営業秘密の侵害は営業秘密の不正使用だけでなく、不正な開示も含まれています。
では、営業秘密でいうところの開示とは具体的にはどのような行為でしょうか。
営業秘密の開示について、不正競争防止法 逐条解説には以下のように記載されています。
営業秘密の「開示」とは、営業秘密を第三者が知ることができる状態に置くことをいい、営業秘密を非公知性を失わないまま特定の者に知られる状態に置くことも含む。具体的には、営業秘密を口頭で伝えたり、営業秘密が記録された電子データを特定の第三者に送信したり、ホームページに営業秘密を掲載したりすることのほか、営業秘密が化体された有体物(営業秘密記録媒体等又は営業秘密が化体された物件(注4))の占有を移転することで他者に営業秘密を通知したりすることなどが考えられる。
上記のように開示とは「営業秘密を第三者が知ることができる状態に置くことをいい、営業秘密を非公知性を失わないまま特定の者に知られる状態に置くことも含む。」とあります。逐条解説には、この説明に続いて具体的な例が記載されていますが、開示とされる行為の範囲は非常に広いように思えます。
ここで開示行為を具体的に判断した裁判例として大阪地裁令和8年1月22日判決(事件番号:令6(ワ)5424号 ・ 令6(ワ)8059号)があります。
この事件において、原告は訪問看護事業の遂行にあたり、原告システムを利用して利用者情報や訪問看護サービスに必要な情報を一元的に管理し、本件マスタメンテ情報を登録していました。
被告A~C等は原告事業者で勤務していたものの、被告Bは被告A,Cと共に原告と同様の訪問介護サービス事業を行う会社(被告会社)を立ち上げ、原告を退職しています。
そして、原告は、被告Aの退職時にマスタメンテ情報を不正に取得等したと主張しています。
この主張に対して、マスタメンテ情報の営業秘密性及び被告Aによる不正取得(不競法2条1項4号違反)を認めました。
さらに、裁判所は以下のように、被告Aによるマスタメンテ情報の不正開示を認めました。
イ 開示について前記前提事実に加えて、証拠(乙4、7、9、被告A本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社が令和6年4月から被告システムの利用契約を締結し、同月1日から訪問看護サービスの提供を開始した事実、被告会社が同年3月中に当初引継対象者との間で訪問看護サービスサービス利用契約を締結した事実、遅くとも同月末頃から被告システムへの入力が可能となり、当初引継対象者の情報として、少なくとも本件マスタメンテ情報の別紙2「第1」の「6」の「(1)医療保険、(2)高齢者受給者証、(3)高額療養費、(4)介護保険、(5)負担割合証、(6)公費」の項目に対応する情報が被告Aによって被告システムに登録された事実、・・・が、それぞれ認められる。これらの事実に加え、上記「(1)」ないし「(6)」の情報は、利用者IDや公的な資格に関する情報であって、被告会社が原告から引継ぎを受けた時点より半年以上前に取得された情報であったとしても、引き継いだ利用者の情報である以上、利用する余地は十分にあるというべきであることや、被告システムが利用するソフトウェア(iBow)において、別の事業所の情報を他の事業所に取り込むことは推奨されていないものの、取込みが自体は可能であること(甲14)を考慮すると、被告Aによって本件マスタメンテ情報の別紙2「第1」の「6」の「(1)」ないし「(6)」の情報が被告システムに登録されたと推認することができる。以上によれば、被告Aは、本件マスタメンテ情報の同「6」記載の情報のうち、上記「(1)」ないし「(6)」に係る情報を被告会社に開示したといえ、当該開示について、不正競争(不競法2条1項4号)が成立する。
このように、不正取得した営業秘密をコンピュータシステムに登録するような行為も営業秘密の不正開示になるようです。
コンピュータシステムにマスタメンテ情報を登録するだけでは開示に当たらないようにも思えますが、マスタメンテ情報をコンピュータシステムに登録することにより、第三者(本事件では被告会社の従業員)がマスタメンテ情報を知ることができるようになります。すなわち、営業秘密を第三者に実際に見せていなくても、第三者が見ることが可能な状態にすることが不正開示にあたり、営業秘密の侵害となります。
そして、このように不正開示された営業秘密を事業に使用することも侵害行為となり、これは個人だけの違法行為ではなく、下記のように会社による違法行為となる可能性があります。このため、本事件では被告Aだけでなく、被告Aが務めている被告企業の営業秘密侵害もも裁判所によって認められました。
(3) 被告会社の不正競争の成否について上記の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、被告Aによる被告システムへの登録という方法によって本件マスタメンテ情報の上記「6」の「(1)」ないし「(6)」の情報の開示を受け、令和6年4月から、被告システムを用いて、同情報に係る利用者である当初引継対象者に対する訪問看護サービスの提供を開始し、上記情報を業務に使用したことが認められる。そして、被告会社の事業が被告A及び被告Bを中心として開始されたこと(乙9)ことからすれば、被告会社は、被告Aによる上記情報の不正取得行為が介在したことを知って、上記情報を使用したといえる。以上によれば、被告会社の上記情報の使用について、不正競争(不競法2条1項5号)が成立する。
弁理士による営業秘密関連情報の発信


