営業秘密関連ニュース

2018年11月2日
2018年11月2日

2018年11月1日
・自社技術の情報漏らす 元取締役ら2人逮捕(日テレニュース24)
・光ファイバー技術漏出の疑い、元精密部品会社員ら逮捕へ(朝日新聞)


2018年9月30日日曜日

日産新車ツイッター投稿事件 ー営業秘密侵害は不起訴処分ー

不起訴処分となった営業秘密侵害事件がまた報道されました。
これは、日産の取引会社社員が発表前に日産の工場内で発表前の新車を写真撮影し、ツィッターに投稿し、営業秘密侵害と偽計業務妨害により取引会社社員が書類送検された事件です。

本事件では、営業秘密侵害については不起訴処分となったものの、偽計業務妨害は罰金50万円となりました。

参考ブログページ:過去の営業秘密流出事件

この事件も不起訴となった営業秘密侵害に関しては、その理由は発表されていません。
さすがに、ツイッターに新車の画像を投稿した程度では、不競法における刑事罰の規定(21条)にある「不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的」という要件は満たさないと判断されたのでしょうか。


一方で、偽計業務妨害については認められました。
私は全く詳しくないのですが、偽計業務妨害とはウィキペディアによると刑法233条の「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害すること」とのことです。

ここで、新車の外観、すなわちデザインも知的財産であり、未だ外部に知られていないデザインの漏えいが偽計業務妨害罪になるということは、今までにはなかったのではないでしょうか。
そういった意味で、本事件は非常に興味深いものです。

また、発表前の情報(企業が秘匿している情報)を知り得た者がツィッター等に投稿するようなことは、今後も発生する可能性が非常に高いかと思います。
そのような事件が発生した場合、本事件のように偽計業務妨害で発表者を刑事告訴する企業も再び現れるのではないでしょうか。

なお、発表前の新車の外観をツィッターに投稿することは、「虚偽の風説の流布」にあたるのでしょうか?それとも、「偽計を用い」ることになるのでしょうか?その解釈を正しく理解したいです。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年9月24日月曜日

京セラ子会社営業秘密持出し事件 ー不起訴処分ー

今年(2018年)に発生した京セラ子会社営業秘密持出し事件について、書類送検されていた京セラ元子会社の元従業員が不起訴処分となったようです。
この事件は、京セラ子会社の元従業員(元部長)が退職時に病院経営の手法等に関する営業秘密を持ち出して一部を転職先に渡し、この元従業員は書類送検されたというものです。

参考ブログページ:過去の営業秘密流出事件

ここで、営業秘密侵害で刑事告訴や書類送検となった事件について、“不起訴処分”の事実が報道されることは珍しいと思います。いままでも不起訴処分となった事件はいくつもあるかと思いますが、このようにその事実が報道されたということはあまり記憶にありません。私のブログで記録している限り、エディオン営業秘密流出事件(2015年)において上新電機が不起訴処分となった報道ぐらいです。

また、今回の事件で不起訴処分となった理由は発表されていません。
持ち出した情報の一部を転職先に持ち出したものの、京セラ子会社にとって実害はなかったとか、元従業員が京セラ子会社に対して何らかの補償をしたのでしょうか?


なお、本事件で少々気になることは、元従業員が「府警によると、容疑を認め、『自分が作ったデータなので持ち出してもいいと思った』などと話しているという。」という内容です。(参照:産経WEST記事
被疑者側の供述としてこのような供述を度々見かけます。

営業秘密侵害において、刑事事件だけでなく民事事件でもこのような供述は非常に重要かと思います。
私も本ブログで何度か述べているように、営業秘密の帰属に関する争点が生じることになるからです。

