<営業秘密関連ニュース>

2025年7月16日
・当社に関する一部報道について(日本生命保険相互会社)
・日本生命の出向社員、三菱UFJ銀行の情報持ち出し 営業部門に共有(日本経済新聞)
・日生社員、出向先情報持ち出し 三菱UFJ銀の社外秘資料、営業利用 「営業秘密の侵害」恐れ(朝日新聞)
・日本生命社長が謝罪 「逆流厳禁」で三菱UFJ銀の内部情報持ち出し(朝日新聞)
・日生社長が謝罪 情報無断持ち出し 三菱UFJ銀行に出向した社員(テレ朝NEWS)
・日本生命、朝日社長が謝罪 三菱UFJ出向者の情報漏洩で(日本経済新聞)
・情報流出 日生社長が謝罪 隠蔽は否定(読売新聞)
・内部情報を不正取得 日生社員、出向先銀行から(毎日新聞)
2025年7月15日
・銀行の「社外秘」資料持ち出し 日生社員、三菱UFJ出向(47NEWS)
・三菱UFJ銀の情報不正持ち出し 出向社員が社内で共有―日本生命(JIJI.COM)
・生保業界全体に波及の恐れも 日生社員の出向先での営業情報不正持ち出しで懸念拡大か(産経新聞)
・日本生命社員、出向先銀行から内部情報を不正持ち出し 内部で共有(毎日新聞)
・日本生命社員、三菱UFJ銀出向中に内部情報を流出…受け取った管理職が「逆流厳禁」として共有(読売新聞)
・日本生命の出向社員、三菱UFJ銀行の情報持ち出し 営業部門に共有(日本経済新聞)
2025年7月14日
・ソフトバンク元社員、有罪確定へ 5G営業秘密持ち出し(日本経済新聞)

2018年5月14日月曜日

OSG営業秘密流出事件判決

先日OSG営業秘密流出事件の刑事事件一審判決が出ました。
被告に対する刑事罰は、懲役2年(執行猶予4年)、罰金50万円というものです。
報道では弁護側は控訴しない方針とあるので、これで確定かと思われます。

なお、本事件は工具メーカーであるOSGの元従業員が、製品である工業用タップの図面データを不正に持ち出し、元同僚かつ競合他社の中国人に渡したというものであり、2017年の10月19日に逮捕されています。

このように本事件は、外国人に営業秘密を渡したものであり、平成27年改正により設けられた海外懲罰規定である不正競争防止法第21条第3項第二号にも該当するものと思われます。

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不正競争防止法第21条
3 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 日本国外において使用する目的で、第一項第一号又は第三号の罪を犯した者
二 相手方に日本国外において第一項第二号又は第四号から第八号までの罪に当たる使用をする目的があることの情を知って、これらの罪に当たる開示をした者
三 日本国内において事業を行う保有者の営業秘密について、日本国外において第一項第二号又は第四号から第八号までの罪に当たる使用をした者
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ちなみに、経済産業省 知的財産政策室 編 逐条解説 不正競争防止法(2016年)によると、2号の要件は「相手方の日本国外使用目的の未必的な認識で足り、また、相手方が実際に日本国外での使用に至らずとも本罪は成立し得る。」とのことです。
そして、21条3項に該当すると十年以下の懲役もしくは三千前円以下の罰金、又はこれの併科であるので、最大では相当重い刑になるでしょう。

しかしながら、本事件は、懲役2年(執行猶予4年)、罰金50万円でした。思ったほど重くないどころか、過去の刑事罰と比較しても軽い方ではないでしょうか。このような判決となった理由の一つに、被害企業に「実質的な被害が無かった」というものがあるようですが、営業秘密の漏えいが海外で使用されることは考慮されていないようです。

参考過去ブログ記事:過去の営業秘密流出事件 (主な刑事罰一覧有り)

