2017年11月29日水曜日

営業秘密の有用性判断の主体は?続き

前回のブログの続きです。
営業秘密の有用性判断の主体は誰なのかを中心に考えます。

そもそも、このことを考えている理由は、営業秘密であっても技術情報は経営情報に比べてその有用性が認められ難いのではないか?という疑問から生じています。

例えば、経営情報の一つである顧客リストは、商業的にも重要であることは直感的に想起されるため、その有用性を否定することは相当難しいと考えられます。

一方、技術情報は、特許公報を含む公知公用の技術が溢れていますので、これらの公知情報に基づいて、特許の進歩性判断のように、その有用性を否定するロジックを客観的に組み立て易いとも考えられます。そして、裁判所の判断においても、「設計的事項」であるとしたり、従来に比べて「格別」や「特段」の作用効果が認められないために、その有用性を否定する判決(下記判決)が出ています。

・大阪地裁平成20年11月4日判決 発熱セメント体事件
・知財高裁平成23年11月28日(一審:東京地裁平成23年3月2日判決)小型USBフラッシュメモリ事件
・大阪地裁平成28年7月21日判決 錫合金組成事件


もし、このような裁判所の判断が一般的になってしまうと、秘密管理している技術情報が漏洩され、他社に使用されたとしても、場合によってはその技術情報の有用性が簡単に否定され、被害企業が救済されないことが多発していまうのではないかと危惧します。

このため、前回のブログでは、秘密管理されている情報に関しては、その保有者が有用性が有ると考えるからこそ秘密管理しているのであるから、技術情報や経営情報にかかわらず、基本的にその有用性を認めるべきではないか、すなわち、営業秘密の有用性の判断主体は営業秘密の保有者とすべきではないかと述べました。
しかしながら、営業秘密の不正取得や不正使用等が民事的・刑事的責任を課すものであることからも、営業秘密の保有者の主張に沿って無尽蔵に有用性を認めることには無理があるように思えます。

そこで、有用性を認めるべきではない例外もあるでしょうから、その例外について以下では考えてみようと思います。


まず、公序良俗に反する情報は、全部改定された営業秘密管理指針の「有用性の考え方」に記されているように、有用性がないと考えられます。これは当然のことでしょうから、反論の余地はないかと思います。営業秘密の有用性が公序良俗に反するか否かの判断主体は、営業秘密の保有者ではなく、当然、第3者であると思います。

ー営業秘密管理指針 「有用性の考え方」ー
「(1)「有用性」の要件は、公序良俗に反する内容の情報(脱税や有害物質の垂 れ流し等の反社会的な情報)など、秘密として法律上保護されることに正 当な利益が乏しい情報を営業秘密の範囲から除外した上で、広い意味で商業的価値が認められる情報を保護することに主眼がある。 」

では、保有者が営業秘密としていた情報の理解が間違っており、保有者があると思っていた効果効能が全く無い場合にはどう考えるべきでしょうか?

技術情報ならば、例えば、技術的な理解が間違っているために、その技術を実施しても明らかに当初期待していたような効果が得られない技術情報や、永久機関等のそもそもあり得ない技術情報等がそれに該当すると考えられます。
なお、全部改定された営業秘密管理指針でも「ネガティブ・インフォメ ーション(ある方法を試みてその方法が役立たないという失敗の知識・情報)」はその有用性があるとされており、そのような技術情報とここでいう有用性が認められない技術情報は分けて考える必要があるかと思います。
さらに、経営情報(顧客情報)ならば、女性用化粧品に対して男性の情報しかない顧客リスト等でしょうか?(男性が女性に化粧品をプレゼントすることは当然考えられるので有用性が有るともいえる気がしますが・・・。)

第三者の立場からすると、このような情報には有用性がないと考えられます。その理由は、このような情報には、商業的価値がないと考えられるからです。さらにいうなれば、商業的価値がない情報は、漏洩したとしても、営業秘密の保有者に損害が発生することはないでしょう。

すなわち、秘密管理されている情報であっても、客観的に判断して明らかに商業的価値がない場合には、その有用性を認めないと考えられ、この「明らかに商業的価値がない」ことの判断主体は第3者とするべきではないでしょうか。

このように、第三者によって「明らかに商業的価値がない」と判断される情報は、有用性がないとする一方、「明らかに商業的価値がない」とされず、その情報の保有者が有用性あると主張している情報は、裁判所でも有用性を認めてはどうでしょうか?

これにより、技術情報の有用性の判断において、その「作用効果」が判断基準とされず、商業的価値の有無が判断基準となるかと思います。商業的価値には、直接及び間接的なものも含み、金銭的な価値だけでなく、企業イメージの向上等も含まれると考えます。
換言すると、情報に商業的価値があるからこそ、その情報の保有者は秘密管理するのではないでしょうか。
また、情報の商業的価値を有用性の判断基準とすることで、技術情報の有用性判断に技術論が介在する余地が小さくなり、技術情報も経営情報と同様の判断が可能になるのではないでしょうか?

今のところ、私はこのように考えますが、今後の判決や私の営業秘密の理解が進むことによって変わるかもしれません。また、営業秘密が技術情報である場合の有用性判断は、弁理士との親和性も高いかと思うので、今後も検討を続けたいと思います。そもそも、営業秘密における有用性の判断に関しては、検討している人がほとんどいませんしね。

2017年11月27日月曜日

営業秘密の有用性判断の主体は?特許の進歩性判断との対比

私は営業秘密の有用性、特に技術情報の有用性について、裁判所が誤った判断を行っている例があるのではないかと過去のブログ記事で述べています。

過去のブログ記事:営業秘密の3要件:有用性 -特許との関係-
過去のブログ記事:営業秘密の3要件:有用性-特許との関係- その2 

そこで、さらに、営業秘密の有用性判断をその主体から考えてみました。

営業秘密における有用性の有無を判断する主体は誰なのでしょうか?
営業秘密の保有者でしょうか?それとも第三者でしょうか?

