2018年3月11日日曜日

フューチャー営業秘密流出事件

先日、IT系コンサルティング会社であるフューチャーアーキテクトの元執行役員が、同業他社であるベイカレントコンサルティングに営業秘密を漏えいしたとして逮捕されました。

この事件は、営業秘密の不正使用が不正競争防止法違反であるとして、2017年8月にフューチャーがベイカレントに対して民事訴訟を起こしています。
この民事訴訟について気になっていたのですが、刑事告訴により元執行役員が逮捕に至ったようです。
近年の事件では刑事告訴の後に民事訴訟という流れの割合が多いのですが(件数は少ないですが)、本事件に関しては逆ですね。

この事件では、持ち出された営業秘密は報道によると顧客向けの金融システム提案書や見積書、従業員名簿のようです。
また、営業秘密を持ち出した容疑者は、当該営業秘密に係る情報は自身が作成したため、フューチャーの営業秘密という認識ではない、とのように容疑を否認しているということです。
さらに、容疑者は、営業秘密の流出元であるフューチャーアーキテクトと共にベイカレントと共に雇用契約を結んでいたとのことです。



ここで、この事件は下記のように営業秘密管理に関する幾つかの課題を含んでいると考えられます。
(1)役員による営業秘密の漏えい
役員は、一般的に、多くの営業秘密に対するアクセス権限を有しています。そして、役員も転職又は独立により、他社へ移動することは多々あります。実際、役員による営業秘密の流出は多々起きています。
さらに、役員には就業規則は適用されません。このため、役員も適用対象とする秘密管理規定を設けている企業も多々あります。
 参考過去ブログ:役員による営業秘密の漏洩

(2)営業秘密の作成者による漏えい
営業秘密とする情報は、そもそも誰に帰属しているのかという問題です。原始的な帰属先は当該情報を秘密管理している会社でしょうか?それとも当該情報の作成者でしょうか?
営業秘密の作成者でもない者が、会社が秘密管理している営業秘密を漏えいした場合には、このような問題は生じません。しかしながら、当該情報を作成した者が、自ら漏えいさせた場合にはこの問題が生じる可能性があります。
この問題は、特許の帰属と同様かと思われます。今現在では営業秘密の帰属について争われた判例は存在しませんが、今後、営業秘密の帰属について争いになる裁判が生じるかと思います。
 参考過去ブログ:営業秘密の帰属について「示された」とは?

(3)副業・兼業による営業秘密の漏えい
最近、従業員の副業・兼業を容認する流れが生じています。本事件は、営業秘密の流出元であるフューチャーは、ベイカレントによる容疑者の二重雇用を容認していたわけでは無いようですが、企業が副業等を容認するとリアルタイムで秘密情報が他社へ流出する可能性があります。副業を容認するのであれば、この対策は十分に取る必要があります。
また、「(2)営業秘密の作成者による漏えい」の問題がより顕在化するかもしれません。すなわち、「自身が作成した情報は自身の物」という認識の従業者が副業をしていると、当該情報が副業先にも流れ、さらには、どの企業の情報であるかも不明確になるかもしれません。
 参考過去ブログ:モデル就業規則の見直し 副業容認と営業秘密

(4)株価への影響
上記(1)~(3)は営業秘密を管理する企業の課題ですが、(4)に関しては他社の営業秘密が流入した企業の問題です。
これは、企業の不祥事と考えると営業秘密の漏えいに限ったことではありませんが、他社の営業秘密が自社に流入した結果、民事訴訟や刑事訴訟に発展すると、自社の株価にも大きな影響を与える可能性があります。自社の株価が下がるということは、言うまでもなく、自社の価値が下がるということ、そして信用も失われるということです。
特に、新興市場に上場しているような規模が相対的に小さい企業の方が株価に与える影響が大きいかもしれません。
実際、ベイカレントがフューチャーから民事訴訟を提起された際には、ベイカレントの株価はストップ安になっています。さらに、今回の逮捕報道があった翌日9日のベイカレントの株価は、前日終値3,300円であったものが終値では3,105円( -5.91%)まで下がっています。なお、9日は日経平均は若干上がっています(+0.47%)。このため、ベイカレントの大きな下げは、逮捕報道の影響でしょう。
 参考過去ブログ:営業秘密の不正取得と株価との関係

また、民事訴訟によって営業秘密の不正取得が認められ、実際に営業秘密の漏えい先企業が他社の営業秘密を使用していた場合、その使用を止める必要があります。そうすると、最悪の場合、当該用秘密を使用していた事業そのものの停止にまで追い込まれる可能性があります。

以上ように、営業秘密の漏えいと一言で言っても、多くの問題・課題があります。今回の事件でも企業が考慮するべきことは複数あります。しかしながら、それができていない企業がほとんどであるかと思います。
今後、雇用の流動化がさらに進むことは確実であることを考えると、営業秘密の流出・流入防止は、企業の経営上重要な課題の一つであることに疑いの余地はないかと思われます。