参考ブログ記事:営業秘密の帰属、営業秘密の民事的保護が定められた当時の逐条解説

上記ブログ記事では、民事について述べていますが、罰則を定めた不競法第21条にも「営業秘密を保有者から示された者であって、」という文言が条文中にあります。
このため、本事件の元従業員が供述しているように、持ち出したデータが「自分が作ったデータ」であるならばこの元従業員は「営業秘密を保有者から示された者」ではないという解釈ができます。
そのように解釈したならば、たとえ被疑者が当該データを持ち出したとしても刑事罰の対象とはならないでしょう。

本事件において検察官がどのように判断して、今回の事件を不起訴処分としたかは分かりません。もし、上記のように元従業員が「営業秘密を保有者から示された者」ではないと検察官が判断したのであれば、営業秘密侵害において非常に参考となる判断です。

なお、不起訴処分の理由について開示請求ができるのか調べたところ、下記のような法務所の説明を見つけました。
法務省HP:不起訴事件記録の開示について
ここを参考するかぎり、第三者が不起訴処分の理由の開示請求をすることはできないようですね。

ただ、上述したように営業秘密侵害の刑事事件において、被疑者が「営業秘密を保有者から示された者」、すなわち営業秘密の帰属についてが争点となりそうな供述をしている例が過去にいくつかあります。
このため、「営業秘密を保有者から示された者」に係る法的解釈について統一的な見解が早急に示されるべきではないかと思います。
それにより、企業側も対策を立てることができますし、不要な刑事告訴だけでなく民事訴訟も回避できるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年9月19日水曜日

ー判例紹介ー 生春巻き製造機事件 事業協力期待先へのノウハウ開示

です。
そして、被告会社は、取引先(訴外)から生春巻きを製造するよう求められました。そこで、被告会社は、原告会社に対して生春巻きの製造工場の見学を依頼しました。
これを受け、原告会社は、生春巻きの製造工程を見学させ、製造方法を説明し、工場内の写真撮影も許可しました。

その後、原告会社は、被告会社が九州における原告会社の協力工場として取引をすることに向けての話を進めようとしましたが、被告会社は、原告会社の提案する内容での契約に応じませんでした。被告会社はその後、直ちに取引先の求めで生春巻きを製造することをしませんでしたが、しばらく後に、生春巻きを製造し、関西圏の大手スーパーに卸しました。

本事件において原告会社は、生春巻きを大量に安定的に生産するためライン上で全工程を行うとともに、通常は水で戻すライスペーパーを,況に応じた適切な温度の湯で戻すという生春巻きの製造方法が営業秘密であり、当該営業秘密を被告会社が不正取得等した主張しています。


これに対して、裁判所は以下のように判断し、その営業秘密性を否定しました。


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原告は,被告が協力工場となることを見学の条件とし,被告がこれを承諾したように主張するが,原告代表者の陳述書には,工場見学前に協力工場になることの条件を承諾した旨の記載がないだけでなく、「私はもうすっかり協力工場になってくれるものと信じていました。」との記載があり,結局,協力工場になることが確定的でない状態で原告工場の見学をさせたことを自認する内容になっている。なお,その後,被告代表者は,協力工場となることに対して積極的方向で回答をしたことは優に認められるが,それをもって事業者間での法的拘束力のある合意と評価できない。
〔1〕見学で得られる技術情報について秘密管理に関する合意は原告と被告間でなされなかったばかりか,原告代表者からその旨の求めもなされなかったこと,〔2〕原告のウェブサイトには,原告工場内で商品を生産している状況を説明している写真が掲載されており,その中には生春巻きをラインで製造している様子が分かる写真も含まれている。原告において,その主張に係る営業秘密の管理が十分なされていなかったことが推認できる。
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すなわち、裁判所は上記〔1〕,〔2〕に基づいて原告が開示したノウハウの秘密管理性を否定しています。また、〔2〕に関しては非公知性も失われていることを示しています。

この判例は、原告会社が流通若しくは新市場におけるイノベーションを他社に求めた結果生じたことといえるでしょう。また、原告会社は被告会社に対してオープンイノベーションを期待したとも考えられます。