なお、全部改定された営業秘密管理指針の「有用性の考え方」において、下記のように記載されているように、技術情報における営業秘密の有用性と特許の進歩性については無関係のものであるとされています。

ー営業秘密管理指針 「有用性の考え方」ー
「(3)なお、当業者であれば、公知の情報を組み合わせることによって容易に 当該営業秘密を作出することができる場合であっても、有用性が失われる ことはない(特許制度における「進歩性」概念とは無関係)。 」

しかしながら、営業秘密管理指針にこのように記載されているからといって、必ずしも裁判所が営業秘密の有用性を特許の進歩性の概念とは無関係のように判断するとは限りません。

ここで、特許における進歩性の判断主体は誰でしょうか?
特許庁の特許・実用新案審査基準に記載されているように、進歩性の判断主体はその技術分野に属する当業者であると考えられています。

ー特許・実用新案審査基準 第2節 進歩性 3 進歩性の具体的な判断ー
「審査官は、先行技術の中から、論理付けに最も適した一の引用発明を選んで 主引用発明とし、以下の(1)から(4)までの手順により、主引用発明から出発し て、当業者が請求項に係る発明に容易に到達する論理付けができるか否かを判 断する。」

特許庁の審査官、審判官や裁判所の裁判官等は、この当業者の立場に立って、請求項に記載の発明の進歩性を判断していると考えられます。

なぜ、特許の進歩性判断の主体は第三者である当業者なのでしょうか?
その理由は、特許権が独占排他権を有する強い権利であるからでしょう。
ある技術が特許権を取得されている場合、その特許権の存在を知ってようが知るまいが、その特許権に係る技術を実施している者は特許権侵害となり、特許権者から差し止めや損害の賠償を求められることになります。


一方で、営業秘密の保有者は、独占排他権を得ることはできません。
営業秘密を不正の手段で取得した者や、営業秘密を正当に取得した者であっても不正の利益を得る目的等で使用・開示した者に対して権利行使をできるに留まります。このように営業秘密は、特許権のように特許請求の範囲に記載の技術を実施している者(第三者)に対して権利行使をできるものではありません。

すなわち、営業秘密の権利行使に関して、営業秘密を有用であると考える者は第三者は含む必要はなく、営業秘密の保有者と当該営業秘密を取得した者だけで良いのではないでしょうか?
さらに、営業秘密は大別して技術情報と経営情報(営業情報)に分けられます。
営業秘密が経営情報である場合には、その有用性判断の主体を“当業者”とすることは根本的に難しいと考えられます。
例えば、営業秘密が顧客リストである場合を想定すると、その顧客リストを使用する当業者(第三者)が、その顧客リストを使用することで顧客を多く獲得できれば有用性があると判断し、顧客を多く獲得できなければ有用性がない、とのように客観的に判断することは難しいでしょう。
そのように考えると、営業秘密を経営情報とした場合、その有用性判断の主体は営業秘密の保有者と考えるべきではないでしょうか。

そして、もし、営業秘密を技術情報とした場合にその有用性判断の主体を当業者とする一方で、営業秘密を経営情報とした場合にその有用性判断の主体を営業秘密の保有者とすると、同じ営業秘密でありながらその属性によって有用性の判断主体が異なることになります。
しかしながら、有用性の判断主体を営業秘密の属性によって異ならせることに合理的な理由が無いように思えます。また、例えば、新製品の新技術を前面に押し出した経営戦略の内容といったように、技術情報と経営情報とを明確に分けることが難しい営業秘密もあるかと思います。
そうすると、やはり営業秘密の有用性判断の主体は、営業秘密の保有者と考えるべきではないでしょうか。すなわち、営業秘密とされた情報は、保有者が有用であると考えるからこそ営業秘密とするので、例外を除いて、必然的に有用性を有していると裁判所は判断するべきではないかと考えます。

次回は、有用性が認められない例外事項について考えてみたいと思います。

2017年11月24日金曜日

米企業ウーバーの個人情報流出事件から考えること

先日、米企業のウーバーが保有する5700万人もの個人情報がハッカーによって 不正取得され、あろうことかそれを隠ぺいするためにハッカーに10万ドルを支払っていた、という驚きの報道がありました。まさに、盗人に追い銭!!

ウーバーが保有していた個人情報は、当然、秘密管理されていたものでしょうから、ハッカーによる個人情報の不正取得は、日本の不競法でいうところの営業秘密の不正取得に他ならないでしょう。

すなわち、ウーバーは営業秘密を不正取得された被害企業であるにもかかわらず、考えられる得る限り、最悪の対応をしたと思われます。

なお、日本において個人情報を保有する企業は、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)に基づいて、適切に管理する義務を有しているようです。

<個人情報保護法>
(安全管理措置)
第二十条 個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
(従業者の監督)
第二十一条 個人情報取扱事業者は、その従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。
(委託先の監督)
第二十二条 個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

このため、個人情報が漏洩した企業は、個人情報保護法に基づいて管理義務違反にも問われるようです。

また、たとえ、ハッカーによる不正行為といえども、個人情報を漏洩させたことは当該企業にとっては、道義的にもその管理責任を問われることになる問題かと思います。
このため、国内外の企業にかかわらず個人情報の漏えいがあった場合には、その理由の如何を問わず、即座に公表して対応することは、素人でも分かることです。
その典型的な事例がベネッセの個人情報流出事件でしょう。



ところで、ウーバーはなぜ個人情報漏洩に関して、このような最悪と思われる手段を取ったのでしょうか?そのような悪手を止めることが誰もできなかったのでしょうか?

