2017年5月24日水曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その4

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。


前回では中吊り広告の秘密管理性について検討しました。
私の心象としては、中吊り広告は取次会社において秘密管理措置が取られていなかったのではないかと思います。
もう少し、秘密管理性について検討してみたいと思います。

ここで、一般論として、「電車に吊られる前、すなわち人目に触れる前の中吊り広告の内容は秘密である」とも考えられます。
そうであるならば、「取次会社が秘密管理措置を取っていないとしても、中吊り広告が秘密とされるべきであることは、社会人として当然に認識しうるものである」とも考えられ、黙示的にですが中吊り広告の秘密管理性を認められる、との考えもなるかもしれません。

このような考えについて関連しそうな判例があります。 
この判例は、平成27年5月27日知財高裁判決(平成27年(ネ)第10015号)であり「タンクローリー用の鏡板の成形用金型に関する技術情報」に関するものです。営業秘密に関する訴訟であまり多くない知財高裁での判決であり、影響力もあるかと思います。
事件の概要としては、「被告は原告に対して金型製作費用の概算見積りの提出を依頼し、原告は金型製作費用の概算見積りを提出した。この際、原告は、被告に対して技術情報を開示した。」というものです。

結論として、当該技術情報の秘密管理性は認められなかったのですが、判決には以下のようなことが記されています。
「控訴人代表者作成の陳述書(甲16)にも,控訴人の取引する業界では,お互いにそれぞれの有する技術ノウハウを尊重しており,契約の成約時に秘密保持契約を締結していること,成約までの過程で技術資料の交換を行うことはあるが,その際,いちいち秘密保持契約を締結するわけにはいかないため,成約時に契約すること,その間は当事者同士が互いに秘密を守ってきていることが記載されているにとどまっている。」
上記「控訴人」とは当該情報の保有者である原審原告です。
そして、上記のことは、原告が「業界の一般論として技術情報を開示されたら、秘密保持契約等をしなくても、秘密とすることが当然」と主張しているかと思います。

しかしながら、裁判所は以下のように判断して秘密管理性を否定しています。
「上記陳述書の記載は,本件において,控訴人が被控訴人に開示した技術情報について,これに接する者が営業秘密であることが認識できるような措置を講じていたとか,これに接する者を限定していたなど,上記情報が具体的に秘密として管理されている実体があることを裏付けるものではない。」
すなわち、裁判所は、一般論を秘密管理措置として認めず、やはり「情報が具体的に秘密として管理されている実体」 がなければ秘密管理性を認めないと解されます。
うーん、一般論では秘密管理措置は認められそうにありませんね。

困りましたね。何が困るかというと、ここで、秘密管理性が無いとなるとこれ以上検討を進めてもねえ・・・。
というわけで、本件については、週刊新潮の記事だけでは中吊り広告の秘密管理性に認めがたいと思われるものの、次からは中吊り広告が「営業秘密」であるとして他の事項も検討してみたいと思います。  そもそも、記事には書かれていないだけで、取次会社は、中吊り広告に対して秘密管理措置を適切に行っているのかもしれませんしね。

2017年5月22日月曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その3

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」を引き続きちゃんと考えます。
これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春です。


まず、中吊り広告は、営業秘密なのでしょうか?
営業秘密は、前に説明したように、下記の3要件を満たすものです。

①秘密管理性
②有用性
③非公知性

これら3要件の具体的な説明は追々やりますが、とりあえず検討を。
②有用性とは、営業秘密管理指針では「その情報が客観的にみて、事業活動にと って有用であることが必要である。 」とされています。中吊り広告は、週刊新潮にとって週刊誌の販売促進に寄与するものであるため、有用性があると考えられます。

③非公知性とは、 営業秘密管理指針では「一般的には知られておらず、又は容易 に知ることができないことが必要である。 」とされています。中づり広告は実際に電車に吊られ、乗客が見ることが可能となるまでは非公知性が満たされていると考えられます。すなわち、中づり広告は、取次会社で管理されている状態では、非公知性があると考えられます。

取次会社が保有している状態にある中づり広告に対する有用性と非公知性については、さほど争点とはならないと考えます。

では、①秘密管理性はどうでしょうか。
まず、秘密管理性とは、営業秘密管理指針では「営業秘密保有企業の秘密管理意思が 秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対 する従業員等の認識可能性が確保される必要がある。 」とされています。
少々わかりにくいかと思いますが、従業員等(今回は取次会社の従業員)が、その情報が秘密とされていることを認識できるように企業は管理しないといけないということです。
営業秘密管理指針では、管理方法は特に指定されておらず、「秘密管理措置の内容・程度は、企業の規模、業態、従業員の 職務、情報の性質その他の事情の如何によって異なる」としています。より具体的には、秘密管理する情報に対して㊙マークを付したり、当該情報に対して施錠管理やデータへのアクセス管理をしていなくても、従業員等が企業の秘密管理意思を認識できるように企業は管理すればよいとしています。

