2020年10月11日日曜日

秘密保持契約を締結して営業秘密を開示する場合

昨日は無事、大阪発明協会主催の研修「技術情報を営業秘密として守るための 実務と事例研究」を終えることができました。
参加してくださった皆様ありがとうございました。

この研修でも説明したのですが、秘密保持契約を締結して秘匿化情報を取引先に開示したものの、裁判所においてこの秘匿化情報は営業秘密ではないと判断された裁判例がいくつかあります。

参考ブログ:

昨今、オープンイノベーションの広がりもあり、秘密保持契約の重要性はますます高まるでしょう。
そして、秘密保持契約を締結して秘匿化情報を開示することは、相手方が当該情報を目的外使用等した場合に不正競争防止法違反と秘密保持義務違反の2つで責任を負わせることができます。

すなわち、秘匿化情報が営業秘密と認められれば、相手方は不競法違反と共に秘密保持義務違反となり、たとえ、秘匿化情報が営業秘密と認められなくても、秘密保持義務違反となる可能性が有ります。
ここで、「可能性が有る」としている理由は、当該秘匿化情報が営業秘密と認められない場合には同時に当該秘匿化情報が秘密保持義務の対象ではないとして秘密保持義務違反にもならない場合が有るためです。



具体的には、秘匿化情報がすでに公知の情報となっていた場合です。例えば、秘密保持契約を締結して開示した秘匿化情報を使用した製品が販売され、この製品をリバースエンジニアリングすることで当該秘匿化情報が公知となった場合や、秘密保持契約を締結する前に既に秘匿化情報が公知となっている場合です。
一般的な秘密保持契約では、例外規定として、公知となった情報等は秘密保持義務の対象としないことが規定されていますので、上記のような秘匿化情報は公知であるため秘密保持の対象とはみなされないことになります。

従って、秘密保持契約を締結して秘匿化情報を相手方に開示する場合には、当該秘匿化情報が真に営業秘密足り得るか否かを正しく判断する必要があります。この判断を間違えると、相手方との間で不要な争いが生じる可能性が有ります。

しかしながら、自社製品のリバースエンジニアリングによって公知となる可能性が有る場合には、当該自社製品のリバースエンジニアリングを禁止する等を含む守秘義務契約を製品の販売先と締結することで非公知性を保つことができるかもしれません。このような守秘義務契約は、当該製品の販売先がが不特定の消費者である場合には難しいでしょうが、販売先が限られた企業等であれば可能かと思います。

例えば、攪拌造粒装置事件(大阪地裁平成24年12月6日判決 平成23年(ワ)第2283号)では、原告製品がリバースエンジニアリング可能であるとして、原告主張のノウハウの非公知性は喪失していると裁判所は判断しています。
その理由として「原告主張ノウハウは,いずれも原告製品の形状・寸法・構造に関する事項で,原告製品の現物から実測可能なものばかりである。そして,原告製品は,被告がフロイントから攪拌造粒機の製造委託を受けたときよりも前から,顧客に特段の守秘義務を課すことなく,長期間にわたって販売されており,さらには中古市場でも流通している。」や「原告主張ノウハウは,いずれも原告製品の形状・寸法・構造に帰するものばかりであり,それらを知るために特別の技術等が必要とされるわけでもないのであるから,原告製品が守秘義務を課すことなく顧客に販売され,市場に流通したことをもって,公知になったと見るほかない。」とのように、「顧客に守秘義務を課すことなく製品を販売」していることを挙げています。
とすれば、「顧客に守秘義務を課して製品を販売」した場合には、たとえ製品をリバースエンジニアリングすることでノウハウを知り得るとしても、営業秘密で言うところの非公知性は保たれていると判断される可能性が有るかと思います。

以上のように、秘密保持契約を締結したからといって安心できるものではありません。秘密保持の対象としたつもりの情報が真にその対象となり得るのかを、契約締結前に十分に検討する必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年10月4日日曜日

ツィッターをはじめたのでブログのデザインを変更、そして知財業界に少々思うこと。

少し前に営業秘密ラボのツイッター(@TradesecretLab)をはじめたので、ブログのデザインも変更して、スマホでも読み易いようにしてみました。

ツイッターをはじめてみて思ったことは、多くの知財関係者がツイッターをしてるんですね、ということ。しかしながら、営業秘密や技術情報の秘匿化についてはあまりツイッターでは話題にあがっていなさそう。

まあ、そんなものかな、とも思います。
特許は特許事務所の主たる仕事(ビジネス)ですが、営業秘密はビジネスとして確立していませんので、あまりつぶやく切っ掛けがないようにも思います。

