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2017年11月8日水曜日

営業秘密とする技術と特許出願する技術との線引き

技術情報を営業秘密として管理するか、又は特許出願とするかで悩む場合があるかもしれません。
では、どのような基準で技術情報を営業秘密とするか特許とするかを分けるべきでしょうか?

判断基準の一つは、その技術を公知とするべきか否かであると思います。
非公知とするのであれば営業秘密とし、公知となっても良いのであれば特許出願も視野に入れることができます。
最近流行りの「オープン&クローズ戦略」に通じる考えですね。

ここで、営業秘密として管理することが難しい技術があります。
それは、消費者(顧客)が視認できる製品の外形や機械構造等の製品化すると必然的に公知となってしまう技術(技術思想)です。
これらは、市場に製品が出ると同時に公知となってしまうので、営業秘密の3要件のうち、「非公知性」を満たさなくなります。
非公知性を満たさなくなる技術は、営業秘密として管理するのではなく、特許出願(実用新案出願又は意匠出願)することを検討するべきかと思います。
一方で、製品が市場に出る前であれば公知となっていないので、その技術は営業秘密として管理可能ですし、特許出願等を行うのであれば営業秘密として秘密管理するべきものです。



なお、製品の外形等でも、その図面は営業秘密とできるのではないかと思います。
図面そのものは、非公知であり有用性を有していると考えられるためです。
しかしながら、判例では容易にリバースエンジニアリングできる技術は、非公知性を有しないとされています。

非公知性とリバースエンジニアリングとの関係については、下記ブログ記事や私の論文でまとめていますので、ご興味があれば見てください。
下記の記事等にも記載していますが、営業秘密における非公知性とリバースエンジニアリングとの関係は未だ判例が少ないため、明確でないように思えます。

・過去ブログ記事「営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング-
・過去ブログ記事「営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング- その2
・パテント誌論文「営業秘密における有用性と非公知性について

また、特許で言うところの進歩性が認められ難い技術情報は、営業秘密として管理すべきかと思います。
例えば、工場の生産ラインの構成、食品や化学製品等の原料配合、プログラムのソース等、設計事項とされる技術であるものの、他社に知られたくない技術が営業秘密として管理する技術になるのではないでしょうか。

さらに、特許出願明細書に記載しなかった数値等、特許出願に関するヒアリングを弁理士と行った際に、「これはノウハウでしょうから明細書に記載するのはやめましょう。」とされた技術も営業秘密として管理するべきかと思います。

特に、特許技術に関連する技術情報(ノウハウ)は、ライセンスを意識するのであれば営業秘密として管理することは重要かと思います。
特許権と共にその技術をより確実に実施するためのノウハウも一緒にライセンスすることは一般的ですから。

また、特許は、存続期間が出願日から20年です。
この20年という期間は、長いようで短い気もします。この20年を過ぎると特許権は消滅し、その技術は誰でも使える技術となります。
特許出願と製品販売が同時にできている場合は少ないと思います。
例えば、特許出願から2~3年後に製品販売、略それと同時に特許権の取得。
その製品の市場優位性が分かるのにさらに1~2年とすると、特許権を取得していることによる利益は15年、審査の長期化等が生じるとそれよりも短いかもしれません。
その特許権が基礎技術に近いものであるならば、その技術を使った製品販売まで相当の時間を要するかもしれません。

一方、技術を営業秘密として適切に管理すると、独占排他権は半永久的に独占できるかもしれません。
例えば、コカ・コーラの製法やケンタッキーフライドチキンの製法等がとても分かりやすい典型例でしょうか。
このように、技術を営業秘密とするか特許出願するかの判断は、企業の事業スパンも考慮に入れるべきかと思います。

あまりまとまっていない気もしますが、技術情報を営業秘密とするか特許出願するかは、非常に難しい判断かもしれません。
この判断としてよくない判断は、営業秘密管理や特許出願を目的が明確でないまま漫然と行うことでしょうか。

私は知財業界においてこのような漫然とした判断が多々あるように感じます。
何のために特許出願を行うのか?自社実施のため?、他社排除のため?、社員のモチベーションアップのため?
営業秘密管理や特許出願はコストもかかり、マンパワーも要します。
営業秘密管理、特許出願の何れを選択する場合でも、最も重要なことはその“目的”は何かということではないでしょうか?

