2019年4月17日水曜日

ー判例紹介ー 事業上入手した他の事業者の技術上の情報を使用することは本来自由

今回紹介する判例は、平成31年 2月14日大阪高裁判決( 平成30年(ネ)960号)です。

本事件は、控訴人がゴミ貯溜機に関する技術情報が不正競争防止法上の営業秘密である旨主張して、控訴人の外注先である被控訴人らに対して不競法に基づき、ゴミ貯溜機の製造販売等の差止め及び廃棄、本件技術情報の使用開示等の差止め等を求めたものです。
なお、控訴人は、被控訴人が控訴人製品の図面情報を控訴人に無断で使用して本件製品1,2を製造して納入したと主張しており、裁判所も判決文中で「本件製品1,2は,取引関係者に交付された控訴人製品の図面等を利用して製造されたものであることが容易に推認でき,被控訴人らが直接でなくとも,少なくとも間接的にその製造に関与したことがうかがわれるところである。」と認定しています。
しかしながら、原審では、控訴人の請求はいずれも棄却されており、本控訴審も棄却されています。

ここで、「外注先」とあることで、ピンときた方もいるかもしれませんが、控訴人と被控訴人との間では本件技術情報に対する秘密保持契約は結ばれていませんでした。
まさにこれが請求棄却の理由です。

具体的には、裁判所は「控訴人とは別個の事業者である被控訴人太陽工業や被控訴人銀座吉田においては,事業上入手した他の事業者の技術上の情報を使用することは本来自由であるから,控訴人が被控訴人太陽工業や被控訴人銀座吉田に交付した技術上の情報につき,秘密保持契約の締結等その保護のための手立てを何ら執っていなくても,営業秘密として保護されると解することはできない。」と判断しています。

この判断は、秘密保持契約を締結することなく相手方に開示された営業秘密に対する判断として一般的なものですが、「事業上入手した他の事業者の技術上の情報を使用することは本来自由である」とまで裁判所が判示したものはあまりないかと思います。
自社の営業秘密を他社に開示する企業はこのことを肝に銘じておくべきでしょう。


また、本判決において裁判所は少々興味深い判断もしています。それは以下のような判断です。

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控訴人の従業員P7が,平成26年4月4日10時47分頃,被控訴人銀座吉田の代表者に宛てて送信した電子メール(甲115)には,控訴人製品の修理をするのに必要な部品及び図面の一部につき,「図面の流出は避けたいので福島工場で作成致します」との記載がある。控訴人は,これをもって,被控訴人銀座吉田に対しては,控訴人製品で使用される部品の一部について,その図面を外部に知られたくないものであることを伝えているから,被控訴人銀座吉田は,本件技術情報を含む,控訴人製品の図面情報が秘密として管理されることを認識し得た旨主張する。
しかし,甲115号証の電子メールが送信されたのと同じ日の13時35分頃には,改めてP7から被控訴人銀座吉田の代表者に対し同じ用件で,甲115号証の電子メールからは内容を修正した電子メール(戊65)が送信されており,これには「図面の流出は避けたいので福島工場で作成致します」との文言はない。ということは,修理に必要な部品及び図面の一部についての「図面の流出は避けたいので福島工場で作成致します」との控訴人の見解は撤回されたものと考えられるのであって,甲115号証の電子メールは,被控訴人銀座吉田が控訴人製品の図面情報が秘密として管理されることを認識できたとする根拠にはならないというべきである。
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すなわち、裁判所は、控訴人が電子メールにおいて「図面の流出は避けたい」とのように当該技術情報の秘密管理意思を被控訴人に対して示したものの、その後の電子メールにおいて「図面の流出は避けたい」との文言が記載されていないことから、この見解は撤回されたものと判断しています。

個人的には、この判断は結論有りきの判断ではないかとも思います。
なぜなら、一度「図面の流出は避けたい」と電子メールに記載したならば、同様の文言を電子メールに毎回記載することは一般的には考え難いと思われ、そうであるならばその後の電子メールにおいて「図面の流出は避けたい」との見解の撤回意思まではないと考えるのが妥当ではないでしょうか。
しかしながら、裁判所のこの判断は、秘密保持契約を締結しないまま相手方に開示した情報の秘密管理性はこの程度の電子メールのやり取りでは認められないとの判断とも解され、他社に営業秘密を開示する場合にはいかに秘密保持契約が大切であるかを示しているとも思われます。

とはいっても、秘密保持契約を締結しないまま相手方に営業秘密を開示した場合の対応としては、この裁判所の判断が参考になるかもしれません。すなわち、このような場合には、相手方に対する毎回の電子メールに秘密保持を求める文言を記載し、当該営業秘密に対する秘密管理意思を相手方に明確に認識させるという手立てを取ると言うことです。このような手立てを取ったにもかかわらず相手方が当該営業秘密を不正使用した場合には、秘密保持契約が締結されなかったとしても不競法違反と判断される余地があるかもしれません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信