そもそも、営業秘密侵害罪で実際に課される刑事罰はさほど重くないのかもしれません(他の刑事事件を詳しくは知らないので勝手な印象です。)。
執行猶予が付かなかった事件も、ベネッセ個人情報流出事件や東芝半導体製造技術事件だけのようですし、それぞれ懲役2年6カ月罰金300万円、懲役5年罰金300万円であり、法定刑の最大に達するものでもありません。

ベネッセの事件では、被告は多くの国民に影響を与え(我が家の情報も漏れました。)、ベネッセはその対策に200憶円以上を要し、決算でも赤字に転落していますが、この事件でさえ、法定刑の最大の半分にも至りません。
また、東芝の事件は、半導体製造技術に関する技術情報が韓国企業であるSKハイニックスに漏えいされたものであり、民事訴訟で和解金330億円にも達しており、この金額からして東芝に相当大きな損害を与えたものですが、これも法定刑の最大にも至っておりません(東芝の事件は法改正前なので21条3項の適用はありません)。

では、ベネッセや東芝の事件よりも重い刑事罰が科される、すなわち法定刑の最大にまで至るような事件は一体どのような事件なのでしょうか?そして、ベネッセや湯治場の事件ですら、上記のような刑事罰しか科されていない現状において、より刑事罰の重い海外懲罰規定は現実的に意味を成すのでしょうか?
重罰を科せば良いというわけではないかと思いますが、27年法改正で21条3項を新たに規定した趣旨からすると、少々考えさせられる事件です。

http://www.営業秘密ラボ.com/
弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年5月10日木曜日

営業秘密の帰属、営業秘密の民事的保護が定められた当時の逐条解説

営業秘密の帰属については、未だ法的に明確になっておらず、主に不正競争防止法2条1項7号において問題になるかと思います。

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不正競争防止法2条1項7号
営業秘密を保有する事業者(以下「保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
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特許に関しては、過去の裁判の積み重ねにより、特許法35条(職務発明)等の度重なる法改正が行われ、特許を受ける権利は誰に帰属するのかが明確になっています。
営業秘密の帰属に関しても、今後裁判で争われ、明確になるかと思います。
特に技術情報を営業秘密とした場合、その帰属先が誰であるのかが問題になるでしょう。

参考過去ブログ
営業秘密の帰属について「疑問点」
営業秘密の帰属について「示された」とは?

ここで、通商産業省(現経済産業省)知的財産政策室監修である1990年発行の営業秘密ー逐条解説 改正不正競争防止法ーに営業秘密の帰属に関する興味深い記述がありました。

この書籍は、1990年発行とのように古い物であり、1990年(平成2年)から不正競争防止法において営業秘密の民事的保護が規定されました。
すなわち、この書籍の記載は営業秘密が定められた当初における行政の法解釈でしょう。

本書の87ページの”一「保有者ヨリ示サレタル営業秘密」”には「例えば企業に所属する従業員が職務上営業秘密を開発した場合に、当該営業秘密の本源的保有者は企業と従業員のいずれにかるのか、即ちいずれに帰属するのかという点が問題となる。」とのように帰属について問題提起しています。

そして、これに対して、「個々の営業秘密の性格、当該営業秘密の作成に際しての発案者や従業員の貢献度等、作成がなされる状況に応じてその帰属を判断することになるものと考えられる。」とし、下記のように例示しています。


「例えば企業Aで働く従業員Bが自ら営業秘密を開発しそれがBに帰属する場合にはAから示された営業秘密ではないため、Bが転職して競業企業Cにおいて当該営業秘密を使用したり開示したりする場合であっても、本号に掲げる不正行為には該当しない。・・・契約によってBからAに帰属を移した営業秘密をBが転職して競業企業Cにおいて利用したり開示したりする行為は、本号の適用を受けないとしても債務不履行責任を負うことは当然である。」

すなわち、本書では、営業秘密が従業員Bに帰属する場合には当該営業秘密を他社等に開示しても不競法2条1項7号違反にはならない、一方で、帰属を企業に移していたら債務不履行となる、と解釈しているようです。

