しています。

2025年の11月は前年比35.6%増の30,507件、12月は前年比166.6%増の82,621件です。2024年の11月が26,515件、12月が30,526件であったので、2025年11月、12月と2024年11月、12月との差は計56,087件です。
2024年の出願件数306,855件と2025年の出願件数358,317件との差が51,462件であることを鑑みると、やはり11月と12月の増加分がそのまま2025年の増加分となっているようです。

そして、この増加は近年生成AIに関する特許出願を定期的に多量に行っているソフトバンクによるものではないかと言われています。生成AIに作成させたとしてもこの短期間で一社だけで5万件も特許出願したとはにわかには信じられませんが、一年後にははっきりするでしょう。

しかしながら、仮に一社の出願により特許出願件数がこのように一気に増加してしまったのだとすると、特許出願件数と日本企業の研究開発費との比較はほとんど意味をなさないのかもしれません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年7月22日水曜日

刑事事件件数の推移

下記のグラフは、毎年、警察庁生活安全局の生活経済対策管理官が編集している「生活経済事犯の検挙状況等について」に記載の営業秘密侵害事犯の検挙事件件数に基づいて作成したものです。


このグラフから分かるように、営業秘密侵害の検挙事件数は2013年の統計開始以降、基本的に増加傾向にあり、2013年には5件程度だったものが2025年には38件にまで増加しています。なお、一つの事件において複数人が検挙される場合もあるようで、検挙人数は検挙事件数よりも多くなっています。
また、検挙法人数に関しては、2015年、2016年に関しては共に4件でしたが、2024年までは0件から2件とのように少なかったものの、2025年は6件になっています。
すなわち、2025年は検挙事件数と検挙法人数とが例年に比べて大幅に増加しています。

2025年に検挙事件数と検挙法人数とが増加した理由は何であるかは定かではありません。
しかしながら、2024年には、かっぱ寿司の前社長が前職であるはま寿司の営業秘密を不正に持ち出した事件に関連して、カッパ社及びその社員(元商品部長)が刑事告訴されて共に有罪となった地裁判決、高裁判決がでています。
この事件は、他の営業秘密侵害事件に比べても多く報道されており、営業秘密侵害事件において営業秘密を不正取得した企業や当該営業秘密を不正使用等した従業員も刑事告訴できるということが再認識されたことかと思います。
もしかすると、2025年に検挙法人件数が増えた理由はこの事件の影響かもしれません。

一方で近年の企業は、営業秘密研修等を行うことによって従業員等に営業秘密の不正持ち出しは犯罪であることを認識させているかと思います。そうすると、営業秘密侵害そのものは以前に比べて減少している可能性があると思います。
それにもかかわらず、検挙事件数等が増加しているということは、被害企業の処罰感情が高まっているだけでなく、警察等においても営業秘密侵害の意識が相当高まっていることもあるかと思います。具体的には、警察自身が営業秘密侵害に関するセミナーを企業向けに行っていたりします。このため、以前では受理されなかったり、不起訴等になっていたような事件であっても、現在では起訴される場合もあるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2026年6月30日火曜日

営業秘密の流入ルートの違いによって侵害に違いがある?

自社に他社の営業秘密が流入するルートはいくつかあると思います。その一つが中途採用者が前職企業の営業秘密を不正に持ち込むというルートです。そして、中途採用者が持ち込んだ他社の営業秘密が自社で開示等されると、不正競争防止法第二条1項八号等違反になり営業秘密侵害であるとなります。
不正競争防止法第二条1項八号
その営業秘密について営業秘密不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について営業秘密不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
一方で、例えば取引先から自社へ競合他社の営業秘密を渡される場合というのも少なからずあります。これは取引先の担当者が他社の営業秘密に関する意識が相当に低く、深い意図なく若しくは良かれと思って渡してくる可能性があります。
渡し方は、唐突にメールに添付する形や、当該取引先に伺ったときに印刷物を渡されるという方法でしょうか。自社としては、取引先が渡してきたものであり、とりあえず受け取るという形になるかと思います。
このよう場合に、取引先から取得した他社の営業秘密を自社内で開示等すると、営業秘密侵害となるのでしょうか?

