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2020年11月8日日曜日

発明の秘匿化、権利化、自由技術化の選択「三方一選択」

知財戦略といえば、発明の特許化を主としたものが一般的です。
もっというと、発明を特許出願することが前提となっており、「知財=特許」という考えが広まっているかと思います。
しかしながら、知財は特許等の権利化されものだけではありません。そこには、ノウハウの等の秘匿化された技術(営業秘密)も含まれています。また、開発した新規な技術を敢えて権利化もせず、秘匿化もせず、誰もが使用できる自由技術化することも考えられます。
すなわち、発明は、秘匿化、権利化、自由技術化の何れかが選択されるもの、三方一選択であると考えます。

では、これら秘匿化、権利化、自由技術化の選択は何に基づいて行うべきか?
それは、当該発明を使用する事業に基づいて選択するべきと考えます。
それを図案化したものが下記です。この選択は、発明、具体的には発明届け出毎に選択されます。
ところで、この三方一選択は時間の経過と共に変化すると考えます。
すなわち、発明は常に秘匿化が起点となると考えられますので、その秘匿化を起点として事業内容又は事業変化に伴い権利化が選択されたり、自由技術化が選択されます。
当然、秘匿化から権利化又は自由技術化への選択が自社による事業の開始前となる場合もあるでしょう(権利化の多くは事業の開始前に出願されるかと思います)。
また、事業内容(事業変化)によっては、権利化した発明を自由技術化する場合もあるでしょう。

この三方一選択は、特段新しい考えであるとは思いません。実際に、企業において発明毎にこのような選択がなされているでしょう。
しかしながら、三方一選択の思想としては、特許出願等の権利化ありきではないということを明確にしています。すなわち、秘匿化、権利化、自由技術化を等価と考え、事業内容に基づいて最も適切と思われる選択を行うということです。事業内容に基づいて選択とは、当該事業によって得られる利益の最大化又は事業による企業価値の最大化を念頭に置いて、秘匿化、権利化、自由技術化を選択するということです。

このように、三方一選択は、権利化ありきではないので、発明者毎に年1件以上の特許出願を行う等といった特許出願に対するノルマとは関係ないものになります。したがって、特許出願のノルマを達成することを目的とした出願、換言すると単に技術を公開するだけとなり得る出願は排除されることになるでしょう。

一方で、自由技術化も含めた選択となるので、知的財産戦略として取り得る術が増加することになります。そうすると、知財戦略ではなく、知財戦術という概念が生み出されることになります。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年10月4日日曜日

ツィッターをはじめたのでブログのデザインを変更、そして知財業界に少々思うこと。

少し前に営業秘密ラボのツイッター(@TradesecretLab)をはじめたので、ブログのデザインも変更して、スマホでも読み易いようにしてみました。

ツイッターをはじめてみて思ったことは、多くの知財関係者がツイッターをしてるんですね、ということ。しかしながら、営業秘密や技術情報の秘匿化についてはあまりツイッターでは話題にあがっていなさそう。

まあ、そんなものかな、とも思います。
特許は特許事務所の主たる仕事(ビジネス)ですが、営業秘密はビジネスとして確立していませんので、あまりつぶやく切っ掛けがないようにも思います。

また、企業知財部も出願関係の仕事はしていても、秘匿化についてはその仕事には含まれていないところも多い(ほとんどない?)ようにも思えます。

一方で近年において、企業における営業秘密の漏えいについての問題意識が高まっているように思えます。この理由の一つに、近年の中国の動向があると思いますが。
先日も下記のような報道が有りました。
・機密情報の流出阻止 経団連が政府と協調へ(日経新聞)

しかしながら、営業秘密も知財のはずですが、やはり話題にはあがっていないような?このような動きは知財業界とは別のところの話なのでしょうか?それとも私が気が付いていないだけ?少々モヤモヤ感があります。

そうは言っても、これが営業秘密に対する現状であるので、自分ができることを地道に続けようかと思います。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年8月14日金曜日

秘密特許制度の創設と中国による知財取得

先日、日本の特許法に秘密特許制度を加える法改正案の報道がありました。
知財業界では話題になっています。
過去には日本の特許法にも秘密特許制度はありましたが、戦後になくなっています。

秘密特許制度に関して、最近の報道では下記のものがあり、概略はこの報道で分かるかと思います。

まあ、このブログでも述べているように、特許出願は必ず公開されるものですので、軍事技術の公開リスクを秘密特許で特許で軽減しようというものです。他社(他国)の公開公報を閲覧して新たな技術を学ぶこと、これは中国に限らず日本企業等どこでもやっており、違法でも何でもありません。
ただ、日本の多くの企業は軍事技術の開発も行っており、軍事技術に関する特許出願も多数行われています。このような特許出願は、当然、技術的に新しいものですので、換言すると他国は最先端の軍事技術をしかも無料で学べることになります。
このような背景があるにもかかわらず、日本は今まで何もしないという、平和で素晴らしい国でした。すごく今更感のある動きですが、今後も何もしないというよりもましでしょう。

また、この秘密特許の動きと共に、機密情報を取り扱うための信用保証制度の創設の動きもあります。

これらの動きは、中国を強く意識しているものであり、現在のトランプ政権化における中国に対する知財保護に呼応するものなのでしょう。



ところで、中国には「国家情報法」という法律があることを皆さんはご存じでしょうか?
これは、2017年に制定されたものであり、第7条には「いかなる組織及び個人も、法に基づき国の情報活動に協力し、国の情報活動に関する秘密を守る義務を有し、国は、情報活動に協力した組織及び個人を保護する。」とあります。

要するに、中国共産党の指示に応じて、中国企業及び中国人は情報活動を行わなければならない、という法律のようです。これは、中国国外の中国企業及び中国人にも適用されるという中国以外の諸外国の理解のようです(中国企業であるファーウェイは否定しています)。

このような中国の法律もあり、米トランプ政権は中国に対して強い危機感を持っているのでしょう。
特にファーウェイは5Gの通信機器で世界を席巻しようとしています。そして、ファーウェイは自社の通信機器を介して情報の取得が可能であると考えられます。このことは国の安全保障に関する問題でもあり、だからこそ、米トランプ政権はファーウェイ排除を行っています。単に経済的な問題ではありません。ちなみに、日本はファーウェイの通信機器は導入しないようです。

このように、世界は中国を中心とした情報戦争が既に起こっているといえるでしょう。
そのような中での秘密特許制度の法改正であり、人ごとではなく日本企業もその真っただ中にあるといえるでしょう。
なお、日本では不正競争防止法によって営業秘密が規定されています。
実質的に不正競争防止法における営業秘密に関する規定が、日本企業に対するスパイ活動を規制する法律となっており、最近では、ソフトバンクに対するロシア元外交官によるスパイ活動に適用されました。
しかしながら、営業秘密は秘密管理性、有用性、非公知性を満たさなければならず、そのハードルは高いものとなっています。特に、技術情報は、有用性及び非公知性の判断のハードルも比較的高いといえるでしょう。そのような営業秘密の規定で、スパイ活動を防止できるのかという点は甚だ疑問に思います。

また、秘密特許の話に戻りますが、これに反対する団体が存在します。1988年という古い決議ですが、日本学術会議から下記のような決議がなされています。

この日本学術会議は内閣府の特別の機関であり、日本学術会議の資料を見ると、技術の軍事転用と絡めて米国の秘密特許に度々触れています。
特許法等の知的財産に関する法律は、国会等で深く議論されることなく、改正に至っているという個人的な印象ですが、この秘密特許制度に関しては反対論者がある程度出てくるかもしれませんね。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年7月3日金曜日

知的財産で社会貢献 新型コロナウイルスのまん延終結に向けて

知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」に関連した話題です。


昨日、キャノンが自社で使用するために開発したファン付きバイザーを発表しました。


このファン付きバイザーに関して「キヤノンが発起人として参画する「COVID対策支援宣言書」の対象となります。」とあります。
すなわち、キャノンから発表されたファン付きバイザーと全く同じものを、新型コロナウイルス感染症のまん延終結を目的として製造・販売しても、キャノンはその行為に対して権利行使を行わない、ということになります。