果たして現在でも同様の解釈がなされるかは分かりませんが、不競法2条1項7号を素直に読むと、私はこの解釈が一番納得できます。


なお、本書の93ページの注意書き(4)には「営業秘密の帰属については、①企画、発案したのは誰か、②営業秘密作成の際の資金、資材の提供者は誰か、③営業秘密作成の際の当該従業員の貢献度等の要因を勘案しながら、判断することが適切であると考えられる。」とありますが、この①~③の判断基準に関してはどうでしょうか?特に②に関しては、職務発明と比較すると判断基準にはなり得ないかもしれません。

では、上記解釈を前提とした場合、企業はどうするべきでしょう?
すなわち、重要な技術情報出る営業秘密を開発した従業員Bが競合他社に転職し、当該営業秘密を当該競合他社で開示、使用する蓋然性が高い場合にはどうするべきでしょう?

従業員Bに対して債務不履行責任を負わせるとしても、せいぜい退職金の返還程度ではないでしょうか?そうであるならば、公開リスクはあるものの、当該技術情報を特許出願することも検討するべきかと思います。

一方、従業員Bの転職先企業(競業企業C)が従業員Bが持ち込んだ当該営業秘密を使用することは法的に問題ないのでしょうか?
この点に関し、たとえ従業員B(転職者)が不競法2条1項7号違反に問われなくても、転職先企業は不競法2条1項8号違反に問われる可能性は高いと考えられます。下記のように不競法2条1項8号は、不正開示行為であること等を知って、若しくは重大な過失により知らないで取得した営業秘密を使用若しくは開示する行為を違法行為であると規定しています。

そして、不正開示行為には、秘密を守る法律上の義務に違反して営業秘密を開示する行為が含まれており、契約により営業秘密の帰属を従業員Bから企業Aから移したのであれば、従業員Bには秘密保持義務が発生するため、従業員Bが転職先の競業企業Cに当該営業秘密を開示する行為は不正開示行為に相当すると考えられます。
このため、不正開示行為により開示された企業Aの営業秘密を競業企業Cが使用すると不競法2条1項8号に規定されている不正行為に該当すると考えられます。

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不正競争防止法2条1項8号
その営業秘密について不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその営業秘密を開示する行為又は秘密を守る法律上の義務に違反してその営業秘密を開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為
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さらに、このような解釈に相反するものとして「たとえ、従業員に帰属する営業秘密であっても、企業が当該営業秘密を秘密管理している以上、当該従業員は当該企業から営業秘密を示されたものとする」というものがあります(TMI総合法律事務所 編,Q&A営業秘密をめぐる実務論点 p.164。
しかしながら、この解釈はどうでしょうか?
企業にとっては都合の良い解釈ですが、特許法のような発明者保護とは反するものですし、この解釈は支持されにくいかと個人的には思います。

以上のことから、企業は営業秘密の発案が特定可能な従業員である場合、例えば発明発掘の段階で特許出願せずに秘匿化された技術情報のような場合、契約によってその帰属を企業に移すことをするべきかと思います。

しかしながら、一番重要なことは、そのような従業員を転職させないことではないしょうか。
ある企業にとって重要な情報や技術を取得している従業員は、他の企業にとっても欲しい人材である可能性が高いかと思います。そのような人材を転職したい気にさせないこと、これが営業秘密を守るために需要な対策の一つであると思います。


http://www.営業秘密ラボ.com/
弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年4月30日月曜日

営業秘密のブログをはじめて1年経過

5月11日で本ブログをはじめて1年経過します。

今のところ更新頻度は週に2,3回です。最近では主に月曜日と木曜日に更新しています。
営業秘密関連で最も情報発信をしているものは、本ブログではないかと勝手に思っています。

日本の特許出願件数が右肩下がりの現状において、知財に関連した何か新しいことができないかと思っていたところ、不正競争防止法の平成27年法改正において営業秘密関連の刑事罰が大幅に改正されることをきっかけに、営業秘密をキーワードにビジネスチャンスがあるのではないかと考え、情報収集及び勉強をはじめました。
そして、1年前から本ブログを開始するに至っています。