2017年7月24日月曜日

営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング- その2

前回のブログで紹介した光通風雨戸事件、攪拌造粒裝置事件からは、例え、原告が製品の形状・寸法・構造等を積極的に公知としていなくても、それらが特別の技術等が必要とせず一般的に用いられる容易な技術的手段を用いれば製品自体から得られるような情報であれば、営業秘密としての非公知性を失っていると裁判所は判断しています。

ここで、ノギスや定規等の一般的に多くの人が用いる測定器具を用いることで得られる情報であれば、全て公知技術となるのでしょうか。例えば、自動車は多くの機械部品が用いられており、それは自動車を分解し、時間と手間をかければ一般的な測定器具を用いることで、詳細な寸法を知り得ると思われます。
この点に関して、セラミックコンデンサー事件では、リバースエンジニアリングによって電子データに近い情報を得ることができたとしても、「専門家により、多額の費用をかけ、長期間にわたって分析することが必要であるものと推認される」ものは非公知性を失っていないとしています。このことから、一般的な測定器具によって知り得る情報であっても、時間と手間がかかるようなということは、多額の費用をかけ、長期間にわたって分析することが必要であると推認されるため、非公知性が認められるとも考えられます。




一方で、錫合金組成事件において裁判所は、「鉛フリーの錫合金については、・・・、錫合金を製造する事業者においては、錫合金で使用されている添加成分についておおよその見当を付けることができるといえる。」とまず認定し、そのうえで、ICP発光分光分析法は安価であるとして、リバースエンジニアリングにより原告が有する情報は非公知性を欠くとしています。これについて、錫合金で使用されている添加成分の見当を付けることができる者は明らかに「専門家」とも考えられます。

また、錫合金組成事件において裁判所は「ICP発光分光分析法は、製造・生産の高度化や管理、環境の保全、食の品質管理など日々の生活に密接に関連する分野において、高度な研究活動から日々の検査分析まで幅広いレベルで用いられている。これらを支える測定装置の進歩も著しく、マニュアルに従って分析条件を設定し、試料をセットしてパソコンから測定を開始させれば、数分で分析結果が表示される。」と認定しています。
さらに、本事件において裁判所は、ICP発光分光分析法について「ICP(Inductively Coupled Plasma、誘導結合プラズマ)発光分光分析法(ICP-AES)は、アルゴンガスのICPを光源とする発光分析法である。試料の溶液を霧状にした分析試料に外部からプラズマのエネルギーを与えると、試料に含まれる成分元素(原子)が励起され、励起された原子が低いエネルギー準位に戻る時に元素固有の波長の光を放出し、この放出される発光線(スペクトル線)を測定する。具体的には、発光線の位置(波長)から成分元素の種類を判定し(定性分析)、その強度から各元素の含有量を求める(定量分析)。分析装置には、1元素ずつの測定になるが分解能が高いシーケンシャル型と、分解能は劣るが、多元素同時測定が可能であるマルチチャンネル型があり、目的によって使い分けられる。・・・」と説明しています。
果たして、この説明でICP発光分光分析法を理解できる者がどれほどいるでしょうか。この程度の説明でICP発光分光分析法を理解できるものは、例えばこれに関する専門技術等を学んだ者でなければ理解できないと思われます。すなわち、このような理解を要するICP発光分光分析法は「特別な技術」とも考えられます。

また、錫合金組成事件では「定量分析は、そうした定性分析によって検出された元素のみを対象に行えば足りるから、原告らが主張するように、100余りの元素の全てを定量分析する必要があるとはいえず、むしろ比較的安価に組成を特定することができるというべきである。」と判断しているものの、果たして実際には裁判所の判断のように組成を特定できるのでしょうか。
実際に行った分析が想定した結果とならないことも多々あり、裁判所の判断のとおり、安価に組成を特定ることができるのか甚だ疑問です。

