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2019年11月21日木曜日

ー判例紹介ー 特許権のライセンスとノウハウ開示

特許権者が他者に実施許諾する場合、当該特許公報に記載の内容だけでは実施が難しい場合には、実施に必要なノウハウもライセンシーに開示します。
実施許諾した特許権が存続期間満了等により消滅した場合には、ライセンス契約も終了するわけですが、開示したノウハウはどうなるのでしょうか?

そのようなことを争った事件が、大阪地裁令和元年10月3日判決(平28(ワ)3928号9)です。

本事件は、川鉄電設(訴外)が被告らと締結したトランス事業に係る特許権のライセンスに関する基本契約についての契約上の地位を川鉄電設から原告が承継しました。そして、原告は、被告らの債務不履行を理由に本件各基本契約を解除したとして、被告らに対して各基本契約解除前に発生していたロイヤルティ支払義務の履行と、被告らが各基本契約の解除後においても原告から被告らに対して開示した本件技術情報を使用して変圧器を製造、販売していることは不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為に当たるとして、被告らの製品の製造、販売の差止め及び廃棄を求めたものです。

本事件において原告は「本件各特許権はその内容が公知になったとしても,それだけでは実用に耐えるトランスを設計・製造することができない「ノウハウの主要部以外の部分」を特許化したものであり、本件各基本契約は特許化されずに秘匿された、トランスを設計・製造するために必須のノウハウを対象とするノウハウ実施許諾契約である。」と主張しています。
そのうえで、原告は「本件各基本契約はノウハウライセンス契約であり,ランニングロイヤルティ等はノウハウの使用許諾の対価であって,本件各特許権の消滅によっては影響されない。」と主張しました。

これに対して、裁判所は「本件各基本契約の中心となるのは本件各特許権の実施許諾であり、本件技術情報の提供はこれに付随するものというべきであるから,ランニングロイヤルティの支払も本件各特許権の実施許諾に対する対価と位置づけられるべきであり、これを本件技術情報の提供に対する対価と考えることはできない。」とのように判断しました。
そして、裁判所は「被告らの原告に対する本件各基本契約に基づくロイヤルティの支払義務は,本件各特許権が消滅した平成27年3月31日をもって消滅したと解すべきであり,同年4月1日以降に被告らがWBトランスを製造,販売したことに対するランニングロイヤルティの支払請求は,理由がないというべきである。」と判断しました。


なお、上記のような結論が得られているものの、本件各基本契約には、被告らの債務不履行による解約の場合を含め、契約終了後は本件技術情報を使用してはならず、WBトランスを製造、販売してはならない旨の条項が存在することもあり、裁判所は「被告らがWBトランスを製造,販売することは不正競争行為に当たるか。」についても判断しています。

これに対して、裁判所は、本件技術情報は一定の有用性を有していると認めているものの(秘密管理性については、明示するまでもなく当該基本契約に基づいて認められると思われます。)、非公知性について「本件技術情報のうち,川鉄電設及び原告が作成したパンフレット(甲57,乙3)に記載されている数値は,当初から営業秘密性がないものと認められるし,既に検討したとおり,被告らが製造したWBトランスが市場に出回った後は,リバースエンジニアリングにより取得し得る数値については,公知になったというべきである。」として認めておりません。

これをもって裁判所は「本件技術情報は,前記パンフレットの記載により,あるいは被告らがWBトランスを製造,販売したことによって公知となっており,営業秘密性は失われているというべきであるから,本件基本契約が終了(原告の主張では平成27年11月26日)した後にWBトランスを製造,販売することが,営業秘密の使用にあたるとする原告の主張は採用できず,不正競争行為に当たるとしてその差止め等を求める原告の請求は理由がない。」と判断しました。

このような裁判所の判断は、妥当なものであると考えられます。
すなわち、特許権をライセンスすると共にノウハウも開示する場合には、ノウハウに対して秘密保持義務を課したとしても特許権の消滅に伴い、当該ノウハウも自由に使用可能となる可能性を考慮する必要があるでしょう。
特に、当該ノウハウを使用した製品がリバースエンジニアリングされることによって、当該ノウハウの非公知性が失われるような可能性がある場合には要注意です。


弁理士による営業秘密関連情報の発信