では、今回の件における秘密管理性はどうでしょうか?
ここで、新潮の記事からは、取次会社が中づり広告を営業秘密として、従業員が認識できるように秘密管理していたとの事実は読み取れません。また、新潮が取次会社に対して中吊り広告を営業秘密として管理するように依頼していた様子もありません。

さらに、新潮の記事の28頁の第4~5段落には下記のようなことが記載されています。
「『文春社員に中吊りを渡した弊社社員はこの4月に今の担当になったばかりで、"文春とのことは前の担当者から引き継いだ"と話している。前の担当者は5年前に週刊誌の担当になったが、文春の件はやはり"前任者から引き継いだと思う"と言っています』文春が本誌の中吊り広告を入手するのは『ルーティンワーク』と化し、継続的に行われていたわけだ。」
この記載からは、取次会社から文春への中吊り広告の貸し渡しは複数人が関与して長年に渡り行われていたと考えられます。
ここからは、私の推察ですが、複数人が関与していたということは、中吊り広告が秘密として管理されていなかったために、文春に貸渡すことに対する抵抗が無い、若しくは薄かったとも思われます。

あくまで週刊新潮の記事からの推察にしか過ぎませんが、これらのなことから、取次会社では新潮の中吊り広告を秘密管理していたとはいえず、新潮の中吊り広告は営業秘密としての3要件を満たさない、すなわち、営業秘密ではないとも考えられるのではないかと思います。
もしそうであれば、営業秘密の不正な取得及び使用という、不法行為そのものが成り立たなくなります。

次回、さらに検討を進めたいと思います。


2017年5月21日日曜日

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その2

週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」をちゃんと考えます。

これは、印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?というもの。
主な登場人物は、①週刊新潮、②取次会社、③週刊文春ですね。

営業秘密的に考えると、この中吊り広告は営業秘密であり、それを取次会社が正当に取得しているものの、取次会社の従業員が「不正の利益を得る目的」又は「その保有者に損害を加える目的」で中吊り広告を文春に「開示」したとも考えられます(不正競争防止法第2条第1項第7号)。
そして、 文春側は、「営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って」営業秘密を取得し、その取得した営業秘密を「使用」したと考えられます(不競法第2条第1項第8号)。

すなわち、不法行為を行った者は、取次会社の従業員と文春側の従業員ということでしょうか。
そして、取次会社及び文藝春秋が会社としてどのように関与していたかということも当然重大な問題となります。

なお、現時点では、週刊文春は
「まず、「週刊文春」が情報を不正に、あるいは不法に入手したり、それをもって記事を書き換えたり、盗用したりしたなどの事実は一切ありません。」
(引用元:週刊文春 ホームページ http://bunshun.jp/articles/-/2567
と発表し、週刊新潮の中吊り広告を取得していたことを否定しています。

しかしながら、取次会社であるトーハンは、「株式会社新潮社様の週刊新潮に係る中吊り広告取扱いについてのお詫び」と題して、
「当社が文藝春秋様に中吊り広告を貸し渡したことは不適切な取扱いであり、既に新潮社様に対して、取引者間の誠実義務に欠けていたことを認め、お詫びをしております。」
(引用元:株式会社トーハン ホームページ http://www.tohan.jp/news/20170519_977.html
と発表し、「文藝春秋に中吊り広告を貸し渡し」というこをを認めています。

文春側は認めていないにもかかわらず、取次会社は 「文藝春秋に中吊り広告を貸し渡し」という表現ですが認めているようです。
貸し渡し先が「週刊新潮」ではなく「文芸春秋」であり、「貸し渡し」という表現がちょっと気になるところです。
深読みすると、「文芸春秋」と表現することで「週刊文春」は週刊新潮の中吊り広告を取得していないという逃げ道を作ってあげているのかもしれません。また、「貸し渡し」という表現をすることで、「中吊り広告」は誰も窃盗していないことを強調したいのかもしれません。
また、取次会社であるトーハンは、上記「お詫び」において、
「引き続き、当社は、全容解明に向けて鋭意調査を継続してまいりますとともに、内部統制・管理体制の一層の強化、整備に努めてまいります。」
とも記しています。これは、会社ぐるみではないことを暗に示しているものと思われます。

このように、従業員の転職時だけでなく、取引会社を通じて営業秘密が漏れることはよくある事かと思われます。
企業側は、このようなことをある程度想定しなければいけないことであるとも感じます。
また、今回の取引会社のように、他企業の営業秘密となり得る情報を扱う会社は他企業の営業秘密が自社から漏えいすることを想定した対応を事前に取る必要があると考えます。

今回の週刊新潮の件は、色々考えさせられることがあるので、引き続きブログで検討してみたいと思います。
キーワードはやはり「秘密管理性」、それに 「不正の利益を得る目的」又は「その保有者に損害を加える目的」であろうかと思います。
 なお、今のところ、私が考える結論は商慣習上の倫理違反という問題はあるとしても、新潮が文春(文藝春秋)を営業秘密に関する不法行為で訴えることは難しいのではないかと思います。