2024年4月23日火曜日

令和5年の営業秘密侵害事犯の検挙状況

先日、警察庁生活安全局 生活経済対策管理官 編の「令和5年における生活経済事犯の検挙状況等について」が公表されました。
これには、商標権侵害事犯、著作権侵害事犯、不正競争防止法違反等の知的財産権侵害事犯も含む生活経済事犯の令和5年(2023年)の検挙状況等がまとめられています。

まず、令和5年における営業秘密侵害事犯の検挙事件件数ですが、下記のグラフのように、最多である令和4年よりも若干少なくなっています。それでもやはり、検挙件数は増加傾向にあるのでしょう。

次は相談受理件数ですが、相談受理件数は検挙件数よりも当然多く、昨年は過去最多となっており、こちらも増加傾向にあります。

さらに、下記の表からも分かるように、検挙されている法人も存在します。
検年の検挙された法人としては、はま寿司の営業秘密を不正使用したカッパクリエイト社があり、カッパ社は地裁判決において3,000万円の罰金刑となっています(控訴済み)。
しかしながら、起訴されて有罪となった法人は、私が知る限りではカッパ社を含んで過去2社のみです。
このため、検挙されたとしても起訴されて有罪となる法人はあまり多くないのかもしれません。
とはいえ、転職が益々一般的となる今後において、転職者が前職企業の営業秘密を転職先で開示し、それを転職先で使用等する可能性も高くなり、その結果、検挙される法人も多くなるかと思います。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2024年4月15日月曜日

知財としての営業秘密の理解

知財といわれてまず思いつくものは、特許であり、次に商標、意匠、実用新案かと思います。しかしながら、営業秘密を知財として挙げる人はあまり多くないかもしれません。
この理由としてはいくつか考えられますが、まず、特許等の権利化は権利化業務といった「仕事」或いは「ビジネス」として確立していることにあるでしょう。そして、特許等の出願をより多くしようとする組織である特許庁や特許事務所といった存在が大きいと考えます。
すなわち、特許庁が旗振り役となり、企業に特許出願を促し、その依頼を特許事務所が受ける。これにより、特許庁は自身の存在意義を大きくし、特許事務所は利益を挙げることができます。そして、企業は、特許権を取得することにより、特許に係る技術を独占したり、他者にライセンスすることで間接的又は直接的に利益を得たり、年間の特許出願件数や保有している特許権数を自社の知財としてアピールします。
一方で、営業秘密に関しては、上記のような権利化業務という「仕事」や「ビジネス」は存在しません。さらに、特許庁や特許事務所が権利化は止めて営業秘密化しましょう、とのように旗振りを行うことも殆どありません(経済産業省等は営業秘密の理解を深める活動を行っています。)。当然ですが、企業が自社で保有している営業秘密の数をアピールすることもありません。

このような理由により、企業(知財部)は営業秘密を知財として認識し難いともいえるでしょう。しかしながら、実際にビジネスに用いられる特許権は全体の一割や二割ともいわれ、そもそも特許出願を行う目的がその数となっている企業も少なからずあります。その結果、特許出願がコストをかけて無駄な、下手をすると競合他社に利益をもたらす技術情報の開示を行っている可能性もあります。

一方で、営業秘密は、製品の詳細な技術情報、製品の製造方法、製品の組成であったり、実際に企業がビジネスに用いている情報である場合が多いのではないでしょうか。
このため、転職が一般的になっている昨今、営業秘密とする情報にはアクセス制限を行ったり、サーバ等へのアクセスログを取る等して、企業は営業秘密を転職者(転出者)が持ち出すことを防止又は持ち出しを検知しています。

ここで、情報を営業秘密とするためには、情報を特定したうえで、秘密管理性、有用性、非公知性を満たさなければなりません。
営業秘密とする情報が顧客情報や取引情報等の営業情報の場合では、このような営業情報が公知となっている可能性は低いので、秘密管理性を満たせば有用性及び非公知性も認められる可能性が高いです。
一方で、技術情報に関しては、特許公報や学術論文、雑誌、インターネット等によって既に公知となっている可能性もあります。また、自社の製品をリバースエンジニアリングすれば知り得る情報となる可能性もあります。このため、技術情報は秘密管理性を満たしていても、有用性や非公知性が認められない可能性があります。