本判例のように自社のノウハウを他社に開示する場合、下記のことが重要です。
(1)協力関係の可能性を見極めてから自社ノウハウを開示。
(2)他社に自社ノウハウを開示する場合には確実に秘密保持契約を締結。

上記(1),(2)は言うまでもなく、当たり前のことかとも思われます。
しかしながら、提携期待先に対して前のめりになりすぎると、秘密保持契約を締結することなく必要以上にノウハウを開示する可能性が考えらえます。
また、ノウハウ開示は一人でも可能であり、権限を持っている立場の人物が行うことができます。すなわち、ノウハウ秘匿に対する認識が低い人物が、不適切に他社にノウハウ開示を行ってしまえば、取り返しのつかないことになりえます。

また、本判例からは、以下のことも秘密管理には重要であることを示唆しています。
(3)自社のノウハウ開示状態の把握、開示状態は適正か?
現在、自社のノウハウはホームページ等で簡単に開示できます。これは自社の技術力をアピールするうえで重要な起業活動でしょう。しかしながら、一体どのような情報を何時どこで開示しているかを正確に認識しなければなりません。
これができていれば、ノウハウを開示しているにもかかわらず当該ノウハウは営業秘密であると誤った主張に基づく訴訟を回避できるはずです。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年9月12日水曜日

論文「サービス産業のイノベーションと特許・営業秘密」

サービス産業のイノベーションと特許・営業秘密」という2014年4月の論文を見つけました。 独立行政法人 経済産業研究所の「ディスカッション・ペーパー(日本語) 2014年度」で公開されています。

この論文は、サービス産業のイノベーションの実態、イノベーションに対する特許及び営業秘密の役割について、製造業と比較した結果が論じられており、複数の視点から、サービス業と製造業とにおける特許や営業秘密の保有に関する数値を表にして示しています。

この中で興味深かった比較は、特許、営業秘密の所有の有無と各イノベーションの関係を比較した結果(表5)です。

この比較の説明(8ページ)を引用すると「例外なく特許や営業秘密を持つ企業ほどイノベーションを行っている傾向がある。特に、新製品・新サービスの開発、既存製品・サービスの高度化・改善で特許や営業秘密の有無による差が大きい。新業種・新業態進出と特許所有とはサービス企業でのみ有意な関係があるが、産業を問わず営業秘密を持つ企業は新業種・新業態への進出を行う傾向がある。生産・流通方法の革新(プロセス・イノベーション)は、特許の所有とは関係ないが、製造業では営業秘密とかなり強い関連が観察される。」とのことです。


このような「特許や営業秘密を持つ企業ほどイノベーションを行っている傾向がある。」ということは、知財業界にいる人間であれば直感的に認識しているかと思います。このような認識が、具体的な数値で示されることは非常に有意義であると思います。 裏を返すと、イノベーションを行いた企業は、特許や営業秘密とすることができるような“何か”を意識するべきであり、それができない企業はイノベーションを起こし難いとも言えるかもしれません。

ただ、新業種・新業態進出に関しては、特許や営業秘密の所有とイノベーションとの関係は薄いようです。これはこれで面白いと感じました。
特許や営業秘密は、その対象が明確に特定されなければなりません。思うに新業種・新業態とは、まずは漠然としたアイデアなのではないでしょうか?そうであるならば、新業種・新業態のアイデアは特許や営業秘密といった“モノ”としては認識し難いでしょう。特に、特許に関しては技術的な要素が必要ですから、よりその傾向が強いかと思います。
しかしながら、新業種・新業態のアイデアがより明確になりその内容が特定できるようになると特許や営業秘密といった“モノ”になり、それがさらに新製品・新サービスの開発・改善にも至るのではないでしょうか。