何らかの集まり等でお会いした方に営業秘密に関して私が話題を振ると、多くの人が興味を持ってお話してくれます。
このため、潜在的に営業秘密に関することに興味を持っている人は多いのではないかと思っています。
しかしながら、ビジネス化となると色々難しさを感じている今日この頃。


具体的にどこが難しいかといいますと・・・。
「営業秘密を守る」ということは、社内で新たなルール作りとなる場合が多いということです。
以前、ある方とお話をさせてもらい、それに気が付かされました。

企業で新たなルールを作るということは大変な作業です。
何を営業秘密とするのか?
営業秘密をどこの部門が管理するのか?
営業秘密に関するルールの策定、従業員への周知。
システムの構築・・・。

とても、弁理士一人でできるものではありませんし、「これをサービスとして行います」と言ったところで現実的には相手にしてくれる企業は殆ど無いでしょう。
そもそも、ビジネスの話をするターゲットは誰なのか?
企業の新たなルールを策定するのであれば、社長や役員?しかし、これは考えにくい。
自分が弁理士ならば、特許関係を扱う知財部等の人達の方が親和性が高いのでしょう。

それ以前に、営業秘密について重要性を認識しているものの、それを理解している人が少ない・・・。
同業者の方々であっても、営業秘密の侵害で刑事告訴され、実際に有罪判決を受けている人が多々いることを話すと多くの方が驚かれます。

では、営業秘密に関する啓蒙活動的な研修やセミナー等をまず行い、それを足掛かりに次に発展させるべきかな、といまは考えています。

また、営業秘密と言っても、その内容は“技術情報”と“営業情報”とに大別されるかと思います。
自分が弁理士であるならば、“技術情報”に特化する方が自然の流れでしょう。
すなわち、技術情報を「秘匿化するのか?特許出願するのか?」これをキーワードとすることが現在の業務との親和性も高く、無理のない考え方でしょうか。

今後、営業秘密に関するビジネス化を成功させることができればよいのですが、さて、どうなることやら。

ちなみに、このブログ記事について、携帯端末では字が小さくて読みにくいというご意見を頂きました。それは私も薄々感じていたので、これを機に字を大きくしています。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年4月26日木曜日

ー判例紹介ー 技術情報を営業秘密とした場合の秘密管理性その3

技術情報を営業秘密(不正競争防止法2条6項)とした場合において秘密管理性が認められた判例のうち、特徴的なものを紹介しています。

過去のブログ記事
ー判例紹介ー 技術情報を営業秘密とした場合の秘密管理性その1
ー判例紹介ー 技術情報を営業秘密とした場合の秘密管理性その2

今回は、顧客に納品済みのソフトウェアの秘密管理性を認めたFull Functionソフトウェア事件(大阪地裁平成25年7月16日判決)を紹介します。
なお、本判決では原告が営業秘密であると主張する本件ソースコードの秘密管理性を肯定しているものの「原告の、被告らが本件ソースコードを開示、使用して不正競争行為を行ったとする主張は、理由がない。」として原告の請求は全て棄却されています。

本判決では、裁判所が「原告は、原告ソフトウェアを顧客に納品する際、ソースコード、データベースともに非公開を原則とし、データベース領域のみ、秘密保持契約を前提に、開示に応じていた。また、原告ソフトウェアのバージョン8までは、客先で開発環境を起動する際のパスワード設定の扱いは区々であったが、バージョン9以降、原則として開発環境には顧客には開示しないパスワードによる起動の制御を行っていた。」とのようにまず事実認定をしました。