ウーバーは何かとお騒がせな企業というイメージもありますし、下記の報道には「ウーバーは法令を軽視し、事業展開の速さを優先する企業文化で急成長してきたが、そのツケを払わされている格好だ。14年の個人情報流出時も開示が遅れ罰金を科されていた。」ともあります。企業の体質なのでしょうか?
・ウーバー、5700万人分個人情報流出の隠蔽発覚 16年 (日本経済新聞)

また、「14年の個人情報流出時も開示が遅れ罰金を科されていた。」とのことですから、そもそも、情報流出時の対応が予め策定されていないのかとも思います。
その結果、一部の者の判断でハッカーに追い銭を渡すなどという普通では考えられない対応を取るに至ったのでしょうか?
「サイバーセキュリティー担当トップら幹部2人を解任」ともありますので、一部の者の勝手な判断なのでしょか?
それとも、こらはトカゲのしっぽ切りであり、会社としての判断だったのでしょうか?

ここで、どんな対策をしようが、営業秘密等の情報流出を100%防ぐことは不可能です。ミスによる流出もありますし、従業員による悪意のある流出やハッカーによる流出もあります。
しかしながら、情報流出が起きた場合に、どのような対応を取るかを予め決めておけば、個人の勝手な判断等、誤った判断を防ぐことも可能かと思います。
そもそも、情報流出は普通であれば頻繁に生じることではありません、そのため、対応策を予め策定しておかなければ、情報流出が起きた場合の対応を迅速に取ることはできないとも思えます。特に、個人情報の流出の場合には、例えばカード情報等が流出した場合には、一刻を争う事態です。
言うなれば、情報流出の対応策は、防災対策のようなものとも考えられます。

情報は、企業にとって資産でもありますが、情報の流出可能性を考えると逆にリスクにもなり得るかと思います。例えば、企業が管理する個人情報が流出した場合は顧客に対する対応に費用や労力を要するというリスクになり、技術情報が流出した場合は他社に自社技術を模倣されて自社の価値が毀損するというリスクになるかと思います。
また、不正に取得された他者の情報が流入する場合も、自社の信用を失墜というリスクがあるとも考えられます。

このようなことを考えると、営業秘密管理とは情報管理とリスク管理の組み合わせとも思えます。 

2017年11月22日水曜日

営業秘密の不正取得と株価との関係

営業秘密の不正取得は当該企業に対する株価にも影響する可能性が有ります。

例えば、2017年の8月4日(金)にフューチャーから民事訴訟の提起を報道されたベイカレント(マザーズ)は、下記表1に示すように、週明けの7日(月)にはストップ安となるまで値を下げています。出来高も非常に多くなっていることを鑑みると、ベイカレントの株主の多くが敏感に反応したことを示していると思います。
ベイカレントとフューチャーとの民事訴訟の報道は、大手企業の営業秘密に関する報道に比べて扱いが小さかったと思いますが、株価は大きく反応しています。

参照:過去の営業秘密流出事件
参照:ヤフー「ベイカレント---一時ストップ安、フューチャーが損害賠償求め民事訴訟

表1

始値
高値
安値
終値
出来高
2017年8月8日
1,631
1,678
1,623
1,663
697,200
2017年8月7日
1,782
1,830
1,619
1,619
1,779,500
2017年8月4日
2,082
2,132
2,069
2,119
116,200
2017年8月3日
2,118
2,134
2,075
2,100
196,600

このように、民事訴訟の報道が株価に大きく影響していることが分かります。営業秘密の不正取得で訴訟を提起されることは、悪材料以外何者でもないでしょうから値を下げることは当然といえば当然です。
一方、フューチャーはこの訴訟提起によって株価は影響を受けていないようです。


また、日本ペイントの元執行役員が菊水化学へ転職する際に、日本ペイントの営業秘密を持ち出し、菊水化学で開示・使用した事件に関して、下記表はこの事件が報道された前後における菊水化学(東証2部)の株価変動です。
表2は、菊水化学の役員(日本ペイントの元執行役員)が逮捕された報道(2016年2月16日)があった前後の株価です。
表3は 、日本ペイントが菊水化学に対して民事訴訟を提起したリリース(2017年7月14日)がなされた前後の株価です。

逮捕報道があった翌日は、株価は終値で前日の12余り下落しています。出来高も前日の75倍にもなっており大商いだっだと考えられます。
出来高に関しては、19日になっても16日の14倍以上のままですから、この逮捕報道に対して株価の反応が非常に大きかったように思えます。

また、民事訴訟のリリースがあったときは、逮捕報道ほどではないですが、市場は反応していると考えられます。株価の変動は3%減なので通常の変動幅内とも考えられますが、出来高が4倍近いことを鑑みると、民事訴訟のリリースに反応した株主も多かったように思えます。

参照:過去の営業秘密流出事件
表2

始値
高値
安値
終値
出来高
2016年2月19日
408
409
399
400
53,600
2016年2月18日
416420395401159,700
2016年2月17日
404419402405284,300
2016年2月16日
4584684424603,800
2016年2月15日
4554554304468,100

