2021年2月7日日曜日

<営業秘密の不正使用の範囲は?>

営業秘密の使用とはどういった行為をいうのでしょうか?
逐条解説 不正競争防止法のp.89-p.90には、「営業秘密の「使用」とは、営業秘密の本来の使用目的に沿って行われ、当該営業秘密に基づいて行われる行為として具体的に特定できる行為を意味する。具体的には、自社製品の製造や研究開発等の実施のために、他社製品の製造方法に関する技術情報である営業秘密を直接使用する行為や、事業活動等の実施のために、他社が行った市場調査データである営業秘密を参考とする行為等が考えられる。」とあります。

上記のように営業秘密の使用は「直接」使用する行為の他、「参考」として使用する行為も含まれるようです。

ここで大阪地裁令和2年10月1日判決(事件番号:平28(ワ)4029号)において裁判所は下記のように述べています。なお、この裁判例は、家電小売り業のエディオン(原告)の元従業員がリフォーム事業に係る営業秘密を転職先である上新電機(被告会社)へ持ち出した事件の民事訴訟であり、この事件は刑事事件にもなっており、この元従業員は有罪判決となっています。
・参考:過去の営業秘密流出事件<リフォーム事業情報流出事件> 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
営業秘密を「使用して作成された」か否かの判断に当たっては,廃棄対象となる媒体が,原告の保有する営業秘密に依拠し,何らかの形でこれを内容的に変容した情報を化体しているか否かの判断を要することになる(・・・)。しかるに,「使用」に当たる態様としては,例えば営業秘密を参考資料として参照したにとどまり,その結果作成された情報そのものからは営業秘密の使用が客観的にはうかがわれないような場合も含まれ得る。このように,「使用」につき多様な態様を想定し得ることに鑑みると,上記判断は,場合によっては著しい困難を伴うことともなりかねない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


上記のように、営業秘密の「使用」は多様な態様が想定されるようです。
しかしながら、裁判所が述べているように、不正に持ち出された営業秘密が「参考」として使用された場合には、不正に使用されたということを立証することは難しいでしょう。

エディオンと上新電機との事件では、被告である元従業員が被告会社においてパッケージリフォーム商品の商品開発や仕入交渉等を単独で担当するとともに、原告の標準構成明細を使用して本件比較表及びこれに添付された標準構成明細を作成し、さらに、原告の標準構成明細の書式を使用して被告会社の標準構成明細のテンプレートを作成したようです。そして、当該テンプレートは、原告の標準構成明細の書式とかなりの程度類似する上、その備考欄上部の記載は、これが原告の標準構成明細の書式をもとに作成されたことをうかがわせるものとのことです。
そして、被告である元従業員も、当該テンプレート作成に当たり表としては原告の標準構成明細を使用したことを認めているので、裁判所は、この元従業員が原告の営業秘密を使用したと認めています。

このように、本事件では、原告の営業秘密を参考にしたという”証拠”が被告が作成した標準構成明細書に残っていたため、被告による原告の営業秘密の不正使用の認定が可能でした。
しかしながら、不法行為の証拠が残らないように、巧みに営業秘密を不正使用するような人もいるかもしれません。
このため、もし可能であるならば、自社の営業秘密にはそれが自社のものであると分かるような特異な”印”を設けることが好ましいと思われます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信