従って、知財の立場からすると、技術情報が既に公知又は将来公知となるかを判断し、営業秘密にできるか否かを判断する必要があります。そして、現在は非公知であるもの、将来は公知となるよう技術情報であれば、特許出願するという選択肢も取り得ます。また、事業戦略の観点からも特許化又は営業秘密化の検討するべきでしょう。
このため知財としては、自社で創出した技術情報をどのような形式で知財とするかを判断するために、秘密管理性は当然のことながら、営業秘密としての有用性及び非公知性を理解しする必要があります。


ここまでが、自社で創出した営業秘密(技術情報)に関する考えです。次は、自社への転職者(転入者)が持ち込んだ技術情報に関してはどうでしょうか。

転入者が持ち込んだ技術情報は、前職企業の営業秘密である可能性があります。他社の営業秘密を許可なく使用した場合には不正競争防止法違反となり、民事的責任や刑事的責任を負う可能性があります。しかしながら、転入者が持ち込んだ情報であっても、営業秘密でなければ(特許権や著作権等の他の権利侵害がないならば)使用できます。

すなわち、転入者が自社に技術情報を持ち込んだ場合、当該技術情報が他社の営業秘密であるか否かの判断を自社で行う必要があります。例えば、転入者が持ち込んだ情報を全て他社の営業秘密として扱ってしまうと、本来使用できる情報を使用しないことになり、さらには、転入者の能力に足かせを与える可能性もあり、その結果、転入者は自社では能力を発揮できないと考え、他社に転職する可能性もあるでしょう。
一方で、転入者が持ち込んだ情報に対して営業秘密であるか否かの判断を行うことなく、自社で使用してしまうと、上記のように営業秘密侵害となり、自社に損害等を与える可能性があります。

では、転入者が持ち込んだ技術情報が営業秘密であるか否かの判断はどのようにすればよいのでしょうか。それは、第一には非公知性を判断することだと思います。
転入者が持ち込んだ技術情報が公知の情報であれば、それは営業秘密ではありません。このため、特許文献や学術論文等の調査を行うことで当該技術情報の非公知性を判断することが考えられます。そして、全く同じ情報が公知となっていなくても、特許でいうところの設計事項程度の違いであれば、有用性が無い可能性があります。有用性が無い技術情報も営業秘密ではないので使用可能です。
このような非公知性や有用性の判断は、知財(知財部)の得意とするところでしょうし、法務や技術者自身がこのような法的な判断を行うことは難しいと思います。

では、秘密管理性の判断はどうでしょうか。転入者が持ち込んだ技術情報が転入者の前職企業で秘密管理されていたか否かを客観的に判断することは非常に難しいと思います。仮に転入者が、前職企業において当該技術情報を秘密管理していなかったと説明したとしても、それが正しいか否かを判断することは想到難しいでしょう。
他にも、転入者が自身で創出(発明)した技術情報であるから使用することに問題ないとのような説明をすることも考えられます。これについても、法解釈の観点と共にその説明を客観的に判断できないという問題があります。
すなわち、転入者の説明をうのみにして転入者が持ち込んだ技術情報の営業秘密性を判断することには高いリスクがあります。

以上のように、技術情報については、その営業秘密性の判断について、法的な視点とと共に技術的な視点が当然必要となります。このため、技術情報の営業秘密性については、特許等と同様に知財としてあるかう必要があると考えます。

弁理士による営業秘密関連情報の発信

2024年3月31日日曜日

判例紹介:営業秘密の特定について

本ブログでは、営業秘密の特定について度々述べています。
訴訟において営業秘密の特定ができていないと、秘密管理性、有用性、非公知性についても裁判所は判断できないことになります。このため、営業秘密侵害を主張する場合には、営業秘密であるとする情報の特定が第一に重要となります。

今回紹介する裁判例(東京地裁令和6年2月19日判決、事件番号:令4(ワ)70057号)は、「服のパターン」が営業秘密であると原告が主張した事件です。被告は、原告の元従業員であり、原告を退職後にSNSを利用して被告製品を含む被告の製品やその展覧会の宣伝等をしています。

