<営業秘密関連ニュース>

2023年3月23日
・立花前党首、有罪確定へ NHK契約者情報を不正取得―最高裁(JIJI.COM)
・NHK契約者情報をネット投稿 立花元党首の上告を最高裁が棄却、有罪確定へ(産経新聞)
・旧NHK党・立花氏の有罪確定へ 脅迫やNHK契約情報の不正取得で(朝日新聞)
・立花孝志元党首、有罪確定へ NHK契約者情報を悪用(日本経済新聞)
・立花孝志前党首、有罪確定へ…最高裁が上告棄却(読売新聞)
2023年3月23日
・令和4年における生活経済事犯の検挙状況等について(警察庁生活安全局 生活経済対策管理官)
・営業秘密の持ち出し事件、過去最多の29件 22年、背景に転職増か(JIJI.com)
・営業秘密漏えい摘発 昨年29件で最多…企業の情報管理 厳格化(読売新聞)
・営業秘密の不正持ち出し、摘発過去最多 背景に進む人材の流動化(朝日新聞)
・営業秘密侵害事件、22年は最多29件摘発 警察庁まとめ(日本経済新聞)
・営業秘密侵害事件が最多 摘発29件、警察庁まとめ かっぱ寿司運営会社など(産経新聞)
・営業秘密侵害事件が最多 摘発29件、警察庁まとめ かっぱ寿司運営会社など(毎日新聞)
2023年3月6日
・当社に対する訴訟の和解、特別損失の計上 及び業績予想の修正に関するお知らせ (菊水化学リリース)
・菊水化学工業、日本ペイントHDと訴訟和解 特損3億円(日本経済新聞)

<お知らせ>

・パテント誌2023年1月号に、「知財戦略カスケードダウンによるオープン・クローズ戦略の実例検討」と題した論考が掲載されました。pdfで閲覧可能となしました。

知財戦略カスケードダウンの概要

ここでは、このブログでも提案している知財戦略カスケードダウンの概要について説明します。なお、詳細については下記もご参照ください。
・知財実務オンライン(YouTube):「知財戦略カスケードダウンと三方一選択」

<1.知財戦略カスケードダウンの概念>

まず、知財戦略カスケードダウンは、戦略・戦術論に基づいており、目的の下位に戦略、そして戦術があります。戦略とは目的を達成するための資源配分の選択(目的に基づく大まかな方策)であり、戦術とは戦略を実行するためのより具体的なプランと説明できます。
そして、戦略カスケードダウンとは、組織の上層の戦略・戦術が下層の目的となり、下層の目的に応じて下層の戦略・戦術が決定されるという概念です。


次に知財戦略カスケードダウンの概念図を下記に記します。
知財戦略カスケードダウンでは、知財の上位に事業及び研究開発が位置付けられます。
そして、事業毎に目的(事業目的)、当該目的に基づく戦略(事業戦略)、当該戦略に基づく戦術(事業戦術)が決定されます。また、研究開発毎に目的(研究開発目的)、当該目的に基づく戦略(研究開発戦略)、当該戦略に基づく戦術(研究開発戦術)が決定され、研究開発戦術の成果物として発明が創作されます。知財戦略カスケードダウンでは、事業と研究開発は相互にリンクしていると考えます。その理由は、事業に基づいて研究開発が行われるだけでなく、研究開発によって創作された新たな技術(発明)に基づいて新たな事業が行われる場合もあるためです。

そして、知財戦略カスケードダウンでは、知財目的が事業戦術に基づいて決定され、知財戦略が知財目的に基づいて決定されます。さらに、知財戦術は知財戦略に基づいて、研究開発の成果物である発明毎に権利化、秘匿化、自由技術化の選択(これを三方一選択(下記図)ともいいます。)を決定して実行します。したがって、知財戦術である発明毎の権利化、秘匿化、自由技術化の選択には事業の要素が含まれることになります。



上記のように知財目的は事業戦術に基づいて決定されるものであり、研究開発に基づいて決定されるものではありません。この理由は、知財は事業を成功に導くこと、すなわち事業の利益の最大化又は事業による企業価値の向上を大目的とするものであり、研究開発の成果物である発明の権利化(又は秘匿化)を目的とするものではないためです。したがって、例えば、特許出願ノルマや予算の消化を目的とした特許出願はこの知財戦略カスケードダウンでは存在し得ません。

<2.知財戦略カスケードダウンにおける知財目的>

知財目的は事業戦術に基づいて決定されますが、一つの事業において必ずしも事業戦術は一つではなく、事業戦術は複数の戦術によって構成される場合もあでしょう。このため、知財目的を立案するためには、まず事業戦術がどのようなものであるかを見出し、さらに技術要素を含む事業戦術を見出す必要があります。技術要素を含んだ事業戦術が複数存在する場合には、事業戦術毎、換言すると技術要素毎に知財目的を立案することが考えられ、その後の知財戦略及び知財戦術も技術要素毎に立案することとなります。
このように知財目的は、抽出した技術要素毎の事業戦術に基づいて立案されますが、上述のように、その大目的は知財の上位となる事業による自社利益又は自社価値の向上であり、例えば特許出願そのものを目的とすることはありません。