裁判所は、このように事実認定をしたうえで「一般に、商用ソフトウェアにおいては、コンパイルした実行形式のみを配布したり、ソースコードを顧客の稼働環境に納品しても、これを開示しない措置をとったりすることが多く、原告も、少なくとも原告ソフトウェアのバージョン9以降について、このような措置をとっていたものと認められる。そうして、このような販売形態を取っているソフトウェアの開発においては、通常、開発者にとって、ソースコードは営業秘密に該当すると認識されていると考えられる。前記1に認定したところによれば、本件ソースコードの管理は必ずしも厳密であったとはいえないが、このようなソフトウェア開発に携わる者の一般的理解として、本件ソースコードを正当な理由なく第三者に開示してはならないことは当然に認識していたものと考えられるから、本件ソースコードについて、その秘密管理性を一応肯定することができる。」(下線は筆者による)とのように、本件ソースコードの秘密管理性を認めました。

本判決では「原告は、原告ソフトウェアを顧客に納品する際、ソースコード、データベースともに非公開を原則とし、データベース領域のみ、秘密保持契約を前提に、開示に応じていた。」と認定しましたが、実際には原告と被告との間で秘密保持契約が結ばれていたようではなく、裁判所は、その業界における一般的理解によって、被告がソースコードを正当な理由なく第三者に開示してはならないことを認識していたと考えられることを重視し、本件ソースコードの秘密管理性を認めたと考えられます。

一方、本判決では「もっとも、肯定できる部分は、少なくともバージョン9以降のものであるところ、原告はそのような特定はしていないし、また、ソフトウェアのバージョンアップは、前のバージョンを前提にされることも多いから、厳密には、秘密管理性が維持されていなかった以前のバージョンの影響も本来考慮されなければならない。」とも述べています。

このことから、本判決では、過去に秘密管理されていないと認められるバージョンのソフトウェアに関する部分に対しては、バージョンアップしたソフトウェアに対して秘密管理措置を行ったとしても秘密管理性は認められないと考えられます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2018年4月20日金曜日

ー判例紹介ー 技術情報を営業秘密とした場合の秘密管理性その2

技術情報を営業秘密(不正競争防止法2条6項)とした場合において秘密管理性が認められた判例のうち、特徴的なものを紹介しています。

過去のブログ記事
ー判例紹介ー 技術情報を営業秘密とした場合の秘密管理性その1

今回は、コエンザイムQ10である本件生産菌が営業秘密である原告が主張した生産菌製造ノウハウ事件(東京地裁平成22年4月28日判決 平成18年(ワ)第29160号)です。

本事件では、被告は「コエンザイムQ10研究者以外の原告の従業員であっても、本件生産菌Aに容易に触れる機会があり、また、本件生産菌Aが保管されている冷凍庫に内容物が秘密であることの表示がないことなどから、それが秘密であることを認識できる状況にはなく、本件生産菌Aは秘密として管理されているとはいえない」と主張しました。

しかしながら、裁判所は「前記ア(オ)で認定した本件生産菌Aの管理状況からすれば、大仁医薬工場の従業員以外の者が、本件生産菌Aにアクセスすることは考え難く、他方、同工場の従業員であれば、上記のような表示の有無にかかわらず、本件生産菌Aが原告の秘密であることを認識し得たというべきである。」とのように本件生産菌Aに対する原告の秘密管理性を認めました。
この「ア(オ)で認定した本件生産菌Aの管理状況」とは以下に示すa~eのようなものです。


a 本件生産菌Aの種菌は、平成16年3月までは、大仁医薬工場の品質管理棟1階フリーザー室にある施錠可能な冷凍庫に保管され、同年4月以降は,同工場の共同第2ビル1階発酵研究室実験室奥の通路及び移植室内にあるいずれも施錠可能な2台の冷凍庫に保管されている。

b 平成16年3月までの保管場所であった品質管理棟1階フリーザー室は,無菌室内にあり、同室内に入るには,専用の白衣、履き物に着替えてエアーシャワーを浴びなければならないため、同室内に入室できるのは、原則として、大仁医薬工場に勤務するコエンザイムQ10研究者に限られていた。無菌室は、同室内にコエンザイムQ10研究者がいない場合には施錠されていた。品質管理棟の建物には、2か所の出入口があるが、いずれも夜間は施錠されていた。品質管理棟の建物がある区域は周囲が塀で囲まれており、同区域への出入口は1か所のみで、その門は常時施錠され、カードキーで解錠しなければ入場できない。また、当該出入口には監視カメラが設置され、守衛室において常時監視されている。