また、企業知財部も出願関係の仕事はしていても、秘匿化についてはその仕事には含まれていないところも多い(ほとんどない?)ようにも思えます。

一方で近年において、企業における営業秘密の漏えいについての問題意識が高まっているように思えます。この理由の一つに、近年の中国の動向があると思いますが。
先日も下記のような報道が有りました。
・機密情報の流出阻止 経団連が政府と協調へ(日経新聞)

しかしながら、営業秘密も知財のはずですが、やはり話題にはあがっていないような?このような動きは知財業界とは別のところの話なのでしょうか?それとも私が気が付いていないだけ?少々モヤモヤ感があります。

そうは言っても、これが営業秘密に対する現状であるので、自分ができることを地道に続けようかと思います。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年9月27日日曜日

刑事事件:ロボット情報不正取得事件

先日、元勤務先からロボット情報を不正に持ち出したとして、この元勤務先の元従業員が逮捕されました。近年、転職先で有利になる等の目的で行われるありがちな営業秘密流出事件です。

具体的には、報道によると「逮捕容疑は昨年8月20日、不正な利益を得る目的で会社のサーバーにアクセスし、営業秘密である産業用ロボットの設計図や生産ラインのレイアウト図など59点の情報をハードディスクにコピーして不正に取得したとしている。」(「ロボット情報不正取得疑い 勤務先から、41歳男逮捕」2020/09/24 産経新聞)とのことです。

なお、上記報道にもあるように元従業員は、「「データをコピーしたことに間違いはないが、不正な利益を得る目的ではない」と容疑を一部否認している。」とのことですが、「逮捕前の任意の調べに「(データを示せば)優遇されるのではないかと思った」と話したという。」との報道もあります(「ロボットの機密情報持ち出した疑い 転職した元社員逮捕」2020/09/24 朝日新聞)。
このように転職先で優遇されることを目的として、退職時に元勤務先の営業秘密を持ち出していたら、それを持って不正の目的となり、刑事事件となる可能性が高いです。
このような事実は、企業に勤める人は窃盗が犯罪であることと同様に、刑事事件化されて刑事罰を受ける可能性が有ることを理解すべきです。

また、他の報道によると元勤務先の取引先の情報も持ち出していたようです(「産業用ロボットデータ不正持ち出しで逮捕の男 取引先のデータも含まれていた」2020/09/25 CVCNEWS)。
これは、逮捕された元従業員の元勤務先は、営業秘密を持ち出された被害企業というだけでなく、他社に迷惑をかけた企業との立場にもなり得、信用を失いかねないことになります。
営業秘密の流出は、自社に関する情報の流出だけであれば、流出元の企業は被害企業となりますが、顧客情報等に代表されるような他社(他者)の情報が流出した場合には、当該他社(他者)に対しては加害企業とのような立場に立たされます。この典型例がベネッセ個人情報流出事件でしょう。


一方、元従業員の転職先企業は、どのような対応をしたのでしょうか?
これに関して報道によると「さらに転職先では逮捕容疑の59件を除くデータの一部について、紙の資料にして示したが、転職先は「同業他社のものはリスクがある」と提供を受けなかったという。」とあります(「ロボット情報持ち出し、転職先「リスクある」と利用断る」2020/09/25 朝日新聞)。

この転職先企業によるこの判断は適切以外の何物でもありません。
転職者が元勤務先の営業秘密を持ち出したとしても、それを自社(転職先企業)で開示させないことがベストですが、もし開示したとしても、その使用は不正競争防止法違反に該当することを理解し、その流入を組み止める必要があります。
このため、特に転職者が提供する情報については細心の注意を払うべきでしょう。
例えば、それまで自社では知り得ていなかった情報を自社で転職者が開示した場合には、その出所を確認するべきです。もし、その出所が転職者の元勤務先であれば、元勤務先の営業秘密の可能性が有ります。
このような意識を持たずに開示された営業秘密を使用して製品を製造販売した結果、刑事事件となり、当該製品の製造販売を中止した企業もあります

このように、転職者による営業秘密の持ち出しは、元勤務先にとっても損害を生じさせるだけでなく、その目的が転職先での使用であるので、転職先にも大きなリスク(営業秘密の流入リスク)を与えるものです。従って転職先企業は、転職者が元勤務先の営業秘密を持ち込まないように、例えば、入社決定時に元勤務先の営業秘密の持ち込みをしないように文章や口頭で説明し、また、入社後の研修等でも同様の説明をし、発覚した場合には元勤務先へ通告すると共に解雇することを予め説明することで、他社の営業秘密の流入を食い止める必要があります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信