本事件では、原告は営業秘密とする服のパターンとして、原告の製品の品名、品番等を示しています。このような原告による営業秘密の特定に対して、裁判所は以下のように判断しています。
原告は、一般的に服のパターンがアパレル事業において重要な情報である旨を主張するものの、本件パターンについては、別紙営業秘密目録各記載のとおり、原告の製品の品名、品番等を摘示するにとどまり、本件パターンそのものの具体的な内容、形状等については具体的に主張せず、これに関する証拠も提出しない。このため、本件パターンに係る情報の具体的な内容等は不明というほかなく、そうである以上、これが、事業活動において有用性のある技術上又は営業上の情報であるとも、公然と知られていない情報であるともいえない。

原告と原告の元従業員であった被告との間では、「原告の製品の品名、品番等」でもお互いに服のパターンを認識できるのではないかと思います。しかしながら、裁判所は「原告の製品の品名、品番等」では服のパターンを認識することはできません。

なぜ、営業秘密の特定が必要なのかということを考えると、営業秘密の特定がなされていないと秘密管理性、有用性、非公知性の判断を客観的に行うことができないためです。
特に服のパターンは、所謂図面のようなものであるため技術情報とも言えます。このため、公知の情報との対比によって有用性及び非公知性を判断する必要もあります。そうすると、服のパターンが特定できなければ、公知の情報との対比は全くできません。

さらに、被告は「そもそも、服のパターンは縫製を解けば再現することができることから、非公知性の要件を充足しない。」とも主張しています。これは、原告が主張する服のパターンを用いて製造販売された服をリバースエンジニアリングすることで、当該服のパターンと同じ情報が容易に得られれば、当該服のパターンは既に公知になっている、という主張です。営業秘密の特定ができないと、このような被告の主張に反論することもなく、訴訟が棄却されます。

以上のように、自身が主張する営業秘密を特定しなければ、営業秘密侵害は100%認められることはありません。なお、本事件では「原告の製品の品名、品番等」は特定できるので、これに対応する「服のパターン」の特定は容易であると思えるのですが・・・。なぜ、その「服のパターン」を裁判において示さなかったのかはわかりません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2024年3月25日月曜日

判例紹介:「営業秘密を示された」とは?

不正競争防止法第2条第1項第7号には営業秘密の不正行為として下記のように規定されています。
不正競争防止法第2条第1項第7号
営業秘密を保有する事業者(以下「営業秘密保有者」という。)からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその営業秘密保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為
では、営業秘密が「示された」場合とは、どのような場合でしょうか。そのことが争点となった裁判例(大阪高裁令和6年2月9日判決、事件番号:令5(ネ)1657号)を紹介します。

本事件は、被控訴人(原審被告)に所属する研究者が控訴人(原審原告)となっており、控訴人は振興会の科学研究費助成事業により交付される科研費を用いてするUCN(超冷中性子)の研究に従事していました。そして、控訴人らは、同研究において製作し、被控訴人に寄付した本件物件(UCN源)を被控訴人が使用等することは控訴人らが本件物件について有する営業秘密侵害であるとして提起しました。

より具体的には、被控訴人が控訴人らの寄付を受け入れたことにより、本件物件の所有権を取得するものの、本件物件に化体する本件情報に関する権利は控訴人らに帰属したままであり、被控訴人は本件情報に関し、控訴人らに対して信義則上の秘密保持義務を負うものというべきであるものの、被控訴人は本件物件の管理目的を超えて、本件物件を第三者との共同研究の用に供している、というものです。
なお、原審では、控訴人らの主張する営業秘密が特定されていないから請求(訴訟物)は特定されておらず本件訴えが不適法であるして棄却されています。また、裁判所は、被控訴人の秘密保持義務も認めませんでした。

本事件(高裁)では上記のように、「被控訴人が営業秘密を示されたのか」についてが争点となっています。
まず、控訴人が被控訴人に寄付した本件物件(UCN源)の本件情報(控訴人主張の営業秘密)ついて、控訴人は「本件物件の外部形状、内部構造及びその機能を発揮させるため組み上げられた各部の装置や機器(構成部品)を含む仕組み自体であり、形状及び構造にあっては、本件物件全体及び各構成部品の形状、寸法、加工及び組立てに関する情報」であると主張しています。
さらに、この本件情報に対して控訴人は、「本件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしにはこれを取得できないため非公知性は維持されている」とも主張しています。


