2021年2月28日日曜日

「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」のいま

知的財産関連のコロナ対策として「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」があります。

今現在(2021/2/28)において、宣言者数(企業)は101に達し、対象特許数は927,897とのことです。
企業等が何時この宣言を行ったのかに興味が有ったので、これをグラフにしたものが下記です。
なお、この宣言には、権利不行使の範囲を制限することもできるので、制限なし(赤色)、制限あり(青色)で分けました。
制限なしで宣言を行った企業は50社であり、制限ありで宣言を行った企業は51社であるように、制限ありの方が多くなっています。

グラフから分かるように、宣言が始まった当初は制限なしで宣言を行う企業が多かったものの、日数が経つと制限ありを選択する企業が多くなり、最近では制限ありで宣言を行う企業しかありません。
なぜこのような傾向にあるのかは、それぞれの企業によって考え方等があるでしょうから何とも言えませんが、面白い傾向であるかと思います。


では、この宣言を行った企業の技術を他社が使った事例はあるのでしょうか。
私が知る限り、日産が宣言に基づいて他社に対して無償で利用許諾を行っています。

宣言に基づいて利用許諾したというニュースは、ライセンサーとライセンシーの二者による合意が必要でしょうから、実際には利用許諾したものの、一方が合意しなかったためにニュースになっていないものもあるかと思います。
また、許諾したものの、未だ製品化に至っていないためにニュースになっていないものもあるかと思います。

とはいえ、現に少なくとも1つはこの宣言に基づく無償許諾による製品化が行われたということは、この宣言の目的を少なからず果たしていると思います。
また、コロナウイルスの終息は未だ見えていない現状では、宣言に基づく利用許諾を希望する企業も増えるかもしれません。そうすると、この宣言の有効性がより明確になるかもしれません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2021年2月21日日曜日

<INPIT タイムスタンプ保管サービスの終了>

INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)が行っていたタイムスタンプ保管サービスが2021年3月31日をもって終了します。

タイムスタンプは、よく知られているように電子データの日付・時刻証明を行うために使用されるものです。知財の視点からでは、先使用権を証明するためのデータや営業秘密とするデータの日付・時刻証明のためにタイムスタンプを使用することが考えられます。

今回終了するタイムスタンプ保管サービスは、”電子文書の存在時刻証明の鍵となる民間のタイムスタンプサービスによって発行された「タイムスタンプトークン」を無料で預かり、利用者の求めに応じ預入証明書を発行する”ものです。
すなわち、タイムス保管サービスは、タイムスタンプが付されたデジタルデータそのものを保管するのでなく、”タイムスタンプトークン”(ハッシュ値に日時データが付与されたもの)を保管するサービスです。

個人的には、タイムスタンプトークンのみを保管するサービスはどの程度の需要があるのか疑問でしたが、2017年3月のサービス開始から4年程度で終了ということなので、残念ながらこのサービスには需要が無かったということなのでしょう。
しかしながら、タイムスタンプ保管サービスに需要が無かっただけであり、タイムスタンプそのものに需要がないということではないと思います。
INPITからのリリース(タイムスタンプ保管サービスの終了について)にも”タイムスタンプの利用が増加する一方、本サービスの利用は低迷しており(利用率は約 0.01%)”とあります。


ここで、韓国では営業秘密とするデータそのものを保管するサービスがあります。このサービスは、2010年11月から開始されて現在も実施中のようです。
古いものですが下記ニュースでは、開始から1年9か月で登録件数が1万件とのことであり、この件数が多いと考えるのか少ないと考えるのかは良くわかりませんが、韓国のサービスは2年弱で1万件の需要があるということは興味深いです。

また、WIPO(世界知的所有権機関)が提供するサービスとしてWIPO PROOF開始発表のプレスリリース)というものが有ります。
これは最近始まったものであり、タイムスタンプトークンと共に原本も保管するサービスで、タイムスタンプ保管サービスを終了するINPITも上記リリース内で利用を勧めています。INPITがWIPO PROOFの利用を勧めるということは、タイムスタンプ保管サービスに替わる新たなサービスを作る予定はないということなのでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2021年2月15日月曜日

<特許出願件数の月別平均から考える特許出願の弊害>

下の図は特許出願件数の2014年~2019年の月別平均です。
2020年の月別出願件数も特許庁から発表されていますが、コロナの影響が大きいのでコロナの影響のない2019年以前の数年間の月別出願件数を平均しています。


3月の出願件数が他の月に比べて多く、次に9月、12月の順となっています。
この理由は、特許業界の人ならすぐにわかるかと思います。
3月は年度末、9月は半期末、12月は年末、これらの月末までに発明者や開発部が出願件数のノルマを達成しないといけないタイミングです。

さらに、下記の図は各月の出願件数を中央値で割った値です。
ノルマが課されていないであろう実用新案登録出願を特許出願と共に示しています。


上記図から3月、9月、12月の特許出願件数が他の月に比べて多いことがよくわかります。特に3月は中央値の1.6倍以上となっています。
一方、実用新案に関しては3月の出願件数が多いようですが、6月や7月も同様に多いように、突出して出願件数が多い月はなく、中央値に対して±10%の範囲でばらついているように思えます。このことから、やはり実用新案に関してはノルマがあるから出願するという知財活動の意識は低いように思えます。

ノルマがあるから特許出願件数が期末に多くなることはこのようなグラフを示すまでもなく、知財業界では当たり前という認識でしょう。
しかしながら、ノルマを解消するための特許出願はいわゆる戦略的な出願ではなく、結果的に、自社で開発した技術情報を不必要に公開することとなる出願も多く含まれていると考えられます。

すなわち、本来であれば秘匿化した方が良い技術情報まで、ノルマ達成という知財戦略にとって本質的でない理由で特許出願し、その技術を公開しているのではないでしょうか。
このような出願は、わざわざ自社でコストをかけて、他者に技術情報を教えることとなり、自社にとってメリットよりもデメリットが大きい出願となる可能性があります。

日本の技術系の企業、特に大企業はこのような出願を以前から現在に至るまで行い続けています。果たして、このような特許出願のやり方が正しいのか、非常に疑問に思います。

では、どうするのか?
やはり、特許出願件数のノルマはやめるべきではないかと思います。特許事務所はこのノルマが有るので期末は忙しくなり、売り上げも伸びるのですが。
しかしながら、ノルマによって上述のように技術を公開するというデメリットが大きい特許出願が生じてしまいます。
このため、ノルマを撤廃し、秘匿化する技術を選択してそのような技術は特許出願しないという選択を行うべきでしょう。
一方で、特許出願は発明者に対する評価対象という側面もあり、特許出願のノルマがなくなれば、発明者は評価を得る機会を失うという懸念もあります。
このため、発明を秘匿化した場合であっても、特許出願と同様の評価を与えるという社内制度の創設が必要でしょう。

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