さらに、ICP発光分光分析の費用も「比較的安価」であるとしているが、安価の基準は何でしょうか。被告は「調査費用は十数万円から高くても20万円程度」と主張しています、「20万円」以下であれば安価なのでしょうか。このように、錫合金組成事件におけるリバースエンジニアリングに基づく非公知性に対する裁判所の判断には多くの疑義を感じます。

なお、光通風雨戸事件におけるリバースエンジニアリングは、光通風雨戸の各部材の寸法を測定することであるため、確かに一般的な技術的手段を用いて容易に取得できる情報できるものであり、光通風雨戸が市場に流通することで非公知性を失うという裁判所の判断は妥当であると思われます。一方で、攪拌造粒裝置事件における原告製品である「攪拌造粒」の形状・寸法・構造は本当に一般的な技術手段を用いて容易に取得できる情報なのでしょうか。攪拌造粒裝置事件に係る判決文を読んでみても、その点が判然としないように思えます。

以上のように、リバースエンジニアリングによって技術情報の非公知性が失われたか否かの判断基準は未だ明確になっていないように思えます。
しかしながら、技術情報に関しては、今後、訴訟において被告がリバースエンジニアリングによって非公知性が失われているとの主張を行うこと可能性が高いことが想定されます。このため、企業としては、リバースエンジニアリングによって非公知性が失われる可能性を十分検討したうえで、技術情報を営業秘密とするか否かを判断する必要があると思われます。

2017年7月21日金曜日

営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング-

最後に、営業秘密の3要件の一つである非公知性についてです。

営業秘密は、3要件とは下記の通りです。
①秘密として管理されていること(秘密管理性)
②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
③公然と知られていないこと(非公知性)

なお、本記事は、私がパテントに寄稿した「営業秘密における有用性と非公知性について」(パテントvol.70 No.4,p112-p122(2017) を一部抜粋したものを含みます。

営業秘密管理指針では「当該営業秘密が一般的に知られた状態となっていない状態、又は容易に知ることができない状態」とされています。そして、この非公知性とは、特許法における新規性とは異なり、守秘義務の無い他者が当該営業秘密を知っても、又は独自に同様の情報を取得しても秘密状態を維持していれば非公知であるとされます。
さらに、営業秘密管理指針では「当該情報が実は外国の刊行物に過去に記載されていたような状況であっても、当該情報の管理地においてその事実が知られておらず、その取得に時間的・資金的に相当のコストを要する場合には、非公知性はなお認められうる。」とされています。

一方、特許における新規性では、その取得に時間的・資金的に相当のコストを要しても得ることができる刊行物等に記載されていたら新規性は失われるとされます。このように、営業秘密における非公知性の要件は、特許における新規性の要件とは若干異なるものです。


ここで、技術情報に特有と考えられる非公知性の判断として、既に市場に出回った製品をリバースエンジニアリング可能なことによって、非公知性が失われたか否かの検討が行われる場合があります。なお、一般的に、リバースエンジニアリングそのものに違法性があるとは解されません。
そして、争いとなる技術情報が、リバースエンジニアリングによって非公知性を失っていると裁判所によって判断されると営業秘密性が認められないことになります。

リバースエンジニアリングが可能であったとして非公知性の有無を争った事例としては、例えば、セラミックコンデンサー事件(大阪地判平成15年2月27日判決)、光通風雨戸事件(知財高裁平成23年7月21日判決)、攪拌造粒裝置事件(大阪地裁平成24年12月6日判決)、錫合金組成事件(大阪地裁平成28年7月21日判決)があります。

このうち、セラミックコンデンサー事件は非公知性が認められ、光通風雨戸事件、攪拌造粒裝置事件、及び錫合金組成事件はリバースエンジニアリングによって非公知性が認められないとされています。

セラミックコンデンサー事件は、電子データの非公知性を争った事例であり、情報の量や専門性を考えみて、たとえリバースエンジニアリンを行ってとしても、費用が多額となり、長期間を必要とするような場合は、営業秘密とされる情報が市場に出回っていたとしてもそれは非公知性を失わない、と判断していると解されます。