c 平成16年4月以降の保管場所である共同第2ビル1階発酵研究室実験室奥の通路及び移植室には、発酵研究室実験室の中を通らなければ行くことができず、そこに立ち入ることができるのは、原則として,コエンザイムQ10研究者に限られている。発酵研究室実験室の出入口は、コエンザイムQ10研究者が退出する際に施錠されている。共同第2ビルの建物には、2か所の出入口があるが、いずれも夜間は施錠されている。共同第2ビルの建物がある区域は周囲が塀で囲まれており、同区域への出入口は4か所あるが、このうち、正門を含む2か所は守衛が監視しており、関係者以外の者は目的と行き先をカードに記載しなければ入場できず、他の2か所の出入口は常時施錠されている。また、4か所の出入口には監視カメラが設置され、守衛室において常時監視されている。

d 本件生産菌Aの種菌が保管場所の冷凍庫から持ち出される場合の管理状況は,次のとおりである。コエンザイムQ10研究者が、本件生産菌Aの種菌を研究のために使用する場合は、コエンザイムQ10研究者自身が保管場所の冷凍庫から種菌を取り出して使用することとなるが、これらの研究が行われるのは、平成16年3月までは品質管理棟1階の研究課及びFCプラントのパイロット工場、それ以降はFCプラントのパイロット工場及び共同第2ビル1階の発酵研究室実験室であり、それ以外の場所に持ち出されることはない。コエンザイムQ10製造を行っている原告の延岡医薬工場及び白老工場に、製造に使用するための本件生産菌Aを運び込む場合には、コエンザイムQ10研究者自らが飛行機、電車等を利用して運搬している。また、大仁医薬工場からの種菌の持ち出し及び延岡医薬工場及び白老工場における種菌の受け入れに当たっては、チューブの本数がチェックされ、また、延岡医薬工場及び白老工場では、受け入れたコエンザイムQ10の製造用種菌を冷凍庫に入れて施錠し、チューブの本数管理が行われる。

e 大仁医薬工場では、常時、本件生産菌Aの培養研究が行われているが、この培養液に触れることができるのは、原則としてコエンザイムQ10研究者に限られている。研究に用いられた本件生産菌Aの培養液は、その後更に継続して研究に使用されるものを除き、殺菌して廃棄処分がされる。他方、研究のために継続して使用される培養液は、平成16年3月までは品質管理棟1階フリーザー室内の冷凍庫,研究課の冷蔵庫及びFCプラント2階のパイロット工場検査室内の冷蔵庫で保管され、同年4月以降は共同第2ビル1階の発酵研究室実験室内の冷凍庫及びFCプラント2階のパイロット工場検査室内の冷蔵庫で保管されている。FCプラントの建物には、2か所の出入口があるが,いずれも夜間施錠されている。また,FCプラントの建物がある区域の状況は、前記cの共同第2ビルの建物がある区域の状況と同様である。

このように、本判決では原告が営業秘密であると主張する本件生産菌に「秘密であることの表示がない」状態であっても、その管理状況から「本件生産菌Aが原告の秘密であることを認識し得たというべきである。」として秘密管理性を認めています。
一方で「秘密であることの表示がない」状態で管理されている情報に対して、その秘密管理性を裁判所に認めさせるために、原告は前回のブログ記事「ー判例紹介ー 技術情報を営業秘密管理する場合における秘密管理性その1 」でも紹介したセラミックコンデンサー事件のように様々な管理体制を主張立証をしています。

そして「秘密であることの表示がない」状態において具体的にどのような管理をしていれば「秘密であることを認識し得た」状態となるかは、上記セラミックコンデンサー事件と同様に定かではありません。  
すなわち、秘密管理の表示がなくても「従業員が秘密であることを認識しえた」や「全員に認識されていたものと推認される」と認められるような管理体制は如何なるものかはケースバイケースであり、現状では定型化されていないと思われます。

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