これは、面白い取り組みだと思いました。
「COVID対策支援宣言」に参画する企業は増えていますが、果たして、これを利用して製品の製造・販売等を行う企業がどのくらいあるのか私は少々懐疑的でした。
その理由の一つが、「新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為」の範囲が非常に狭い範囲であると捉えられかねないと感じたからです。

「新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為」との制限は、裏を返すと「新型コロナウイルス感染症のまん延終結」とは関連しない場合には、権利者から権利行使される可能性があるということです。
例えば、マスクはどうでしょう。マスクは、「新型コロナウイルス感染症のまん延終結」に寄与するでしょうが、例えば他の感染症を防ぐ目的でも着用されますし、花粉症の人も着用します。そうすると、マスクの製造販売は、「新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為」には含まれないようにも思えます(実際は現況を鑑みるとマスクの製造販売は唯一の目的に含まれると思いますが)。
また、肺の画像診断はどうでしょう。これも、「新型コロナウイルス感染症のまん延終結」に寄与するでしょうが、例えば肺がん検査等他の疾病の検査にも使用できる可能性が考えられます。そうすると、肺の画像診断に用いる製品の製造販売は、「新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為」には含まれないようにも思えます。
このように考えると「新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為」を確実に満たす行為は、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬のみと解釈され得るかもしれません。


このように、「新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為」の解釈にリスクを伴うと考える企業は、この宣言を行った企業の権利を使用することを躊躇すると思います。
一方、今回のキャノンの発表はこのようなリスクを気にかける必要がなくなるでしょう。
このキャノンが発表したファン付きバイザーと全く同じものを製造販売してもキャノンから権利侵害を問われる可能性が相当低いと思われるからです。

このようなキャノンの行為を鑑みると、宣言を行た企業は、自社で開発した「新型コロナウイルス」対策の装置や方法等を公開し、宣言していることを担保として第三者に対して権利行使を行わないことを明確にすることで、より「新型コロナウイルス感染症のまん延終結」に寄与できるのではないかと思います。

そしてこのような行為は、まさに知的財産を用いた企業による社会貢献とも言え、企業イメージのアップにも繋がるとも思えます。
従来から企業による社会貢献は行われてきましたが、企業の社会貢献と知的財産はリンクして考えられなかったと思います。しかしながら、「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」はまさに知的財産と社会貢献とをリンクさせたものでしょう。

さらに「新型コロナウイルス感染症のまん延終結」に限らず、企業は衛生面を考慮した技術開発を数多く行っており、その中には、自社の利益には直結しない技術開発もあるでしょう。例えば、食品製造業における自社の工場内の衛生状態を良好とするためのシステムもそうです。このようなシステムも特許権が取得されている場合があるものの、このシステムを他社に販売等せずに自社の工場でしか使用せず、休眠状態の場合も多いでしょう。
このような特許も積極的に権利不行使宣言を行うことで、自由に他社が使用し、社会全体としての衛生状態の向上に寄与し、社会貢献に繋がるでしょう。また、特許出願していない上記のような自社開発技術を公開し、他社による自由な使用を促してもいいでしょう。
今回のキャノンのファン付きバイザーも自社の従業員が使用することを目的としたものであり、他社がそれを製造販売してもキャノンの利益を損なうものではなく、これが広く使用されると、「新型コロナウイルス感染症のまん延終結」に寄与することになります。

もしかすると、キャノンの今回の発表に感化されて、同様に技術を開示する企業が続くかもしれません。そうすると、社会貢献による企業のイメージアップに知的財産を使用するという知財戦略もあり得ると考えます。

7月13日追記
三井住友建設が自社で開発した飛沫抑制と熱中症対策のためのフェイスカバリングを公開しました。
今後、新型コロナウィルス感染症防止を目的として、自社開発の技術を積極的に公開する流れが生じることが考えられます。

7月20日追記
ワキプリントピアが日産自動車監修によるライセンス商品として「歴代GT-R抗菌マスクケース」および「NISSANパイクカー抗菌マスクケース」を発売。日産による「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」に基づく、ライセンス商品。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年6月11日木曜日

各国の特許出願件数の推移、果たして日本は本当にダメなのか?

近年、中国の技術力は明らかに高まっていることは、誰しもが認識していることです。
そして、昨年は、中国のPCT出願件数が米国を向いて世界一になったことが話題になりました。一方で、日本は中国にPCT出願件数で負け、世界3位に転落し、技術力も低下している、とのようにネガティブな捉えられ方をしています。
果たして、それは本当なのでしょうか?

まず、図1は、国別の国内特許出願件数です。いわゆる5庁である米国、欧州、日本、韓国、中国における国内特許出願件数を比較しています。

図1

皆さんご存じのように、中国の特許出願件数が著しく増加しています。
ただし、これは中国政府等による手厚い助成の効果もあり、特許出願される技術の内容はまさに玉石混合でしょう。とはいえ、中国の技術力の高まりを否定できるものではありません。


図2は、米国、日本、韓国、欧州における出願件数の増減が分かり易いように、図1から中国を除いたものです。

図2

2010年を基準とすると、米国、韓国は増加傾向にあり、欧州も微増です。一方、他国とは異なり日本だけが出願件数が減少傾向にあります。これだけを見ると、日本は特許出願できるレベルでの技術開発力が低下しているとも考えられるでしょう。

次に図3は、PCT出願件数の各国推移です。

図3
資料:GLOBAL NOTE 出典:WIPO

PCT出願件数も中国の増加が著しく、2017年には日本を抜き、2019年には世界一位となっています。なお、中国では、PCT出願にも助成がありますので、それを考慮に入れる必要はあるかと思いますが。
しかしながら、国内特許出願とは違い、日本もPCT出願は増加傾向にあります。韓国も増加傾向です。一方、米国は、2010年を基準とすると、増加していますが近年では横ばいです。2019年に韓国に追いつかれたドイツは横ばいです。

そして図4は、2010年を基準としたPCT出願増加率です。増加率が著しい中国は除いています。

図4

図4からは、韓国の増加率が増加が顕著に表れ、2019年には2010年の2倍となっています。しかしながら、日本の増加率も高く、2019年には2010年の1.6倍を超えています。一方、米国は2019年では2010年の1.3倍ですが、ここ5年は横ばいです。
このペースでPCT出願件数が推移すると、数年後には日本は米国を抜くことになります。韓国のPCT出願件数は2019年において日本の半分以下なので、この増加率が続いたとしても日本を抜くにはしばらく時間がかかりそうです。

ここで、PCT出願は、この後、複数国に移行するものであり、国内出願だけを行う場合に比べて数倍の資金が必要となります。このため、各企業は、PCT出願を行うか否かを精査します。すなわち、一般的に、PCT出願される発明はより進歩性(技術レベル)の高い、又は他国へのビジネス展開も視野に入れた重要な発明といえるでしょう。そうすると、国内出願に比べて、PCT出願件数は各国の技術力をより表しているとも考えられます。

そして、上述のようなPCT出願件数の推移からすると、日本は決して技術力が低下しているとは言えないでしょう。逆に日本の技術力は、益々上昇しているとも考えられるのではないでしょうか。
今後、中国における特許出願の助成が縮小又は終了となると、中国の特許出願件数は国内出願と共にPCT出願も減少するでしょうから、もしかすると、近い将来にはPCT出願件数は日本が世界一になるかもしれません。

このように、PCT特許出願件数の見方を少し変えただけで、日本の技術力が低下していることはなく、逆に上昇し続けており、世界一が視野に入っているレベルにあるとも言えます。

また、他国と日本の異なる点は、日本は国内特許出願件数が減少し続けているという点です。日本企業によるPCT出願は、そのほとんどが日本の国内特許出願を基礎としていることを鑑みると(近年は直接PCT出願する企業も増えていますが多数ではないでしょう)、PCT出願件数も減少傾向となるとも思われますが、そうはなっていません。もし、日本の国内特許出願件数が減少していなければ、今頃、既に日本がPCT出願件数で世界一となっているかもしれません。