これに対して裁判所は、以下のように判断しています。
確かに、本件情報が控訴人ら主張のような技術情報であるなら、本件物件2のうちHe-Ⅱ冷凍器は被控訴人が管理し、その余の本件物件は第三者が管理しているものの、本来の目的である実験等に利用されているだけであって、控訴人ら主張の本件情報を得るための詳細な分解検討等がなされたわけではない以上(科研費で購入された本件物件につき、その可能性も考え難い。)、控訴人らの関与なしにはこれを取得できないとされる本件情報(本件物件の外部形状、内部構造及びその機能を発揮させるため組み上げられた各部の装置や機器を含む仕組み自体、あるいは本件物件全体及び上記各構成部品の形状、寸法、加工及び組立てに関する情報)は、なおこの被控訴人を含む第三者によっても知られていないと考えられる。そして、そうであれば、本件情報が営業秘密としての特定が不十分であることはさておき、その非公知性はなお維持されていることを否定できないというべきである。
しかし、そうであれば、被控訴人が本件物件の寄付を受け、これらをその管理下においたとしても、それだけでは本件情報を知ることができないということになるから、争点(3)ウにおける被控訴人が本件物件の寄付を受けることで、これにより、あるいはその際、営業秘密たる本件情報を示された旨をいう控訴人らの主張する事実は認める余地がないということになる。なお、控訴人らが被控訴人に対して本件物件の引渡しのほかに本件情報を開示したとの事実は主張立証されていないことはもとより、これをうかがわせる事実はない。また、控訴人らの主張に従う限り、本件物件を実験等に利用したとしても、そのことで本件物件の構造等にかかわる本件情報を知ることができないはずであるから、被控訴人は現時点においてもなお本件情報を「示された」とも認められないということになる。
裁判所の判断を要約すると、下記のようなことと理解できます。
①被控訴人が主張するように、本件情報は本件物件(UCN源)の仕組みや構成部品の形状、寸法、加工及び組立てに関する情報であるため、本件物件が被控訴人の管理下にあるとしても、非公知性は維持されている。
②本件情報の非公知性は維持されているため、本件物件を管理している被控訴人であっても本件情報を知ることはできないし、他に本件情報が被控訴人に開示された事実はない。
③被控訴人は本件情報を知らないため、被控訴人が本件物件を寄付され、使用していても被控訴人に本件情報を「示された」とは認められない。

なお、裁判所は、本件物件の引渡しのみで本件情報を示された、すなわち「営業秘密を示された」ことが肯定されるというのなら、被控訴人は秘密保持義務を負わないため、本件情報は既に非公知性が失われたことになって営業秘密の要件が充足されない、とも述べています。

上記の裁判所の判断は妥当であると思われますが、このような営業秘密に関するトラブルは想定し得ることでしょう。
例えば、企業間における共同研究開発において、共同研究開発先が独自開発した装置を借りて実験等を行う場合に、当該装置の内部構造に対して秘密保持義務を課されており、その後、借りた側が同様の装置を製造等した場合です。
このような場合、貸した側は営業秘密侵害を主張したくなりますが、借りた側は当該装置を「営業秘密を示された」ことにはなりませんので、当然、営業秘密侵害とはなりません。

弁理士による営業秘密関連情報の発信 

2024年3月17日日曜日

転職者による営業秘密の不正流出・流入まとめ

転職者による営業秘密の不正流出・流入を簡単にまとめます。


上記図の(A)のように転職者(転出者)は転職時に前職企業から営業秘密を不正に持ち出すことがあります。
転出者によって不正に持ち出される営業秘密には、在職中に仕事で使用するために前職企業から正当に開示された営業秘密だけに限らず、転出者自身にはアクセス権限がないものの何らかの方法で取得した営業秘密も含まれます。
このような営業秘密の不正な持ち出しは、サーバ等に保存されているデータに対して行われるアクセスログのチェックによって発覚することが多々あります。このため、近年ではアクセスログ管理を行っている企業は多く、自社の従業員等が退職を申し出た際や退職後等にアクセスログをチェックすることが広く行われているようです。また、アクセスログのチェックに付随してUSB等への外部記憶媒体にデータを保存する行為や、メールによってデータを送信する行為も転職者に対して行う企業は多いと思います。
このように、営業秘密の不正な持ち出しは、近年ではデジタルデータの持ち出しとなる場合が多いため、コンピュータシステムによってこれを検知することが可能な場合が多いでしょう。

