次は、営業秘密の3要件の一つである有用性についてです。
営業秘密は、3要件とは下記の通りです。
①秘密として管理されていること(秘密管理性)
②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
③公然と知られていないこと(非公知性)
なお、本記事は、私がパテントに寄稿した「営業秘密における有用性と非公知性について」(パテントvol.70 No.4,p112-p122(2017) を一部抜粋したものを含みます。
有用性について、営業秘密管理指針では「その情報が客観的にみて、事業活動にとって有用であることが必要である。」とされ、さらに「秘密管理性、非公知性要件を満たす情報は、有用性が認められることが通常であり、また、現に事業活動に使用・利用されていることを要するものではない。」とあるように、秘密管理性と非公知性を満たしていれば、比較的認められやすいと考えられます。
また、営業秘密管理指針では「当業者であれば、公知の情報を組み合わせることによって容易に当該営業秘密を作出することができる場合であっても、有用性が失われることはない(特許制度における「進歩性」概念とは無関係)。」とされています。このことは、技術情報を営業秘密として守る場合には、重要な知見でもあると考えられます。
しかしながら、実際の判例では有用性の判断として、特許における進歩性と同様の判断を行った事例があります。
平成20 年の判決であり、営業秘密管理指針の全部改訂よりも前の判決であるものの、発熱セメント体事件(大阪地裁平成20年11月4日判決)です。
この事例において裁判所は、原告が主張する技術情報に対して、証拠として挙げられた公開特許公報に記載の技術よりも「特段の優れた作用効果を奏する」ことを求めて「特段の優れた作用効果を奏すると認めるに足りる証拠はない。」と判断したり「当業者であれば通常の創意工夫の範囲内において適宜に選択する設計的事項にすぎない。」と判断しています。この判断は、公開特許公報に基づいて、さながら、特許における進歩性の判断と同様の判断とも解されます。
このような裁判所の判断は、営業秘密管理指針で述べられている「当業者であれば、公知の情報を組み合わせることによって容易に当該営業秘密を作出することができる場合であっても、有用性が失われることはない(特許制度における「進歩性」概念とは無関係)。」とは相反するものであると考えられます。
発熱セメント体事件のように、技術情報に対して公知技術よりも特段の優れた作用効果を求めることは、技術情報を営業秘密とすることに対してハードルを高いものとする可能性があると考えます。
例えば、企業において特許出願をするにあたり、ある技術の上位概念を明細書に記載する一方で、公開により他社に使用されることを恐れてその技術に関する具体的な数値等はノウハウとして秘匿することが一般的に行われています。しかしながら、発熱セメント体事件のような有用性の判断がされると、自社の公開特許公報に記載された技術に対して特段の作用効果を示さない限り、上記ノウハウを営業秘密として守ることができない事態に陥る可能性があります。
そもそも、上記ノウハウとして秘匿する数値は、それを明細書に記載したところで単なる設計事項と判断され、進歩性を高める可能性が低いこともあり、不要な開示となるために明細書に記載しない場合が多いものです。そうであるならば、上記ノウハウは、公開された特許公報に記載の技術内容に対して、特段の作用効果を奏するものとはなり難いものです。
そして、当該ノウハウを秘密管理していたとしても、競合他社に転職した元従業員が持ち出して競合他社で使用されたとしても有用性が認められない場合には、ノウハウとして秘匿していた企業は営業秘密に基づく差止請求や損害賠償請求が行えないことになります。
すなわち、有用性に対して発熱セメント体事件のような判断が今後もなされるのであれば、上記のように明細書に記載しなかったノウハウを営業秘密として守れないこととになります。もしそうであれば、昨今の営業秘密に対する厳罰化等の流れに反することにもなります。
このようなことから、裁判所における有用性の判断においては、営業秘密管理指針にあるように「当業者であれば、公知の情報を組み合わせることによって容易に当該営業秘密を作出することができる場合であっても、有用性が失われることはない(特許制度における「進歩性」概念とは無関係)。」と同様の判断がなされるべきと考えます。
知財活動としては特許出願等の権利化のみではなく技術の営業秘密化(秘匿化)も意識しなければなりません。 このブログでは営業秘密を理解するために、民事事件の裁判例や刑事事件等を中心に情報発信を行っています。
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