2017年9月14日木曜日

佐賀銀行の営業秘密流出事件

しばらく前に佐賀銀行で営業秘密に関連した事件が起きていたようです。

参照:2017年7月28日 佐賀新聞「佐銀元行員が一転関与認める」
参照:2017年7月6日 佐賀新聞「福岡県警、佐銀元行員を再逮捕 預金者情報漏えい疑い」
参照:2017年6月19日 佐賀新聞「佐銀事件で1億円超預金者169人分、情報流出」
参照:2016年12月18日 佐賀新聞「佐銀2支店侵入事件、暴力団関与の可能性」
参照:佐賀銀行ホームページ「お客さま情報漏洩の報告とお詫びについて」

このニュースは、あまり全国的に取り扱われていないような気がしますが、非常に重大な事件であると思われます。

元々は、佐賀銀行に窃盗(金庫破り)の目的で侵入して現金を盗んだ事件のようですが、元行員が協力しており、この元行員が自身がアクセス権限を有している預金者リストをも不正に取得したようです。そして、実際に使用されなかったものの、この預金者リストに元にに福岡市内の預金者宅で空き巣をしようと計画していたようです。

はっきり言って、もし預金者リストが窃盗事件に使用されていたらと考えると、かなり恐ろしい事件です。窃盗団と被害者が鉢合わせする可能性もありますからね。


営業秘密の中でも流出した場合に最も対応に苦慮するものが、個人情報を含んだ顧客情報ではないでしょうか。
我が家の情報も流出したベネッセの事件では、本来“被害者”であるはずのベネッセも責任を問われ、その対応に多額の費用を費やしています。
今回の佐賀銀行の事件でも、もし、預金者リストを基にして預金者が窃盗被害等にあってしまった場合には、単に佐賀銀行だけの問題に終わらず、佐賀銀行の道義的な責任が問われるかもしれません。

しかしながら、今回の事件やベネッセの事件もそうですが、営業秘密を不正取得する犯人は多くの場合で内部の人間です。
どうやったらこのようなことを防げるのでしょうか?
一つとしては、“社員教育”だと考えます。また、社内の管理体制を従業員に周知し、もし、営業秘密を不正取得した場合にはそれが発覚することを理解してもらうことが必要かと思います。
今回の佐賀銀行の事件でも、犯人である元行員が預金者リストにアクセスした履歴が残っていたようです。犯人はアクセスログが残ることを理解していたのでしょうか?
そして、佐賀銀行はアクセスログが残ることを従業員に周知していたのでしょうか?もし、周知していなかったのであれば、その管理体制の不備が指摘されても致し方ないと思います。

このように、営業秘密の流出、特に顧客情報や取引先に関する情報の流出は、被害者であるはずの流出元企業の管理責任が問われかねない場合があり、このことは既に広く知られているかとも思います。
では、実際に管理体制が整っている企業は果たしてどの程度あるのでしょうか?
この疑問に対して、最近興味深い調査結果が公開されています。
これは次のブログで。

2017年9月12日火曜日

新潮と文春の中吊り広告に関する問題の顛末

このブログを始めたころに、新潮と文春との間で中吊り広告に関する問題が起きました。
具体的には、「印刷会社から取次会社に渡された週刊新潮の電車中刷り広告を文春が取得し、使用したのでは?」というものです。

営業秘密にも絡んでそうな話題だったので、本ブログでもこれに飛び着き、下記のように複数回記事にしています(その1は殆ど関係ない話題です。)。

参考過去ブログ:
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その2
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その3
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その4
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その5
週刊新潮の「『文春砲』汚れた銃弾」その6(まとめ)

私としては、中吊り広告が取次会社でも“秘密管理”されていない限り、新潮は営業秘密の侵害という不法行為を文春に問うことはできないと考えています。



そして、この問題に関しては、文藝春秋の社長が新潮社を訪れ、謝罪文書を手渡すことで、一件落着したようです。
参考:NHKニュース
問題発覚が5月ですが、文藝春秋もこれまで放置していたわけではなく、おそらく新潮社が納得いくような落としどころを互いに模索していたのではないでしょうか?

ニュースを見る限り、「中吊り広告を長期にわたり借り受け」とのように、違法行為とは取られないような表現を使っているところが面白い、というか常套手段ですね。
また、このニュースでは、「週刊新潮が同じような内容の記事を掲載することを知りながら、あたかも週刊文春の独自スクープであるかのような速報をWEBサイト上で先に流した事例があったことを認め、これについても謝罪しています。」とも報じられているように、文藝春秋が全面的に非を認め謝罪しています。

このように、他社の情報を不正に取得した場合は、例え、民事や刑事事件に発展しなくても、朝日新聞出版の件でもあったように、社を挙げての謝罪に追い込まれる可能性があります。
いや、民事・刑事事件に発展させないために、謝罪するのかもしれません。

一昔前は、他社が秘密にしている情報を取得し、それを利用することが当たりまえであり、従業員もそれを求められていたかもしれません。
しかしながら、今の時代では、他社が秘密にしているであろう情報を容易に取得できる状況にあっても、それを取得して利用することは許されないことであることを各企業,
特に経営層は認識するべき事項であると思われます。

2017年9月7日木曜日

営業秘密が流行るタイミング

最近、営業秘密に関する古い本をネットでいくつか購入しました。
1冊200~300円のものを数冊。
古い書籍は、当然現在の法改正に対応していないものの、それを理解していれば、情報を“安く”仕入れることができます。
また、営業秘密が法的に保護されるようになった当時の状況も知ることができるかな?との思いもあり、購入しました。

そこで気が付いたこと。
10年ぐらい前にも「営業秘密」がちょっと流行ったんだな、ということ。
10年前というと、2006年前後ですが、このころは、平成15(2003)年法改正によって営業秘密の刑事的保護が規定され,平成17(2005)年法改正により営業秘密の刑事的保護が強化されてます。さらに、法改正に合わせて、営業秘密管理指針が一部改訂されてます。
これに合わせて出版されたと思われる書籍が複数ありました。

ちょうど、平成27年の不競法の法改正によって、営業秘密の刑事的保護がさらに強化され、営業秘密管理指針が全部改訂になったときと同じ感じですね。
このときも、営業秘密に関する書籍が多く出版されていると思います。
私も平成27年の法改正から営業秘密に興味を持った一人ですが・・・。

しかしながら、企業における現在の知財管理の状況を鑑みるに、10年前の“流行”では、営業秘密管理はさほど浸透しなかったようですね。
下記図のように、10年ちょっと前から既に特許出願件数は減っていますが、これは2000年前後の特許出願の“流行”の反動もあったでしょうから、企業が積極的に技術を非開示する傾向ではなかったのかもしれません。
また、転職も今ほど多くはなかったかもしれませんし、派遣社員や契約社員の数も今ほど多くなかったはずです。


しかしながら、10年前と現在とでは、雇用状況も異なりますし、特にリーマンショックを機に特許出願件数がさらに減少していることを鑑みると、企業が秘密とする情報量も多くなっているはずです。
さらに、大容量記憶媒体の性能向上・低価格化、ネットワークの通信速度の向上等、サイズの大きなデジタルデータを容易に持ち運べるようになっています。

これらのことから、現在は10年前に比べて、営業秘密を持ち出される又は持ち込まれるリスクが全く違うと思われます。
そして、営業秘密に関する対応を適切に行っていない企業は、トラブルに巻き込まれる可能性が必然的に高まるのではないでしょうか。