一方で、自社への転職者(転入者)による前職企業の営業秘密の不正な持ち込みをコンピュータシステムによって検出することは難しいように思います。このため、転入者による不正な持ち込みは段階ごとに防止できる体制又は従業員の認識が必要となると考えます。

まず、図のB1のパターンです。このパターンは、転入者は前職企業の営業秘密を不正に持ち出しています。このため、転入者が前職企業の営業秘密を自社に持ち込むことを防止しなければなりません。この対策としては、転入者に対して、入社時に他社営業秘密の持ち込みを禁ずる誓約書を求めたり、他社営業秘密の不正な持ち出しは犯罪行為であること、仮に自社内でそのような行為が見つかった場合には警察に通報すること等の説明を行います。
ここで、転入者による営業秘密の不正な持ち込みを防止できれば、仮に転入者が営業秘密侵害で前職企業から刑事告訴等を受けたとしても、自社は転入者による営業秘密の不正な持ち出しの事実さえ知らないこととなるので、民事的責任や刑事的責任を負うことはないでしょう。しかしながら、転入者が刑事告訴を受けた場合には、自社が家宅捜索を受ける可能性もあるかもしれませんが、そうなったとしても、自社が不正行為を行っていないことが証明されることになるでしょう。

このような対策を行っても、転入者が自社内で前職企業の営業秘密を開示するかもしれません。この場合がパターンB2です。このような事態となり、仮に当該営業秘密を自社でさらに開示したり、使用したとすると、自社は営業秘密を侵害したこととなります。
ここで、転入者による営業秘密の開示先は、自社における既存の従業員であり、転入者が営業秘密を自社で開示したとすると、その事実を知る者は既存の従業員となります。そして、自社が侵害者とならないためには、当該従業員自身が転入者による更なる開示等を防ぐ必要があります。すなわち、当該従業員が当該営業秘密の出所を転入者から確認し、他の従業員へさらに開示しないように転入者に伝えると共に、上長や担当部署に報告する必要があるでしょう。
このためには、各従業員に対して営業秘密の不正使用は犯罪であることや、転入者が営業秘密を持ち込んだ場合における報告先を予め周知しておくことが必要です。報告先となる部署は例えば法務部や知的財産部等になるでしょう。
これにより、仮に転入者が不正に持ち込んだ他社の営業秘密が自社で開示されたとしても、当該営業秘密が自社内でさらに開示されたり、使用されることを防止できます。従って。パターンB2の場合は、自社で営業秘密が開示されたものの、自社でさらに開示や使用等をしていないので民事的責任や刑事的責任を負う可能性は低いと思います。

パターンB3は、転入者が不正に持ち込んだ営業秘密を自社内で使用等した場合です。この場合は、自社が他社営業秘密を不正に使用しているので、民事的責任又は刑事的責任を負うことになります。
パターンB3が自社にとって最悪な状況であるものの、例えば不正に持ち込まれた営業秘密が技術情報である場合には、知的財産部が侵害の拡大を抑制できる立場にあると思います。
このためには、技術開発部等で新規に開発された技術を、知的財産部が特許化の有無にかかわらず吸い上げ、管理する体制が必要です。このような体制は、特段新しいものでもなく、知的財産部の役割からすると当然とも考えられます。
そして、新規開発の技術の発明者が誰であるのか、その開発経緯を知的財産部が確認することで、新規な技術が他社営業秘密を用いているか否かを判断できるでしょう。
例えば、発明者が転職間もない従業員であった場合には、前職企業の営業秘密を使用していないかを確認する動機づけとなります。また、その開発経緯に不自然な点があれば、これも不正に持ち込まれた他社営業秘密を使用していないかを確認する動機づけとなります。
仮に、知的財産部で不正に持ち込まれた他社営業秘密の使用が確認された場合には、当然、この新規技術を用いた製品等の製造販売を停止させることになります。

このように、営業秘密の不正流入にはいくつかの段階(パターン)があると考えます。このため、夫々のパターンを想定した対応が可能となる体制(従業員教育)が必要でしょう。

弁理士による営業秘密関連情報の発信