日本の国内特許出願件数の減少は、企業が発明の進歩性の判断を厳しく行っていることと、秘匿化が進んでいることにあると思います。技術の秘匿化は、特許のように公開されるものではないため、企業が優れた技術を秘匿化していれば、他社に追いつかれる要素が減り、当該企業の優位性を保ち続ける可能性がります。それが端的に表れている技術分野が、材料系なのでしょう。そのような選択を行っている企業が日本には多いのかもしれません。

そして、日本企業の国内特許出願件数が減少している一方、PCT出願が増加しているという他国にない特徴を鑑みると、日本企業は他国に比較して技術の特許化と秘匿化とをメリハリを利かせて積極的に選択している可能性が有るのではないかとすら思います。当然、企業が秘匿化している技術内容や数は分かりようがありませんので、多分にバイアスがかかった考えではありますが・・・。

以上のように、PCT出願件数からは、中国の技術力上昇は認められるとしても、日本の技術力が低下しているとは言い難いでしょう。逆に、日本の技術力の上昇度合いは、米国と比べて相対的に高いともいえるのではないでしょうか。
とはいえ、特許出願件数は国の技術力を示す指標の一つでしかなく、秘匿化している技術を反映している指標でもありません。また、技術分野毎に状況は異なっているでしょう。そうすると、特許出願件数だけで日本の技術力を推し量ろうとすること自体にさほど意味がないとも思えますし、そもそも特許出願件数を増やすことを目的とすることにも意味のあるものとは思えません。

さらに特許出願件数が企業の収益力を示しているものでもなく、巷で日本の技術力が低下していると言わしめる理由は別にあるのでしょう。個人的には、日本は技術力が低下していることもなければ、ダメになったわけでもなく、伸びしろが小さくなり高止まりしているのではないかと思いますが。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年6月5日金曜日

「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」純粋に知財の視点からどうなのか?

コロナ対策の一つとして「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」に賛同した企業が続々と現れています。
この宣言の趣旨は「我々は、新型コロナウイルス感染症の診断、予防、封じ込めおよび治療をはじめとする、新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為に対しては、一切の対価や補償を求めることなく、我々が保有する特許権・実用新案権・意匠権・著作権の権利行使を一定期間行なわないことを宣言します。」というものであり、他社の特許権が製品開発の障壁ともなり得ることを鑑みると、非常に理解できるものです。

一方で「新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為」を宣言の対象としているものの、自社が保有する特許権等の独占排他権を放棄する行為であり、宣言を行った企業に相当高いリスクを生じさせる行為であると考えられます。
そもそも「まん延終結を唯一の目的とした行為」が一体どのような行為であるのかも明確ではありません。この行為は必ずしも、非営利行為というわけではないでしょうし、多額の利益を得るような行為も含まれるのでしょう。
また、宣言の終了を世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症まん延の終結宣言を行う日までとしていますが、これも何時なのかはわかりません。最悪、終結宣言が行われないかもしれません。そうすると、文言上、権利不行使は未来永劫となってしまいます。

すなわち、自社の特許権によって実施できなかった技術を導入した製品を他社が製造販売できることとなり、それによって当該他社が利益を上げることを容認することとなります(後述するように宣言には権利不行使の範囲を制限することも可能です)。
その結果、他社が大きな利益を得、ブランド価値を高め、自社の強力な競合他社に成長する可能性もあるでしょう。
また、コロナ対策を純粋にビジネスチャンスと捉えた場合、他社への特許権の不行使により、そのビジネスチャンスを逃す又は利益の最大化に失する可能性もあり得ます。


そういう懸念もあるためでしょう、この宣言は無条件に権利行使を行わないというものではなく、宣言者の意思により権利不行使の範囲も制限することができます。

このホームページでは、「COVID対策宣言書の対象範囲、期間その他に一切の制限を設けていない宣言者」と「権利不行使の範囲を制限した宣言者」とを明確に分けて記載しており、その宣言の内容、すなわち権利不行使の範囲を第三者が確認できるようになっています。
なお、6月3日に確認したところ「COVID対策宣言書の対象範囲、期間その他に一切の制限を設けていない宣言者」は45社であり、「権利不行使の範囲を制限した宣言者」は29社であり、制限を設けない宣言者の方が多くなっています。

ここで、権利不行使の範囲の制限にはどのようなものがあるのかを確認しました。下記はそのなかの一例です。

1.権利を実施するものは通知、同意を必要とする。
2.権限の対象を非営利目的のみとする。
3.適用範囲を日本とする。
4.宣言の終了時期をまん延終結前に定める。
5.適用外とする技術分野を定める。
6.自社の単独所有の権利に限定する。
7.権利を実施するものは権利を使用した製品の販売実績を開示する。
8.著作権は適用外とする

やはり、通知や同意を必要とするという制限を設けている宣言者が多く見られました。最低限このような制限を設ける必要はあるのではないでしょうか。この制限により、権利不行使の対象を権利者が有効的にコントロールすることが可能となるので当然でしょう。
また、宣言の終了時期を制限として定めた宣言者も多数でした。

さらに、単独所有の権利に限定するという制限を設けている宣言者も複数ありました。特許出願は共同出願も多数存在するため、このような制限も必要でしょう。その一方で、実施許諾をしている権利を権利不行使の範囲外とするとのような制限を設けたものはありませんでした。何ら制限を設けなかった宣言者は、共願案件や実施許諾をした権利も保有しているでしょうから、共願者や許諾者には何か説明をしているのでしょうか?

そして、このような宣言内容であるため、当然賛同しない企業もあります。
特に、製薬メーカーは宣言者にいないようです。コロナワクチンや治療薬等を先に開発できれば、大きな利益を得る可能性があるため企業としては当然の判断でしょう。コロナワクチン等の開発製造は、明らかに「新型コロナウイルス感染症のまん延終結を唯一の目的とした行為」でしょうから、この宣言を行うことは大きなビジネスチャンスを失う可能性がありますから。

この宣言において、多くの企業が何ら制限を設けていないことには驚きました。
制限を設けていない企業は、宣言を行っても自社の利益に与える影響は微々たるものであるという判断なのでしょう。それとも、単に知財(特に特許権)というものを重要視していないのでしょうか?もしかしたら、公報等で開示している知財は自社の強みではなく、秘匿化している知財こそ強みであり、それは守られているという判断もあるのかもしれません。

この宣言を行うか否か、宣言に制限を設けるか否か、これは企業における知財に対する深い判断(無意識の判断もあるでしょう)があると思います。この宣言から、各企業が知財をどのように考えているのかの一端を垣間見れる気がします。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年4月11日土曜日

会社等の組織としての営業秘密侵害

営業秘密侵害の典型例として、顧客情報や技術情報を転職時に持ち出すパターンや、顧客情報等を他社に販売するために持ち出すパターンがあります。
このうち、顧客情報の販売目的は近年減少傾向にある一方、転職時に営業秘密を持ち出すパターンが多くなっていると感じます。

さらに、営業秘密侵害が組織的(複数人の関与)に行われる場合が散見されます。
具体的には、自動包装機械事件があります。 この事件は、被害企業の元従業員4人が競合他社へ営業秘密(自動包装機の設計図)を持ち出して転職したものであり、転職先の競合他社も組織的に関与したとして、1,400万円の罰金刑となっています。

また、NEXCO中日本入札情報漏洩事件は、NEXCO中日本の業務委託先の社員が、NEXCO中日本が発注した2件の工事の設計金額に関する情報を特定の工事会社に漏えいし、この工事会社が当該2件の工事を落札したというものであり、この業務委託先の社員と工事会社の役員が罰金100万円の略式命令を受けています。

さらに、先日、N国党の党首が起訴された事件は、NHKの徴収員の端末装置の画面に表示された顧客名簿を撮影することで当該顧客名簿を不正取得したというものですが、この党首と共に徴収員も当該顧客名簿を不正に開示したとして起訴されています。これも組織的な営業秘密侵害事件といえるでしょう。