表3

始値
高値
安値
終値
出来高
2017年7月19日
43543943243521,500
2017年7月18日
44144443343542,300
2017年7月14日
44745044544712,100
2017年7月13日
44945144444913,200

このように、営業秘密を不正取得した企業の株価は、その報道等がされた翌日には株価が下落しています。
この下落は、短期的なものであり、しばらくすると持ち直しているようですが、株価的にも決して良いことではありません。
また、菊水化学のように逮捕報道の後に民事訴訟の報道がなされると、一つの事件で2度に渡り株価下落の要因となり得ます。

また、マザーズに上場しているベイカレントと東証2部に上場している菊水化学を比較すると、ストップ安にまでなったベイカレントのほうがより市場が敏感に反応しているとも考えられます。ベイカレントの事件のほうが報道の扱いが小さかったにもかかわらずです。

この理由は、新興市場に上場している企業のほうが企業規模も小さいため、当該企業の経営や業績に与える影響が大きいと判断した人が多かったと考えられるためではないでしょうか?
一方、企業規模が大きいと、営業秘密の不正取得による影響が相対的に小さいため、株価の下落幅が小さい買ったとも考えられます。
そうすると、新興市場に上場しているような企業規模の小さな企業ほど、営業秘密の不正取得、すなわち他社営業秘密の流入を防ぎ自社が加害企業とならないようにする対策を取らないと、万が一の場合に株価にも大きな影響を与えかねないとも考えられます。

2017年11月20日月曜日

営業秘密とする情報の特定

たびたびこのブログでも述べていますが、営業秘密とする情報は明確に特定されなければなりません。例えば、文章やリスト、図面等で営業秘密とする情報を特定します。
営業秘密とする情報を明確に特定できないと、秘密管理もできるわけがありません。

しかしながら、営業秘密を特定しないまま、訴訟に臨む原告もいます。
それも、少ない数ではなく、それなりの割合でいます。
おそらく、原告は、気持ち優先で訴訟を起こしているのではないでしょうか?
その結果、原告が不正に取得されたとする営業秘密が特定できないと裁判所に判断され、当然ながら、秘密管理性、有用性、非公知性の判断もないまま原告敗訴となります。

このようなことに陥らないためにも、営業秘密とする情報は予め明確に特定し、秘密管理しなければなりません。
そもそも、営業秘密とする情報を特定しないと、その情報が不正に取得されたか否かも分かりません。


ここで、営業秘密として情報を管理することの付随的な効果として、自社が保有する情報の整理及び再認識ができる、ということがあると思います。
特に今から営業秘密管理について取り組もうとする企業にはその効果が大きいと考えます。

もしかすると、「自社には営業秘密なんてないよ」と思っている人もいるかもしれません。
しかしながら、他社に知られたくない情報を持っていない企業はあるのでしょうか?
営業秘密として管理しない情報は、裏を返すと「誰もが自由に持ち出して構わない情報」とも解釈できるかもしれません。
例えば、自社の顧客情報は?これを競合他社に知られても良いのでしょうか?
見積もりは?他社から製品や材料等を購入する場合の購入情報は?
自社製品の図面は?化学系や食品系の製造製品の材料配合は?
自社が培ってきたノウハウは?

どの企業も、何かしら他社に知られたくない情報が必ずあるはずです。
そのような情報の中には、他社に対する優位性を示す情報も含まれている可能性が高いと思います。
特に、技術系の会社では、自社が有する技術情報を今一度見直すことによって、他社よりも優れていると考えられる情報があるはずです。
そのような情報は、営業秘密として管理するべきではないでしょうか?
営業秘密とする情報の洗い出しを行うことによって、自社の強みが再認識するきっかけとなるのではないでしょうか。
 

2017年11月17日金曜日

面白かった記事 競業避止義務と営業秘密の流出防止

営業秘密に関する面白かった記事がありました。
うかつに転職したら訴訟沙汰に! 「競業避止義務」と「職業選択の自由」の境界線」という記事であり、筆者の橋本愛喜さんは、自身も町工場の経営をされていたようですね。

記事の内容は町工場の従業員の退職に関し、有能な従業員に対する競業避止義務についてですが、当然、営業秘密も絡む話です。
一見ありがちな話題ですが、実際に町工場の経営をされていた方の記事なので、経営者の悩みを感じ取ることができるかと思います。

私もそうですが、営業秘密だの何だの言っている人の多くは会社経営をしたことはないかと思います。だからこそ、客観的な意見を言えるのかもしれませんが、教科書的な理想論ばかりで実際の現場では出来ないことを言ってしまいがちかなとも思います。

例えば、競業避止義務契約についてはどうでしょうか。
営業秘密等の漏洩防止策の一つとして、就業規則等で競業避止義務を従業員に課しても、その従業員が競合他社へ転職した場合に何ができるのでしょうか?
転職先企業に対してその元従業員を解雇させることもできないし、退職金を返還させるにしても、そのために訴訟を起こす手間や費用が大きすぎペイしないでしょう。しかも、訴訟を起こしたとしても認められない場合も多々あります。
そうすると、営業秘密の漏洩防止のために、競業避止義務を従業員に課すことは現実的ではないとも考えられます。
上記記事からは、そのような経営者の悩みを感じ取れます。


