営業秘密の帰属について、キーワードは「営業秘密を保有者から示された」であるようです。
すなわち、営業秘密に係る情報を作成した従業者(創出者)は、「営業秘密を保有者から示された者」には該当しないという考えです。この場合、創出者との関係では「営業秘密を保有者から示された者」は、企業側となります。
確かに、従業者が新たに情報を創出した場合、その情報は従業者がまず保有しており、その後、この情報は従業者から企業に示され、企業の判断で営業秘密として管理することになるとも考えられます。このように考えると、この営業秘密は、企業から従業者(創出者)に示されたとは考え難いと思われます。
そして、企業がこの情報を営業秘密として管理するのであれば、創出した従業者との間で契約を取り交わし、営業秘密の帰属先を企業側としなければならないとの考えです。
もし、企業と創出者たる従業者が契約を交わすことなく企業がこの情報を秘密管理していたら、他の従業者との間では、企業は営業秘密であることを主張できるものの、創出者との間では、企業は営業秘密であることを主張できないということになります。
そして、創出者たる従業員が転職して、転職先等でこの情報を開示・使用しても、営業秘密の侵害にはあたらないことになります。
この考えに該当する判例は未だありません。そのため、この考えの正否は今後の判例を待つ必要があります。
しかし、そもそも 営業秘密とする情報がその創出者たる従業者に帰属すると考えると、その情報が技術情報の場合には、特に、特許法の職務発明との親和性が高いと思われます。
すなわち、企業が、技術情報を営業秘密として管理しても、特許として管理しても、その創出者たる従業者に対する保護は同等であることになるのではないでしょうか?
ちなみに、このような営業秘密の創出者は「営業秘密を保有者から示された者」に該当しない、との考えは、単に不競法の2条1項7号の要件違反に該当するか否かの問題であり、「帰属」の問題ではないとの考えもあるようです。
なお、技術情報を営業秘密として管理する場合には、“帰属”の問題とは関係なく、従業者との間で契約、特に対価(相当の利益)に関する定めを取り交わした方が良いかと思います。
すなわち、従業者が創出した技術情報を特許出願する場合には、従業者に利益が与えられるものの、それが営業秘密とされる場合には、従業者に利益が与えられないとすると、従業者には不公平感が残るでしょう。
その結果、仕事に対するモチベーションの低下にもつながるでしょうし、転職の動機付けにもなるでしょう。さらには、その従業者が転職した場合に、営業秘密とされた技術情報を転職先に持ち出す動機付けにもなり得るかもしれません。
また、営業秘密として管理した情報によって企業が大きな利益を得たにもかかわらず、その創出者に対しては何ら利益を与えなかった場合には、過去に多くあった特許権の主組む発明の問題のように、その創出者との間で訴訟に発展する可能性もあるかと思われます。
現在の法律では、情報、特に技術情報を営業秘密とする場合には、その創出者に対する保護規定は設けられていません。だからといって、企業側が、何ら手立てを施さない場合には、その後、その創出者との間でトラブルが生じるリスクを潜在的に抱えることになるかと思われます。
このブログ記事の参考文献
田村 善之 不正競争防止法概説(第2版)(有斐閣 2003年)
TMI総合法律事務所 編 Q&A営業秘密をめぐる実務論点(中央経済社 2016年)
服部 誠 小林 誠 岡田 大輔 泉 修二 営業秘密管理実務マニュアル(民事法研究会 2017年)
知財活動としては特許出願等の権利化のみではなく技術の営業秘密化(秘匿化)も意識しなければなりません。 このブログでは営業秘密を理解するために、民事事件の裁判例や刑事事件等を中心に情報発信を行っています。
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