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2021年12月5日日曜日

光触媒市場の成長と粗悪品排除のための規格化から考える知財戦略(その2)

前回のブログ記事で説明したTOTOの戦略もあり光触媒市場は成長したのですが、やはり粗悪品が発生しました。

ここで、特許の視点からすると、粗悪品の発生は技術を公開する特許出願もその原因の一つとも思われます。
前回のブログ記事で説明したように、TOTOは網羅的な特許出願によって超親水性の光触媒に関する多くの技術を公開しました。おそらく他社もTOTOに対抗するために多くの特許出願を行ったことでしょう。そうすると、第三者は、特許公開公報等を参考にして超親水性の光触媒を製造するための知識を得ることができます。
さらに、数値限定の特許権であれば、当該特許権に係る技術的範囲を比較的容易に回避することができ、それにより特許権に係る超親水性の光触媒の性能に近い製品を製造できる可能性が有ります。このようなことは、網羅的な特許出願がまねくデメリットとなります。

例えば、出願日が平成9年12月10日であり、超親水性光触媒に関するTOTOの特許第4011705号の請求項1は下記のとおりです。
【請求項1】
  基材と、表面層とを少なくとも有してなる、前記表面層が親水性でかつ自己浄化能を備えてなる、表面に時折雨が降り注ぐ環境において大気中の窒素酸化物、アンモニア、および/または二酸化硫黄を削減するために用いられる複合材であって、
  前記表面層が、
  成分(i)光の照射を受けると触媒として機能する光触媒と、
  成分(ii)A1、ZnO、SrO、BaO、MgO、CaO、RbO、NaO、およびKOからなる群から選択される少なくとも一の金属酸化物と
  成分(iii)SiO、ZrO、GeO、およびThOからなる群から選択される少なくとも一の金属酸化物と、
  成分(iv)AgおよびCuからなる群から選択される少なくとも一の抗菌性を発揮する金属と
を含んでなり、
  前記成分(iv)が前記(i)の光触媒に担持されてなり、前記成分(iv)の重量をc、前記(i)の光触媒の重量をbと表したとき、c/bが0.00001~0.05である、複合材。
上記特許権の技術的範囲を回避しつつ親水性のある光触媒機能を有する複合材を製造しようとしたら、成分(i)から成分(iv)は上記特許権と同じとし、例えばc/bを0.051とすればよいのです。これにより、親水性の程度は当該特許権の技術的範囲の複合材よりも悪いかもしれませんが、TOTOの特許権を回避しつつ、親水性のある複合材を製造できるでしょう。

このように、数値限定で発明を特定した特許権の技術範囲を回避して製品を製造等することは比較的容易ではないかと思います。その結果、粗悪品が市場に流通し、当該市場の信頼感を毀損する場合もあるでしょう。

そこで、粗悪品を排除することを目的として、TOTOを含む複数社によって光触媒のセルフクリーニング機能の存在を確認するための試験方法が規格化されました(参照:江藤学「標準化ビジネス戦略大全」日本経済新聞出版社 p.341 )。
例えば、日本工業規格 JISでは、JISR1701~JISR1711に光触媒に関する試験方法等の規格が定められています。

ここで、規格化するにあたり、特許がその障害となる可能性があります。いくら規格化したとしても、規格の中に他社の特許権が含まれている場合には、多くの企業はこの規格の使用を躊躇するどでしょう。さらに、複数社の協力で規格をまとめるのであれば、そもそも規格をまとめることが困難となる可能性があります。
そこで、TOTO等は規格中に存在する特許を無償開放したとのことです(参照:江藤学「標準化ビジネス戦略大全」日本経済新聞出版社 p.341 )。

例えば、日本工業規格 JIS R1703-2:2014として、「ファインセラミックス− 光触媒材料のセルフクリーニング性能試験方法− 第2部:湿式分解性能」といったものがあります。この規格のまえがきには下記の記載があります。
❝この規格に従うことは,次に示す特許権及び出願公開後の特許出願の使用に該当するおそれがあるので,留意すること。 
− 発明の名称 光触媒活性の測定方法及び光触媒活性評価フィルム 
− 設定の登録年月日 2003年7月11日  
− 発明の名称 光触媒活性の測定方法およびその装置 
− 設定の登録年月日 2001年11月2日❞
すなわち、当該規格に従うためには、この二つの特許権に係る発明を実施することになります。この2つの特許権は、1つ目が特許第3449046号(権利者:TOTO株式会社 )であり、2つ目が特許第3247857号(権利者:宇部エクシモ株式会社等)です。

規格に含まれる特許権を無償開放することにより、当該規格を誰もが使用して、規格に従った光触媒の製品を製造販売でき、粗悪品の排除につながったのでしょう。なお、上記2つの特許権は規格化に伴いその権利が放棄されたわけではなく、権利は維持されていました。

このように、知財は、事業動向や事業環境に応じて柔軟に変化させるべきと考えます。
その考え方が、下記のような、発明に対して秘匿化、権利化、自由技術化の何れか1つを選択する三方一選択の継時変化です。

今回の例では、自社による製品の製造販売の他にも、特許権をライセンスすることで市場の拡大と事業利益を得ることを事業戦略・戦術としていましたが、その後、粗悪品を排除するために敢えて特許権を無償化して評価方法を規格化しました。
これは、特許権のライセンス(クローズ)からその一部ですが自由技術化に変化させたことになります。
もし、ここで、ライセンスビジネスにこだわってしまうと、評価方法の規格化は達成できなかったかもしれません。その結果、粗悪品の流通を阻止できなくななり、市場そのものが失われたかもしれません。

このように、特許出願等により多くの技術を公開すると、技術分野によっては粗悪品の流通によって市場の信頼性が損なわれる可能性があります。もし、そのようなことが想定される場合には、光触媒市場が試験方法を規格化しすることで粗悪品を排除したように、対応策を考える必要があるでしょう。

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