さらに、従業員個人が有する技能、町工場なら例えば溶接や板金、塗装等の技術は、文言等で表すことは難しいことが多く、このため営業秘密として特定し難いと考えられます。そして、この有能な技能を自社で培った従業員が競合他社へ転職することは、経営者なら何とかして阻止したいでしょう。

しかしながら、いきなり前言撤回ですが、個人の技能は本当に営業秘密とできないのでしょうか?
その技能が、例えば、特定の装置の特定の使い方(入力する設定値等)に基づくものであったり、複数の装置の組み合わせ方に基づくものである場合には、その装置の使い方や組み合わせ方を営業秘密とできるかもしれません。
装置そのものは当然公知のものと考えられますが、特定の使い方は公知でないかもしれません。その装置のメーカーも想定していない使い方によって、想定していた以上の能力を装置が発揮する場合もあります。
このような場合には、装置の特定の使い方や組み合わせ方を営業秘密として管理することによって、退職者である個人の技能にある意味制限をかけることもできるのではないかと考えます。

すなわち、自社が有する技術に関して、今一度見直すことは重要かと思います。
自社の技術が離職者と共に他社に流出することをどのように防ぐか?
営業秘密として管理できる技術は秘密管理し、それを離職者に認識してもらい、技術流出を可能な限り防ぐことを検討してはいかがでしょうか?

2017年11月15日水曜日

ビジネスを行う上で意外と重要?不競法2条1項10号

不競法の平成27年度改正において、2条1項10号が追加になりました。
この規定は、営業秘密侵害品が広く流通している可能性があることから,米国等の諸外国の制度を踏まえ,営業秘密侵害品の譲渡等の規制を行うことにより営業秘密侵害に対する抑止力を向上させることを意図し,平成 27 年改正で新たに創設 された規定です(経済産業省:逐条解説 不正競争防止法)。

この改正後の10号の条文は、下記のものです。

「第四号から前号までに掲げる行為(技術上の秘密(営業秘密のうち,技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)を使用する行為に限る。以下この号において「不正使用行為」という。)により生じた物を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為(当該物を譲り受けた者(その譲り受けた時に当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず,かつ,知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)が当該物を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,又は電気通信回線を通じて提供する行為を除く。)

ここで、上記条文で特に重要だと思う部分は、下線部分の括弧書きの内容です。
この下線部分で規定されていることは、営業秘密侵害品の譲渡を受けた者が、営業秘密の侵害があったことを知って又は重過失により知らずに、その営業秘密侵害品をさらに譲渡等(販売等)した場合、この者も営業秘密の不正使用となります。
換言すると、営業秘密侵害品の譲渡を受けた者であっても、当該製品に営業秘密の侵害があったことに対して善意無重過失である場合には、その者は営業秘密の不正使用にはなりません。

ここでいう重過失とは、経済産業省:逐条解説 不正競争防止法には、「例えば,自社の取り扱う商品について,保有者の営業秘密の内容や侵害の状況等が具体的 に記載された上で営業秘密侵害品である旨を指摘する警告状を受理したにもかかわらず,何ら 調査を行わないままに当該商品の譲渡を行う場合,重過失が認められる可能性があるものと考 えられる。」とあります。


他社が製造販売したものを、さらに他者に販売するような小売業において、この条文は重要かと思います。また、自社の製品に、他社が製造販売した機器を組み込んで販売する業種もこの条文は意識する必要があると思われます。

他社の製品が特許侵害品であるか否かは、その製品を購入した企業が自身で特許調査を行うことで判断できます。しかしながら、他社の製品が営業秘密侵害品であるか否かは、その製品を購入した企業が自身で調査することはまず不可能です。営業秘密は非公知のものなので当たり前ですね。

では、他社から製品を購入し、さらにそれを販売する企業(以下「製品購入企業」といいます。)はどうするべきか、購入する製品が他社の営業秘密を不正使用していないことの誓約を取るべきでしょう。このような誓約を当該製品の売買契約書等に含ませることが考えられます。

なお、経済産業省:逐条解説 不正競争防止法には、「この悪意又は重過失の主観要件は,裁判等においては,原告(被害者)側で主張・立証す べき請求原因事実である」とあります。
このことからすると、製品購入企業が、もし営業秘密侵害品を購入し、販売したとしても、実際に営業秘密の不正使用について悪意・重過失でないならば、上記誓約を取る必要もないかと思います。もし、裁判となっても、悪意・重過失の立証は原告(被害者)が行うべきものであり、製品購入企業が本当に悪意・重過失でないならば誓約の有無に関係なく、その原告は、製品購入企業の悪意・重過失を立証できるわけがないのですから。

しかしながら、取引企業との間で、随時このような営業秘密に関する誓約等を取り付けることで、自社は営業秘密に関する意識が高いということのアピールにもあるかと思います。
個人や企業において、未だ営業秘密に対する意識が低いところが多々あるかと思います。そのような企業と取引を行うと、もしかすると自社が不要な争いに巻き込まれるかもしれません。
おかしな表現かもしれませんが、取引企業に対して営業秘密の教育を行うといった意味でも、随時、営業秘密に関する誓約を取ることは意味のある事かと思います。
そして、それが結果的に自社を守ることになるかと思います。

2017年11月13日月曜日

ブログを始めて半年経過

このブログ「営業秘密ラボ」を始めて半年が経過しました。
ほぼ週に3回程度のペース、月水金で更新しています。
案外ネタは尽きませんね。

アクセス数に関しては、セミナーを行う際に他の媒体等によって告知させて頂いたこともあって3カ月前に比べて増加していますが、上記告知によるピークがあり、最近はピーク時に比べて多少は減少しています。
しかしながら、ピーク時は一見さんも多かったでしょうから、今もこのブログを見てくださる方は営業秘密に強い興味を持っている方々なのかなとも思います。
また、ブログ記事の数も増えてきているので、検索サイトからこのブログに辿りついている方も増えているようです。