このように、もしかしたら、一昔前は見逃されていた可能性もある行為(特に自動包装機械事件やNEXCO中日本入札情報漏洩事件)も、営業秘密侵害という刑事事件に発展する可能性が高くなっていると思われます。


ここで、今後起きそうな組織的ともいえる事件は、転職の採用面接時に起こり得ることです。すなわち、転職者希望者に対して在籍中の企業(又は退職した企業)の営業秘密を面接時に聞き出す行為です。

例えば、面接担当者が転職希望者に対して内定を期待させつつ営業秘密を聞き出す等したものの、結局、内定を出さずに不採用とした場合には、この面接担当者が不競法2条1項4号で民事的責任を、21条1項1号で刑事的責任を負う可能性があるかもしれません。
そして、このような行為は面接を行った企業の責任も問われる可能性も当然あるでしょう。
このような事件は未だ日本ではありませんが、韓国企業間の営業秘密侵害事件では面接時に技術情報を聞き出そうとしたという主張がなされているものもあります。

このように、今後、日本でも雇用の流動性が確実に高まるなか、採用面接時にしてよい質問には十分に配慮する必要があるでしょう。
特に、技術者の採用に当たっては開発部門等の社員が面接担当者となる可能性も高く、そのような面接担当者が転職希望者に対して技術的な質問を行い、不必要に転職希望者の現所属企業の営業秘密を聞き出す可能性も十分に考えられます。
また、当該営業秘密を聞き出した後に、自社製品の開発業務に使用しないとも限りません。
そして、当該転職希望者を採用せず、当該転職希望者もその後転職しないままとなった場合、何かしらの理由により、採用面接時に営業秘密を聞き出されたことを所属企業に話すかもしれません。その結果、この所属企業が面接を行った企業に対して、何らかなアクションを起こす可能性も考えられます。

今後このような事件が起きないとも限りません。このため、企業は、面接担当者に他社の営業秘密を聞き出すような質問等を行うことがないように、十分に注意を促すべきでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年3月26日木曜日

知財管理誌に掲載された寄稿文のpdfデータ

先月の知財管理誌に寄稿した「技術情報が有する効果に基づく裁判所の営業秘密性判断」のpdfデータへのリンクを設定しました。
知財管理誌のpdfデータは、知財協の会員の方しかホームページから見ることはできませんが、知財協の会員以外の方で興味がある方は上記リンクからアクセスしてください。

この寄稿文では、従来技術に対して優れた効果等を有しない技術情報は、営業秘密としての有用性(又は非公知性)を有しない場合について述べています。
実際、このような裁判例が散見されるためにこの寄稿文を書いたのですが、個人的にはこのような裁判所の判断には疑問を感じています。

企業から情報が不法に持ち出された場合には、その営業秘密性は非公知性を重視すべきであって、有用性や秘密管理性は厳密に判断するべきではないと私は思います。
企業から情報が不法に持ち出されたということは、当該情報を持ち出した人物はこの情報に価値があると考えていることに他なりません。もし、価値がないのであれば、持ち出す必要は無いからです。
にもかかわらず、秘密管理性や有用性を厳密に判断することにより、不正に情報を持ち出し、さらには持ち出した情報を使用しても、不法行為とはならない可能性が高くなります。

例えば、非公知の技術情報であれば、技術情報ということのみで有用性を認めても良いのではないでしょうか。また、非公知と言うことで秘密管理性も認めてよいのではと思います。
さらに、顧客情報や医療カルテ等、個人情報に類する情報や、取引先の情報等、社会通念上、企業において秘密としていると思われる営業情報も、その秘密管理性を厳しく判断する必要はなく、その情報をもって経済的な有用性も有していると判断されてもよいのではないでしょうか?

一方で、公知となっている情報であれば、そもそも誰でも入手可能な情報であるので、当該情報を持ち出したとしても不法行為とはならないという判断は妥当であると考えます。

とは言っても、営業秘密侵害は民事的責任のみならず、刑事的責任も問われるものであるため、営業秘密の3要件の判断を甘くすると、より多くの人が罪に問われることにもなり得るでしょう。このため、裁判所は営業秘密の3要件をある程度厳密に判断しているのではないかとも思います。


今回の寄稿文によって、技術情報を営業秘密とする場合における、秘密管理性、有用性、非公知性に関する留意すべきことを、私なりにそれぞれまとめることができたと考えています。
しかしながら、3要件に対する裁判所の判断は今後変わってくるかもしれません。それはより厳密に判断するのか、甘く判断するのかは分かりませんが。このため、裁判例のウォッチングは重要な作業かと思います。

また、今年の9月末ぐらいに大阪で営業秘密に関する研修を行う予定です。
この研修は弁理士以外の方も参加可能です。
内容は、昨年の11月に弁理士会で行った研修内容+αです。
研修日が近くなったら、またアナウンスします。
もし最悪、コロナの影響が長引けば、キャンセルになるかもしれませんが・・・。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年3月13日金曜日

日本の特許出願件数と日本の技術力

最近、日本経済新聞の「特許ウォーズ」というサイトを知りました。
近年、注目されている技術分野における各国の特許出願動向等の統計資料等が含まれています。 この統計資料から私が思うところを書こうかと。
ただ、ここは営業秘密のブログであり、下記の私の考えには「バイアス」がかかっていると思いますので、そこをご理解ください。

まず、このサイトでは、近年、中国の特許出願件数が増加し、今後成長が期待される技術分野において特許出願件数が世界一であることを示しています。一方、日本は特許出願件数において中国に負けているという感じです。

このことは、特段新しいことでもなく、知財業界の人間ならば誰もが認識していることでしょう。
また、中国における特許出願件数の増加の要因の一つとして、国や地方政府による手厚い支援が挙げられます。このこともよく知られたことです。このため、中国の特許出願件数が非常に多くなったからといって、それと同等に中国の技術力が優れているかというと疑義があります。中国における支援制度が終わった後に、特許出願件数の推移が本来の中国の姿でしょう。

参考:中国における政府による知的財産に関する各種優遇・支援制度
   (新興国等知財情報データバンク)

ここで、このサイトでは特許の質として「質ランキング上位10社の国別数」も評価しています。この評価基準の妥当性は置いておいて、中国は特許出願件数が多い一方で他の国に比べて質が低くなっています。
私も中国のとある中小企業の公開公報にざっと目を通したことがあります。中国語は分からないので、図面を見たり、翻訳ソフトで実施形態の記載内容の概要を確認したのですが、新規性・進歩性を判断よりも、技術内容の説明が不明瞭あるとも思えました。一方で全てがその程度で有るはずがないので、中国の特許出願はまさに玉石混合なのでしょう。

参考:中国における特許補助政策と特許の質

とはいえ、中国は多くの特許出願と共に多くの侵害訴訟を行うことにより、日本の数倍から数十倍のスピードで経験を積むことになります。その結果、早晩、日本企業が中国企業に特許権侵害等で訴訟を提起される可能性が相当高くなるとは言われています。


一方、日本の特許出願件数は減少傾向にあります。
この理由は、企業の特許出願に対する予算削減や、それに伴う企業内で進歩性の判断を厳密に行うことによる出願の絞り込み、さらに、公開リスクを懸念することによる積極的な秘匿化の推進等が考えられます。日本企業の技術力低下というような理由は私自身は認識できていません。中国や他の新興国等の技術力と日本の技術力との差が縮まっていることは確実でしょうが。

このように、日本の特許出願の減少は、技術力の低下というよりも、企業自身の選択の結果であり、特許出願件数の減少だけで何か良い悪いを語れるものではないと、私は考えます。
さらにいうと、日本の特許出願件数と企業の収益も相関が低いとも思います。実際、特許出願件数は、2000年代は今よりも多いものの、日本の景気は良くありませんでした。

また、特許権は、当該技術分野における基礎技術に関する権利の方が当然強い権利となります。このため、いくら特許権を多く所有している企業であっても、基礎技術に関する特許権を他社に押さえられていれば自社の特許権に係る技術を自由に実施できない可能性もあります。
このため、本当に特許の良し悪しで技術力を語るのであれば、特許出願件数ではなく、実際に取得された特許権の内容、上記のような「質」で語る必要があります。しかしながら、これは当該技術分野に精通し、かつ特許請求の範囲等を読む能力を必要とするので、簡単ではなく、“国”として語れるものでもないはずです。

