2020年1月11日土曜日

マル秘マークを付した文書ファイルの秘密管理性について

複数ページからなる文書ファイルの表紙等にマル秘マークを付すことにより、秘密管理を行う場合は多々あるかと思います。
しかしながら、マル秘マーク付けたとしても、その秘密管理性が認められなかった裁判例があります。

その一つは、接触角計算プログラム事件(知財高裁平成28年4月27日判決 平成26年(ネ)10059等)です。
本事件では、原告の元従業員が被告であり、原告はアルゴリズム及びソースコードが営業秘密であると主張しました。
このうち、原告アルゴリズムはハンドブックに記載されており、本件ハンドブックには表紙中央部に「CONFIDENTIAL」と大きく印字され、各ページの上部欄外には「【社外秘】」と小さく印字されていました。
しかしながら、裁判所はこの本件ハンドブックに記載された原告アルゴリズムの秘密管理性を認めませんでした。

知財高裁では以下のように判断しています。
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本件ハンドブックは、被控訴人の研究開発部開発課が、営業担当者向けに、顧客へのソフトウエアの説明に役立てるため、携帯用として作成したものであること、接触角の解析方法として、θ/2法や接線法は、公知の原理であるところ、被控訴人においては、画像処理パラメータを公開することにより、試料に合わせた最適な画像処理を顧客に見つけてもらうという方針を取っていたことが認められ、これらの事実に照らせば、プログラムのソースコードの記述を離れた原告アルゴリズム自体が、被控訴人において、秘密として管理されていたものということはできない。
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なお、この判断は、一審裁判所における判断のほうが分かり易いかもしれません。
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原告アルゴリズムについては,本件ハンドブックにおいて,どの部分が秘密であるかを具体的に特定しない態様で記載されていたことなどからして,営業担当者が,営業活動に際して,本件ハンドブックのどの部分の記載内容が秘密であるかを認識することが困難であったと考えられるのであって,このことからしても,秘密として管理されていたと認めることはできない。
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このように、本事件では、マル秘マークが付された本件ハンドブックに本件アルゴリズムが記載されていたものの、本件ハンドブックの使用状態から本件アルゴリズムの秘密管理性が認められないという判断がされました。また、本件ハンドブックの全体及び各頁にマル秘の表示を行っていたことから、真に秘密としたい情報が何であるかの認識可能性が滅却してたとも考えられます。


次に挙げる裁判例は、サロン顧客名簿事件(知財高裁令和元年8月7日判決 平成31年(ネ)10016号)です。 この事件では、エクステサロンを営む控訴人(原告)の元従業員である被控訴人(被告)が控訴人を退職後に同市内のまつげエクステサロンで就労し、控訴人の営業秘密に当たる控訴人の顧客2名の施術履歴を取得したと主張しました。

そして、原告は、その秘密管理性として、原告店舗において顧客カルテが入っているファイルの背表紙にマル秘マークを付して、室内に防犯カメラも設置したと主張しました。

しかしながら、裁判所は、原告における顧客カルテの管理体制について以下のように判断し、施術履歴の秘密管理性を認めませんでした。
・顧客カルテは従業員であれば誰でも閲覧することができた。
・顧客カルテが入っているファイルの保管の際に施錠等の措置はとられていなかった。
・施術履歴の用紙にマル秘マークが付されていたかは明らかではない。
・他に、施術履歴についての管理体制を裏付ける的確な証拠はない。

さらに、裁判所は、以下のように、SNSを利用した社内での情報共有の在り方も秘密管理性を否定するものとしています。
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控訴人の一支店から他の支店に顧客を紹介することがあり,その際には,顧客に施術するなどの営業上の必要から,支店間で情報を共有するため,顧客カルテを撮影し,その画像を,私用のスマートフォンのLINEアプリを用いて従業員間で共有する取扱いが日常的に行われていた(弁論の全趣旨)。LINEアプリにより画像を共有すれば,サーバーに画像が保存されるほか,私用スマートフォンの端末にも画像が保存されるものであり,顧客カルテについての上記取扱いは,顧客カルテが秘密として管理されていなかったことを示すものといえる。
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このように、サロン顧客名簿事件でも、原告が営業秘密であると主張する情報(顧客の施術履歴)が記載されているファイル(顧客カルテ)の管理体制に基づいて、当該情報の秘密管理性を認めませんでした。

これらの裁判例から、マル秘マークが付されたファイル等であっても、その管理体制や使用態様によっては、その中に記載の情報に対する秘密管理性が認められない可能性があります。また、多くの情報が混在したファイルにおいて、その一部の情報が営業秘密であったとしても、その秘密管理性が認められない可能性も生じえます。
このため、企業は、営業秘密とする情報に対して、マル秘マーク等を付すといった外形的な秘密管理だけでなく、秘密管理性が失われないように日々の管理状態や使用状態等にも気を付ける必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信