2018年5月14日月曜日

OSG営業秘密流出事件判決

先日OSG営業秘密流出事件の刑事事件一審判決が出ました。
被告に対する刑事罰は、懲役2年(執行猶予4年)、罰金50万円というものです。
報道では弁護側は控訴しない方針とあるので、これで確定かと思われます。

なお、本事件は工具メーカーであるOSGの元従業員が、製品である工業用タップの図面データを不正に持ち出し、元同僚かつ競合他社の中国人に渡したというものであり、2017年の10月19日に逮捕されています。

このように本事件は、外国人に営業秘密を渡したものであり、平成27年改正により設けられた海外懲罰規定である不正競争防止法第21条第3項第二号にも該当するものと思われます。

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不正競争防止法第21条
3 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 日本国外において使用する目的で、第一項第一号又は第三号の罪を犯した者
二 相手方に日本国外において第一項第二号又は第四号から第八号までの罪に当たる使用をする目的があることの情を知って、これらの罪に当たる開示をした者
三 日本国内において事業を行う保有者の営業秘密について、日本国外において第一項第二号又は第四号から第八号までの罪に当たる使用をした者
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ちなみに、経済産業省 知的財産政策室 編 逐条解説 不正競争防止法(2016年)によると、2号の要件は「相手方の日本国外使用目的の未必的な認識で足り、また、相手方が実際に日本国外での使用に至らずとも本罪は成立し得る。」とのことです。
そして、21条3項に該当すると十年以下の懲役もしくは三千前円以下の罰金、又はこれの併科であるので、最大では相当重い刑になるでしょう。

しかしながら、本事件は、懲役2年(執行猶予4年)、罰金50万円でした。思ったほど重くないどころか、過去の刑事罰と比較しても軽い方ではないでしょうか。このような判決となった理由の一つに、被害企業に「実質的な被害が無かった」というものがあるようですが、営業秘密の漏えいが海外で使用されることは考慮されていないようです。

参考過去ブログ記事:過去の営業秘密流出事件 (主な刑事罰一覧有り)

そもそも、営業秘密侵害罪で実際に課される刑事罰はさほど重くないのかもしれません(他の刑事事件を詳しくは知らないので勝手な印象です。)。
執行猶予が付かなかった事件も、ベネッセ個人情報流出事件や東芝半導体製造技術事件だけのようですし、それぞれ懲役2年6カ月罰金300万円、懲役5年罰金300万円であり、法定刑の最大に達するものでもありません。

ベネッセの事件では、被告は多くの国民に影響を与え(我が家の情報も漏れました。)、ベネッセはその対策に200憶円以上を要し、決算でも赤字に転落していますが、この事件でさえ、法定刑の最大の半分にも至りません。
また、東芝の事件は、半導体製造技術に関する技術情報が韓国企業であるSKハイニックスに漏えいされたものであり、民事訴訟で和解金330億円にも達しており、この金額からして東芝に相当大きな損害を与えたものですが、これも法定刑の最大にも至っておりません(東芝の事件は法改正前なので21条3項の適用はありません)。

では、ベネッセや東芝の事件よりも重い刑事罰が科される、すなわち法定刑の最大にまで至るような事件は一体どのような事件なのでしょうか?そして、ベネッセや湯治場の事件ですら、上記のような刑事罰しか科されていない現状において、より刑事罰の重い海外懲罰規定は現実的に意味を成すのでしょうか?
重罰を科せば良いというわけではないかと思いますが、27年法改正で21条3項を新たに規定した趣旨からすると、少々考えさせられる事件です。

http://www.営業秘密ラボ.com/
弁理士による営業秘密関連情報の発信