今回の事件は営業秘密の帰属も争った事件(大阪地裁令和8年7月28日判決 事件番号:令6(ワ)6912号)です。
本事件において原告は、情報処理システム開発の計画作成、コンピュータおよび付属品の販売等を行い、ランドリーパック等のサービスを提供している株式会社です。営業秘密とされる原告の情報(本件情報)は、ランドリーパック等に関するものです。
被告は、令和4年4月30日まで原告に勤務していた原告の元従業員です。
なお、原告はA(訴外)によって立ち上げられた会社であり、被告が原告に入社した後、A、D(訴外)及び被告の3人で、ランドリーパック等を含むクリーニング業者向けのシステム開発等を行っていました。Aは原告の代表取締役を務めていましたが、令和4年4月14日に原告の代表取締役を退任し、取締役を辞任しています。
判決によると、被告自身が営業秘密の不正開示等に直接関与したのではなく、サーバーの原告のアカウントIDを原告のメールアドレスからS社のメールアドレスに変更し、変更後のアカウントIDとパスワードをS社に提供するという方法により、本件情報をS社が利用できるようにした、というもののようです。本件情報はS社及びT社によって使用されており、このS社及びT社の代表者であるBとAとは懇意の関係であり、取引関係もあったとのことです。
上記のような被告の行為は、A、S社及びT社の不法行為を故意により幇助したものと認められ、被告は原告に対して141万円の損害賠償という判決となっています。
この事件において被告は、ランドリーパック等に係る本件情報は原告ではなくA及びDに帰属するものであったと主張しています。
これに対して裁判所は以下のように、被告の主張を認めませんでした。
仮にランドリーパック等の事業がAやDらを中心に立ち上げられたものだとしても、前記認定事実(2)のとおり、あくまで法人である原告の事業として実施されてきたものと認められるところ、本件情報が原告ではなく、Aなどに帰属するということはできないし、Aが原告の代表取締役を退任して取締役を辞任する際に、Aが本件情報を持ち出してS社やT社に提供することについて、原告とAと間で何らかの合意がされたり、当該意思決定について原告の内部で正当な意思決定手続が採られたりしたことを認めるに足りる証拠は存在しないから、被告の主張は採用できない。
なお、前記認定事実(2)とは「原告は、令和3年9月の時点で、T社に対して、ランドリーパックのシステムを利用したサービス提供を許諾していた。同月30日付けの原告からT社への請求書によれば、上記利用許諾に伴って、T社に対して支払われていた金額は、サーバー代等のほか、ランドリーパックアプリ名目での月額1万円、ランドリーパックによる売上げの5%に当たる3万3669円(いずれも税別)であった。」というものです。
ここで、営業秘密である本件情報には以下のものが含まれることが裁判所によって認定されています。
・本件情報1:ランドリーパック等のシステムが稼働するために必要なクラウド環境設定情報及び同クラウドに環境にアクセスするためのパスワード等の接続情報
・本件情報2:原告の提供していたランドリーパック等のシステムを実現するためのプログラム及び設定ファイル
・本件情報3:ランドリーパック等を利用している会社や同会社からサービスの提供を受けている顧客に関する情報や売上げに関する情報
まず、本件情報1であるクラウド環境設定情報やパスワード等の情報はそもそもA等に帰属するものではなく、顧客情報や売上げに関する情報である本件情報3もA等に帰属するというものではないでしょう。
一方で、本件情報2はランドリーパック等のシステムを実現するためのプログラムが含まれています。このプログラムは、上記のようにA、D及び被告の3人で作成したものであると思われます。そして、Aは原告を立ち上げた人物であることを鑑みると、このプログラムの作成を主導していたとも考えられます。また、本件情報2の非公知性は認められていることからも、このプログラムは少なくともオリジナル性があり、発明となり得る技術思想も含まれている可能性があります。そうであれば、感覚的に、本件情報2は原告に帰属すると共にAにも帰属するとも思えてしまします。
また、発明は人が行うものであるため、発明を創出した人物が会社に「示す」ものであり、会社から発明を創出した人物に「示された」ものではありません。このため、営業秘密の侵害を規定した不正競争防止法2条1項7号に当てはまらないという考えもあります。
不正競争防止法2条1項7号営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
そうすると、発明者が退職後に当該発明に係る情報を使用しても前職企業との間で契約違反となっても不競法違反となることはないという解釈もあります(これは帰属とは異なる議論かもしれません)。
この点に関して、原告は「Aは、前記情報奪取行為を行った当時は原告の代表者として本件サーバーに正当にアクセスできる立場にあったのであるから、「示された」営業秘密に該当し、また、第三者であるS社に不正な利益を得させる目的や原告に対して不当な損害を加える目的があったといえることから、図利加害目的で行われたといえる。」とも主張しましたが、原告が主張する「示された」について裁判所は直接的な判断していません。
以上のようなことから本裁判において裁判所はもうすこし丁寧に「帰属」又は「示された」について判示しても良かったのではないかと思います。
しかしながら、本事件は、発明に該当する可能性もある営業秘密について、裁判所が判断した数少ない事例になるかと思いますし、Aの帰属を認めなかった裁判所の判断は現在の社会情勢において妥当なのではないかと思います。
弁理士による営業秘密関連情報の発信


