お知らせ

2021年9月17日
知財実務オンライン(youtube)で「知財戦略カスケードダウンと三方一選択」と題して、このブログでも提案している知財戦略についてお話させていただきました。

2021年5月30日日曜日

発明を営業秘密として秘匿化する方法

営業秘密としての秘密管理性を満たす前提として、そもそも営業秘密とする情報の特定が必要です。営業秘密の特定の方法は法的に定められておらず、どのような第三者が認識できる態様であればどのような形態であってもよいでしょう。

では、発明を営業秘密として秘匿化するためにはどのような形態が望ましいのでしょうか?
ここで、特許庁オープンイノベーションポータルサイト モデル契約書_秘密保持契約書(新素材)の10ページには以下のような記載があります。
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秘密保持契約締結前に自社が保有していた秘密情報のうち特に重要なものだけでも秘密保持契約の別紙において明確に定めておくことが考えられる。
 ・ これにより、自社の重要な情報を確実に秘密情報として特定できるとともに、上記リスクを回避することができる。なお、秘密保持契約の別紙において定義をする際には、弁理士に対して、特許請求の範囲を記載する要領で作成を依頼することも考えられよう。
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上記のように、発明を営業秘密とする場合には、特許請求の範囲と同様の形態で特定することが望ましいと思われます。
では、営業秘密を特許請求の範囲と同様の形態で特定することのメリットにはなんでしょうか?もちろん、知財として慣れ親しんだ形式であるということもありますが、それ以外にも下記のようなメリットが考えられます。
なお、ここで挙げるメリットは私だけでなく、他の弁理士先生、弁護士先生の意見も含まれており、私自身もなるほどと思ったことです。先生方、助言ありがとうございました。


① 裁判官の理解が容易となる。
営業秘密の侵害訴訟ではまず営業秘密の特定が行われます。しかしながら、営業秘密を保有している原告側が営業秘密として提示した情報が要領を得なかったりすると、営業秘密の特定そのものに裁判所は時間と労力を要することになります。これは原告にとって望ましいことではないでしょう。そこで、特許請求の範囲と同様の形態で営業秘密を特定することで、営業秘密の特定が容易となり、さらに、被告が実際に侵害しているか否か(例えば当該営業秘密を使用したか否か)の判定も特許侵害訴訟と同様に裁判所は行えばよく、裁判所は特許侵害訴訟の経験を生かすことができます。これもやはり原告にとって訴訟の行方を予想し易くなるので、メリットとなるでしょう。 

② 特許出願が容易となる。
例えば、当該営業秘密を創出した従業員が競合他社に転職する可能性もあります。そうした場合、当該従業員を介して営業秘密が転職先に漏洩する可能性もあります。これは営業秘密侵害となるのですが、従業員がデータを持ち出さずに自身の記憶のみから転職先に教えたり、また、当該営業秘密が製品の製造方法であったりすると、当該営業秘密の漏えいを認識できない可能性があります。
このような場合、営業秘密としていた技術情報を特許出願して権利化することで、転職先企業に対する営業秘密に係る技術の使用を防止することが考えられます。このような判断をした場合、営業秘密を特許請求の範囲と同様に特定し、かつ予め実施形態も作成しておくと、容易に特許出願が可能となります。もし、このような準備を行わずに、当該従業員が退職届を出した後に、慌てて特許出願を行なおうとしても、特許出願そのものが遅れたり、当該従業員の協力を十分に得られない可能性もあるでしょう。

③ 営業秘密の共有が容易
営業秘密を特許請求の範囲と同様の記載とすることで、営業秘密の技術的範囲が特許と同様の解釈となるので、営業秘密の共有が容易となります。また、技術を段階的に特定する従属項も作成することで、営業秘密を他社等に開示する場合にどの段階までならば開示可能であるかの認識も共有できます。例えば、請求項1は秘密保持契約なしで顧客(顧客候補)に開示可能。請求項2は秘密保持契約ありで開示可能。請求項3は開示不可。とのように定めることが出来るでしょう。これにより、例えば、営業部の人たちが顧客に対する情報開示を誤ることもなく、また、必要な情報を適切に開示できることになります。

④ ディスカバリへの対応
米国の訴訟では証拠開示手続きであるディスカバリ制度があることは広く知られています。このディスカバリを行うにあたり、自社の営業秘密を不必要に開示しないように注意しなければなりません。しかしながら、自社における営業秘密の管理が不十分であると、本来開示義務のない営業秘密を誤って開示する可能性があります。そこで、営業秘密を特許請求の範囲と同様の記載とすることで当該営業秘密を容易に特定できるので、営業秘密を誤って開示することを防止できます。

以上のように、発明を営業秘密として秘匿化するにあたり、知財として慣れ親しんだ形態である特許請求の範囲や明細書のような形態で特定することはメリットが多いでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信