<3.知財戦略カスケードダウンにおける知財戦略>

知財戦略は技術要素毎の知財目的に基づいて立案されます。すなわち、知財戦略は、事業の利益を最大化又は企業価値を高めるために、知財目的に基づいて決定される技術要素毎の方策です。具体的には知財戦略は、技術要素に対するオープン・クローズ戦略、換言すると技術要素に対する三方一選択ともいえます。
ここで、事業戦術の段階で明確なオープン・クローズ戦略が決定されていれば、それに従い技術要素毎の知財戦略は立案されますが、ほとんどの場合では事業戦術の段階でオープン・クローズ戦略が行われることはないでしょう。従って、多くの場合には知財部門が技術要素毎のオープン・クローズ戦略を知財戦略として独自に立案することになると考えられます。

<4.知財戦略カスケードダウンにおける知財戦術>

知財戦術では、研究開発の成果物である発明毎に知財戦略で決定した権利化、秘匿化、又は自由技術化(三方一選択)を実行します。
ここで下記図は、事業、技術要素、及び発明の関係を示した概念図です。この図に示す各技術要素は事業戦術に基づいて導き出されるものであり、各技術要素は複数の発明が含まれる場合が多いでしょう。なお、技術要素に含まれる発明には、事業戦術の立案時に創作されたものだけでなく、事業戦術が立案された後であって、事業の開始後に創作されるものもあります。


そして、知財戦略における三方一選択は技術要素毎のものであるため、技術要素に含まれる複数の発明全てに対して、知財戦略で決定した三方一選択が当てはまるとは限りません。このため、技術要素に含まれる発明に対して知財戦略を一律に適用することは適切でない可能性があります。そこで知財戦術では、知財戦略に基づいて技術要素に含まれる発明毎に三方一選択を行います。
例えば、知財戦略で技術要素Aを秘匿化すると決定したとしても、技術要素Aを使用した製品をリバースエンジニアリングすることで容易に知り得る技術(例えば発明a3)は営業秘密で言うところの非公知性を喪失することになるので、そもそも秘匿化に適しません。そこで、秘匿化に適さない発明a3は、知財戦術として例えば権利化を選択することになります。

<5.知財戦略カスケードダウンによる三位一体>

知財戦略カスケードダウンは、知財(知財部)が事業を理解することによって成り立つものです。また、知財部で実行した戦術を事業部や研究開発部に報告(フィードバック)もするでしょう。この報告には、単に、発明を特許出願、秘匿化、又は自由技術化したとの報告以外にもあるでしょう。
例えば、自社が他社に対して優位であると考えていた技術が、事業の開始からしばらく後においてその優位性が低下しているといったことも、他社の特許出願動向を知財部が監視することで知るかもしれません。このような場合、知財部は事業部に対して事業の優位性が低下していることを報告したり、研究開発部に対して他社の技術動向を報告するでしょう。場合によっては、例えば、秘匿化していた技術を権利化した方が他社に対抗できるのであれば、それを提案することも考えられます(下記図の三方一選択の継時変化)。このような提案を行う場合には、事業戦略(戦術)の見直しも必要となるかもしれません。

このように、他社の技術動向に基づく事業の見直しの提案や、新たな研究開発の提案を知財から行うことができれば、まさに知財戦略カスケードダウンによって三位一体が行われることとなります。知財は研究開発からの発明提案から特許出願を行う、とのように「受け身」の立場になりがちですが、知財が事業を理解して知財戦略カスケードダウンを行うことで、事業や研究開発に対して提案を行うという下地を作ることができます。

さらに、知財が事業を理解すると、知財視点からより事業利益を高めることができる事業戦略・戦術に思い至るかもしれません。ところが、事業戦術の立案が決定した後に知財から事業への提案を行ったも遅すぎる可能性もあるでしょう。
一方で、事業戦略の立案の段階で知財が提案を行なえれば、知財視点を加味した事業戦略・戦術の立案が可能となります。そして、この事業戦術に基づいた知財戦略・戦術の立案を行うことは、知財が事業利益の向上により寄与することとなります。
これを実現するためには、事業と知財とのコミュニケーションが非常に重要となります。例えば、事業部が新たな事業を創出している場合に、どの段階から知財部が提案を行えるか、そのタイミングを見図らなければなりません。感覚的に、事業目的の立案から知財が介入することは早すぎるように思えます。一方で、事業戦術が決定する直前では遅すぎるでしょう。そうすると事業戦略の立案の段階で、知財も参加することが望ましいのがはないでしょうか。
このように、事業に対して、適したタイミングで知財視点からの提案を行えるように、知財は常日頃から事業とのコミュニケーションを円滑に行う必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信