また、 本論文では「生産・流通方法の革新(プロセス・イノベーション)は、特許の所有とは関係ないが、製造業では営業秘密とかなり強い関連が観察される。」と記されています。
これは、まさに企業の特許戦略を示していると思います。
生産方法は、主に企業の工場内等、外部からは認識し難い場所で使用される技術です。このため生産方法に関する特許を取得しても、侵害者はその工場内で特許に係る発明を実施することになるため、特許権者は侵害者を発見し難いということになります。
そうであれば、特許出願しても技術を他者に公開するだけになるかもしれません。そこで生産方法は特許出願をせずに秘匿化、すなわち営業秘密化するという知財戦略が多くの企業でなされています。
表5では、このような生産方法に対する企業の知財戦略を示すとも思われる結果が数値として表れており、非常に興味深いです。

また、自社のみで行い難いイノベーションを他社の協力も得て実行する、所謂オープンイノベーションの必要性も表5は示しているかもしれません。
上述のように、表5ではイノベーションを起こすには特許や営業秘密の保有が重要になることが示されています。すなわち、自社で特許や営業秘密を有していなければ、イノベーションを起こせる可能性が相対的に低くなります。
そこで、自社が起こしたいイノベーションに関する特許や営業秘密を保有している他企業の力を借りることで、自社のみでは起こせないイノベーションを起こせる可能性が高まることを表5は示しているとも思えます。

さらに、本論文ではイノベーションは下記の4つに分類できることが示されています。
1.プロダクト・イノベーション(新製品・新サービス)
2.プロセス・イノベーション(製品・サービスの生産・流通方法)
3.業務・組織イノベーション
4.マーケティング・イノベーション

営業秘密に関しては、技術情報と営業情報に分類されますが、上記のような4つに分類してもよいのではないでしょうか。すなわち、プロダクト情報、プロセス情報、業務・組織情報、マーケティング情報です。
私は常々、営業秘密を技術情報と営業情報とに分類することは難しいと思っていました。これは不正競争防止法2条6項にそのような定義されているためであり、このように技術情報と営業情報とに分類しないと法的保護を受けられないものではありません。
そこで、営業秘密をプロダクト情報、プロセス情報、業務・組織情報、マーケティング情報、とのように分けて考えるほうが、何を営業秘密とするかもイメージが持ちやすく、また、自社が保有している営業秘密の分類もし易いのではないでしょうか。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年9月9日日曜日

ー判例紹介ー 営業秘密管理として最低限行うべき秘密管理

今回紹介する裁判例は、平成30年2月26日知財高裁判決(知的財産高等裁判所平成29年(ネ)第10007号、原審・東京地方裁判所立川支部平成26年(ワ)第1519号)です。

本事件の被控訴人(一審原告)は、ケーブルテレビ関連機器の開発、製造・販売等を目的とする株式会社であり、控訴人(一審被告)は、平成25年6月21日に設立されたケーブルテレビ関連機器の製造・販売等を目的とする株式会社です。

被控訴人における営業部部長Aが被控訴人在職中に控訴人を設立し、Aが控訴人の代表取締役に、被控訴人における営業部課長であったBが控訴人の取締役に、それぞれ就任しています。AとBは,被控訴人を退職しています。
また、Cは被控訴人において、取締役として商品開発業務を行っていましたが、被控訴人の退職後に控訴人に入社しています。Dは、被控訴人におけるソフトウェア開発の責任者として商品開発業務を行っていたが、被控訴人を定年退職した後に業務委託社員として被控訴人で勤務していました。

なお、A、B及びCが被控訴人に在籍していた当時、被控訴人は役員以下15名程度の小規模会社でした。

そして、本事件において被控訴人(一審原告)は、原告PCソースコード・原告マイコンソースコード・原告回路図データ・原告部品リストデータ・原告基板データ(以下「本件情報」といいます。)が営業秘密である主張しています。

一審判決では、本件情報は全て不競法2条6項所定の営業秘密に該当し、被告人は故意又は重過失により本件情報の不正開示を受け、これらを用いて被告製品を製造・販売したとして,被告製品の製造・販売の差止請求及び廃棄請求が認容されています。
そして、二審判決でも、被控訴人(一審原告)が勝訴(請求の一部認容)しています。



