2017年8月15日火曜日

営業秘密に関連したタイムスタンプの利用

タイムビジネス協議会のシンポジウム/セミナーのページに「知財保護のタイムスタンプとは」というセミナー資料がありました。
2016年の資料なので、そこそこ新しいものです。
ここに、営業秘密管理にタイムスタンプを用いるケースとして以下の3つが紹介されています。
これらのケースはトラブル対応を視点としたものです。
以前のブログ「タイムスタンプを使う目的」でも営業秘密管理にタイムスタンプを用いる目的について大まかに記載しましたが、細分化すると確かに上記セミナー資料の内容になるかと思います。

①他社との共同研究・開発 
②競合他社への人材流出による漏えい
③競合他社からの人材採用

①に関しては、他社に自社の営業秘密を開示する場合に、開示した営業秘密が自社のものであることを事後的に証明することを目的としたものと思われます。
共同研究・開発を行う企業や取引先との関係は、当然初めのころは良い関係が築かれているものですが、その後、関係が悪化する等により、トラブルが生じる可能性は少なからずあります。実際に民事訴訟でもそのような雰囲気を醸し出しているものもあります。
このような事態に陥った場合の対策として、トラブルになっている事項が技術に関するものであれば、自社技術を示した情報等にタイムスタンプを押しておくことは有効かと思います。
さらに対策を練るのであれば、他社から開示された情報にもタイムスタンプを押すことも考えられます。これにより、他社から何時どのような情報が開示されたかの証明にタイムスタンプを用いることができます。

営業秘密に関する問題点として、自社の営業秘密が他社に流出することも当然ながら、他社の営業秘密が自社に流入することも大きな問題となります。いわゆるコンタミですね。
自社技術と他社技術が自社内で混ざってしまうと、大きな問題が生じます。
これの回避策の一つとして、タイムスタンプは利用できると思います。


②に関しては、離職者が自社の営業秘密を持ち出した場合に、その営業秘密が何時から所有していたものであるかを証明することを目的としたものですね。

③に関しては、転職者が前職の営業秘密を持ち込んだ場合に、その営業秘密と同じ情報を既に自社で所有していたことを証明することを目的としたものですね。

やはり、行きつくところは自社が所有している情報が何かということを認識し、それを適切に管理するということに行きつくと思います。

そしてタイムスタンプを利用する場合に、重要なことは「何を目的とするか」を明確にすることだと思います。
情報にタイムスタンプを押す目的が明確でないと、タイムスタンプを押す行動が形骸化し、適切な情報に適切なタイミングでタイムスタンプを押すという行動がとれなくなると考えられます。
特に、営業秘密管理では、目的意識を持ち、何をどのように管理するかを明確にし、行動することが重要かと思います。

2017年8月12日土曜日

ブログをはじめて3ケ月-アクセスの傾向-

この営業秘密にだけ特化したブログをはじめて3ケ月。
営業秘密という、比較的ニッチな内容なため、アッサリとネタが尽きるかと思いきや、案外ネタは多く、ネタ切れまでもう少しかかりそうです。

そして、未だアクセス数は多いとは言えないものの、記事へのアクセス状況から皆さんが興味のある事の傾向が伺えます。
私が営業秘密に興味を持ったきっかけは27年の不競法法改正による刑事罰の強化ですが、刑事罰に関する記事は人気がありません。
やはり、刑事罰ともなると自身や自分の所属企業にとっては無縁のことと思われる方が多いのでしょうか。
私は27年法改正が産業界の要望もあってのことであり、興味を持たれ易い内容かと思っていましたので、少々意外でした。
<刑事罰に関する記事>
営業秘密保護に対する警察の取り組み
営業秘密の漏えいに関する近年の刑事罰
営業秘密における民事訴訟と刑事訴訟との関係


一方、アクセス数が多い記事は、“週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」”シリーズですね。
時事ネタはウケがいいのでしょうか?
ちなみに、“「文春砲」汚れた銃弾”でグーグル検索すると、このブログの記事が出てきます。

意外にアクセス数が多い記事が“農業”関係です。
“イチゴ品種の韓国への流出”をはじめに、私も農業と営業秘密の関係に興味を持ち、幾つか書きましたが、同じように興味を持たれる方が多いようですね。
農業分野は、技術を守るという視点では、特許とするよりも営業秘密とする方が親和性が高いようにも思えます。
しかしながら、農業の技術を営業秘密で守るということは、ほとんど浸透していないようです。
その理由に、“農業+営業秘密”でグーグル検索するとこのブログの“農業分野における営業秘密”が検索結果の一番上に来てしまいます。
この記事のアクセス数を考えると、うーん、喜ばしい事とは言えませんね。
 <農業に関する記事>
イチゴ品種の韓国への流出
農業分野における営業秘密
農業ICT知的財産活用ガイドライン

