前回までのブログでは「優れた作用効果」が無い等により営業秘密の有用性を否定した判例を紹介しましたが、今回は有用性があると判断された判例を紹介します。
過去のブログ記事
・技術情報を営業秘密とした場合に「優れた作用効果」が無い等により有用性を否定した判例その1
・技術情報を営業秘密とした場合に「優れた作用効果」が無い等により有用性を否定した判例その2
・技術情報を営業秘密とした場合に「優れた作用効果」が無い等により有用性を否定した判例その3
・技術情報を営業秘密とした場合に「優れた作用効果」が無い等により有用性を否定した判例その4
有用性についてそれを認める場合、裁判所の判断理由は以下のようにあっさりしています。
例えば、PCプラント事件(知財高裁平成23年9月27日判決)では下記のように裁判所は判断しています。下記の「前記(1)の認定事実」とは「営業秘密性に関する認定事実」であり、「ア.PC樹脂の製造技術等」や「イ.本件図面図表の管理状況」です。
「ア 有用性及び非公知性
前記(1)の認定事実によれば,本件図面図表に記載された本件情報は,原告及び出光石化が独自に開発したPC樹脂の製造技術に基づいて設計された,出光石化千葉工場第1PCプラントのP&ID,PFD及び機器図に係る情報であって,同PCプラントの具体的な設計情報であり,同PCプラントの運転,管理等にも不可欠な技術情報であるから,原告及び承継前の出光石化のPC樹脂の製造事業に「有用な技術上の情報」であることは明らかである。」
なお、本事件において被告は本件情報について、秘密管理性について否定する主張を行いましたが、有用性及び非公知性を否定する主張はしていません。
また、接触角計算プログラム事件(知財高裁平成28年4月27日判決)では下記のように裁判所は判断しています。
「(イ)有用性,非公知性
原告プログラムは,理化学機器の開発,製造及び販売等を業とする被控訴人にとって,その売上げの大きな部分を占める接触角計に用いる専用のソフトウエアであるから,そのソースコードは,被控訴人の事業活動に有用な技術上の情報であり,また,公然と知られてないものである。」
なお、本事件において被告は原告プログラムについて、秘密管理性及び非公知性について否定する主張を行いましたが、有用性を否定する主張はしていません。
また、婦人靴木型事件(東京地裁平成29年2月9日判決)では下記のように裁判所は判断しています。本事件では、靴の設計情報を含む木型を営業秘密であると原告は主張してます。また、下記の「前記1(1)」とは原告の業務及び木型の管理等の状況に関する事実です。
「前記1(1)で認定した事実によると,本件設計情報については,コンフォートシューズの製造に有用なものであることは明らかであるから,本件設計情報は,生産方法その他の事業活動に有用な技術上の情報であったということができる。」
なお、本事件において被告は「木型の作成自体は容易に行うことができる以上,木型に基づき靴を大量生産できるとする点は,有用性の根拠とならないし,他に,本件設計情報に有用性があるとする根拠はない。」と主張していましたが、認められませんでした。
さらに、半導体封止機械装置事件(福岡地裁平成14年12月24日判決)では、 原告が営業秘密とする設計図に対して、被告は上記3件に比べてそれなりに有用性を否定する主張をしているものの、下記のようにその主張を否定して有用性を認めています。
「本件営業秘密は,原告××の長年の技術的な蓄積の成果であることは容易に推認でき,顧客から詳細な仕様を指定されることがあったとしても,なお原告××が試行錯誤を繰り返して得られたノウハウの集積であると評価できる。しかも,後記認定のとおり,被告○○が本件営業秘密を不正に取得・使用している事実からすると,半導体全自動封止機械装置,封止用金型及びコンバージョンの生産,販売及び研究開発並びに原告××の経営効率に役立つ価値を持つ情報すなわち有用な情報であると認められ,これを覆すに足りる証拠はない。 被告○○は,別紙営業秘密目録2第一三項の「油路の配置,油路の口径違い」に関し,プランジャーの油圧フローティングのオリジナルを現在のアピックヤマダ,当時のヤマダ製作所が,1982年頃から採用し,原告××が採用したのは,その後2,3年後であること,現在,住友,シンガポールのASAなどもプランジャーブロックにおいて油圧を使用している旨主張するところ,半導体全自動封止機械装置という複雑な機械の設計図にあっては,その一部に公知技術が使われていたとしても,必要な動作,機能を持たせるため,部品には試行錯誤,実験等が繰り返されてできあがった寸法や角度といったものが集約されているものであって,これが技術ノウハウとして秘密管理されていれば営業秘密として不正競争防止法上の保護対象となるものであり,被告○○主張の事実が認められたとしても,そのことによって,不正競争防止法2条4項の営業秘密に当たらないといえるものではなく,まして営業秘密として特定していないということもできない。」
以上のように、今回は営業秘密としての有用性が認められた技術情報について紹介しました。
有用性が認められた事件では、認められなかった事件に比べて、設計図やソースコードのように営業秘密とする技術情報が明確に特定されているかと思います。
また、明確に特定できている技術情報は、特許的な考えでいうところの最も下位概念にあたるものであり、特許公報等にも記載されていない内容かと思います。そのため、被告は有用性又は非公知性を否定するために、公知の情報等を証拠として提出することが困難であったと考えられます。
一方で、有用性が認められなかった事件では、原告が営業秘密と主張する情報が明確でない場合が多いと思えます。 営業秘密とする技術情報が明確でないために、原告もその有用性について十分に説明できず、裁判所はその有用性を否定せざる負えないのかもしれません。
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