以上のようなことから、特許出願件数で“国”の技術力を判断することは、話のネタとしては面白いかもしれませんが、あまり意味のないことだと考えます。
特に秘匿化された技術については、外部からは判断できかねます。例えば、最近韓国との関係で話題に上がった日本の高純度フッ化水素の製造技術等は、秘匿化されたノウハウ、すなわち、特許出願されていない技術が使われており、製造技術の模倣が難しく、本当の意味で強い技術といえます。

このようなことを考えると、特許出願されていない技術は何かということを精査したほうがいいかもしれません。特許出願されていない技術でありながら、当該技術を使用したと思われる製品を製造している企業や国は、模倣が難しい技術を実質的に独占していることになります。

一方、特許出願されている技術であれば、完全ではないものの他者による実施(模倣)が可能です。特にネットワークや機械翻訳も発達している現在において、特許情報においても国や言語の垣根は低くなっています。
これが特許出願による公開リスクです。さらに、たとえ特許権を取得したとしても基本的に出願から20年経過後は、特許権が消滅するので誰でも自由に実施可能となります。出願から製品化まで数年を必要とすると、特許による市場の独占は十数年でしょう。また、基礎技術の特許を取得したとしても、製品化される頃には特許権の存続期間が十年を切っているかもしれません。そう考えると、特許権の存続期間20年は案外短いかもしれません。これが顕著に表れている技術分野が製薬関係でしょう。

他方で技術の秘匿化は、公開リスクがないので、うまくいけば半永久的に独占状態を保てます。しかしながら、技術を秘匿化しても、後発の他社によって当該技術の特許権を取得されると侵害となり、先使用権の主張が認められないと実施を継続できないというリスクもあります。

秘匿化と特許化のバランスをうまくとりながら、自社の技術を守ることが、ネットワークが発達した昨今では重要であると考えます。言うのは易しですが・・・。

なお、このサイトの資料で気になるものもあります。
それは、「主要国の科学技術費推移」です。ここ十数年で中国は言うまでもなく、アメリカや韓国、ドイツも増加傾向にあるにもかかわらず、日本は微増です。以前は主要な工業国の一つであったイギリスはほとんど変化がありません。

日本は、バブル景気のときには、潤沢な資金により様々な研究開発を行っていました。現在、多くのノーベル賞を日本人が得ているのもバブルの遺産ともいわれています。
やはり、技術開発と資金には強い相関関係があると思えます。その資金が他国と比較して多くなかったり、増加率が小さかったりすると、その技術力の差は縮まるのではないでしょうか。
さらなる日本の技術力アップのためには、特許出願云々よりも根っこの“資金”これではないでしょうか?

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年3月7日土曜日

特許出願&営業秘密化フロー

発明の特許出願と営業秘密化とを組み合わせたフローを考えました。
とはいえ、このようなことは知財部の方々が通常業務として考えていることと変わりはないかとも思います。


発明の営業秘密化を検討するうえで、特徴的な部分は破線で囲まれたステップと考えます。
発明を公開しないと判断した場合であっても、今一度、発明の実施形態を検討します。
そして、発明を実施した自社製品をリバースエンジニアリングすることで公知化されるか否かを検討します。
すなわち、発明を秘匿化しようと一旦判断しても、公知化される発明を秘匿化してもそれは営業秘密としての要件を満たさない可能性があるので、やはり特許化を検討しましょう、ということです。
このとき、リバースエンジニアリングによって公知と判断される実施状態とはどのようなものであるかを十分に理解しなければなりません。

しかしながら、特許出願するということは、特許公報によって積極的な公開にもなります。すなわち、競合他社は自社製品をリバースエンジニアリングすることなく、自社の発明を知る可能性があります。
このような公開リスクを避けるために、発明を秘匿化するという判断も当然あります。しかしながら、この場合は、秘匿化したとしてもその営業秘密としての非公知性は認められない可能性は認識するべきでしょう。

また、発明の公開(公知化)を許容できるのであれば、特許出願を検討するべきでしょう。
特許出願を行うにあたっては、進歩性の有無を事前にある程度は検討します。
ここで、営業秘密とは関係ありませんが、進歩性が低そうであり、発明が機械構造等であるならば、積極的に実用新案出願も検討したらいかがでしょうか。
実用新案を嫌う会社や弁理士は少なからず居ます。
しかしながら、私の経験上、実用新案であれば特許では権利化できない技術、すなわち特許の審査において設計変更と判断されるような技術であっても、実用新案技術評価書では新規性・進歩性ありと判断される可能性があります。
そのため、他社による特許取得を阻害する目的の出願であれば、特許出願ではなく実用新案出願を行い、実用新案で権利化してもよいのではないかと思います。

なお、発明を営業秘密化する場合には、その対象を特許出願と同様のレベルで特定することが必要と考えます。すなわち、発明とその効果をセットにして考え、当該効果を生じさせることが当業者によって理解できるレベルで発明の構成を特定します。これにより、営業秘密でいうところの有用性(技術的な有用性)があることを明確にします。

このフローは、上述のように、既にどこでも行っているものかと思いますが、このようにフローとすることで特許出願に対するリスクや秘匿化に対するリスク等も少なからず明確にできると思います。
今後、このフローを叩き台にして、フローの改善ができればよいのですが。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年2月7日金曜日

技術情報の営業秘密保護のために知財部と特許事務所ができること。

技術情報を営業秘密として積極的に保護するのであれば、企業における知財部の役割は大きなものになるかと思います。

もし、知財部が特許出願のみを業務範囲とするのであれば、開発側から出てきた発明届けを確認し、場合によっては簡単に先行技術調査を行い、それを発明者にフィードバックして発明届けをブラッシュアップするでしょう。
その次には、特許事務所に明細書作成依頼を出し、発明者と特許事務所との打ち合わせをセッティングし、その後、特許事務所から出された明細書を確認・修正し、特許事務所に対して特許庁への出願依頼を行うという工程を行うでしょう。その後、PCT出願や中間処理の対応等もあります。
こられの工程は、自社における事業戦略等に基づくものであり、この他にも他社の出願動向や他社による侵害調査等も行うかと思います。

ここで、多くの企業の知財部において、各仕事の起点は開発側からの発明届けである場合が多いのではないでしょうか。
しかし、技術情報を営業秘密として保護する場合には、それでは遅い可能性があります。

営業秘密について企業の方と話をすると、少なからずの方から発明者の頭の中にある非公知の情報はどうなるのか?や開発途中の情報、まとまっていない情報はどうなるのか?といった質問や疑問を受けます。

発明者の頭の中にある非公知の情報は、所属企業に開示されていないので企業の営業秘密には当然なり得ません。
また、開発途中の情報やまとまっていない情報は、企業に開示されているものの、情報として特定が不十分であり、秘密管理されていなければ営業秘密とはなり得ません(営業秘密の要件を満たさないものの企業秘密としての民事的保護は受けられる可能性はあると思いますが。)。

そうすると、そのような情報を営業秘密とする作業はやはり知財の専門家である知財部ではないでしょうか。知財部の方が、開発部門や発明者と密に交流し、現状の開発状況や今後の開発予定等を聞き出し、必要であれば内容を特定して秘密管理の対象とするべきでしょう。このためには、知財部と開発側との間で、定期的に密なやり取りが必要でしょうし、そもそも営業秘密も知的財産であるという意識を持ち、そのために必要な知識も身につける必要があるかと思います。



では、特許事務所は何ができるでしょうか。特許事務所は、主に企業から特許出願を行うことが決定された技術を聞き、それを明細書に仕上げていきます。
この時点で、既に特許出願が前提となっているので、営業秘密云々の話ではありません。場合によっては、特許事務所に渡された情報であっても、開示する必要がない情報であれば、ノウハウということで明細書に記載しないようにしましょう、とのような相談をクライアント企業とは行いますが。

