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<オンライン開催 10月9日>大阪発明協会 技術情報を営業秘密として守るための実務と事例研究 (参加申し込み受付中)

2019年6月14日金曜日

NISSHAスマホ操作技術漏えい事件について

先日 、NISSHA元社員がタッチセンサー技術などに関する情報を中国の転職先企業である精密機器会社に漏えいする目的で持ち出したとして、不正競争防止法違反(営業秘密領得)で逮捕されたとの報道がありました。

・当社元社員の逮捕(営業秘密を不正に領得)について(NISSHA株式会社)
・技術情報不正持ち出し疑い NISSHA元社員逮捕(日本経済新聞)
・技術情報不正持ち出し疑い、京都(REUTERS)
・スマホ操作技術、中国企業に漏えい疑い 部品メーカー元社員逮捕(京都新聞)
・技術情報を中国に持ち出し 容疑で電子部品メーカー元社員を逮捕(産経新聞) 

上記日経新聞の記事によると、元社員は「複製したことは間違いないが、不正な利益を得たり、国外で使用したりする目的はなかった」とのように容疑を一部否認しているようです。なお、営業秘密領得では、営業秘密を保有者から示された者(例えばアクセス権限のある者等)は、当該営業秘密を単に持ち出すだけでは罪にはならず、不正の利益を得る目的等がなければ罪にはなりません(不正競争防止法21条1項3号)。

このような否認はよくあるのですが、不正競争防止法違反の刑事裁判において認められるのでしょうか?

ここで、不正競争防止法違反(営業秘密領得)の平成30年12月3日最高裁判決(事件番号 平30(あ)582号)において興味深い判断がなされています。
この刑事事件は、日産自動車の元社員がいすゞ自動車に転職するにあたり、日産自動車の営業秘密を持ち出したとして刑事告訴された事件であり、最高裁判決によって懲役1年執行猶予3年が確定しています。

ここで、被告は、下記のような主張をしています。
・営業秘密であるデータファイルの複製の作成は、業務関係データの整理や記念写真(宴会写真)の回収を目的としたものであって、いずれも被告人に転職先等で直接的又は間接的に参考にするなどといった目的はなかった。
・不正競争防止法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があるというためには、正当な目的・事情がないことに加え、当罰性の高い目的が認定されなければならず、情報を転職先等で直接的又は間接的に参考にするなどという曖昧な目的はこれに当たらない。


これに対して最高裁は以下のように判断しています。
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被告人は,勤務先を退職し同業他社へ転職する直前に,勤務先の営業秘密である前記1の各データファイルを私物のハードディスクに複製しているところ,当該複製は勤務先の業務遂行の目的によるものではなく,その他の正当な目的の存在をうかがわせる事情もないなどの本件事実関係によれば,当該複製が被告人自身又は転職先その他の勤務先以外の第三者のために退職後に利用することを目的としたものであったことは合理的に推認できるから,被告人には法21条1項3号にいう「不正の利益を得る目的」があったといえる。
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上記のような「合理的に推認できる」と至った理由は、以下のようなものです。

・データファイルの複製の作成について、被告人は、業務関係データの整理を目的としていた旨をいうが、被告人が複製した各データファイルを用いて業務を遂行した事実はない上、会社パソコンの社外利用等の許可を受けて、自宅に会社パソコンを持ち帰った被告人が、業務遂行のためにあえて会社パソコンから私物のハードディスクや私物パソコンに各データファイルを複製する必要性も合理性も見いだせない。
・複製したフォルダの中に「宴会写真」フォルダ在中の写真等、記念写真となり得る画像データが含まれているものの、その数は全体の中ではごく一部で、自動車の商品企画等に関するデータファイルの数が相当多数を占める上、被告人は2日前にも同じフォルダの複製を試みるなど、フォルダ全体の複製にこだわり、記念写真となり得る画像データを選別しようとしていないことに照らし、複製の作成が記念写真の回収のみを目的としたものとみることはできない。

このように、被告が、不正の利益を得る目的が無いと主張するには、他の合理的な目的を説明し、それが認められる必要があります。よくある主張は“勉強用”なのですが、例えば数百、数千のデータファイルを“勉強用”に持ち出すことは合理的でないと思えます。
さらに、下記報道によると、被告は疑惑発覚後にハードディスクを破壊したようですので、これは「不正の利益を得る目的」であったことと判断される可能性が高いかと思います。

・スマートフォンの技術情報を中国に持ち出した男、証拠のハードディスクを破壊か(MBS)

このように、転職時等に前職企業から多量のデータを取得して持ち出す行為は、不正の利益を得る行為でないとする合理的な理由がない限り、営業秘密領得であるとして不正競争防止法違反で刑事罰を受ける可能性が高い行為であると考えられるでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信