2018年1月19日金曜日

営業秘密の非公知性と特許の新規性との違い

営業秘密の3要件のうちの一つである非公知性、これは秘密管理性と比べてもあまり議論がなされていないかと思います。
特に、営業秘密が経営情報である場合、例えば顧客情報等は議論するまでもなく非公知性の要件を満たす可能性が高いからでしょう。

一方、営業秘密が技術情報の場合はどうでしょうか?
特許公報やその他の文献等で様々な技術情報が公知となっており、企業が秘密管理している技術情報であっても非公知性を満たさない可能性が有ります。
特に、秘密管理している技術情報が、上位概念のものである場合にはなおさらです。

ここで、営業秘密管理指針における非公知性の説明を紹介します。
営業秘密管理指針では「「非公知性」が認められるためには、一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことが必要である。 」とされています。

また、営業秘密管理指針では、特許の新規性との違いとして「営業秘密における非公知性要件は、発明の新規性の判断における「公然知られた発明」(特許法第29条)の解釈と一致するわけではない。特許法 の解釈では、特定の者しか当該情報を知らない場合であっても当該者に守秘義務がない場合は特許法上の公知となりうるが、営業秘密における非公 知性では、特定の者が事実上秘密を維持していれば、なお非公知と考える ことができる場合がある。」としています。

さらに、営業秘密管理指針では「当該情報が実は外国の刊行物に過去に記載されていたような状況 であっても、当該情報の管理地においてその事実が知られておらず、その 取得に時間的・資金的に相当のコストを要する場合には、非公知性はなお認められうる。」とも記載されています。

以上のように営業秘密管理指針の記載からは、営業秘密の非公知性は特許の新規性に比べて判断要件が若干緩いとも考えられます。

しかしながら、営業秘密の非公知性と特許の新規性とにおいて根本的な違いがあります。
それは、その判断基準時です。

特許の新規性は特許法第29条第1項第1号にあるように「特許出願時」が新規性の判断基準時になります。すなわち、特許出願後に公知となった情報に基づいて、特許出願に係る発明が拒絶されることはありません。

では、営業秘密の非公知性に関してはどうでしょうか?
営業秘密の3要件は、不正競争防止法第2条第6項に規定されていますが、その判断基準時は特に定められておりません。
では、非公知性の判断基準時は何時なのでしょうか?
当該情報の秘密管理を開始した時でしょうか。

ここで、経済産業省知的財産政策室 編著「逐条解説 不正競争防止法 平成15年改訂版」の31ページには、「「公然と知られていない」状態の判断時点は、損害賠償請求については、不正行為が行われた時点である。しかし、差止請求については、・・・口頭弁論終結時に非公知性が失われていれば認められない」との記載があります。
すなわち、営業秘密の非公知性の判断基準時は、当該情報の秘密管理を開始した時ではなく、秘密管理を開始した後でも当該情報と同じ情報が公になれば、当該情報は非公知性を失うことになります。これは、特許の新規性とは全く異なる判断基準です。
このことは、特許を主として業務を行っている方は気を付ける必要があるかと思います。


具体的には何に気を付けるか、ということですが、特に自社製品です。
すなわち、過去のブログでも記載していますが、自社製品をリバースエンジニアリングすることで当該情報を取得可能な場合には、非公知性が失われることになります。

過去のブログ記事
営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング-
営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング- その2

ここで、リバースエンジニアリングが可能なものであれば、どのような製品でも非公知性が失われるわけではなく、「一般的な技術的手段を用いれば容易に製品自体から得られるような情報」は非公知性を失った情報であるようです。
例えば、機械構造等がそれにあたるかと思います。

このリバースエンジニアリングによって非公知性を失う可能性を考えると、そもそも営業秘密として管理することに適さない技術情報が存在することになります。
すなわち、自社製品を販売することによって得られる上述のような「一般的な技術的手段を用いれば容易に製品自体から得られるような情報」は営業秘密として管理しても、リバースエンジニアリングによって非公知性を失っていると裁判で判断される可能性があります。
現代では、例えば3Dスキャンが可能となり、また様々な分析手法が広く行われています。このため、自社の技術情報を営業秘密として管理するのであれば、自社製品が販売されることによって当該技術情報の非公知性が失われる可能性について検討する必要があります。

すなわち、自社製品のリバースエンジニアリングによって非公知性が失われる技術情報に関しては、特許権や意匠権等の取得を検討するべきでしょう。また、そのような権利取得が難しい技術であるならば、製品のブランド力をより向上させる等の知財戦略を行ってもよいかと思います。

このように、開発した技術について、公開されることを理由に特許出願を行わないとの判断を行ったとしても、自社製品のリバースエンジニアリングによって非公知性を失うようであれば、特許出願等の他の知財戦略を練る判断があって然るべきだと考えます。