そこで、特許事務所はより上流工程、発明発掘の段階から関わることができるのではないでしょうか。すなわち、新規な技術(発明)に対して特許出願をするか否かの判断から関わるということです。
より具体的には、特許出願ありきという考えを持たずに、当該技術に関する事業内容や製品化の状態を考慮すると共に、リバースエンジニアリングが営業秘密の非公知性に与える影響や、営業秘密における有用性の判断等を行いつつ、当該技術を特許出願をするべきか秘匿化するべきかを専門的な知見から助言することができると考えます。
また、秘匿化する技術(発明)に対しては、当該技術を秘密管理できるように明細書に近い形で文章化する作業の要否もここで判断できるでしょう。

とは言いながら、このようなことは多かれ少なかれ、既存の知財部や特許事務所でも行っていることでしょう。しかしながら、営業秘密の知的財産という意識を持ち、特許出願を前提とした知財管理に偏らず、特許出願と秘匿化を両輪とした知財管理を積極的に行うべきかと思います。特に、特許事務所は特許出願等の代理人を行うビジネスモデルなので、そのビジネスモデルに加えて、技術情報の秘匿化も収益をもたらすビジネスにできればと思っています。

なお、企業によっては、特許出願に関する規定はあるものの、発明を秘匿化する際の規定がない企業もあるかとも思います。このような企業では、同じ発明であっても特許出願した場合は評価されても、秘匿化された場合は評価され難いかもしれません。
そのような評価であればどうしても発明は特許出願ありきという判断に偏りがちになるかと思います。
このため、発明を積極的に秘匿化する場合には、秘匿化した場合であっても発明者に特許出願と同等の評価がなされるような規定の整備が重要になるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2020年1月25日土曜日

オープンイノベーションや他社等との共同研究・開発のリスク

一昔前までは、知財戦略と言えば、単に特許出願することを指していたかもしれません。
しかしながら、今の時代、技術開発において自社開発だけでなく、オープン・クローズ戦略、オープンイノベーション、産学連携、異業種連携等、様々な形態・選択肢が考えられ、さらに、他社の特許出願戦略も考慮して、敢えて権利化せずに公知化することや秘匿化することを深く考える必要があるでしょう。

ここで、オープンイノベーションや産学連携等の共同研究・開発等では、他社等に自社の技術を積極的に開示したり、共同研究・開発により共有となる技術情報が現れます。このとき必ず相手方と交わされるものが秘密保持契約でしょう。
では、情報を開示する相手方や共同研究・開発先と秘密保持契約を締結すれば、自社が秘匿したい情報は守れるのでしょうか?

当然ながら、決してそのようなことはなく、相手方が不注意又は意図して秘密保持義務のある情報を開示や使用した利する可能性があります。
また、共同研究・開発の相手方が大学等の研究機関であれば、論文や学会発表等により、積極的に公開することを希望するでしょう。そのような相手に対して、秘密保持契約を締結しようとしても、秘密保持期限等で合意が難しく、うまくいかないことは容易に想像できます。


さらに、海外の企業や研究機関との共同研究・開発等を行う場合も今後多くなるでしょう。 その相手方によっては「秘密」という概念が希薄な国もありますし、公的な研究機関を装っていても、その国の軍と密接な関係を有している機関もあるようです。 そのような相手方に秘密保持義務を課したところで意味はあるのでしょうか?

このように、秘密保持契約を締結したからと言って安心できるものでは決してなく、相手方と情報を共有したのであれば、その情報は漏えいする可能性は確実にあります。そのため秘密保持契約は、情報漏えいを抑制するに過ぎないと考えます。

すなわち、本当に秘密するべき情報は、他社等に開示や共有するべきではありません。
そもそも自社が秘密にしたい技術についての共同研究・開発等は行うべきではないでしょうし、共同研究・開発等をする対象も技術漏えいが生じても許容できる範囲内とするべきです。

従って、共同研究・開発等は、秘匿すべき情報が漏えいするリスクを許容できる範囲内で行うべき、すなわち、共同研究等がビジネスにもたらす利益と情報漏洩がもたらす不利益とを天秤にかけて判断するべきでしょう。

また、基礎技術開発であれば、その基礎技術までは共同研究・開発したとしても、その後の、ビジネスに直結する応用技術に関しては自社開発(独自開発)で行う、というような選択も当然にあります。
さらに、最終的に欲しい技術が複数の技術を統合したものであれば、この複数の技術を別々の相手方と共同研究・開発、又はこの一部を共同研究・開発し、これらを統合した最終的な技術は自社開発するということも考えられるでしょう。

このように、本当に秘匿化するべき技術は、他社に漏洩しないことを第一として、共同研究・開発等を推進するべきかと思います。

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2019年11月28日木曜日

11/25に開催した弁理士会の営業秘密研修を終えて。

先日、日本弁理士会関東会主催の弁理士向けの研修会「技術情報を不正競争防止法の営業秘密とした民事訴訟における裁判所の種々の判断」を行いました。
多くの方にご聴講いただきありがとうございました。

研修の時間は2時間であり、最後のほうは少々駆け足ぎみで終わりましたが、営業秘密として重要な要素である三要件(秘密管理性、有用性、非公知性)については、技術情報を営業秘密とする視点から可能な限りの説明はできたのではないかと思います。

また、研修後に数名の方から質問も頂きました。
やはり、研修後に質問していただくと、こちらも勉強になるので大変うれしいです。
中には、私と同様の疑問をお持ちの方もいらっしゃり、そのような疑問が営業秘密管理における不明瞭な点として再認識できます。

どの企業でも秘密としている情報は少なからずあり、情報の秘匿化の重要性は多かれ少なかれ感じていることと思います。
しかしながら特許等に比べて、営業秘密はその詳細は未だ広く認識されているとは言い難いということが現状だと思っています。また、そもそも営業秘密が知的財産であるという認識でない人も多いのではないでしょうか。

さらに、技術系の企業においては、特許出願しない発明(公開しない技術情報)もあり、そのような技術情報の確実な管理は必要不可欠です。
一方で、秘匿化している技術情報をビジネス戦略上、他社に開示する場合もあるでしょう。さらには、他社や大学等の公的な研究機関と共同開発を行った結果、新たに創出される技術情報もあるでしょう。
このような場合に、秘密管理(秘密保持契約等)をどのように行うべきかを課題に感じている企業もあるかと思います。

そして、今後問題として生じると思われる営業秘密の帰属、特に秘匿化された職務発明は会社帰属なのか、従業員帰属なのか?不正競争防止法2条1項7号、及び8,9号をどのように解釈するべきか。

このようなことも、今後、まとめていく必要を感じています。

またどこからかお声がかかれば、このような研修を行えればと思います。


http://www.営業秘密ラボ.com/
弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年9月27日金曜日

日本の特許出願件数と企業の研究開発費の推移

毎年更新している日本の特許出願件数と企業の研究開発費の推移を表したグラフです。
 新たに平成30年の特許出願件数と平成29年の研究開発費とを加えました。
研究開発費は、「我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向 -主要指標と調査データ-」から得たものです。

このグラフからわかるように、特許出願件数は相変わらず微減です。数年後には年間30万件を切るでしょう。一方で、研究開発費は近年において微増減を繰り返しています。

このような傾向は今後大きく変わることはないでしょうから、結局、特許出願されずに秘匿化される技術情報をしっかり守りましょう、という結論になりますね。

また、最近では企業における情報の秘匿化に対する意識も高くなっているようにも感じます。
そうすると、秘匿化に対する意識の低い企業は、意識の高い企業に比べて相対的に弱体化することになるでしょう。本来自社で秘匿化するべき情報が、他社に漏洩して使用される可能性が高まるためです。

特に特許出願件数を絞っている企業は、相対的に秘匿化すべき技術情報の数が増加しているはずでしょうから、そのような技術の管理手法を真剣に考えるべきではないでしょうか。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年9月3日火曜日

パテント誌に掲載された論考がpdf化されました。

弁理士会発行のパテント誌7月号に掲載された私の論考がpdf化されてインターネットで公開されました。

弁理士会ホームページ:プログラムの営業秘密性に対する裁判所の判断

弁理士会では、パテント誌に掲載された記事が約1月後に誰でも閲覧可能なようにホームページ上に掲載されます。また、キーワード検索も可能とされています。

弁理士会ホームページ:「月刊パテント/別冊パテント」目録検索システム

複数の知財関係の雑誌が発行されていますが、その内容がインターネットで誰でも閲覧可能とされているものはパテント誌だけでしょうか。
会員等になれば、IDやパスワード入力によりインターネットでも閲覧可能とされているものが多いなか、誰でも閲覧可能とする取り組みは非常にうれしいです。

記事を書く者としても、パテント誌は主に弁理士会会員向けに発行されるものですが、インターネットで公開されることにより、より多くの人の目に触れる機会が与えられるので励みになります。

ところで、先日、他の雑誌にも新たな論考を寄稿しましたが、さて、掲載が認められるでしょうか?