ブログ記事毎のアクセス数に関しては、途中でブログの表示方法を変更したりしたので、一概にどの記事のアクセス数が多かったかは分かりませんが、セミナーの告知記事である「10月17日に横浜で営業秘密セミナーを開催します。」が群を抜いてアクセス数が多かったんですね。このセミナーには皆さん興味を持って頂けたようです。


そして、ブログ記事ではないですが、「営業秘密 非公知性」や「営業秘密 有用性」で検索すると、意外なことに私がパテント誌に寄稿した「営業秘密における有用性と非公知性について」がかなり上位に現れています。
私のブログからアクセスした人が多いのか?それとも別ルートでアクセスしてた人が多いのか?それは分かりませんが、嬉しい驚きです。
私の寄稿に限らず、パテント誌にアクセスしている人は案外多いのでしょうか?
パテント誌は、掲載記事をpdf化して日本弁理士会のホームページで公開しているので、自身の論文等を他の人に見てもらうには良い媒体であることに気づきました。会員以外にも閲覧できるように、ネットで掲載記事を公開している知財関係の雑誌は少ないですからね。

また、ブログ記事の写真が良いという方も複数人いらっしゃいました。
これも意外な反応です。ちなみに、山の写真は上高地であり、お寺の写真は鎌倉のお寺です。

今後は、今までのように営業秘密に関する情報発信や自身の考察等に加え、このブログは営業秘密に関するサービスのビジネス化の足掛かりの側面もあるので、サービス内容の紹介も積極的に行っていきたいと思っています。

2017年11月10日金曜日

営業秘密における管理職の役割

秘密情報の視点から考えると、管理職は人を管理する他に情報を管理する役割も今後重要になるかと思います。

営業秘密は、まさに情報そのものです。
どの情報を営業秘密とするのか、営業秘密は適切に管理されているのか、営業秘密が何時どこで使われたのか。
こういったことは誰かが把握しなければならないかと思います。
では誰が把握するのか?
やはり各部の上長である管理職の方でしょうか?

また、自身の所属部で、他社の営業秘密と思われる情報が開示されている場合には、その出所を特定することです。もし、その情報が不正の目的等で社内に持ち込まれていたのであれば、開示も使用もしてはいけません。また、その営業秘密が他社から提供されたものであれば、社内での開示・使用の態様が適正であるかも確認する必要があるでしょう。


さらに、重要と思われることが転職してきた人の業績管理。
業績の悪い転職者に対応するのではなく、業績が良い転職者にアンテナを張ります。
転職者が転職後すぐに素晴らしい結果を出した場合、例えば、新規顧客を次々に獲得や、新しい技術開発に成功等した場合、その要因を探ることが必要かとも思います。
その転職者の個人的資質・能力によるものであれば当然素晴らしいことですが、もし前職企業の営業秘密を持ち込んで使用していたとなれば大事です。
すぐに、その使用を止めさせる必要があります。
判例でも、技術開発についてその開発期間が短いことを鑑み、被告による原告の営業秘密の使用が推認された例(大阪地裁平成15年11月13日判決 セラミックコンデンサー事件、等)があります。

さらに、営業秘密の漏洩は内部犯行ですので、犯罪学者であるCornish & Clarke が提唱している内部不正防止の基本原則の一つ「犯行の誘因を減らす(その気にさせない)」を実行するために、公平な人事評価、適正な労働環境等を整える必要もあるでしょう。

このように、管理職は(1)自社営業秘密の管理、(2)他社営業秘密の管理、(3)営業秘密の視点からの転職者の業績管理、(4)不正を行わせない社会環境の整備、を行う必要があると考えます。

ところで、自分で書いていて言うのも何ですが、管理職がこれだけのことをやるのは大変ですね。
管理職の方は、営業秘密管理に付きっきりなわけもなく、他に多くの業務をこなしながらのことです。はっきり言って、管理職に、上記のことを全て実践することは不可能に近いかもしれません。

しかしながら、その中でも実行して頂きたいことが、「(2)他社営業秘密の管理」と「(3)転職者の業績管理」です。(1)と(4)は誰かに任せてもよいかもしれませんし、会社全体のこととして考えるべきかとも思います。
しかしながら、(2)と(3)は、現場の管理職以外の誰かに任せることはできないのではないでしょうか?

営業秘密が有する大きなリスクとして、ブログ記事「営業秘密の流入リスク」でも述べたように、他社営業秘密の流入リスクがあります。
上記(2)と(3)を実行することで、他社営業秘密の流入リスクを低減することができるかと思いますし、特に(3)に関しては、通常行われている業績管理の延長にあるものとも考えられます。また、(2)に関しても自身の所属部における他社情報を管理することは当然のことともいえるでしょう。

このように、今後の管理職には、今まで以上に「情報」に敏感となることが要求されるかもしれません。

2017年11月8日水曜日

営業秘密とする技術と特許出願する技術との線引き

技術情報を営業秘密として管理するか、又は特許出願とするかで悩む場合があるかもしれません。
では、どのような基準で技術情報を営業秘密とするか特許とするかを分けるべきでしょうか?