一方、光通風雨戸事件、攪拌造粒裝置事件は機械構造に関するものであり、たとえ、原告が製品の形状・寸法・構造等を積極的に公知としていなくても、それらが特別の技術等が必要とせず一般的に用いられる容易な技術的手段を用いれば製品自体から得られるような情報であれば、営業秘密としての非公知性を失っているとされます。
なお、光通風雨戸事件は営業秘密関連の事件では数少ない知財高裁の判決ですので、影響力はそれなりに高いと思います。

さらに、錫合金組成事件は錫合金の組成に関するものであり、「鉛フリーの錫合金について・・・、錫合金を製造する事業者においては、錫合金で使用されている添加成分についておおよその見当を付けることができるといえる。」とまず認定し、そのうえで、ICP発光分光分析法は安価であるとして、リバースエンジニアリングにより原告が有する情報は非公知性を欠くとしています。

このように、技術分野によってもリバースエンジニアリングが可能であるとして非公知性を失うか否かの判断が分かれるようです。
次回は、これらの裁判所による判断に対しての私見を記載したいと思います。

2017年5月14日日曜日

営業秘密とは? 基本のキ

たまにニュース等で「営業秘密の漏えい」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。

では、 そもそも営業秘密とは何でしょう?
営業秘密とは、不正競争防止法第2条第6項において下記のように規定されています。
・秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

まず、「技術上又は営業上の情報」とは何でしょうか。
具体的には製品の設計図・製法、顧客名簿、販売マニュアル、仕入先リスト等(*1)です。ざっくりというと、他社に知られたくないと思われる情報は、営業秘密になり得ると考えられます。
なお、製品の設計図や製法等の技術に関する情報を技術情報、顧客名簿、販売マニュアル、仕入先リスト等の経営に関する情報を経営情報又は営業情報と言ったりします。

そして、営業秘密は、下記3つの要件を満たすものです。
①秘密として管理されていること(秘密管理性)
②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
③公然と知られていないこと(非公知性)
すなわち、企業から情報が漏えいされたとしても、この3つの要件が一つでも欠けていたら、それは営業秘密とは認められず、漏えいさせた人物に対して、民事、刑事で訴えてとしても求められないことになります。

上記3つの要件のうち、最も重要とされているものが、①秘密管理性です。
民事訴訟においても、まず、裁判所によって当該情報の秘密管理性の有無が判断され、秘密管理性がないとされると、有用性や非公知性を判断することなく、当該情報は営業秘密ではないとされます。

しかしながら、3つの要件よりも重要なこと、それは漏えいされたとする情報を特定することです。
あたりまえですね、“何”が漏えいしたのかを特定しなければ、 上記3つの要件の判断をすることすらできません。
ところが、民事訴訟において、この“何”が漏えいしたのかを特定することなく、訴訟に臨む原告が少なからずいます。このような場合、裁判所は3つの要件を特定することもなく、漏えいされたとする情報が特定できないとして、原告の訴えを棄却します。

なぜ、原告はこのような状態で訴訟を起こすのでしょう?
おそらく、例えば以下のようなロジックでしょうか。

自社の元従業員が競合他社へ転職した。
          ↓
この競合他社が自社と同じような事業を始めた。
          ↓
ならば、元従業員が上記事業の「何らかの情報」を自社から持ち出したに違いない。
          ↓
持ち出された「何らかの情報」は、きっと事業に関するあの情報やこの情報だろう。
          ↓
うーん、ケシカラン!!訴えてやる!!
          ↓
で、裁判になっても、原告は「何らかの情報」を説明できない・・・

こうならないためにも、常日頃から、自社にとって外部に漏らされたくない情報を正しく特定し、秘密管理を行う必要があります。

次回からは、営業秘密に関する3つの要件等について書いてみたいと思います。
 
(1)経済産業省 知的財産政策室編 逐条解説 不正競争防止法 p.42(2016年)