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年8月30日金曜日

営業秘密と秘密情報との違い

営業秘密という文言と似たような文言として、秘密情報等があります。
この違いとして営業秘密は、不正競争防止法2条6項に規定されているように、秘密管理性、有用性、及び非公知性の三要件を全て満たしたものである一方、秘密情報にはこのような法的な定義はありません。

過去のブログ記事:ノウハウ、言葉の定義

すなわち、営業秘密よりも秘密情報等の方が概念的に広いものとなります。
例えば、営業秘密については非公知性が必要とされますが、秘密情報は非公知性が不要とも考えられます。
また、営業秘密は有用性の要件も必要とされていますが、この目的は、公序良俗に反する内容の情報(脱税や有害物質の垂れ流し等の反社会的な情報)など、秘密として法律上保護されることに正当な利益が乏しい情報を営業秘密の範囲から除外することです。しかしながら、秘密情報は、このような要件も必要とされていません(反社会的な情報が秘密情報として実際に法的に保護されるか疑問ですが。)。
秘密管理性についてはどうでしょう。秘密情報というからには、ある程度の秘密管理性も秘密情報としての要件には含まれるかと思いますが、その判断は営業秘密ほど厳しくないと思われます。

では、どのような情報が営業秘密ではなく、秘密情報となり得るでしょうか?
例えば、一般的に知られているビジネスであるものの、自社では初めて行うようなビジネスの情報等がそれにあたるかと思います。
このようなビジネスの情報自体は一般的に知られているため非公知性がないと判断される可能性が高いものの、自社として競合他社には当該ビジネスを行うことを事前に知られたくない情報ともなり得、そのような場合には秘密情報にあたるでしょう。


また、営業秘密と秘密情報との大きな違いとしては、その法的効果が全く異なります。

まず、営業秘密は三要件を満たした情報であり不正競争防止法で保護され、その法的効果が秘密情報に比べて非常に強くなります。

例えば、営業秘密の不正使用や不正開示と認められれば、差し止め請求や当該営業秘密を取得等した第三者に対しても営業秘密侵害(不競法2条1稿5号、6号、8号、9号)の責を負わせることが可能となります。すなわち、当該第三者に対して、差し止めや損害賠償請求を求めることができます。このことは、もし企業から情報が流出した場合には、非常に有用な効力となり得ます。
さらに、不正競争防止法に基づいて、営業秘密の不正使用や不正開示等に対する刑事的責任を負わせることができます。

一方、秘密情報の不正使用や不正開示は、不正競争防止法の適用範囲ではなく、民法による不法行為となります。学説等によると、秘密情報の不正使用に対しても損害賠償だけでなく、差し止めも可能のようですが、当該秘密情報を取得した第三者に対しては何ら請求することはできません。すなわち、営業秘密と異なり、秘密情報は流出すると流出の拡大を止めることができないかもしれません。
さらに、秘密情報の不正使用等に対して刑事的責任を負わせることもできません。

ここで、裁判において、当該情報が営業秘密と認定されなかった場合には、当該情報は秘密情報であるとして秘密保持義務違反で戦うという戦略もあり得るかと思います。しかしながら、この場合には、秘密保持義務契約の内容が重要となります。

下記ブログ記事で紹介した裁判例は、このような事案であり、営業秘密であると原告が主張した技術情報は非公知性を喪失していると裁判所によって判断され、さらに裁判所は「秘密保持義務についても,非公知で有用性のある情報のみが対象といえる」と判断し、営業秘密と認められなかった当該情報は秘密保持契約の対象となる情報でもないとされました。

過去のブログ記事:営業秘密と共に秘密保持義務も認められなかった事例

すなわち、当該情報が営業秘密と認定されなかった場合に、秘密保持契約の対象とする秘密情報であると認定されるようにするには、「秘密保持契約の対象とする情報 ≠ 営業秘密」と解釈されるように契約書で定める必要があります。

しかしながら、このような契約書を作成することは難しいかもしれません。例えば、秘密情報の適用範囲が広く解釈されるような契約書にすると、包括的すぎるとしてその契約書自体の効力が認められないかもしれません。
そうすると、秘密保持の対象とする情報を、個々に特定し、それぞれに対して秘密保持義務を有するとのような契約とするべきでしょう。このように考えると、秘密保持の対象とする情報の特定が営業秘密と同様に重要となるかと思われます。

以上のように、営業秘密と秘密情報とは大きな違いがあり、その法的な効果も異なります。情報管理を行う際には、この違いを明確に認識するべきでしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年8月23日金曜日

頭の中にある情報って営業秘密?

頭の中にある情報は営業秘密となるのでしょうか?
これは時々聞かれる質問です。

この懸念に対しては、2つのパターンがあるかと思います。
(1)実際に会社が営業秘密としている情報であって、従業員が記憶している情報。
(2)従業員自身が想起しているものの、未だ会社(上司等)には伝えていない情報。

質問の意図としては(2)に該当するのですが、(1)のパターンでは当然、営業秘密であれば記憶している情報であっても、当該情報を転職先等に開示してはいけません。

(2)のパターンは、未だ会社に伝えていないのであれば、会社が秘密管理している情報ではないので、転職先等に開示しても問題ありません。なお、想起している情報に営業秘密が含まれている場合には、その営業秘密を開示してはいけないことは当然です。

営業秘密の3要件、特に秘密管理性について理解していれば、悩むことではないはずですが、営業秘密の3要件を理解している人はほとんどいないでしょう。
しかし、転職を考えている方のうち、営業秘密について漠然とした疑問や理解不足を感じている人は多いのではないでしょうか。


特に、研究開発等に従事する技術者の場合、日々の研究開発の過程で、頭の中に新たなアイデアを温めている人も多いかと思います。そして、優秀な方ほど、そのようなアイデアは多く持っているでしょう。
そうすると、そのような人が転職を考えている場合、果たしてそのようなアイデアを転職先で使用してもよいのか判断できず、転職に躊躇するかもしれません。

また、会社での業務の過程で、自身が取得した技能を転職先で使用してもよいのであろうか、と考える人もいるかと思います。このような場合も、その技能に秘密情報が含まれていなければ、当然、他社で使用しても構いません。
例えば、一般的な溶接の技能であって、他者よりも速く、キレイに仕上げる技能等がこれに当てはまるでしょう。弁理士ならば、明細書を書く能力でしょうか。

しかしながら、上述のように、営業秘密の定義を理解している方はほとんどいないと思いますし、営業秘密がなんであるかを正しく学ぶ機会はあまりありません。
企業内研修等で営業秘密を学ぶかもしれませんが、企業内研修では「他社に開示してよい情報」という括りでの解説はないでしょう。
現に、私も企業向け研修を何度か行っていますが「持ち出してはいけない情報」という括りでしか営業秘密を解説していません。当然ですね、会社自身が会社から持ち出してよい情報を従業員に教えることはないでしょう(頭の中の情報を持ち出すという表現は違和感がありますが・・・)。

とはいえ、今後は益々、転職が一般的に行われることになるでしょうから、社会人としての常識として、営業秘密を理解しなければならないでしょう。そして、何が営業秘密となり、何が営業秘密ではないかを十分に理解しなければ、転職を躊躇することにもなりますし、転職と共に犯罪者になってしまうかもしれません。