本事件は、営業秘密における秘密管理性について参考になる近時の判決であると思います。

具体的には、この本件情報の秘密管理性について知財高裁は下記の〔1〕~〔5〕を認め、「本件情報については,被控訴人の従業員において被控訴人の秘密情報であると認識していたものであるとともに,秘密として管理していることを十分に認識し得る措置が講じられていたと認められるから,秘密管理性が認められる。」とのように判断しています。

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〔1〕被控訴人は,平成22年7月1日に就業規則を制定し,従業員に秘密保持義務を課していた。
〔2〕被控訴人は,前身の丸栄電機時代の平成21年3月13日に情報セキュリティ管理の国際規格であるISO27001の要求事項に適合していると認証され,適合性審査を毎年更新しており,ISO規格の内部監査員養成セミナーを受けたシステム管理責任者らにより,従業員に対し,一般情報セキュリティ教育を行っていた。
〔3〕被控訴人の資産台帳上,機器制御ソフトウェア,部品リストデータ,基板データ,回路図データは,公開レベル「秘密」と区分されていた。
〔4〕被控訴人の社内ファイルサーバ内のデータのうち,アクセスを制限するものは,「会社資料S」,「仕様書原本S」,「開発技術S」,「栄幸電子S」,「営業部S」の5つのフォルダに分けられ,それぞれアクセスできる従業員を限定した上で,個々の従業員が特定の端末から,ユーザー名とパスワードを入力しなければアクセスできないように管理されていた。
〔5〕本件情報のうち,原告部品リストデータは「栄幸電子S」フォルダに保管され,原告PCソースコードや原告マイコンソースコード,原告回路図データ,原告基板データは,「開発技術S」に保管されていた。
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この知財高裁の判断は、技術情報の秘密管理を行う重要な知見かと思います。
すなわち、上記〔1〕~〔5〕を満たすような秘密管理措置を行えば、営業秘密としての秘密管理性が満たされる可能性が高いと考えられます。
ただ、〔2〕のようなISO27001の認証を得ることは手間等を考えると難しいかもしれませんが、従業員に対するセキュリティ教育は行うべきでしょう。

すなわち、秘密管理措置としては以下のことを最低限行うべきかと思います。
<1> 就業規則で従業員に対する秘密保持義務を課す(上記〔1〕)
<2> 従業員に対するセキュリティ教育(上記〔2〕)
<3> データに対する管理区分の設定(上記〔3〕)
<4> サーバに対するアクセス制限(上記〔4〕,〔5〕)

多くの企業は、実際に上記<1>~<4>について既に実施している可能性が高いと思います。
しかしながら、企業が秘密とすべき全ての情報が特に<3>,<4>を満たすように管理されているでしょうか。もし、当該情報が<3>,<4>の管理から漏れていると、それは秘密管理されているとは認められない可能性も考えられます。
裁判所は情報毎に秘密管理措置を判断するため、たとえ他の情報が<3>,<4>を満たすように管理されているとしても、そうでない情報は秘密管理されていると裁判所は判断しない可能性があります。
このため、企業は秘密とすべき情報を正しく認識し、これに対するアクセス管理を確実に行う必要があるでしょう。これは口で言うことは簡単ですが、実際には企業規模が大きくなるほど、様々な情報が膨大に存在するため、それらの情報を精査しアクセス管理を行うことは難しいことだと思います。

また、本事件の原告は15名程度の小規模の企業であることに留意する必要があるかと思います。すなわち、小規模の企業でもこのような秘密管理措置を行っているのです。そうであれば、このような秘密管理措置を行っていない中規模・大規模の企業においては、秘密管理性はなおのこと認められにくいのではないでしょうか。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年9月6日木曜日

営業秘密と先使用権主張の準備 その2

前回のブログ記事「営業秘密と先使用権主張の準備 その1」の続きです。

前回では、営業秘密の非公知性喪失の有無の確認を先使用権主張の準備に利用することに触れました。

まず、営業秘密の非公知性喪失の有無の確認とはなんでしょうか?

