2018年11月1日木曜日

営業秘密と先使用権主張準備のページを作成

営業秘密と先使用権主張準備」のページを新たに作成しました。
過去のブログ記事をまとめたものになります。

営業秘密管理を先使用権主張の準備に利用する案も記載しています。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年10月24日水曜日

愛媛県が開発した「養殖ぶりの餌」から検討する知財戦略

非常に興味深い記事がありました。
ブリの餌にチョコを混ぜると、切り身にしても鮮やかな色を保つとは!!
「養殖ブリの餌にチョコ 抗酸化、鮮やかな色保つ」(毎日新聞)
この技術については、愛媛県が特許出願を行っているとのこと。
ここで、知財戦略としては、養殖ブリの餌に何を加えるかは公知となりにくい情報であるので秘匿化することが考えられます。
しかしながら、このように自ら公知とするのであれば、特許出願を行い独占排他権を取得することは重要な知財戦略といえます。

そうであるならば、明細書にどこまで詳しく技術を記載するのかが次に検討するポイントかと思います。
明細書には当該発明を当業者が実施可能な程度に記載すればいいのであり、必要以上に技術(ノウハウ)を記載するべきではありません。
とはいえ、「養殖魚の餌」のような技術、広く言えば化学系の技術は、機械や電気系のようにその構成から作用効果が自ずと導き出せるものではないので、ある程度の実験データを記載することにより、その効果を立証する必要があるでしょう。


ここで、上記記事にはみかんの皮を餌に混ぜたみかんブリなるものを開発したとあります。で、少々調べるとこれも特許出願され、特許権が取得されていました。
特許第6344563号です。そして、この特許請求の範囲(独立項)は下記のようなものです。ちなみに、出願時の請求項から補正はされていません。そして、この特許権は、直感的に広い権利範囲のものであると考えられます。

【請求項1】
圧搾法により柑橘の果皮から採取して、蒸留することなく粗精製した果皮油を添加したことを特徴とする養殖魚用飼料。
【請求項2】
圧搾法により柑橘の果皮から採取して、蒸留することなく粗精製した果皮油を添加した養殖魚用飼料を、養殖魚に所定量与える果皮油給餌工程を備えることを特徴とする養殖魚の養殖方法。

また、実施の形態をざっと見ると、養殖魚用飼料の組成を示す表や飼育試験の試験結果が記載されているものの、特許を取得するために必要な最低限の記載であるかと思われます。
ここで、もし飼料の組成や試験結果を必要以上に詳細に記載してしまうと、それを見た当業者に簡単に利用されるかもしれません。このような場合、特許権の侵害行為であるとして差し止めや損害賠償請求が可能ですが、実際に訴訟まで行うと大変ですので、やはり必要以上に技術内容を開示することは控えて可能な限り他社に利用されないようにするほうが良いでしょう。
そして、特許明細書に記載していない詳細な技術内容は、ノウハウとして秘匿化するべきです。
このように、一つの技術であっても、上位概念を特許化し、具体的な数値等の下位概念はノウハウとして秘匿することは広く行われています。

さらにいうと、どのような特許権が取得できそうかも想定して特許出願の可否を決定するべきでしょう。
例えば、既に上位概念の技術は公知となっており、数値データのような技術でしか特許権が取れないような場合は、特段の理由がない限り特許出願はお勧めしません。
数値データは、他者による実施行為の有無を判断することは非常に難しく、また特許権の技術的範囲は狭くなりがちです。このため、たとえ特許権を取得できたとしても技術の公開にしかならない可能性があるためです。

では、この記事にあるチョコレートを混ぜた養殖魚用飼料はどうでしょうか?
この特許出願は未だ公開されていませんが、直感的に新規性はあるでしょう。そして、上記特許権のように果皮湯を添加した養殖魚用飼料が最も近い先行技術であり、果皮湯をチョコレートとすることはこの特許権に対して進歩性があると思われます。そもそも、果皮湯を添加した養殖魚用飼料では、養殖魚の食いつきが悪かったという課題があったようですし、効果も果皮湯を添加した養殖魚用飼料よりも高いようだからです。
しかも、果皮湯を添加した養殖魚用飼料が上記請求の範囲のように、構成要件が少なくても特許権となっていますので、チョコレートを添加した養殖魚用飼料でも同程度の構成要件で特許権が取得できる可能性があると思われます。すなわち、広い権利範囲の特許権です。

このように特許出願をするにあたっては、どのような請求の範囲はどのように記載するのか、実施形態はどの程度記載するのか、そして記載しない技術はノウハウとするのか?
これらを十分に検討する必要があります。そして、その検討の基準は、過去の特許公開公報等の公知となっている技術です。
特許出願の最大のリスクは技術の公知化です。このリスクを最小限とし、公知としない技術は適切に秘匿化するという知財戦略を行わなければ、自社の技術を確実に守ることは難しいでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年10月19日金曜日

何を営業秘密とするのか?

企業の知財関係の方と営業秘密について少々踏み込んでする話をすると、見えてくることがあります。それは、情報の秘密管理云々の前に、どのような情報を営業秘密として管理するのかが定まっていない場合があるということです。

知財関係の方と話をするので、営業秘密として管理する対象は技術情報(ノウハウ)ですが、いったいどのような技術情報を秘密管理するのか?ということが明確でない企業が多いようです。

また、企業の在り方によっても営業秘密管理するべき技術情報が異なってくるようです。
例えば、人材の流動性が高い企業や業界ほど、自社のノウハウの漏洩を厳しく管理すべきかというと、必ずしもそうではないのかもしれません。


例えば、経験のある良い人材が自社へ入社することを期待し、また、人材が自社から他社へ移ることも許容している企業にとっては、情報管理を厳しくすることは人材の流入にとってよくないと考えるかもしれません。すなわち、情報管理が厳しいということが逆に悪評となり、良い人材の流入が滞るかもしれません。
このような企業は、自社独自のノウハウに対して必要最低限の秘密管理を行う一方、例えば自社の収益には直結しないようなノウハウの流出は許容するという選択もあり得るでしょう。

一方、自社開発のノウハウの流出を最大限防止したいという企業(例えば競業他社との競争が激しく人材の流動性も高くない業界等?)は、自社開発のノウハウであれば、既に公知となっている可能性も考えられるノウハウをも秘密管理するという選択もあり得るでしょう。

さらに、自社内で創出された情報をどのレベルから営業秘密管理するのかということも大事です。
例えば、新規なビジネスモデルかもしれない漠然とした情報はどうするのか?もし、そのような情報が重要であれば、内容を特定した文章等を作成し、秘密管理するべきでしょう。
一方で、漠然としすぎており、海の物とも山の物とも分からないものは、特定も難しく営業秘密管理ができないかもしれません。そういう情報は、社外に漏れることを許容して何もしないという選択もあり得ます。

従って、企業としては、どのような情報を営業秘密管理するのかという大まかな基準を策定するべきかと思います。
そうしないと、情報に対する営業秘密管理の有無は担当者個人が有する基準に委ねられ、本来ならば営業秘密管理するべき情報が当該管理から外れたり、本来ならば営業秘密管理が不要な情報が当該管理をさせていたりするかもしれません。
もし、他の情報が適切に営業秘密管理されていたとしても、当該管理から外れた情報は営業秘密とは認められません。また、不要な情報を営業秘密管理するということは、当該情報の特定等に要するコストや作業等の無駄が生じることになります。

このように、営業秘密の特定とはとかく面倒なものです。
果たしてどのように行うべきか、また行えるのか?

弁理士による営業秘密関連情報の発信