お知らせ

6/5 パテント誌の2021年4月号に掲載された「知財戦略カスケードダウンと三方一選択」が弁理士会HPから公開されました。

2021年6月7日月曜日

QRコードの普及から考える知財戦略(1)

(株)デンソーが開発した2次元コードであるQRコードを使ったことがない、若しくは見たことがないという人はいないでしょう。それくらい、QRコードは広く普及している情報コードです。
このQRコードの普及に関して、「QRコードの開発と普及-読み取りを追求したコード開発とオープン戦略による市場形成-」という論文が発表されています。

今回は、このQRコードに関する知財戦略について、上記論文を参照して知財戦略カスケードダウンに当てはめてみたいと思います。なお、知財戦略カスケードダウンの概要については、パテント誌2021年4月号に掲載の「知財戦略カスケードダウンと三方一選択」に記載しています。

QRコードの戦略について、その概要が経済産業省のHP「標準化ビジネス戦略検討スキル学習用資料」にある「標準化をビジネスで⽤いるための戦略」の12ページに下記のように端的に記載されています。
・ (株)デンソー(現︓(株)デンソーウェーブ)は、物品流通管理の社内標準であったQRコードを普及させるため、基本仕様をISO化。必須特許はライセンス料無償で提供することで市場を拡⼤。
・QRコードの認識やデコード部分を差別化領域とし、QRコードリーダ(読み取り機)やソフトウェアを有償で販売し、QRコードリーダーでは国内シェアトップを獲得。
・QRコード⾃体が普及すれば収益が上がるビジネスモデルを確⽴。
QRコードは、その読取装置とセットになって初めて機能するものです。
そこで、デンソーは、QRコードを自由技術化し、読取装置の販売等によって利益を挙げるというビジネスモデルを選択しました。このような戦略を実現するために、デンソーはQRコードや読取装置に関する特許権を取得しています。下記の特許権がそれらの基本特許であると思われます。

<QRコード>
特許第2938338号
(出願日:平成6年(1994)3月14日)
【請求項1】  二進コードで表されるデータをセル化して、二次元のマトリックス上にパターンとして配置した二次元コードにおいて、 前記マトリックス内の、少なくとも2個所の所定位置に、各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンの位置決め用シンボルを配置したことを特徴とする二次元コード。
<読取装置>
特許第2867904号
(出願日:平成6年(1994)12月26日)
【請求項1】  2進コードで表されるデータをセル化して、2次元のマトリックス上にパターンとして配置し、マトリックス内の、少なくとも2個所の所定位置に、各々中心をあらゆる角度で横切る走査線において同じ周波数成分比が得られるパターンからなる位置決め用シンボルを配置した2次元コードを読み取るための2次元コード読取装置であって、・・・

このように、QRコードに関する「技術要素」(「知財戦略カスケードダウンと三方一選択」でその概念を説明しています。)として「QRコード」そのものと「読取装置」のように2つあることが理解できます。
そして、QRコードは、特許権を取得したものの誰でも使えるように自由技術化(オープン)する一方、読取装置は収益をあげるために権利化及び秘匿化(クローズ)しています。このように、QRコードの普及とそれに伴う収益を目的として、オープン・クローズ戦略をデンソーは行いました。

QRコードの普及と収益に関するオープンクローズ戦略は、何もないところからいきなり現れたわけではありません。そこには、事業としてのアイデアがあり、そのアイデアを実現するためにオープンクローズ戦略が選択され、発明に対して権利化、秘匿化、自由技術化(三方一選択)が行われたのでしょう。

その流れがまさに知財戦略カスケードダウンであり、以下ではQRコードの知財戦略をこれに当てはめます。
まずは、事業についてです。
上記論文の「QRコードの開発と普及-読み取りを追求したコード開発とオープン戦略による市場形成-」におけるp.20左欄の「3.1 開発コンセプトと開発目標」には以下の記載があります。
どのようなに優れたコードを開発しても、社会に広く実用化されなければ企業としては成功と言えない。そので、QRコードを世界中に普及させる目標を持ち、以下のコンセプトでQRコードを開発した。
このことから「QRコードを世界中に普及させる」ことが事業目的となるでしょう。

また、上記論文のp.21右欄の「3.3 普及のシナリオ」には以下の記載があります。
どんなに良いコードを開発しても、インフラが整備され、誰もが自由に安心して使えなければ普及しない。特にインフラ整備は当社だけでは困難であり、また普及に時間が掛かると他の2次元コードや新しい技術が浸透する可能性がある。そこで、普及フェーズでは多くの企業にQR市場への参入を促し、インフラ整備に協力してもらい、早期にQR市場を形成させることが鍵になると考えた。
このことから「誰もが自由に安心して使えるようにすると共に、早期にQR市場を形成させる」ことが事業戦略となるでしょう。

そして、上記論文の「3.3 普及のシナリオ」と「3.4 事業化のシナリオ」から事業戦術は下記の3つであると考えます。
(1)業界標準を取得し、業界からISOの規格化を要請してもらう。
(2)誰もが自由に安心して使える環境作り
(3)事業収益は慣れ親しんだ読取装置・サービスをQR市場に提供

デンソーは、この事業戦術のうち(2)と(3)に対して知財を用いることでより良い形で実現したと思います。

次回では、知財戦略カスケードダウンにおけるQRコード及びその読取装置に対する知財目的・戦略・戦術について説明します。

弁理士による営業秘密関連情報の発信