参考ブログ記事:ー判例から考えるー 技術情報を営業秘密管理する場合にも先行技術調査が必要?

上記参考ブログでも記載したように、営業秘密化する技術情報と公知技術とを混在させて秘密管理してしまうと、営業秘密化する技術情報の秘密管理性までもが否定される場合があります。一種の秘密管理の形骸化でしょうか。
このため、特に重要な営業秘密に関しては、営業秘密管理している間は定期的に特許文献調査等を行い、当該技術情報の非公知性喪失の有無を確認するべきと考えます。
もし、当該技術情報の非公知性が喪失した場合には、他の営業秘密の秘密管理性に影響を与えないように、秘密管理を解除するというような措置をとるべきでしょう。

このような非公知性喪失の有無の確認を定期的に確認すると、自社で営業秘密管理している技術情報と同様の技術を他社が特許出願していることを発見する可能性があります。
この場合、先使用権主張の準備を行うことが、営業秘密の非公知性喪失の有無の確認を先使用権主張の準備に利用するということです。
これにより、無駄な先使用権主張の準備は回避できるかと思います。

図案化すると下記のような感じです。



1.開発した技術の先行技術文献調査(検索式の作成)
2.先行技術が無い場合に技術情報を特許出願又は秘匿化の決定 
3.秘匿化した技術情報のうち、少なくとも実施又は実施の準備をしている技術情報を定期的(半年や1年毎)に他社特許調査(検索式の利用)
4.他社の特許出願を発見した場合に、先使用権主張の準備
5.当該他社の特許出願の審査状況をウォッチ

このような手法をとることで、先使用権主張の準備を行う対象となる技術情報は、実際に他社が特許出願した技術のみとなります。
なお、この手法は、既に他社特許出願の特許公開公報が発行されたのちに、他社特許出願のタイミングまで遡って先使用権主張の準備を行うものです。このため、収集すべき証拠資料が既に失われていることを危惧される方もいるかもしれません。
しかしながら、他社特許出願の確認を半年に一度行うのであれば、最長でも2年前に出願された他社特許出願を発見することになり、他社特許出願のタイミングからさほど時間は経過していないと考えられます。もし、2年前の証拠資料が失われているとしたら、それは自社の文書管理に問題があると考えられ、営業秘密管理以前の問題でしょう。

上記例では、他社の特許出願を確認したタイミングで先使用権主張の準備を行うものですが、当該特許出願が自社の営業秘密と同様の技術範囲で特許権を取得するとは限りません。
このため、他社の特許権取得を確認したタイミングで先使用権主張の準備を行ってもいいかもしれません。これにより、より無駄のない先使用権主張の準備が可能となります。その一方で、この場合は、他社が特許出願したタイミングまで遡って証拠資料を見つけだし、先使用権主張の準備を行う必要があります。すなわち、他社の特許出願タイミングから数年~10年以上経過したのちに先使用権主張の準備を行う可能性があります。このため、証拠資料が破棄されている等のリスクも生じ易くなることに留意する必要があります。

また、定期的に特許調査を行うことは大変ではないかと思う人もいるかと思いますが、果たしてそうでしょうか?
対象となる営業秘密は実際に自社で実施又は実施の準備をしている技術情報です。
このような技術情報は一社当たりどの程度あるでしょうか?
中小企業であればさほど多くはないかもしれませんし、企業規模が大きくなれば当然対象となる営業秘密は多くなりますが、その分、知財部員も多くなります。
さらに、上記「1」において適切な検索式を作成しておけば、前回の調査期間と今回の調査期間との差分を確認するだけでいいのです。このため、半年おき又は一年おきに確認したとしても実際に目を通す必要のある他社特許の件数は、一回の調査当たり数件から十数件程度かもしれません。この程度の特許調査であれば、半日もあれば完了しますので、さほどの手間ではないかと思います。

