2018年6月4日月曜日

平成27年不競法改正における経済産業委員会での共産党の誤った意見

先日、本年度不正競争防止法等の改正案が参議院も通過したのですが、共産党等が反対したとこのことを聞いたので、どのような理由で反対したのか調べました。
まあ、参考になるようなことは言ってませんでしたね。

調べている過程で、前回の改正における「平成二十七年七月二日の第189回国会 経済産業委員会 第21号」において、日本共産党の倉林明子議員が以下のような意見を述べているのを見つけました。

「営業秘密流出の背景には、電機産業に代表されるような大規模リストラや、下請事業者の知的財産を親事業者が奪い取るような下請いじめを改めることこそ抑止効果を高めることにつながることを指摘し、反対討論といたします。」

 国会会議録検索システム:経済産業委員会 第21号 平成27年7月2日

この意見から鑑みるに、この議員は「リストラに合われた方や下請けいじめを受けた事業者が営業秘密を流出させる」と考えているようですね。


この意見に私は非常に驚きました。
私は、営業秘密流出の背景は「大規模リストラや、下請事業者の知的財産を親事業者が奪い取るような下請いじめ」ではないと思っています。

営業秘密流出は、企業における内部犯罪が主であり、その動機の一つに会社への不満もあります。しかしながら、会社に対して不満を持っている人は多くおり、営業秘密流出の原因を「リストラ」や「下請けいじめ」と考えることは非常に危険であり、間違っています。
このように営業秘密流出の原因をその人や企業の境遇に求める考えは、リストラに合われた方や下請けいじめを受けた事業者にあらぬ疑いをかけるだけであり、また非常に差別的な考えではないでしょうか。

その理由に、営業秘密の流出については従業員だけでなく役員等が行うものも多く、また、その動機としては情報の転売、転職先での使用や独立して使用することが主です。さらに、営業秘密に関する様々なセミナーや営業秘密に携わる人との会話の中でも、このような意見は一度たりとも聞いたことはありません。

この議員は、このような考えをどこで仕入れたのでしょうか?共産党内部でこのような誤った考えが蔓延しているのでしょうか?リストラや下請けいじめにあったことを理由とする営業秘密の漏えいがどれだけあるのでしょうか?逆に教えて頂きたい。

営業秘密の流出が起きた企業において、下手をすればこの議員のように確固たる証拠もなく、一部の人を疑う人間も出てくるかもしれません。また、企業がこれから営業秘密の流出対策を策定する場合においても、何の根拠もないこのような考えに立脚することがあれば、営業秘密の流出対策を誤ったものにする可能性が非常に高いと思います。

私は、営業秘密流出の根本的な原因は「法律を知らない」ことにあると思っています。
営業秘密流出が不正競争防止法で民事的責任が規定されたのは、平成2年であり、刑事的責任に至っては平成15年と近年です。
しかも、通常の生活では、このような法律は誰も教えてくれませんし、自主的に学ぶようなものでもありません。

このため、企業が営業秘密流出を防止するためにやるべきことは、このような法律があり、現に民事的責任、刑事的責任を負わされている人が多数存在することを従業員等に教えることだと思います。これは企業の責任であるとも思います。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年5月31日木曜日

ノウハウの漏えい防止として何から始めるべきか?

今現在に至るまで自社のノウハウの漏えい防止を実施していない企業は多数あると思います。

ここで、IPAの「企業における営業秘密管理に関する実態調査」報告書における「調査報告書-資料編(アンケート調査結果)」の問8には「貴社において、過去 5 年間で営業秘密の漏えい事例はありましたか。」 という質問結果が記載されています。
この調査結果では、「漏えい事例はない(73.3%)」「わからない(18.1%)」 となっており、これらを除く8.6%の企 業が何らかの営業秘密漏えいを経験している、とのことです。
この結果は、一見、企業における営業秘密の漏えい事例は少ないようにも思えますが、その内情は単に自社からの情報漏えいに気づいていない、ということだとも考えられています。

現に、次の「問9.貴社において、社内 PC 等のログ確認やメールのモニタリング等、営業秘密が漏えいすることに気付けるような活動は実施されていますか?」の調査結果では、「検知活動は実施されていない(44.1%)」「わからない(5.7%)」であり、実に半数の企業がノウハウの漏えい防止を行っていないと思われます。

ところが、ノウハウの漏えい防止は企業の売り上げに直接影響するものでのありませんし、単に面倒なものであり、そもそも今まで行っていないかったのであればこれからも必要ないと考える人も存在するでしょう。
もっと言ってしまえば、「情報漏えいがあったとしても、気が付かないのであればそれで良い」とすら考える人も存在するかもしれません。

しかしながら、昨今の人材の流動化や大容量データの簡易な持ち運び等を鑑みると、ノウハウの漏えいを放置していると、自社のノウハウが他社で使用され、その結果、徐々に自社の競争力が減退することは間違いないでしょう。そして、競争力の減退のスピードは非常に速いかもしれません。