上記のようなこともあり、転職を考えている人向けの営業秘密セミナー等を行えば良いのかなとも思う今日この頃です。


弁理士による営業秘密関連情報の発信

2019年7月18日木曜日

寄稿した論考が今月のパテント誌に掲載されています。

今月のパテント誌(vol.72 2019年7月号)に、私が寄稿した論考「プログラムの営業秘密性に対する裁判所の判断」が掲載されています。

このブログでも、幾つか記事にしていた内容も踏まえて、プログラムの営業秘密性についてまとめています。

少々かいつまんで紹介しますと、プログラム(ソースコード)は裁判において秘密管理性が認められ易いようです。
また、ソースコードは、著作物でもあります。
このため、ソースコードの不正使用は、営業秘密侵害と共に著作権侵害に基づいて提起される可能性もあります。このような場合、各々の侵害判断は同じ基準ではなく、営業秘密侵害のようがより広い概念として判断される可能性があります。

今後、プログラムの重要性は益々高まる一方で、プログラムとしてはアルゴリズムを特許化できてもソースコードは特許化が難しいので、ソースコードは営業秘密として守る必要があります。
そうした場合に、ソースコードの秘匿化の考え方の一助になればと思います。

なお、パテント誌の記事は、一月ほどでpdf化されて公開されるので、そうなった場合に本ブログでもリンクを掲載しますので、パテント誌が手元にない方はそちらをご覧ください。



弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2019年6月20日木曜日

製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為

先日、公正取引委員会から「製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」が公表されました。

・製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書の公表について(公正取引委員会)

これには、・ノウハウの開示を強要される ・名ばかりの共同研究を強いられる ・特許出願に干渉される ・知的財産権の無償譲渡を強要される 等の事例が報告されています。
具体的には、「(令和元年6月14日)製造業者のノウハウ・知的財産権を対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書(概要)」において以下のような事例が挙げられています。

・1「片務的なNDA」
実例1:相手方の秘密は厳守する一方、自社の秘密は守られないという片務的なNDA契約を締結させられる。
・2「ノウハウの開示強要」
実例2:営業秘密のレシピを「商品カルテ」に記載させられた挙げ句に模倣品を製造され、取引を停止される。
 ・3「買いたたき」
実例3:金型設計図面等込みの発注になったにもかかわらず、対価は従来どおりに据え置かれる。
 ・4「技術指導の強要」
実例4:競合他社の工員に対して自 社の熟練工による技術指導 を無償で実施させられる。
・5「名ばかりの共同研究」
実例5:ほとんど自社で研究するのに、成果は取引先だけに無償で帰属するという名ばかりの共同研究開発契約を押し付けられる。
 ・6「出願に干渉」
実例6:取引と関係のない自社だけで生み出した発明等を出願する場合でも、内容を事前報告させられ、修正指示に応じさせられる 。
 ・7「知財の無償譲渡等」
実例7:特許権の1/2を無償譲渡させられる。
実例8:一方的に無償ライセンスさせられる。

ここで、-6「出願に干渉」ー以外は、営業秘密の不正使用とも考えられる行為が含まれるかと思います。裏を返すと、優越的地位の濫用行為は特許権(特許出願)等の権利取得に関するものよりも、より実態の見えにくい「ノウハウ」に対して行われ易いとも考えられます。


ここで、不正競争防止法2条1項4号では、以下のように規定されています。

---------------------------
不正競争防止法2条1項4号
窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為(以下「不正取得行為」という。)又は不正取得行為により取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
---------------------------

上記条文で気になるところは「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段」ですが、この解釈について経済産業省 知的財産政策室編「逐条解説 不正競争防止法 平成30年11月29日施行版」の84ページに以下の様に記載されています。

---------------------------
「窃取,詐欺,強迫その他の不正の手段」の「窃取」「詐欺」「強迫」は、不正 の手段の例示として挙げたものであり、「その他の不正の手段」とは、窃盗罪や詐欺罪等の刑罰法規に該当するような行為だけでなく、社会通念上、これと同等の違法性を有すると判断される公序良俗に反する手段を用いる場合もこれに 含まれると解される。
---------------------------

上記下線で示されるように「窃取,詐欺,強迫その他の不正の手段」は刑罰法規に該当する行為だけが当てはまるわけではありません。
想像するに、例えば、取引会社が下請け会社に取り引き停止をチラつかせて、下請け会社に営業秘密を無理矢理に開示させることも含まれる可能性があるのではないでしょうか?
そうすると、この取引会社は独占禁止法だけでなく、不正競争防止法違反も問われることになるかと思います。

さらに、不正競争防止法違反における営業秘密領得の恐ろしいところは、営業秘密を不正に取得した取引先企業だけでなく、これに関与した取引先企業の従業員も責任を問われる可能性があると言うことです。
具体的には、上記のように取引会社が不正の手段によって下請け会社の営業秘密を取得した場合には、その営業秘密の取得に関与した取引会社の従業員が刑事告訴される可能性があります。
実際に、上司の命令に従い業務として行った行為が営業秘密領得に当たるとして書類送検された事例があります。

参考ブログ記事:営業秘密の不正取得を上司から指示された事件

このように、もしかしたら今までは“許されること”であった下請け会社に対する行為が今後は犯罪として扱われるかもしれません。そして、そのこと、具体的には営業秘密の不正取得は犯罪であることを明確に認識し、もし業務命令としてそのような行為を指示された場合にはハッキリと拒絶する必要があります。そうしないと、犯罪者になるかもしれません。

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2019年4月11日木曜日

営業秘密に関する民事訴訟の受理件数推移

下記グラフは営業秘密に関する民事訴訟の受理件数の推移を示したグラフであり、作成者は私です。

このグラフは、判決が出された訴訟の受理件数であるため、和解に至った訴訟や取り下げ又は放棄された訴訟の件数は含まれていません。従って、実際の受理件数はこれよりも多いはずであるため、毎年の受理件数の実数を示したものではありませんが、訴訟件数のおおまかな推移は分かるかと思います。


このグラフは、判決が出された訴訟の受理件数であるため、判決が出ていない訴訟は当然カウントされていません。2016~2018年の一審の受理件数が少ない理由はこのためであり、これらの年、特に2017,2018年に受理された訴訟は未だその多くが判決にまで至っていないと考えられます。
しかしながら、大まかな傾向としては、一審の2013~2015年の受理件数とそれ以前の受理件数とから判断するに、営業秘密に関する訴訟件数は増加傾向にあるとも考えられます。

上記グラフのように判決ベースではあるものの営業秘密に関する訴訟の件数は多くて20件弱です。この件数をどのように見るかは人それぞれがと思いますが、下記に2017年の特許権侵害等の第一審新規受理件数を示します。この数は、この資料を参考にしています。
下記件数は、未だ判決に至っていないものや和解等に至った訴訟も含む件数です。そうすると、営業秘密に関する訴訟は実用新案権や意匠権の侵害訴訟の件数よりも多いですね。

特許権侵害:158件
実用新案権:5件
意匠権侵害:9件
商標権侵害:83件

また、営業秘密侵害訴訟において一審で原告の請求が認容(一部認容含む)された割合は、判決数を母数とすると約22%であり、原告の請求は認められ難いとも考えられます。
しかしながら、判決文を読むと、原告が営業秘密を特定できておらず営業秘密の三要件すら裁判所が判断していない訴訟も少なからずあります。これは営業秘密とは何であるかを原告側が理解していなかったとも思われ、今後営業秘密に対する理解が広まるとこのような訴訟が減り、勝訴率が高くなると思われます。

さらに、営業秘密に対する関心度は増加傾向にあるかと思います。それは刑事事件に関する統計からは明確に見て取れます。
・参考ブログ記事:営業秘密侵害の検挙件数統計データ
そうすると、当然民事事件の件数も今後増加する傾向に至るでしょうし、営業秘密に関する新たな知見を与える判決も多く出るようになるでしょう。

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