2017年8月28日月曜日

タイムスタンプ:技術文書管理システム

富士ゼロックスが、「知的財産の先使用権立証を支援する技術文書管理システム」を作成したとの報道を読んで、ちょっと思ったことを。

<参照>
IT Leaders:http://it.impressbm.co.jp/articles/-/14882
富士ゼロックス:http://news.fujixerox.co.jp/news/2017/001373/

アマノのタイムスタンプサービスを組み合わせたもののようですね。
タイムスタンプの利用=先使用権立証という流れに沿ったサービスですね。

私は、タイムスタンプを先使用権立証のために用いることが一般的になるということに対しては少々懐疑的です。
しかしながら、私の予想が外れて、一般的になればいいとは思います。



ここで、「タイムスタンプを押した情報=秘密管理性を満たす」ということにはならないと考えられます。
「タイムスタンプを押す=情報の作成日時の証明」であり、情報の秘密管理とは直接的にはむすびつかないと考えられます。

せっかくならば、こういったタイムスタンプを押したシステムに対して、情報の秘密管理性も満たすようなサービスを組み込んだら如何でしょうか?
タイムスタンプを押す情報の中には、当然、営業秘密として保護すべき情報も含まれているでしょう。
そのような情報に対して、㊙マークを同時に付与するとか、パスワード等でアクセス管理された所定のフォルダに自動的に記憶されるとか、・・・。

ところで、「営業秘密」+「タイムスタンプ」のキーワードでグーグル検索を行うと、このブログにおける「タイムスタンプを使う目的」の記事が1ページ目に出てきます・・・。
この記事がどの程度アクセスされているかは分かっているので、「営業秘密の管理に対してタイムスタンプを用いる」という観点は広まっているとは言い難いですね。
一方で、「先使用権」+「タイムスタンプ」のキーワードで検索しても私のブログ記事はすぐに上がってこないので、「先使用権の証明にタイムスタンプを用いる」という観点は、「営業秘密の管理に対してタイムスタンプを用いる」という観点に比べて、圧倒的に広まっていると思われます。

2017年8月25日金曜日

特許権の侵害は刑事事件化されず、営業秘密の侵害は刑事事件化される理由

特許権の侵害は刑事事件になることはまずありません。
一方、営業秘密の侵害に関しては、刑事事件となる場合があります。
この違いは何でしょうか?

これに関して、あるセミナーで警察関係者の方が警察の視点から説明したものを聞いたことがあります。
特許だけでなく、実案や意匠も同様でしょうが、その理由は、無効審判によって権利そのものが消滅する場合が多々あるためとのことでした。

もし、侵害者(法人含む)に対して警察が立件しても、その後、無効審判によって権利が消滅した場合には、犯罪行為そのものがなくなってしまうため、警察は特許権等の侵害を刑事事件化することに及び腰になるとのことでした。

これはよく分かる理由だと思いました。

商標法違反で刑事事件化される場合でも、商標法違反とされる商標は今後無効とはなり得ないほど有名なブランドのものですしね。


一方で、営業秘密に関しては、その取得行為等は窃盗犯と同様のものであると警察は考えているようです。
営業秘密に関しては、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たしていれば、その後、営業秘密が無効となることはありません。
すなわち、営業秘密に関しては、特許権等とは異なり、事後的にその犯罪行為そのものがなくなることはありません。

特許権等は、技術を独占し他社を排除できる“強い権利”であるからこそ“無効審判”の制度が設けられているのですが、この無効審判があるために、刑事事件化され難いようです。
一方、営業秘密は、“強い権利”となりえるものではなく、“無効”という概念そのものがないため、刑事事件化され易いようです。

営業秘密が技術情報である場合、特許権侵害と営業秘密侵害はその行為は同様であるとも思われます。
にもかかわらず、刑事事件化されるか否かの違いが非常に大きく、私自身はなんだか釈然としません。
そもそも、特許権侵害と営業秘密侵害の刑事罰を同列に考えてはいけないのでしょうか?

2017年8月23日水曜日

ラーメンレシピは誰のもの?

営業秘密はだれのものでしょう?
先日、弁護士ドットコムの記事に「「ラーメン店」レシピは営業秘密? クビになった考案者がやめさせることはできるか」というものがありました。

この記事の結論を引用すると次のようなものです。
「問題のラーメンのレシピについて、ラーメン店のオーナーが秘密として管理して使っているのであれば、既に解雇された従業員が考案したレシピであってもオーナーの営業秘密として保護される可能性があります。この場合、元従業員は、自分が考案したレシピの使用や開示の差し止め、また使用や開示により発生した損害の賠償請求はできません。むしろ、オーナーがこれらを行うことができます。」
この結論については、まったく異論はありません。
そう、現在の法律において営業秘密はそれを管理する企業のものであって、それを開発した開発者のものではありません。

そして、営業秘密については、その営業秘密の開発者に対する法的保護は何らありません。
一方、特許、意匠、実用新案では、その開発者に対して、法的保護が与えられます(特許法35条等)。
このように、技術開発等を行い特許出願等を行えば、その開発者は法的保護のもと、それに対する利益を得ることが認められていますが、いったん営業秘密とされると開発者は法的保護をうけることができません。


ちなみに、特許庁における職務発明ガイドラインのQ&AのQ21「職務発明について使用者等が特許を受ける権利を取得した場合、特許出願せず に営業秘密又はノウハウとしたときであっても、発明者である従業者等に対して 相当の利益を付与する必要はありますか。」という質問があります。
これに対しては、【参考】として判例を挙げて「職務発明について使用者等が特許を受ける権利を取得した場合、特許出願せずに営業秘密又はノウハウとしたときであっても、発明者に対して相当の利益を付与する必要があ り得ると考えられます」とのように特許庁では回答しています。
しかしながら、これは法的な裏付けがあってのことではないため、企業は営業秘密の開発者に対して、利益を与える法的な義務はありません。

また、特許と営業秘密、この2つに対する法的な責任としては、共に民事的責任及び刑事的責任が法律で定められています。
しかしながら、特許権侵害において刑事的責任が問われた事件は聞いたことがありません。
さらに、特許侵害では個人の責任が問われることもほとんどないかと思います。

すなわち、転職者自身が開発に携わり、前職企業が権利者の“特許”に関する技術を転職先で使用しても、その転職先企業が民事的責任を負うことになっても転職者が民事的責任を負うことはないでしょう。
一方、転職者自信が開発に携わり、前職企業が“営業秘密”として管理している技術を転職先で使用すると、特許権侵害とは全く異なり、その転職先企業と共に転借者が民事的責任を負う可能性もあり、さらには刑事的責任を負う可能性もあります。

私は、特許権の取得も営業秘密としての管理も、共に「技術管理」及び「情報管理」の手法の一つであると思います。技術を特許とするか営業秘密とするかによって、現行法及び現行法の運用ではこのように大きな違いがあります。

果たして、これでいいのでしょうか?