また、第四次産業革命やビッグデータに関する記事もアクセス数が多いです。
やはりこれから伸びる技術分野ですしね。
また、データの利活用に関しては近い将来、不正競争防止法の改正も行われる可能性が高いようです。
<第四次産業革命・ビッグデータに関する記事>
ビッグデータと営業秘密
第四次産業革命を視野に入れた不正競争防止法に関する検討
特許庁における知的財産分科会
データ利活用の促進に向けた不競法改正案

農業と営業秘密との関係や、データ保護に関することは、今後も追いかけようと思います。

そして、特許と営業秘密との関係を記した記事もそこそこアクセス数が多いですね。
弁理士の方のアクセスも多いかと思いますし、近年は特許出願も減少傾向にありますからね。
<特許と営業秘密との関係に関する記事>
特許出願件数の減少から考える営業秘密
営業秘密の3要件:有用性 -特許との関係-
営業秘密の3要件:有用性-特許との関係- その2

ざっとこんな感じです。
これからもボチボチやっていきます。

2017年8月9日水曜日

営業秘密の流入出を恐れると転職できない??

私が営業秘密に興味を持ちだしたころ、営業秘密の流入出をおそれると転職できないのではないかと、問われたことがあります。

①転職者は、自身の知識や経験が前職の会社の営業秘密である可能性を恐れ、転職先で前職と同様の仕事ができないのではないか?
②企業側は、転職者の知識や経験が前職の会社の営業秘密である可能性を恐れ、転職者に前職と同様の仕事をさせられないのではないか?

そのころは、もしかしたら、営業秘密の保護はそういう側面もあるのではないかと思いましたが、今では、それは適当ではないと考えています。

そもそも、営業秘密は、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たすものです。
これを満たさない情報は、営業秘密としての保護は受けられません。
ここで、①に関しては、前職の会社が営業秘密の管理を適正に行っていれば、転職者は前職の営業秘密が何であるのかを認識できるので、転職者はその営業秘密を転職先で開示しなければいいだけです。
すなわち、転職者は、自身の能力と前職の営業秘密とを峻別できるので、前職の営業秘密を転職先で開示、使用することはないと考えられます。
ちなみに、転職者が前職で身に付けた通常の知識や経験は、そもそも非公知性を有していないと考えられ、営業秘密には該当しないと考えられます。
もし、前職の会社が、転職者の知識や経験のうち非公知性及び有用性を満たす「何か」を営業秘密としたいのであれば、それを営業秘密として管理して転職者に認識させる必要があります。

裏を返すと、企業は守りたい情報を営業秘密として管理しないと、守りたい情報を転職者に自由に持っていかれることになります。また、従業員に対して、営業秘密を理解してもらわないと、理解が不十分な転職者に営業秘密を持っていかれ、不要な争いを招きかねません。
例えば、営業秘密の理解が不十分な従業員は、もしかすると、その営業秘密であっても「自身が開発した技術に関するものであるから持ち出しても良い」と考え、転職時に持ち出すかもしれません。


一方、②に関しては、こちらの方が懸念が大きいかもしれません。転職者が営業秘密を十分に理解していたら、前職の営業秘密を持ち込むことはないでしょう。しかしながら、転職者が営業秘密を理解していない場合には、前職の営業秘密を転職先に持ち込む可能性があります。
これを防ぐためには、転職者に対して、転職直後に前職の営業秘密を持ち込まないとの誓約書に署名を求める、営業秘密を理解していないようであるならば転職直後に営業秘密に関する教育を行う等を行うことが考えられます。
なお、規模の大きい企業に限ることかもしれませんが、転職してしばらくの間(例えば数か月)、転職者を前職の職務とは関係ない部署に配属させ、その後本来従事してほしい職務(前職の職務と関係ある職務)に配属させるところもあるようです。これは、時間を置くことで、万が一前職の営業秘密が持ち込まれたとしても、既に非公知性を失っている等の状態となっていることを期待してのことだと思います。

あらためて思うこと、それは「営業秘密」が何であるかを個々が正しく認識することだと思います。
「営業秘密」=「会社が所有している情報(企業情報)」ではありません。
「営業秘密」=「秘密管理性、有用性、非公知性を備える情報」です。
企業は営業秘密に関する認識を正しく持ち、「自社から流出してはいけない情報」と「他社から流入してはいけない情報」とを峻別することで、離職者や転職者にも対応できるかと思います。