まず、原告と被告翔友会は、平成24年6月21日付け合意書(甲9)により、原告が開発・製造する手術用縫合糸及び結紮糸である「YOUNGS LIFT」(以下「原告製品」という。)の販売、供給及び技術諮問等につき、以下の内容を含む契約(本件契約)を締結しました。
ア 原告の義務(1条)原告は、原告製品の生産を開始した後、最優先として被告翔友会にこれらを供給し、原告製品を利用した各種施術に関して被告翔友会の方で円滑に進められるように製品の構成、機能、使用方法及び手術方法等の技術を誠実を尽くす。イ 最優先利用義務等(2条)被告翔友会は、原告製品を利用した施術が極大化及び普遍化されるようにマーケティングや教育、技術移転のプロセスなどに最善を尽くして参加し、原告製品を利用した施術を同種施術において最優先的に施行する。ウ 秘密保持義務及び秘密情報の目的外使用をしない義務被告翔友会は、原告製品と関連し、原告又はその代理人から取得した下記4条ロ秘密保持対象の情報を被告翔友会以外に公開又は漏洩しないように徹底して秘密管理する(3条)。
被告翔友会は、本件契約締結後、原告製品を用いた美容整形術を被告医院において実施するようになりましたが、平成25年10月頃には原告製品の購入を停止しました。そして、 被告翔友会は同年11月頃から、アイサポート社から縫合糸等を輸入し、「フェイスアップ」と称する美容整形術(フェイスアップ施術)を実施するようになりました。また、被告翔友会は、平成30年6月頃には、被告製品2を輸入して施術するようになりました。また、被告医院所属の医師は、原告製品の取引を中止した直後の平成25年11月19日以降、アイサポート社が納入した被告製品1の構成部品をRacer Technology社が組み立てた製品である「Face Up」を、アイレンズ社を介して輸入しました。この被告製品1,2が原告の特許権を侵害品とされています。
さらに原告は、本件契約の締結に先立つ平成24年6月の商談において、被告翔友会に対して原告製品の試作品と共に原告紹介資料を交付し、その後、本件契約を締結した上で少なくとも平成25年8月頃までは、原告の被告翔友会所属医師に対する技術指導や原告及び被告医院の各医師間での技術面での相談等が行われていたようです。この行為は、原告から被告翔友会に対して、原告製品等を使用した施術に関するノウハウ等を提供していたと認められています。
そして、被告翔友会は、CS社等の訴外の複数社を通じて本件発明1の技術的範囲に属する被告製品1を輸入して使用していました。さらに、原告による原告製品の提供も専ら被告翔友会に対してのみ行われていたものであり、CS社が原告製品を市場等被告翔友会以外の者から入手できる状況にあったとは考え難いため、CS社が本件発明1の技術的範囲に属する被告製品1の部品を製造するに当たっては、被告翔友会から原告製品の提供があったものと裁判所によって推認されています。
このような、被告翔友会による原告製品そのもの及びこれに関する情報(本件情報)の開示行為は、本件契約所定の秘密保持義務等に違反したものといえる、と裁判所によって判断されています。
ここで、裁判所は本件情報の営業秘密性についても判断し、その営業秘密性を認めています。
特に秘密管理性については、被告翔友会に対して上記本件契約に基づく秘密保持義務を課していることで認められています。その他に裁判所は「また、原告製品は施術後に患者の体内で吸収される素材からなることに鑑みると、原告製品の全体又は一部が患者に対する施術後に一般に流通するといった事態も考え難い。」とも認定しています。
ここで、営業秘密保有者(原告)が製品を製造販売することで、当該製品に使用されている営業秘密が公知となる可能性があります。しかしながら、本事件では、「原告製品が施術後に患者の体内で吸収される素材からなること」により秘密(非公知)の状態が維持されていると裁判所は認定しています。特に、本事件の原告製品は、秘密保持義務のある被告翔友会にしか供給(販売)されなかったようなので、原告製品が被告翔友会に販売されたことで公知となったことにはなりません。
なお、このように本件情報の営業秘密性を裁判所は認めたものの、本件情報の差し止め請求については以下の理由から認めませんでした。
本件特許1の設定登録がされたことにより、本件情報のうち当該公報に記載されたものについては、非公知性を失ったものといえる。また、仮にこれにより本件情報の全てが非公知性を失ったのでないとしても、残余の部分がなお営業秘密として保護すべきものであることの具体的な主張立証はない。このため、本件情報は、平成28年8月以降は営業秘密に当たらないものというべきである。そうである以上、原告の不競法3条に基づく請求については、その余の点について検討するまでもなく、いずれも認められない。これに反する原告の主張は採用できない。
特許出願することで発明に係る自社開発技術は公開されます。仮に営業秘密としていた技術情報が特許明細書の実施形態等に記載されていると、特許公開公報等の発行によって公知性を失います。上記のように訴訟において、特許公開公報には記載されていない営業秘密については、原告による主張立証が必要となります。
本事件において、なぜ原告が主張立証を行わなかったのかは分かりませんが、特許権侵害に対して原告の主張が認められることが確定的であり、必要以上に自社の営業秘密の関する情報を開示することを嫌ったのかもしれません。現に本事件は判決として、被告製品の輸入、使用、廃棄、及び被告らに対して48億2473万0566円や21億1610万9319円や損害賠償が認められています。
弁理士による営業秘密関連情報の発信