では、ノウハウの漏えい防止として、まず何をから始めるべきでしょうか?
私は、上記「問9」にもあるようにアクセスログの監視から始めるべきであると考えます。
現在の企業における情報管理において、よほど規模の小さい企業でない限り、データはデジタル化され、サーバー管理されているかと思います。
このため、データに対するアクセスログを監視することで、異常なアクセスが無いかをチェックします。
条件を設定してアラートを出力したり、従業員が退職届を出した直後にアクセスログをチェックしてデータの不正な流出の有無を確認します。従業員が退職届を出した直後にアクセスログをチェックすることは、多くの企業で行われているようですね。
また、定年退職者に対してもアクセスログのチェックを行った方が良いでしょう。
近年では、定年退職後にも他社で再就職することも十分に考えられます。

そして、やはり実施するべきことは、従業員に対する営業秘密(ノウハウ秘匿)の教育ですね。この社員教育において、アクセスログの監視を行っていることを周知します。
この周知を行うことで、多くの従業員はリスクを冒してまでノウハウを漏えいさせるような行動をとることをためらうと考えられます。
一方で、周知を行わないと、退職する従業員は、ノウハウの漏えいが犯罪行為であることを認識しないまま、退職と共にノウハウを漏えいさせる可能性があります。
アクセスログを監視することで、確かにノウハウの漏えいを検知できる可能性が高くなるかと思います。しかしながら、漏えいを検知したときとは、既に漏えいが行われたことを知るだけであり、本当の意味で漏えいを防止したことにはなりません。

なお、これらの前提としては、自社で保有している秘匿化ノウハウの確認です。
どの様なノウハウが秘匿化されているかは確認し、少なくともパスワード管理を行う必要があります。

ノウハウ管理としては、まず、このようなことを実施することが考えられます。
しかし、実際にどこの部署が実施するのかを決定することが一番難しいのかもしれませんね。
法務?知財?各部署?それとも人事?
仕事の押し付け合いにならないように決めましょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年5月28日月曜日

どの様な情報が秘匿化できるノウハウとなり得るのか?

企業が有する技術のうち、なにが秘匿化できるノウハウなのか?
「ノウハウとするべき情報とそうではない情報との切り分けが難しい」と考えている人もいるかと思います。
また、そもそも自社には秘匿化する情報はないと言い切ってしまう人も言います。
本来ノウハウを管理すべき人がそのように考えてしまうと、自社の情報を守るという思考に至らず当該企業においてノウハウ管理が全くできなくなってしまうかと思います。
そうなると、知らず知らずのうちに、自社のノウハウが外部に持ち出され、他社で使用されることになる可能性がありますし、既にそうなっているかもしれません。

なお、ここでは、特許出願した技術情報は秘匿化できるノウハウとは考えません。
特許出願は公開されるので、秘密にできないからです。しかしながら、特許出願してもそれが公開されるまでは当該情報はノウハウとなり得ます。

下記図は、従業員自身が有している情報のうち、ノウハウとノウハウでない情報とを、私の理解の元で図案化したものです。


そもそもノウハウとならない情報とは何でしょうか?
それは公知の情報、例えばインターネットや教科書、雑誌、論文等ですでに公知となっている一般的な知識であったり、自社だけでなく他社でも取得可能な技能や培うことができる一般的な技能であったりします。
一般的な技能とは、例えば、我々弁理士であれば明細書の作成技能、営業部員であれば営業を行ううえで一般的に取得可能な技能、溶接技術者であれば取得可能な一般的な溶接技能でしょうか。
このような従業員が有している一般的な知識や技能はノウハウとして秘匿することはできないでしょう。また、従業員の知識・技能が優れていたとしても、それが一般的な知識・技能の範囲内であれば、それに対して企業は秘匿可能なノウハウと主張することはできないでしょう。

一方、ノウハウとは、上記の裏返しであり、他社では取得できずに自社だけで取得可能な知識や技能となります。このような情報は企業として秘匿する価値のある情報となり得るでしょう。
すなわち、ノウハウとならない情報とノウハウとなる情報は、「自社のみで取得可能な知識や技能」か否かという基準で切り分けることができるかと思います。そして、ノウハウとなる情報の一部又は全部を必要に応じて企業は秘匿するべきでしょう。

さらに、ノウハウのうち、秘密管理性、有用性、非公知性を満たす情報が不正競争防止法で保護の対象となる営業秘密です。

つまり、ノウハウ>営業秘密であり、営業秘密と認められなくてもノウハウとはなり得ます。
例えば、公知の技術情報との差異が非常に小さく、営業秘密でいうところの有用性又は非公知性が認められない技術情報であっても、その情報を保有している企業がノウハウであると主張すばノウハウでしょう。そして、営業秘密と認められないノウハウであっても、従業員や取引会社との間で適正な秘密保持契約を結んでいれば、それに違反した者に対して契約不履行の民事責任を負わせることが可能になるかと思います。

換言すると、企業が自社のノウハウであると漠然と考えていても、営業秘密の要件も満たさず、持出しを禁止する規定や契約を従業員等と結ぶこともしていなければ、当該企業はノウハウの持ち出しは自由であると暗に認めていることになり、実際にノウハウを持ち出されても法的責任を負わせることはできません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信