判断基準の一つは、その技術を公知とするべきか否かであると思います。
非公知とするのであれば営業秘密とし、公知となっても良いのであれば特許出願も視野に入れることができます。
最近流行りの「オープン&クローズ戦略」に通じる考えですね。

ここで、営業秘密として管理することが難しい技術があります。
それは、消費者(顧客)が視認できる製品の外形や機械構造等の製品化すると必然的に公知となってしまう技術(技術思想)です。
これらは、市場に製品が出ると同時に公知となってしまうので、営業秘密の3要件のうち、「非公知性」を満たさなくなります。
非公知性を満たさなくなる技術は、営業秘密として管理するのではなく、特許出願(実用新案出願又は意匠出願)することを検討するべきかと思います。
一方で、製品が市場に出る前であれば公知となっていないので、その技術は営業秘密として管理可能ですし、特許出願等を行うのであれば営業秘密として秘密管理するべきものです。



なお、製品の外形等でも、その図面は営業秘密とできるのではないかと思います。
図面そのものは、非公知であり有用性を有していると考えられるためです。
しかしながら、判例では容易にリバースエンジニアリングできる技術は、非公知性を有しないとされています。

非公知性とリバースエンジニアリングとの関係については、下記ブログ記事や私の論文でまとめていますので、ご興味があれば見てください。
下記の記事等にも記載していますが、営業秘密における非公知性とリバースエンジニアリングとの関係は未だ判例が少ないため、明確でないように思えます。

・過去ブログ記事「営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング-
・過去ブログ記事「営業秘密の3要件 非公知性 -リバースエンジニアリング- その2
・パテント誌論文「営業秘密における有用性と非公知性について

また、特許で言うところの進歩性が認められ難い技術情報は、営業秘密として管理すべきかと思います。
例えば、工場の生産ラインの構成、食品や化学製品等の原料配合、プログラムのソース等、設計事項とされる技術であるものの、他社に知られたくない技術が営業秘密として管理する技術になるのではないでしょうか。

さらに、特許出願明細書に記載しなかった数値等、特許出願に関するヒアリングを弁理士と行った際に、「これはノウハウでしょうから明細書に記載するのはやめましょう。」とされた技術も営業秘密として管理するべきかと思います。

特に、特許技術に関連する技術情報(ノウハウ)は、ライセンスを意識するのであれば営業秘密として管理することは重要かと思います。
特許権と共にその技術をより確実に実施するためのノウハウも一緒にライセンスすることは一般的ですから。

また、特許は、存続期間が出願日から20年です。
この20年という期間は、長いようで短い気もします。この20年を過ぎると特許権は消滅し、その技術は誰でも使える技術となります。
特許出願と製品販売が同時にできている場合は少ないと思います。
例えば、特許出願から2~3年後に製品販売、略それと同時に特許権の取得。
その製品の市場優位性が分かるのにさらに1~2年とすると、特許権を取得していることによる利益は15年、審査の長期化等が生じるとそれよりも短いかもしれません。
その特許権が基礎技術に近いものであるならば、その技術を使った製品販売まで相当の時間を要するかもしれません。

一方、技術を営業秘密として適切に管理すると、独占排他権は半永久的に独占できるかもしれません。
例えば、コカ・コーラの製法やケンタッキーフライドチキンの製法等がとても分かりやすい典型例でしょうか。
このように、技術を営業秘密とするか特許出願するかの判断は、企業の事業スパンも考慮に入れるべきかと思います。

あまりまとまっていない気もしますが、技術情報を営業秘密とするか特許出願するかは、非常に難しい判断かもしれません。
この判断としてよくない判断は、営業秘密管理や特許出願を目的が明確でないまま漫然と行うことでしょうか。

私は知財業界においてこのような漫然とした判断が多々あるように感じます。
何のために特許出願を行うのか?自社実施のため?、他社排除のため?、社員のモチベーションアップのため?
営業秘密管理や特許出願はコストもかかり、マンパワーも要します。
営業秘密管理、特許出願の何れを選択する場合でも、最も重要なことはその“目的”は何かということではないでしょうか?

2017年11月6日月曜日

特許と営業秘密の違い

「特許法と営業秘密の違い」のページを新たに作成しました。

技術情報の管理の手法として、「特許出願による特許権の取得」と、「営業秘密として管理」するという2つの手法があると考えます。

そして、特許と営業秘密は多くの点で異なります。
大きな違いは特許はその技術が公に公開されることである一方、営業秘密はその技術が公には公開されないことであると考えられますが、その他、多くの点で違いがあると考えます。

その違いを項目立て示しています。
技術情報の管理の一助にして頂ければと思います。


2017年11月3日金曜日

営業秘密は弁理士にとってブルーオーシャン?

営業秘密に関するサービスが弁理士にとって新しい業務となり得ると私は考えています。
まあ、今更言わなくても、このようなブログをやったりセミナーを開催していますからね。

そもそも特許出願(実用新案、意匠含む)とは何でしょうか?
知的財産ですね。
しかし、もっと根源的なことを考えると、情報管理の一態様ではないでしょうか?
そして、営業秘密も知的財産の一つであり、情報管理の一態様ではないかと私は考えます。
では、弁理士としては、特に技術情報管理の一態様として、「特許出願」又は「営業秘密」の何れかとすることをクライアントに提案できると思います。
いまさら言わなくても、技術を「特許出願」を実行の有無の相談(コンサル)ならば多くの弁理士が行っていると思います。さらには、当該技術のどこまでを明細書に記載するかしないかの判断も弁理士ならば行っているはずです。

では、特許出願を行わなかった技術情報に対するケアを行っている弁理士はどの程度いるのでしょうか?
特許出願を行わなかった技術情報は、場合によっては「営業秘密」として管理するべきものではないでしょうか?
そして、「営業秘密」として管理する技術情報は、それを特定できるように文章化等の視認化が必要です。この技術情報の文章化は弁理士が最も得意とする業務ではないでしょうか?


