2017年9月22日金曜日

営業秘密の帰属について「疑問点」

営業秘密は誰に帰属するのでしょうか?
実は、これは未だ明確になっていないところもあります。

まず、営業秘密は、営業秘密を秘密管理している企業に帰属しているとも考えられます。
例えば、営業秘密とされる情報の作成に全く寄与していない者が、不正の利益を得る目的でこの営業秘密を取得して転職先で開示・使用した場合、これを秘密管理している企業(前職企業)に帰属しているのであるから、この取得者を罰すると考えることに異を唱える人はいないかと思います。

では、営業秘密を取得した者が、その営業秘密を作成した本人(創出者)であり、転職先でその営業秘密を開示したとしたらどうでしょうか?そして、その営業秘密は、その本人ただ一人で作成されていたとしたら?
この様な場合でも、営業秘密は企業に帰属するので、その創出者は罰せられるのでしょうか?

ここで、例えば、特許法第35条(職務発明)の第3項には「従業者等がした職務発明については、契約、勤務規則その他の定めにおいてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利は、その発生した時から当該使用者等に帰属する。 」とあります。
すなわち、職務発明については、契約等においてあらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めないと、特許を受ける権利は使用者等(企業)に帰属しません。このような場合、特許を受ける権利は原始的に従業者が有します。

ちなみに、不正競争防止法には営業秘密に関して、特許法第35条のように、その創出者の権利を保護するような規定はありません。


特許法と不正競争防止法とをリンクして考えることは、そもそも正しくないのかもしれませんが、技術情報を特許出願する場合には、契約等が無い限り特許を受ける権利の帰属先は従業者であるにもかかわらず、技術情報を営業秘密とする場合には、契約等が無くてもその帰属先は従業者ではなく、企業となるのでしょうか?
すなわち、営業秘密の帰属先は原始的に企業なのでしょうか?

もし営業秘密(技術情報)の帰属先が企業であるとすると、その創出者が転職し、転職先でその営業秘密を開示して転職先が侵害行為を行うと、その創出者個人にも実際に民事的責任、刑事的責任を問われる可能性が高いです。
一方で、同じ技術情報であり、企業が特許出願をして特許とされた後に、その発明者が転職し、特許となった技術情報を転職先で開示して転職先が侵害行為を行っても、その発明者個人が民事的責任、刑事的責任を問われることは実際にはないでしょう(特許法でも刑事罰等はありますが、適用された例を知りません。)。

このように、営業秘密が原始的に企業に帰属するとした場合では、同じ技術情報でも営業秘密とされた場合と特許とされた場合とで、それを作成した者による侵害行為において非常に大きな差が生じる可能性があるように思えます。
そして、営業秘密に関しては、その創出者に対する保護規定は法律で定められておりません。

ここで、近年の営業秘密侵害事件において、容疑者がその営業秘密は自身が開発に携わっていと主張しているものもあります。下記の記事が参考になりますが、その主張がどの程度のものかは分りかねるものの、もし容疑者がその営業秘密の開発の中心的役割を担っていたらどうなるのでしょうか?

企業法務ナビ:日本ペイントデータ流出事件と営業秘密開示

この疑問のキーワードは、「営業秘密を保有者から示された」にあるようです。
営業秘密の帰属に関する問題は、企業が営業秘密管理を行う上で非常に有用な事項であると個人的には考えます。
続きは次のブログで・・・。

このブログ記事の参考文献
田村 善之 不正競争防止法概説(第2版)(有斐閣 2003年)
TMI総合法律事務所 編 Q&A営業秘密をめぐる実務論点(中央経済社 2016年)
服部 誠 小林 誠 岡田 大輔 泉 修二 営業秘密管理実務マニュアル(民事法研究会 2017年)