2019年8月30日金曜日

営業秘密と秘密情報との違い

営業秘密という文言と似たような文言として、秘密情報等があります。
この違いとして営業秘密は、不正競争防止法2条6項に規定されているように、秘密管理性、有用性、及び非公知性の三要件を全て満たしたものである一方、秘密情報にはこのような法的な定義はありません。

過去のブログ記事:ノウハウ、言葉の定義

すなわち、営業秘密よりも秘密情報等の方が概念的に広いものとなります。
例えば、営業秘密については非公知性が必要とされますが、秘密情報は非公知性が不要とも考えられます。
また、営業秘密は有用性の要件も必要とされていますが、この目的は、公序良俗に反する内容の情報(脱税や有害物質の垂れ流し等の反社会的な情報)など、秘密として法律上保護されることに正当な利益が乏しい情報を営業秘密の範囲から除外することです。しかしながら、秘密情報は、このような要件も必要とされていません(反社会的な情報が秘密情報として実際に法的に保護されるか疑問ですが。)。
秘密管理性についてはどうでしょう。秘密情報というからには、ある程度の秘密管理性も秘密情報としての要件には含まれるかと思いますが、その判断は営業秘密ほど厳しくないと思われます。

では、どのような情報が営業秘密ではなく、秘密情報となり得るでしょうか?
例えば、一般的に知られているビジネスであるものの、自社では初めて行うようなビジネスの情報等がそれにあたるかと思います。
このようなビジネスの情報自体は一般的に知られているため非公知性がないと判断される可能性が高いものの、自社として競合他社には当該ビジネスを行うことを事前に知られたくない情報ともなり得、そのような場合には秘密情報にあたるでしょう。


また、営業秘密と秘密情報との大きな違いとしては、その法的効果が全く異なります。

まず、営業秘密は三要件を満たした情報であり不正競争防止法で保護され、その法的効果が秘密情報に比べて非常に強くなります。

例えば、営業秘密の不正使用や不正開示と認められれば、差し止め請求や当該営業秘密を取得等した第三者に対しても営業秘密侵害(不競法2条1稿5号、6号、8号、9号)の責を負わせることが可能となります。すなわち、当該第三者に対して、差し止めや損害賠償請求を求めることができます。このことは、もし企業から情報が流出した場合には、非常に有用な効力となり得ます。
さらに、不正競争防止法に基づいて、営業秘密の不正使用や不正開示等に対する刑事的責任を負わせることができます。

一方、秘密情報の不正使用や不正開示は、不正競争防止法の適用範囲ではなく、民法による不法行為となります。学説等によると、秘密情報の不正使用に対しても損害賠償だけでなく、差し止めも可能のようですが、当該秘密情報を取得した第三者に対しては何ら請求することはできません。すなわち、営業秘密と異なり、秘密情報は流出すると流出の拡大を止めることができないかもしれません。
さらに、秘密情報の不正使用等に対して刑事的責任を負わせることもできません。

ここで、裁判において、当該情報が営業秘密と認定されなかった場合には、当該情報は秘密情報であるとして秘密保持義務違反で戦うという戦略もあり得るかと思います。しかしながら、この場合には、秘密保持義務契約の内容が重要となります。

下記ブログ記事で紹介した裁判例は、このような事案であり、営業秘密であると原告が主張した技術情報は非公知性を喪失していると裁判所によって判断され、さらに裁判所は「秘密保持義務についても,非公知で有用性のある情報のみが対象といえる」と判断し、営業秘密と認められなかった当該情報は秘密保持契約の対象となる情報でもないとされました。

過去のブログ記事:営業秘密と共に秘密保持義務も認められなかった事例

すなわち、当該情報が営業秘密と認定されなかった場合に、秘密保持契約の対象とする秘密情報であると認定されるようにするには、「秘密保持契約の対象とする情報 ≠ 営業秘密」と解釈されるように契約書で定める必要があります。

しかしながら、このような契約書を作成することは難しいかもしれません。例えば、秘密情報の適用範囲が広く解釈されるような契約書にすると、包括的すぎるとしてその契約書自体の効力が認められないかもしれません。
そうすると、秘密保持の対象とする情報を、個々に特定し、それぞれに対して秘密保持義務を有するとのような契約とするべきでしょう。このように考えると、秘密保持の対象とする情報の特定が営業秘密と同様に重要となるかと思われます。

以上のように、営業秘密と秘密情報とは大きな違いがあり、その法的な効果も異なります。情報管理を行う際には、この違いを明確に認識するべきでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信