以上説明したように、先使用権主張の準備を営業秘密の非公知性喪失の有無の確認とセットで行うことにより、より無駄のない先使用権主張の準備が可能になると考えます。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年9月4日火曜日

営業秘密と先使用権主張の準備 その1

営業秘密と先使用権はよくセットにされて語られます。

技術情報を営業秘密化(秘匿化)する場合には当然特許出願を行わないので、当該技術に関して他社に特許権を取得される可能性が生じます。したがって、技術情報の営業秘密化にとって先使用権について意識することは当然でしょう。

ここで、先使用権の主張を行う場合とは、自社が他社の特許権を侵害している場合です。侵害していないのであれば、先使用権の主張を行う場面はありません。
すなわち、先使用権の主張を行う状況とは、他社の特許権を実際に侵害している状況であり、非常に良くない状況です。

では、先使用権とは具体的に何でしょうか。
先使用権は特許法第79条に規定されている通常実施権のことです。
先使用権は、他者がした特許出願の時点で、その特許出願に係る発明の実施である事業やその事業の準備をしていた者に認められる権利(無償の通常実施権)です。すなわち、当該技術に関する特許権は、他社が所有し、自社は所有していません。
例えば、実施している製造方法等を特許出願せずに秘匿化した後に、当該製造方法に係る発明の特許権を他者に取得されるとこの特許権の侵害となります。しかしながら、先使用権の主張が認められれば、例外的に他社の特許権に係る発明を無償で実施可能となります。

先使用権の主張を行うためには、先使用権を有することを示す客観的な証拠が必要です。
先使用権の証拠資料は、自社実施又はその準備が他社の特許出願前であることを、客観的に証明するものです。このため各証拠資料には、日付の記載が必要不可欠です。

証拠資料としては例えば下記のようなものがあります。
・研究開発段階、発明の完成段階
 研究ノート、技術成果報告書、設計図、仕様書
・事業化に向けた準備が決定された段階
 社内の事業化決 定会議の議事録や事業開始決定書等
・事業の準備段階   
 設計図、仕様書、 見積書、請求書、納品書、帳簿類等
・事業の開始及びその後の段階
 製品の試作品、 製造年月日や製品番号、仕様書、設計図、カタログ、パンフレット、 商品取扱説明書及び 製品自体等

参考:特許庁ホームページ 先使用権制度について

そして、技術情報を営業秘密化し、かつそれを実施する場合には先使用権主張の準備を行いましょう、という流れがあり、企業の知財部も先使用権主張の準備を実際に行っているところが少なからずあるようです。

先使用権主張の準備とは、具体的には以下のような感じでしょうか。


まず、自社で技術開発を行う過程で、選考技術調査を行うことで他社特許出願の有無を調べます。その結果、他社特許出願がない場合には、開発した技術情報の特許出願又は秘匿化の判断が行われるでしょう。
当該技術について秘匿化を決定し、その後、当該技術の実施の準備を開始すると先使用権主張の準備のための証拠集めを行います。さらに、実施が開始されるとそれに応じて証拠集めを行うでしょう。
証拠収集が完了するとこれらの証拠をファイルにし、公証役場で確定日付を得、万が一のためにこのファイルを保管します。

ここで、上記のような先使用権主張の準備の問題点としては、技術情報の実施又は実施の準備を開始した時点で先使用権主張の準備をすると、未だ存在しない他社出願を想定したものになります。このため、もし他社が当該技術にかかる特許出願を行わない場合には、先使用権主張の準備は無駄になります。

そこで、営業秘密の管理、ここでは営業秘密の非公知性喪失の有無の確認を用いることで、無駄のない先使用権主張の準備が行えると考えます。
詳細は次回に。

弁理士による営業秘密関連情報の発信