上記グラフに示すように、国内の特許出願件数は右肩下がりである一方、企業の研究開発費はリーマンショック前にまで回復しています。
少々乱暴な考え方ですが、この特許出願件数の最大値と今の特許出願件数との差が営業秘密として管理するべき技術情報の数であるとも考えられます。
さらにいうと、特許出願件数が最大であった2001年前後よりも今の方が企業の研究開発費が多いのですから、営業秘密として管理するべき技術情報の数は、特許出願件数の差よりもさらに多いとも考えられるかもしれません。
そして、この特許出願されていない技術情報はどのように守られているのでしょうか?

おそらく、今後日本国内の特許出願件数は、増加することなく、ある程度まで減少し続けるのではないでしょうか。
そうなれば、企業としては、「特許出願を行わなかった技術情報をどのようにして守るか」という課題がより顕在化するはずです。
この課題に対しては、技術情報を「営業秘密」として管理する以外に答えはないと思います。

そして、「情報管理」というキーワードの元に技術情報を「特許出願」又は「営業秘密」の何れで管理するかという課題に対して、特に技術情報の特定(文章化)も含めると、確実に対応できる業種としては弁理士が最適であると考えます。
さらに、昨今の営業秘密漏えいに対する企業の意識が高まっている状況や、オープン&クローズ戦略なる言葉が唱えられ始めているいる現在、上記の需要は高まっていると考えます。

しかしながら、このようなサービスは、未だ行われていないのではないでしょうか?(私が知らないだけですでに行っている人もいるかもしれませんが。)

そうであるならば、営業秘密に関する業務は、特に弁理士による業務はブルーオーシャンなのではないかと思います。
いや、弁理士等の資格を有している者がこの業務に有利であるとも考えると、ブラックオーシャンかもしれません。


そう信じて、がんばりましょう。
実際には色々な難しさを感じる今日この頃です。

2017年11月1日水曜日

入札情報の漏洩って営業秘密の漏洩ではないの?

営業秘密の事件ではないようですが、埼玉の上尾市長と議長が入札情報を業者に漏洩して逮捕されています。
私も一時期上尾市に住んでいたことがあるのですが・・・。

2017年10月30日 埼玉新聞「<上尾入札汚職>上尾市長、議長ら逮捕 入札情報漏えいの疑い、ごみ処理巡りあっせん収賄も」
2017年10月30日 朝日新聞 「埼玉・上尾市長と議長を逮捕へ 入札情報漏洩の疑い」

この報道を参照すると、「公契約関係競売入札妨害などの疑い」で逮捕ということのようです。この「公契約関係競売入札妨害」とは、下記の規定に基づくものかと思います。
刑法は全く詳しくないので間違っていたらすいません。

<刑法>
(公契約関係競売等妨害)
第九六条の六 偽計又は威力を用いて、公の競売又は入札で契約を締結するためのものの公正を害すべき行為をした者は、三年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
 公正な価格を害し又は不正な利益を得る目的で、談合した者も、前項と同様とする。

この公契約関係競売等妨害の罪は、営業秘密漏洩の罪よりも軽いんですね。
営業秘密の漏洩は、「十年以下の懲役若しくは二千万円以下の罰金」(不正競争防止法第21条第1項)ですから。


ここで、入札情報は「秘密管理」されているはずのものであり、当然「非公知」です。
そして、行政の事業活動に有用なものでしょうから「有用性」も満たすのではないでしょうか。それとも、「有用性」は企業の事業活動においての有用性であって、行政の事業活動には当てはまらないのでしょうか?

もし、入札情報に「有用性」が認められるのであれば、入札情報は「営業秘密」と考えることができるかと思います。
さらに、入札情報を業者に漏洩する行為は、「不正の利益を得る目的」でしょう。

一方で不競法の営業秘密漏洩に関する刑事罰の規定において少々気になる文言があります。
例えば、不正競争防止法第21条第1項第5号では、この罪の主体が「営業秘密を保有者から示された役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、幹事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。次号において同じ。)又は従業者であって、」とあります。
この主体は、「経済産業省 知的財産政策室 編 逐条解説 不正競争防止法」を参照しても、やはり企業の役員や従業者等を対象としているようです。

そう考えると、営業秘密の漏洩の罪は、行政の長等には適用できないのでしょうか?
また、上述したように、営業秘密における「有用性」は行政の事業活動には当てはまらないのでしょうか?
ちなみに、大学に対しては、本ブログ記事「大学等の公的研究機関における秘密情報の管理」でも挙げているように、経済産業省がハンドブックを作成しているので、営業秘密は大学においても適用されると考えられます。

しかしながら、行政も入札情報等、営業秘密と考えられる情報は多々有しているとも思われます。
このような情報を行政がどのようにして守るのか?守っているのか?
行政の秘密情報の漏洩に対しては、現行の他の法域で網羅的に守ることができているのか?
行政の秘密情報は、不競法でいうところの営業秘密として守ることはできないのか?

行政が有する情報の漏洩は、場合によって国民の生活に直結するかもしれません。
営業秘密に関連して、行政が管理している情報の在り方を考えてみても良いのかもしれません。