2021年1月23日土曜日

<蓮舫議員による施政方針演説のツイッター投稿>

立憲民主党の蓮舫議員が、菅義偉首相による施政方針演説の前に既に配布されていた原稿をツイッターに投稿しました。このニュースを目にしたとき、すごく驚きました。現職議員がこのようなことをするなんて。
野党といえども国家機密を知る可能性のある国会議員であり、過去には政権の中枢にいた政治家が情報管理を行わないどころか、本来公開するべきでない情報を自ら公開することはあってはならないことだと思います。


ところで、蓮舫議員の行為は不法行為になるのでしょうか?
上記報道によると、蓮舫議員は当該原稿に関して「内閣総務官室に確認、取り扱いに関するしばり(制限)は特段なく、便宜上配布するとのこと」 とツイッターに投稿したようです。
この投稿の真意は、自身に当該原稿に対する秘密保持義務がないことを主張しているのだと思います。
一方で、加藤官房長官は「『国会での審議に資するため、事前に与野党、各会派に(原稿を)配布している』とも語り、事前に演説内容を公開することは想定していないと説明した。」とのことなので、政府としては当該原稿は秘密にするべきものとの認識だったのでしょう。

ここで、営業秘密における秘密管理性は、当該情報に接した者が容易に秘密であると認識できるような態様で管理されている必要があります。例えば、原稿に㊙マークが付されていたり、原稿の配布時に秘密保持義務を課すということが必要となりますが、報道から察するに当該原稿にはそのような表記等はなかったようです。
また、営業秘密は事業活動に有用でなければなりません、政治家の活動は「事業活動」ではないとも思え、そうであるならば施政方針演説の原稿自体、事業活動に有用な情報とは言えないでしょう。
以上のように、蓮舫議員の行為は営業秘密の不正開示等にはあたらないと思われます。


ところが、蓮舫議員と同様の行為をおこない、書類送検されて罰金刑になった刑事事件が有ります。それは下記の事件です。
・過去の営業秘密流出事件 <日産新車ツイッター投稿事件> 

この事件は、日産の取引会社社員が発表前の新型車リーフを写真撮影してツィッターに投稿したものです。投稿した内容は当然異なりますが、蓮舫議員の行為と同様と言えるでしょう。当該取引会社社員は、日産から刑事告訴され、営業秘密侵害と営業秘密侵害と偽計業務妨害により書類送検されました。

しかしながら、営業秘密侵害は不起訴です。不起訴の理由は明らかではないものの、想像するに、当該社員は単に新型車の写真をツイッターに投稿しただけであって、そこには営業秘密侵害(不競法2条1項7号)の要件である不正の利益を得る目的等が無かったためではないかと思われます。
一方で、上記事件では、偽計業務妨害は罰金50万円の有罪判決となっています。すなわち、企業の秘密情報をツイッターに投稿すると、偽計業務妨害という犯罪になる可能性があります。
私は弁理士であり、刑法に詳しくはないので深入りするとボロが出るのですが、ここでも施政方針演説が果たして「業務」であるのか議論になりそうな気がします。ここら辺の判断は、立憲民主党の党首が弁護士のようなので立憲民主党内部で容易に判断できるでしょう。

とはいえ、上記の事件のように、民間企業の未発表の情報をツイッターに投稿することで刑事罰を負う可能性が有るようです。そうすると、蓮舫議員の行為も民間であれば刑事罰を受ける可能性のある行為であり、ツイッターから削除や政府への謝罪によってなかったことにしてよいのでしょうか?

さらに、政治家によるこのような行為があると、国の情報管理も疑わしくなります。
すなわち、政府が国会議員に配布する文書の中には、国家機密に類するものも含まれる場合があるでしょう。そのような場合、配布された文書に対して「取り扱いに関するしばり(制限)は特段なく、便宜上配布する」とのような認識を政治家が有していると、今回のように、本来開示してはいけない人物や他国に当該文書を開示する恐れが高いと思います。

ちなみに、民間企業ではこのような不祥事が起きると、再発防止策等を考え、ホームページ等で公開する場合があるのですが、蓮舫議員によるツイッターへの投稿からしばらく経過していますが、このブログを書いている時点では立憲民主党のホームページにはそのような公開は見当たりません。

また、政府与党としても、今までは野党を含め、各議員の”常識”を信用して文書の配布等の情報開示を行っていたのでしょうが、それは崩壊したと考えるべきでしょう。このため、配布資料が秘密保持の対象であるか否かを吟味して、㊙マークをつけたり、面倒でも開示先の議員との間で秘密保持契約を締結する必要があるのではないでしょうか。

近年、情報自体が国家の資産とも考えられ久しいです。
そのような現状において、日本の政治家がこのような状況ではどうしようもありませんね。

弁理士による営業秘密関連情報の発信