ここで、取引先から取得した営業秘密の侵害の有無について判断した裁判例(知財高裁平成30年1月15日判決 事件番号:平29(ネ)10076号、東京地裁平成29年7月12日判決、事件番号:平28(ワ)35978号)があります。

この事件は、原告(控訴人)の営業秘密である「配向膜用光学アライメント装置仕様書」(本件各文書)を被告(被控訴人)が不正に取得したとして、不競法2条1項8号違反を理由に使用や開示の差止等を求めたものです。 
本件各文書は、原告が台湾企業や中国企業と秘密保持契約を締結して開示したものであり、原告製品の製品概要、仕様等が記載されていると共に各丁に「CONFIDENTIAL」との記載があります。被告は、どのようにして本件各文書を入手したかは明らかにしていませんが、営業活動等の過程で入手したようです。
そして、本件各文書には、原告製品の情報と共にCONFIDENTIALとの表示があることから、被告はこれが原告の営業秘密であることが容易に理解できたとも言えるでしょう。


これに対し、裁判所は以下のように判断しています。
不競法2条1項8号所定の「重大な過失」とは,取引上要求される注意義務を尽くせば,容易に不正開示行為等が判明するにもかかわらず,その義務に違反する場合をいうものと解すべきである。被控訴人が,本件情報の記載された本件各文書を取得するに当たって,本件各文書の内容がそれを被控訴人が自社の製品に取り入れるなどした場合に控訴人に深刻な不利益を生じさせるようなものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務が発生することを根拠付ける要素の1つとなり得る。これに対し,本件各文書が通常の営業活動の中で取得されたものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務の発生を妨げる事実に該当すると解される。
よって,本件各文書の内容がそれを被控訴人が自社の製品に取り入れるなどした場合に控訴人に深刻な不利益を生じさせるようなものとは認められないこと,本件各文書が通常の営業活動の中で取得されたものであることは,被控訴人が不正開示行為等を重大な過失により知らなかったことと関係がないとはいえず,控訴人の主張は採用できない。
・・・被控訴人が,本件各文書を取得するに当たり,本件各文書のConfidentialの記載以外に,本件各文書の保有者から,本件情報を秘密情報として扱うように指示されたり,秘密保持契約の締結を求められたり,あるいは,報酬や利益と引換えに本件各文書を得たなど,本件情報が秘密情報であることを疑うべき事実があったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件各文書のConfidentialの記載のみをもって,被控訴人において,本件各文書の取得に当たって,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問い合わせるなどして調査確認すべき取引上の注意義務があったとまではいえないから,控訴人の主張は採用できない。
上記のことから、裁判所は本事件において営業活動で取得した他社の営業秘密の取り扱いについて、以下のように判断しています。
1.本件各文書が通常の営業活動の中で取得されたものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務の発生を妨げる事実に該当する。
2.本件各文書のCONFIDENTIALの記載のみをもって,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱き,保有者に対し法的問題がないのかを問合せるなどして調査確認すべき取引上の注意義務があったとまではいえない。
3.本件各文書の内容がそれを被控訴人が自社の製品に取り入れるなどした場合に,控訴人に深刻な不利益を生じさせるようなものであることは,不正開示行為等であることについて重大な疑念を抱いて調査確認すべき取引上の注意義務が発生することを根拠付ける要素となり得る。

すなわち、通常の営業活動において取得した営業秘密かもしれない他社の情報であっても、CONFIDENTIALとのような記載程度では注意義務の程度は低く、取得したとしても大きな問題はないとの判断のようです。一方で、当該情報を実施すると当該他社に深刻な不利益を生じさせる可能性が有る場合には要注意のようです。

このように、営業活動によって他社の営業秘密を取得した場合は、中途採用者が前職の営業秘密を持ち込んだ場合とは違い、注意義務がかなり低いようです。すなわち、中途採用者が前職の営業秘密を持ち込むことに対しては注意義務が相当高いと言えるでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信