2018年7月5日木曜日

日経新聞社、社員の賃金データと読者情報の漏えいで元社員を刑事告訴

先日、日本経済新聞社が、全社員三千人分の賃金データと34万人分の読者情報を漏えいさせたとして元社員を刑事告訴したとの報道がありました。

報道によると、賃金データは月刊誌を発行する団体に郵送され、この団体が運営するブログに一部が掲載されていたとのこと。そして、元社員は、「働き方改革と言いながらサービス残業をやらせているのはおかしいと思って送った」(参照:日経が元社員を告訴 社員3千人分の賃金データ漏洩容疑(朝日新聞))と証言しているようです。なお、日本経済新聞社は残業代を支払っているとのことです。

この元社員の言い分からすると、もしかするとこ行為は内部告発の一種ではないかとも思えます。
では、内部告発のために企業の営業秘密を漏えいさせることは違法なのでしょうか?


まず、営業秘密の漏えいが刑事罰の対象となるためには「不正の利益を得る目的、又はその保有者にそんがいを加える目的」すなわち図利加害目的の要件が満たされなければなりません。

これに対して、逐条解説 不正競争防止法(商事法務,2016年)の221ページには「図利加害目的にあたらないもの」として「公益の実現を図る目的で、事業者の不正情報を内部告発する行為」が挙げられており、この理由として「内部告発の対象となる事業者の不正な情報は、「営業秘密」としての法的保護の対象とならない上、内部告発は社会公共の利益の増進という公益を図ることを意図するものであるから、このような場合には図利加害目的には当たらないからである。」とあります。

このように、企業の不正を暴く内部告発のために営業秘密を漏えいさせることは図利加害目的ではないため、刑事罰の対象にならないと考えられます。

では、今回の事件はどうなのでしょうか?
元社員の言うように、違法なサービス残業を告発するためであれば、労働基準監督署に告発するべきでしょう。なぜ、月刊誌を発行する団体に送ったのでしょうか?送り先が違うことは新聞社に勤めていなくても分かりそうなものです。
また、元社員は、全社員の賃金データと共に34万人分の読者情報も持ち出していたようです。内部告発のためならば、この読者情報は持ち出す必要が無いはずです。
このようなことから、元社員の行為は内部告発ではなく、図利加害目的を有する営業秘密の漏えいと考えられ、刑事告訴に至ったのだと考えられます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信